レスターとちとせが、他のエンジェル隊メンバーに合流しての任務は概ね順調だった。

 

独立派や過激派対策を各星の代表が話し合う会議へ向うシヴァの護衛。

無論そのシヴァを狙う者の存在も考えられる危険で重要な任務。

 

ではあるが……たとえその一角と司令官を失ったとは言え、銀河最強と音に聞こえたエンジェル隊である。

生粋のヴァルファスクが指揮する大部隊ならまだしも、この前戦闘艦にはじめて乗ったゲリラたちの散発的な攻撃では相手にならない。

 

無事に会議が開かれる星まで赴いてからは、シヴァの専門分野。

もって生まれたカリスマ性や神秘的な風格で各星の代表らの心を掴むことに成功。

さらにこの会議の切り札である『トランスバール本星からの正式な技術支援』で、完全に代表の支持を取り付けることに成功した。

ヴァルファスクからの技術は『買う』と言う形だし、ましてや『密輸』とも言える。

それに比べてシヴァの提示した条件は『無償』で『正式』なものだ。

どちらが多くの人の指示を得るかは目に見えている。

もちろんそれにより与えられるものには『軍事技術』は含まれていない。

だが代表者としては『武力』よりもまずは『生活面』であった為、それは問題にはならなかった。

 

こうして大成果の後にシヴァやエンジェル隊は本星への帰路に着いた。

帰路はさらに順調なもので、一度の襲撃も無く中間補給地点である惑星ロームにたどり着くことが出来た。

衛星軌道上の宇宙港で補給を終え、いざ本星に向けて出発……そんな時だった。

 

 

レスター・クールダラス エルシオール司令が考えていた航海日誌の一文『航海は極めて順調である』が使えなくなったのは。

 

 

 

 

 

「なんだ……これは?」

 

エルシオールのブリッジで、レスターは呆然と呟いた。

第三方面軍の中心地である惑星ロームでの補給中に、それは突如として現れた。

今までの戦闘中で遭遇したことの無い、どんな資料にも載っていないだろう奇異なる形の艦隊。

トランスバールのものでも、黒き月の無人艦でも、エデンのものでも、ましてやヴァルファスクのものでもない。

 

白を基調とした配色にシャープでありながら曲線を感じるデザイン。自らが光っているかのように、淡い光を発する兵器の群れ。

光り輝く兵器が暗い宇宙に黄金色の縁取りをするさまは、まるで宗教画かなにかのよう……

 

この航海の中では最も艦隊規模は大きく、その類を見ない造形にレスターは内心かなり焦っていた。

だが幸いなことにここロームは第三方面軍の本部が置かれている場所であり、シヴァの来訪もあり警備の艦隊は多い。

 

数的にはこちらが上であり、その上エンジェル隊まで居る。敗北などと言う要因は一つもない。

『なのに……俺は何を恐れているんだ?』

自分の内心の問いかけに答えることができるはずも無く、レスターは腰を下ろした司令官席から少し腰を浮かし叫んだ。

 

「解析結果は!?」

 

レスターの声にオペレーターの一人、ココが返した。

 

「巡洋艦、駆逐艦、戦艦、どれもデータが無いタイプです……あっ!? 敵の最深部に大型艦です!!」

 

「なんだこれは……デカイ! それにこの形は……」

 

最大望遠で映し出された画像は少々乱れているが、その形を把握することは出来た。

大きさから言えばネフューリアのオ・ガウブの1・5倍ほど。

さらに奇異なるはその造形。すでに『艦』と呼ばれる形をしていなかったのだ。

半球の上に立つのは暗黒時代のおとぎ話に出てきそうな搭や壁。その周囲を囲む浮遊防塁。

それはすでに『城』だった。

 

驚きに言葉が途切れていたレスターに、ココの叫びが再びかかる。

報告と言うよりも、何かに恐怖する子供のような叫び。ブリッジの誰もそれを咎めない。

なにせ自分の同じような心境なのだから。

 

「敵大型艦から戦闘機の発進を確認! 嘘っ……だって……」

 

「ココ! 報告しろ!!」

 

