作戦開始まであと四時間・・・・・。

 

まだ俺の通信機に連絡は来ていない・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      第十話「裏切りと目的」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――『カークスに会ったな・・・・・。』

 

「ああ、まさか会えるとは思ってもいなかった。約10年経つというのにあいつはほとんど変わってなかった。」

 

――――――『もらった通信機から連絡は来ていないのか?』

 

「まだ来ていない・・・・・。そろそろ来てもいいはずなんだが・・・・・。」

 

――――――『そうか・・・・・・。だがこれでお前の目的が達成されるのだから待つに越したことはない。』

 

「・・・・・・・・。」

 

――――――『どうした?』

 

「もう一度聞くことになるがお前はいったい誰だ?お前は俺だと言った、じゃあ俺はいったい誰だ?」

 

――――――『知りたいか?』

 

「教えてくれ。」

 

――――――『ならば教えてやる。俺はお前の憎しみから生まれた者・・・・・要は傭兵時代のお前さ。そしてお前はお前だ。』

 

「・・・・・・・。」

 

――――――『お前はヴァニラと出会って変わったものだ。で・・・・連絡が来たらどうするつもりだ?』

 

「ヴァニラのことか?」

 

――――――『当たり前だ。連絡が来たらいやでもヴァニラと別れなければならない。そのときになったらお前はどうするつもりだ?』

 

「・・・・・・・。」

 

――――――『だから恋愛感情など持たないほうがいいと言ったのだ。』

 

「じゃあ俺はどうしたらいい・・・・?」

 

――――――『簡単さ、傭兵時代のころのお前に戻ればいい・・・・。』

 

「・・・・・・。」

 

――――――『・・・・・そろそろ時間のようだ。失礼させてもらう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・・・」

 

目を覚ますととても気持ちが悪くなってくる。

またあの夢か・・・・・やたらと最近見るようになっているな。

それに声が段々とはっきり聞こえるようになってきている・・・・・。

 

傭兵時代の俺・・・・。

 

あんなに憎悪に囚われていたとは・・・・・。

だが・・・・考えてみると今の俺の姿のほうが偽りかもしれないな。

 

 

 

 

 

ここは銀河展望公園。

カークスが率いた艦隊と交戦してから10時間が過ぎようとしていた。俺はあの後自分の部屋に戻って寝ていたがどうも落ち着かないので公園に行き野原で寝ていた。

 

ん・・・・?何か俺の上に乗っている。

目をこすってよく見てみるとそれは毛布だった。

 

「これは・・・・毛布か。いったい誰が?」

「・・・それは私が持ってきました。」

 

横から声がするので顔を向けるとそこにはヴァニラが座っていた。

しかも、すぐ横にいたので俺は飛び上がるように起きた。

 

「ヴァ、ヴァニラ!!い、いつからそこにいたんだ!?」

「約・・・・一時間前ぐらいです。」

 

ヴァニラの周りには動物たちがいる。

おそらく散歩に来たのだろう。見ると宇宙ウサギが2、3匹俺の体にくっついて寝ている。

 

「起こすのは悪いと思って・・・それに風邪を引かないようにと毛布をかけておきました。」

「するとこれは君の毛布か?」

「はい。」

 

わざわざ持ってくることもないのに・・・・後で洗って返さなくては。

 

「アレックさんはなぜここで寝ていたのですか?」

「部屋に帰った後どうも落ち着かなくてな。リラックスできるここで休んでいたらそのまま寝てしまったらしい。」

「落ち着かない・・・・というのはやはり先ほどの無人艦隊ですか?」

 

鋭いものだ。

あの艦隊が来たということはヴァニラとの別れも近づきつつあるということだった。

 

「ああ。なぜ艦隊がこんな辺境になんてくるんだろうか?」

「それは私にもわかりません・・・・・。アレックさん、一つ聞いてもよろしいですか?」

「なんだ?」

「あの時の戦闘で誰かとお話していましたか?」

 

唐突にヴァニラは聞いてきた。まさか・・・・・聞かれていたのか?

