「何をしているんだ? 烏丸ちとせ大尉」

仮眠から目を覚ましたソファーの上で、レスター・クールダラス大佐はそう質問してみた。

何せ目の前、下手したらキスでも出来てしまうのではないかと思えるほどの場所に、自分の部下の女性の顔があったから。

 

「これは! その! なんというか! 不可抗力でして! だからあの!!」

慌てて距離を離してアタフタし始める女性は黒い瞳に黒い髪、今は朱に染まっているが、肌は雪のように白い。

軟らかくも真っ直ぐに伸びる長髪が、主の挙動にあわせて合わせて大きく振られている。

 

『起こしに来たのだろうな』

本人に聞くまでも無く、ちとせが何をしていたのか位はレスターにもわかる。

チラリと確認した時刻が予定より五分ほど遅いことで、彼はそう理解した。

なぜ覗き込んだ体制で静止していたのかまでは解からなかったが……

 

「ですから! 私としては……つまりその……!!」

未だに溺れたようにアップアップしながら言い訳を紡ぎ続けるちとせの様を観察しながら、ふと脳裏を過ぎる。

 

 

『ジョークって大事だよね!?』

どっかのアホ司令官に渡された『女性との付き合い方ノート』なる資料の一文。

なぜ疑問系なのかというとその司令官も完全に理解しているわけではないからだろう。

 

『渡されて目を通したときは「なんだ、これは?」と思ったものだが……以外に役に立っているな……そういえば』

レスターが『今の役職』につくに事で、もっとも問題だった『女性との付き合い方』と言う問題点をそれなりにカバーしている資料にある一文。

おそらくジョークで場を和ませて、問題を忘れさせてしまおうと言うことなのだろうと、レスターは理解した。

軍服に袖を通しながら数秒考えて、彼のうちで最適なはずのジョークを口に出す。

 

「ちとせ……『夜這い』か?」

「へっ?」

 

その言葉にちとせはピタリとアタフタするのをやめる。彼女の脳内を、彼女の知りうる夜這いの意味が駆け巡る。

 

『夜這い……@恋人のところへ忍んで行くこと。 A相手の寝所へ忍び入ること』

凄まじい意味である。

そんなことを自分がしに来たと、レスターに思われたのだろうか?と考えたちとせの脳は平然とオーバーロードした。

 

「ふむ……確かに問題は流されたが、気を失ってしまっては仕事に支障が……」

ちとせが心配になるほど真っ赤になってソファーに崩れるのを見て、レスターはそう呟いた。

『自分のジョークがいけなかったのだろうか? ならリベンジを……』

滅多な事ではくじけない『元』名副指令はそうポジティブに考えて、ちとせにこう囁きかける。

 

「烏丸ちとせ大尉、直ちに起きろ。ただでさえ五分ほどミーティングに遅刻しているんだ。

これ以上スケジュールの遅延は認められん。もし起きなければ……」

それはまさに魔法の言葉。

 

「もし起きなければ『お姫様抱っこ』でブリッジまで連行するぞ」

「そんな事されたら私は舌を噛み切って死にます!!」

 

効果覿面だった。さらに顔を赤くしながらもちとせは飛び起きる。

勇ましい言葉が返ってきて、レスターは満足気に頷いた。

 

 

 

 

 

硬い金属の扉が、軽い音を立てて開く。身支度を整えて二人連れ立って向かった先はブリッジ。

 

「おはようございます、クールダラス司令」

「おや?エースパイロット殿、顔赤くないですか?」

 

かけられた声は二つ。何十回と繰り返されてきた朝の光景。

二人は観測機器と、通信関係のオペレーターだ。どちらも船の、特に戦闘艦の運用には欠かせない役職。

だから当然彼らは軍人であり、レスターと同じ年くらいの男性。

軍と言うのは普通男のほうが比率が高いから、それはいたって当然なのだが……

 

 

