(注/この物語は『GALAXY ANGEL Eternal Lovers』の後の物語です。アナザースペース脱出後です。オリジナル要素が強い(はず)です。どうしてもゲームのネタバレなどが含まれてしまい、さらにオリジナルキャラまで登場したりしますので閲覧に関してはその辺りはご了承下さい。では本編をどうぞ)

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

 儀礼艦エルシオールのブリッジは危険な状態だった。

敵に囲まれた。

わけでもない。だいたい、今はクロノ・ドライブ中だ。

異様なまでにだらけきって座る司令官を副司令が見下ろす、という光景が展開されていた。

いつ副司令が怒鳴るかわかったものではない。

しかし特に周りは気にしない。

慣れているから。

ただ、今日は副司令以外、全員が笑いを隠していた。

それに副司令は気付いていない。

そんなだらけきった司令官が口を開く。

「なぁ…レスター…」

副司令、レスター・クールダラスは最後まで言わせずに

「ダメだ、いいからさっさと準備しろ、あの2人はもう準備が終わったと連絡が来たぞ」

と、司令官を黙らせる。

普段ならこれで終わる。

しかし、今回は終わらなかった。

「俺…もう退役したいよ…どっかに引っ込みたい…」

泣き真似をしながら言い出す。お世辞にも上手いとは言えないが。

レスターの中で、何かが切れた。

「タ…」クト、と怒鳴るのはギリギリで中断された。

艦内通信が入り、相手がモニターに映し出されたからだ。

ちなみにタクトはと言えば怒鳴られる気配だけで座る体勢がくずれていた。最早座っているのか寝ているのか(寝相悪)の見分けもつかないぐらいだった。

そのタクトからかすかに「…ぁ…」と、声がした、気がする。

レスターは慌てて何事もなかったかのように平静を装う。

そして通信相手が少し困っている顔をしているのと、ようやく自分を除く全員が笑っているのに気付いた。

タクトはと言えば、ニヤついてこちらを見上げていた。

顔が赤くなっていく…気がする。

そして、声が出ない。辛うじて

「ぇ…まさ…か…」

と、出たとき、オペレーターのアルモとココがついに笑いを堪えきれなくなり、言った。

「わかりましたー? ずっと通信聞いてもらってたんですよー? 副司令がどんな人か知りたいって言うので」

「でもまさかあんなにタイミング良くやってもらえるとは思いませんでしたけどね」

レスターの中で、タクトに対してすら1本だったものが、数本、一気に切れた。

音が聞こえてきそうな勢いである。

肩が震えているレスターを見て、タクトは素早く逃走体勢に入り、ブリッジから逃げる。

はずだった。

気付いたときにはタクトは既にレスターに肩を掴まれていた。

レスターは下を向いたまま、やけに殺気立っている。

多少危機感を覚えたタクトは言い訳を頭の中で考える。

が、レスターはタクトが言い訳を考える間も無く、叫ぶ。

「お前らああぁぁ!!!!」

通信相手がさらに困ったような表情を見せたのは、最早見えていなかった。

 

話はここから4日程、遡る。

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 
ヴァル・ファスクの切り札、クロノ・クエイクを防ぎ、アナザースペースからの帰還を果たしてから2週間。

今、タクトはEDENの首都、ジュノーのスカイパレスにいた。

目的地は…。

 

…レスター。

いまさらだが言おう。

とりあえず行けばわかるって…なんだよ!

ルシャーティと会えるっていうから喜んで出て来たけど…。

…はっ。まさか…

昨日俺があいつの昼飯を半分横取りしたことの復讐か…?

まあ俺は大人だからな。一度ぐらい許してやろう。

 

と、タクトがキザな男を勝手に心の中で演出しているとき、空はオレンジ色に染まり、雲が光を少しずつさえぎり美しい夕焼けを演出していた。

その光がスカイパレスの外周部の廊下をさらに幻想的にしている。

どことなくぼーっとした表情のタクトがぼやく。

「話は聞いてたけど…俺が居なきゃダメなのかなぁ…」

皇国の、いや、銀河の英雄となってしまったタクト・マイヤーズがこの1日で3回目となる愚痴を言ったそのときだった。

廊下の影から顎髭の男と金髪の少女が出て来た。少女がこちらを見て、少し驚いた表情を見せたあとに嬉しそうに微笑んで言った。

「あ…タクトさん、お久しぶりです」

水色と白を基調とした服装だ。

優しい笑顔に自然と笑顔で返事を返す。

「久しぶり、ルシャーティ。あぁ、あの後挨拶が遅れちゃってごめん」

あの後、とはクロノ・クエイクを食い止めるために作ったアナザースペースから助けてもらったあと、である。

気にしないで下さいと律儀な返事の後、隣の顎髭の男が口を開いた。

「マイヤーズ司令、しばらくぶりです」

白色のローブに紫の片掛け、という服装で礼をする。

「…えっと…」

誰だっけ…?

