『あちら側』の世界・・・・・
「ではカークス、お前の活躍に期待しているぞ。」
「・・・ご期待に添えるよう努力します。」
カークスは高価な椅子に座っている男に敬礼をするとその部屋から出て行った後、巨大艦から軌道ステーションに足を運んだ。
第九話「カークス」
軌道ステーション 通路
「・・・・・・。」
カークスは部屋から出たあと一人ステーションの格納庫へ向かった。
それはこのステーションに収納されている自分の機体を修理するためだ。しかし、アレックと戦ったはずなのにカークスの顔はアレックに対して憎しみを抱いているような顔ではなくむしろ会えてうれしいと思う気持ちと無茶をしないかという心配な気持ち両方が重なっている顔つきだ。
「約10年経つというのにあいつは変わってなかったな・・・・。」
そうつぶやいて通路を歩いていると向こう側から二人組みの男が歩いてくる。歳はカークスよりも歳上のようだ。
「やあ、君がカークスかい?」
青い髪の青年はカークスに声をかけてきた。
声の中には殺気も込められているように感じる。一応年上と見たカークスは敬礼をしたあと青年の質問に答えた。
「話は聞いたよ。なんでもアレックに通信機を渡すために向こうに転移したんだって?」
「はい。任務が成功し陛下のご命令でこのたびの作戦に参加することになりました。」
「お前のような下賤な者をなぜ陛下が一緒に連れていくことになったのか・・・・・まぁ僕には関係ないけど。」
青い髪の青年の横にいた薄紫髪の青年は皮肉のように言った。青髪の青年より少し背は低く服装から見るともと貴族のようだ。
「口の言い方には気をつけほうがいいぞ。これから向こう側の世界を共に侵略する仲間なんだから。」
「・・・・・・。」
「恐縮です。」
「ところで・・・・・どうして君は僕たちより遅く転移するんだ?」
青髪の青年はカークスに質問した。
転移が遅い・・・・・つまり合流する時間が遅いということになる。
「・・・・アレックによって破損し自分の機体を修理するためです。思ったより時間が掛かりそうなので・・・・。」
「それだけ君は苦戦した・・・・そう解釈していいのかな。」
「どういう意味ですか?」
「要は君が弱かったと言いたいのさ。」
まるで二人はカークスを汚しているように聞こえる。
二人にとってカークスは本当に一緒に連れていくべきなのか・・・・それを判断したかった。
「あのときのアレックはテンションが異常に高かった。さらに他の紋章機にまで干渉されては損傷が軽くではすみません。私の操縦技術に疑いを持つようでしたら模擬戦闘でもしましょうか?」
「・・・・いや、遠慮しておくよ。さすがに作戦前なんかに模擬戦闘やって負傷しても嫌だからね。それじゃあ僕たちはこれで失礼させてもらうよ。」
「はい、では失礼します。」
通り過ぎる二人の背中にカークスは敬礼をした。二人の姿が通路から消えてゆくとカークスはどっとため息をついた。
「まったく・・・・アレックもあんな奴らに囲まれてよく一年も耐えたものだな。」
カークスはアレックに同情していた。
それもそのはず・・・カークスの正体はただの傭兵ではなく実は反乱軍に情報提供しているレジスタンスのリーダーなのだから。
「機体の調整はどうだ?」
「結構損傷していますからね、大丈夫です。任せてください、カークス大佐。」
「ああ、任せるよ。」
格納庫に着くとカークスは気楽に作業員に話しかけている。この軍にはカークスを含めレジスタンスのメンバーが数十人潜入している。もちろんこの作業員も潜入しているうちの一人である。
「頼みがあるんだがいいか?」
「はい、なんでしょうか。」
「時空転移装置を二つ俺の機体に付けておいてくれないか?」
カークスの言葉に作業員は首をかしげている。
なぜ二つ必要なのだろうかという顔つきだ。
「一応・・・・取り付けておきますが、いったい何のために?」
「あの転移装置は調整が済んだとはいえまだ完全な保障はないんだ。」
「わかりました。では取り付けておきますね。」
作業員はニッコリしながら答えた。
カークスが転移装置を二つ取り付ける理由は別にあった。
転移に失敗した際二つ持っていけば確実に転移できるということとアレックを連れ戻すためのものだ。
「俺はこの機体のコクピットで寝ている。修理が完了したら知らせてくれ。」
「わかりました。」
