あのときから俺は人との交流をやめた。
俺にとって必要なものではない、また裏切られると思い俺は人との交流を拒み続けてきた。それは、今でも変わらない・・・・・そう思っていた。
第三話「拒絶する理由」
「ピクニック・・・・・か?」
「はい。」
俺は繰り返し聞いてみるがヴァニラは平然と答えた。
「どうでしょうか・・?」
「・・・・・・・。」
断る理由などないだろう。
誰しもこの場にいたらそう言うだろう。別にやることもないしどうせならやってもらうことにしよう。俺の考えは消極的なものであった。
「わかった、やることにしよう。時間帯はいつだ?」
「明日のお昼からで銀河展望公園でやります。」
「なんで、今日ではないんだ?」
「アレックさんは疲れているのだろうと言うことでみなさんとで決めました。タクトさんも言っていました。」
タクトも参加するというのか?
なぜ司令官が隊員一人のためにそこまでするだろうか。
それよりもこの艦はったいどんな施設になっているのか・・・・。
「では、私はこれで失礼します・・・。」
俺が考えている最中にヴァニラは小さくお辞儀をしながら自分の部屋へと戻っていった。
俺は部屋の中に戻りロックをかけた後ベッドに横たわり眼帯をはずした。
(みんな、俺をきづかい明日に伸ばしてくれた・・・・・。)
俺は上を見ながら思った。天井には俺が装飾員に頼んで作ってくれた銀河が広がっている・・・・・・。
ピクニック当日・・・・・・・。
あの後、俺はずっと眠り続けていた。自分ではそんなに疲れていないと思っていたのに、
体が少し痛かった。起きたときには午前十時をまわっていた。
(体は正直なものだ・・・・。)
そう思いながら俺は体を起こしシャワーを浴び、髪を整え朝食を食べようと冷蔵庫の中を開けた。その中にはジュースと冷凍食品が一通りそろえてある状態だった。近くにジュースがあったので手に取りラベルを見た。
『果実100%!!嘘も何もないこれが本当のオレンジジュース!! By エルシオール・ジュース協会』
「・・・・・・・・・。」
本当に大丈夫なのか・・・・?
大体、嘘もなにもジュースに偽者・本物があるわけないじゃないか。
心の中で叫んだが、ここではなしにしておこう・・・・・。
朝食が終わり、身支度を整えた後は行くだけなのだがここで問題が生じた。ヴァニラは最後に銀河展望公園に集合すると言っていたが問題はそこにあった。
「公園がどこなのかわからん・・・・・。」
なんせここに来てからティーラウンジに格納庫とブリッチと自分の部屋しか行ったことがないため動けずにいるのだ。昨日ずっと眠り続けたのが災いした・・・。
時間は約束の12時を過ぎていた。
「むぅ・・・・・早く行かなければならないが艦内で迷ってしまうのが怖いな・・・・。」
我ながら情けない。
悩み続けて15分経ち、俺は焦り始めてきた。そのとき、部屋のベルが鳴り俺は部屋のロックをはずし外へ出た。するとそこにはヴァニラが立っていた。
「アレックさん・・・・・・遅いです。」
ヴァニラのその発言に対して俺はなにも言えなかった。
公園の行き先がわからない・・・・・・これほど恥ずかしいことはなかった。しかし、ここで嘘をついてもどうにもならないので素直に謝った。
「すまない、公園の行き方がわからなくて困っていたところだったんだ。実は昨日あれからずっと眠り続けていてろくに艦内をまわっていなかった。」
「そうでしたか・・・・・。みなさんがお待ちです。行きましょう。」
ヴァニラは別に気にしている様子もなく、俺はヴァニラの後についていく形で銀河展望公園に行くこととなった。
銀河展望公園・・・・・・
公園にはいるとそこは青空が広がっていた。
バーチャル映像だが本当の空のように思える。着くと同時にランファが大きな声で俺に言ってきた。
「遅いわよ、アレック。一体何をしていたのよ!?」
「展望公園の行き方がわからなくて困っていたそうです・・・・・。」
「あらあら、よほど昨日疲れていらっしゃったのですね。」
「すまん・・・・・。」
まったく情けない話だ。着任と同時に艦内を見学する予定がなかったわけではないのだが見学しなかったのが今となっては恥ずかしいことだ。
「遅いといったら、後はタクトとミルフィーだけね。」
確かにそう言われてみれば二人だけいない気がするが・・・・・・
「みんな、おまたせ〜。」
「すまん、すまん。作るのに結構時間がかかりすぎて。」
二人は走りながらこっちに来た。しかし、なぜあの二人だけ遅れたのだろうか?