 

「・・・・・なぜそう思うんだ?」

「いえ・・・ただあの時の戦闘でアレックさんの通信回線だけ繋がらなかったので・・・。」

 

『お前はときどきドジるからな・・・・・。』

あの時のカークスの言葉が頭の中によぎった。

 

「いや・・・・誰とも話してなどいない。多分、通信が一時的にマヒしていたのだろう。」

「そうですか・・・・。」

「さて・・・・そろそろ俺は部屋に戻るとするか。」

 

俺は立ち上がったがまだ体が疲れているのか足がフラフラして今にも倒れそうな勢いだ。そのときヴァニラは倒れそうな俺を支えてくれた。

 

「大丈夫ですか?」

「ああ・・・・。疲れていないと思っていたんだが・・・・体は正直だな。」

「もう少しここで休んでいったらどうですか?そうすればこの子たちも喜びます。」

 

そう言うので下を見てみると宇宙ウサギのほかにいろいろな動物たちが俺のほうを見ていた。俺はこの動物たちにとってヴァニラやクロミエの次に会う機会が多い。だから、懐(なつ)いてしまったのだろう。

 

「そうだな、もう少しここにいるか。」

「はい。」

 

俺はまたその場に座りこみヴァニラと雑談をした後部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻ってから10分、いや20分ぐらい経った後だろうか・・・・・カークスから渡された通信機が鳴り始めた。通信を聞かれるのはまずいので部屋のロックを厳重にしてから通信機を取り回線を開いた。

 

『アレック、聞こえるか。』

「ああ、聞こえている。お前からの通信が来るってことは奴らがこの世界に転移してくるんだな?」

『そうだ、それで奴らからお前へ指令を出した。』

「内容は?」

 

内容は極めて単純なものだ。

奴の第一波艦隊の迎撃に出た紋章機の動きを止める・・・・なんとも不思議な指令だ。

 

「了解した。」

『ジョセフ・・・・ひとつ聞かせてくれないか?』

「その名前はやめてくれ。もう昔に捨てた名前だ、今の名前はアレック・デメシスだ。」

『俺から見たらいつまで経ってもお前の名前はジョセフだ。母親から授かった名前なのだからもっと大切にしろ。』

「・・・・・・・。」

 

ジョセフ・・・・・か。

カークスからそう言われたのは実に8年ぶりだ。

 

『お前はいったい何が目的なんだ?10年前のあのときに『力をつけて奴を倒す』と言ったじゃないか。それがなんで奴の懐(ふところ)にいるんだ。あのとき言った言葉は嘘だったのか?』

「・・・・嘘じゃない、だがこれが俺のやり方だ。俺は目的のため・・・復讐のために利用できるものはなんでも利用するつもりだ。」

『それがこの世界での『仲間』であってもか?』

「・・・・・・そうだ。」

 

そう・・・・この方法で奴に『死』を与えてやる。

ミルフィーたちの力を利用してこそ俺の復讐は完成する。

そのためにはミルフィー達エンジェル隊のテンションを上げなければならなかった。

 

『嘘だな。』

「・・・・・・・。」

 

嘘・・・・?

カークスの言葉に俺は疑問を抱いた。

 

『お前はそんな奴じゃない。お前は純粋で優しい奴だ。それは・・・・・・親友である俺が一番よく知っている。』

「人は時が過ぎると変わる・・・・・変わらない奴などいない。」

『・・・・・そこまで言うのなら何も言わん。ただ・・・・無茶なことだけはするなよ。』

「ありがとう・・・・・切るぞ。」

 

通信機の電源を切り俺はベットの上に座り頭を下げていた。

そのときだった。部屋の中に俺以外に誰かがいる。下げていた頭を上げてみるとそこには俺がいた。

 

いや・・・・『傭兵時代』の俺が立っていた。もちろんこれは幻想かもしれない。しかし、俺からは現実に見える・・・・。

 

 

 

 

――――――『とうとう通信がかかってきたな。』

 

もう一人も俺は笑みを浮かべながら言葉を発した。

なぜ夢の中ではないのにこうもはっきりと見えるのだろうか?

