第四話「昔の自分へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルシオールに来てからはやくも三日が過ぎようとしていた。今、俺は部屋にいて読書をしている。EDENに到着するまで大分時間がかかるため、いつも待機状態なのだから平和なのだとつくづく思う。

 

「なるほど・・・・これはおもしろい小説だな。」

 

ちなみに・・・・・・俺が読んでいる小説の内容を説明しろと言われたら説明しにくいがとにかくSF小説だ。これがなかなかおもしろくつい夢中になってしまう。

 

「今日はこれぐらいにしてシャワーを浴びるか。ヴァニラを待たせては困るからな。」

 

今日はヴァニラに艦内を案内してもらうことになっている。あくまで交流を兼ねて・・・・だが、ほかのみんなが何をしているのか見る機会だ。

 

「ふぅ・・・・・・。」

 

入り終わり、いつもどおりに朝食を取るため冷蔵庫を開ける。頼むから昨日のオレンジジュースみたいに変なことが書かれていないように・・・・・そう心で念じながら目をつぶって適当に掴んでみた。

そっと目を開けてみると握られていたのはパンだ(しかも五枚切りの厚いものを・・・)。

袋の周りを見てみた。だが、またも書いてあった。その内容は・・・・・

 

『エルシオールだけの限定物!乗員の人たちにも大ヒット!!これを食べなきゃ損!食べておいしいエルパン(エルシオールパン)ぜひ食べて感動を味わおう!!!! By エルシオール食品会』

 

 

「・・・・・・・いい加減にしてくれ。」

 

ここの乗員たちはいったい何なんだ。ジュース協会とか商品会とか何か間違っているのではないか・・・・。

 

「・・・・なかったことにしよう。」

 

そうだ、なかったことにしておいてほうがいいかもしれない。いちいちツッコミを入れていると体が持たない気がしてならない。

俺はなかったかのように袋からパンを一枚取り出しパンを焼き、昨日のオレンジジュースをコップに入れて朝食を済ませた。

 

「さて・・・・後はヴァニラを待つだけか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15分後・・・・・・・

 

 

部屋のベルが鳴ったので部屋のロックをはずし外に出てみるとドアの前にヴァニラが立っていた。

 

「おまたせしました。アレックさん。」

「いや、ちょうど支度が終わったところだったから。・・・・と言ってもただ服を着るだけだがな。」

「そうですね。では、行きましょう。」

「ああ、よろしく頼む。」

 

こうして、ヴァニラに艦内を案内させてもらうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Aブロック

 

「ここのブロックは艦の先端に位置しています。」

「と言うとタクトの司令官室もあるというわけだな。」

「はい。そして、昨日行った銀河展望公園もこのブロックになります。」

 

このブロックだけでも相当な広さだな。なんせこの広さであの公園があるのだから驚きだ。

 

「何か質問はありますか。」

「特にないかな。」

「では次のブロックに行きましょう。」

 

 

 

 

 

Bブロック

 

「ここには食堂、コンビニ、ホールそしてティーラウンジがあります。」

 

コンビニに食堂・・・・・か。まるで大きな町だな。そういえば、艦内を案内されてから早くも一時間が経っていた。

 

「ヴァニラさん、そこのホールで少し休憩しないか。君も説明しながらだと疲れるだろ。」

「わかりました。では少し休憩しましょうか。」

 

俺たちはホールで休憩するためホールに行くことになった。入るとそこにはフォルテがいた。フォルテも俺たちに気づいたのか声をかけてきた。

 

「あれ、アレックにヴァニラじゃないか。どうしたんだい。」

「今、艦内を案内してもらっているところだ。で、今は疲れたから休憩。」

「今・・・・・思ったんだけど、アレック。あんた自分で艦内を見たらどうだい。ヴァニラだって本当ははずせない用事があるんじゃないかい。」

「・・・・・・。」

 

フォルテにそう言われるとは予想外だった。

ヴァニラと交流を兼ねて・・・・・・だが、フォルテからして見れば艦内は自分でまわったほうが覚えやすいと言っているようなものだ。

 

