「アレック、お前もがんばったな。」
「カークス・・・・。」
「だから少し休め。独房の中だが頭を冷やすにはちょうどいい。」
「・・・・。」
すれ違い様にカークスはアレックにそう言った。
アレックがブリッチを出たあとタクトたちそしてカークスだけがブリッチに残る形となり、その場には重い空気だけが残った・・・・。
第十三話「孤独からの開放」
「ねぇ・・・・タクト。あれで本当によかったの?」
「何がだい?」
「アレックが違う世界から来たこともヴァニラの子供だってこともわかったわ。形は違ったけどあいつも向こうのエオニアを倒すためにいままで努力してきた。けど、何で独房なんかに入れたの?」
先ほどまでのランファの態度が一変していた。
アレックの事情とこれまでの話を聞いていたら独房に入れるのは少し納得できなかったのである。
「結果的に俺たちは助かった。本来なら銃殺なのを取り消して一番軽くしたんだ。それはアレックが俺たちの大切な仲間だからだ。」
「それはわかっているけど・・・・。」
「犯した罪は罰しなければならない。それがどんな事情があっても・・・。」
タクトは平然と言ったがタクト自身も苦しかった。
自分とミルフィーがケンカしたときも仲介に入り仲直りするきっかけを作ってくれたのはアレックだった。
「それじゃ話は終わったから各自解散してくれ。」
「・・・・・。」
皆は無言のままブリッチを出ていった。
タクトは頭を抱えながら今後の方針を決めようとしていた。
「さてと・・・・・これからの方針だけどどうしようか。」
「エオニアを追撃する・・・・・と言っても居場所がわからないのではどうしようもないな。」
「一応ルフト将軍に連絡しておくか。信じてもらえるかな?」
「信じてもらえないかもしれんが連絡するに越したことはない。」
ため息をつきながらルフト将軍に通信することになった。通信が繋がりルフト将軍に一部始終を話した。
「うーむ・・・・・。なんだか信じられんことじゃな。」
「俺たちだって信じられませんよ。アレックが別の世界からやってきて本人がヴァニラの息子だったりエオニアがやってきたり頭が混乱していますよ。」
「それで我々の今後の方針を決定したいのですが。」
今からでも追撃したい・・・・・と言いたいがなんにせよどこに潜んでいるかわからないので方針が決まらないのが現状である。
「そうじゃ。お前たちには伝えてなかったから伝えるがローム星系に黒い艦隊が出現したのじゃ。」
「なんですって!それでどうなったんですか!?」
「それが不思議なことでの・・・・。」
ローム星系に出現したエオニアの艦隊は第三方面軍の警護艦隊に攻撃を仕掛けたがすぐに撤退したのである。
多分偵察が目的なのだろうか?
「うーん、よくわからないな。どうしてすぐに撤退したんでしょうね。」
「それはわからん。じゃがその違う世界・・・・から来たエオニアがローム星系の近くに潜んでいる可能性が高い。そこでエルシオールにはすぐにファーゴに帰還してほしい。」
「わかりました、では失礼します。何かあったらまた連絡します。」
通信が終わり一応方針が決まったのでエルシオールはローム星系に行きその宙域を警護・監視することになった。報告が終わりタクトはアレックの様子を見にブリッチを後にした。
独房・・・・・
「・・・・・。」
暗い何もない部屋に一人アレックがそこにいた。通路を通る人たちはアレックの容姿を見て大層驚いていた。真実を知っているのはタクトを含めエンジェル隊とブリッチにいた人たちしか知らない。
「アレック、起きているか?」
「・・・・タクトか、何の用だ?司令官が独房に来ると全体の士気に影響するぞ。」
「・・・・・・。」
こんな奴のところに来るんじゃない・・・・とアレックはそう思っていた。だがタクトはその場から立ち去らなかった。
「アレック、聞かせてくれないか。」
「・・・俺が知っていることはすべて話した。そのうえまだ話せというのか?」
「そうじゃない。ミルフィーとケンカしたとき君が仲裁に入って仲直りに尽力してくれた。あのときの行動は俺たちを利用するためだったのか?」
「・・・・・。」
ドアを壁越しにタクトはアレックに語りかけている。
ドアの向こうでどんな表情をしているのかわからないがタクトは腹を割って話をしているつもりだ。
「・・・・否定はしない。嘘に聞こえることかもしれないがお前たちが羨ましかったんだ。」
「羨ましい?」
アレックの言っている意味がタクトにはわからなかった。
「そうだ。お前たちのようにいつも一緒にいたり何かしたり・・・・・俺もヴァニラと少しだけしていたが本当の気持ちが言えなかった。実の母という壁があるかぎり言えなかったんだ。」
「・・・・・・。」
「ただ・・・・それだけのことなんだ・・・・。」
