“妹からの送信メール”

拝啓姉上様、あたしどうにもとんでもない職場に就職してしもたみたいです。

ていうかぶっちゃけこのままやとシャレ抜きで死んでしまいそうな予感でいっぱいです。

ほんまにそろそろ手に職つけてください。

今言えることはただ一つ、助けてください!!







異世界の住人〔外伝〕
後編
「助けてください!」







「あんた・・・・・目の下すごいクマだよ?大丈夫なのかい・・・・・?」

前回からの翌日、結局あれ以降カナは一睡もできず手の感覚がなくなるまで着ぐるみの製作をさせられていたらしい。

「全然な〜〜んも問題ないですよ!!」

早朝のコンビニ店員などにみられる眠気を通り越した変なハイテンション状態。

「問題ない・・・・・・・はず?・・・・・・あれ、ない?・・・・・・・・・ない訳ないやん・・・・・・・・」

そして徐々にテンションダウン。

「ま・・・まぁ、あんまり無理しないことだね・・・・・・・・・」

ぶつぶつと呪詛の様につぶやくカナの姿に少したじろぎながらフォルテは曖昧に励ますことにした。

「は・・・・・・はい!」

すると、以外にもカナからは小気味のいい返事が返ってくる。
決して体調が急に良くなった訳ではない、だがカナにとって単純にフォルテの気遣いが嬉しかった。
初日だけでもウォルコットは別としてエンジェル隊からはロクな扱いを受けていない。
しかし思い返してみればフォルテだけはミントから危うく拷問を受けそうになった時も助けてくれたし、ミントに対して異常に怯えていた時もやさしく諭してくれた。
このエンジェル基地に来てからのエンジェル隊の非常識さの中でのフォルテの親切さが輝いて見えた。



「で、今度はあたしの番なんだけど正直案内ってのはどうにもめんどいしね〜〜・・・・ま、適当に射撃でも教えるか」

「はい、お願いします!」

あまりに素直すぎる上に敬語なため、ここだけ読んだら本当にカナなのか疑わしくなりそうだ。


そうして二人は射撃場へとたどり着いた。
そこにあったのは射撃用の的・・・・・と・・・もはや重量級という言葉では済まされそうにない見るからに重そうな大砲だった。

「さ、撃ってみな!」

「・・・・これ多分人が担げるような重さちゃいますよね?なんかどっちかというと戦車とかに装備されそうなくらいドでかいんですけど・・・・・・・・・」

「こんくらい楽勝だって、よいしょっ」

まるで床に置いてあるバッグを拾うかのように軽々と大砲を担いで見せる。
それを見てカナは一瞬見た目よりずっと軽いのかもという考えがよぎった。

ドスッ!!

「ほれ、やってみなって」

しかし大砲を床に降ろした時の重量感たっぷりの音がカナの甘い考えを見事に破壊してくれた。
正直この時点でフォルテに対して「やはりこの人もどこか普通じゃない」という感情を抱いていたが、すぐにその考えを前向きに考えようともしていた。
重要なのはその能力ではなく人格だ、むしろこの危険なエンジェル隊の中では頼もしいくらいだ。
この人は自覚のない常軌を逸した怪力を持っているだけで単に射撃を教えてくれようとしているだけなのだと。

「あ・・・・・・あたしにはちょっとその重さは無理かな〜〜、とか思てたりするんですけど・・・・・」

「なんだよ、だらしねえな・・・・・じゃ、とりあえずこれ持っときな」

そう言ってカナが手渡されたのは射撃などに使われる一般的な円形の的だった。
これを手渡されたときの『持っときな』というフォルテのセリフに違和感と不安を覚えた。
的とは本来矢や弾を当てるために自分とある程度離れた距離に設置しておく物だ、その的を『置いておけ』ではなく『持っておけ』とはどういう意味なのか・・・・・・・・?
もちろん何の根拠もないただの憶測だ、しかし確実に漠然とした不安がカナを支配していく。

