時が経つというのは早い・・・・・・。
EDENの復興作業は順調に進み、一ヶ月が経とうとしていた。その間俺は艦内を見ていたり紋章機の調整、時には誰かについて行き作業を手伝ったりもした。
本音を言うとあまりにも暇な時間であった。
第六話「舞踏会」
現在、俺たちはブリッチに集まっている。タクトから話があるというものなのだが何か問題でも起きたのだろうか。
「みんな、一ヶ月の復興支援お疲れ様。次の俺たちの仕事はガイエン星系の捜索だ。」
「ちょっと待ってよ!それじゃあ私たちは休ませてくれないの!?」
そのランファの意見には俺も同情した。
俺はこの一ヶ月ほとんど暇だったがみんなからしてみれば重労働のようなものだ。
「落ち着いてくれよ、ランファ。まだ話していないことがあるんだ。」
「何よ。」
「実は今回飛躍的に復興作業が進んだからそれを記念して明後日、舞踏会が開かれることになっている。」
「「「「「「「ぶ、舞踏会!?」」」」」」」
さらに話を進めていくとエンジェル隊(俺を除いて)にはEDENの人たちからドレスが送られるそうだ。他に何か買う場合の出費は自腹らしいが・・・・・。
「・・・・・・。」
「アレックさん、どうしましたか・・・?」
ヴァニラが話しかけてくるまで俺はボーっとしていた。実は舞踏会にことについて考えていた。
「いや・・・・なんでもない。」
「そうですか。」
「俺からの話はこれぐらいだな。あと、舞踏会の後ルフト将軍が俺たちに二日の休暇をくれた。俺たちのことを考えてくれたんだろうな。」
つまり、四日間休暇がもらえるということになる。話が終わると各自解散となり俺は自分の部屋へと戻った。
自室
「困ったぞ・・・・・。」
困ったというのは舞踏会に着ていく服装のことだ。不幸なことに軍から支給された軍服と昔自分で買った日常用の服しか持っていない。買えばいいと言うがそんな大金は俺のポケットには入っていない。
「タクトに相談してみるか・・・・・。」
司令官室
「つまり、舞踏会の着ていく服装がないから軍服でいいかってことか?」
「そうだ。」
俺が質問するとタクトは困った表情をしていた。まさか舞踏会があるとは思ってもいなかったからな。
「俺も出席するけどこのままでいいことになっている。司令官だしこの軍服も特別だし。だけど、君が着ている軍服は一般のものを改良しただけだから、やっぱり何か変わりになるようなものを買わないといけないな。」
「そこで頼みがある。」
「なんだい、改まって。」
俺はタクトに手を合わせ頭も下げながら頼んだ。
「俺の服の出費を出してくれないか!頼む!!」
「・・・・いいよ。」
「・・・・へ?」
「いいよ、出してあげるよ。軍からの出費は難しいからお金は俺に回してくれ。」
・・・・・・。
断れられると思いきやなんとも早い答えに俺は唖然とした。
「ありがとう、タクト。」
「別にいいさ。あと、舞踏会は明日の夜だから早く買いに行ったほうがいいぞ。」
「ああ、そうさせてもらう。では失礼する。」
「じゃあな、気をつけろよ。」
俺は司令官室を出て自室に戻って支度をしてからスカイパレスにある商店街へと足を運んだ。タクトには本当に感謝している。
「にぎやかなところだな・・・・。」
俺は商店街のド真ん中にいる。しかし人が多くいて落ち着きながら見る暇もない。
2件ぐらいまわったがいいものがなく服探しは難航していた。
「何か食べてそれからまた探すか・・・・・。」
そう思い一旦、服探しをやめて近くにあるファーストフード店に入ることにした。
これの選択が後に後悔することを俺は知りもしなかった。
ファーストフード店 店内
「さて・・・・・これからどうするか。」
俺はハンバーガー二つとポテトフライと飲み物を交互に食べ、そして飲みながら考えていた。服屋を探したいのだがなんせ地図もないのでどこになにがあるのかわからない。
「しかし・・・・・・なんて平和なんだろうな・・・。」
俺はふと思った。
『俺がいた世界』では考えなれないくらい『この世界』は平和だ。もし、俺がいた世界に今いたとすればこんなに平和な時間はすごせなかっただろう。
「今は考えても仕方がない・・・・か。通信機が壊れている限り行動ができないからな。」
そんなこと考えていると外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『ね〜、みんなあそこのフード店に行かない!?』
『ミルフィー、もう少しマシなところにしない?』