EDENの人で…お偉いさんかな…

…あ!

「お、お久しぶりです、議長」

…や、やっぱり誰かのフォローがないと辛い…ッ!

「そう固くならずとも良いのですよ、あなたは英雄なのですから」

幸運にも間違って解釈してくれたらしい。

忘れてたことを。

…助かったぁ…。

…っと、顔が弛んでるぞ、引き締めて、引き締めて、と。

「それで今回の用件はなんでしょうか?」

そう言った瞬間、2人はきょとんとした顔になった。

気まずい沈黙。

自然と引き締めた表情が緩み、ぎこちなく笑っているような格好になる。

ようやく我に帰ったように議長が

「あの…その件は今日会食の席で、とエルシオールに伝えたはずなのでしたが…」

へ?

え? ぇええ!?

…くっ…我が親友にして最大のライバル、レスター…。

なかなかやってくれるじゃないか…

でも俺は絶対に負けないからな!

絶対に…俺は屈しない!

 

そんなようにタクトは目的を除けばかっこいいとも見える闘争心を燃やしていたが当然周りはそんなことは知らない。

いきなり自分の手を握りしめて背景に炎が登場していそうな謎の気迫に思わず一歩退いていた。

「…タクトさん…どうしたのですか?」

ルシャーティが不思議そうに問いかける。

「うん、いや、こっちの話だから気にしないで。それじゃ艦に戻るかなぁ…」

背景の炎は一瞬で消滅したことは言うまでもない。またいつものだらけ思考が復活している。

正直なところお偉いさんは苦手だし…。

既に思考はどのようにしてこの場から逃げるか、になっている。

それじゃまた後で、すぐに背を向けて帰る。よし、これでいこう。

「それじゃ…」

「そうですね、せっかく会えたのですし、このまま一緒に一足先に行きましょうか」

ついうっかり滑って転びそうになるという漫画でもなさそうな光景を作りかけ、出鼻を挫かれたことにようやく気付く。

それどころか変な方向に話を接続されてもう逃げるのは困難な状態だ。

ついうっかり

「一緒に行きましょうか」

と、言ってしまった。

まだタクトは自分がどんな任を受けるのか、分かっていなかった。

ルシャーティ、議長と並び、1人だけ肩を落としていた。

周囲に暗い空気がどよめく。

落胆、と言う名の空気が。

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

高い天井に豪華な飾り。

全体が白く、気品を漂わせる広間の席の円形のテーブル、その椅子の1つにタクトが座っていた。

目の前には広間の雰囲気に違わず、豪勢な料理が並ぶ。

そして周りには後4つの席がある。

1つは議長、もう1つはルシャーティ、後の2つはまだ空いている。

そこについて思いを巡らしているときだった。

「タクト・マイヤーズ司令、本日はありがとうございます」

銀に近い色の顎髭の議長が会食の席で開口一番、そう言った。

「タクトさん、改めて、お久しぶりです」

と、ルシャーティも続ける。

それに応じてタクトは会釈を返す。

2人とも応え、議長は

「本日来ていただいたのは他でも無い、あなたやエンジェル隊の皆さんにお頼みしたいことがあるのです。あの、ヴァル・ファスクについて」

と、いきなり話の核心を切り出した。

ミルフィーユやランファが居れば不思議そうな顔をしそうだ。

当然1つの疑問についてだろう。

ヴァル・ファスクのトップ、ゲルン。そしてナンバー2、ロウィルの2人がいない今、何故ヴァル・ファスクについて頼みなどがあるのだろう、と。

「質問は後で聞くことにしましょう、まずは説明させてください」

その言葉に表情を引き締める。しかし思考は止めない。

「まずはヴァル・ファスクのその後についてですが…今、ヴァル・ファスクはかなりの混乱状態に陥っています」

なるほど…それもそうか。

「何故か、それは当然、トップに立つゲルン、そしてナンバー2と言われたロウィルの2人がいなくなったからです」

疑問自体が答えになるなんて…皆がいたら笑いそうだな。

内心で苦笑しつつも話を聞く。

「一番上を失った組織がどうなるか。それはあなたがたも分かっているのではないですか?」

そこで1つ、間が空く。

トップを失った組織…?

