「なぁ・・・。」
「何よ、アレック。ヴァニラや私たちといるのが嫌なの?」
「いや、そういうことじゃない。何で・・・・俺たちはこんなことしているんだ?」
第十五話「未来艦隊の到着」
エルシオールはカークスに指定されたポイントに到着しようとしていた。なぜかタクトはエンジェル隊とカークスそしてアレックをブリッチに集めそこでのん気に紅茶を飲んでいる。しかも畳とちゃぶ台を用意して・・・・・。
「タクト、そろそろ俺も怒るぞ。」
「まぁレスターも一杯やらないか?落ち着くぞ。」
「落ち着けるか!!」
話の経緯はカークスが要請した艦隊が到着する時間までまだあったのでミルフィーユたちをここに集めて待っていたのだがなかなか現れない。待ちながら立っているのもつらいのでこうしてまったりしているのだ。
「なぁカークス、本当に来るのか。」
「ああ、そのはずなんだが・・・。それにこのポイントはエオニアには知られていないから安心して待つことができる。」
「しかし時間になっても現れないというのは気になりますね。何かあったのでしょうか?」
レスター以外は全員その場の空気に溶け込んでしまっている。レスターの拳は今にもタクトに降りかかりそうな勢いだ。そんなレスターには目もくれずタクトはミルフィーユと話をしている。
「ヴァニラ、タクトっていつもあんな感じなのか?」
「はい。それよりアレックさんのお茶が切れていますがおかわりしますか。」
「ああ。お願いするよ。」
アレックもヴァニラもお互いの気持ちを理解し今ではとても仲むつまじく話をしている。ランファたちもヴァニラの表情を見てそれを理解していた。するとミントたちがアレックをからかうように話しはじめた。
「あらあら、仲むつまじいことで・・・・羨ましい限りですわ。」
「か、からかわないでくれ。」
「あ〜あ、親子の愛を超えた愛・・・・素敵だわ〜。」
「・・・・・・。」
アレックは少し動揺していたがもっとも動揺していたのはヴァニラのほうであった。顔を真っ赤にし頭を下のほうへ向けていた。それにアレックの部屋で起きた出来事をミントはテレパシーで感じていた。口から言われようものなら黙ってはいられない。
「感じないしないでくれ、もう俺はヴァニラを母とは思っていない。一人の女性として好き・・・なんだ。」
「おぉ!はっきり言ったね。ヴァニラはどうなんだい?」
「私も・・・・同じです。」
「ごちそうさまですわ、お二人とも。」
笑い声が飛び交うなかとうとう我慢できなくなったレスターがテーブルに座り拳を大きく振りかがし大きな衝撃がちゃぶ台に起こった。コップは宙に浮きタクトたちもその衝撃で少しばかり体が浮いた。
「お前たち、いい加減にしろ!!こうしている間にもエオニアはローム星系に侵攻しているかもしれないんだぞ!!」
「そのことなら心配いらん。アレックの捨て身の攻撃が効いたのか連中は修理に時間がかかっている。それは俺の仲間からの情報だから信用できる。」
「そんな情報、あてにできるか!!」
「まぁまぁ副司令もそうカッカせずにお茶でもいかがですか。急いでも足元をすくわれるだけですわよ?」
レスターはもうこれ以上のことは言わず深くため息をつきミントから渡された音を立てながら紅茶を飲んだ。
「おいおい、レスター。紅茶の飲み方にも態度が出てるぞ。」
「悪かったな。俺はお前たちのような図太い神経の持ち主じゃないんだ。」
もはやエルシオールにはレスターようなものはおらず全員タクトの影響を受けてしまい何が起きようとも平然・・・・として臨機応変に対応できる。レスターにもわかることなのだがタクトの能天気さにはついていけなかった。
「はぁ・・・・いつまで待つんだろう?」
「さぁな、だがすぐ来るだろう・・・・・多分。」
「本当に来るのかしらね・・・・。」
一時間後
「マイヤーズ司令、エルシオールの前方にドライブ反応を確認しました。」
「お、やっと到着か。みんな、この『おくつろぎセット』をすばやく片付けようか。仮にも援軍だからシャキッとしないとね。」
タクトたちは畳を二つに折り(この畳は折りたたみ式)ちゃぶ台を解体しそれら入っていたと思われる箱に押し込みブリッチの端に置いた。今までのんびりとした雰囲気が一変し全員が大型モニターに注目する。
「ドライブ・アウトを確認。メインモニターに出します。」
その映像を見た瞬間に全員の顔が変わった。そこにはヴァル・ファスク艦隊が5、6隻そして皇国軍の戦艦8隻あまりが何かを取り巻くように出現した。
「何でヴァル・ファスクの艦隊が一緒なわけ!?」
「これは思わしくない状況ですわね。」
「くそ、言わんこっちゃない!!何が安心だ!」