「フォルテさん、今日は特にないのでこうしてアレックさんとまわっているんです。だから、大丈夫です。」

「そ、そうかい。それならいいんだけど。」

「フォルテさんはなぜここにいるんだ。」

「あたしは射撃場から来たんだ。のどがかわいちまってね。まぁ、これを飲んだらまた戻るけどね。アレックも案内のついでに射撃場に来るといいよ。そしたらあんたにも一発撃たせてあげるよ。」

「わかった。時間があれば行く。」

 

そう言うとフォルテはホールから出ていった。そして、俺たち二人だけになった。歩いていると感じなかったがこうしていると少し緊張する。

 

 

 

 

「・・・・・。」

「・・・・・・・・。」

 

 

 

 

沈黙が続いている。どうすればいい・・・?

困っている俺の目の先にあったのがジュースの自動販売機だ。これしかない。

 

「ヴァニラさん、のどは渇いていないか。」

「少し・・・・。」

「じゃあ、ちょっと待っていてくれ。買ってくるから。」

 

ふぅ・・・・なんとか沈黙から切り抜けたか。俺は水を二つ買いそのひとつをヴァニラに手渡した。

 

「ありがとうございます・・・・・。お金は後でお返しします。」

「いや、返さなくていい。これは案内のお礼さ。こんな安っぽいものだけど・・・。」

「いえ、うれしいです。」

「そう言ってもらえると助かる・・・・。」

 

俺たちは少し雑談したあと、艦内をまわることになった。

 

 

 

 

 

 

 

Cブロック

 

「ここはアレックさんもご存知のとおり私たちの部屋があります。何かありますか?」

「あそこにある部屋はなんなんだい?」

 

俺は指を指しながらヴァニラに言った。先には何やら大きな扉があるがあれは一体なんだろうか・・・。

 

「あそこの部屋はシヴァ陛下が前に使っていた謁見の間です。」

「シヴァ陛下もこの艦に乗ったことがあるのか?」

「はい。一年前のエオニア戦役で私たちと一緒に『白き月』を脱出したとき、そして戦いが終わった後のネフューリアの戦いの際にお乗りになりました。今は使われていませんが。」

「そうか。俺からの質問はこれぐらいかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

Dブロック

 

「このブロックは艦内の下部にあたります。だからここが一番安全なブロックです。」

「ここにはどんな部屋があるんだい?」

「主に医務室、倉庫、トレーニングルーム、シュミレータールーム他にもたくさんあります。アレックさん・・・・どこか行ってみたいところはありませんか?」

「そういえば、フォルテさんが射撃場にいるって言っていたな。行ってみたいがいいか。」

「はい。」

 

俺たちははまず射撃場に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

射撃場

 

 

「おや、アレックにヴァニラ。早いじゃないか。」

「やあ、約束どおりに来たよ。ところで、君が使っているのは重火器か。」

「そうだよ。レーザー銃だと撃った感覚がないからあたしにはこれが向いているのさ。」

 

しかし、入った瞬間からすごい音だな。フォルテの横には俺が知っているものがいくつかあった。

ショットガン、マグナム、マシンガン・・・・・どれもきれいなものでとても年代が入っているようには見えない。

 

「このほかにもあるのか?」

「ああ、ハンドガンからロケットランチャーまで一通り揃えてあるさ。それよりも一発撃つ約束だったね。そこにおいてあるものからひとつ選びな。」

 

フォルテにそう言われ、俺はもっとも反動が強いコルトパイソン357というものを選んだ。

 

「おいおい、あんたにはそれは無理だよ。」

「かまわらいさ。こう見えても腕には自信がある。」

 

そして、目の先にあるターゲットに向かい一発撃った。2発、3発と次々と撃った。命中はほぼ真ん中に当たっていた。

 