 

――――――『なぜだ?・・・・そんな顔をしているな。』

 

「俺はまだ眠ってもいない。なのになぜお前が見えるんだ?」

 

――――――『それはお前が俺の存在を認識し始めたからだろう。』

 

「・・・・・・・。」

 

――――――『さて・・・・作戦は三時間後に発動か・・・。別れの言葉は決まったのか?』

 

「ああ・・・・。」

 

――――――『そうだ、それでいい。『俺たち』が守りたかった人はもう死んでいる。ヴァニラを重ねたところでその人の変わりなどにはならん。所詮は・・・・他人だ。』

 

「他人・・・・・。」

 

――――――『作戦開始まで三時間ある。それまでどうするつもりだ?』

 

「時間が来るまでゆっくりとしているさ。急いだって何も意味がない。」

 

――――――『お気楽な奴だ・・・・まぁいい。』

 

そう言うと立っていたもう一人の俺は姿を消した。

自分と話をするのはおかしな話だが・・・・・・・・。

 

「ヴァニラと別れるか・・・・。」

 

あのときは「決まっている」と言ったが正直まだなんと言っていいかわからかった。ヴァニラを悲しませないように言うともりだがそれを聞いたヴァニラはどんな風に俺を見るだろうか・・・・?他のみんなは・・・・・?そのことばかり考えてしまう。

 

『だから恋愛感情など不要だと言ったのだ。』

もう一人の俺が言った言葉が妙に俺の頭に響く・・・・。

 

「考えても仕方がないか・・・・・。」

 

考えないようにしていると突然ミルフィーとタクトのことを思い出した。あのケンカから大部経っているが仲直りできたのであろうか?

 

「行ってみるか。」

 

そう思うと自分の腕時計にタイマーをセットした後司令官室へと足を運んだ。作戦開始まであと三時間・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「タクトさん、それはこうするんです。」

「う〜ん、こう・・・・かな?」

「そうそう、その調子です!!」

 

ロックがかかっていなかったので司令官室に入ってみるとタクトとミルフィーが一緒に料理をしていた。机には皿・材料・その他いろいろ置いてあった。っていうかどっから道具一式を揃えたんだ?

 

「あ、アレックさん!」

「アレックじゃないか。どうしたんだ、急に。」

「いや・・・・近くを通ったから寄ったんだ。」

 

なぜ嘘をついたのか?

それは自分でもわからなかった。しかし、自然にそう言ってしまった。

 

「アレックさん、ちょっと。」

 

突然、ミルフィーが調理を中断して俺の腕を引き司令官室の隅まで連れて行くと小声でうれしそうに言った。

 

「アレックさん、アドバイスとても役に立ちました。」

「そうか、そう言ってもらえるとうれしいよ。」

 

ここでミルフィーに質問をした。

どうやって調理用具一式を集めたのか?

 

「あの調理用具はどこから持ってきたんだ?」

「あれですか?あれは自分の部屋から持ってきたんです。その他はタクトさんの部屋にあったものです。」

 

(なるほど。)

 

「それよりもタクトが首を長くして待っているから早く行ったほうがいい。」

「それもそうですね。」

 

話が終わるとミルフィーはタクトのところまで戻っていった。そしたら次はタクトが俺のほうへとやってきた。

 

「アレック、助かったよ。ミルフィーが出した案は君の提案かい?」

「違う。俺はお前たちが仲直りできるきっかけを作ったに過ぎない。だから礼などいい。」

 

そう、お礼などいいのだ。

俺にとってミルフィーとタクトの組み合わせがなくなってしまうと困るからそうしただけだ。

 

「アレックさん、よかったら一緒にしませんか?」

「いいのか?」

「ミルフィーが言っているんだから一緒にやろう。今回の件はお前のおかげだからな。」

「わかった・・・。」

 

料理などやったことがなかったが俺はここで料理の手伝いをした。

料理をしている最中にミルフィーが突然ヴァニラのことについて俺に言ってきた。

 

「そういえば、アレックさん。ヴァニラとはどうなんですか?」

「ああ、俺も気になってたんだ。で、どうなんだ?」

 

