第二章「漂流者の疑い」

 

タクトが司令官室に戻ってからおよそ5分後、レスターがやって来た。

「タクト、入るぞ」

レスターが入室するとタクトは椅子に座りながらのんびりとしていた。

「何の用だ?」

急に、タクトはいつになく真剣な顔で言った。

「・・・一発で聞くけど」

真剣な目でレスターを捉える。

「レスター、正直どう思う?あの機体、ウイングバスターとそのパイロット、朝倉裕樹を」

「・・・やはり無理にでも補給をさせたのは調べるためか・・・」

時々、レスターはタクトが別人のように見えてならない。あまりに唐突すぎる変わりように少なからず驚いてしまう。もっとも、これが軍人としての、そして司令官としてのタクトの本性だとは見抜いているが。

「ああ、で、どう思う?」

「・・・さっぱりわからんな。ヴァル・ファスクの残存勢力であんなのは聞いた事がない。EDENからもそんな報告は受けていないし、トランスバールの技術ではあんな機体を作るのはまず、無理だろうな」

「ああ、トランスバールは所詮、EDENの旧文明の技術、ロストテクノロジーを使えるようにしているにすぎない。自ら作り出した物なんてほとんどないからね」

2人共、自軍の文明をボロクソのようにいっているが全て曲げようのない事実だ。数多の戦いをくぐり抜けてきたからこそ、ここまで言えるのだ。

「だったら何なんだ?人型の戦闘機とは・・・しかもあれほどの性能、紋章機と互角、それ以上かもしれん」

「・・・クレータ班長にも調べてもらったけどね、3,4割ほどしか解明できなかった」

そう言いつつ、プリントアウトしたデータをレスターに手渡す。

「・・・・・・おおまかな武装と装甲板、OSは3割程だけか・・・。・・・動力源(エンジン)は解らなかったのか?」

クロノ(超時空)ストリング(弦推進)エンジン(機関)じゃないってことはわかる。エンジンは一つだけだったんだ。ラッキースターじゃないんだからあり得ないだろ」

クロノ・ストリング・エンジンは紋章機やエルシオールに搭載されているエンジンのことだが、アップダウンの差があまりにも激しく、ほぼ安定した力が発揮されることはない。よってラッキースター以外の紋章機やエルシオールは複数のクロノ・ストリング・エンジンを搭載している。(これは複数を同時に稼動させ、擬似安定化させるため)だがクロノ・ストリング・エンジンを一つの動力に対して複数同時に稼動させると時空相転移力が不安定になり、結果として最大稼働率を著しく低下してしまう。これに対しラッキースターはクロノ・ストリング・エンジンを一つしか搭載しておらず、実質上、紋章機の中で最大の出力を誇る。だがその分、最大限の不安定さを実現してしまい、強運を持つ(ランファに言わせれば心を落ち着かせ高いテンションを出さなければならない。つまりいつも能天気だが何に対しても一生懸命なところも含めて)ミルフィーユしか動かせない。当然、有機脳(H)人工脳(A)連結(L)装置(O)システムによる確率的制御や情報処理能力を踏まえてであるが。

以上の理由から、エンジンが一つだけのウイングバスターがクロノ・ストリング・エンジンを搭載しているということはあり得ない。

「装甲板には・・・軽量化金属デイライト!?ちょっとまて、あんなに薄い金属を使っているのか!?・・・それを何重にもカバーしているのか。考えたものだな、これを考えた人物は」

「それにOSにはH.A.L.Oシステムに似た装置が取り付けられている。恐らくパイロットと精神面で何らかのリンクをしてるんだろうな」

そのまま2人は黙り込んでしまった。お互い、解析結果をじっと見つめている。

「・・・もしかして、EDENともヴァル・ファスクとも違う、第三の勢力なのか?」

「突発的だが俺もそう考えていた」

理由としてはあまりにも謎が多すぎる。それにエルシオーネですら解明できない技術、これが一番大きな理由だが。

「裕樹は味方してくれたけど、あんな機体をもつ勢力が敵対してしまうと・・・」

「・・・間違いなくトランスバールは壊滅してしまうだろうな」

たった一機であれだけの性能を持つ機体が複数できたら・・・想像するまでもないだろう。

「ランファたちを回収したら、一度、白き月に戻ろう」

「・・・そうだな。この事はシヴァ陛下やシャトヤーン様、ルフト将軍に報告せねばなるまい」

「それと、簡単な報告書を作成してくれ。詳しいことは、直接報告します・・・って」

「・・・了解した」

重苦しい空気の中、レスターは司令官室を後にした。

 