ああ、そうか。

「エオニアを失い、残党、レムナントとなったエオニア軍か…」

もちろん、エオニアと『黒き月』を失い、投降した者もいた。

しかし、主を失っても戦い続けた者もいた。

主への思いで戦う者もいれば強い野心で戦う者もいた。しかし、結局はそんな強い思いが事実上ヴァル・ファスクであるネフューリアを忍びこませる隙となってしまったのだが…

思考を素早く巡らせるタクトを見つつ、議長はかたい顔で頷く。

「そうです。そして…ヴァル・ファスクは二分化しました」

二分化と言うと…やはり戦い続ける者…。

あとは…。ん? ちょっと待てよ…?

ヴァル・ファスクが…投降?

今までに話したヴァル・ファスクはいずれも投降などの意志は見せようとしなかったよな…。

いずれも自分の力を信じ、そして『心』の力を少なからず感じて散った。

しかし見せてくれたものもあった。

そう、それは…心。俺たちとヴァル・ファスクをつなぐ掛け橋になる…希望だ。

さて…その2つとは…?

「1つは穏健派に。あの者たちは投降はさすがにしませんでした…。しかし戦闘の意志は見せずにこちら側の意向を受け入れています。」

やっぱり…。

そう思わずはいられない言葉だった。

誰もが争いを望んではいない。

これは…進歩だ。

争うことしかできなかった昔との違い。

「もう1つは過激派。未だに戦闘体勢になっていますが…使いは受け入れています。覇権を再び取ろうと画策していたりこちらを逆恨み…理由は色々ですが詳細はほとんど分かっていません」

ふむ…大変だなぁ…。

「あぁ、あと今回、彼らのところに…穏健派、過激派を問わずに使いを改めて送ることになりまして」

議長が自分の顔を見てきた。

…ん?

ひょっとして…アレか?

今回の頼みって…。

「どうしましたか? マイヤーズ司令。」

議長が言葉をかけてきた。

ふと議長の顔を見る。

思考の渦から抜け、言う。それも…少し、焦ったようにしながら。

「あの…今回の頼みって言うのはひょっとして…?」

その言葉に、かたい表情だった議長の顔が少し緩んだ。

微笑みを浮かべながら、言う。

「おや、お気付きになられましたか。はい、そうです。マイヤーズ司令とエンジェル隊にはヴァル・ファスクへの使い、そして上手くいけば事前交渉もやってもらいたいと思っています」

げっ…また面倒な役回りを…

とりあえず、思うことはそれだった。

あ、そうだ。

「でも…勝手にいいんでしょうか?」

その言葉も予想をしてたかのように議長は平然と

「大丈夫です、もう<白き月>への連絡は済ませて了解も得ていますので、あとはあなた方の準備が整い次第、ですね」

シ…シヴァ陛下…シャトヤーン様…ノア…ルフト先生…。

皆の顔が浮かんでは笑顔もしくは皮肉な顔での送りだしの台詞が聞こえてくるようだ。

頬を温かいものが流れていそうだ。

そこでしばらく黙っていたルシャーティが口を開く。

「あの…タクトさん。今回はEDENの代表として、私も同行させていただくことになるのですが…よろしいでしょうか?」

まず、第一に驚きが来た。

「あれ、ルシャーティがまたエルシオールに?」

そうなりますね、との返事にみんなよろこぶよ、と返す。

そして第2に、悲しみが来た。

…なんで…全部…俺が知らない間に決まってるんだろう…。

思えば全部決定事項の確認、それでしかなかった。

「ある程度の準備はするように伝えてありますが…いつごろ出航できそうですか?」

少し考えてから答える。

「だいたい…4日ぐらいもらえれば大丈夫です」

詳しいデータはもうエルシオールに送った、との言葉を聞き、その後、本格的な食事がスタートした。

タクトの眼前の皿が集中して空になったのは言うまでもない。

結局、席は2つ空いたまま、会食は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

スカイパレスのいわゆる<郊外>区。

そこには短く刈られた草がゆるやかな風になびいていた。

その草と同じような動きで手を後ろに組んだ少女の髪もなびいていた。

それは1つの絵のようで、何者も干渉できないような独特の雰囲気があった。

少女は周囲に幾つかある腰ほどの高さの石、とある名が刻まれた石を見ていた。

その目は、悲しみを浮かべている。

「…ヴァイン…」

その石には、確かに刻まれていた。

 

『ヴァイン ここに眠る』

 

ルシャーティ自らが刻んだものだ。

そして、横には小さく、刻んである。

彼に向けた、言葉が。

 

