カタカタカタカタカタカタ・・・・・・・・
生活臭の薄い無機質な部屋の中、キーボードを叩く音が鳴り止まずに響いている。
深夜2時。
光源となるものは現在高速演算中の端末とそのモニターくらいのもので、部屋の中は暗い。
横に置いてあるマグカップの中の漆黒の液体は既に冷め切ってしまっていた。
「・・絶対に邪魔はさせんぞ・・・必ずあいつらを助け出す・・・!」
部屋の中にはその主のみ。
だから、
個人用端末の前に座っている白髪隻眼の青年が血を吐くように呟いた言葉を聞いたものは居なかった―――
Stellar
Finders~星探祭~
第4話「昇進」
「本艦は『白き月』第一宇宙港に着艦いたしました。各員は港内シフトに移行してください。繰り返します・・・」
アルモの艦内放送の声もどこか明るい。最終決戦後に残党討伐の任を受けて2週間になる。
「よし、一段落だな」
レスターは表情を緩め、息をついた。もうEDENも目と鼻の先に来ている。
ルシャーティに聞けばライブラリの知識を引き出せる。ラッキースターのアナザースペースからのサルベージができるかもしれない。
気ばかりが焦る。
早くしなければならない。早く助けてやりたい。
そう、邪魔が入る前に。
アルモはレスターの頬が緩むのを見て安堵した。ようやく『白き月』との合流ができた。
少しは彼も忙しい日々から開放されるはずである。ならば、少しは自分との時間を取れるかもしれないではないか。
蘭花とちとせと3人で考えた「初デートは『EDEN』計画」が計画書にしてプリントアウトしてあるのだ。
なんとかしてオフに誘い出したい。
そして告白を!
アルモは久々に燃えていた。
だから、気付かなかった。
すぐにレスターの顔が普段よりも一層険しくなったことに。
「補給作業指揮も気がかりだがオレはエンジェル隊と一緒にシャトヤーン様たちに報告をして来なきゃならん。後、頼めるか?」
「了解です」
ブリッジクルーの面々が頷き合う。レスターは「すまんな」と一声掛けてブリッジを後にした。
こういうことは今まではタクト任せにできたのだが。
事務作業より明らかに楽なはずなのに、小さく溜息をついてレスターは格納庫へ向かった。
「皆、ご苦労であった」
白き月第1宇宙港へ、久方ぶりにエルシオールから出てきたレスターとエンジェル隊を出迎えた顔に、レスターは一瞬言葉を失った。
「し、シヴァ女皇陛下!?な、何故このような所に!」
「なに、そなたらをねぎらってやりたくてな」
こともなげに言う星間国家の長にお堅い軍人は開いた口が塞がらない。だが、エンジェル隊はいささか違うようだ。
「ありがとうございますー!」
「いやあ、陛下にそう言ってもらえりゃあたしらも頑張った甲斐があるってもんですよ」
「ありがとうございます」
蘭花、フォルテ、ヴァニラなどがあっさりと感謝の言葉を述べていく。
元々『白き月』に配属されていたエンジェル隊はシヴァとはエオニア戦役以前からの仲と聞いてはいるが、レスターからすれば、いかにも軽い。
「女皇陛下に出迎えて戴けるなど光栄の極みですわね」
「・・・・・!」
ミントは多少なりとも理解しているのか、言葉は至極丁寧だ。が、慣れてしまっているのか、あまりにも平静だ。あまりの事に面食らってしまったレスターの心境を分かち合えるのは、真っ赤になって敬礼したまま固まってしまっているちとせただ一人だった。
「しかし・・・」
ふ、とシヴァが周りを見回す。探しているのは、当然彼らだ。
「マイヤーズと桜葉は・・やはり、おらぬのだな」
「陛下・・」
シヴァは小さく息を吐き、伏し目がちに視線を逸らした。
「2人を乗せたラッキースターが光とともに消えた瞬間を私もこの目で確かに見た。報告を受けて、エルシオールに2人がいなくなったことも知っていた。けれど、やはりなにかの間違いなのではないかと、『白き月』に戻ってきたら、またあの間抜けな面がいつものように幸せそうに出てくるのではないかと、心のどこかで期待していた」