『あら、私はミルフィーさんに賛成ですわ。ファーストフード店なんて久しぶりですから。』
『そうですね、あまりお金のかからないところとなると・・・・・。』
『私は・・・・みなさんにおまかせします。』
『じゃあ、あそこにしようか。』
「・・・・・・・・。」
まさか、こんなところでミルフィー達と会うハメになるとは・・・・。そもそも限られた場とはいえ会う確率はほとんどないはずだ。
「これもミルフィーの運のせいか。」
そう思っているとミルフィーたち店内に入ってきた。頼むからそのまま気づかないでくれと祈っていたがそれは無駄なことであった。
『あれ、もしかしてアレックじゃない?』
『あ、本当だ。アレックさ〜ん!』
ミルフィーは手を振りながらこっちに向かってくる。
手は振らないでくれ・・・・・恥ずかしい。
みんな各自頼んだものを持ちながらこちらに近づいてきた。恐れていたことが現実になってくる。それは・・・・
「アレックじゃない。こんなところで何してんのよ。」
「そういう君たちはここで何をしている。」
「私たちは舞踏会用のアクセサリーを買いにきたんです。」
なるほど・・・・舞踏会のための買出しか。EDENの人たちからドレスが送られるというのにその上まだ足りないというのか。
「アレックさんは・・・・何をしにきたのですか。」
「俺は舞踏会に来ていく服がなかったから調達しにきたところだ。2件ぐらい回ったがなかなかいいのが見つからないのでここで一休みしていたところだ。」
「じゃあ、私達と同じですね。」
その不安とは・・・・・・・
「ではアレックさんも一緒に回りませんか?」
「いや別に俺は・・・・。」
「どうせ買い物はお互いしなきゃいけないことなんだからいいじゃない。一人で回っていてもつまらないでしょ?」
ここまで言われると言い返せなくなって仕方がなく俺はOKしてしまった。これが俺の不安に思っていたことだ。女性というものは時間をかけて物を探しそして買う・・・・俺にとって一番苦手なところだ。
食べ終わったところで俺達は店を出た。
悪夢の始まりである。
・
・
・
・
・
「これで大分集まったわね。」
「後はアレックの服を見つけるだけね。」
あれから約二時間・・・・・俺の服は後回しにされ先にアクセサリーを買うところまではよかった。
しかし・・・・・・・・
その買ったものを俺が全部持っているというのはおかしくないか?
「アレックさん・・・・・大丈夫ですか?」
ヴァニラが横から声をかけてきた。その顔は心配しているような顔つきだ。
「大丈夫だ、心配ない。」
「でも・・・・その荷物の重さでは動いているのもつらいはずです。」
「平気だ、俺の服さえ買えば終わりだから。」
「アレックの言うとおりよ。さぁ早くアレックの服を見つけないとね。」
容赦がないものだ・・・・・。
まぁいい。ヴァニラと一緒ならばそれでいいのだから。
「そういえば・・・・」
「どうしたのよ、ミルフィー。」
「確か、宇宙港の近くに服屋があったような・・・・・。」
そういえば近くにあったような気がする。一人で歩いていたとき近くまで行ったがあまりにも豪華すぎて入るのをやめたところだ。
だが、そのことはみんなに言わなかった。
「この際、仕方がありませんね。ミルフィー先輩の言うところまで行ってみましょう。」
「そうだな、もしダメだったらまた一人で探しにいくから。」
「決まりのようだね、それじゃあ行ってみようか。」
こうして、俺達は宇宙港の近くにあるとされる服屋に行くこととなった。ミルフィーが言ったとおりそこには服屋があった。
「なんかすごく高級そうなお店じゃない?」
「でも、ここしかないと思いますよ。」
「じゃあ、このお店にレッツゴー!!」
ミルフィー・・・・張り切らなくてもいいから・・・・。
店に入ると店の人らしき人がやってきて声をかけてきた。
「いらっしゃいませ、どのような御用件でしょうか?」
「すみませんが、俺のサイズに合うような服はないでしょうか?」
「では、こちらでピックアップしますのでこちらに来てください。」
俺は店員と一緒に試着室に行くことになったので時間がかかると思いみんなに先に帰るようにいった。
「こちらの服はいかがですか?」
「うーん、もう少しハデなのはありませんか。」
店員は他の服を探しはじめる。結構服選びとは大変なものだ。
服選びから一時間が経ち、そろそろ10着目に突入しようとしていた。
