妖精と兵器(1)

 

 今回出てくる最主要人物はオリキャラなので、紹介をします。

 

アクア.マーリン 

年齢:20(トランスバール暦413年)、身長:166cm、誕生日:3月3日(うお座)

血液型:O型、紋章気:GA-008 マーメイドシンガー

 性格は、元気な女の子。で、ちょっと気が強い。でも、実は素直で優しいというよくある性格。

 実は、両親が幼い頃に病死して、親戚中をたらい回しにされたと言う過去がある。そして、ある日家出してしまった。そこを大貴族の御曹司に拾われて、そこで生活する。そして、12歳の時にデビュー。それから頭角を現していった。そして、全皇国的アイドルにまで上り詰める。しかし、1年半前のエオニア戦争により、芸能どころではなくなる。そこに、知り合いの忠告によって、紋章機のテストを受けてみたところ合格。完全に平和が戻るまで紋章機を使おうと決心した。

 性格は、基本的に元気で素直だが、優しいという性格。

イメージ声優:丹下桜

 

 では、自己紹介もしたので始めます。

 

 

妖精と兵器(1)本編

 

 白き月。それはこのトランスバール皇国にとってロストテクノロジーという貴重な技術をもたらしてくれるもの。ここに所属されている軍人は、どちらかというと出世コースからは外れていた。そう、エオニアのクーデターが起こるまでは。

 しかし、エオニア、ヴァル・ファスクによる侵攻は白き月の重要性を示した。今では、軍人も白き月のロストテクノロジーを狙い始めている。戦役のおかげで白き月の重要性が示されたのは、平和を願う「白き月」には全くもって皮肉としかいいようがないが・・・。

 また、三度の大戦役による軍人などの人手不足も軍人が白き月のロストテクノロジーを狙い始める手助けとなった。

 今回、新しく近衛軍衛星防衛艦隊総司令となったタクト・マイヤーズの筆頭副官になった貴族階級出身のジルコ・ロマネティには、軍強硬派の後押しがあった。この軍強硬派は市民階級の軍人も多いが、ロストテクノロジーのために貴族階級と市民階級が一致団結して推薦したのだ。一方、レスター・クールダラスはルフト・ヴァイツェン宰相兼提督に権力が集中するという理由から、これも貴族階級と市民階級が一致団結したため、白き月からは離れて別の地方艦隊に送られたため、もう一人の副官もレスターとは違う人物がついている。

 

 

 そこは、白き月の兵器研究所、第一研究室。ジルコ・ロマネティは一人で何かの実験をしていた。彼は、何時間も前からここにいる。肩書きから考えればそんなにここにいられる程には暇ではないはずだが。

 軍から「白き月」の研究に直接携われる権限も得ているが、それは通常の仕事をこなした上での事。

「・・・・・もうちょっとだが、ダメだな・・・。」

 ジルコが不満そうに言う。元々冷たい印象を与える顔であったが、不満な表情が表に出ると、ますます近寄りがたい雰囲気をかもし出す。彼が考えていたのは新しい戦艦だった。今まで敵の戦艦を見た彼は、その魅力にすっかり取り付かれてしまった。だが、「白き月」は兵器のロストテクノロジーを封印しているし、ノアがいるものの、「黒き月」のロストテクノロジーがない以上、自分で考えるしかなかった。そう考えると、彼は一流の兵器技術者だ。彼が不満そうに言った兵器も皇国軍の兵器より優れている。一人でここまで考えたのだから良く考えればすごい話だ。

「・・・・・・。」

 どうやら一休みすることにしたらしい。

(くそっ。・・・シャトヤーン様は何を考えておられるのだ。ヴァイツェン先生もシヴァ陛下も・・・全く甘ったるい方々ばかりだ。)

 そこに、運のない女性研究員が来た。

「・・・・・・。」

 女性研究員は不幸なことに不機嫌なジルコの顔を見てしまった。

「・・・どうした?・・・私に用件でもあるのか?」

 ジルコは気づくと、とりあえず話しかける。

「い、いえ。」

 女性研究員は否定する。

「そうか・・・。」

 ジルコはそれだけ言うと、さっと関心を兵器の方へ向けた。

 ジルコはまた兵器について考えていた。

 そして、少したって、データを取り終わったのだろうか、女性が立ち去ろうとする。

「・・・少し聞きたいことがある。」

 ジルコはおもむろに女性研究員に話し掛ける。

「な、何でしょうか、ロマネティ筆頭副司令。」

 女性研究員はややおびえた感じだった。別にこの女性が特別に内向的な性格だからではない。彼の前ではこんな感じの女性研究員は割と多い。

「君は、今の皇国の政治やシャトヤーン様について正直どう思う?・・・どんな答えでも通報したりはしないから安心しろ。」

 彼としては普通に尋ねたつもりだろう。しかし、こんな尋ね方は決していいものではない。

「・・・は、はい。今の皇国は平和でいいと思います。シヴァ様やルフト宰相がきちんとした政治を行っていると思いますし、シャトヤーン様のご賢明な判断もうまくいっていると思います。」