レスターとちとせはいまいち馴染めないでいた。長い間過ごしたあの艦のオペレーターは、二人の女性だったから。

今はそれほどではないが、最初の頃は大変だった。ついその二人の女性の名を呼んでしまうのだ。

 

「アルモ! 友軍艦に通信を!」とか「ココさん! 状況を教えてください!」などと叫んでしまった時は、気まずい沈黙を経験することになる。

もっとも今のオペレーターともそれなりの信頼関係を築けているから、二人の適応能力はある程度評価できる。

 

 

「そっ、そんなこと無いですよ!?」

またもや取り乱すちとせには目もくれずに、レスターは各艦の艦長とのミーティングを始める。

数分とかからずに打ち合わせは終了。

 

「これよりトランスバール本星へのドライブ航行に入る」

司令官席に腰を下ろしたレスターの声で流れる星が無数に輝くメインモニターが、神秘的な光に包まれる。

別に危険があるわけではないのだが、なんとなく緊張した空気が流れること数秒。

 

「クロノスペースへの移行完了」

オペレーターの言葉で緊張は途切れた。

 

「これでしばらくは『アルテミス・アテンダント』も休業ですね」

「なに……ほんの一時のこと。また存分に働いてもらうことになるから、お前らは十分に骨休めしておけ」

「けど、司令官殿やちとせ嬢が重要な仕事をするための本星帰還なのに、俺たちだけ休んじゃ悪い気がするな?」

 

緊張感が解けたブリッジで交わされるレスター達男の小言に、ちとせは疑問を投げかける。

「あの〜『アルテミス・アテンダント』っていうのは、なんなのでしょうか?

 確かこの艦隊の名称は紋章機単機運用……えっと……あれ?」

 

「正確には『紋章機単機運用戦略試験艦隊』だな? だがそれでは言いづらいし、覚えにくいだろう? いわゆるあだ名だ」

レスターが自分ではサラリと言うくせに、そんな庶民的な理由を挙げる。

 

「どんな意味なのですか? アルテミスっていうのがよくわからないんですけど……」

 

ちとせの疑問に答えたのは通信オペレーターだった。

「アルテミスっていうのはある惑星の神話に出てくる女神なんです。彼女が司るのは純潔と『狩猟』。

 文明が発展していないときの狩りは『弓矢』でやるんだそうで、アルテミスは弓矢の名手ってわけ。つまり……」

 

レスターが彼の言葉を引きつぎ、言った。

「アルテミスとはお前のことだ。ちとせ」

 

「えっ? 私が女神ですか!? そんな勿体無い!!」

「なに言ってんですか? 皇国でも指折りの撃墜数を誇る『華麗なる射手』にこそ相応しいあだ名ですよ」

 

 

『華麗なる射手』とはシャープシューターが、戦場で見せる超遠距離からのピンポイント射撃を見た敵味方が関係なく、畏怖さえ含め呼んだ名。

 

 

「アテンダントは従者もしくはお供という意味だな? これはこの艦隊のほかの戦闘艦を指す」

「あう〜私が女神で、他の艦の皆さんがお供だなんて、申し訳ないです……」

 

あまりにも自分に相応しくないあだ名だと、ちとせはぼやく。

 

「そうか? オレは良いと思うぞ。敵や上層部さえこれで呼ぶくらいだから、いまさら修正もできんしな」

レスターの逃げ道が無い褒め言葉に、通信オペレーターがこっそり続けた。

「このまえ偶然拾った敵の通信で、僚艦の高速駆逐艦のコールネームは『犬』ですよ? 

アルテミスが撃った獲物を拾ってくるだけって、皮肉な意味らしいんですけど」

 

逃げ道は完全にブロックされた。軽く落ち込むちとせに、ブリッジに笑いが溢れる。

だがブリッジクルーの誰かが漏らした一言で、空気が変わった。

 

 

「今や戦果も名前も著名な艦隊ですからね。さすがに『英雄』が指揮する『強運天使の騎士団』には及びませんが」

「おい!バカ!!」

「えっ……あっ!?」

 

降りるのは沈黙。先程の会話が嘘のように空気が冷えている。キレイにされているはずの空気がまるでコールタールのように思い。

レスターはその空気に気がついても居ないように、宙に視線を向けている。

誰も声を出すことが出来なかった。怖かったのだ。この静寂が壊れることで、何かさらに良くないことでもおきるのではないかと?