「いや・・・・待ってくれ。アルモ、あの艦隊が囲んでいる艦の特定ができるか?」
「・・・やってみます。」
すると特定する前に艦隊の陣形が二つに割れ除々にその姿を表し始める。その艦は通常の艦とは一回り大きくやけに縦が長かった。この世にたった一つしかない艦・・・・それを見たタクトたちはすぐにその艦のことがわかった。
「あれってもしかして・・・・・エルシオール!?」
「馬鹿な!あれがエルシオールなわけあるか!」
「でも・・・姿や形は間違いありません!」
信じたくないと思いたいところだが事実エルシオールはそこにいた。カラーリングが少し違うがエルシオールに間違いなかった。それはエルシオールに乗っているタクトたちが一番よく知っている。
「マイヤーズ司令、あちら・・・・・側からのエルシオールから通信が入っています。」
「つなげてくれ。」
「了解。」
『やあエルシオールの諸君、初めまして・・・・でいいのかな。』
メインモニターには司令官らしき人物が映し出されていた。ヒゲを生やし威厳がありそうな人物だがなんとなくふんわりとした雰囲気を漂わせている・・・・・タクトたちはそう感じていた。
「ねぇ、あれってなんだかタクトに似てない?」
「まっさか。」
『カークス、頼んだとおりに援軍にやってきたぞ。』
ヒゲを生やした男がカークスにそう言うと突然カークスはその場に片膝をつけそのまま動かなくなってしまった。まるでその姿はどこかの王と謁見しているような素振りだ。
「ちょっと・・どうしたのよ、カークス!?」
「お、おい。カークス!」
「・・・・お久しぶりです、将軍。」
『そんなに硬くならなくていいよ。驚いた顔をしているけど?』
どうやらカークスと将軍と名乗る男は顔見知りのようだが明らかに主従関係の図だ。カークスは将軍の言うとおりに体を起こしお辞儀をして口を開いた。
「あなた様がまさかここに来るとは思ってもいなかったので動揺していまいました。本当に申し訳ありません。」
『俺だって始めは驚いたさ。閣下にこの艦隊の司令官に任命されたときは正直に耳を疑ってしまったよ。だが・・・これで君の恩返しができるとならば来ることに越したことはない。』
「とんでもありません。将軍のおかげで俺たちは命を救われました、恩返しなどと・・・。」
『だが、君たちレジスタンスの行動は俺たちとって貴重な物ばかりだった。君たちの情報がなければ俺たちは苦戦していただろう。』
「ありがとうございます。」
タクトたちはただカークスたちの会話を聞いているだけであった。だがタクトたちはこのカークスが話をしている男の正体を知ることとなる。カークスの一言によって・・・・。
『ああ、それと将軍って呼ぶのはやめてくれないか?あんまり階級で言われるとみんな固くなってしまうからな。』
「わかりました。トランスバール・『ヴァル・ファスク』連合軍総司令官タクト・マイヤーズ将軍。」
『だからそんなにおおげさに言うなよ。』
「「「「「「「「「へ・・・・・?」」」」」」」」」
その言葉を聞き全員が固まってしまった。そう、あちら側のエルシオールに乗っているのはここにいるタクトの15年後の姿である。階級は将軍で今ではトランスバール共和国女王シヴァ・トランスバール閣下の宰相に就任している偉大な人物だ。
「あ、あのカークス。あんた・・・今なんて言った?」
「タクト・マイヤーズ将軍と言ったんだ。」
「じゃあ、あそこにいるのって・・・・・タクトなの!?」
『カークスは嘘を言ってないよ。』
「「「「「「「「「えぇぇーーーーーー!!!!」」」」」」」」」
アレックの部屋で起きた出来事に続いてまたもミルフィーユたちは驚きの声をあげた。(今度はタクトとレスターを入れて)まさか未来の自分の姿を見ることになるとはタクト自身思いもよらなかっただろう。そんなことは気にせず『マイヤーズ将軍』は段々と話始める。
「あれが・・・・・未来の俺の姿なのか?」
「タクトさん、なんだかカッコイイ。」
『え〜と驚いているところ悪いんだけど、そちらに言って話がしたい。『連れ』の紹介もしたいし。目的地はローム星系だろ?移動しながら艦を並べて話をしようじゃないか。ははは。』
一方的に通信が切られタクトたちは唖然としてしまった。威厳の下に隠れた能天気さと笑顔を絶やさない表情はまさしくタクトそのままだった。
「何かタクトって違う世界でも能天気なのね。」
「そのようだね。何だか呆れちまうよ。」
「・・・・・とりあえず格納庫で待とうか。」
格納庫に行き、タクトたちは小型シャトルの着艦を確認したあとシャトルの近くまで行きもう一人の自分が出てくるのを待った。その中からだが小声が聞こえてくる。マイヤーズ将軍が言っていた『連れ』だろうか?