オペレーターの驚きの声に、レスターは腹を括り叫んだ。

もう無様に取り乱すまいと心を引き締める。

どんな状況でも、どっかりと腰をシートに下ろして笑っていた友であり、銀河にその名を轟かせた英雄はもう居ないのだ。

 

「戦闘機のデータ一致……ダークエンジェルです……数は……三」

 

「!?」

 

黒き紋章機を駆るエオニアの争乱で戦った傭兵部隊の名が、レスターの脳裏を過ぎった。

しかしこの戦闘機も後戦いでは、量産化されて出現した。

つまりアレは無人で、パイロットは何の因果も無い……そう信じ込もうとしていた時だった。

 

「ダークエンジェルから……通信です。」

 

アルモの怯えたような声を上げる。もし来たのが攻撃だったらどれだけ良かっただろう?何も考えることなく、生き残る作業に没頭できるのだから。

だが来たのは通信……レスターは数秒思考する。そして悪い予感を振り払う為、言った。

 

「繋げろ」

 

前面モニターに光が灯り、映し出されたのは長髪でドレスを着用した男。手にはバラを持っている。

 

「あ〜麗しいこの戦場を! もう一度舞うことができる日が来るなんて! 僕はなんて幸せなんだろう!!」

まるでネジが外れたように甘ったるい声が、エルシオールの船橋スピーカーを揺らす。

 

「バカな……」

 

「お久しぶりだね? エルシオールの諸君。

覚えていてくれたかな? このカミュ・O・ラフロイグを」

 

そこに映っていたのは、確かにレスターの知った顔。幾度となく刃を交えたエンジェル隊にとっても強敵の一つ。

最期はダークエンジェルに食われたはずのその人物が、初めて通信したときと同じように微笑んでいた。

 

そこで画面が変わる。映し出されたのは、筋肉質の無骨な男、名はギネス・スタウト。そいつが吠えた。

「おおお! 見ているか、わが永遠のライバル!! 貴様との戦いをどれだけ渇望したことか!!」

 

次は顔から斜めに胸まで傷を付けた無表情の男の名は、レッド・アイ。

「地獄では……闘争する権利すらないらしい。戦いとは……この世で行うものだそうだ」

 

それは間違えようも無い。エンジェル隊の仇敵と呼ばれた傭兵部隊ヘルハウンズのメンバー。

そこでブリッジに駆け込んでくる五つの影。紋章機のパイロットであるエンジェル隊である。

 

いつでも気丈な銀河最強の乙女達も、三つに分割された画面を見て声と顔色を失った。

数秒の沈黙の後、口火を切ったのは最も負けん気と血の気が多いランファ・フランポワーズ。

「ちょっと!! 筋肉バカ!! なんでアンタがこんなとこに居んのよ!?」

 

「おぉ!! わがライバル!! 今度こそ貴様を倒す!!」

会話になっていない。

 

 

次に言葉を発したのはエンジェル隊の中でも一番の年長者である、フォルテ・シュトレーン。

「よう、合いも変わらずつまらなそうな顔してるね?」

 

「合いも変わらず口が減らない女だ」

視線で人が殺せそうな殺気が空中でぶつかり合い、火花が散るような緊張感が充満。

 

 

「あらあら? 三人だけですか? 地獄の何とかも寂しくなったも…!?」

ミントが漏らした軽口が途中で途切れた。

 

「どうした、成金? ちょっと見ないうちにさらに卑しくなったな?」

分割された画面にさらに映し出される人物。

自称没落貴族の策士 リゼルヴァ・キアンティが、バカにした笑みで告げる。

彼が居る場所はどうやら戦闘艦のブリッジらしい。

 

 

「もちろんオレ様も居るぜ〜、元気か〜ヘチャムクレ?」

なにやら怪しげなディスプレイや基盤やらコードに囲まれて手を振るのは、ビン底グルグル眼鏡にバンダナを巻いた少年。

 

その少年ベルモット・マティンを確認して、ヴァニラ・Hが一言呟いた。

「……出た……」

 

 