 

 

エルシオールを発進してから約2時間後、ウイングバスターはトランスバール本星を目指して移動していた。

そんな中、ウイングバスターを操作しながら裕樹はある焦りを感じていた。

(それにしても・・・ロストテクノロジーの塊であるエルシオールの技術でもウイングバスターの解析すらできてないっぽいなんてな)

正直以外だった。技術力に反して技術者が全てを理解していないのだろうか?

「こうなったら白き月のでも行ってみるか?あそこになら、あるいは・・・」

 

 

 

「あー、もうヒマー!!」

「・・・叫んでもどうにもなりませんわよ」

その頃、正体不明の光に包まれてエンジンが見事に停止してしまっていたランファ、ミント、ちとせの3人はすることもなく、ただ助けを待っていた。

「私たち、どうなるんでしょう?」

「とりあえず救難信号は出してるけど、エンジンがやられてるからねー。待つしかないわ」

「・・・こんな事なら着ぐるみの一着ぐらい持って来るべきでしたわ」

そんなぶっとんだミントの言葉に脱力しつつ、ちとせは暇なのでシャープシューターの移動情報の処理を行ってみた。

(あの光・・・光の中に入ってしまって、一瞬のうちにこんな所まで動いてしまった・・・ワープやクロノ・ドライブとは・・・違うみたい)

シャープシューターにクロノ・ドライブやワープの記録は残っていない。

(だったら何?別のワープ技術?・・・いえ、違う。シャープシューターもそう記録してる)

シャープシューターの記録を見ると、長距離移動した形跡はない。______そう、捻じ曲げた空間ではなくちゃんとした空間(・・)に自分たちはいたのだ。

(・・・私だけでは解らない。けど、タクトさんやクールダラス副司令に報告すればなにか解るかも)

その時、シャープシューターの長距離レーダーが何かを捉えた。

「!!これは・・・レーダーに反応あり!」

「どうしたのちとせ!?敵襲!?」

「・・・こちらでも確認しましたわ。熱源が1、接近してきますわ。・・・ちとせさん、何かわかります?」

ミントのトリックマスターは射程が長く、長距離レーダーを備えているが、ちとせのシャープシューターはその機体特性から正しくは“超”長距離レーダーを搭載してある。よって、トリックマスターより素早く情報が入ってくる。

「これは・・・敵ではなさそうですが、味方でもなさそうです」

「へ?どういうこと?」

「つまり・・・識別不能なんです。少なくともシャープシューターの今までの記録には載っていません」

「まぁ、どちらにせよ私たちはエンジンが壊れて動けませんから、どうしようありませんけど」

「・・・ま、そうね。ちとせ、一応撃てるようにしておいて。武装は生きてるでしょ?」

「了解です。ランファ先輩」

3人は、謎の正体不明機を警戒態勢で待ち受けた。

 

 

 

ふと、裕樹はウイングバスターのレーダーを見てみると、救難信号に加えて三つの熱源が表示されている。

「救難信号?・・・・・・何だ?紋章機、だったっけ・・・?似てるな・・・」

救難信号を見捨てるわけにもいかず機体を三つの熱源を方へ向かわせた。

肉眼で見える距離まで接近すると、どうにもいろいろな部分が壊れている。特にスラスター、バランサーがひどい。捻じ曲げられたようで、破壊されたわけではなさそうだ。

「うわっ、ひどいなこれ・・・。・・・これ、紋章機だよな、どう見ても」

裕樹はケーブルを3機にとりつけて直接通信回線を開いた。

「おーい中のパイロット、生きてるか?無事なら返事してくれ」

(・・・どうやら先程の敵機とは違うようですね)

(この際助けてもらおっか?)