「う〜〜ん、やっぱりあたしくらいの達人になると目をつぶってても的のど真ん中に当たっちゃうんだよ」

「そりゃ、その大砲やったら5cm〜10cmどころか1mくらいズレても的は粉微塵でしょうねえ・・・」

どう見ても尋常ではない銃口の広さに流石にツッコミを入れざるを得なかった。

「そこでだ、そろそろ動く的が欲しいな〜〜とか思っちゃう今日この頃」

シャキンッ という小気味良い音と共に大砲の銃口は確実にカナのほうへと向けられている。

「ちょちょちょちょ・・・・・・・・死にますて!!仮に死なんかったとしても腕やら何やら色々なくなって血だらけの18歳未満お断りなひどい状況になりますから!!!」

なりません。どんなダメージでも全身黒コゲの頭ちりちりアフロで済むのです。

「大丈夫だって、ちゃんと的に当たるから」

「どのみち爆発しますから!!あきらかに爆発しますよねその大砲の弾ちゅうかミサイル!!?」

「・・・・・・・・・えい☆」




ドォンッ!!

「ギャ――――――――――――!!!」

迷うことなくカナはミサイルから全速で逃げ出し廊下の角を曲がった。
こうすることで直進しかしないはずのミサイルは何と避けられると思ったからだ。

ギュンッ!!

しかし、さも当然かのようにミサイルは方向転換し再びこちらに向かって飛んでくる。

「えええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」

「いや〜〜、追尾型の大砲手に入れるのには苦労したよ〜〜」



「いや、もうその時点で射撃の意味ないし――――――――――――!!!」













「ぜぇ・・・・ぜぇ・・・・・次、H先輩の所行って最後やな・・・・・・・」

ヴァニラ・H、一見したところ妙にブサイクなぬいぐるみを抱いていたこと意外はこれといって際立つ所もなく、大人しそうな雰囲気の少女だった。
もうこの際、頼りになる云々を期待している場合ではない。
一人でも多く自分に無害な人間を見つけなくては、徐々にそして確実にカナの精神は追い詰められていた。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ヴァニラの自室を訪ねたカナは扉を開けた時点で直感した『全滅だ、エンジェル隊にまともな人間なんて一人たりともいやしねえ』と・・・・・・・・・・・・
しかし直感したというのは正しくない、なぜならヴァニラの部屋に繰り広げられている光景が既に普通ではないからだ。
まず最初に目につくのが大仏、それだけならただの仏教徒だ、しかし次いで阿修羅像、キリスト像、ユダヤ像、ヒンドゥー像、その他見たこともないような像が部屋中におぞましいほど設置されていた。

「あなた何教なんですか!?こんなミックス宗教みたいな光景、各教徒の人たちが見たら怒り狂いますよ!?」

「・・・・・・大凶(教)・・・・・・・・」

「うわ、またそんなお決まりな・・・・・・・・・・・・」




『まったく、人の部屋を訪ねてきて早々騒がしい方ですね・・・・少しはヴァニラさんのおしとやかさを見習って欲しいものですね』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!」

すると、部屋の中央に立っているヴァニラとは別に機械的な声がどこからともなく・・・・・・否、ヴァニラの抱えているブサイクなぬいぐるみから聞こえてくる。
あるはずのない状況に思わずカナは口をぱくぱくさせながらノーマッドの方を指差す。

「何?呪いの人形か何か?エンジェル隊っていうんは人間だけでなくて所有物まで普通とちゃうん!?」

『口の利き方には気をつけなさい、いいですか?あの馬鹿でマイペースで無鉄砲でわがままで世の中自分を中心に回っちゃってるみたいに勘違いしてておよそ理性という言葉とは縁遠いあの連中とヴァニラさんを同列に考えるという時点でこれはもう大罪としか言いようがありません。見てみなさいこのヴァニラさんから発せられる一点の曇りも見当たらない清々しいオーラを・・・・あの連中の汚れまくってもはや原型すら分からなくなってるどす黒いオーラとは天と地、いや宇宙とアリほどの差だ・・・・・・あぁ、やはりあなたは素晴しいですよヴァニラさ〜〜ん!』