「これで全員そろいましたね。」
「じゃあ、いつもの丘でいいわね。」
そんなことはみな気にせず、小高い丘のほうへと向かっていった。
「では!アレックさんの入隊を記念してカンパーイ!!」
「カンパーイ!!」(全員)
気がついたときにはシートを引き、弁当を広げた後皆コップを手にして乾杯をしていた。ここであの時思った疑問が頭に浮かんだ。
「ひとつだけ聞いていいか。」
「なんですか?」
「なぜ、タクトとミルフィーさんはいつも一緒にいるんだ?」
「あの二人は恋人同士だからよ。」
なるほど、だからいつも見ていると一緒にいるわけだ。こんな話をしているとミルフィーとタクトは互いに顔を赤くしながらうつむいていた。
「いまさら、恥ずかしがることはないじゃないかい。みんな知っているんだから。」
「だ、だけどやっぱり恥ずかしいじゃないか。な、なぁミルフィー。」
「は、はい・・・・。」
フォルテそうは言っていたがやはり二人はまだ顔を赤くしている。こうしてみていると羨ましく思えてくる。
「とても幸せのようだな。見ていて羨ましく思うよ。」
「だが、ミルフィーはダメだぞ。」
おいおい、おもいっきり意味を解釈していないぞ。それに人のものを取るような行為など俺はしない。
「別にそういう意味じゃない。二人を見ていると全体の空気がとても柔らかくなる感じだと言っているんだ。別にお前からミルフィーさんを取ろうなど思っていない。」
「そ、それよりも早くしないとせっかくミルフィーが作ったのが冷えてしまうから温かいうちに食べようよ。」
「それもそうですわね。ではいただきましょうか。」
話は打ちきりとなりみなミルフィーが作った弁当を食べ始めた。
俺もおかずを取ろうとしたがこうも人が多いと取りづらい・・・・・。
「アレックさん・・・・・お皿を貸してください。私が取りますから・・・・・。」
困っている俺にヴァニラがそう言ってきた。
「じゃあ、そこにあるコロッケと玉子焼きを取ってくれないか。」
「わかりました。」
俺はヴァニラに皿を渡しヴァニラはその皿の上にコロッケ2個と玉子焼き一個を乗せて俺に渡した。
「ありがとう。」
「その玉子焼きは私の今日の自信作なんですよ!!」
元気をよくミルフィーが俺に言ってきた。そこまで自信を持っていうのだから先に玉子焼きの口に運んだ。
「どうですか?」
「・・・・うまい。」
「よかったー。今回のピクニックはアレックさんの入隊記念ですから腕をかけて作ったかいがありました。」
コロッケのほうも食べてみたがなかなかうまかった。
みていると俺の入隊記念というよりはよほど遠いものだ。
「ねぇ、アレック。あんたはなんでエンジェル隊に配属になったの?」
「あ、私も聞いたいです。どうしてですか。」
ランファは片方の手にはサンドイッチが、もう片方の手にはコップを持っていた。そのコップの中には得体の知れないぐらい真っ赤な色をしたものが入っている。あえて聞かないが。
一方ミルフィーは開き直り楽しく笑っていた。
「配属になった動機は特にない。もっともシャトヤーン様が独断で俺を『白き月』に採用、そしてノアが俺の能力を測るため数ヶ月間世話をしてくれた。そして、3日前に配属が決定された。」
「そうなのか・・・。じゃあ俺からも質問だが君が乗っていた紋章機、あれは一体どこから発見されたんだい?」
タクトがそう質問してきた。俺はどう話していいものか・・・・一番悩みどころであった。
「あれは俺がとある人から譲り受けたものだ。『白き月』から発見されたものではない。譲り受けたとき少々武装が足りなかったから自分なりに改造したものだ。」
「『白き月』から発見されなかった未確認の紋章機か・・・・。なんか実感わかないな。」
こうして、一時間あまりが過ぎようとした。俺は聞かれた質問には答えたが自分からは一切話そうとはしなかった・・・。
一時間後・・・・・・・
「すまないが、すこしこの辺を歩いてくる。」
「それだったら、噴水の近くがいい。あそこは落ちつくからね。」
「ありがとう、では失礼する。」
俺は立ち上がりタクトの言っていた噴水の近くまで来た。ちょうどそこにベンチがあったので座ることにした。確かにここは噴水があるおかげで心が落ち着く。
「ふぅ・・・・・・。」
俺はベンチに座りながらため息をついた。そこで俺は少し考えてみた。
「タクトたちは俺のために入隊記念をかねてピクニックをしてくれた。楽しいし、それにみんなの気持ちもわかる・・・・・しかし・・・」
俺は下を向きながら思った。
「どうしたのですか・・・・・?」
考えていた俺の前から声がしてきた。不思議に思い顔を上げてみるとそこに立っていたのはヴァニラだった。