『だから、そんなに緊張しなくていいからさ。』
『で、でもやっぱり恥ずかしいです。』
『俺が時間を稼いでおくからそのうちに二人は言うことを考えてくれ。』
話し声が終わりシャトルの扉が開きマイヤーズ将軍が姿を見せた。将軍らしい軍服を着用し胸のあたりには階級章がいくつか付いている。髪の毛にはわずかながら白髪があり顔も老けている。そのままタクトに貫禄が付いたバージョンと言えよう。
『やあ、もう一人の俺。元気でやっているか?』
「あ、ああ。初めまして・・・・タクト・マイヤーズ将軍。」
『だからそんな堅苦しい呼び方はしなくてもいいよ。それは一番君がわかっているだろ?タクト。』
こちらのタクトは動揺しているようだが未来のタクトは昔から知っている友のように話しかけてくる。歳月が経っているせいかこちら側のタクトよりも背が高い。ここからは現在のタクトを普段通りに『タクト』と書き、未来から来たタクトを『マイヤーズ』と書くことにしよう。
「じゃあ、何て呼べばいいんだ?」
『同じタクトだからな。マイヤーズでいいよ、タクト。』
「ああ、よろしく・・・マイヤーズ。」
二人の握手をかわす姿をただミルフィーユたちは見ているだけだった。そして握手し終わったあとマイヤーズはアレックたちに近づいていた。皆は思わず身構えしてしまった。
『おいおい、身構えてどうするんだ。』
「マイヤーズ将軍、この人たちはまだ信じられないのでしょう。そこにいるもう一人のあなたを除いて。」
『まぁ信じられないのも無理はないか・・・・・。よし、じゃあ俺の『連れ』を紹介しよう。そうしたら嫌でも信じるだろう。おーい、もういいぞ〜。』
マイヤーズは大きな声でシャトルに向かって呼んだ。
すると中からひょっこり人が出てきた。シンボルと言える花の髪飾りと透き通るピンクの髪を持った女性が・・・・。
「うそ・・・・。あれってもしかして!?」
『君達がよく知っている人物さ。自己紹介から行こうか・・・ミルフィーユ・桜葉少佐?』
『も〜お、タクトさんてばイジワルしすぎですよ。初めまして、ミルフィーユ・桜葉です。呼び方は・・・・みなさん知っていますよね?』
それは言うでもなく未来からマイヤーズとやってきたミルフィーユ・桜葉その人である。無理を言ってついてきたのである。
「あれが・・・・ミルフィーさんですか!?」
「うわあー、もう一人の私だ!よろしく!」
「ってすっかり溶け込んでどうするのよ!?」
ミルフィーユはさほど驚いた様子もなくもう一人の自分と話をしている。未来の自分を見るのは怖いはずだがタクトとミルフィーユの場合そうはならなかった。さすが銀河一のボケボケカップルである。
『あれ、もう一人は?』
『もうそろそろ出てくるんですけど・・・・・あ、来ましたよ。』
今度シャトルから出てきた女性は後ろ髪をリボンで止めていた。髪色の特徴は少し青がかかっている黒髪だ。その女性はアレックたちの前で敬礼をして自己紹介をはじめた。
『こんにちは、みなさん。私は烏丸ちとせ少佐です。ふつつか者ではありますがエオニア討伐が完了するまでタクトさんとミルフィーさんと共にあなた方を支援します。』
『そんなに硬くならなくてもいいよ。みんなはちとせのことを知ってるんだから。』
「わ、わ、わ、私が・・・もう一人・・・いる・・・・。きゅう〜〜〜。」
さすがに限界であったのかちとせはもう一人の自分を見てしまった途端に倒れてしまった。そういえば、ちとせが初めてエルシオールに来てシヴァがこの艦と一緒に行動していたときも会った瞬間に緊張のあまり気絶しまったことがあった。今は別の意味で違うのだが・・・・・。
「わ、ちとせが倒れた!!」
「頭は・・・・打っていませんから心配ありません。」
「とにかくその場に一旦寝かせよう!!」
あたふたとしているタクトたちの横でマイヤーズがクスクス笑っている。
『ちとせは緊張しすぎるとああなってしまうのか?』
『はい・・・・お恥ずかしながら。』
『私たちも手伝ったほうがいいんじゃないですか。』
『人が多すぎるとかえって邪魔になるだけだろ?それに・・・あいつらはあいつらで互いに支え合っているんだ。別の世界から来た俺たちが手伝う必要なんてないだろ。』
『それもそうですね。』
第十五話「未来艦隊との合流」 終
第十六話に続く・・・・。