まったくなんてタイミングの悪さなんだ。

俺はこのときこの場に留まったことを少しばかり後悔していた。

 

「・・・特に変わったことはない。」

「アレックさん。ヴァニラは自分から言えないんですからアレックさんから言ったほうがいいじゃないですか。」

「せっかく相思相愛なんだから断る理由もないだろ。」

 

こう言われると決心が鈍ってしまう。

さて、どうやってこの状況を脱するか・・・・・・。

 

「この任務が終わったら言おうと思っている。」

「そうか、また増えるのか楽しみだな。」

 

勝手に認識するな。勝手に・・・・・。

特にやることはやったので俺は司令官室から出た。もともとこれはミルフィーとタクトが仲直りをする場であって俺がいるべきではないのだから。司令官室を出たあとこの艦内を散歩することにした。

 

 

 

 

 

 

作戦発動まであと一時間・・・・・・。

 

「少し休憩でもするか・・・・。」

 

タクトたちのところに一時間いたあと他の施設をぐるぐる回っていた。さすがに歩き続けて疲れたのでティーラウンジでお茶を飲むことにした。

 

 

 

 

 

 

「あと、一時間で奴らが転移してくるか・・・・・。」

 

注文した紅茶をすすりながら俺は作戦のことを考えていた。

なぜ、迎撃に出たあとに動きを封じるのだろうか?このままブリッチを占領したほうが効率がよいのだが・・・・・。

 

「あ、アレックさんだ。」

「へぇ、アレックがお茶しているなんて珍しいわね。」

「・・・・・・・・。」

 

後ろを振り向いてみるとそこにはミルフィーやランファそれに他のみんなまでいる。みんなでお茶をしにきたのだろうか?

 

「アレックもこっちに来なさいよ。一人じゃつまらないでしょ。」

「話し相手は多いほうがいいからね。」

「わかった・・・・同席させてもらう。」

 

一人でいたところをランファたちに言われて俺はみんなの席に同席することとなった。ヴァニラの隣が空いていたのでそこに座ることにした。雑談をする傍らなにやら小言でランファとヴァニラが話している。

 

 

 

 

 

そして・・・・・・・

 

 

 

 

 

ヴァニラが俺に話しかけてきた。

それはみんながしている雑談ではなかった・・・・・・。

 

「・・・・・アレックさん・・・。」

「・・・ん?」

「あの・・・・」

 

悪い予感がしてきた。

まさか、みんなの前で言おうとしているか?

小言でランファと話していたのはこのことだったのか・・・・。

 

「私・・・・アレックさんのこと・・・・」

 

『好き』です。

この言葉を聞きたくはなかった。

聞く前に俺は先に口を開いた。

 

 

 

 

 

「すまない・・・・・。」

「え・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

「君の気持ちに俺は答えることはできない。」

 

その場の空気が重くなった。

ヴァニラの目はとても見れるものではなかった。

 

「ちょ、ちょっとアレック。何・・・・・言ってるのよ。」

「すまない・・・・・。」

 

ランファは俺がヴァニラに好意を抱いていることは知っていた。だから今の俺の言葉に怒りを爆発させた。

 

「あんた、自分が言っていることわかってんの!?ヴァニラがかわいそうじゃない!!それにあんたもヴァニラのことが好きなんでしょ!!」

「こいつは穏やかじゃないね。アレック、誤るんなら今のうちだよ。」

 

言い返す言葉などなかった。

ランファとフォルテのきつい目線が俺を見ている。

 

「すまない・・・!!」

 

耐えれなくなった俺はその場から一気に格納庫まで走った。格納庫に着くとすぐに自分の紋章機に乗り心を落ち着かせようとした。

 

 

――――――『よくみんなの前で言えたな。』

 

突然、頭の中から声がしてきた。

 

「・・・これで・・・・俺は昔のころに戻っているのだろうか?」

 

――――――『さっきのがいい例だ。俺たちには何も必要ない。求めるものは奴の『死』だけだ。』

 

「・・・・・・。」

 