二人の間に沈黙が続いた。
自分がうまくいかない代わりにタクトとミルフィーにはずっと仲良くしてもらいたかった・・・・それがアレックの本心だった。
「そうか・・・・。聞けただけでもうれしかったよ。」
「タクト・・・・・。」
「俺は君を信じている。だから君がそこから出てきても俺たちは君を軽蔑したりは絶対しない。それだけは覚えていてくれ。」
そう言うとタクトはドアの前から立ち去った。真っ暗な部屋のなかでのその足音はとても響くように聞こえた。
「あ、タクトさん。」
「ミルフィー、どうしたんだ?こんなところで。」
司令官室に帰る途中でタクトはミルフィーユに会った。ミルフィーユの手にはお盆がありその上には料理に品が乗っていた。
「アレックさん、あれから何も食べていないようだから何か持っていこうかな・・・・って思って。」
「そうだったのか。」
「それじゃタクトさん、失礼します。」
「止める必要なんてないか・・・・。」
その足でミルフィーユは食事を持ってアレックが入っている独房にやってきた。足音がよく聞こえるのでアレックはすぐに目を覚ました。
「アレックさん・・・・起きてますか?」
「・・・ああ。」
「ここに食事を置いておくのでよかったら食べてください。そこの小さい扉のところから取れますから。」
ミルフィーユが指定したのはその部屋と廊下に繋がっている小さな扉だ。ドアは開けならないので食事などはそこから取ることができる。ミルフィーユはそう言うと自分の部屋へ戻っていた。
「そちらの本星奪還は完了したのですか?」
『ああ。ヴァル・ファスクが協力してくれたおかげで奪還は成功し、『白き月』の封印も解かれた。今後はヴァル・ファスクと共に銀河を平和にしていくつもりだ。』
ゲストルームでカークスは通信機を使って話をしていた。画面に映っている男は30代後半でヒゲが少しばかり生えている。
『それで・・・・・そちらの世界にエオニアが来ていると言う話は本当なのか?』
「はい。現在、私はエルシオールと共に行動しています。そこで将軍、お願いがあるのですがよろしいですか?」
『何だ?』
「今、真実を知っているのはエルシオールの人達だけです。この世界は平和すぎ情報伝達が遅すぎます。もしエオニアが皇国に攻めることがなれば混乱を招きます。だから、援軍をこちらに派遣していただけませんか。」
要するにエオニアが生きていることを人々が知れば必ず混乱が起こる。そこで行動しても遅すぎるのである。援軍を送ることによって混乱を最小限に抑えることができるのである。
『うむ・・わかった。シヴァ閣下に頼んでみる。閣下のことだから援軍を送ることに同意してくれるはずだ。だが、たいした数は遅れないかもしれん。』
「エルシオールだけよりはマシですよ。転移するポイントはTR783です。」
『了解した。できるだけ早くそちらに向かわせる。何かあれば連絡してくれ。』
通信が終わりカークスは次の行動にはいった。
エオニア軍に潜入しているスパイに連絡するためだ。
「そちらのほうはどうだ?」
『ええ、いち早く皇国軍が警備体制に入ったおかげであいつらあわてて逃げていきましたよ。』
「そうか、引き続きその場に残ってくれ。」
『了解です、大佐。』
早くも二日が過ぎようとしていた・・・・。
アレックはこの二日の間食事を取っていなかった。
その理由はわからない・・・・・。
だが、アレックの中には『罪』という意識があった。
「大尉・・・・・。お疲れ様でした。部屋に戻ってもいいですよ。」
「・・・・・。」
船員がドアのロックを解除しアレックを外に出した。
睡眠すらろくにとっていないし二日間なにも食べていないせいか身体はやせ顔色がとても悪かった。
アレックは自分の部屋へ戻りベットに座り込んだ。
「・・・・・・。」
何を考えたのかアレックはクローゼットの中から小さい箱を取り出し再びベッドに座ったあと箱を開けた。
そこにはレーザー銃が入っていた。
「母さん・・・・・俺はあと少しでみんなを裏切り幼い母さんを殺してしまうところだった・・・・。こんな俺が生きている意味なんて・・・ないよね。」
一人事のようにつぶやくとアレックは目を閉じ銃を手にしてその銃口を自分のこめかみに当てた。
そして引き金を引こうとしたときだった・・・・・
ガシュー・・・・・・。
突然ドアが開き、なにか大きな音を立てて落ちた後アレックが持っていた銃を誰かが取ろうとした。目を閉じていたアレックはとっさに目を開けた。
「やめてください・・・・!」
「は、離せ!!」
それはヴァニラだった。
アレックが独房から出ていたと聞き食事を持って部屋を訪ねたらアレックが銃をこめかみに当てているのに驚き急いで銃を取ろうとしたのである。
バシュ!