「これは驚いた・・・・・。あたしでもこれを慣らすのに一ヶ月はかかったのに。」

「結構振動は強いんだなこの銃は。さて、撃たせてもらったことだしそろそろ行くか・・・。ありがとう、フォルテさん。」

「では、次のところへ行きましょう。」

 

唖然と立っているフォルテを残し射撃場を後にした。

 

 

 

 

 

「最後になりましたが、クジラ・ルームを案内します。」

 

言われるままにヴァニラについて行きそのクジラ・ルームに行くこととなった。中に入ってみるとそこはまるでリゾード惑星に来ているようなそんな感じのところだ。

 

「・・・・・・。」

「どうしたんですか、アレックさん。」

「・・・・いや、少し驚いている。」

 

俺はあたりを見回したがあたりは一面海と砂浜・・・・・広いものだ。

 

「今からクロミエさんのところへ行きますがどうしますか。」

「そうだな、一緒に行くとしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

管理室

 

 

 

「こんにちは、アレックさん。ここで管理人をしているクロミエという者です。よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしく。クロミエ。」

「クロミエさん、動物たちをここに連れてきていただけませんか。」

「わかりました。ではちょっと待っていてください。」

 

動物までいるのか、ここには。

俺はこの艦のスケールに圧倒された。数分後、クロミエは数匹の宇宙ウサギを連れて戻ってきた。ヴァニラはそのうちに一匹を俺に渡してきた。

 

「アレックさん。抱いてあげてください。」

「俺が・・・・か。」

「はい。」

 

ヴァニラから手渡された宇宙ウサギはとてもかわいらしかった。俺は宇宙ウサギの頭をなでたり、語りかけたりもした。

 

「あ・・・・・。」

「どうしたんだ。」

「今のアレックさん・・・・笑っています。」

 

気づかなかった・・・・。いつの間にか俺は笑っていた。

 

(なぜだ・・・・・・?)

 

俺は昔のことを思い出していた。母といた楽しい日々・・・・そういえばあのときの笑っていた気がする。

 

「動物が・・・・とてもお好きなんですね。」

「・・・・・昔、犬を飼っていてな。俺にとって家族のような、そして唯一心を許せたものだった。」

「よかったです。アレックさんが笑っているのが見れて。」

「それは君のおかげだ。」

 

そう・・・・ヴァニラのおかげで笑うことができた。笑わなくなったのはあれからもう六年も前のことだな。

 

「君のおかげで少しずつだが昔の自分に戻っていくような気がする。だから、お礼を言わせてくれ。ありがとう、ヴァニラ。」

「いえ・・・・・私は・・・・。」

 

ヴァニラの顔は夕日に照らされていたせいか赤くなっている気がした。

 

「・・・・・そろそろ、行こうか。時間も遅くなってきたし。」

「はい・・・・・。クロミエさん、ありがとうございました。」

「いいえ、どういたしまして。また来てください。」

 

クジラ・ルームを出た後、その場で解散となった。ヴァニラのおかげで艦内のことがよくわかった。

 

「すこし・・・トレーニングルームでも行ってみるか。」

 

まだ、見ていないところだったのでとりあえずトレーニングルームに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレーニングルーム

 

「どう!?タクト!参った〜!?」

「ギ、ギブ!!た、助けてくれ!!」

 

入った途端にタクトの悲鳴が聞こえてきた。ランファがタクトにコブラツイストをかけていたところだ。タクトは何度も叫んだがランファは解く気はないらしい。

 

「・・・・・タクト。何やられているんだ。」

「ア、アレック。頼むから、助けてくれ!!」

「あら、アレックじゃないの。」

 

ランファも気づいたらしくいきなりタクトのコブラツイストを解いた。

 

「はぁ・・・。た、助かった・・・・。」

「全く、だらしないわね。こんなんでへばらないでよね。」

「で、なんでふたりなんだ?」

 

 

聞いてみたがタクトが言うにはいつもの見回りでここに来たらランファの練習相手にさせられてしまい、このような状況になったという話だ。

 

 