そういうとカークスは紋章機モドキ(ダークエンジェル)のコクピットの椅子に座り一眠りしようとしていた。そのときカークスが身に付けているクロノ・クリスタルから声が聞こえてきた。
『カークス、聞こえているか?』
「はい、陛下。なんでしょうか?」
『アレックへお前から私の指令を送ってくれ。』
「わかりました。陛下の指令をそのままアレックに伝えればいいのですね。」
『そうだ、今からそちらに指令書を送る。頼んだぞ。』
カークスが『陛下』と呼んだ男は言い終わると同時に通信を切った。ここで疑問に思うのはなぜ自分から通信をしないかというところだ。
「・・・・命令は命令だ。さて・・・アレックに通信するか。」
自分が持っている通信機を使いアレックに連絡した。
ちなみに画面付きの高性能の通信機だ。
通信が繋がるとアレックの顔が画面に出てきた。
「アレック・・・・・聞こえるか?」
『カークスか・・・・・・お前が通信してくるということは奴らがこの世界に転移してくるわけだな。』
「そうだ、そこで奴からの指令書だ。」
『内容は?』
カークスはアレックに指令書に書かれていることをそのまま読んだ。
作戦内容は向こう側の世界に4時間後に転移、そしたら当然紋章機は出撃する。そのときにアレックの紋章機で六機の動きを奪う。
『了解した。』
「・・・・ジョセフ、もう一度聞かせてくれないか?」
ジョセフという名前がアレックの本当の名前だ。
「お前はいったい何をしようとしているんだ。それじゃあの時・・・・・10年前言ったことは嘘だったのか?」
『・・・・嘘ではない。これが俺のやり方だ。俺は自分の目的のためならなんでも利用するつもりだ。たとえそれが『仲間』であっても。』
これが本当にアレックなのか?
あんなに優しかった奴が10年でこんなに変わるものだろうか。
カークスは自分に質問したが答えは帰ってこない。
「嘘だな。」
『・・・・・・・。』
「お前はそんな奴ではない。それは俺が一番よく知っている。」
『・・・・人は時間が過ぎると変わるものだ。変わらない者などいない。』
「・・・・・そこまで言うのなら何もいわない。」
『ありがとう・・・・・切るぞ。』
画面からアレックの顔が消え、その場に重い空気が立ちこむ。カークスは考えたが考えても何も出てこないと思いそのまま眠ってしまった。
カークスは夢を見ていた。
幼い自分とジョセフ(アレック)が遊んでいる夢を・・・・・。
カークスとジョセフは同じ星で生まれそして育った。互いを知ったのはカークスが七歳、ジョセフ5歳のときだ。最初は仲が悪かったが共に時間を過ごしているうちに段々と仲良くなっていた。
あるときカークスとジョセフが遊びから帰る途中にジョセフが転んで足を怪我してしまった。2歳年上のカークスはどうしたらいいかわからず混乱してしまっていた。そこにジョセフの母親が来た。カークスはこの後も何回かこの母親に会っている。
「どうしたの?」
「ジョセフが怪我しちゃって・・・・。」
「そう・・・・待っててね。すぐに治してあげるから。」
そういうと母親はナノマシンを使ってジョセフの足の怪我を治してみせた。カークスにとってこのナノマシンでの治療は魔法のように見えた。
「すごい!!すぐに治った。どうして!?」
「ナノマシンっていう機械を使って治しているの。・・・・いつもジョセフと遊んでくれてありがとう。」
「はい!ジョセフ、また遊ぼうな!!」
「うん!!またね、カークス!!」
二人はまるで兄弟のように仲がよくなった。
この生活がいつまでも続く・・・・幼い二人は信じて疑わなかった。
しかし・・・・・
その生活は長くは続かなかった。
カークス10歳、ジョセフ8歳のとき・・・・・
『帝国軍が攻めてきたぞ!!』
『早くみんなを逃がすんだ!!』
『帝国軍め!!俺たちが何をしたと言うのだ!!』
カークスたちの住む星に『帝国軍』と名乗る艦隊が攻めてきた。カークスは自分たちの家族と一緒にシャトルに乗り込んでいた。しかし、ジョセフの姿がないのに気づきカークスはシャトルから降り宇宙港内を探してようやくジョセフを見つけた。
「ジョセフも早く来るんだ!!」
「いや、僕は母さんと一緒にいる。そして共に戦う。」
「お前がいても何も変わらない!!だから、一緒に行こう!!」
「わかっているさ、自分がいても何も変わらないくらい・・・・・。でも、それでも母さんと一緒にいたいんだ。」
