『黒き月』
その黒き装甲は如何なるものも貫けず
その砲撃は如何なるものも消し去る
その赤き光は絶望
その生み出す物は破壊の使者
黒は白を求め彷徨う
白をわが血と肉とするために
そこに残るは機械のみ
今は機械と五人の羊達
羊は力を求める
絶望という名の力を
The previous day of nightmare
〜悪夢の前日〜
黒猫
「ああぁ…我が愛しのマイハニーよ。ついにこの日がやってきたよ。私と君が、永遠に結ばれる時が。」
カミュ・O・ラフロイグはキャンバスへ、愛と情熱をぶつける。
モデルなどいなくとも、彼の網膜には『我が愛しのマイハニー』の鮮明な姿が浮ぶ。その姿を寸分も逃さずにキャンバスへ写す。
桜色の髪、白い花を両脇につけたカチューシャ、少し大人っぽい軍服。満面の笑顔を見る者へ投げかける。
しかしその瞳に、彼女の持つ明るい光はなかった。
彼の殺風景で無機質な部屋にはベッドとデスク、その上にバラの入った花瓶があるのみだ。しかし壁には、まるでここがアトリエであるかのように大量の絵が飾られている。そしてその絵の中に彼女―ミルフィーユ・桜葉―がいた。
大量の絵の中で、彼女は様々な表情でこちらを見つめている。笑った顔、怒った顔、泣いている顔、眠っている顔。
すべて妄想と呼ぶべき想像で描いたはずの彼女の表情は、仮にエンジェル隊が見ても全員不自然な箇所は寸分もないと言わせる程自然で綺麗なものだろう。
唯一つ、彼女の瞳を除いて。
その瞳は如何なる物よりも漆黒だった。死んだ瞳、絶望の瞳と呼ぶべきだろう。その瞳が、すべての作品の表情を張り付いた物へ変貌させる。
眠った顔、瞳が映らない唯一の絵。その絵の表情は寝息一つ立てず、永遠に目覚めることのないような表情だった。
背景は何もなく、ただ黒が塗られるのみ。どこまでも奥行きの感じられるその背景は、その者を、誰も知らない永久の彼方に誘う大きな口の様。その先にあるものは絶望のみ。
「ああぁ…愛しのミルフィーユ。我がマイハニーよ…。」
カミュは出来上がったばかりのミルフィーユの頬に触れる。乾ききっていない肌色の油絵の具が彼の手に付着する。恍惚に浸った瞳はその美しさに侵され、その手の行う無礼に気付かない。
無意識に慈しむように頬のラインをなぞる、まるで本物に触るかのように。手に付いた絵の具がほかの色と混ざり、絵を汚す。
「君は…君はどうしてそんなに美しいんだ…。」
そのまま桜色の髪へ手を伸ばす。付着した絵の具が髪に付く。
髪も撫でる。子供の髪を撫でるように優しく、ゆっくりと、何度も、何度も……。
「君がそんなに美しいから…僕は……。」
撫でることをやめる。
「君を……。」
髪に触れる指が震える。恍惚の瞳に白く冷徹な炎が浮び上がる。
―君を殺したくなる―
バリッ!
もう一つの手に握られたナイフをキャンバス地に突き立てる。絵の中の娘の頬が白く光る切っ先に引き裂かれ、その美しさに見る影もない。
ビリッ!ビリビリビリッ!