 女性が答えた。

「そうか・・・。ありがとう。・・・それじゃ、お疲れ様。」

 ジルコは淡々と返答する。

「・・・あ、はい。・・・それじゃ、お疲れ様でした。」

 女性研究員はそそくさと出て行った。

(・・・いったいどうしたのかしら?・・・でも、あの人に下手に質問するのは怖いし・・・。)

 そして、それを見送ったジルコ。

(・・・つまらん解答だな・・・。・・・まあ、白き月みたいな安全すぎるところに長年いれば甘ったるくなるのもわからんでもないがな・・・。)

 そう、彼はある意味ではエオニアと同じ思想の持ち主だ。しかし、エオニアと違って、彼は外に向けて使う―――侵攻しようという考えは無い。単に、外からの防衛のためと、どこまで効率的な兵器を創作できるかを考えるのが好きな兵器マニアだ。そんな彼には、昔の「白き月」の研究者が平和のために兵器工場を閉ざした事が単なる愚挙としか思えないだろう。

 そして、立ち上がると彼はイヤホンに耳を傾け、MDのスイッチを入れる。曲は彼のお気に入りのアイドルものではなく、クラシック音楽だ。

 

 

 ところ変わって、ここはクジラルーム。ここには、本物とほとんど同じような海がある。おそらく、こんな海を艦内に入れる技術は今無いだろう。そこに、エンジェル隊、コスモエッジ隊、そしてタクトがいた。