所在無げに垂れ下がっていたシヴァの手が固く拳を握った。
自らの無力を呪わずにはいられない。
エオニア戦役で起こった数多くの悲劇。あのような悲劇から臣民を、そして大切なものたちを守ろうと自分は皇王になる道を選んだ。
あれからも、自分は守られてばかりだ。
今、大切な仲間が異界に囚われている。
初めて自分が愛した・・・
絶対に助けたい。あのものらには誰よりも幸せになって欲しい。
その為に自分にできることがあるなら、どんなことでもしてやりたい。
切に願う。
「馬鹿じゃないの?いないってわかってるのに出て来るんじゃないかってどうしてそんな矛盾した思考ができるわけ?これだから感情論ってのは。バグだらけで論理(ロジック)の欠片も無いじゃない」
新たに引き締めようとした気持ちを台無しにさせるほど強烈な毒舌がシヴァの心をイライラとつつく。
皇国の若きリーダーにそのような口が利けるのは一人しかいない。ノアだ。
ひょっこりと顔を出すと同時に言いたい放題。あきれると同時に驚きでもあった。
「ノアまで!」
「あんたが出迎えとは、どういう風の吹き回しだい?」
「なに、口ではああ言ったがノアも私と同じでどこか期待しておったのだ」
「ちょ!シヴァあんた!」
口を開くよりも早く横からシヴァが口出しした。見ればニヤニヤと笑っている。彼女なりの仕返しのつもりなのだろう。
「あら、図星ですの?ノアさん」
「ち、違うわよ!あたしは別に・・は、早いとこタクトとミルフィーユの話をしたかっただけで・・!」
ミントにまでからかわれて、ノアは耳まで赤くなって否定する。冷静さを装っていると用意に見て取れる慌て様だ。
「気持ちは同じだが、シャトヤーン様やルフト将軍にも報告せねばならんからどの道謁見の間に行かんと話はできんぞ」
「ぐ!・・」
さっぱり場の空気が読めていないレスターが何もわからず至極真っ当な意見を言う。それに反論できず、ノアにとってのとどめとなったようだ。
「あっはっは!副司令殿言うねえ」
「なにがだ?」
「アンタがあの2人の姿を探して出迎えねえ・・変わるもんね」
「だから違うって言ってんでしょ!?あたしは・・」
「私、ノアさんの真っ赤になった顔、初めて見ました」
蘭花が、ヴァニラが畳み掛けて思わずノアも口ごもる。更にヴァニラの発言が余計に皆の視線をノアに集中させる結果となってしまった。
「いーから早くきなさい!こんなところで無駄話してる暇なんて無いの!」
羞恥の限界に達し、踵を返して謁見の間にひとり走り出す。見た目相応の少女の姿がそこにはあった・・・
「だから何度言われても、あいつらを助け出す方法は今のところさっぱりつかめないわ」
結論から言うとそういうことである。
様々に質問をぶつけたが、ノアもシャトヤーンも「わからない」「なんとも言えない」と首を振るばかり。
それは「あの2人がアナザースペースで生きていられるのか」と言う質問に対してすら同様であった。
場がどうしようもなく重くなっていくのを皆が肌で感じるが、フォローのしようもない。
「と、とにかく『ライブラリ』に行けば何かしらの対策が取れるはずよ。それに・・あたしだって救出法の仮説くらい立ててるわよ」
ノアの精一杯のフォローに全員がばっと顔を上げる。それはシヴァやルフト、シャトヤーンすらまだ聞いていないものだった。
「どういうことよノア!」
「タクトさんとミルフィー先輩を助けられるんですか!?」
蘭花が、ちとせが飛びつくように問う。
「いや・・だから仮説って言ったでしょ?確証なんて全然無いの、今は」
そう言って悔しそうに顔を背ける。銀河最高の知能を揮う、『黒の賢者』と呼ばれたのは遥かな昔。
管理者に選ばれ、『これ以上は無い』と信じていたあの頃より自分はもっといろんなことを知ったはずなのに。
友のために何もできない。悔しさに、ノアは我知らず唇を噛んだ。
