第三章「真実の告白」
「ランファ!ミント!ちとせ!よかった・・・無事で・・・」
「タクト・・・」
「タクトさん・・・」
「ご心配おかけしました、タクトさん・・・」
タクトの心から心配していた顔を見ると、ランファ、ミント、ちとせの三人は心なしか嬉しくなった。
「みなさん、ご無事で良かったです・・・」
「ほんと、心配したんだよ?」
「あんたらもしぶといねぇ。ろくな死に方しないよ」
全員で笑いあう。ほんの少しの間のはずなのに、随分久しぶりに感じる。
数時間ぶりにエンジェル隊がそろった。
「ところでタクトさん。あの機体のパイロット・・・確か朝倉さんでしたっけ、会ったことがあるのですか?」
ちとせには、どうにも裕樹の話し方はタクトと会ったことがあるような口振りのように感じられた。
「ああ、彼はちとせたちがいなくなって、危ない時に助けてもらったんだ」
「すっごいいい人なんだよ!」
「そ、そうなんですか?」
タクトもミルフィーユもこう言っているが、どうにも信用することができない。
「でも・・・あの機体は・・・っ!」
「ウイングバスターがどうしたって?」
いつのまにか話題になろうとしていた人物、裕樹が背後に立っていた。音も気配も感じさせなかった事にランファは強く警戒心を抱く。
「改めてよろしく。朝倉裕樹だ」
助けた3人に自然体で話しかける。2人は一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに返事をしてくれた。
「ランファ・フランボワーズよ」
「ミント・ブラマンシュですわ」
「・・・ちとせ?」
一向に喋らないちとせを見て、不思議そうにタクトは声をかけた。ちとせはいつもなら丁寧にお辞儀をしたりして自己紹介をするはずだ。
今のちとせには、それがどうしてもできなかった。軍人を、誇りに思い尊敬している父やタクト、エンジェル隊のみんなを侮辱するようなあの会話は、どうしても裕樹を素直に受け入れることを出来なくさせていた。
だが、それでも一応、命の恩人だという考えが出てきて、さりげなくそっぽをむきながら自己紹介する。
「・・・烏丸、ちとせです」
だが、お辞儀はしなかった。ちとせは裕樹に対してあきらかに壁を作っている。もちろん、それぐらい裕樹にもわかっていた。
「よろしく、ランファ、ミント、烏丸」
だからこそ裕樹はちとせだけ名字で呼んだ。決して差別をしているのではない。相手が自分に対し、壁を作っているのならなれなれしく名前を呼んでいいわけがない。
もっとも、それを理解できる人もおのずと限られてくるが。
なんとなく気まずい空気が流れたが、それをまったく気にせずにタクトは裕樹に笑いかける。
「さて、それじゃあ補給させるけど、いいかい?」
「ああ、うん。ありがと」
何気なく自分の機体を振り返ると、すでに整備班のメンバーが機体の周りに取り付いている。けれどその動きはとてもじゃないが補給しているようには見えない。あれは・・・
(・・・まだ解析を続けるつもりか・・・)
「ま、裕樹はゆっくりしてくれていいよ。ええと・・・ミルフィー!裕樹をゲストルームへ・・・」
「あ、ハイ!わかりました!」
すぐさまミルフィーユが笑顔で駆け寄ってきた。躊躇すらせずに自分の手をとり、引っ張るように歩を進めていく。それに合わせるようにその場も解散ムードになったようだ。
「じゃ、またね」
「・・・・・・ッ」
「じゃあね、後で射撃場で銃でも撃ち合うかい?」
「・・・それでは・・・」
「・・・・・・」
ちとせが何も言わないのはわからなくもないが、ミントは______。
言うまでもなく、ミントはテレパスをしようとしているのだが、______おかしい。
(何でですの・・・心が・・・見えない!?)
思わず顔が引きつるミントだったが、それを見て裕樹が振り返る。
「あ、そうだミント」
「・・・!!は、はい、何でしょう?」
咄嗟にごまかすが、裕樹にそんなものは通用しない。
「あんた程度のテレパスじゃあ、俺の何も見えやしないぞ」
「えっ・・・!!!」
思いもしなかった信じられない言葉に、ミントは唖然とする。
(・・・読まれてる・・・?)