「う〜〜ん、気持ちいい。」

 アクアが背伸びしながら言う。ウエーブかかったショートヘアが濡れて、それ自体がサンゴの海みたいに綺麗だった。

「なんつうか、グラビアアイドルみたいだな。」

 トパーは感心したような表情だ。

「やだなあ、みたいじゃなくてグラビアアイドルそのものじゃないですか。ねえ、兄さん。」

 ルビナスが突っ込みを入れる。

「・・・、まあ、そういう事になってるな。」

 サフィエルは貧乏人出身のアクアがこうしてもてはやされるのが嫌だった。

「そうね、・・・水着を着るとあの頃を思い出すわね。こんなポーズとか」

 アクアは太陽の光を手でさえぎるようなポーズをした。

「わー、アクアさん決まってますね。」

 ミルフィーが拍手する。

「さすが、『水の妖精』とか『人魚』という愛称で親しまれただけはありますわね。」

 ミントも文句なしと言った表情をする。

「そ、そうなんですか・・・。」

 ちとせが申し訳なさそうに言う。

「あら、ちとせさんは知らないの?」

 ジルコ・ロマネティの腹心にして、コスモエッジ隊の修理役ラピス・ラズリだ。

「まあ、あたしもそういうのは見ないから良くわからんが・・・。」

 フォルテも見てないらしい。ちなみに、ヴァニラと、トパーの腹心にして、コスモエッジ隊のトルマ・ウォックも知らないから、12人中4人が知らないわけだ。

「あれ、この事って社会の常識じゃないの?」

 ルビナスが怪訝そうに言う。

「いや、そこまで言うほどじゃないと思うぞ・・・。」

 タクトがあせりながら言う。

「そういえば、フォルテ。焼き鳥ってどこで手に入れたんだ。」

 今作で初登場となる3人目の副官、アジス・シャルマーニュ(以下アジス)が口を開く。ここにはいない副官、クーラの友人だ。

「ああ、あそこで売ってるよ。」

 フォルテが指し示した方角には屋台があった。

「あれ、あんなところに屋台があったっけ?」

 ランファが怪訝そうに言う。

「いらっしゃいませ〜〜!」

 屋台のおじさんが調子よさそうに声をかける。その顔は・・・

「えっ、ウォルコット前隊長ですか?」

 ちとせが驚いた。

「なんで、この人が・・・。」

 アジスも驚いた。普通の感覚なら無理もない。ちとせとアジスは「白き月」では一般人の感覚を持っている方だ。

「あ、はい。屋台があった方が海の感覚が出るとマイヤーズ司令が。バイトさせてもらっています。」

 ウォルコットが飄々とした態度のまま返答する。

「そうかい、じゃあ焼き鳥はあるかい?」

「はい、ただ今。」

 フォルテは驚く連中を尻目にさっそく注文する。

「う〜ん、いい匂い。けっこう焼き鳥を焼くのが得意なんですね。」

 ルビナスも普通ならびっくりする光景をものともしない。

「さすが、マイヤーズ司令。屋台を出させるなんていい発想力ですね。」

「いや〜、そうかい。そんな事・・・あるかも。」

 サフィエルのよいしょにタクトもまんざらではないようだ。

「しかし、残念だわ・・・。クーラさん、用事があって来れないなんて・・・。」

 いつもはうるさいランファがあまり口を開かなかったのはこんな理由だ。

「あら、クーラねえ・・・。」

 アクアが意味深な笑いを浮かべる。

「な、何よ。」

 ランファがムッとする。

「確かにクーラなら海やプールなんて着たがらないでしょうね。」

「・・・アクアさん、もしかして・・・クーラさんって泳げないんですの?」

 ミントもクスリと笑いを浮かべる。

「ええ、あの人、昔から泳ぎだけは全くダメで・・・。」

「まあな、あいつは海の話をするとちょっと顔が引きつるからなあ。」

 アクアとクーラの友人であるアジス・シャルマーニュが説明する。

「酸素ボンベと水中メガネさえあれば海の底は歩けるのにって言っていたなあ。」

 アジスが愉快そうに続ける。

「・・・まるで、カバみたいですね・・・。」

「え、カバって?」

「カバは川を渡る時、泳ぐのではなく水底を走るのです。」

「ハハハ、カバか。そりゃおかしいや。」

 ヴァニラとトパーがカバの話で盛り上がっていた。

「わー、ヴァニラって悪い奴だ。クーラ准将に言いつけちゃお。」

 ルビナスが通信器具を取り出そうとする。

「そうはいくか〜〜!」

 トパーはルビナスにチョークスリーパーを決める。

「いや〜〜〜〜、離して〜〜〜〜。」

 ルビナスがもがく。

「ふと、気づいたんだけど、ジルコもいねえな。あいつは?」

 トパーが尋ねる。

「私が誘いにいったのですが、断られてしまいました。」

 ちとせが説明する。トパーはそれを聞いてやっぱりと納得した表情をした。

「そういえば、ロマネティ副司令っていつもあんな感じよねえ。」

 ランファがぼやくように言う。

「まあ、副司令としての仕事はキチンとこなしているよ。ただ、仕事以外でのコミュニケーションが全くないってのも不気味だねえ。」

 フォルテは口では言うが、彼の有能な仕事ぶりは心ではすごく評価していた。タクトが部下と十分なコミュニケーションが取れるのも、有能な副官という縁の下の力持ちがいるからだ。しかし、ここまで部下とコミュニケーションをとりたがらない上司は、フォルテの長い軍隊経験から見ても初めてだった。

「そうですわね、ロマネティ副司令は頭部に精神波遮断装置をお付けになっていらっしゃるからあの方のお考えもわかりませんわ。軍からのスパイである可能性もありますわね。」

 ミントもやれやれといった調子で肩をすくめる。

「一体、あの人は何を考えていらっしゃるんでしょうか?」

 ちとせも訝しげだ。

「よっぽど知られたくない事があるのかもね・・・。恥ずかしい秘密とか・・・。」

 アクアがぼそりとつぶやいた。

「あるいは単に極度の人嫌いかもな。ラピスさん、なんか知らないか?」

 サフィエルが軽い口調で聞いてくる。

「え・・・、あの人って結構プライベートを言わないから・・・。」

 ロマネティ家の使用人で、今はコスモエッジ隊にいるラピスでさえもこの調子だ。

「そうですか・・・。実は私もこんなことがあったんです・・・。」

 ミルフィーが落胆した顔をする。

 

 ミルフィーの回想シーン。

 ミルフィーとジルコが廊下ですれ違う。

「ロマネティ副司令、こんにちは。」

「ん。」

 ジルコは軽く言った。

「あの、ロマネティ副司令。私、ケーキを作ったんですけど食べませんか?」

「いらん。」

 ジルコは無表情のまま返す。

「そうですか・・・。」

「用件はそれだけか、桜葉中尉。」

 ジルコは相変わらず無表情だ。

「あ、はい。あと、私の事はミルフィーって呼んで下さい。」

 ミルフィーはジルコの雰囲気に圧倒されながらも優しく微笑みながら言う。

「断る。私はお前達と友情ごっこをしに来たのではない。」

「あ、あの・・・。」

 ジルコはミルフィーに反論を与える間もなく去っていった。

 