(先輩、一応警戒してくださいね)

3人は考えまとまり、代表でミントが話し出した。

「・・・あ、ハイ。無事ですわ。つかぬことお伺いしますが、あなたはどこの軍に所属しておりますの?」

ほとんど先程別れたタクトと同じことを聞いてくる。ほんわかしたムードだったがやはりタクトもこちらを探っていたということである。

(・・・ってことは)

「俺からも聞くけど、アンタたちはエンジェル隊でこの機体は紋章機なのか?」

「だったら・・・どうしますの?」

警戒し、信用のない声が返ってくる。声は可愛らしくて綺麗だが、そんな声でトゲトゲしく言われると、何だかつらい。

(ま、仕方ないよな)

考えてみれば軍人らしい反応である。これが普通なはずだ。______このような声の主が軍人だとはあまり信じたくないが。

「ん?ならエルシオールまで連れてってやるよ。救難信号出してたみたいだしな。・・・ちなみに、俺は軍人なんかじゃない」

「軍人じゃない・・・?では、民間人という事ですの?」

「・・・まあ、そういうことだな」

「・・・ならあなた!何故そのような機体に乗っているのですか!」

長身の銃砲___恐らくレールガン___が装備されている機体から反発の声が聞こえた。女性の声だ。

「・・・なんでそれをアンタに言わなきゃならない?」

「軍人だからです!あなたは民間人なんでしょう!?ならば、確かめる必要があります!!」

理不尽な答えに裕樹は少なからず怒りを覚えた。

「・・・それはアンタの偏見だろ。軍人だから大きな力を持てて、関係ない奴は力を持つなと・・・誰がそんな事決めた?」

実際、この女性の言っていることは正当論としては正しい。だが、だからといってその全てが正しいとは限らない。しかも、それで拘束される事など今の自分にとってはいい迷惑でしかない。

「話を逸らさないでください!!」

「逸らしてるのはアンタだろ。なら答えてみろよ、いつから軍は民間人を支配できるようになったんだ?自分たちの持つ力を超えられたくないから怪しい力があれば奪い取る・・・それはおかしいだろ」

「な・・・」

「・・・俺はアンタがいつ軍に入ったかは知らないけど、軍に入る前と入った後で、初めのままの気持ちだったか?力を手に入れて、強くなったと思っただろ。・・・それで力を手に入れたら強くなったと思い、それ以外は自分より弱くなった奴と勝手に認識して・・・何様だ、アンタは?」

「!・・・ち、違っ・・・」

「違うのか?全否定できるのか?・・・そんな事、あるわけ・・・!!」

続きは思わず詰まってしまう。が、反論の声はなくなっていた。彼女自身、少なからず認めるところがあったのだろう。

「えーっと・・・話がずれてるんだけど・・・。とりあえずアンタ、エルシオールに連れてってくれるならお願いするわ。こっちはエンジンぶっ壊れてどうしようもないのよ」

赤い機体から気の強そうな元気な声が届いた。これも女性の声だ。

(・・・エンジェル隊って、名前そのままに女性だけがパイロットなのか?)

「ちょっとー、聞いてるー?」

「あ、ああ、わかった。タクトたちには恩もあるからな」

「?」

何か気になるところがあり、聞き返そうと思ったがそれより先に白い機体が動き出した。

 

 

 

(それにしても・・・ふざけてますわ)

ミントは自分たちの紋章機を引っ張っているのにもかかわらず、紋章機に負けないほどの速度で移動している人型の機体を見て、しみじみそう思った。

(この3機を引っ張って、この速度をだせるなんて・・・)

なんとかしてあの機体を調べようと思った。下手したら皇国にとって非常に厄介な敵となるのは間違いない。

ヴァル・ファスクとのヴァル・ランダル星系での最終決戦以後の半年間、これほどの脅威を感じたことはない。

ちとせほどではないし、ちとせみたいに顔には出さなかったがミントも裕樹に充分に警戒心を持っていた。やはり不審なところがありすぎるのだ。

(エリシオールに戻ったら・・・覗かせてもらいますわ)