「では、これはどうでしょうか。目立たないようで目立つような服です。これでしたら普段着としても着られますよ。」
これはなかなかよかった。全身の服の色とマントの色が黒で統一されており、模様が金で装飾されている。しかし、問題は金額だ。自分がいいと思った服でも大金であれば諦めなくてはならない。
「では、これに決めました。金額はいくらですか?」
「はい、十万ギャラとなります。」
「じゅ、十万ギャラ!?」
俺は聞いた金額に驚いた。これだけ豪華な店だから軽く四十、五十万ギャラは行くと思ったのだが・・・・・。
「あ、あの本当ですか・・・?」
「はい、本当です。今日で最後のセールですのでお客様も運がよかったですね。」
「セール・・・ですか。わかりました、ではこちらのほうに金額請求をしてもらえませんか?」
「わかりました、では明日の昼までにはそちらにお送りいたしますので。」
やっと服が選び終わり試着室から出た。まったくここまで時間がかかるとは思ってもいなかった。
「ふぅ・・・終わったか。後は帰るだけだな。」
「お疲れ様です・・・・アレックさん。」
ん・・?
後ろから声がしてきた。見てみるとそこにはちとせとヴァニラの姿があった。
「ヴァニラ・・・・もしかしてずっとここにいたのか。」
「はい・・・。アレックさん一人では心配だったので。」
「そうか、ありがとう。ちとせはどうしてここ?」
「私はヴァニラ先輩がここで待つといったので私もここに残っていました。」
別に待つ必要はないというのに・・・・。ちなみに俺が持っていたみんなの荷物は各自で持って帰ったという。
「もう・・・終わったのですか。」
「ああ、服のほうは明日の昼に届く予定だ。」
「そうですか。では帰りましょうか。」
俺達三人は服屋を出てそのまま宇宙港へと向かった。帰路の途中俺はヴァニラとちとせの手に何も持っていないことに気づいた。
「そういえば、ふたりとも何か買わなかったのか?」
「いえ・・・私はみなさんの付き添いで・・・・。」
「私も買おうとしたのですが先輩方が高級なところばかり入るので何も買えませんでした。」
「それだったらまた商店街に戻ろうか?」
「いえ、お気づかなく。」
「そうか・・・・。」
宇宙港に着き、エルシオールへと戻ったあと俺達はその場で別れた。後は舞踏会の日までゆっくりと休むか・・・・。
舞踏会当日
「そろそろ時間か・・・・・。」
手袋よし、革靴よし。
俺は今日届いた服を舞踏会が始まる直前で着て会場に向かった。会場は以前『ヴァル・ファスク』からEDENを開放した際行われた場所だ。(これは行く前に聞いた話だが。)
会場に着くと皇国の軍人のみならずEDENの人たちも参加していた。
それもかなりの数だ。
「それでは今回の復興を記念して乾杯!!」
『乾杯!!!!』
着いた早々乾杯とは・・・・少し来るのが遅かったかな。
「お、アレックじゃないか。」
タクトが横から声をかけてきた。タクトの服装はいつもどおりの司令官の服装だった。
「お前が昨日頼んだ服はそれか?」
「ああ。昨日が最後のセールだったらしいからこれにしたんだが・・・・どうだ。」
「なかなかいいな。それが十万ギャラとは思えないぐらいだ。」
「俺もこの服の値段を聞いたときには驚いたさ。」
たわいのない雑談が続く・・・・。
すると、向こうのほうからミルフィーが走ってきた。
走るのはいいが転ぶなよ。
「タクトさん遅いですよ〜。せっかくの舞踏会なんですから踊りましょうよ〜。」
「悪い、悪いつい長くアレックと話してしまっていてね。じゃあ、アレックまた後で。」
「ああ、またな。」
タクトはミルフィーに手を引っ張られ奥のほうへと行ってしまった。たびたび思うがあの二人は見ていてなんか和む気がする。
タクトとの会話が終わったあとバーラウンジがあったので行くことにした。
「お飲み物は何にしますか?」
「そうだな、赤ワインを・・・・アルコール少なめのやつを頼む。」
「かしこまりました。・・・・どうぞ。」
カウンターに座りワインが俺の目の前に運ばれてきた。
さっそく俺はワインを飲んだ。
「・・・なかなかいけるな。」
アルコール濃度も少なく俺でも飲める程度だ。
「ワインは少し早いんじゃないのかい。アレック。」
「フォルテか・・・。お前は踊らないのか?」
「ああ、ダンスっていうのはどうも苦手でね。こういう所にいたほうが落ち着くのさ。」
気がつくとフォルテは俺とは逆にアルコールの強いワインを飲んでいた。がぶがぶ飲んでいるが大丈夫なのであろうか?