そのとき突然艦内に警報鳴り響いた。

自分の時計のタイマーを確認すると作戦まで5分だ。とうとう艦隊の第一波が来たということになる。

 

『全艦第一戦闘配備、エンジェル隊は至急紋章機に搭乗してください。』

 

アナウスが流れ機体の中から外を見るとミルフィーたちが紋章機に搭乗し始めている。全機搭乗確認が終わったあとタクトから通信が入ってきた。

 

『みんな聞いてくれ。現在エルシオールの後方に艦隊がドライブ・アウトしてきた。モニターで確認した結果エオニアが使っていた無人艦隊だ。』

『でも、なんで今になって活動してきたのか・・・・不思議ですわね。』

『とにかく倒せばいいんでしょ?』

 

みんなは気づいていない。

この艦隊はあくまで囮であって本隊はすぐに到着する。

エルシオールの前方に・・・・・・。

 

『そうだ、目標は艦隊の撃破だ。エンジェル隊出撃してくれ。』

『了解!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まったく、なんでこんなときに敵が出てくるのよ!?』

『それはあの艦隊を倒したら何かわかるんじゃないでしょうか?』

 

出撃したあとランファとちとせの会話が紋章機の中で行われていた。

動きを封じるなら今しかないか。

 

『よし、それじゃあエンジェル隊戦闘開始・・・・・。』

「動くな!!」

『え・・・?』

 

タクトが命令を出す直前俺を除くすべての紋章機の動きを封じることに成功した。その理由は俺の紋章機に搭載されている『フィールド・カラミティ』発射体制にしていたからだ。

 

『ちょ、ちょっとアレック!!なんのつもり!?』

「動くなと言っている。動けば全員ただでは済まされんぞ。」

 

みんなは今起こっていることがなんなのかまだ認識できていなかった。なぜ俺がこのような行動を取ったのか・・・・?それがみんなにとって俺に対する疑問のはずだ。

 

『アレック、これは一体・・・・・。』

「説明はなしだ。これも命令なのでね。俺の主のな・・・・。」

『アレックさん・・・・。何を言っているんですか?』

 

タイマーを確認すると本隊到着まであと5秒だ。

5・・・4・・・・3・・・2・・・1。

 

「ドライブ・アウトだ。」

 

秒読みが終わると同時にエルシオールの前方に艦隊が現れた。

その数30はくだらない。そして、俺の主からエルシオールと紋章機に向かって通信が入ってきた。

 

『諸君と言葉を交えるのは実に25年ぶりだ。自己紹介は必要かね?』

 

タクトたちは耳を疑った。その男はかつて一時は皇国を手にいれたもののタクトたちんの反抗によって死んだエオニア・トランスバールその人であった。

 

『馬鹿な!!エオニアはあのとき死んだはずだ!!』

『どうやらこの世界では私は死んでいることになっているらしいな。お前たちがそう言うのならこの者たちも生きているぞ。』

 

『おお、マイハニー!!いつ見ても君は美しいよ!!』

『うぉぉぉ!!燃えてきたぜぇぇぇ!!』

『この世界にはどうやら下賤な者たちしかいないようだ。』

『お前たちを再び地獄へと案内してやる・・・・・。』

『そうだぜ。もっともまだ生きているけどね。』

 

聞き覚えのある声が続々と聞こえる。

ヘル・ハウンズ隊も姿や形を変えずに堂々とおなじみに台詞を言った。

 

『一体どうなっているのよ!?頭が混乱してくるわ!!』

『でも、あれらはまさしく本人ですわね。』

 

混乱が続く中エオニアは俺の正体(表向き)を明かしながら全通信を使って話しかけてきた。

 

『ごくろうだったな、アレック。さすがは我が帝国軍の特務情報部隊長だけあるな。』

「ありがとうございます。エオニア陛下。」

『うそ・・・・アレック、あんたもしかして・・・・・。』

『気が付かなかったのかい?アレックは我ら帝国軍がこの世界に送ったスパイってわけさ。』

 

・・・・・。

好き放題言ってくれるものだ。

あとの処理はエンジェル隊に任せるか・・・。

 

『さて・・・・次のお前の任務だが・・・・・』

『なんでしょうか、エオニア陛下?』

『お前にはここでエルシオールと一緒に消えてもらう。』

 

エオニアの言葉に俺は疑問を抱いた。

なぜ俺まで一緒に消えてもらわなければならないのか?