他の四人がにらみ合いをする中、残ったカミュがまるで芝居がかった口調で言う。

 

「おやっ? ギネスたちがライバルと再会できたというのに、僕のマイハニーはどこだい?」

 

カミュの言葉に、ブリッジが凍った。

彼がマイハニーと呼んで偏愛していたエンジェル隊のエースは……最強の翼は……強運の星は……もう居ないのだ。

 

「……ヘルハウンズ、お前らがこの艦隊を操っているのか?」

レスターの冷静な問いに、カミュが返す。

 

「違うね。それと僕達はヘルハウンズではない。

『新たな主』にちなみ改名させて貰った。新たな名は『ヘブン・ハウンズ』!!」

 

地獄の猟犬『ヘルハウンズ』改め、ヘブン・ハウンズ『天国の猟犬』とは悪い冗談にしか聞こえない。

 

「はっ!? あんた達が天国? 冗談じゃないわ!! 地獄からさ迷い出てきたくせに!!」

 

ランファの叫びにフォルテも便乗。

「全くだよ。天国なんて単語が一番似合わない連中じゃないか?」

 

ミントが笑顔で毒舌をぶつけ、ヴァニラがボソッとヒドイことを言う。

「もしかして……地獄からも追い出されてしまったのですか?」

「神も救ってはくれず……」

 

先輩たちの険悪な言葉にちょっと顔を青くしつつ、ちとせが最後に叫ぶ。

「よく解りませんが! 魑魅魍魎に汚されるほど、トランスバール皇国は安くありません!!」

 

五人の糾弾を受けたヘルハウンズ達は何をしたか? ランファたちの知っている彼らならむきになって否定していた。

だが今回は違った。彼らのとった行動は……

 

『嘲笑』

 

 

圧倒的な優位を含み見下すような、蔑むような、哀れむような笑い。

それは徐々に大きくなり、あのレッド・アイすら大口を開けて笑っている。

まるで『あぁ、こいつらは何も解っていないのだな。可愛そうに』とでも言いたげに。

 

一通り笑い終えて、唖然としているエルシオールのブリッジクルーに、カミュが答える。

「確かに僕たちがいたのは地獄だろう。でもね? そこから助けてくれたのは……『天使』さまだよ?」

 

『何を戯言を……』

 

普通なら一言で切り捨てるレスターはなぜか、とんでもない違和感を覚えた。

圧倒的に自分たちが劣っているような錯覚……いや錯覚ではないのか……

 

「それじゃあ、僕達だけベラベラ喋っていては失礼だね?

 そろそろ主役にもお言葉を賜ろうか。ベルモット、準備はできたかい?」

 

カミュの言葉にベルモットが頷き、なにやら無数に並ぶキーボードの一つを操作。

するとヘブン・ハウンズが移っていたディスプレイがブラックアウトする。沈黙の後、アルモが叫んだ。

 

「敵艦隊の旗艦と思われる大型艦より改めて広域拡散通信です。凄い割り込みが……」

 

「構わん、繋げろ!」

 

レスターは暴れる心臓を押さえつけて、そう叫んだ。その『主役』というのに興味があったから。

死んだはずのヘルハウンズが服し、未知の軍勢を従える人物。

そんな人物とは一体誰なのだろうか? 画面がつながり、最初に響いたのは……

 

「えっと……これ映ってるんですか?」

 

間抜けな声だった。だがその間抜けな声にはエルシオールのものは皆覚えがあった。

 

「あぁ! 君の美しすぎる顔と、美声は全銀河に届きまくりだよ! 『マイハ二―』!!」

 

その声はカミュがマイハニーと呼んでいた人物の声だ。決して忘れられない声だ。

幾度となく共に死地を潜り抜けた戦友の声なのだから。

 

 

「それじゃあ、始めまして。私は……『ミルフィーユ・桜葉』と言います」

 

 

「「「「「「「「「ナッ!? バカな!!」」」」」」」」」

 

エルシオールのブリッジは大音響で否定の声を上げた。その人物はもうこの世には居ないはずだ。

そして彼女は決して……このようなことをする人物ではない。

 