いうまでもなく、テレパスの事だ。彼が何者なのか、何の目的があるのか、全てをはっきりさせる。

と、急にウイングバスターはスラスターを停止し、移動を止めてしまった。

「どうしましたの?」

「いや・・・前見てみろよ」

言われるままに3人は前方を見てみると、見慣れた大型の艦があの人型の機体が攻撃を受けている。______言うまでもなくエルシオールである。

「エルシオールが!?」

「・・・何かの因縁でもあるのか、あの艦には・・・」

3人は思わずその猜疑心の視線をこの白い機体に向けていた。

その視線を知って知らずか、白い機体はケーブルを離して飛んで行ってしまった。

「ちょ、ちょっとアンタ!!」

「裕樹だ、朝倉裕樹。ちょっと援護してくる」

 

 

 

「くそ!またこいつらか!」

ブリッジに立っているタクトは以前襲って来た灰色の人型の機体に思わず叫ぶ。どうにも負けをくらった相手なので良いイメージが持てないのである。

「だが今回は数も少ないし、修理も終わっている。勝てるはずだ」

レスターに頷きながらタクトは通信を開く。

「みんな!敵は恐らくエルシオールを狙ってくるはずだ!それを逆手にとって、エルシオールは敵機の的になるから防御は気にせずとにかく数を減らしてくれ!ヴァニラはエルシオールの修理を優先して頼む!」

「了解です!すぐに戻ってきますね!」

「了解だよタクト」

「・・・了解です」

3人の返事を聞いた後、タクトは艦内放送マイクを手に取る。

「総員、対ショック、衝撃用意!レスター、お前も座ったほうがいい」

「了解した。・・・艦のエネルギーは全てシールドにまわせ!!」

タクトの指示に補足を加えつつ、レスターも座席に体を固定する。

艦に対する対応策をとり、衝撃にそなえた。

「みんな!押し切るぞ!!」

 

「ミルフィー!弾もエネルギーも気にせず撃ちまくりな!」

「わかってます!!」

2機とも後のことを考えないほどの勢いで全武装を開放する。紋章機の中でも最高クラスの火力を持つラッキースターとハッピートリガーによる雨のようなミサイルとビームの奔流の前に、敵機も次々と撃ち堕とされていく。ハーベスターはちまちまとエルシオールが被弾した部分の修理を行っている。

「!ヴァニラ、後ろ!!」

ふと、ハーベスターの様子を見たミルフィーユはハーベスターの後方に2つのホーミングミサイルが接近しているのに気づいた。助けに行こうにも距離がありすぎた。

「・・・・・・ッッ!!!」

咄嗟にヴァニラは後方にシールドを張りながらも来る衝撃に身を固めた。______が、やってきた衝撃はあまりにも軽いものだった。直撃というより爆風だけの衝撃のようだ。

その実、直撃するはずだったミサイルは二つとも撃ち落とされた。数時間前に別れたばかりの白い、白銀の人型の機体、ウイングバスターによって。

「あっ・・・」

「こちら朝倉裕樹だ!エルシオール、援護する!!」

数時間前まで会話していた、元気ある優しい声がタクトたちの耳に飛び込んでくる。

「ゆ、裕樹!?」

「来てくれたんですか!?」

「・・・ま、詳しい事は後で・・・まずは奴らを殲滅させる!!」

ウイングバスターは左手にプラズマカッター、右手に右肩に装備されている“スティンガーキャノン”を構え、突撃する。

ウイングバスターは長距離からスティンガーキャノンを正確に直撃させつつ、すれ違いざまに敵機、敵艦を次々に切り裂いていく。相変わらず、圧倒的な戦闘力を見せつけながら、敵の数をしっかり減らしていく。

「な・・・何、アイツ・・・」

「・・・本当に、ふざけてますわ」

「あれが・・・あの人の力・・・」

やはり、ちとせには許せない部分がある。あれだけの力が敵にまわらないという保証はないのだから。

ウイングバスターは敵機の攻撃をスラスターを生かして鋭角的に避けながら、両手にプラズマカッターを装備し、ラッキースターを狙おうとしている敵機を後ろからX字に切り裂く。

「裕樹さん、避けてっ!!!

