エンジェル隊に配属となり、早三週間がすぎようとしていた。
その間エルシオールはクロノ・ドライブを繰り返しEDENに近づきつつあった。
第五話「EDEN到着」
「本艦はあと一時間で惑星ジュノーに到着します。繰り返します・・・・・」
現在時刻は標準時間で午前12時だ。俺はひとりで食堂において食事をしていた。交流に慣れてきたもののやはり女性を誘うというのは少し緊張する。そのため、こうして一人でいるわけだ。
「とうとう、もう少しでEDENか・・・・・。」
EDEN・・・・・六百年前に滅んだはずの幻の文明・・・・。長く『ヴァル・ファスク』に支配されていたが、タクトたちの活躍によってその平和を取り戻した。今は復興作業中で俺たちはその復興を手伝うのである。
「しかし・・・・・なんか実感がわかないな。」
俺は四ヶ月間ずっと『白き月』いたのでEDENに行くのはこれがはじめてだ。実際、滅びたと聞いていた惑星が実在するとは驚きものだな。
「はぁ・・・・・。」
俺は今日のメニューのカツカレーを食べた後ブリッチに行った。他にすることもなかったからだ。
ブリッチ
「どうも、失礼するよ。」
「あら、アレックじゃない。」
「アレックさん・・・・・。こんにちは。」
ブリッチに入るとヴァニラをはじめとして全員ブリッチに集まっていた。こうしてブリッチで集まっているのを見ると珍しい光景だな。
「アレック、どうしたんだい?」
「いや・・・・少しブリッチに行ってみようと・・・・。そういうミルフィーたちは何をしに?」
「私たちはジュノーが近いって聞いたから間近で見ようってことでブリッチに来たってわけです。」
(なるほど・・・・。)
そこには妙に納得する俺がいた。
「それにしても久しぶりね。」
「ルシャーティさんは・・・・お元気でしょうか。」
ヴァニラがそう言ったので俺は疑問に思った。知らない名前だったので聞いてみることにした。
「ルシャーティとは誰のことだ?」
「そっか・・・・アレックさんは知らなかったんですよね。EDENのライブラリの管理者で私たちのお友達なんですよ。」
ミルフィーがルシャーティに関して話しているとエルシオールはジュノーのスカイパレスに到着した。スカイパレスとは簡単にいうとエルシオールの中と少し似ているという。
「さて、みんな行こうか。」
「すまないが、俺はここで待機させてもらう。」
ブリッチを出ようとしていたタクトたちは一斉にこちらを向いた。一斉に見られると返って怖い・・・・。
「どうしてよ!?あんた、もしかしてサボるつもり!?」
「そういうことじゃない。俺はずっと『白き月』にいて三週間前に配属となったばかりだ。急な配属だったから軍のリストには俺の名は載っていないんだ。タクトに渡した命令書にもちゃんと書いてある。」
「え!?そんなこと書いてあったけ?」
どうやらタクトは命令書の内容を完全に目を通していなかったようだ。
タクト、ちゃんと見てくれ・・・・・・。
仕方がなく俺はタクトの部屋から命令書を見つけそれをタクトに見せた。
「あ・・・・本当だ。」
「・・・・だろ?」
「タクト・・・・あんた、ちゃんと見なさいよ。」
ランファにツッコミを言われ呆然とするタクトだった・・・・・。
みんなを送った後、俺は再びブリッチに戻った。送る際、ヴァニラが少し暗い表情をしていたのは気のせいだろうか。
ブリッチに戻ってみるとレスターは大きなため息をついていた。
「はぁ・・・・。」
「どうしたんだ、レスター。ため息ついて。」
「やっと頭痛の種たちがいなくなってほっとしているんだ。お前は大丈夫か?」
レスターが疲れた顔をしながら俺に聞いてきた。いったい何が頭痛の種なのだろうか?(大体予想はつくが・・・・)それよりも大丈夫ってどういうことだ?
「いや・・・・別に大丈夫だが、それがどうした。」
「お前の感染していないかと思って聞いてみただけだ。気にするな。」
「何にだ?」
「・・・・・タクト感染症候群だ。」
タクト感染症候群・・・・・・・
聞いたこともない病気だが、タクトが何かの病原菌でも持っているのだろうか。
「なんだ、それは。」
「もともとこのエルシオールは『白き月』を防衛のほか儀礼艦であることはいやでも知っているな。」
「知っている。」
「昔はそうでもなかったんだがここ最近になってみんなタクトに毒されてきてしまっている。どうにかして感染ルートを遮断しなければこっちの身が持たん。」
そういえば、ここの乗務員たちは何かと気がゆるんでいるような気がするが・・・・もしかしてあれが全部タクトの影響か?
