第九章「それが月である意味」
「ちとせ!大丈夫!?」
白き月のゲストルームで休んでいたちとせは突然やってきたミルフィーユに少し驚いた。
エンジェル隊は白き月に着くと、ちとせが目覚めたという知らせを受け、やってきたのだ。
「ミルフィー先輩?それに・・・先輩方も」
「ちとせ、大丈夫?歩いて平気なの?」
「はい、大丈夫です。・・・ご迷惑をおかけしました。私が寝ている間に先輩たちが出撃していたなんて・・・」
「よろしいのですよ。それより傷のほうは?」
言われて、ちとせは左腕をたくし上げた。撃たれた所だが、もうどこに撃たれたかわからないほどに傷はなかった。
「この通り、残ることもなく完治しました。ヴァニラ先輩のナノマシンのおかげです」
「いえ・・・」
「ともかく、ちとせが無事でよかったよ」
フォルテがニカッと笑いながらちとせの頭をぐしゃぐしゃする。
「はい。・・・あの、それで裕樹さんは・・・」
いつの間にかちとせの呼び方が変わっていることに気づくが、なにかを言う前に扉のスミから裕樹が出てきた。
その申し訳なさそうにしている顔を見て、ちとせはある意味安堵に近い感情を抱いた。
「・・・ちとせ、その・・・」
「はい・・・」
はたから見れば恋人みたいに見つめ合う二人。決してそういう関係ではないが。
「すまなかった。俺と一緒にいたせいで、君は・・・」
「違いますよ」
思わず、「え?」と問い返してしまう。裕樹だけでなくエンジェル隊も。
ちとせは優しく微笑んだ。
「一緒にいたから、私は無事なんですよ」
「ちとせ・・・」
なんだか出撃前のタクトと同じようなことを言われた。
「とにかく、そんなに罪悪感みたいなものを感じないでください。私は、元気ですから」
その言葉が、いったいどれだけ裕樹を救えてやれる言葉なのかを、この場の誰もわからないだろう。
この気持ちに答える言葉は決まっている。
「ごめん、ちとせ・・・・・ありがとう」
その言葉が、ちとせの笑顔をより嬉しくさせた。
「マイヤーズ大佐、正気かね!?」
「はい、無論です」
その頃タクトとレスターは先の戦闘のデータと共に軍事評議会に出席していた。
内容はレスターと予測し合った通り、リ・ガウスとの交戦についてと、朝倉裕樹の処遇についてだった。
「マイヤーズ大佐、クールダラス少佐、君たちはあれほどの力を目の当たりにしてもその機体とパイロットを危険因子として扱わないのかね?」
「先ほどの戦闘・・・もっとも間近で見ていたのは君たちであろう。たった一機で敵部隊を壊滅させる力など・・・」
「いえ、だからこそです」
タクトの迷いのない、それでいて真っ直ぐな発言に評議会、元老院たちも少しばかり戸惑う。ルフトだけは楽しそうに続きを待っているが。
「そのような考え、我々も重々理解しているつもりです」
「ならばなぜ・・・」
ここで本当の本心を話したら、それこそ評議会はひっくり返るだろう。
忘れてもらっては困る。
以前、EDENのスカイパレスの人々に言われた通り、自分は人間味のある英雄なのだから。
もっともそれを無理やり正当化させるだけの理論は出来上がっている。後はこの悪知恵で評議会を騙しきるだけだ。
____________内心、すごく楽しんでいる自分がいた。
「でしたら、紋章機はどうご説明なさるおつもりですか?」
「なっ・・・」
「なんと・・・」
会議室中にどよめきがはしる。
「マイヤーズ大佐!お主は白き月の近衛部隊である紋章機を愚弄する気か!ましてや貴官はその司令官であろう!!」
「・・・お言葉を返しますが、もしや紋章機の力を当然のものだとお考えなのですか?」
「なっ・・・?」
「大型とはいえ、たった一機の戦闘機で複数の駆逐艦を相手にできる紋章機の力を当然のようにお考えなので?」
「・・・ぬぅ」
これには元老院も誰も反論できなかった。
紋章機の強大な力を恐れ、無理やり皇国軍所属のさせたのは他ならぬ彼らなのだから。