「・・仮説でもいい、話してくれないか」
「アンタ・・・」
ふと掛けられた言葉の方向を見る。曇りの無い一つの目が見つめてくる。
瞳は絶望の色でも、机上の空論に安堵を求めようとしている色でもない。その話から何かしらの希望を必ず見出して見せようという、決意。
「・・・わかったわ」
「クロノ・クェイク爆弾の原理説明の話、覚えてる?」
「ん〜っと、海が凍るとか・・・」
「クロノ・ドライヴやクロノ・ウェイブ通信を船に見立てて、凍結化の海での航行不能・・つまり使用不能の理由を示していただきました」
ノアがおざなりな拍手を送る。さすがに覚えていた事に安心した。これならスムーズに話が進むかもしれない。
「よくできました。じゃあ、どうすればいいと思う?」
「え・・どうって・・そこをアンタが考えるんでしょ?」
「パッとこない?じゃあ喩えを変えるわ・・んーと・・フォルテ」
やれやれ、といって感じで首を振り、辺りを見回した後、いい例を思いついて一点で視線を固定した。
「あたしかい?」
「アンタの大好きな銃が氷付けになってるとするわね。アンタならどうする?」
「えぇ?ん〜、そうだなぁ。やっぱアレかねえ。コレクションの火炎放射器使って氷を融かして取り出―――って!」
「あ!」
「まさか!」
「そういうことですの!?」
場の全員が気付いたようだ。可能性の光に。
「ご名答。アンタならそんな答えを出してくれると思ったわ。自然に融けるのを待ってたらそれこそ数百年かかるからね。あとは簡単な話よ。逆位相のエネルギーによる相転移よ」
・・・・・・・?という表情の顔が急激に発生した。頷いたのはわずかにシャトヤーンのみ。
「呆れたわ、もう忘れたの?」
「お恥ずかしながら・・・」
思っていない。これは絶対恥ずかしいなんて思ってない。悪びれる様子もなく軽く謝るエンジェル隊を見て思わず盛大に溜息をついた。
「ネフューリアの時にもやったでしょう!いい?エネルギーってのは波なのよ。巨大艦のシールドも波だった。あの波に触れたクロノ・ストリング・エネルギーはクロノ・スペースへ強制的にシフトアップさせられた。だからその波を打ち消すために、まったく逆の波をぶつけたの」
「波は平均化されてフラットになる・・な」
「そう、それと同じことを考えたのよ。クロノ・クェイク爆弾の波で凍りついた空間にまったく逆の波をぶつければ・・・・」
「氷が融けて、ミルフィーとタクトを助ける事ができるってワケね!」
「・・・そうなる可能性も・・・なくはない・・って所ね」
急にノアの声が陰ってしまう。
「ちょ、ちょっと、何が駄目なんだい?」
「聞いた限り論理的で、いかにも正しそうだけど・・」
何を口走ってしまったのか、自分は。どうせ仮説なのだから期待の持てる側面だけ話して浮かれさせておけばよかったのに。
自分の癖とでも言うべきなのだろうか。ノアはひどく後悔しながら口を開いた。
「それは・・・ノアの仮説は『クロノ・クェイク爆弾を無効化する案』としては効果的ですが、逆位相のエネルギー波は、既にクロノ・クェイクの発動した空間を正常に戻せるとは限らないからです」
それはノアの口から出るよりも先だった。ノアが仮説を話し出してから押し黙ったままのシャトヤーンが。
「シャトヤーン・・」
「ごめんなさい、ノア。あなたが辛そうでしたから・・・」
ノアの瞳にゆっくりと理解の色が広がっていく。
「まさかシャトヤーン・・・アンタも同じ仮説を・・?」
「・・・はい。あれから私なりに考えていましたが・・・結果としてあなたと同じ仮説にいたったようです」
「そう・・黒と白。道は違えどやっぱり同じ管理者ね」
同じ仮説・・・けれどシャトヤーンは自分からは何も言わなかった。徒に彼女達の心を波立たせる事はしなかった。まだまだ自分は知らなければいけないことがあるのかもしれない。遠い昔、少女とともに管理者に選ばれた女性は、知性という面でも褒め称えられていたが、なにより、「白の慈母」と慕われていた。600年、管理者の代替わりで失われた知識も多いが、一番大事なものはなくなってはいない。