先ほどまでの愛し方から豹変したかのように荒々しく引き裂く。何度も、何度も……。
狂気に染まったその瞳に躊躇いなど無かった。そこに映るものは、行為に対する快楽、そして達成感。
無残な姿のそれは、絵であったことが疑わしいほど醜く、絵の中の彼女も、今はただの色の集合に過ぎなかった。
絵の亡骸を見ながら、彼は狂気の微笑を浮かべる。
「明日だよ…ついに明日になったんだ。僕が君を永遠の眠りにつかせる時が。もうすぐだよ、もうすぐ…。」
恋人が耳元で語りかける様な甘い声。美青年の彼がこのように語れば、どんな女の子もイチコロかもしれない。
しかしその内容は、彼女たちが望む甘い言葉ではない。
「これで…これで僕の君への愛が完成する。」
彼の瞳のなかには、確かに彼女の最期の表情が浮んでいた。
目の前の景色が一瞬歪んだ気がした。ここの暑苦しい空気は呼吸するにも苦しいくらいだ。この部屋の熱気はとどまる事を知らない。ここの主はそんな事など気にせず戦っていた。
「ウオオオオォォ〜〜〜〜〜〜!!! 明日が最後の決着だ〜〜〜〜〜!!! 我が強敵よ〜〜〜〜〜!!!」
むさ苦しい叫び声と共に鳴り響く打撃音。ギネス・スタウトは明日に備えて最後のラッシュを放っていた。
吹き上がる汗と共に、彼の鍛え上げられた武装が次々に悲鳴を上げ、休息を要求する。最後の特訓と銘打ってから、どれ位時間が経っただろうか。すでに小一時間おこなっている筈の彼の肉体は、限界に差し掛かっていた。
しかし彼は止めない。『限界の時にこそ本気で行え』彼の師の言葉だ。
彼はそれに従いここまでたどり着いた。そのような彼にとって、特訓はこれからが本番なのである。
彼はサンドバッグに、彼の思いのこもった拳をぶつける。
『アイツ』に勝ちたい
今まで戦った中で最高の相手、あのランファ・フランボワーズに
初めてあいつと戦った時、俺は感動した。華麗な動きで俺の攻撃をかわすあの赤い機体を
奴なら出来る、奴とやれば俺は必ず限界を超えられる、と思った
俺は何度も限界を超えた気がした。しかし奴はそれをも超えていた
俺がそれを超えようとすると、いつもめしの時間だったり機体が故障したり、結局超えることは出来なかった
しかし、それももう終わりだ。前の戦闘の時、俺は確信した。今度こそ奴を超えられると
体調は万全、めしもちゃんと食っておく、機体は金髪のチビが整備している
完璧だ…。今度こそ、俺は限界を超え奴を倒す!!
握り込んだ左拳のストレートがサンドバッグに突き刺さる。運動エネルギーを貰ったサンドバッグはそのまま振り子運動を始め、元の場所に戻ろうとする。
ギネスは左腕を前に出し、右腕を脇に置き、右拳を握りながら獲物を待つ。
獲物が近づく。
「必殺!!」
叫びながら上半身を捻り、回転運動をする。
さらに近づく。
「ローリング爆裂パーーンチ!!」
回転エネルギーと持ち前のパンチ力のあわさった強烈な一撃がサンドバッグへ放たれる。
ドガッ!!
渾身の右が近づくサンドバッグにめり込む。そしてもう一度サンドバッグは振り子運動を始め。
ズンッ!
天井へぶつかる。
振り子と化したサンドバッグを見ながら、肩で息をするギネスは。
「明日が楽しみだぜ〜〜〜!!」
天井を見上げ叫んだ。
「……………。」
張り詰めた緊張が走る。もしここに観客がいたら、この緊張で息をすることすら忘れてしまうだろう。
リセルヴァ・キアンティは注意深く盤面を見ていた。何時終わるともわからない何十手先をみすえた頭脳戦は、すでにその結果を盤面上に現そうとしている。
ゆっくりと手を伸ばし、駒を持ち、目的の場所へと進める。
「チェック」