「ヴァニラさんか。いや、すこし疲れたから散歩をしていただけだ。すぐに戻る。」
「・・・・・・・・。」
「どうした?」
「・・・・・タクトさんからあなたのデータを見せてもらいました。どうして、人との交流を拒むのですか?」
ヴァニラに質問に対し俺は唖然とした。個人データを見るのは一般には司令官であるタクトだけだ。なぜデータをヴァニラに見せたのか・・・・・俺にはタクトの考えていることがわからなかった。
「よかったら、教えてくれませんか・・・。私でよければ相談に乗ります。」
「・・・・・・・・。」
本来なら話さないつもりだった・・・・。しかし、ヴァニラだけには話してもいいと思った。自分の過去・・・・このことを他人に話したのはヴァニラが初めてだったかもしれない。
ヴァニラは俺の横に座った。
「俺は交流を拒んでいるわけじゃない。できなくなってしまったんだ・・・・・。」
「なぜですか・・・・・。」
「・・・・俺は物心ついたときから戦場で育った。そして、俺は傭兵になった。それが11歳のときだ。」
「・・・・・・・・。」
俺は語り始めた。ヴァニラは静かにそして真剣な表情でこちらを見ている。
「傭兵となり、俺はひとつのチームを結成し様々な任務にあたった。俺はみんなのことを信じていた。ところがチームはある任務を終えた途端に俺を襲ってきた。そして、俺は襲ってきた奴らを全員殺してしまった・・・・・。」
「理由は・・・・なんだったのですか?」
「さぁな、奴らは莫大な金に目がくらみ俺がその金を独り占めしようと考えたのだろうな。」
「・・・・・・・・。」
「話を戻そう・・・・。一人となった俺はいくつかの部隊に属し、そこでの信頼を得るために俺は必死であがいた。だが、俺が戦闘能力を開花させていくたびに全員俺を妬み、結局俺は、すべての部隊からはずされた。トカゲにのシッポのようにな・・・・これが6年あまり続いた。」
「そんな・・・・・ひどすぎます・・・・・。」
そうかもしれないな・・・・・。しかし、『あの時』の時代の奴らは仲間意識などなかった。利用できるものは使う、そして危険と判断したら殺す・・・・・そんな世の中だった。
「他人の目から見たらそうだろう。しかし、傭兵の中ではそれが当たり前だったのかもしれん。そのとき俺は思った。あえて能力を見せず交流を避けただその場にいれば俺ははずされない、裏切られない・・・そう思った。」
「今でも・・・・そう思っているのですか?」
「今は少し違う気がする。こんな俺でも居場所を作り交流を望んでくれる人たちがいる。だが、長く交流を拒んできたせいかできないんだ。」
「では・・・・私と交流しませんか・・・?」
話が終わりヴァニラは俺に提案を出してきた。その目は偽りもなく俺に問いかけてくる。
「君と・・・・・・か?」
「はい・・・。私も昔は自分が救えなかった人たちのために人とあまり交流をせずに努力していました。しかし、タクトさんのおかげで私はいろいろなことを学びそして今の私がいます。だから、アレックさんも・・・・・・。」
「君の得にならないと思うが・・・・。」
「得になるか、得にならないかは私が決めます。」
「・・・・・・・・。」
俺はすぐに決めた。ヴァニラと交流すれば『あの時』のように戻れるかもしれない・・・それがひとつの理由だった。
もうひとつの理由はヴァニラに・・・・・・母の面影を見たことだった。
「わかった、お願いしよう。でも、不思議なものだ。君と話していると心が和むように思える。」
「そういっていただけるとうれしいです。」
「では、戻るとするか。」
「はい。それから明日は艦内を案内します。本当は今日がよかったのですが、はずせない用事がありますので・・・・・。」
「わかった・・・・・・。」
俺達はベンチから立ち、みんなのいる丘のところに戻った。
戻ってから20分ぐらい経ち、その場で解散となった。自分の部屋に戻り読書をすることにした。
「・・・・・・・・。」
俺はうれしかった。交流を拒み続けていて誰も信じることができなかった俺を受け入れてくれる場所がここだということが・・・・・・。
だが・・・・本来の目的はまだ達していなかった。
第三話「拒絶する理由」終
第四話に続く・・・・・。
あとがき・・・・・・
きょうは書くことがないのでアレックのプロフィールを紹介して終わりにしたいと思います。
名前 アレック・デメシス 階級 大尉
参考
曲者ぞろいのエンジェル隊に配属となった男。どういう理由か経歴が一切なく彼の関する資料がないため詳細は不明。(なお、タクトに渡されたデータは『白き月』にいたころのデータである)