見えない、読めない、裕樹の考えをいくら覗こうとしてもテレパスが通じない。それどころかされた本人がそれに気づいている。つまりこれは、裕樹自身に何らかの力が働いているとしか考えようがない。
「・・・信じろって言っても無理かもしれないけどさ、俺はあんた等の敵になるつもりなんてないからな。そんな気なんてさらさらないし」
それだけ言うと裕樹はミルフィーユについて行ってしまった。
そう、わかっている。自分は、この艦において信用されていない。みんな・・・タクトでさえ、心の中でどう思っているかわかったもんじゃない。だから、裕樹も心の底から信じなかった。
後には、なんとも居心地の悪い空気だけが残った。
「・・・なあミルフィー」
「はい?何です?」
ゲストルームに案内されてから、裕樹はミルフィーユに尋ねてみた。
「ミルフィーは・・・俺のこと不審に思わないのか?」
「・・・思いませんよ。だって裕樹さん、私たちを2度も助けてくれたじゃないですか」
あまりにも単純で、そして純粋で真っ直ぐすぎる答え。でも、それがとても嬉しかった。
「・・・ありがとう」
ミルフィーユはニッコリ笑ってから部屋を出た。
同時刻、先程撃沈された艦の生き残りが基地の医務室で手当てを受けていた。そこに、いかにも階級の高い制服をきた青年が、入室してきた。どことなく少年らしさを残した人物である。
「2回戦って2回とも敗北とはね・・・EDENはそんなに強いのかい?」
「は、はい。敵の大型戦闘機、侮れない戦闘力を持っています」
青年の言った言葉そのものは厳しいものだったが、その言葉のは優しさがこれでもかといえるほど詰まっている。
「だけどよ、それだけじゃあねえよな」
「ああ、確かにな。ありゃあ・・・」
生き残った者たち分かり合っている会話を青年は怒らずにじっと聞いていた。はっきりいってかなり心が広い。
「何かあったの?やっかいな事なら僕が上層部に連絡しないといけないし」
「ああ、すいません。いえね、出たんですよ・・・・・・IGが」
「しかも白いIGでしたよ」
「・・・白い・・・IGだって?まさか、そのIG・・・可変翼がついていた?」
「えーっと・・・はい、ついてましたぜ」
その言葉に青年の顔がみるみる青ざめていく。
「・・・どうしたんすか?京介さん」
若い彼らは知らないのだ。その機体、IGが何を意味しているのかを。そして、自分たちが一体誰と戦ったのか。
「まさか・・・ウイングバスター?そんな・・・バカな・・・。でもあんな機体に乗れるのは、彼しか・・・」
京介と呼ばれた人物は他の言葉が聞こえないほどに、何かをブツブツ言いながら思いを廻らせている。
やがて、ポツリと一言呟いた。
「なんで・・・彼が・・・?」
「?」
京介の頭に浮かぶのは間違えようのない、友の顔だった。
かつて、前大戦時に『白き翼』と呼ばれた英雄。それでいて、共に戦った戦友。
彼しか、考えられなかった。
「へー、ここが展望台公園か。なんか本物みたいだな」
思わず感心した感想を述べ、自分で苦笑してしまう。
(信じられないな、この艦は)
などと思いつつも久しぶりの自然の緑に心が安らいでいく。
とりあえず一回りしようと公園の中央のベンチまで歩を進めた______刹那、
「ッッッ!!!」
反射的に体を反らしながら瞬時にバックステップ、体制を立て直し、ベンチを撃ち抜いた銃弾のあとを見つめる。
そのまま後ろに振り返る。そこに居たのは、鋭い視線を向けている烏丸ちとせだった。
ちとせはなおも銃口をこちらに向ける。
「・・・何のつもりだ?」
裕樹も負けじとちとせを睨む。ちとせもそれには動じない。
「話してもらいます。あの機体のこと、あなた自身のこと、あなたの目的を!!」
裕樹は僅かに膝を曲げつつ、ちとせに向かって立ち構える。
「・・・何故、そこまでこだわる?」
「出来すぎたシナリオだからです。私たちが襲われた直後、朝倉さん、あなたが現れた。更にその後、私たちを助け、いとも簡単に敵を全滅させ、この艦に乗り込んだ。そして、今だに何も話そうとしない!!」
叫びと共に更に銃口を突きつけるように向けてくる。
当然、全てまったくの誤解なのだがそう考えられなくもない。
「・・・本音が微妙に混ざってないな。本音を言えよ」
「関係ありません。・・・何が目的です」
一息、息をはく。そして、______言い放つ。