そう言い放ち、いすにもたれ天井を見上げる。ただの無機質な天井が広がる。
「…メイト」
上を見たまま呟く。
目の前のモニターの画面が変わり、『参りました』と表示された。
つまらなかった。明日に備えて英気を養え、とエオニア殿下が仰った通りに休んではいるが、何もすることがなく何回も読み返した小説を読んでいた。
今まで、ベルモットが造ったチェス用CPUとチェスをしていたが、全戦全勝。
寝るにしてもまだ早い。とにかく無用な、意味のない時間。
手持ち無沙汰に何も考えずにいると、人はなんでもない記憶を呼び覚ますものらしい。いつの間にか、少し懐かしい寂れた屋敷、年老いた執事、そして屋敷中に轟く両親の口論が見えたり聞こえたりしてきた。
「フッ………。何でこんなものが今頃………。」
突然のフラッシュバックに困惑する。
―わかってる―
そう、わかってる。これを思いだす理由も。だってこれが、この口論が僕を大人にさせ、この世界の入る要因になったのだから。
「僕がやります。僕がこの家を復興させて見せます!!」
それを聞いた両親は、僕に微笑みながら口論を止めた。おそらく両親の喧嘩を止めさせる為の戯言と思ったのだろう
しかし僕は本気だった。それから二ヵ月後、僕はこの屋敷を出て行った、この家を復興させることを夢見て
しかし………
何時からだっただろうか、目的が変わったのは
新米の頃は、何度も瀕死の状況を味わい、何度も死線を越えて来た
そうするうちに、段々と自分の崇高な目的が体から薄れ、醜い感情が全身を支配していた。流れ出る崇高な自分の血の代わりに入れたその中に、その感情は潜んでいたのかもしれない
人を貶め、嘲り、破壊する悦び。その悦びを味わい続けるために、僕はヘルハウンズに入ったのかもしれない。家の名声をあげるという、そのときにはすでに偽りとなった看板を首にぶら提げて
しばらくはその感情に支配され悦びを味わっていたが、偽りが本懐になるときが来た
エオニア殿下との出会いだ
本当のチャンスだった。これにうまく乗れば、名声は一気にあがる、キアンティ家を復興できる。そう思った僕は彼についていった
彼の邪魔するものはすべて破壊するつもりだった。しかし一つだけ、たった一つだけ破壊できてないものがある
リゼルバの目の前に幻想が生まれた。憎々しげにそれを睨みつける。130にも満たない身長、水色のショートヘアー、両脇に付くもう一つの耳、そして何よりもすべてを受け流すあの笑顔。見紛うはずのないその姿は、彼の前で笑い、そして消えていった。
ミント・ブラマンシュ、皇国に名立たるブラマンシュ財閥の一人娘。彼にしてみればただの成金娘であるが、トリックマスターのパイロットとして立ち塞がり、何度も苦汁を舐めさせられてきた。
消えたその姿の先に、大きなモニターがあった。物思いにふけることをやめた彼の目には、それはこの無駄な時間を有意義にさせる魔法に見えた。
モニターを起動させ映像を流す。映っているものは、特徴的なレーダーアーム、シルバーメタリックに水色の外装、そして三機の自立攻撃兵器『フライヤー』。
トリックマスターの映像を見て、この機体の弱点、そして強みを思い浮かべる。そして頭の中で自分の機体とあの機体を戦わせる。
彼の目にはもう映像は映っていなかった。彼の目は、頭の中のリゼルバ・キアンティの目と繋がり、漆黒の宇宙をはしる。
そして目の前の機体、トリックマスターに向かう。こいつのことは十分理解している。もう負けることはない。今度こそ、奴をこの宇宙に散らせる。
最後の前哨戦が始まろうとしていた。
ドンッ!!……ドンッ!!……ドンッ!!