「嘘よ……これがミルフィーな訳が無いわ……」

スクリーンに映る人物を見て、ランファが呟いた。

 

「私も……信じません。だってミルフィーさんは……こんな顔をする人ではなかった」

ミント・が吐き捨てる。

 

「ったく、一体どこのバカだい? アイツの物まねなんてしてるのは!!」

フォルテが叫んだ。

 

「悪趣味です……そして死者への冒涜です」

ヴァニラがポソリと呟く。

 

「でも……あの姿は間違いなく……」

ミルフィーに告ぐ撃墜数二位を誇る烏丸ちとせは、画面に映る人物に息を呑んだ。

 

 

桜色の髪に、花飾りがついたカチューシャ。表情は笑顔。確かにミルフィーユを代表するパーツは揃っている。

だがこの違和感なんなのだろう?背筋が凍りつくような違和感は。

 

「人望を集めすぎた英雄と、強すぎる天使は邪魔なだけですか?」

 

その言葉でレスターはある可能性を見出した。考えたくも無い可能性だ。

それは『軍部によるタクト・マイヤーズとミルフィーユ・桜葉の暗殺』

 

 

「私もタクトさんもトランスバール皇国の為に、命を賭けて戦ってきました。それなのに……それがあの仕打ちですか?」

 

ミルフィーユの口から溢れるのは陰鬱な言葉の群れ。

彼女を知っているものなら、画像と一緒にされなければ決してこの声を発しているのが、ミルフィーユ本人とは認めないだろう。

 

「整備と偽って少数にした艦隊に『大したこと無い巡回任務』と言って、敵勢力の集結が確認されているデブリベルトへ送り出す。

 その上ご丁寧に旗艦である空母にあんな『贈り物』まで忍ばせる徹底ぶり……」

 

その言葉でレスターの予感は確証に変わった。暗殺とまでは行かないが謀殺。

恐らく余りにも厚くなり過ぎたタクトの人望と、それを支える無敵の天使に存在を疎ましく思った一部の軍人の仕業。

 

『それはシヴァ陛下始め多数の人間の意志ではない!!』

そう叫んだところで、画面の中の少女には届かないのだろうとレスターは確信した。

彼女の目は余りにも強い意志を放っている。レスターの知るミルフィーユとなんら変わらない目

 

旗艦の司令官席らしきものに身を預けたミルフィーユは、続ける。

 

「でも……私はあの程度じゃ死にませんよ? だって……私はトランスバール皇国一の撃墜王『強運の星』ですから」

 

確かにラッキースターの撃破は確認されていなかった。

 

「ほんと……死んじゃうかと思いました。

でも……タクトさんはもういないとわかっているのに、勝手に体が動くんです。

恐ろしいですよね?習慣って。でもやっぱり帰る先が無いと思うと、隙ができちゃうのかな?

一斉攻撃を受けて……撃墜されるかと思った寸前で偶然拾えた通信で、タクトさんと私の暗殺計画のことを知りました。

無意識で戦うほどに私は戦ってきました。皇国の為にと、そこに生きる人のためにと、がんばりました。

その結果が……これです」

 

いつも着ていた軍服とは似ても似つかない黒いボロボロのドレスを纏った天使は、何時もと変わらぬ笑顔で歌うように続ける。

その服はさながら……『花嫁衣裳』にして『喪服』。全てはたった一人に捧げた姿。

 

「そして私は……ある場所にいったんです。

 そこは艦船や戦闘機が無数に浮かぶ異空間。死んだ戦士の行き着く先。

 永遠と兵器のデータと魂を収集し続ける地獄の釜。名前は私が『ヴァルハラ』に決めました。

 そのヴァルハラで私は考えたんです。一体何がいけなかったのか? 時すら感じない無限の闇で永遠と……」

 

ドレスの懐へと手を入れ、二つのものを取り出した。それは指輪と封筒。

 

「これなんだと思います? 女の人ならわかるかな?」

 

一旦区切り、指輪を薬指にはめるといとおしげに撫でる。

「これは婚約指輪。タクトさんがくれました」

 