「それだけじゃない、お前は知らんようだが今までタクトが溜め込んできた書類は全部俺がやっている。だが、奴はほとんどしていない。奴の仕事はエンジェル隊のテンションを高めることだから全てほっぱらかしているんだ。」
「それはまた難儀なことで・・・・・。」
レスターがため息をついていたのも納得が行く。だがこれから少しの間タクト達はこのエルシオールにいないのだから羽を休ませられるだろう。
「奴とは付き合いが長いのか?」
「ああ、学生時代からずっとだ。エオニアの反乱が起こる前、第二方面軍にいたがその時も一緒だった。まぁ腐れ縁という奴だ。」
「よく体が保つな・・・・・。」
「全くだ、自分でも驚いている。・・・ところでお前はどうするんだ?」
「そうだな」
別にやることもなかったので「特にない」と答えるとレスターは待っていたかのように俺に頼んできた。
「お前に頼みがある。少しだけでいいがタクトが溜めた書類の手伝ってくれないか?」
「別にかまわないが。」
「ならOKというわけだな。アルモ、ココ。なにかあったら俺に通信してくれ。」
「「わかりました!!」」
通信担当のアルモとレーダー担当のココが元気よく声を出した。俺とレスターはブリッチを出て副司令官室へと足を運んだ。
副司令官室
「ここがレスターの部屋か。」
「そうだ、滅多に使わないから必要最小限のものが置いてある。」
あたりを見回してみるとそこには机とシャワー室、そしてベッドと服用の棚が二つほどあるだけのなんだかさびしい部屋だ。
「さて、始めるがその肝心の書類はどこにあるんだ?」
「あそこに置いてある。」
レスターが指した先にはダンボールが山積みに置いてあった。
「あ、あれ全部タクトが溜めた書類か!?!?」
「そうだ、俺がやっていなかったらあの二倍の高さになっていただろう。」
「・・・・とにかくやるか。」
「そうだな。」
こうして、悪戦苦闘の時間が始まった。少しだけのつもりが3時間あまりも手伝わされた。
三時間後
「これで半分終わったな、レスター。」
「ああ、恩に着るぞ。アレック。」
「それでは俺はこれで失礼させてもらう。」
レスターを部屋に残し、俺は部屋から出たときには時刻は4時を回っていた。まさかここまで長くなるとは思ってもみなかった。さて・・・・次は何をするか・・・・。
「そういえば、今日はヴァニラがいないから俺が宇宙ウサギにエサをあげなくてはな。」
俺はその足で食堂まで行き食堂のおばちゃんから野菜の残りを分けてもらったあとクジラルームへと向かった。
クジラルーム
「クロミエ、こんにちは。」
「こんにちは、アレックさん。今日はどんな御用ですか?」
「実はヴァニラが復興作業に行っているから代わりに野菜の残りを食堂のおばちゃんからもらってきた。宇宙ウサギにあげたいのだがいいか?」
「ええ、もちろん。きっと喜びますよ。」
そういうとクロミエは飼育小屋から宇宙ウサギを2、3匹連れてきた。俺がエサをやるとその宇宙ウサギたちはおいしそうに食べていた。
「今日はヴァニラじゃなくてすまんな。」
俺が宇宙ウサギに話しかけているとクロミエが話しかけてきた。
「アレックさん、少しいいですか。」
「なんだ?」
「実は宇宙クジラがアレックさんにメッセージがあるようです。」
宇宙クジラはこの海に住んでいるクジラの名前だ。最初ヴァニラに案内されたときには知らなかったがよくここに来るので宇宙クジラのほうからあいさつをしてくれた。あのときはすごくびっくりしたものだ。
「メッセージ?」
「はい、実はヴァニラさんのことらしいです。『彼女の気持ちに答えられるのはお前だけだ。これを覚えておいてほしい。』だそうです。」
「・・・一応、心に留めておこう。・・・・エサのあげたことだし俺はこれで失礼する。」
「はい、では失礼します。アレックさん。」
俺は重い足どりでクジラルームを出た。自分の部屋に向かう途中に先ほどの宇宙クジラの言葉を思い出した。
(ヴァニラの気持ち・・・・・・か)
自室
部屋に戻ったあと、俺はある作業にとりかかった。その作業は各紋章機の詳細と現在の世界の状況を自分のコンピュータにうちこむというものだ。これが俺の本当の『目的』である。
『この世界の状況について・・・・この世界には滅んだはずのEDENが存在しており、いまだに復興作業中である。またトランスバール本星には第一、第二、第三方面軍が設置されているが、EDEN復興のため駐留している艦隊は少ないと見える。特に第三方面軍の戦力は、先の大戦での傷が癒えておらず占領するには時間がかからず。以上がこの世界の状況である。』
『紋章機について・・・・・紋章機は当然この世界にも存在し脅威である。特に一番機には注意が必要である。なぜなら『皇国の英雄』と称されているタクト・マイヤーズとパイロットであるミルフィーユ・桜葉は交際をしているため常にテンションが高いからだ。他の紋章機にも注意するべし。』