「・・・というわけなんです・・・。」

 ミルフィーの回想は終了した。

「いかにもあいつらしいな。ハハハ。」

 トパーが笑いながら言う。

「笑い事じゃないわよ、アンタ、ちゃんと言っておきなさいよ。」

 ランファがトパーの軽薄さに怒りを覚えた。

「いや、俺が言ってもあいつは無理だと思う。ああいう奴だもん。」

「本当に頼りないわねえ・・・。」

 ランファは呆れて物が言えなかった。

「ああいう人は何を言っても無駄さ。自分で気づくのをまつしかないよ。」

 アジスもすっかり諦めモードだ。

「そうね・・・、あと、トパー大佐。」

「どうした、アクア。」

「あの、ルビナスが大変な事になっています。放してあげた方がいいと思いますよ。」

 トパーがルビナスの顔を見ると

「あ。紫色だ。」

 トパーはルビナスにチョークスリーパーを決めていたことをすっかり忘れていた。

「・・・どおりで静かだと思ったよ・・・。」

 トパーの部下、トルマ・ウォックが口を開く。

「・・・宇宙クジラというのは人肉でも食うのか?」

 エメードがまたしてもえげつないことを言う。

「仕方ねえな……。トルマ、こいつを医務室まで引っ張ってやれ。」

 トルマはルビナスを引きずっていった。

 

 

 クジラルームの出来事から数日後、アクアはシミュレーションルームで訓練をしていた。

「やあ、調子はどうだい。」

 そこに、タクトがやってきた。

「この子、スジがいいよ。これなら実戦でも十分使えるよ。」

 フォルテからおほめの言葉をいただいた。

「フフ、おほめにあずかり光栄です、フォルテさん。」

 アクアは柔らかな笑みを浮かべた。

 ヴァル・ファスクとの決戦後に発見されたGA−008「マーメイドシンガー」は、アクアを適正者として選んだ。

 マーメイドシンガーの特徴は、徹甲兵器による攻撃―――つまり、敵艦隊の装甲効果を減らす兵器による攻撃であり、固い戦艦ほど効果は高い。機動性も、ラッキースターに負けないほどである。回避性能も、紋章機の中ではまあまあ高い。しかし、マーメイドシンガーの装甲自体はそれほど高いものではなく、また射程も短い。そのため、敵艦に接近するまでどれくらい攻撃をかわせるかが最大の鍵となる。逆に、一度接近してしまえばマーメイドシンガーに機動性で勝てる艦船がほとんどない現状の元では強力だ。この性能から考えると、突撃艦や高速戦艦を相手取るのに特に有効だ。逆に射程や攻撃力がありながら装甲が薄いミサイル艦なんかだとあまり有効ではない。

 必殺技も二種類ある。一つは、サポート系である「ブレイブソング」だ。この技を発動すると全ての紋章機とエルシオールが、1分間攻撃命中性能と回避性能が上昇するのだ。もう一つは、直接攻撃系の「ホーリーリグレット」だ。この技は、敵艦に接近して、杭を打ち込み、指向性爆弾により装甲を無視したダメージを与える技で、2発分発射される。相手が重装甲の艦船に特に有効だ。

「じゃあ、休憩でもとらないかい。」

 タクトの一言でフォルテとアクアはティーラウンジに移動した。

 