『ヴァイン、言ったよね? エルシオールでの一時は…楽しかった、って。あなたがいないのは…とても…心が欠けてしまったみたい。でも…あなたが示してくれた可能性は…私の心の欠片、それ以上のものを生んでくれた。言えなかった言葉、今、伝わるように、ここに刻みます。言葉では伝えられない気持ちではあるけど…ありがとう。』

 

そこの下に、さらに言葉は刻んであった。

 

『あなたの言葉が、心が、それが生んだ可能性は…未来への掛け橋へ、私が前へ進む掛け橋へなったんだよ。本当にありがとう。私の弟、ヴァインへ。 ルシャーティ』

 

その言葉を見て、肩が少し震えてきた。

頬を伝わる感触は間違いないものだった。

それからしばらくして、ルシャーティはその場を去って行った。

額には、今でもサークレットが付いている−−

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

−−それから4日後、スカイパレスの港からエルシオールが出航した。

『民衆派英雄』の顔ももつタクトが盛大な見送りを受けたのはまた言うまでもない。

その『民衆派英雄』の名がついたのはEDEN解放のその日からだったがここまで本格的な称号になるとは思わなかった。

「どうだい? ずいぶんと盛大な見送りだったじゃないか、なあ、『英雄』さんよ」

そう言って茶化し始めるのはフォルテだ。

「もう勘弁してください…」

泣きながら頼むのはタクトだ。

エルシオールはもうクロノ・ドライブの最終調整に入っている。

今、タクトの他にもエンジェル隊もブリッジにいた。

このようなときはある程度重要な用件が話される。

…。

…ある程度…。

タクトはこれも司令官としての威厳の低さかと思ってしまっていた。

ちなみにタクトは寝坊のため見事にブリッジ到着が最後だ。

そのため、冷やかされている。

そんなタクトにレスターが助け舟をだした。

「おい、そろそろやめてやれ」

ように、見えた。

「そんなに冷やかしたいんだったらあとでこいつのサボリ時間を減らしてやるから」

しれっと言い切った。

そして全員の顔が笑顔になった。

気がした。

「ふふ…、それはそれは楽しみですわね、皆さん?」

怪し気な声は青い髪に耳が目立つミントだ。

皆に笑いかける。

「そうだねぇ…。副司令が言うなら大丈夫そうだし…ここはおとなしく退いてやるか」

あとでまた冷やかしてやる、と内心で言っているようだがフォルテもようやく折れた。

「真面目にこれからの方針を話すぞ」

その声を聞いてようやく皆の笑顔が静まった。

同時にタクトの中で何かがわらわらと巻き起こる。

…我が最大のライバル、レスターめ…!!

なんのライバルかはさておいて、再び妙な対抗意識が燃え上がっていた。

そんなことは知らず、レスターは言葉を続けた。

「まずヴァル・ファスクの二分化、穏健派と過激派に別れたことはもう知ってるな?」

その言葉に全員が頷く。

ただ、理解してるかどうかは別問題らしい。

怪し気な顔つきが数名…。

「俺たちに任されたことは2つだ」

一息間が空く。

「まず…こっちはまだ楽な方だな。穏健派、過激派の本拠へと赴き、EDEN側のヴァル・ファスクへの使いへ合流すること、となっている」

…まあまあ面倒なことになりそうだけどね。

内心で苦笑する。

「次に…」

レスターが改まって他人行儀に言う。

「タクト・マイヤーズ司令とエンジェル隊はヴァル・ファスクとの交渉に立ち会ってもらいたい、だそうだ」

…こっちは苦笑どころじゃすまないよ…。

今度は内心で顔が引きつった、気がする。

でもなぁ…

「なんで俺とエンジェル隊が?」

…まあ答えは分かってるけど。

「あれだろ、知名度とかそういう。ヴァル・ファスクのトップとナンバー2を沈めた英雄達の名は銀河中に広まっているってことだ」

溜め息をつきつつ、情報整理をする。

…さて、あとで書類を回してもらえば細かいところはわかりそうだし…。

「よし、そろそろ解散で良く無いか?」

レスターも溜め息をついた。

「…まぁいいだろう。あっちに付くまでの間、せいぜい休んでおけ。もうすぐあっちにいるEDENの交渉役からも連絡があるだろう」

ぐっ…と言葉が漏れかけたところで止める。

 