「・・シャトヤーン様、どういうことなのでしょうか?」
レスターが先を促すのを深く頷いて再び口を開いた。
「例のように、氷であるならば確かに熱風を吹きかければ融けるでしょう。ですが『凍りついた海』とはあくまで皆さんにわかりやすくした例示。実際のアナザースペースではもっと複雑な、私達が未だ理解できていない物理現象が起きているのです。逆位相のエネルギーがクロノ・クェイクの起こした空間異常を無効化できるかどうか、可能性は低いでしょう」
「そういうこと。だから『ライブラリ』でもっと『クロノ・クェイク爆弾』について調べないといけないわ。まったく別の、ラッキースターをサルベージする方法が見つかるかもしれないし、仮説がひょっとしたら正しいかもしれないしね」
ノアが同意して先の展望を話す。
「どの道、閉鎖したアナザースペースをもう一度開くためには大量のエネルギーが必要となるのにはまず間違いがないわ。そんなエネルギーが生み出せるのはやっぱり紋章機なのよ。だから技術的なことはこっちに任せて、アンタ達はテンション高めときなさい。なに?この前の戦闘。3人も光の翼の展開すらできないなんて。タクトとミルフィーユ助ける気あんの?」
途中から励ましと言うより発破をかけるような物言いになってしまうのはまた彼女の素直になれない優しさなのだろう。
けれど、エンジェル隊を発奮させるには十分すぎるほどだった。
「違うわよ!あれは別に落ち込んでたとかそんなんじゃなくて・・!」
「まぁ〜、確かに2人が居なくなってランファはひどく泣いたからなあ」
「戦闘でもいいところありませんでしたし」
ここぞとばかりにフォルテとミントがからかいの追撃に入る。
「だからフォルテさんアタシは!」
「っていうかあんたらもよ。翼が出せたからっていい気になんないでよね。最高時の何%とだと思ってんの。5人分足してもミルフィーユ一人に適わないようじゃサルベージは無理よね。ま、おばさんとお子様じゃ感傷的に落ち込んじゃうのはわかるけどね」
「なっっっんだとコノヤロー!!!」
「わたくし達に喧嘩を売るとはいい度胸ですわね!! 後悔されますわよ!」
逆鱗に触れ、途端にフォルテとミントの怒りゲージがMAXになる。怒らせるのはノアの得意技らしい。
「はいはい、怒鳴り散らしてる暇があったら訓練にでも行ってきたらどうなのよ、アンタ達に話すことなんてもうないし」
「言われなくてもそうするつもりだったわよ!」
「まったくもってその通りです! ぷんすかぷんすかぷー!ですわ!」
「行くよ! ヴァニラ、ちとせ!」
「・・訓練上等」
「は、はい!」
かしまし5人組はその背に炎を纏って風のように退席した。炎の色は、一部、どす黒さすらあった。
「あいつらは・・・少しはおとなしくできんのか」
レスターがぽつりと発した声がやけに響いているような気になる。
いかに彼女たちの存在が場を占めているかを改めて思わせる。
「まあ、あれがエンジェル隊のよいところであろう」
フォローを入れるシヴァの額にも大粒の汗が垂れていたが。
シャトヤーンもルフトも笑うばかり。うるさいのを上手く追い払ったノアは扉に向かって舌など出している。
「・・で、タクトもエースも居ないけど、あいつらのテンションどうするつもりよ」
ふっと振り返られる。『試されている』と、レスターは直感的に感じた。・・が、
「いや・・特には」
返した答えはこれだった。さすがにルフトも目を丸くした。
「特には・・・て。アンタちゃんと信頼関係築けるの?」
「さぁな。ただ・・・いざタクトとミルフィーユを助けるという時にテンション一つあげられん奴は・・エンジェル隊にはいないさ」
そう、目の前で何度となく奇跡を起こしてきた連中だ。一番大切な時に奇跡一つ起こせない連中じゃない。