直後、ミルフィーユから叫ばれると同時にラッキースターに回りこむように移動する。間髪入れずにラッキースターの主砲部分に光が収束される。

「いっけぇぇぇぇーっっ!!ハイパーキャノンッッ!!!!

放たれた極太のビームは敵機を吸い寄せながら直線状の敵艦を一気に撃沈させる。

「・・・すごいなミルフィー、あんな技、出せるのか」

「えへへーやった!」

モニター越しに微笑む顔を見ていると、どうしても今が戦闘中だという気がしない。裕樹は苦笑するしかなかった。

と、流れ(・・)を感じ取り、後ろから近づく敵機を振り返りざまに斬り裂こうとしたが、それより早く、はるか彼方より放たれた“光の矢”が敵機を貫いた。言うまでもなく、ちとせの放ったシャープシューターの必殺技、「フェイタルアロー(致命的な矢)」である。

「え!?今の・・・ちとせ!?」

「ランファ、ミントにちとせ!!無事のようだね!」

「でも、どうして・・・ここに?」

敵を全滅させ、ほっとしながらミルフィーユ、フォルテ、ヴァニラは口々に話しかけた。

「俺が引っ張ってきたんだよ。・・・それより」

裕樹は内心驚きながら回線をシャープシューターにつなげる。

「アンタ、いい腕してるな」

「・・・・・・このくらい、当然です」

不機嫌な声が返ってきたが、そんな言葉ですまされる事ではない。

(・・・あのパイロット、なんて腕前だ。レーダーの範囲()からコックピットを狙い撃った・・・?)

更に、長距離用レーダーを搭載していたとしても故障しているので自動標準は効かないはずである。つまりこの距離から独力で狙撃したというわけだ。見事なんてものじゃない。

(・・・神技・・・才能ってやつか?・・・羨ましいもんだ)

「アンタもだよ裕樹。お前さんもすごい腕前だよ、ほれぼれするねぇ」

フォルテの言葉にはっと我に返った。

「・・・どういたしまして」

苦笑いしながら、なんとか絞りでた言葉がこれだけだった。

(それにしても・・・このアスグたち、なんでエルシオールを狙うんだ?)

 

「まさかこんなにすぐに会えるとはね、助かったよ裕樹」

気にするな、といった感じで手をヒラヒラさせている裕樹を見ながらタクトはある考えをめぐらせていた。

「裕樹、助けてくれた上、俺たちが探していた3人を見つけてくれたお礼をしたいんだ。あまり関係ないと思うけど今はもう時間も遅い、今日はエルシオールに泊まってくれていいよ」

ある意味、信じられない言葉に裕樹だけでなく、エンジェル隊、ブリッジまでもがどよめきに包まれた。

「いや・・・気持ちは嬉しいけど・・・いいのか?一応、軍艦なんだろ?」

すでに一応と思われているあたりに悲しい気持ちになってしまう。

「・・・・・・ああ。それにこの周辺に人が住んでる星はないからね。ま、遠慮せずに」

ここまで親切にしてくれるうえ、モニター越しからのミルフィーユの視線を浴びてしまうと、どうしても断れない。

「・・・わかった。お言葉に甘えさせてもらうよ」

「よし、じゃあついでに紋章機を回収しながら着艦してくれないか?なんか人型だと作業が早そうだからさ」

「わかった」

すでに馴染みある者の会話をしたのち、タクトは通信を閉じた。

「おい、タクト・・・」

レスターの言いたい事は分かっており、あえて不敵に笑ってみせた。

「・・・何を企んでいる、タクト」

「いや・・・・・・、後は頼んだ、レスター」

「・・・わかった、行ってこい」

聞かずともタクトが彼に何かをしかけるというのは分かっていた。タクトを信用しているからこそ、深く追求しなかった。

(しかし・・・タクトはこれ以上、何をする気だ・・・?)

ただし、タクトの悪知恵までは理解できなかった。