第十一話「意識が戻らない間・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

『むうぅ!!我が艦隊の損耗率は!?』

『アレックの攻撃によって艦隊の40パーセントが沈黙した状態です!!』

 

アレックの捨て身の攻撃によってエオニア艦隊の本隊は大打撃を受けヘル・ハウンズ隊のダークエンジェルも少なからず損傷していた。それを見ていたタクトたちはすかさずエオニア艦隊に攻撃を開始した。

 

『ここは一旦引く必要があるな・・・・。シェリーあとは任せる、戦力をできるだけ削り戻ってこい。』

『は!!』

 

エオニアを含む数隻は戦線を離脱し、残ったシェリー艦隊とヘル・ハウンズ隊はエルシオールに攻撃を開始した。しかし思ったより損傷が激しくあえなく後退していきその場には無人艦隊の残骸と中破したアレックの紋章機だけが残った。

 

「敵艦隊、離脱していきます。」

「アレックの紋章機はどうなっている?」

「・・・沈黙したままです・・・。」

「よし、すぐに紋章機を回収・・・・」

 

タクトが言いかけた直後ココが驚きの声あげタクトに伝えた。

 

「マイヤーズ司令!!」

「どうした!?」

「エルシオールの前方に何かがドライブ・アウトしてきます!!」

 

大きなスクリーンでドライブ・アウトしてきた物体を確認した。

それはエオニアの艦隊に少し遅れて転移したカークスのダークエンジェルだった・・・・・。

 

「また出てくるの!?」

「いや待ってくれ。様子がおかしい・・・・何かを探しているのか・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ!!もう戦闘は終わっているのか!?アレック・・・どこだ!?」

 

カークスが目にしたのは無数に散らばる残骸の数だった。彼は必死でアレックの紋章機を機体に搭載されているレーダーを使って探し出した。カークスの機体はアレックの紋章機に密着する形になった。

 

「おい!!アレック、しっかりしろ!!」

 

カークスの呼びかけに対して反応はなかった。

ここで転移しようとカークスは考えたがアレックの機体に新たな転移装置をつけない限りそれを行動に移せない。

 

(どうする・・・?)

 

カークスは考えた。

どうすればいいのか・・・?傷ついている友を助ける方法はないのだろうか?

 

「仕方がない・・・・。エルシオール聞こえいるか!?」

『あ、ああ。君は一体誰なんだ?どうしてアレックを知っているんだ?』

「俺のことなどどうでもいい!!早くアレックを回収してくれ!!」

 

彼にとってタクトの質問などどうでもよかった。

彼の頭の中にはアレックを助けたい・・・・そのことだけだった。そのとき一機の紋章機が二人の前に近づいてきた。ヴァニラの乗るハーベスターだ。

 

「君・・・は?」

『回収します・・・・。一人では無理なので協力してください。』

「俺は君たちの敵かもしれんぞ?」

『関係ありません。私もあなたもアレックさんを助けたいと思うのは同じはずです・・・・。違いますか?』

 

ヴァニラは落ち着いた表情でカークスに言葉をかけた。表には出さなかったがヴァニラもカークスと同じでアレックのことが心配でならなかった。カークスはヴァニラと共にアレックの機体をエルシオールまで運び医務室まで同行した。

 

 

 

 

 

 

 

「ケーラ先生、アレックの容態は!?」

「身体機能に問題ないわ。だけど、意識がまだ戻っていないのよ。当分は様子を見なきゃわからないわね。」

 

ケーラの言ったことにヴァニラは少し焦りを感じていた。「意識が戻らない」という言葉がヴァニラにとって心配の種であった。

そしてタクトはその場にいるカークスの存在に気づいた。

 

「君は一体何者なんだ?」

「・・・・・・。」

「ちょっと、返事ぐらいしなさいよ!」

「疲れて・・・・いるんですか?」

 

その言葉にも一理はあった。

現にカークスの顔は疲労しきっていて疲れが表に出てきていた。説明していなかったが転移するにはそれなりに身体を慣らす必要がある。だがカークスの場合は身体が適応してなくしかも一日に二度も転移を行っているので身体が限界を超えていた。