『この二つのことを報告させていただく。この世界は『我々のいる世界』よりも発展しているため支配することができれば、この銀河はあなたたちの物となりましょう。』
「・・・・・・・。」
出来具合はこんなものだろう。後は渡された通信機を使って送信するだけだ。コンピュータを渡された通信機につなげ送信しようとした。だが、なぜか送れない。
「時空転移発生装置のせいで故障したか・・・・このままでは奴らに疑われてしまう。だが『まだ』奴らに疑われるわけにはいかない。さて、どうするか。」
仕方がなく、データをディスクにコピーをし常に自分の懐に入れてコンピュータからデータを削除し終わったあと、タクトたちが帰ってくるまで休むことにした。
四時間後
「そろそろ帰ってくるころか。」
読み途中の小説をベッドに置き、格納庫へと向かった。着いてみるとちょうどタクトたちが帰ってきていた。
「はぁ〜もう最悪!ここまで長くなるなんて聞いてなかったわよ!?」
「仕方がありませんよ、ランファ先輩。なにせまだ人材不足なんですから。」
出迎え早々、ランファの大きな声が聞こえてくる。他のみんなは疲れていたせいか声を発していなかった。
「どうだったんだ、タクト。」
「どうもこうもないよ。あいさつに行ったら、議長閣下に『一ヶ月の復興支援、よろしくお願いします。』って言われて頭まで下げられちゃったから何も言わずOKしたんだ。おかげで一ヶ月復興支援に忙殺されそうだよ。」
「まぁ、その話は食堂に行ってから聞くよ。」
ひとまず、各自部屋にもどると身軽な服装をしてから食堂に集まった。
「はぁ〜お腹減った。」
「さて何にしようか、ミルフィー。」
「えーと、私は・・・・・・。」
タクトとミルフィーはもう違う世界に入ってしまっている。その間、二人以外はメニューを頼んで席を決めていた。
「今日はここにしませんか、フォルテさん。」
「ああ、そうだね。アレックも早く来なよ。」
いや、まだ俺はメニューが決まっていないと言うのに・・・・。相変わらず早いものだな、ランファもフォルテも。
ちなみにメニューのほうは今日の昼に食べたカツカレー定食、辛さたっぷりのマーボドーフ、コロッケ定食などがある。
「じゃあ、コロッケ定食をひとつお願いします。」
「・・・・同じものをお願いします・・・。」
「はいよ!コロッケ定食二つね。」
・・・・ん、二つ・・・・?
「なぜ、二つなんだ?」
「それは、私の分も入っているからです。」
振り向いてみるとヴァニラがぽつんっと立っていた。
「ヴァニラはまだ頼んでなかったのか?」
「はい・・・少し迷っていて。アレックさんが頼んでいたのでついでに同じものを頼みました。」
「そうか。」
「はい、コロッケ定食できたよ。」
話をしている間にコロッケ定食がふたつ来たので俺たちはランファ達がいる席に行った。行ってみるとなぜかランファ、ミント、フォルテ、ちとせが一直線に並んでいた。普通は交互に座るはずだが・・・・・。仕方がないので俺はミントの前に、ヴァニラはちとせの前に座った。
「ランファたちはどうだったんだ。今日の仕事は。」
「大変よ、大変。すぐ終わると思っていたらトラブルあり何がありで大忙しよ。」
たわいもない雑談が続くなか、タクトとミルフィーも中に加わってきた。突然ランファが話の話題を変えてきた。
「ところで、ヴァニラ。なんで今日は元気がなかったのよ?」
「あ、それは私も思いました。」
「案外・・・・・アレックが原因だったりしたりしてね。」
何・・・・?
なぜ、俺が関係しているんだ。そういえば、見送る際ヴァニラの様子が変だったのは気のせいではなかったのか・・・?
「・・・それは・・・・違います。」
「それにしてはアレックの前では元気そうにしているじゃない?」
「・・・・・・・。」
なんだか気まずい雰囲気になってきたな。どう反応したらいいかわからない。
「ヴァニラ、気にすることはない。」
「・・・・・・・。」
俺がそう言ったがヴァニラは少し顔を赤くしながらうつむいていた。
「・・・・・さぁ、さぁみんな食べ終わったんだし、これで解散にしようか。」
「あからさまに話をそらさないでよ。」
「じゃあ、聞くがヴァニラが答えるまでここでずっと待つというのか?」
「・・・・・・・・。」
俺の言ったことに効果があったのかみんな黙って立ち上がり食器を片付け自分の部屋に戻っていった。
「アレックさん・・・・さっきはありがとうございます。」
「別に気にすることはない。しゃべれないことを無理に話すことはないだろう。恋話などは特にな。今日は疲れているからゆっくり休んだほうがいい。」
「はい・・・・・。では失礼します。」
そういうとヴァニラは微笑みながら、自分の部屋に戻った。俺も自分の部屋に戻りベッドに飛び込んだ。レスターの手伝いがよほど効いているらしい。
(俺から想うのはいい・・・・自分からあきらめることができるからな。しかし、ヴァニラが好意を持っていた場合どうすればいいんだ?)
そんなことを考えながら、俺は眠りにつくのだった。
第五話「EDEN到着」終
第六話に続く・・・・・。