カークスの説得をジョセフは拒否した。カークスの努力も空しくジョセフは母親と一緒に帝国軍と戦う艦隊に付いて行ってしまった。ここからジョセフの消息は不明となる・・・。
二年後・・・・・
カークスたちは惑星ヘルダートに移り住んでいた。
住んでいた星は帝国軍に占領されてしまった。
「ジョセフの奴・・・・あれからどうなったのだろうか?」
別れてたあの時から少しもカークスは忘れていなかった。あるとき歩道を歩いていると前から一人の子供が歩いてくる。カークスは目をこすってその姿を見た。
「お、お前ジョセフじゃないか!!」
「・・・カークス。」
カークスの返答に対してジョセフの声は死んでいるように聞こえた。歩道で話をしていると迷惑だったので公園で話をすることにした。
「まさか、ヘルダートに住んでいたとはな。あれからどうなっていたか心配だった。」
「・・・・・・・。」
「君の母さんは元気か?」
「・・・・・。」
カークスが質問してもジョセフは返答をしない。
まるで魂の抜け殻だ。
「どうしたんだ、ジョセフ?」
「・・・・母さんは・・・・・。」
次の瞬間カークスは自分の耳を疑った。
「・・・・母さんはあのときの戦いで・・・死んだ。」
「なん・・・・だって!?」
「負ける戦いだとわかっていた。だけど母さんは他の艦隊の人たちを逃がすために艦隊を率いて一人で戦った・・・・。」
ジョセフはおもむろに語っている。カークスはただ聞くことしかできなかった。
「俺と母さんが乗っていた艦が沈みそうになったとき母さんは俺に逃げろと言った。もちろん俺は反対した。しかし、母さんは強引に俺を機体に乗せて俺を逃がした。そのあとヘルダートに母さんの知人がいると聞いてそこに今は身を寄せている。」
「そうだったのか・・・・・すまない。」
カークスは後悔していた。
なぜ、ジョセフにこんなことを聞いてしまったのだろうと・・・・。
沈黙が続き、ジョセフはベンチから立った。
「俺はそろそろ帰る・・・・義母さんが心配してしまうからな。」
「・・・・ジョセフ、変なことを考えるなよ。せっかく母親に助けてもらったその命・・・・大事にしろよ。」
「・・・・・。」
ジョセフの背中を見つつカークスも自分の家へと帰っていった。その後もジョセフとの関係は続いたがあのときのような弾んだ会話はなかった。
一年が経ちカークスはジョセフの家に行ってみることにした。しかし、ジョセフはその家から消えていた。義母の話だと置手紙を置いて出て行ってしまったという。カークスはまだジョセフがこの星にいると信じていたるところを探した。ようやく見つけた場所が宇宙港だった。
「ジョセフ!!」
「カークスか・・・・・。」
「いったいどうしたんだ!?それにその姿はなんだ!」
ジョセフの姿は全身を黒い服装で身を包み背中にバックが背負われていた。
「見ればわかるだろ?俺はこれからこの星出て傭兵になる。そして・・・・仇を取る。」
「バカを言うんじゃない!!今の世界を見てみろ!今は帝国軍の世界だ!!お前一人が行動したって何も意味がない・・・・それじゃあ犬死にじゃないか!!」
「・・・・・・。」
「考え直せ、ジョセフ。きっとそのうちに帝国軍に反抗する勢力ができる、そのときに仇をとればいいじゃないか。」
カークスの言葉をジョセフは聞こうとしなかった。
そしてジョセフは機体に乗り込んだ。
「俺が・・・・・大人であれば母さんは死なずに済んだ・・・・俺のせいで。」
「それは違う!!あのときはどうにもならなかったはずだ!お前のせいじゃない!!」
「それでも俺の力が足りなかったのは事実だ。だから、傭兵となって力をつけて奴を倒す。」
自分を責めても何もならない。
だが、自分の力が足りないせいで母を死なせてしまったのは事実だ。
ジョセフの心はすでに憎悪に満ちていた。
「ジョセフ・・・・何があっても死ぬなよ。そして・・・ちゃんと連絡をよこせ。」
「ああ・・・・さようなら、カークス。」
ジョセフは宇宙へと旅立った。カークスはまたも親友を止めることはできなかった。
それから8年が過ぎ、カークスも傭兵となった。旅立ったあのときから連絡は来なかったので自分から傭兵となりジョセフの行方を追っていた。
カークスはレジスタンスを結成し、半年前に結成された反乱軍に情報提供をしていた。そのとき潜入していた一人から連絡があった。なんでも帝国軍はこの世界を支配したにもかかわらず別の世界にまで侵略しようというのだ。そして、一人の男が別の世界に転移したというのを聞いた。