この部屋でこの音がやむ事はほとんどない。この音がやむときは、彼がそこにいないとき、彼が寝ている時ぐらいだ。
レッドアイの部屋にはダーツの的があった。しかし別にダーツが趣味といったところではない。その的にはダーツの矢が作る小さい穴ではなく、引き裂かれたような長い穴が開いていた。
この部屋の主、レッドアイは的に近づき、そこにある数本の手投げ用のナイフを抜く。きびすを返し、そこに自分の持つ細長い金属の凶器を突き立てる。
彼にとっては日常だった。凶器を的に向けることも、生き物に向けることも。
彼の過去を知る者はここには誰もいない。しかし、体の傷と何も感じない瞳がすべてを雄弁に語ってくれる。
彼にとっては命を取るということはたいした事ではなく、日常に転がる石と大して変わらなかった。いやそれ以上の価値を持っていた。
彼にとって命とは奪うべき物。奪うことは彼の生の証明となっていた。
俺の生き様、それは戦いだ。俺の生きがい、それは死だ。相手の墓標こそ俺の証明、俺の勲章
俺の周りには死が渦巻いていた。常に気を張らなければ、次の太陽を見ることは出来ない、そんな世界だった
そんな世界で生き延びて、この世界の理は『力』であることに気付かないほど俺は馬鹿じゃなかった
そう気付くと、次にやることはほぼ決まっていた
力を求めた
力を探した
力を創り出した
そして力を奪った
そうしていく内に、俺の力は証明され、この世界で俺の力の捌け口を失い始めていた。このときには『力』は自衛の為ではなく、外に使う物になっていた
だからそれが辛かった、もどかしかった。俺の力を見せ付けるための生贄が必要だった。だから俺はこの世界を出た。別の、同じ理の支配する世界へ。俺の力を、俺の唯一無二の存在を、俺の生きる証明を伝える為に
そして俺はこの世界に入った。力の証明が容認され、証明すれば金すらもらえるこの仕事に。そして奴に出会った
他の奴らの臭いとはちがう、金目的の連中とは一線を引く、あの男に……
カミュ・O・ラフロイグ
始めてあった瞬間、俺は実感した。奴がどれほど危険で、仲間にすればどれほど頼もしいかと。普段は見せないが、獲物を見つけたときの目。青白い、氷結した炎のような冷たい瞳。あんなもの、誰にでも出せるものではない
俺はあいつと組んだ、そしてやはり俺の勘はあっていたと実感した。まあ、奴はこれと決めた奴しか相手にしないが
次第に仲間が増え、俺たちが作った部隊ヘルハウンズは大きくなった。しかしそんな事など俺には関係ない、金がいくら入ろうと、いくら名が知れ渡ろうと。俺の目的は力だ、破壊だ、敵の死だ。何にも縛られず、ただ相手を破壊する、自分を証明する
それこそ俺、自分自身だ
再び手投げナイフを引き抜くと、今度はある一枚の写真を取り出した。
写真を的の上に置き、取れないようにナイフを写真の上部を刺し固定する。まるで使い古された処刑台に固定された哀れな生贄の様。生贄の写真には一人の女性の顔がある。
赤いセミロングの髪、左目にモノクルをつけた少し睨みつけているような顔。おそらく証明写真か何かなのだろう。
その顔、フォルテ・シュトーレンの数メートル先には数本のナイフを持った赤髪の獣。
「奴には同じにおいがしたのだがな………。」
俺と同じ、地獄を経験し理を知った者の……。
「残念だよ、明日でお別れなんて…………。」
右手にナイフを取り、写真に目がけ放つ。放物線を描き、自分自身は回転するそれは一直線に写真の迫りその白い刃を彼女の左耳に突き立てる。
「………まずは耳。」
ナイフはまるで彼の言葉に操られるかのように残りの耳に刺さる。
「次は………あのお喋りな舌。」
意思を持った凶器は、ここに来ることが必然とでも言うように彼女の口元に向かう。
「最後に…………。」
無慈悲な輝きを放つ刃は放物線ではなく、ほぼ直線状に彼女へ向かう。そして……。
ドンッ!!!