「おいおい、そんなに飲んでいると倒れるぞ。」
「心配しなさんなって。これでもあたしは結構つよいほうなのさ。」
「そうか・・・・。小腹がすいてきたから俺はこれで失礼させてもらう。」
「そうかい、それじゃあね。」
余談だが次の日フォルテは二日酔いで寝込んでしまったという・・・・。
食べ物が並んでいるフロアに行き、食べているとちとせが声をかけてきた。
「アレックさん、こんばんは。」
「やあ、ちとせ。楽しんでいるか。」
「はい。でも、私はあまりダンスができないのでこうしていろいろなところを回っているんです。」
なるほど、今は食べ物めぐりというわけか・・・・。
あれから結構時間が経っているが・・・・・・・。
「ちとせが食べているのはケーキか。」
「はい。私、甘いものには目がなくて・・・・。もうこの辺でやめにしようと思うのですがどうしても次が食べたくなってしまうんですよ。」
「そうだな、ここのものはみんなうまいからな。ちとせの気持ちもわかる気がする。」
話していると新しい食べ物が運ばれてきた。よく見てみるとガトーショコラやチーズケーキなど甘いものばかりだ。
「私の好きなガトーショコラ!すみません、アレックさん失礼します!!」
ちとせは何度かお辞儀をしてあと運ばれたトレーに走っていった。
ここでも余談だが次の日ちとせは甘い物の食べ過ぎで腹を壊してしまったという・・・・。
腹の空腹を満たした俺は外の空気を吸いにテラスに出た。外からは宇宙港がありエルシオールも見えている。
「そういえば、舞踏会といっても結局全然踊らなかったな。」
思い返してみると、俺はいろいろなところでフォルテやタクトたちと会ったがそれだけで一度も踊っていなかった。
「・・・・・・・。」
「アレックさん・・・・どうしましたか?」
外を見ているとヴァニラが声をかけてきた。ヴァニラには悪かったが全然気配を感じなかった。
「ヴァニラか・・・。舞踏会は楽しんでいるか。」
「はい・・・・音楽が好きなので大体の時間そこにいました。」
そのような話をしているとラストダンスの曲が流れ始めてきた。ラストに相応しいとても緩やかなリズムだ。
「ヴァニラは踊りに行かないのか?」
「私はダンスができないのでここにいます。」
その言葉を聞いたときに俺は決めた。
俺はヴァニラのことが好きである・・・・しかし、それを言葉で言えない理由があった。だから、言葉ではなくダンスをすることによってそれ表現したかった。
「ヴァニラ・・・・よかったら俺と踊らないか?」
「え・・・・?」
「曲が終わるまででいい。少しだけ。」
「でも・・・・私は踊れません。」
「俺だって少ししか踊れないさ、だけど一緒に踊ってくれないか。」
「・・・・・・・。」
しばしの沈黙・・・・・・そして。
「・・・わかりました。私でよろしければ・・・・・でも、私でいいのですか?」
「君だからお願いしているんだ、それじゃあダメか?」
「いえ・・・・とても・・・・うれしいです。」
「そうか・・・・。じゃあ、曲が終わるまであと少ししかないから始めようか。」
「はい。」
俺はヴァニラの手を取り、左手を自分の左手と合わせ右手を持たせて俺たちは踊った。その時間は十分と短いものだったが俺はヴァニラとダンスができてうれしかった。
ダンスをしている途中ヴァニラの顔は微笑みながらすこしばかり顔が赤くなっていた。
第六話「舞踏会」終
第七話に続く・・・・・