もちろんカナはノーマッドがロストテクノロジーであることは知らないのだが、とりあえずこの無駄口の多さと軽さからとりあえず呪いの類ではないだろうと考えた。



「あなたに神の祝福を・・・・・・」

パァ・・・・・・

ふいにヴァニラがそうつぶやいた瞬間周りの銅像が輝きだし、部屋が光に包まれる。










徐々に光がおさまったので目を開いたカナの瞳に写る光景はヴァニラの部屋ではなくエンジェル基地のどこにでもある普通の通路だった。

「あれ・・・・・?あ、桜葉せんぱ〜〜い」

突然の現象に困惑していたところに特徴のある桃色の髪に花のカチューシャをつけた人物の後姿が見えたため現状を尋ねるためにその人物の元へと歩み寄った。

「あの、H先輩は・・・・・・・」

そこで言葉に詰まる。
理由は二つ、一つは3メートル以上距離があったため気づかなかったミルフィーユの異常に気づき絶句したため、二つ目は例え絶句しなかったとしてもこれ以上言葉を続けても無意味だから。

「あっれ〜〜・・・これまさか本物が呪いでとかそんな展開・・・・・・・?」

遠目で見ると分かりづらいが近くで見るとすぐに分かる、目の前にあるのはミルフィーユのカツラと軍服を着用したこけしだった。

すると不意に不穏な気配を感じたため周りを見渡した瞬間

ヴァニラ意外のエンジェル隊、その他にもツインスター隊やウォルコット中佐やメアリー少佐、その他にもエンジェル基地に勤めるほとんど・・・・・・・・・の姿をしたやはりこけしがカナの周りをいつの間にか囲んでいた。

「恐っ!なんかもう素で恐っ!!」

『まったく・・・・他のエンジェル隊に負けず劣らずなんて礼儀知らずな人だ・・・・・いかがです?これこそヴァニラさんの理想の世界です。まぁ、理解できないなら理解できないで良いんですよ?理解するためにもぜひヴァニラさんの宗教に参加すべきかな〜〜とか、っていうかぶっちゃけこの世界から抜け出したいなら参加した方が身のためだと思いますよ?』

「強制的宗教の勧誘!?もう嫌―――――――――――!!!」










――――――――――――――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・

そこでカナの意識は途絶えた。









「んっ・・・・・・・」

わずかに開かれるカナの視界に映ったのは相も変わらず奇妙な像だらけのヴァニラの部屋だった。

「・・・・・・坦坦麺(たんたんめん)・・・・・・」

その傍らにヴァニラが正座で訳の分からないことを口走っているが、とにかく自分の身が無事であることを喜びながら気だるいゆっくりと起こす。

「・・・・・・ッ!!」

しかし、そんな喜びもつかぬ間自分を看病しているヴァニラすらもこけしになっていた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
↑声にならない叫び

「アーメン(あ〜麺)」

「(え!?実はキリスト教!!?)」
↑本能のみのツッコミ











数々のエンジェル隊によるハプニング、このままではわずか2日でせっかくの職場を辞めてしまうかもしれない。
そっちの方が楽なのかもしれないが、そんな事はこれまでフリーターとして食いつないできたカナのプライドが許さなかった。