一際大きな音と共に宙を舞うナイフは彼女の眉間へ誘われた。
その光景を眉一つ動かさず静観する。
「明日だ………。明日ですべてが終わる。そして貴様には俺の証明になってもらう。」
何も感じない瞳に暗い炎が宿る。決戦まで、あと少し………。
「へへへ、あとはここをこれに繋いで。………よし、出来たかな?」
この部屋の狭さは特筆すべきものがある。別に他のヘルハウンズ達のそれと異なるわけではない。むしろ他の者より少しばかり広いぐらいだ。しかしこの部屋に入った者は間違いなくこの狭さに閉口するだろう。物質的な狭さも元より雰囲気的な狭さもあった。
部屋の側面に飾られた大量の二足歩行機械。まるでそれらはここにやって来る者をただ監視するかのようにたたずみ、僅かばかり目を下に向け大量の部品を散らかした床を見つめていた。さらに天井には機械を吊るす装置がついており、作りかけの機械の上半身が吊り上げられ、上を向くものを威圧する。
この部屋の住人、ベルモット・マティンはそんな威圧的、不気味な空間をまるで気にすることなく大量の部品の散らばる床に座して、目の前にある作りかけの工作に没頭する。
小さい頃から機械が大好きだった。だから子どもの頃から機械の本を読みふけり、大量の知識を詰め込んだ。周りからは変人、機械オタク等と言われいつも一人ぼっちだったけど、そんな事全く気にならなかった。逆にひとりになれた分、機械について費やす時間が増えて感謝したいぐらいだ
面白くもない勉強なんかを飛び級して、5年で博士号だっけ? 普通の仕事じゃつまんないから、傭兵の機体の整備をすることにして、今じゃそのパイロットだもんなあ。人の人生なんてわかんないもんだよなあ
「よし出来た。後はこれの能力測定だぜ。」
組みあがった機械に配線を刺して試し運転させる。上気しながらその力を惜しみなく発揮する機械。それを見つめるベルモットの眼には、子を見つめる親のような光があった。
「おお? やったぜ! 従来より四馬力ほど上昇してるじゃん。」
結果を見て大喜びする。万歳をしながら「また新たな伝説の幕開けだぜ」と一人呟く。
これが彼の日常。勝手に機械をバラしては勝手に改造してしまう。しかもその改造はあまりに奇抜で理解しがたいものらしい。たとえて言うなら、トーストを作る機械に板状のご飯を入れてご飯のトーストを作るような奇抜さらしい。
しかしその改造はだいたい的を射ていて失敗したことはほとんどない。
「じゃあ次は、ここをあれに取り替えればきっともっと良くなる筈だ。早速…………。」
そういいながら素人には何に使うのかよくわからないモノを持ちながらパーツの元へ向かうが、ふと立ち止まる。
「…………ヤベ、カミュの兄貴に部屋を片付けておけって言われたの忘れてた………。」
明日の戦闘終了後、直ちにこの『黒き月』から離れるとのことで、最も散らかっているベルモットの部屋の片づけを命令されていたらしい。しかし片付けの途中、気になるものを見つけてしまいそっちの作業に夢中ですっかり片づけを忘れていたらしい。ありがちな話である。
「ヘンッ、別に片付けなんて明日やれば良いんだよ。今日する必要なんてないさ。そうさ、そうさ!」
人間皆誰しもが使う言葉『明日やる』。明日という甘美な響きがそうさせるのだが、『明日』という日が決して来ないことも知っている。わかっていてもそのような言葉をついてしまう。これもまたありがちな話。
「明日、か………。」
明日ですべてが終わる。明日エオニア軍が勝てばすべて終わる。そうすれば終わり、金を貰って、はいサヨナラ。
そのために必要なこと、彼に課せられたこと、それは一つ、たった一つだった。
あの緑髪の仏頂面を倒して、他の連中は兄貴たちが倒してくれるだろう。そうすれば晴れて俺たちの任務は終わり。でもあの仏頂面意外と強いからなあ。まあ、もう負けるつもりも無いけどね。そうさ、今度こそあの仏頂面をヒイヒイ言わせてやるんだからな
「へへへへへ、今から首を洗って待ってろよ。明日はギタンギタンにのしてやるからな!!」
誰ともつかず指をさしながら大声で叫ぶ。気合は十分、今の彼には明日の決戦のことしか頭に入っていなかった。
薄暗い部屋のモニターに映る大量の文字列や数列。その文字数列を寸分も見逃さずにそれに対応した情報をコンソールに打ち込む一人の少女。
金色の髪に褐色の肌、紫色の瞳を絶えず動かしながら右手を動かし、そして左手のインターフェイスはコンソールに乗せたまま微動だにしない。