 

「これでは話も聞けませんわね。」

「仕方がない。ゲストルームのロックを解除してこの人を休ませよう。話はそれからだ。」

「・・・・。」

 

カークスはゲストルームに入りそのままベッドで眠ってしまった。タクトが部屋から出るとドアの前にミルフィーたちが立っていた。

 

「タクト・・・・あんた正気?わけもわからない奴をここに置いておいて。」

「あの人はアレックのことを知っているようだからこの部屋で寝かせた・・・・・。妙な真似をしないように監視も付けておく。それに、アレックがあの状態だから事情が聞けないからあの人に聞いてみるよ。そしたらアレックの正体もわかるだろうしね。」

 

ランファはカークスをエルシオールに置くことに反対した。アレックがあのような行動を取ったのでもしかするとカークスも同じするのではないだろうかとランファは思っていた。今日のところはここで解散となり皆それぞれの部屋へと帰っていった。

 

「ヴァニラ・・・・・。」

「タクトさん・・・・・。」

 

タクトはヴァニラの声をかけた。

好きだったアレックがこのような状況となりヴァニラはひどく落ち込んでいた。

 

「なぜ・・・・アレックさんは私たちを裏切ろうとしたのでしょうか?」

「それは俺にもわからないさ。けど、きっと何か理由があるはずだ。そのことを明日あの人に聞いてみるからヴァニラはゆっくり休んだほうがいいよ。」

「はい・・・・。では失礼します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ルフト将軍に頼んでいた補給物資が到着したのでタクトは格納庫に行きリストにサインをした。そのとき補給艦の艦長がタクトに尋ねてきた。

 

「あの・・・・マイヤーズ司令。ここで戦闘でもあったのですか?」

「うん、昨日ね。昨日じゃなくてよかったよ。そしたら戦闘に巻き込まれて大変なことになっていたからね。」

「敵は・・・・・まだこの宙域に潜んでいるのですか?」

 

声が震えていた。

補給艦の艦長からしたら帰り道に襲われるのではないかと心配していた。

 

「わからない・・・・。だからなるべく早くここから離脱したほうがいい。」

「わかりました。マイヤーズ司令もお気をつけて。」

 

そういうと補給艦の艦長は少し早い足取りで自分の艦に戻り第三方面軍の方角へと戻っていった。みんなに話を聞いてもらうためティーラウンジに集まるように通信をした後、タクトはその足でカークスがいるゲストルームへ足を運んだ。

 

「やあ、調子はどうだい?」

「・・・・見ず知らずの人にも気軽に声をかけるのは実にあなたらしい。エルシオール司令官、タクト・マイヤーズ大佐。」

 

警戒しないのだろうか・・・・・?

普通の人間なら警戒するはずがなぜこの男はこんなにも冷静でいられるのだろうとカークスは思っている。しかしそれがタクトの性格なのである。

 

「話がしたいんだけど、一緒に来てくれないかな?もちろん、銃はここにおいてね。」

「俺と話しても何も得られないと思うが・・・?」

「まぁそれでもいいよ。とにかく得られる情報だけ聞くから。」

 

ベッドに座っていたカークスは腰のホルスターから銃を取り出しそれをベッドに置きタクトに連れられティーラウンジへと行くこととなった。ティーラウンジに着いたときカークスは少し驚いた様子だった。

 

「どうしたんだい、驚いた顔して?」

「・・・いや、司令官室にでも行って尋問するものかと・・・・・。」

「あいにく俺はそういうのは慣れていないんだ。だから気楽に話せるティーラウンジを選んだ。」

 

中に入るとヴァニラを除いて全員来ていた。

 

「やっとご到着かい。待っていたよ。」

「早く座ってよ。話してもらうことがたくさんあるんだから。」

「あれ、ヴァニラがいないようだけど・・・。」

「ヴァニラ先輩なら今アレックさんのそばにいます。あれからずっと・・・・。」

 

ヴァニラにも話を聞いてもらおうと思っていたが仕方がないとフォルテは言い、タクトが座りカークスはタクトたちと対面するような形で座った。

 