そこでアドバイスを貰うべくかつてエンジェル隊に所属していたという『千の持病を持つ女』や『病弱な元気娘』の異名を持つ人物の元へと向かうことにした。





―――――――――――とある茶室―――――――――――


「くすくす、それはまたずいぶんと派手にエンジェル隊の洗礼を受けましたね」

「はい、もうこれでもかってくらいド派手に・・・・・・」

もちろんその人物とは現在ツインスター隊に所属している烏丸ちとせのことである。

「あら、私としたことがっ!今すぐお茶を・・・・・・・・・・・・」

「いえ別に・・・・・・」

「入れてもらえます?」

「は、はぁ・・・・・・・」

それはもちろんカナは後輩の立場なのでお茶を入れるくらい普通といえば普通だが、一応客人の対場でもあるため妙に理不尽な気分にならざるを得なかった。


「それにしても懐かしいなぁ、私もあの頃は色々とあったっけ・・・・・色々と・・・・・・・・」

「・・・・烏丸先輩・・・・過去を懐かしむさわやかな笑顔とは逆にメッチャにぎり拳に力入ってますよ?」

どうやらちとせの言う『色々』の中にもロクなものは含まれていないらしい。

「それはそうとアドバイスの話でしたね、それでしたら是非これを」

そう言ってちとせは少し大きめのダンボール箱をカナに差し出す。

「何ですこれ?」

「開けてみてください」

カナはちとせの言葉に従いダンボールのガムテープを剥がし、中を見てみることにした。





「あの〜〜・・・・」

すると中身はろうそく、お札、ワラ人形、ハンマー、五寸釘、鏡、折りたたみ式釘バット、その他、などなど、どれもサイコなあまり趣味の良いとはいえない品物ばかりだった。
更にどれも共通して言えることは幻か否かはともかくどの品物にも
黒い何かがまとわりついていることだ。

「これこそ最近ちょっと奮発して通販で取り寄せた商品番号564090『納豆のようにネチネチ呪っちゃえ☆』です」

「呪い殺せと!?何ですかそのエンジェル隊に負けず劣らずの短絡的発想は!!?」

話は逸れるがこの商品番号564090(ころしまくれ)と読める。

「何事も我慢のし過ぎはよくありませんよ?」

「せめてこの
黒いの取ってもらえません!?」

「何言ってるんですか
黒いの取っちゃったらこんなのタダのガラクタじゃないですか、せっかくの産地直送なのに・・・・・・」

「産地どこですかこれ!?」




「分かりました、単刀直入に申し上げましょう」

このまま言い争っていてはいつまでも本題に入れないことを悟ったちとせは一旦話を中断して自分から本題を切り出すことにした。

「説明書によればこの商品を扱うには生贄が必要らしいのですが・・・・・・・ってあれ!?」

『生贄』という単語を聞いた時点でカナはすでにちとせの部屋からは消え失せていた。









“姉からの返信メール”

「継続は力なり」しんどいやろうけど頑張って〜。 ←『死んでしまいそう』を何かの例えだと思ってる

それより今日帰りついでにアレ買ってもらえる?

ほら、何って名前やっけ・・・・・・・そうそうハーゲンダッツ!

















〜〜〜〜〜〜〜〜〜おまけ〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「声だったんだ!!」

「何ですのフォルテさん、いきなり大声なんて出して・・・・・」

「だから声なんだよ声!あたしの不人気の最大要素はこのやたらと低い声にあったんだよ!!」

「う〜〜ん・・・・・それはちょっと被害妄想ではありませんの?」

「よし!じゃあせっかくのおまけコーナーってことであたしとアンタの声を交換・・・・・・」

「100回死んで100回とも地獄に落ちても嫌ですわ


「やっぱ嫌なんじゃねえか!っていうかそこまでか!!?・・・・・・・もういい!お〜い、ミルフィーユ!」




「行っちゃいましたわね・・・・・・・それにしても何か嫌〜〜な予感が・・・・・・」


「やっほ〜〜ミントさん、どうですか?あたしフォルテさんと声を交換してもらっちゃいました☆」

「うわぁ、予想はしてましたが予想以上にきついものがありますわね・・・・・また姿はミルフィーユさんのままというのがなんともかんとも・・・・・・・」

「ふん、どうだい?これであたしも男前だの親父くさいだの言わせないよ!」

「・・・・・こっちはこっちで違和感バリバリですわね・・・・・・・・・・」






結論☆

やっぱりそのままでいいや。



















あとがき


久々に連載に手をつけてみたらあら不思議、想像以上のブランク感にもういっぱいいっぱいです。
とりあえずはこれで「異世界の住人 〔外伝〕」も終了です。
次回からは新たに新連載に手を出そうと考えています・・・・・といっても異世界の続き物ですけど・・・・・
ぐだぐだな展開に最後までお付き合い頂きありがとうございました。