 ティーラウンジにはタクトとエンジェル隊、コスモエッジ隊が集まっていた。

 ミルフィーがケーキを持ってきた。

 そして、みんなが美味しく食べていると・・・

「ミルフィーの作るケーキってホントに美味しいわね。」

 アクアが感想を漏らす。

「ありがとうございます、アクアさん。」

 ミルフィーが満面の笑みを返す。

「ええ、これはプロ級と言ってもいいと思いますよ。」

 クーラもまんざらでもないといった表情をする。

「わーい、みんなにほめられちゃった。これで目標はあと一人です。」

「え、ミルフィー先輩。誉めない人がまだいるんですか?」

 ちとせが驚いたように言う。

「その人って・・・この無表情さから難関そうなヴァニラですか?」

 ルビナスがヴァニラを見た。

「え、違いますよ。ルビナスさん。ヴァニラはちゃんと美味しいと言ってくれますよ。」

 ミルフィーが答える。

「本当ですか〜〜〜〜?」

 ルビナスが疑わしそうな目で見る。

「本当ですよ。疑っているんですか?」

 ミルフィーがルビナスをにらむ。

「口で『・・・おいしいです。』と言っているけど、表情を考えると事務的な感じじゃないですか。本当にそう思っているのかなあって気になりません?」

 ルビナスも反論する。

「まあ、言われてみるとわからなくもないな・・・・。」

 タクトもそう思っているようだ。

「うーん、ルビナスの言う事にも一理あるわね・・・。」

 ランファもうなずく。これは、ここにいる人間のうち大部分がそう思っているだろう。

「あーーっ、ルビナスさん、それってヴァニラに失礼ですよ。」

 ミルフィーが怒る。

「ねえねえヴァニラ。そのケーキを食べて感想を言ってみて。」

 ルビナスがヴァニラに言う。

「・・・おいしいです。」

 ヴァニラはルビナスの言う通りにやった。

「・・・やっぱり、そんなに嬉しそうという感じはしませんねえ。」

 ルビナスがヴァニラを見ながら言った。

「・・・まあ、これがヴァニラの表現方法なんだよ。」

 タクトがやや苦しそうな表情でフォローする。

「人間、色々あるという事だな・・・。」

 トパーも、そんな感じだ。

「まあ、ヴァニラよりも、ミルフィーのケーキを気に入らないってどんな奴だい?」

 フォルテが聞いてくる。

「はい、実はロマネティ副司令なんです。」

 ミルフィーが答える。

「てか、あの人の事だ。食べてもくれないでしょうね。」

 クーラが苦笑する。

「これには毒が入ってるんじゃないかとか考えてるのかも知れませんよ。」

 ルビナスが冗談交じりに言う。

「それは言い過ぎではないかと・・・。」

 ちとせはこういうセリフにはあまり慣れてない様だ。

「いや、ちとせちゃん。あの人なら有り得る。」

 サフィエルはシャレにならないセリフをいう。

「それがシャレにならないからな、あの人は・・・。」

 アジスも苦笑する。

「ふーん、何かヤな感じだねえ。」

 フォルテも渋い顔をする。

「なんかなあ・・・。」

 タクトも驚きを隠せない顔をする。ここまで自分と正反対の人間はざらにはいないことだろう。

「トパーさん、ロマネティ筆頭副司令の好きなお料理ってわかりませんか?」

 ミルフィーはトパーに尋ねた。

「あいつのか・・・。・・・そういえば、あいつの好きな物はわからんなあ・・・。」

 トパーもわからないようだ。

「あいつと一緒に食事した事なんてないからなあ。いつ食ってんのかもわからないし・・・。」

 ごまかし笑いをしながら言う。

「ホント、頼りにならないわねえ。」

 ランファが呆れたように言う。

「そうですわねえ。あの方は精神遮断装置を頭につけてらっしゃるせいか心が読めませんわねえ・・・。それに、私達を避けるようなお振る舞いも目立ちますね。」

 ミントもジルコ・ロマネティには苦戦しているようだ。

「あの人か・・・。私は無理に仲良くしようという考えには反対ですね。」

 クーラがボソリと言う。

「え、どうしてですか?」

 ミルフィーが聞いてくる。

「皆さんの話を聞いていますと、彼の場合は人見知りをするというよりは、単に人嫌いな感じがするんですよ。というのもですね・・・」

 クーラはここで話を切って続ける。

「ちとせさんとエンジェル隊の初期メンバーのみなさんの馴れ初めから考えても、ロマネティ筆頭副司令は本当にエンジェル隊の皆さんと仲良くする気配すらないとしか考えられないんですよ。」

 続けて言う。

「それにあの人って、暇さえあれば研究室か部屋に引きこもっているらしいからなあ。あと、彼の部屋の近くに監視カメラをやっているらしいですからね。・・・そのくせ人事の偉い人や大将クラスの人にはやたら愛想がいいし・・・。出世主義者かもしれないよ。」

 アジスは驚くべき事を言った。

「なるほど・・・。あの方ならありえますわね。」

 ミントがさらに呆れたように言う。

「それにしても、俺たちってもしかして警戒されているのかなあ?」

 タクトがびっくりした表情で言う。

「まあ、タクトやあたし達は奴から見れば最も理解しがたい存在だしなあ。様子見した方がいいかもな。」

 フォルテがタバコに火をつけながら淡々と言う。

「アクアは何かありませんか?」

 クーラが困ったようにアクアに聞く。

「そうねえ・・・。私から見てももう少し様子を見た方がいいと思うわ。・・・ただ、ミルフィーやタクトさんは、仕事以外でロマネティ副司令に話しかけない方がいいと思うわ。他の人たちは普通に対応すればいいと思う。」