封筒から紙を取り出して広げ、一文をなぞる。

「婚約届けですよ〜私の名前もタクトさんの名前も書いてあるし、ハンコも押してあります。あとは『一緒に』提出するだけ」

 

それも物凄く大事なものを扱うように折り畳みなおすと、懐へと仕舞う。

 

「私が欲しかったのはこれだけなんです。大好きな人と一緒にいたかっだけなんです。名誉とか、出世とかどうでも良いんです。

『いい加減軍なんて辞めて田舎に引っ込みたいね〜』ってタクトさんとよくお話をしました。

でも……辞められなかった 私もタクトさん、皇国に必要とされていたから。

私もタクトさんもトランスバールが、この宇宙が大好きだったから、そのために戦うことを辞められなかった」

 

 

ミルフィーユの言葉に、全銀河が沈黙を下ろした。しかしその沈黙は破られる。続く彼女の言葉で。

 

「私はやっと気がついたんです。

『トランスバールなんてあるから、守る人なんているから、名誉に縛られる人がいるから』、私達は幸せになれなかった。

 ならどうすれば良いでしょうか? 簡単です。バカな私でもわかるくらい簡単なことです」

 

ミルフィーユが腕を広げると周りに無数のディスプレイが浮かぶ。映っているのは彼女が率いる謎の艦隊。そして彼女に付き従う五人の戦士の顔。

 

「ヴァルハラには集めたデータを生産する装置がありました。

そしてお知り合いがいたので、手伝ってもらうことにしたんです。私の……『夢の実現』を」

 

 

ミルフィーユの口から語られる事は、全てが信じられないようなことだ。

彼女を知る者は其れを納得して聞くことができる。なぜか?

彼女は『強運の星』なのだ。数多の奇跡を起こしてきた『大天使』なのだ。

その彼女ならアナザースペースへ赴き、そこで仲間を作りこちら側へと帰還することなどきっとできてしまうのだろう。

 

椅子から立ち上がると今までどおりの口調で、笑顔にのせて告げた。

 

 

「私ことミルフィーユ桜葉は、トランスバール皇国に……いえ全銀河に戦線を布告します」

 

 

その言葉に全銀河震えた。あまりにも純粋な少女の宣戦布告に、いたいけな少女の運命を狂わせてしまった自分達の所業に恐怖しながら。

 

「みんな……みんな居なくなってしまえばいいんです。

誰もいない無人の宇宙で、誰にも邪魔されることなく、私はタクトさんの夢を見て眠るんです。

それが今の私の最大限の幸せだから……」

 

そこからは決して言葉にできないような笑い声が響いた。

それは恋人達の笑い声だ。花咲くのを走るように、水辺で水を掛け合うように、ベッドの上でじゃれあうように。

 

全銀河を相手に戦争をしようとする狂気の持ち主が、そんな声で笑うのだ。それはどんなことよりも狂っていて、おかしいことなのだ。

笑い声が費えるとミルフィーユは、一瞬悲しそうな顔をして瞳を伏せる。

そして開いた瞳には最高級の輝きを、開いた口から漏れるのは……

 

 

「どんな人よりも、トランスバール皇国よりも、銀河よりも、私は……貴方のことが大好きです」

 

 

不意に彼女に従う艦隊が、一斉に戦闘機動を取る。

エンジンの出力が跳ね上がり、砲身にレーザーのエネルギーやミサイルが装填される。

戦いへ赴く鋼の兵器の無音の咆哮が、宇宙空間を揺るがす。

 

余りにも物騒で、壮大なバックミュージックにあわせてミルフィーユが紡ぐ。

 

 

「愛しています……タクトさん」

 

 

『最高の笑顔』と表現するしかない表情を浮かべ、ミルフィーユは歌う。

 

それは告白。それは本当の思い。どんな重責もキレイ事も覆すことの出来ない愛情。

 

それは届くか解らない思いを乗せた歌。全銀河を敵に回してでも奏でると決めた音。

 

それこそが……

 

 

 

『天使のセレナード』

 

 

 

 

 

             『セレナード……愛を語る歌』