「・・・なるほど、それを信じてられるんなら言う事はないわ。がんばんなさい」
「ああ」
「エルシオールからもらったデータも一通り洗ってみるから、アタシはこれで失礼するわ。シャトヤーンも手伝ってくれない?また2人して同じ事考えて煮詰まった、なんて時間の無駄がないように、ね」
「ええ。それでは私も失礼します。シヴァ陛下も、無理をなさらずご自愛くださいね」
「・・ありがとうございます」
交わせない親子の会話。だが、愛情だけは。シヴァは扉の向こうに消えていくまで、じっと母の姿を目で追っていた。
扉の閉まる音とともにレスターが改めて『皇王』と『将軍』への礼の型を取った。
「その様子じゃと・・察しておるようじゃな」
ルフトが溜息を一つついた。シヴァも皇王としての顔つきに戻る。
「サルベージ計画の実行には不安はありません・・が。それを果たして軍と政府が許してくれるかどうか・・・現状をお聞かせ願えませんか」
まっすぐに射抜いてくる一筋の鋭い眼光。軍でも政府でもトップに立っている癖に即答できない自分が歯がゆい。
「タクトがアナザースペースに閉じ込められた事は本星には隠匿してある。緘口令も敷いたが・・・洩れていないわけがないじゃろうな」
「これまでも・・理由をつけてマイヤーズを更迭させる動きは何度かあった。恐らく今回も救出反対派が現れるだろう」
「やはりそうですか。紋章機にクロノ・ブレイク・キャノン、皇王と聖母の信用、民衆の支持。政・軍の上層部に恐れられるには十分すぎますから」
「うむ・・・サルベージには巨額の費用が必要になるはずじゃしな・・相当不利が見込まれるわ」
「これまで私とルフトは相当無理を通してきたからな。エオニア戦役後に退役したマイヤーズを予備役に留め、再びエルシオール司令に就任させたことに始まり、EDEN解放の決定と解放艦隊総司令の件。EDENの利権争いの抑制は今でも気が抜けん」
政府も軍も、今回は一筋縄ではいかないだろう。けれど、やるしかないのだ。どんなに不利であろうとも。
「ともかく、近く本星と通信して会議が開かれる。そこでなんとかワシと陛下が通して見せるから信じて待っておれ」
『本星と会議』と聞いてレスターの目に決意の炎が燃える。失った左目までが熱い。ひょっとしたら私怨の炎なのかもしれない。けれど、愚かな老人達の為に親友を殺されるわけにはいかない。「今度もきっと」、護ってみせる。
「先生・・オレも、会議に出席させてください。タクトは・・自分の手で助け出してやりたいんです」
「レスター・・しかし将軍職にある軍人と大臣級の高官しか出席する事はできんのじゃ」
レスターの気持ちはわかっているつもりだ。あの時、2度と上層部の勝手で教え子を危険に晒すまいと自身も決意した。直接上層部と戦いたいレスターの想いを無下にはしたくない。中佐であるレスターにはそれは難しい。
「ルフト・・クールダラスも出席できる手は何かないか? 会議の場でこの者はきっと頼りになる。味方は多いほうがよい」
「わかっております。ですが・・・いや、待てよ!?」
これならばいける・・いまだ衰えぬ老軍人の顔が少年のように輝いた。
「現在レスター・クールダラス中佐は『決戦艦隊副司令』を勤め、戦時階級により准将となっております。これを使いましょう。改めてトランスバール本星までの艦隊総司令を引き継がせ、戦時階級を大将に引き上げる。EDEN到着後はできるだけ早く論功行賞を行い平素の階級も2階級特進させて准将とすれば文句はありますまい」
随分と大胆且つ力技だが、これなら大将として発言できるし、出席自体も准将ではあるのだから違反には問えまい。
「うむ、それでよかろう。ではクールダラスよ、そなたをこれより准将とし、決戦艦隊総司令に任命する。正式な辞令はEDEN到着後に行うが、そなたの働きに期待するぞ」
皇の祝福をもって、簡単な任命を行う。改めてレスターは跪き、頭を垂れた。