最終調整は終わりに差し掛かっていた。ノアはかれこれ2、3時間ほど作業を続けているが疲労の色は一向に見えない。
「フフッ、もうすぐよ。もうすぐ完成するわ。フフッ………。」
モニターに移っている二つの画像。一つは前大型浮遊防塁の改修機ザレムド、そしてもう一つの機体はヘルハウンズの操る機体。黒き月の開発した紋章機ダークエンジェル。二つの最終調整のため彼女はこの作業を続けていた。
文字数列の激流は止み、二つの機体の画像だけが残る。右手の動きも止まり、彼女も一つ深呼吸と共に肩の力が抜ける。
「終わったわ。完成よ、後はこっちにコレを入れるだけ。これで下準備は完了。後は、時を待つだけ。フフッ………。」
ザレムドの映像が消えダークエンジェルの映像のみが映る。
「さあ、始めるわよ。」
左手のインターフェイスが光を放つ。そのとき、その働きを休めていたモニターに先ほどとは比べ物にならないほどの情報が流れ込み、画面いっぱいに文字数列が現れる。その光景を微笑みながら静かに見つめるノア。やがてその列は消えモニターに静寂が流れる。
その瞬間、ダークエンジェルの機体に変化が現れる。機体のコクピットとおぼしき所が装甲に覆われ始め、機体後方の尾翼にも変化が。
尾翼が何かを排出するかのように開け、そこから黒いエネルギーの奔流が吹き出す。やがてそれは一つの形を形成する。
「そうよ、それでいいのよ。」
彼女の声に呼応するように奔流は『黒い翼』へとその姿を変えていった。その姿を見て紫の瞳が色めき立つ。
「これよ、この力よ。この力が欲しかったのよ。これが究極、これが完全なる力。これが………。」
―私の最高傑作―
「早く見せて。早くあいつらの心を喰らって、私に見せて頂戴。その力を、そして白の紋章機が散るところを。そして………フフフッ、フフフフフフフフ………。」
機体の禍々しき黒の翼を見つめながら呟くノア。
その狂気の機体を見る紫の瞳は、黒い翼に呼応する様に徐々に赤く、赤く、血のように、赤く染まっていった。
『黒き月』
その身を揺らし白へ向かう
白の落とし子それを迎えん
永き時を経た進化、そして決着
喰らうは黒か、それとも白か
その雌雄、今こそ決めん
Fin
お詫び及びあとがき
ヘルハウンズ、特にカミュファンの皆様、誠に申し訳ありません。カミュが怖すぎだYO!!!(挨拶)
というわけで黒猫です。このような駄文をここまで読んでいただき誠にありがとうございます。
最初に申し上げたとおり、カミュに対するご批判、抗議文、私の暗殺計画書(笑)などなどあるかと思います。カミュに関してはここまでヤバくなるとは考えておりませんでした。(ヤバさなら、レッドアイやノアもかも知れませんが)
このカミュ君ですがこの性格はゲーム版を基に作ったのではなく、かなんさん原作のマンガ版『GA』を元に作らせて頂いております。
私は、最初はアニメ版のGAから知り、次にマンガ版のほうを読ませてもらい、そこでカミュ、及びヘルハウンズ隊を知りました。そこでのカミュ君の印象がこの作品のようなちょっぴり猟奇的な美形となってしまい、ゲーム版のときの彼の軽さに少し安心と共に寂しさを感じたりしました。
というわけで許してもらえるとは思いませんが、カミュに対するお詫びを終了したいと思います。まことに申し訳ありませんでした。お願いします、カミソリとか送らないで下さい。マンガ版を知らない方、ぜひ第三巻と第五巻に出てくるカミュ君を見てみてください。なかなか恐怖を感じると思います。あの眼が…………(怖)
それでは少しだけあとがきの方を
この作品を書こうと思ったきっかけは、エンジェル隊とタクトは白き月で(ヒロインと)いろいろあったのだから、黒き月の方でも何かあるんじゃないか、あるに決まってる!! と思ったからです。
というわけでヘルハウンズ隊を黒き月に住まわせて(爆)、各々の最後の一日を描いた次第であります。
あと皆さんの時間の過ごし方ですが完全に私の妄想です(爆)。こうだって言う証拠は一切ありませんのであまり気にしないで下さい。カミュ君に関してはイメージの世界なので。なんか芸術家っぽそうじゃないですか〜。
それでは最後に、皆々様このような稚拙な文章にお付き合いくださいまして誠にありがとうございます。そしてこれからも細々と頑張っていこうと思う次第です。それでは。
2005年8月15日 黒猫