 

「レスターさん……」

意を決したようにそっと彼の肩へと伸びるのは、ちとせの軍人らしからぬ白く細い手。

その手すら僅かに震えていることを感じたのか、レスターは沈黙を壊そうと苦笑しながら言った。

 

「そうだな……アイツには、強運の天使には勝てんだろう。なにせ……勝ち逃げしやがったからな」

 

 

結局目的地に着くまでその沈黙は続いた。

 

 

 

 

 

目的地とは、トランスバール本星の衛星軌道上に位置する白く光り輝く巨大な人工天体、『白き月』。

トランスバールへとクロノクウェイクで失った技術をもたらした存在として、トランスバールの民に崇められる対象。

その実態はエデンを外敵から守る為に作られた兵器生産システム。

だが真実などどうでも良いというように、今日も白き月は静かに神々しい姿を宇宙に浮かべていた。

 

「よっ! お帰り、お二人さん」

艦船発着所でアルテミス・アテンダントの旗艦である『紋章機単機運用試験母艦一号艦・エンディミオン』から降り立った二人にかかる声。

 

長身でレスターと同じタイプの軍用コートを着た女性。目にはモノクル、頭には軍帽、手にはなぜか教官が持つようなムチ?

「フォルテ先輩! お久しぶりです!!」

 

嬉しそうに出迎えの女性 フォルテ・シュトレーンに駆け寄るちとせ。レスターはその後ろをゆっくりとついて行った。

 

「久しいな、シュトレーン大尉」

「あぁ、本当に久しぶりだね。といっても一年ぐらいかい? あんた達はこの前の『同窓会』には来れなかったからね?」

 

『同窓会』の所で、フォルテが視線を外し声のトーンが若干落ちる。

だがレスターはまるで何も無かったかのように、普通に会話を続けた。

 

「何せ戦線が危うい状態だったからな。

第三次会戦でちとせが敵の機動爆雷をすべて撃ちぬいてくれなかったら、ガマリア星系防衛ラインは突破されていただろう」

同窓会欠席の理由にしてはあまりにも重々しい理由だが、レスターはいたって普通に語る。

 

「ハッハ! 凄いじゃないかちとせ。アンタにもう先輩なんて呼ばれる資格はないかな? 

私なんて白き月の防衛隊長なんかやっているけど、戦闘なんてしていないから鈍っちゃってるってのに」

「そんなとんでもありません! すべてはレスター指令の指揮のおかげですから。

 そしてフォルテ先輩は何時までも私の先輩です」

 

 

フォルテは笑いながら続ける。

 

「凄いのは二人合わせてさ。ちとせはもちろん、クールダラス指令殿もね。

目を見張るような遠距離射撃で突破口を開き、高速化された駆逐艦での電撃作戦。

 敵にも味方にもその名前は轟いているよ。『アイツ等』と同じくらいに……」

 

語尾に下がるトーン。ちとせもレスターもその意味は知っている。だが何も言わない。

 

「他の連中は?」

居たたまれなくなったのか、レスターが話を切り出す。

 

「ミントは安全な航路の査定の為に里帰りして、親父さんと大バトル中だけど出立までには帰ってくるよ。

 ランファとヴァニラはちょっと出てるんだ。すぐ帰ってくると思うよ」

 

「そうか……では……『アイツ等』にあってくるか……」

「そうだね……先に帰ってきてるから、挨拶しときな。ちとせ、アンタもね」

「あっ……はい……」

 

また下りるのは沈黙。それ以上何も言わずに歩き出したレスターに置いて行かれまいと、ちとせは少し早足で後を追う。

 

 

 

 

 