音を立てて銃は発射された。しかし、当たったのはアレックのこめかみでもヴァニラでもなく部屋の天井(てんじょう)だった。
「はぁ・・・・はぁ・・・。なぜ死なせてくれない!?」
「死ぬ理由が・・・どこにあると言うのですか?」
アレックは銃を床に落としその場に座りこみヴァニラも続いて床に座った。ヴァニラは優しくアレックに問いかけた。
「俺は・・・・俺は復讐のためにタクトたちを裏切ろうとし、みんなを・・・ヴァニラまで見殺しにしようとしたんだぞ!」
「ですが、アレックさんのおかげで私達は助かりました。」
「それは結論に過ぎない!こんな俺をみんなは許してくれた・・・・。だが自分が許せないんだ!!それに自分で立てた約束も自分自身で破った!!」
今度こそ母さんを死なせたりはしない・・・・・。
俺が必ず守る。
これがこの世界に来たとき立てた約束であり誓いでもあった。しかし、復讐に目がくらみその誓いを破ろうとした。アレックはそれが許せなかったのである。
「もう・・・・いいんです。」
「何?」
「アレックさんはもう十分に自分を痛め続けてきました。だから・・・もう力を抜いてください・・・。」
アレックはヴァニラの姿に母の影を見た。
その影は暗い表情ではなく明るく美しい表情だった。
「俺は・・・・生きてもいいのか?」
「はい・・・・。アレックさんの周りにはタクトさんや大勢の人がいます。一人ぼっちではありません。私がずっと傍にいます。」
「ヴァニラ・・・・・。」
ヴァニラのこの言葉は大きな励みとなったと同時に悲しくなっていた。
自分が情けなくなったのである。大勢の人々といながらそれに気付かなかった自分に・・・。
「ヴァニラ・・・・一つだけ頼みがある。」
「何ですか?」
「一度だけ・・・・・『母さん』と呼ばせてくれないか?」
「はい・・・・何度でも・・・。」
アレックの目から涙があふれヴァニラを強く抱きしめた。
アレックの目にはそこにいるのは幼いヴァニラではなく優しく美しかった母の姿だった。
「うっ・・・うっ・・・うわぁぁぁ!!」
「アレックさん・・・・・。」
「すまない・・・・・すまない!!母さん!俺は・・・・俺は!!」
「たくさん・・・・泣いてください。もう・・・我慢する必要はないです。」
アレックは何度もヴァニラのことを『母さん』と呼んだ。その声は廊下には聞こえずただただ部屋の中に響きわたるのだった。
そして・・・・その日、アレックは泣き止むことはなかった・・・・。
トランスバール暦437年 未来
本星の宮殿にて (ここは会話のみです。)
「ではそなたを司令官に任命しよう。見事、過去へと逃亡したエオニアと討ち果たすのだ。」
「はっ!!」
「準備はできている。さぁ行くがよい!!」
「はっ!では失礼します!」
コツコツ・・・・。
宮殿内に足音が響く。
「あの、将軍!!」
「何だ・・・・少佐か。どうしたんだ?」
「私も一緒に連れていってください!!」
「何だと!?」
「私も将軍と一緒にエオニアを倒しにいきます!!」
「馬鹿を言うな。君はこの国の英雄だ。それに復興作業まであるんだぞ。」
「わかっています。でも戦艦だけでは戦力が少なすぎます!!戦力は多いほうがいいです!!」
「・・・・・・・。」
「いいんじゃないの?どうせ止めても無駄だろうし・・・・。」
「・・・・・・。」
「お願いします!!」
「わかった・・・・・。止めても無駄なようだ。それに・・・・正直言うと君が来てくれるのならば俺はうれしい。」
「よかった。あの・・・もう一人行きたいと言う人もいるんですけれど・・・。」
「ん?」
「いいよ、出てきても。」
柱の影から顔がひょっこり出てきた。
「な・・・・!?君のか!」
「はい・・・・・。私もお供させてください。」
「・・・・わかった。」
「本当ですか!?」
「ああ。」
「よかったね。」
「はい!!」
「すぐにでも出立する。そうだな・・・あの船を使うことにするか。」
「気をつけて行ってきなさいよ。将軍やあんた達がいない間は私ががんばるから気にしなくていいわよ。」
「その『将軍』っていうのやめてくれないか?」
「あはは!冗談で言ってみただけよ。」
「やれやれ・・・・じゃあ二人とも行こうか!!」
第十三話「孤独からの開放」 終
第十四話に続く・・・・。