「昔々のお話です。この広い銀河の一角で小さな奇跡が起きました」
ベッドに入った我が子を寝かしつけようと、若い母親は昔祖母から聞いた話を始める。
「ある国で起きた戦争の最中で、二人の若い男女が出会ったのです」
「え〜? なんでそれが奇跡なの?」
もう寝るどころではないと、目を輝かせながら少女は尋ねる。
「男の人は後に『英雄』と呼ばれるほどの人だけど、その時は歯牙ない辺境警備艦隊の司令官さん。
女の人は白いお月様を守る最強の兵器を操る『天使』さん。普通なら絶対合わないような二人の出会いなの。だから奇跡」
「わ〜! それでそれで!? 二人はどうなったの?」
急かす少女をなだめて、母親はゆっくりと続ける。
「惹かれあう二人はいくつもの奇跡を起こしました。
まずは戦乱を起こした『夢に囚われた王子様』と『人間が大嫌いな黒いお月様』をやっつけて、国を平定しました」
そこから語られるのは二人の華々しいまでの戦績。
「すると平和になった国を手に入れようと『異星の傲慢な魔女』が現れました。けれど新しい仲間と力を得た二人はやっつけてしまいました」
「次は『滅んだと思われていた楽園』を『侵略者』達から取りかえします。
『楽園を攻め落とした将軍』や『心に思い悩む策士』が立ちふさがります。
けれど『英雄』と呼ばれるようになった男の知恵と、『強運の天使』と呼ばれた少女の実力と強運に破れ去りました」
母親も子供に聞かせると同時にまるで自分も思い出すように言葉を紡ぐ。
「楽園を開放して、侵略者達の本星にたくさんの艦隊の司令官になった英雄と、仲間達からエースと呼ばれるようになった『強運の天使』は乗り込みました。
そして『支配することしか出来ない魔王』をやっつけて、止められないと思われた『銀河に災厄をもたらす物』も、二人の愛は止めてしまいました」
「うわ〜すごいね!! 『英雄と天使』は!!」
目をキラキラ輝かせた子供に母親は頷く。子供は続きを聞きたいとせがんだ。
「でもね? この先は決して楽しくて幸せなお話じゃないの。
私もお祖母ちゃんからそう前置きされたもの。貴女もまだ続きが聞きたい?」
数秒間少女は悩んでいたが、異を決して答えた。
「聞きたい! このままじゃ気になって眠れないもん!!」
母親も観念したらしく、ため息を一つして話し続けた。
彼女はこの話を聞いた夜は怖くて眠れなかったというのに……子供も似たようなことをすると思いながら……
「平和になったはずの銀河でも争いが絶えなかったの。それを根絶する為に『英雄』と『天使』は一生懸命戦いました。そして……」
『英雄と天使は……離れ離れになってしまいました』
『天使はそれを酷く悲しみ嘆きました』
『どうしようかと天使は考えました』
『そして……』
『天使は一人でセレナードを歌いました』
これは銀河を救ったはずの天使とそれを支えた者たちが、運命という名の神のイタズラに翻弄されたお話。
恋人の為に奏でられたセレナードは……届くのでしょうか?