「さてと・・・・じゃあまず名前から教えてくれないか?」

「・・・・名前はカークスだ。カークス・レクスラーだ。」

 

こうして尋問が始まった。

次に質問をしたのはちとせだった。

 

「あなたとアレックさんはどのような関係なんですか?」

「俺とあいつはガキの頃からの親友だ。」

 

質問が続くなかランファとフォルテの表情は険しいままだった。

フォルテは右手が銃を離さずいつでも撃てるようにしていた。もしカークスが暴れたときの保険のようなものだ。一方のランファは拳を強く握り締めて怒りをあらわにしていた。

 

「君とアレックは何者なんだ・・・・・?エオニアが『こちらの世界』とか言っていたけど・・・。」

「・・・・・それは言うことはできない。」

「あんた、ふざけてるわけ!?」

 

ランファがカークスに掴みかかろうとしたがタクトがそれを制止した。怒る気持ちもわかる。いままでアレックと共にいて自分たちを窮地に陥れるような行動をしたのだから。

 

「じゃあ質問を変えるけど、あのエオニアは本物なのか?」

「・・・本物だ。」

「あ〜、もう!!頭が混乱してくるわ!!」

 

無理もない話だ。

カークスは簡単な質問には答えたがアレック自信のことになるとなぜか答えようとはしなかった。

 

「どうして、教えていただけませんの?」

「・・・・・全ての決定権はアレックにある。アレックから聞いたほうが早いだろうし信じられるだろ。こんな得体の知れない奴と話をするよりはな・・・。」

 

これが今の自分にできる唯一のことであった。

それが親友としての務めでありアレック自身の口から話さなければならないとカークスは思っているのである。

 

「それにしても・・・・・。」

「ん、どうしたんだい?ミルフィー。」

「どうしてアレックさんは私たちを裏切ろうとしたのでしょうか?それに何で動きを封じていたのに私たちを助けたのか・・・。」

 

これが彼らのとっての最大の疑問であった。

 

あの優しいアレックがなぜ?

いままでうまくやってきたはずなのにどうして裏切ったのか?

 

「さっぱり行動の経緯がわからないよ。だけどヴァニラの告白を断ったのはこれが理由あったらしいね。」

「だったら最初からヴァニラや私たちを利用していたってわけ!?」

「・・・・私はそうは思いませんわ。」

 

ランファとフォルテの言葉に対してミントは反論するような形を取った。その理由ミントはテレパシーが使ってアレックの心理表層を探っていたからだ(断った時と裏切った時に)

 

「どうしてそう思うのですか?ミント先輩。」

「確かに私たちを利用していた・・・・・これは否定しようがない事実ですわ。けれど、裏切ろうとしていたときのアレックさんの心を読んでみましたらそうも思えなくて。」

「・・・・?それはどういうことだいミント。」

「『俺は本当にこれでいいのか・・・?大切な者を捨ててまで復讐を遂げようとするのは俺にとって本当に良いことなのか・・?』かとアレックさんの心はそうおしゃっていました。」

 

全員の頭に『?』マークが浮かびあがる。

ではなぜこのような行動に及んだのであろうか?

 

「アレックも迷っていたのだろう・・・・。アレックはこの世界で自分の考えが正しいのかどうかわからなくなってきていた。それだけ君たちの存在がアレックにとって大きなものとなっていたのだろう。」

「・・・・結局アレックの話を聞かない限り行動ができないってことだな。」

 

全員が頭を抱えている中カークスが席を立った。

そしてタクトに頼むように言った。

 

「・・・・アレックの様子を見にいかせてくれないか?別に暴れようというわけじゃないから安心しろ。」

「わかった・・・・俺が医務室まで案内するよ。みんなはここで解散してくれ。」

 

一人ずつ席を立ち全員ティーラウンジから出るとカークスはタクトに連れられて医務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレックさん・・・・・。」

 

ここは医務室。

この部屋にはヴァニラだけしかいなく、ケーラは仕事が終わり自分の部屋へと戻っていた。意識が戻らない限り離れない・・・・ヴァニラはそう思っていた。

 