「転移・・・・別の世界にいける装置か。それで・・・・派遣された男は誰だ?」
「はい。確かアレック・デメシスという男だそうです。」
どこかで聞いたことがある・・・・・
カークスはその『アレック』の名前には聞き覚えがあった。
それはまだジョセフがヘルダートにいたときのことだ。
「ジョセフ、いったい何をやっているんだ。」
「偽名さ・・・・大したことじゃない。」
カークスがジョセフのノートを見てみるとそこには偽名がびっしり書かれていた。
その数は100を超えていた。
「これ・・・・全部自分で考えたのか?」
「ああ、それで特に気に入ったのはこの名前だ。」
ジョセフがノートに指を指すとそこには『アレック』の字が書かれていた。
「偽名なんて必要ないだろ?」
「そうだな・・・・・。」
そのときの出来事をカークスは思い出した。
「そのアレックという男・・・・・そいつのことで何かあったらすぐに俺に知らせろ。」
「はい、わかりました。」
こんな経緯で今の状況にいたるのである。
「・・・・・。」
カークスは目を覚ました。
「・・・・懐かしかったな。」
さきほどの夢を思い出していた。
幼い自分から現在の自分に至るまでの出来事を・・・・。
周りを見てみるとやけに人が少なく感じる・・・・・。いったいどうしたのだろうか?気になっていたカークスは先ほどの作業員に声をかけた。
「・・・修理のほうはどうなっている。それにこの静けさはなんだ?」
「修理はもうすぐできますよ。そして、帝国軍は転移しました。今から約10分ほど前です。」
「そうか・・・・すこし席をはずす。」
なぜかカークスは機体から降り、とある部屋にむかった。
その部屋に入るとそこはコンピュータ室のようだ。
「さて・・・・引き出せる情報を入手しておくか。」
カークスはコンピュータを起動させ帝国軍の情報を見た。必要なものはそのまま反乱軍に転送する。
「・・・・ん、なんだこれは?」
カークスの目に止まったのは履歴を見ている途中にジョセフのデータを偶然見つけたのである。
「なぜ、奴らがアレックのデータを見る必要があるんだ?」
そこで思い出したのは先ほどの指令書を見たときのことだった。
なぜ外に出てから動きを奪うのであろうか?
考えられることは一つだけである。
「そうか!」
カークスは急いで格納庫に急いだ。
着くと同時に機体に乗り込む。
「どうしたんですか?」
「今からすぐに転移を開始する!!俺がいなくてもお前たちなら大丈夫だな!?」
突然の言葉に作業員は意味が解釈できなかった。
それでも『はい』と答えた。
作業員がその場から離れるとカークスの乗るダークエンジェルは転移を開始した。
「くそ、どうしてあの時気づかなかったんだ!!待っていろよ、ジョセフ!無事でいてくれ!!」
ダークエンジェルは飛び立った。
友を助けるために・・・・・・・・。
『ジョセフ・マクロード、 当時の反乱軍の将軍であった母を持つ。その母の死後、惑星ヘルダートに移り住むが8年前から消息不明。』
そこには当時のアレックの顔がはっきりと映し出されていた。
特徴的な『目』を持ちながら・・・・。
第九話「カークス」 終
第十話に続く・・・・・。
さてさて・・・・・
今回はカークスから見た会話です。
ここではアレック(ジョセフ)とカークスの幼い頃の記憶がメインでしたがどうだったでしょうか?
本当はこの回想話はなかったもので、急きょ考えついたものです。
次回はとうとう別の世界から来た『奴ら』が姿を見せます。
彼らの正体はいったい誰なのか・・・・・そしてアレックの正体は・・・・?
いろいろなことが明らかなる次回どうか楽しみしてください!!
じゃあここでカークスが乗るダークエンジェルのプロフィールを載せたいと思います。
ダークエンジェル・カスタム カークス専用機
武装 レーザーファランクス 三連装ミサイル バルカン砲
カークスが乗るダークエンジェル。この機体は最初からリミッターが解除されているので一機だけで十分性能を発揮できるようになっている。しかし、この機体の欠点はリミッターを解除していると非常にエネルギー消費が激しいので普段はリミッターを封印したままでいる。ちなみにこの機体には機械と同化するシステムは積んでいない。