英雄と竜に捧ぐ鎮魂歌



                        作者 不明
                        訳者 不明




国士の(ほま)れ打ち棄てて  (ぞく)()つるは大義ゆえ

最初(さき)より知れる敗け戦  敢へて挑むは民のため

恨みつらみは多々あれど  選びし天命(みち)に悔いは無し

我等がやらねば()がやると  いかに得たるやその覚悟



臆病者の美辞(びじ)麗句(れいく)  泰平(たいへい)の世に威勢()

矢面(やおもて)に立つ防人(さきもり)の  遥か(あと)にて後ろ指

(まも)らる恩も(かへり)みず  ()にして(ばん)と後ろ指

我は善にて彼は悪  覚悟は口先ばかりなり



()ぜる黒鋼(くろがね)()ゆる(つつ)  鬼の戦は極まれり

平和の願ひは等しくも  尽くす誠の雲泥よ

無双の武勇示せるも  悔やみ切れざる兵の()

倒れ行きたる我が方に  敵の砲火は増すばかり



万策尽くし戦へど  死力を尽くし戦へど

まだ貫けぬ敵陣(てきじん)よ  口惜(くちお)しきかな厚き壁

臆病者よ聞くがいい  闇に消えゆく慟哭を

願ひも祈りも空しくて  ただひたすらに民のため



流血止むる(すべ)も無く  火傷を癒す水も無く

天の使ひの加護も無く  ましてや(つつ)も潰れ果つ

勇士の剣は砕け散り  竜の牙も折れ果てて

捧げし生命(いのち)は惜しまねど  かかる運命(さだめ)(なに)(ゆえ)



戦友(とも)今際(いまわ)(とき)来たり  ()して(はか)るにあまりある

鍛へ鍛へし()(すべ)も  物量の前に(あた)わざる

戦友(とも)が無念が身にしみて  看取る(まなこ)にただ涙

(おの)が暗愚が身にしみて  看取る(まなこ)にただ涙



痛かったらう負いし傷  熱かったらう焼けし肌

断ち切る(きずな)は切なくて  悲しかったらうその伴侶

すまぬすまぬと(かへ)しても  過ぎし時は(かへ)らざる

()()に砕けし(きら)めきが  永遠(とわ)にまぶたを焼き付ける



安らぎたまへ永久(とこしへ)に  見事に散れる英霊よ

(いくさ)に敗れ身は滅び  (きみ)(いさお)は無となりて

偽善者(えせ)が冷たく嘲笑(わら)おうと  この(うた)捧げ奉る

心安けく眠れかし  英雄と竜の鎮魂歌