「はっ。身に余る光栄です。非才の身では御座いますが必ずや陛下のご期待に添えられるよう粉骨砕身、勤め上げます」
今ここに、最年少の平民将軍が誕生したのである。
「シヴァ女皇とルフトはマイヤーズ准将をなんとしても助けるつもりらしいですな」
「そのような事をして自分の首が絞められるとは思わないのでしょうか」
「まったくですな、私には『ヴァル・ファスク』などより彼のほうがよほど恐ろしい」
豪華などこかの屋敷の一室。調度品から、何もかもがこれ以上はないという極上。集まっている10人にも満たない壮年の男達も最上級の礼服を身につけている。ただ、貴族のサロンと言うには少しばかり軍事的な内容の話だが。
部屋の椅子はまだ一つ空きがある。一人がちらりと扉を見た瞬間、計ったかのようにノックの音がする。
「失礼します」
入ってきたのは青年。居並ぶ者たちよりもずっと年若い。けれど身に着けている服は遜色の無い上質のシルク。
色は、彼の髪と瞳と同じ、漆黒。
「此の度は、招待に応じてくださり、大変感謝しています」
彼が言葉を発するまで、場は完全に音を無くしていた。自分達よりずっと年若い男に飲まれていたのだ。
「おお! 侯爵就任おめでとう」
「エオニア戦役の折お父上が亡くなられたと聞いて心配しましたが、その見事な姿。感服しましたよ」
口々に祝いの言葉を述べていく。
「ありがとうございます、これもすべて皆様のお力添えのおかげです」
「本当にどうなるかと思いましたが、感謝しなければなりませんなあ。あのおと・・」
瞬間、部屋は凍りついた。青年の眼光が、あまりにも冷たく、鋭かったために。
「そうですね、感謝しなければなりませんね。本当によくやってくれました」
次の瞬間には先ほどのにこやかな雰囲気を取り戻したものの、もはや招かれた壮年の男共は何も言えなかった。
「今回は残念な事になってしまいましたが・・この国のために・・・仕方のないことです」
なんとも嬉しそうな表情・声色を隠そうともせず言ってのける。
部屋の主導権はこの青年に奪われてしまった。この男に反対など、すでに考える事すらできない。
「では、我らを招待していただいた用件を伺いましょう」
新しい派閥の構成員となった壮年の男達は、息子のような年の長に改めて向き直った。
「スコア・マイヤーズ侯爵――――」
次回予告!
シヴァ「・・ん?なんだここは?」
蘭花「あっれえ?シヴァ陛下じゃないですか。シヴァ陛下も堕ちちゃったんですか」
シヴァ「お・・堕ちた?」
フォルテ「そうです陛下、ここは準・メインキャラの墓場なんですよ」
シヴァ「は・・墓場!?」
ちとせ「レギュラーのはずの私達エンジェル隊があまりに影が薄いため、次回予告の場を使って不満を吐き出している、と言うコーナーです」
ヴァニラ「・・・無間地獄」
シヴァ「ば・・馬鹿な! それはエンジェル隊だけなのだろう!? なぜ私まで! というかそもそも出番を欲しているわけでも・・・」
蘭花「まぁまぁ、ここでコントやれば慣れますって」
ちとせ「あら・・? そういえばミント先輩は?」
フォルテ「そういや姿が見えないねえ」
シヴァ「ん? ブラマンシュならさっきすれ違ったぞ。この紙を渡してくれ・・とな」
ちとせ「承ります・・ええと、『いち抜〜けたっと♪おほほほ、さようなら。負け犬さんたち』」
フォルテ「何じゃそりゃ〜!!!」
蘭花「裏切ったってわけね! あの腹黒陰険娘!」
ヴァニラ「・・・・・わんわん」
フォルテ「くっそぉ〜! ミントが出るんなら何とか隙ついて顔出してやる!」
蘭花「そうですよ! 抜け駆け禁止の条文忘れやがってぇ〜〜〜!!」
ヴァニラ「・・・・・わんわん」
シヴァ「・・・そなたらのノリにどうついていけばよいのだ?」
ちとせ「変ですねえ・・・次回はレスターさんとアルモさん以外はまともに出番ありませんが・・」
全員「嘘ぉ!?」
続劇