 

『もうお芝居は終わりということだアレック・デメシス大尉。いや・・・・ジョセフ・マクロード・H(アッシュ)』

 

・・・・バレていたのか。

いつかは知れると思っていたが・・・・。

 

『Hって・・・・・・。』

『ヴァニラと・・・・同じ苗字・・・?』

 

H(アッシュ)と聞いて先に言葉を発したのはランファとちとせであった。

タクトたちも耳を疑ったに違いない。

 

『あのとき全員始末したはずがまさか生き残りがいたとは正直驚いた。紋章機のパイロットの血を引くものは死んでもらわなくてはならん。』

 

 

 

 

 

 

――――――『お前が考えた計画がすべて水の泡になったな。』

 

突然頭の中でもう一人の俺が話しかけてきた。

 

――――――『もう修正はできん。早くこの世界から逃げることだな。』

 

「・・・・・・。」

 

――――――『どうした?早く転移しろ。この世界にはもう用はないはずだ。』

 

「―――わる。」

 

――――――『何・・・?』

 

「断る。」

 

――――――『なぜだ?この世界にもうお前のいる場所などない。』

 

「俺はずっと復讐のために生きてきた。母さんの仇を討つためならエンジェル隊を利用することもためらわない・・・・。そう思っていた。」

 

――――――『馬鹿な・・・・復讐こそお前のすべてのはずだ!!』

 

「違う・・・・。いつしか俺は変わっていた。母の命を奪われ心を閉ざしていた俺を暖かく迎えいれてくれたみんなの存在が俺を変えた。それに・・・・・あの時交わした約束を破ることになると今気づいたんだ。」

 

――――――『ふざけたことを言うな!!俺たちが守りかったものはすでに死んでいる!』

 

「・・・・例え姿や形が違ってもやはり俺にはできない・・・・・・。また大切な人を守れないのはもうたくさんだ。もう・・・消えてくれ。ヴァニラと出会った時点でお前はもう消えていたのだから・・・・。」

 

――――――『くっそぉぉぉぉぉーーーーーー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

頭の中から奴の声はもう聞こえない。

俺はもう復讐のためだけには生きない。

 

「・・・そうか、俺も不穏分子と判断されたわけか・・・・。」

『悪く思うなよ。』

 

・・・・・・・・。

 

「エルシオールを裏切り、そしてお前たちからも裏切られた。これでまた俺は独りになった・・・・。俺が死んでも誰も悲しむ者などいない・・・・それならば・・・・今ここで本来の目的を果たさせてもらう!!」

 

『フィールド・カラミティ』の設定を「半径2キロ以内にいるすべての敵」にした。

 

『目的だと?』

「そうだ!!俺の目的は母の命を奪ったお前を倒すことだ!!」

『お前一人では無力に等しい。それがわからんようだな。』

「それはどうかな・・・・・・・」

 

エオニアは気づいていなかった。

帰るためにチャージしておいた時空転移発生装置がまだ俺の機体に装備されていることを・・・・。俺はその場から転移してエオニアの艦隊の中枢まで近づいた。

 

『な・・・・!?』

「遅い!!」

 

『フィールド・カラミティ』エネルギー全開で放出した。シールドのエネルギーもレーザーバルカンのエネルギーもすべてを『フィールド・カラミティ』にまわした。

 

『お、おのれ!!全艦、あの紋章機に集中砲火だ!!』

 

エオニアの命令で周りにいた艦隊の攻撃が容赦なく俺に降り注いできた。機体は中破し俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

だが・・・・・・後悔はしていない。

 

  

 

 

 

 

これで・・・・母との約束を守ることができたのだから・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                              第十話「裏切りと目的」 終

                                第十一話に続く・・・・・・。