白き月は本来兵器の生産工場として作られたものだ。

だがその広大な内部には一つの町であるように、さまざまな生活施設が詰まっている。

その規模は人間が、生まれてから死ぬまで白き月から出る必要が無いほどの充実ぶり。

 

「あの……レスター指令……?」

「なんだ、ちとせ?」

照明とは思えないように明るく、暖かい光に照らされながらレンガ敷きの道を歩くレスターに、ちとせが後ろから声をかけた。

 

「花屋さんによって行きませんか?」

「なぜだ? あのバカに花などくれてやる必要など無い!」

 

「……はい」

振り向きもせずに素っ気無く返すレスターに、ちとせは簡単に自分の意見を引っ込めた。

 

いつもならレスターが理由も示さずに、他人の言葉を却下することなど無い。冷たいようでいて、彼の思考は理由に基づいているから。

でも今の彼は違うのだ。強力な感情が彼の精神を支配しているのを、この一年で共に修羅場を潜ったちとせには解かった。

 

だから何も言わない。今何か口答えをしたら、それこそ殴られてしまいそうで怖かった。

 

 

無言の移動の後、二人がたどり着いたのは静寂の空間だった。

あまり賑わいというものには無縁な気配が漂う白き月の内部でも、そこはどこよりも静寂が似合う場所。

ピクニックにでもこれそうな緑の芝生が覆うなだらかな丘。だがそこには家族連れの姿も、走り回る子供の姿も無い。

あるのは静寂と……無言で立つ様々な形の人の生きた跡。『こんな人がいたのです』と主張するオブジェ。

 

そこは『墓地』だった。

 

だがただの墓地ではない。ここは白き月の墓地。選ばれたものだけが、ここで眠ることを許される。

ただの皇王では、ここでは眠れない。王の中でも大きな偉業をなした者だけ。

すると必然的に、そこに集まる遺体は皇国史に名を残すような英雄や、歴代の白き月の聖母。

 

 

そんな英霊たちの中に、レスターとちとせが合おうとする者達がいた。

真新しい墓の前で、彼らは立ち止まる。天使が羽を広げたような石細工が施された墓石。

 

 

ここには二度トランスバール皇国の危機を救い、滅びたとされたエデンを開放し、銀河を飲み込む災厄を止めた者達が眠っている。

 

 

それだけの功績を挙げながらも、止まぬ戦果をとめるようと必死になっていた者たち。

 

 

レスターがその卓越した指揮には、決して勝てないだろうとサジを投げた相手。

 

ちとせのシャープシューターでも相手に成らないだろう、皇国一いや銀河一の撃墜王。

 

 

アルテミス・アテンダントも敵わない戦果を誇る『強運天使の騎士団』の司令官だった『英雄』タクト・マイヤーズ。

 

そのタクト・マイヤーズの恋人であり、騎士団の主力である『ラッキー・スター』を駆る『天使』ミルフィーユ・桜葉。

 

 

 

もう彼らはこの世にはいない。

 

誰よりもトランスバール皇国を、銀河を心配しそれを守る為に尽力した者達は、仲間内の誰よりも早く散った。

 

 

 

ふとレスターは最後にタクト・マイヤーズとした会話を思い出した。

 

「レスター、お前はあいも変わらず真面目なのか!?」

酒を飲みながらだったため、何時にもましてテンションが高いタクトが、いきなりレスターに聞いた。

 

「当たり前だろうが。お前の副官を辞めて、艦隊指令になったからってお前みたいに楽ができるわけじゃない」

その物言いだと新しい職場でも書類仕事は人任せなのだろな、とレスターは確信する。

 

「レスター! お前は早死にするな!?」

「なんだ! 突然失礼な奴だな!?」

軍に身を置く身なのに、いきなり早死になどと言う言葉を叫ぶ友人に、レスターは怒鳴った。

 

「違う、違う。お前が戦死するなんて思ってないよ。お前はきっと高血圧で死ぬな。ストレスを溜めすぎなんだ」

「そうかい……お前は長生きしそうだな? 百歳は軽いだろう」

これは皮肉だったのだが、タクトは真面目に返す。

 

「百歳!? オレは二百歳まで生きるのが目標なんだぞ!!」

どうやら人間の限界を超えるつもりらしい。タクトは続ける。

「オレさ、今度の戦乱が収まったら軍辞めるよ。ミルフィーと田舎に引っ込むんだ」

 

「そうか……」

タクトの気持ちもわからないでもないレスターが曖昧にうなずく。

 

「田舎で畑仕事でもしながら……ミルフィーと二百歳まで生きる!