 アクアの解答はこうだった。

「確かに、うまいやり方ですわね。タクトさんやミルフィーさんはちょっと免疫が出来るまでは遠慮するのがオススメですわ。」

 ミントの答えに、ミルフィーとタクトを除く全員が賛成した。

 

 

 数日後、アクアが部屋に戻ると、留守電が入っていた。

「アクア・マーリンだな。私はジルコ・ロマネティ副司令だが、とても大事な話があるので一人で宇宙銀河公園まで来て欲しい。こちらにはトパー・バーンシュタイン隊長と、クラウゼル・アプゾリューザイト副司令、ラピス・ラズリ隊員が待機している。では。」

 そう言って切れた。

「トランスバール暦413年3月1日、午後、7時32分。」

 機械のメッセージはアクアが留守になるのを狙ってかけたものと推測される。

「何か機密事項でもあるのかしらねえ・・・。とにかく行かないと・・・。」

 アクアはそう言って出かける。ただし、まずはクーラの部屋へ向かってからだ。嘘情報に騙される可能性も考えての事だ。

「こんばんは、アクア。」

 行く途中で、クーラに会い、クーラが声をかけてきた。

「あれ、クーラ?」

 アクアは疑問に思った。

「ねえ、クーラ。ロマネティ筆頭副司令に呼ばれなかった?」

 アクアが唐突に効いてくる。

「ロマネティ筆頭副司令にですか?ええ、呼ばれましたよ。」

「その場所は宇宙銀河公園よね?」

「ええ・・・。アクアにとって悪い話じゃないですよ。・・・あとは向こうで。」

 クーラは薄く笑うと去っていった。

 

 そして、アクアが到着するとそこには、ジルコ、トパー、クーラ、ラピスがいた。

「ご苦労、マーリン少尉。」

 ジルコは重々しく返事した。

「ご用件は何でしょうか?」

 アクアが尋ねる。

「そうだな・・・、と、その前にだ。」

 ジルコは何やら取り出した。そして、それをおもむろに草むらに投げた。

パンッ

 何やら破裂音がした。

「わっ、何だこりゃ。汚ね〜〜〜。」

 草むらからフォルテが出てきた。

「フォ、フォルテさん!?」

 アクアが驚きの声を上げる。

「何のつもりだ、貴様。あと、そこに隠れている連中。」

 ジルコは草むらに向かっていった。

「あ、ああ・・・。こりゃ偶然だよ、偶然。」

 フォルテはごまかし笑いした。

「ほう、6人一緒に固まって偶然なのか?」

 ジルコは馬鹿にしたような目つきをする。

「・・・それより、これは何だい。・・・うっ、クサ!!」

 フォルテが顔をしかめる。

「当然だ、それは仕置き用の匂い球だ。大変水に溶けにくい成分のため、その匂いを取りきるのに2週間はかかる。」

 ジルコが淡々と説明する。

「貴様らも喰らいたいか?早く出て来い!」

 ジルコは草むらに向かって言うと、他の5人も出てきた。

「そろいもそろって何のつもりだ?」

 ジルコはアクア以外のエンジェル隊員をにらみつける。

「ちょっと気になっただけですよ。」

 ジルコの反応に慌てるミルフィー。

「だから、勝手に覗いていいと言うのか?それが貴様らの論理か?」

 ジルコが冷たく言う。

「私たちには秘密にしておかないといけない内容ですの?」

 ミントが怪訝そうに尋ねる。

「なぜ、貴様らに話す必要がある?それとも何か?貴様らは人の事なら何でも知る権利があるのか?ん、いつから貴様らはそれほど偉くなったんだ?」

 ジルコが理詰めに反論する。

「ちょっと、いくら何でもそこまで言う事ないじゃない。」

 ランファが言う。

「黙れ、貴様らは今重大な人権侵害を犯したのだ。反省の弁もないとは最低だな。」

 ジルコは淡々と言い返す。

「くっ、この!」

 ランファが怒りを抑えきれないが、彼に理がある事はわかっているのだ。

「何だ、ケンカなら受けてたってやってもいいんだぞ。」

 ジルコは見下しきった目をする。

「あんまりです、ロマネティ副司令。それは、覗きはいけない事ですが・・・。」

 ちとせが反論する。しかし、どこか弱々しい感じだ。

「貴様は少しわかっているようだな。それなら聞くが、貴様が裸になってシャワーしているところを誰か男に覗かれてもそんな弁解を受け入れられるのか?」

「それは・・・。」

 ちとせは状況を想像し、顔を真っ赤にしながら口ごもっていた。

「そうだろうな。それが普通の反応だ。」

 ジルコは一切の容赦をしない。

「不愉快だ。・・・マーリン少尉、私の部屋に行こう。お前らもだ。」

 ジルコはそういって、アクア、クーラ、トパー、ラピスを部屋に連れて行った。

 