「アンタに話すことなど何もない」
ちとせは迷いなく引き金を引いた。高速で放たれた35口径の弾丸は一寸の狂いもなく、裕樹を捕らえていた。
だが、裕樹は僅かに体をずらし打ち抜かれるはずの弾丸を容易にかわした。
「えっ・・・!?」
ちとせが驚いたその一瞬の隙に、裕樹は腰から筒を持ち構え、ビーム状のダブルセイバーを発生させる。ただし、ビームの出力はスタンガン程度に抑えている。
「っ!!」
ちとせの一秒にも満たない躊躇、その隙、刹那とよべるほどの時間。裕樹は一瞬でちとせの目前まで跳躍、僅かな間合いの外からの斬撃で拳銃を切断、そのままダブルセイバーの逆手側の刃で隙すら与えず首を狙う。
そもそもダブルセイバーの武器としての真骨頂は、単なる斬撃ではなく、回転運動を生かした多種多様な連続攻撃にある。両端の刃を攻撃に使えるため、剣のように斬り返す必要がなく、同じ運動量を持ったまま攻撃を繰り返すことができる。
ダブルセイバーならではの一太刀での二連斬。もし裕樹が手加減せず、なおかつ、ちとせを完全に敵と見なしていたのなら、間違いなくちとせの首は飛んでいただろう。______だが、そうはいかなかった。
「待て!裕樹!!」
叫びと共にタクトが展望台公園に飛び込んでくる。その後ろから他のエンジェル隊に加え、レスターも続いた。
「一体何の騒ぎよ!?」
視界に飛び込んできたものは、あと一押しすればちとせを殺せるという裕樹の姿だった。
即座にフォルテが拳銃を構える。・・・が、裕樹から殺意が微塵も感じられないのに気づくと、一瞬の躊躇の後、銃を下ろした。
「・・・すまないが監視カメラで監視していた」
そんなことぐらい気づかない裕樹ではなかった。______彼らは、自分を信用していないのだから。
「ちとせ・・・何をしているんだ・・・!!」
めずらしくタクトが静かに怒っている。それを感じとったのはミルフィーユやちとせだけではない。
初めてみるタクトの怒りの表情にちとせはビクッとする。
自分でも頭に血が上っていた事に気づいたのだろう。頭が冷え、ちとせの顔は段々と落ち込み気味になっていく。
「タクト・・・さん・・・」
珍しく見るタクトにミルフィーユも驚きを感じる。だが、タクトはそんなことも気にせずに裕樹に謝った。
「すまない裕樹。恩人の君に対してこんな事をさせてしまって・・・」
「いや、俺は・・・」
タクトの言葉に合わせて裕樹はダブルセイバーを下ろす。今のちとせには反撃するという行為自体、ありえないだろう。
「もし君が望むならちとせには軍人としてしかるべき罰をとらせる。・・・そのくらいの覚悟はあるな?ちとせ」
「は、はい・・・」
しおれるぐらいに縮こまり、落ち込んだ表情をしているちとせ。
「どうする?裕樹」
「・・・別に実害があるわけじゃないし、気にしてないから」
「・・・えっ?」
ちとせだけでなく、その場の全員が驚く。言われるはずのない言葉を聞いたのだから。
「え・・・それでいいのか?」
思わずタクトは聞き返した。ある意味、命を狙われたのに笑って許すというのだ。
「いや、まあケガもしてないし、服も破れてないしな」
後頭部をポリポリかきながら笑っている。
「・・・本当に?」
「しつこいな。・・・ま、何も言わない俺も悪いんだし」
な。______と、ちとせに笑いかける。自分が悪いはずなのに裕樹は自身も悪いというのだ。
「あ、朝倉さん・・・」
「そんなに呆けるなよ。・・・何も言わないのはな、絶対信じないからだよ」
アンタ等がな。と、付け加えた。
______これほどの人物を、今まで見たことがあっただろうか?
「ちょ、ちょっと待った!」
帰ろうとする裕樹をタクトは呼び止め、腕を掴む。
「ん?」
「裕樹、会って一日も経ってないけど、君が嘘をつくような人には見えない。・・・信じるから話してくれないか?君がよければ、だけど・・・」
自分の腕を掴む力が強くなるのを裕樹は感じる。
周りを見ると、ミルフィーユはどうしようか悩む顔をしているが彼女以外は全員、聞きたいというような顔をしている。中でもミントは格別だ。
(孤立無縁・・・か。ま、当たり前だよな)
ここは自分の世界とは違う世界。たとえ、自分の世界だとしても、彼に味方してくれる人間などたった一人しかいない。・・・仲間も親友すらも捨ててこの世界に来たのだから。
(・・・・・・どうする?)