その30分後、エルシオールはクロノ・ドライブへと入った。

後に言う『レスター赤面逆ギレ事件』の計画が立てられたのは、そのすぐ後である。

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

怪し気な紫色の戦艦、つまり、ヴァル・ファスクの戦艦の近くに、一隻の小型シャトルが漂っていた。

ほとんど多くて2、3人乗りと言っても過言ではない内部スペース。

その中の部屋の1つ、唯一ベッドがある部屋に、少年がいた。頭のバンダナが印象的。

考え事をしていた。

…ジュノーからの連絡だと…もうちょっとで…。

…あと5分って…長いな…

そんなことをいいながら10代後半程に見える少年が寝転んでいた。

1人で。

考え事をすることで気を紛らわせていた。

周りには誰もいない。

一番近くにいるのはうつぶせに倒れている自分の後頭部に乗っている、リスだ。背中に伸びているバンダナを噛んだり引っ張ったりしている。

考えも止まり、リスを指で弄ぶ。

実は旅に出る直前に拾ったリスだった。

まだ名前も決めていない。

そうだ、名前はどうしよう…

再び考え事が生まれ、気を紛らわせられる。

…うん、いいことだ。

しっかし…名前かぁ…。

意外と悩むよなぁ…

ふと時計を見ればもう5分経過していた。

…やっと普通の人と話せるよ…。

あぁ、良かった。

起き上がり、操縦席部分にある通信機を起動する。

あらかじめ設定はしてあったため、すぐに繋がった。

オペレーターらしき女性が出る。

「あ、EDENからの使いの方ですか? ほとんど時間通りですね〜」

なんとも軽い感じの声だというのが第一印象。

「それで…マイヤーズ司令ですか?」

率直な辺りはなんとも。

説明しなくても伝わっているというのは素晴らしいと思う。

そして、答える。

「ええと、マイヤーズ司令とクールダラス副司令をお願いします」

すると相手は少し小声になった。

「あ…もう少ししたら司令と副司令がどんな人が良く分かる光景が見れるんですけど…それまで待ってみますか? 面白いですよ?」

…英雄とその補佐は…面白いのか?

でも興味はそそられる。

「司令はいつもあれだからすぐ分かりますけど…副司令のアレは一見の価値、アリですよ!」

と、さらに一押し。

それに引かれて、

「わかりました、何かすることがありますか?」

と、答えてしまった。

それに相手は

「通信をONにした状態で2人のやりとりを聞いてもらおうと。なので通信が繋がっていることが気付かれないように静かにしていてもらえればいいですよ」

一体どんな光景なんだろう…。

疑問は膨らんでいく。

それから、モニターにブリッジの様子が映し出された。

司令官の席に座った人物は、異常にだらけて座っていた。

そこのすぐ側には背の高い男性が司令官の席に座った男を見下ろしている。

すると通信機から小さく

「だらけて座っているのがマイヤーズ司令、見下ろしているのがクールダラス副司令ですよ」

…!!

…えぇ!?

驚きのあまり言葉が出ない。

と、そんな間に副司令が司令官を黙らせる、という光景が進んでいく。

副司令がついに怒鳴りかけ、司令官の体勢が崩れたそのとき、スイッチが押され、モニターが起動した。

モニターからは当然自分が映っている…はずだ。

自分は多分困ったような顔をしているのだろう。

副司令以外、全員がニヤけている、もしくは笑いを隠していた。

そしてついに種明かし。

副司令の叫び声は、通信機越しでも十分響くものだった。

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

あの30分後、レスターの怒りがようやくある程度おさまり、タクトは解放された。

今は司令室でのんびりとしていた。

寝転んでいる。

それにしても30分で収まりきらない怒りというのもなんとも言えないが。

…でも、EDENとヴァル・ファスクの怒りというのは…。

こんなものではないんだろう。

…暗いことばっかり考えてちゃダメだな。

さて…。

そういえばあのEDENの交渉役の子、10代後半ってところだよな…。

何故あのような子を送ったのだろう。

しかも、1人で。

あんな子…

…ぁ…。

名前、聞いて無かった…。

とりあえず名乗りあう、が日頃の常だったのに…。

…これも暗くなってきた、次。

EDENとヴァル・ファスクの交渉。

これはどのように終わるのか。

そもそも…決着が付くのだろうか。

決着が付くとしたら…過去の怒りまでも解消しなければいけないはずだ。

…どうなるのだろうか。

ふと、最近考え事が多いことに気付く。

…考え事は趣味じゃないんだけどなぁ…。

起き上がり、艦内散歩へと歩を進める。

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

小型シャトルの1室で再び少年が寝転んでいた。

また考え事をしていた。

…あんな人たちが司令官や副司令の艦に、自分はもうすぐ合流する。

…英雄って…色々あるんだな…

…なんとも、意外だけど…

率直な感想が出る。

面白そうだな。

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

密かにお互いが似ていることに、両者は気付いていない。

 

 

そして、エルシオールとの合流の日は、近い。