 

 こうして、場所を移した5人組。

「ロマネティ副司令、結構怖かったですね。」

 ラピスがからかい半分といった感じの表情で言った。

「私が何か間違った事を言ったか?」

 ラピスを睨みつける。

「いえいえ。・・・そんなに睨まないで下さい。」

 ラピスはあせる。

(全く、神経質にも程があるんだから・・・。本当に怖い人だ。)

 クーラは心の中でそう思った。

「まあいい、実は君に話があるといったろう。」

 アクアの方に向き直る。

「はい・・・。何でしょう?」

「ふむ・・・、これにサインしてくれないかな?」

 ジルコはおもむろに色紙を出した。

「え・・・。」

「ん、どうかしたのか?」

「ちょっと待てよ、ジルコ。唐突だなあ・・・。」

 トパーが慌ててフォローする。

「これの意味はわかるだろう?」

 ジルコは首をかしげる。

「状況が状況ですからね、いきなりでアクアも飲み込めてないんですよ。アクア、ロマネティ副司令が何を言いたいのかよく飲み込んで下さいね。」

 クーラも慌ててフォローする。

「えと・・・、私のサインが欲しいんですよね?ロマネティ副司令。」

 アクアもようやく事情が飲み込めたようだ。

「そうだ。」

 ジルコは短く返答する。

「わかりました。」

 そう言って、アクアは色紙にサインを書いた。

「どなた宛にしますか?」

「ああ・・・、・・・私宛にしておいてくれ。」

 ややぎこちなく答える。

「えっ、ロマネティ副司令宛にですか?わかりました。」

 アクアはそう言うと、さらに書き加えて渡す。

「うむ、あ、ありがとう。」

 ジルコは柄にもなくアイドルマニアなのだ。

「ねっ、よっぽど知られたくなかったってわかるでしょ?」

 ラピスがアクアに耳打ちする。

「別にいいと思いますけど・・・。・・・確かに意外ですね。」

 アクアもラピスに耳打ちする。

「ロマネティ副司令。サイン会には握手がつきものですよ。」

 そう言ってアクアは手を差し出す。そして、握手。

「あ、ああ・・・。」

 ジルコはアクアのペースにはまったようだ。

(ほう...、暖かいな...。)

 ジルコはぬくもりを感じていた。

「フフフ、お気に召しましたか?」

「ああ。・・・そうそう、君に一つ聞きたいことがある。」

 ジルコはすぐに気を取り直して聞いた。まるで何事もなかったかのように。

「君は、今の皇国の政治やシャトヤーン様について正直言って、どういう意見を持っているか良かったら聞かせてくれないかな?・・・もちろんどんな答えでも通報したりはしないから安心したまえ。」

 冒頭で女性研究員にしたのと同じ質問だ。ただし、表現がかなり軟らかくなっている。

「そうですね...、私個人は今の平和な世界は好きです。シヴァ陛下もとても強い意志とすばらしい理想を持っていらっしゃいます。シャトヤーン様も素晴らしい方だと思います。ですから、紋章機のパイロットに選ばれて幸せです。私は、マーメイドシンガーとともにシャトヤーン様をお守りしたいと思います。」

 アクアの解答も冒頭の女性研究員と同じく、賛同の意を示しているようだ。

(なるほどな・・・。さすがに甘ったるい考えからは抜け出せないか・・・。まあ、やる気があるだけマシか。)

 ジルコは心持ちややがっかりしたようだ。

「でも・・・・。」

「どうした?」

 ジルコは思わず声をかけた。

「正直言って、今の皇国の考えの中には危険な側面があると思います。」

(ほう・・・。)

 ジルコの顔色が変わった。

「それで、どう思いますか?」

 クーラが待ってましたといわんばかりの表情をした。アクアが立ち上がると、

「そうね...、私は平和主義の思想自体は好きです。でも、正直言って大丈夫かなあという部分があると思います。例えば、エオニア戦役の後、エンジェル隊が惑星を守るためにトランスバール中に散らばっていった時期がありましたよね。そして、ヴァル・ファスクのネフューリアという女の手で惑星レナミスは壊滅し、トランスバールの大部分が一時期あの女の手に入りかけ、結局、ヴァル・ファスクは打ち破ったけど、多くの犠牲が出ました。」