ああは言ってくれたが果たして話していいものか。
「・・・裕樹、無理しなくていいんだぞ?」
あくまで本心からこちらを気遣う言葉。
(これが、EDENの伝説の英雄の言葉・・・)
かすかに笑い、タクトに向き直る。
「・・・わかった。話せるところまでなら話すよ」
「本当か!?」
「ただし、こっちからも頼みがある」
「・・・何だ?」
レスターが鋭い視線を向けてくる。等価交換ということをわかっていたのだろう。だが、それはむしろ当然というものだ。むこうがこちらの情報を欲しがっているのなら、それに見合うだけの情報を手に入れなければ。
「そんなに睨むなよ。・・・なに、少し調べものがしたくてさ、見張りつきでいいから白き月のメインコンピュータを使わせて欲しい」
「何・・・!」
途端、その場の全員がざわめく。
(おいタクト、本気でこの条件をのむ気か?白き月のメインコンピュータといったら・・・)
(分かってるさ・・・けれど、見張りつきでいいということは軍事関係ではなさそうだ。それ以外でも見られてマズイものは見張りに止めさせる。それに・・・今は少しでも情報が欲しいんだ。・・・責任は俺が取るから)
(・・・・・・わかった、お前の判断に従おう)
真剣すぎるタクトをやすやすと否定できない。第一、タクトの判断力や決断力は信用に値するだけのものを持っているのだから。
(ありがとう、レスター)
気にするな、とレスターは微かに微笑する。
「わかった、その条件をのもう」
今度はエンジェル隊が、その中でもフォルテがタクトに歩みよる。
「タクト・・・本気かい?白き月のメインコンピュータってことは・・・」
「わかってる。知っての上での答えだ」
しばし、両者は黙っていたが、不意にフォルテがニヤリと笑う。
「わかった、お前さんを信じるよ」
その言葉を受け取った後、タクトは裕樹に向き直った。
「さて・・・約束通り話そう。何が知りたい?」
「じゃあ・・・君自身の事とその目的。次にあの機体のこと。・・・あと君が二度撃退してくれた敵との関係、とりあえずこの4つだ」
ここぞとばかりに聞いてくるうえ、しっかりと敵との関係も指摘してくる。さすがは皇国の英雄といったことろか。世界を越えて名が知れ渡るわけだ。
「・・・まず、俺自身のことだな。本名、朝倉裕樹、21歳。生まれは・・・知らない。だがこの世界じゃないってことはわかる。軍属だったこともあったな」
「ちょっと待ってください、『この世界じゃない』?・・・どういう事です?」
ちとせがしっかり指摘してくる。裕樹は正直に答えた。
「そのままの意味さ。この次元とは違う、別次元世界、リ・ガウスから俺は来た。・・・信じられるか?」
全員黙っている。まあ予想通りの反応である。普通はこんな話、信じるわけがないだろう。______だが、彼らは普通ではなかった。
「すっごーい、よくわからないですけど裕樹さん、すごいところから来たんですね!!」
沈黙を破ったミルフィーユの言葉の意味が、一瞬理解できなかった。
「・・・へ?」
「なるほどね、別次元か・・・それなら納得できるな、レスター」
「ああ、一番説得力がある」
おいおい、
(フツー信じるかっ!?こんな話!?)