「なぜ・・・・あのようなことをしたのですか?」

「・・・・・。」

「あのとき・・・断ったのはこれが理由だったのですか?今まで私と一緒にいた時間は偽りだったのですか?」

 

眠り続けているアレックにヴァニラは語りかけていた。そのときタクトとカークスが医務室の中へと入ってきた。

 

「ヴァニラ、アレックの状態は?」

「まだ・・・・意識が戻っていません・・・・。」

「・・・・マイヤーズ司令、少しアレックと二人だけにしてくれないか?もちろん、ドアの向こうに監視役をつけてくれてもかまわない。」

 

カークスはタクトに頼んだ。

七年ぶりに会うのだから少し話させてくれと・・・・・。

あのときの戦いではモニターでしか見れなかったので真顔をこの目で見たかったのである。

 

「・・・・・わかった。ヴァニラ、外に出て待とう。そばにいたいのはわかるけどカークスにも事情があるみたいだし・・・・。」

「わかりました・・・・・。それでは終わったら呼んでください。」

「すまないな。」

 

タクトとヴァニラが医務室を出た後その場にはカークスとアレックだけが残った。沈黙が続くなかカークスはやっと口を開けた。

 

「・・・・お前はいつもそうだったな。無茶をするなって言うのに無茶をする・・・・どうしてこんな結果になったんだろうな?」

「・・・・・・。」

「お前を心配してくれる人がいる・・・・・。それはお前にとってもっとも大切な人の温もりと同じだろ。だから早く起きることだ。あまりヴァニラを・・・・――――を心配させないほうがいい・・・・・。」

 

カークスは無言のアレックに言った。

そして、アレックの左目の眼帯をはずしその目を撫でた。

 

「この目はお前にとって大切な物のひとつだ。だから見せなかったのだろ?これを見せたらみんな驚くからな。」

 

そう言うとカークスは再びアレックの左目に眼帯を付け医務室を出た。入れ替わりにヴァニラが入りまた看病を続けた。カークスはこの後タクトと船員に連れられゲストルームに帰っていった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

エオニア旗艦 ゼル艦内

(ここだけは会話のみになります。)

 

 

「エオニア様、ただいま帰還いたしました。」

「ごくろうだった。」

 

「それにしてもアレックが攻撃してくるなんて思いもよりませんでしたね。」

「うむ・・・・艦隊の集結率はどれくらいだ?」

「現在、アレックの攻撃で損傷した艦隊を合わせると150隻です。他の艦隊はおそらく転移に失敗したのでしょう。」

 

「・・・・ここは一回戻って体勢を立て直したほうがよいな。」

「それが・・・・不可能なのです。」

「何・・・?それはどういうことだ。」

「先ほどの攻撃で艦隊の大半に取り付けていた転移装置が破壊されています。」

「・・・・・・・・。」

 

 

「エ、エオニア様!!」

「ええい!エオニア様の御前であるぞ!」

「よい。何だ?」

 

「さきほど連絡がありまして本星が反乱軍に奪還されたとのことです!!」

「何だと・・・・!?では『黒き月』は!?」

「おそらく・・・・破壊されたものかと・・・・。」

 

「なんということだ・・・・・・。」

「エオニア様・・・・・。」

「これもアレックの策略のひとつだったとは・・・・・・。全艦に通達しろ。今から本隊はローム星系へ向かいトランスバール侵攻の足がかりとするとな。」

「それはなりません!!アレックの情報が確かだとは言えません。よくお考えください。」

 

「シェリー・・・・我々にはこれしか方法がないのだ。奴の情報は確かだと思うのだ。私に正体がバレないようにするにはより正確な情報を送る・・・・疑うことはあるまい。」

「・・・・・わかりました。あなたに従います。」

「すまない・・・・。ところでカークスは?」

 

「あれから連絡がありません。おそらく転移に失敗し・・・・・・。」

「そうか・・・・よし、修理が終了次第我々はローム星系に向かう!!」

 

 

 

                                                              

 

 

 

                             第十一話「意識が戻らない間・・・・。」終

                               第十二話に続く・・・・・。