 アクアの話にみんなうなずいている。

「エオニア戦役の犠牲はどうしようもなかったけど、ヴァル・ファスク侵攻の犠牲は防げたはずです。エオニア戦役から半年、ルフト宰相は軍の復興をうまくすすめていました。でも、『白き月』のロストテクノロジーをもっと復興に注いでいれば、今より強い軍隊ができて、ネフューリアにトランスバールを手に入れられかけることもなかったかもしれないのではないかと思います。なぜなら、皇国軍自体はネフューリアの率いた艦隊に善戦していました。皇国を守り通すまでにはいきませんでしたが……。皇国軍が一番悪いかもしれないけど、シャトヤーン様が手を貸してくださっても良かったと思います。そうすれば、侵攻されて犠牲者が出る事もなかった可能性が高いと思います。」

 言い終えたアクアが座る。

(うんうん、彼女はただの愚か者とは違う。)

 ジルコは満足そうにうなずいていた。

「なるほどな・・・。ひょっとしたら、シャトヤーン様は俺たちを警戒しているのかもな。」

 トパーが珍しくまじめな顔をする。

「やっぱ、先代のジェラール陛下が『白き月』を占領したもんだから、俺たちが信用できなくなったんじゃないかなあ?ジルコ、クーラ、お前らはどう思う?」

 でも、口調は軽いままだ。

「一理あると思います。だから、我々皇国軍にはあの程度の装備しかお与えにならないのかもしれません。ジェラール陛下といい、エオニアといい、力に溺れた方々ばかりですからね。力は人を変える、か・・・。そうなのかもしれませんね。まあ、正直私はシャトヤーン様が惑星の惨状を実感していないと思いますがね・・・。」

(最も、エオニアもジェラール陛下もただの馬鹿なんでしょうがね……。)

 これは、クーラの意見。苦い表情からは、彼も皇国軍の軍備増強を願う人間であるという事が現れである。

「私もトパーやクーラの意見に賛成だ。・・・まあ、シャトヤーン様は皇国よりも、自分の理想が大事ではないのかな?どうせ、皇国が滅びたら逃げればいいだけだし・・・。」

 ジルコが嘲笑しながら言う。

「ジ、ジルコ。それはちょっと言い過ぎじゃないか。」

 トパーもさすがにあせっている。

「この部屋のセキュリティを考えれば慌てる事はないぞ、トパー。それに、私はむしろこれはつじつまが合う意見だと思うぞ。何せ、皇国軍がこれだけ弱っているのに、『黒き月』を再生しようとも、もっと強力な軍を作り上げようとしないのも、軍を、ひいては皇国を自分の操り人形みたいにしたいからじゃないのか?」

 ジルコが嘲笑したような顔をする。

「ロマネティ副司令、それはひどいと思います!・・・シャトヤーン様がそんな事をお考えなら、最初からトランスバールにロストテクノロジーを恵与なさらないと思います。」

 アクアが激高する。彼女にとっても、シャトヤーンは尊敬の対象なのだ。

「なるほど、ただ、確証もないのに信用するのも問題ですね。影で何をやっているかまでは知りようもないですしね。いいですか、アクア。嘘のうまい人間は世の中にいっぱいいますよ。ロマネティ副司令も、トパー大佐も推測で人を語るのは避けた方がよろしいですよ。特にお偉方に関しては。極端な話、深い考えもなく、ただ皇国と付き合うのに飽きられたから潰れるのをお待ちになっている可能性から、我々に気づかれないように皇国全体を守るための強力な兵器を作成なされている可能性までも考慮する必要はあるんですよ。」

 クーラは、淡々と言う。

「クーラらしい慎重な意見ね。でも、他の人ならともかくシャトヤーン様にまでそういう物の見方をしているのはちょっと感心できないわ...。」

 アクアとしては、感情的には受け入れられないようだった。

「でも、信頼できる根拠はあるかといえば、ないでしょ。カリスマの実態なんかについてほど明らかにされてないものはないんです。」

 クーラはなぜか微笑を浮かべながら言う。自分の意見への自信の表れなのだろう。

「お前もうがった見方をするなあ...。まあ、ジルコよりはマシだけど...。」

 トパーも呆れたように言う。

「何言ってんだ、信用できる人間なんてこの世にどれくらいいると思ってるんだ。」

 ジルコが強調する。

「『愛は万人に。信頼は少数の人に。』ですね。」

 クーラが微笑みながら言う。

「クーラ准将、有名な格言ですね。」

 先ほどから黙ってトパーの護衛に余念のないトルマがニヤリと笑う。

 そしてしばらく話しをした後

「今日はもうお開きにしよう。」

 ジルコの提案により、お開きになった。