よほど驚いた顔をしていたのだろう。ミントが歩み寄ってきた。
「みなさん、私も含めて普通とはかけ離れた生活をされてるんですわ。自分で言うのもなんですが」
「ああ・・・納得・・・」
脱力した顔を見てミントは笑った。
ミント自身、先程の疑惑も嘘のように感じなくなっていた。
「さ、続きを話してくださいな」
「次は・・・俺の目的・・・だったな。・・・・・・・・・悪いけど、これだけは・・・言えない。けど、信じて欲しい。この世界を侵略しに来たつもりはない。一人で侵略できるほど、俺は自分に自惚れてないからな。______もっとも、あの集団は知らないけどな」
「と、言うことは」
「ああ、俺が撃退した奴らは全て、リ・ガウスの戦闘部隊だ。・・・何度も言うが俺とは無関係だ」
「・・・その証拠は?」
これはフォルテが聞いてきた。その視線の鋭さが、たまらなく痛い。
「ない、こればっかりは信じてもらうしかない」
「・・・だ、大丈夫ですよ!あの敵、裕樹さんを攻撃してたじゃないですか!」
「いや、だからってねミルフィー・・・」
「いや・・あながちその通りかもしれん。先程の戦闘を見ていると本気でウイングバスターを落とそうとしていた攻撃だった。なにせ、八方塞がりの状態でも一斉射だからな」
淡々とレスターは言ったが、パイロットからすれば信じられない腕前だ。
「よ、よく無事だったわね、アンタ」
「まあ、あのくらいならどうってことは・・・」
裕樹は決して過信せずにすんなり答えたが、エンジェル隊は全員後ずさる。
「なぜに後ずさる?」
「何者なんですか?あなたって・・・」
ちとせが、今度は怒りはなく、ただ純粋に問いかけた。
「何者って・・・さっきも言った通り、リ・ガウスの人間だ」
「そのリ・ガウスという所に住んでおります人たちは、何か・・・特異的な力を持っていらっしゃるのですか?」
ミントが自分の疑問点の答えを求めるように聞いてきた。着眼点は間違っていない。
「鋭いな。______その通り、リ・ガウスの人間には強かれ弱かれ、『セフィラム』って名の力が宿ってる。その本質は今だ不明だけどな」
「そのセフィラムという力で、私のテレパスを?」
「察しがいいな、ミント。その通りだ。俺自身、よく分からんけどいろんな事に応用が利くんだよ、セフィラムってのは」
「・・・ということは、裕樹さんは・・・強い、力・・・セフィラムを持っているのですか・・・?」
会話の内容からヴァニラは的確に答えを出してきた。
「・・・初めから強かったわけじゃないけどな。・・・強いらしい。ありえないくらい、な」
その時の顔を、ヴァニラは見逃さなかった。とても、とても苦しそうで悲しい顔をしていた。一瞬だけだったが、その切なげな横顔が脳裏に焼きついた。
「・・・さて、最後にウイングバスターのことだったな」
裕樹がそう言うと、タクトはクロノ・クリスタルの回線を開いた。
「クレータ班長、説明してくれるって」
『ええっ!?ホントですか!?』
通信からなのにその声はえらく響いた。
「・・・・・・い、いいか?______さて、ウイングバスター、要するに人型戦闘兵器のことを俺たちはInternal Gear、通称、IGと呼んでる」
「インターナル・ギア?・・・直訳で内部伝動装置・・・か?」
「まあ名前の由来は知らないけどそう呼んでる。襲ってきたあの灰色のIGはアスグっていう機体だ。これに配色に赤と白が加わって、固定翼が装備されてるのをディアグスっていうんだ。この二機は量産機だからリ・ガウスが本気できたらわんさか出てくるだろうな。ちなみに俺のウイングバスターは量産機じゃない。ちょっと扱いが難しいんだ」
『質問あります!』
唐突にタクトのC・Cから声が届く。
「な、なんです?え・・・と、クレータ班長?」
さきほどタクトがそう呼んでいたのを思い出し、名前を呼ぶ。
『エンジンは何で出来てるんですか!?燃料は紋章機と同じくバッテリーで動いているのに、実際に消費されているエネルギーはまったくの別ものですから』
これにはレスターやエンジェル隊全員が気になった。視線が集中される。
「え、えっとな、クラッカーエンジンっていう、光力圧縮装置で出来てる。まあ簡単にいうと光力だけの安定した力の空間にバッテリー、つまり電力を流し込んで、その時の反作用から生まれる光と電気の爆発エネルギーを利用して動いてる。だからバッテリーそのもので動いてるわけじゃないんだ。これ以上は・・・俺もよくわからないんだ」
するとタクトのC・Cからふんふん、と頷く声が聞こえ、そのまま通信が切れてしまった。
しばし、沈黙が流れる。
「・・・ところで烏丸」
「は、はい?」
「とりあえず、これで背中から銃を撃つ・・・なんてことはやめてくれないか?」
あくまで気にせずにほんわかと話しかけてくる。こうなるとちとせにはどうこうする意志がなくなってしまう。だから、
「・・・わかり、ました・・・」
ポツリと、しかしハッキリとちとせは答えた。
裕樹も笑って返事をした。そして、全員を回り見る。
「えっと、もうこれでいいか?」
「あ、一ついいか?」
タクトが軽く手を上げながら言う。
「結局・・・なんでそのリ・ガウスの部隊がエルシオールを攻撃してくるのか、わからないのかい?」
「・・・さあな、わからないな。・・・なにせ、俺は・・・」
どことなく、悲しそうに、けれどかすかに笑いながら、裕樹は答えた。
「亡命者・・・だからな」
裕樹はそれ以上何も言わず、展望台公園を後にした。