「ねぇ、アレック。あんたもやらない?私とスパーリング。」

「俺でよかったら、いいが。」

「よっしゃ〜!!じゃあ、これ付けてね。」

 

そういうとランファはタクトからグローブとヘッドギアを取り俺に渡した。俺はすぐにリングの上に上がった。

 

「じゃあ、はじめるわよ。」

「ひとつ質問だが、本気でやっていいか?」

「別にかまわないわよ。」

「それでは、試合開始!!」

 

いつの間にかタクトが審判をやっている。ランファから開放されてホッとしたのだろう。

 

「では・・・・行くぞ。」

 

俺は先手を打ち、一気にせめよりランファの腹に一発食らわせた。ランファはガードしたが遠くまで飛んだ。

 

「結構、やるわね。じゃあ、私も本気を出させてもらうわ!!」

 

ランファも俺と同じ手を使い、蹴りを何度も俺に浴びせてきた。しかし・・・

 

「これじゃ俺には当たらんぞ・・・・。」

「き〜!!なんであたらないのよ!!」

 

スパーリング(というよりも戦いに変わっていた)は30分も続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後・・・・・

「そこまで!!」

 

タクトの言葉と同時に俺たちは戦いをストップした。

 

「なかなかやるじゃない、アレック。」

「そういう君こそな」

 

俺のダメージは顔に一発、体に二発、そして足に四発だった。ランファのほうは体に六発、足に四発だ。

 

「しかし、あんたがあそこまで強いなんて思ってもいなかったわ。どこかで習ったの?」

「傭兵時代に総合格闘技を六年やっていた。それよりも、早く帰って休んだほうがいいんじゃないのか?」

「それなら心配いらないわ。治療班がいるから。」

「どこに・・・・?」

「気づいていないの?あんたの後ろを見ればすぐわかるわよ。」

 

言われるままに後ろを見てみたら、ヴァニラが心配そうにこちらを見ていた。

 

「ヴぁ、ヴァニラ!?いつからそこにいたんだ。」

「始まってからすぐに・・・・・。」

 

つまり、別れた後すぐに来たことになる。

 

「なんでも、アレックのことが気になってここに来たみたいだよ。」

 

タクトは最初からヴァニラが来たことを知っていたようだ。来ているならいるで教えてもいいじゃないか。

 

「さ、早く治療してもらいなさい。私は後でいいから。」

「わかった。」

 

そういうとランファはリングから降り代わりにヴァニラがリングに上がってきた。

 

「大丈夫ですか・・・・。アレックさん。」

「大丈夫だ、少し体が痛むがな。」

「待っていてください。ナノマシンで治療を・・・。」

 

ヴァニラの肩に乗っているナノマシンの集合体が光り、俺の体を包んだ。痛みはすぐになくなった。

 

「ありがとう、ヴァニラ。」

「・・・・・・・。」

「どうしたんだ、黙り込んじゃって。」

「・・・あんまり無理をなさらないでください。私・・・・困ります。」

 

ん?今、『困る』と言ったな・・・・。

見てみるとヴァニラの顔がすこし赤くなっていた。

 

「はは〜ん、なるほどね。」

 

一体、何がなるほどなんだ、それにタクトも顔を動かしながら納得している様子だ。お前も妙に納得するな。

 

「俺が終わったら、ランファを治療してやってくれ。」

「・・・はい。」

 

ヴァニラは立ち上がるとランファのところへ行った。治療が先に終わったのでタクトを残して俺は部屋に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

EDENに到着する間エルシオールにも慣れ、皆とも交流できるようになった。その間ヴァニラと共にいる時間が多くなった。いつしか俺はヴァニラに恋心を抱くようになっていた。(ヴァニラ本人どう思っているかわからないが。)本当はしてはいけないものなのに・・・・・・。

 

 

 

 

なぜなら・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜなら、俺は『この世界』の人間ではないのだから・・・・・・・・

 

 

                        

 

                                        

 

 

 

 

                                                 第四話「昔の自分へ」 終

                                                     第五話に続く・・・・・・。