おっと! 大事なの『ミルフィーと』って所だから、そこんところをよろしく!!」

「あーあー、何でも良いよ。二百歳でも三百歳でも生きてくれ」

 

「でもレスターはきっと早死にするから、お前の葬式は俺が出してやろう」

「へーへー、そうかい?」

返事をするのがめんどくさいと言いたげに、レスターは適当に返す。

 

「喪主の挨拶でお前の恥ずかしい過去を暴露してから、てんとう虫のサンバをみんなで大合唱して、三日三晩飲んで騒ぐ。

 そういうプランなので、しっかり葬式の費用を貯金しておくように……グハッ!」

最後のグハッ!はレスターが我慢しきれずに、タクトの脳天にチョップを入れたからだ。

 

「貴様! 別にオレが高血圧で早死にするのはいいとして、人の葬式で好き勝手やるな!!」

思わず叫んだが、タクトは笑顔を浮かべたまま続ける。

 

『軽く見積もって……一億ギャラくらいかな?

まぁ、そういう訳だから、ちゃんと葬式の費用一億ギャラ溜めるまで……死ぬなよ? レスター』

一体何年生きればいいのか? そんな金額を提示して、タクトは笑っていた。

 

 

 

「俺の葬式を出すんだろうが! 

みんなで、てんとう虫のサンバを歌うんじゃなかったのか!!

オレはまだ……一億ギャラも葬式の費用を貯金してないんだ!! 

それなのに! お前が先に死んでどうすんだよ!! この大バカやろう!!」

 

レスターが拳を墓石に叩きつけるのとたいした差も無く、ちとせがその場に崩れる。

 

 

 

彼女が思い出したのは独立部隊として、先に白き月を離れる時にミルフィーユ桜葉とした会話。

 

「でも一人だと大変だよね〜何時も六人で一緒だったんだもん」

何時もの明るい声にほんの少しに影を落として、ミルフィーユはちとせに言った。

 

「でも、レスター指令も一緒ですので私、がんばります!」

 

「そうだね! でも怖くなっちゃったら、嫌になっちゃったら、いつでも帰ってきて良いから!」

凄まじく自由な発想に基づく、ミルフィーユの言葉にさすがのちとせも否定の言葉を述べる。

「いえ……さすがにそういう訳には……」

 

でもミルフィーユは言葉を紡ぐ。

「皆でお茶をしようね! ちとせの好きな和菓子も作ってあげる! ギュって抱きしめてあげる!

 そうすれば……怖いのも嫌なのも飛んでいっちゃうから」

幼稚な言葉につたない励まし。だがそれこそが彼女がちとせに向ける好意のすべて。

 

「はい。その時はよろしくお願いしますね? ミルフィー先輩!」

だからこそちとせは安心できた。帰ってきてもいいんだと思えた。

 

 

「ミルフィー先輩……ちとせは……帰ってきてしまいました。

嫌なんです…怖いんです…だから…お茶にしましょう。和菓子を作ってください。ギュって……抱きしめてください…」

 

 

 

黒い瞳を濡らすのは涙。『華麗なる射手』と呼ばれた皇国bQのエースが、華麗など似合いもしないほど泣いた。

 

 

 

 

 

このような皮肉な運命は何に始ったのか? すべては大悪去りし後も残った世界のほんの僅かな軋み。

 

それが奏でる小さな不協和音のシンフォニーが、銀河を救った天使たちの運命を狂わせた。