HELL HOUNDS 〜戦いに生きた者達〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜プロローグ〜

 

 

 

人類が、この銀河に生れ落ちてから、早数十億年もの時が経った。

 

人々は、惑星トランスバールを中心とした星系国家「トランスバール皇国」を築き、暮らしていた。

 

「時空震(クロノクェイク)」と呼ばれる災害により、銀河ネットワークが崩壊した世界は、もうその面影すら残してはいなかった。

 

しかし、銀河の平穏は再び崩れ去った。

 

エオニアのクーデター戦争、ヴァル・ファスクのトランスバール侵攻、「EDEN」でのヴァル・ファスクとの最終決戦。

 

この数年でトランスバールに訪れたこれらの災厄は、時空震(クロノクェイク)の悲劇から復興したの銀河に甚大な被害をもたらした。

 

だが、“彼女達”はそれに屈することなく立ち向かい、勝利を収めた。

 

ロストテクノロジーの結晶と呼ばれる兵器「紋章機」を使い、その身を戦いに投じた。

 

幾度となく戦い抜き、時には苦悩し、傷つくこともあっただろう。

 

だが、彼女たちはそれらに打ち勝ち、銀河に平和をもたらした。

 

 

 

人々は、いつしか彼女達をこう呼んでいた―――――「ギャラクシーエンジェル」、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピコォン……ピコォン……ピコォン……

 

 

何も無い、真っ白な内装の病室に、心拍数を表す機械的な音が鳴る。

広い病室にはベッドが5つ横に並んでおり、“彼ら”はまるで死んでいるように眠っている。

口元には人工呼吸器が取り付けられ、体には栄養を送り込むための点滴が繋がれていた。

 

 

ここは、トランスバール本星の衛星軌道上に位置する「白き月」。

その地表にある皇国軍の医療施設である。

数年の歳月を経て平和になったとはいえ、傷跡が完全に癒えたわけではなかった。

戦闘で負傷した兵士は、ここで最先端の技術で治療を受けている。

 

“彼ら”も、その施設の病室のひとつで治療を受けていた。

“彼ら”が発見されたのは、エオニア戦役直後のトランスバール本星軌道。

偵察任務についていた皇国軍駆逐艦が発見、回収したのである。

回収された当時、“彼ら”の体はボロボロだった。

五体満足だったものの、内臓は破裂、体中の骨は砕け、出血も大量にあった。

すぐに応急処置を受けこの施設に運ばれたことが幸いし、“彼ら”は一命を取り留めた。

しかし、医師は“彼ら”が目覚めるかどうか保障はできないと言った。

病室の外でそれを聞いた人物が、心の痛さに顔を歪めた。

 

 

 

 

青い長髪で長身の美青年『カミュ・O・ラフロイグ』

 

 

筋肉質でごつい体の男『ギネス・スタウト』

 

 

薄紫色の髪の美少年『リセルヴァ・キアンティ』

 

 

体に大きな傷跡があるオッドアイの少年『レッド・アイ』

 

 

机の上に置かれた眼鏡とハチマキの持ち主『ベルモット・マティン』

 

 

 

 

 

彼らは、エオニア戦役時にエルシオールとエンジェル隊を苦しめた傭兵部隊『ヘルハウンズ』。

 

戦いに生き、自分を戦いの中でしか見出せなかった、哀れな者達。

 

使えた主に裏切られその体を機械に蝕まれた、悲しき者達。

 

 

 

 

あれから3年、“彼ら”は一度も、その瞳を開いてはいない。