(ほほう、タクトめ・・・)
相変わらずルフトのみ楽しみながら聞いている。
もっとも、ルフト本人も薄々感づいているだろう、タクトのアイコンタクトに込められている意志を。
______最後はまかせました。という悪知恵の働く、かつての教え子の考えを。
「ましてやクロノ・ブレイク・キャノンという星を破壊してしまうほどの兵器。・・・あれは危険因子とはならないのでしょう?抑止力として」
「・・・・・・」
会議室中がシン、と静まりかえる。タクトの言っていることが誰もが認めるほど正論であって、反論することが出来ないのだから。
「同じことです。あの機体とそのパイロットを危険因子として扱うというのなら、それと同等に渡り合える紋章機も危険因子扱いにならざるをえないでしょう」
「・・・認めよう」
ついに頭の固い元老院たちを屈服させることに成功した。思わずタクトはレスターを見る。そこにはため息をつく友の姿があったが、どこか笑っているようにも見える。
「ではマイヤーズ大佐、そこまでの考えを持っているのなら、SW−101ウイングバスターとそのパイロットである朝倉裕樹の処遇はどうするつもりかね?」
待ってましたとばかりにタクトは席を立つ。
その言葉を、何よりも待っていたのだから。
この時点で、タクトの方程式は勝利を確定させた。
「それは、正式に、とはいきませんが、彼を白き月の管理下に置くべきだと提案します」
それこそ、会議室がひっくり返るところだった。
「なっ、なっ・・・」
「強い力があるなら、それは一つにまとめておくべきです。不測の事態があっても、エンジェル隊がそばにいますから。・・・スジは通っていると思いますが?」
「そ、それはそうだが・・・」
混乱しかけている評議会を見、ルフトが動いた。
恐らくタクトが自分にまかせている部分はここなのだろうと判断したのだ。
「・・・よかろう、タクト・マイヤーズ大佐。お主の提案を採用しよう」
「ありがとうございます!」
「ル、ルフト将軍!?しかし・・・!」
「ならばお主たち、これ以上の良案があるのか?」
「・・・・・・」
(さすがだなぁ、ルフト先生)
もう自分のすることは無いだろう。あとはルフトが上手くまとめてくれるだろう。
裕樹の処遇が思い通りになり、満足感で胸いっぱいになったタクトだった。
「・・・と、いうわけで朝倉裕樹、お主は実質上、エンジェル隊所属となった」
「・・・は、はあ・・・」
シヴァから謁見場に呼び出され、言われた第一声がこれだった。
思わず拍子抜けしてしまう。
「どうした朝倉。不服か?」
「い、いえ、そういうわけでは・・・。ただ、」
「ただ?」
そのさも当たり前といった顔をしているシヴァに思わず困惑してしまう。女王陛下という肩書きがなければただの世間知らずのお嬢様だ。
(いや、実際そうか)
頭の中の余計な考えを振り払う。
「ただ、そこまでしてもらっていいのかと・・・」
「心配するな。見返りにしてもらうことがある」
「わあ・・・・・・」
抜かりが無いなぁ、と素朴に思う。いろんな意味で。
「ごめんな裕樹、なんとか手段は打ったんだけど、やっぱり何か協力してもらわないといけないんだ」
「でも裕樹さんには何度も助けてもらってますわよ」
「・・・そうなんだけどね、でも裕樹はリ・ガウスの人間だ。やっぱりスパイではないのかっていう意見も出たんだ。だからスパイじゃないっていう証明が欲しいんだよ、お偉さん方は」
「・・・身勝手だねぇ」
タクトの話にフォルテが思わずぼやく。
「そう言うな。このような処遇にするのもかなり無理を通したんじゃぞ」
まっとうな事実であるルフトの話を聞きながら、裕樹はぼんやり思う。
「・・・・・・」
(・・・・・・俺だって、好きで敵対したわけじゃ・・・)
一体、どこの誰が好き好んで親友と戦いたがるというのか。
そんな裕樹の俯いている表情にちとせが気づく。
(・・・裕樹さん・・・?)
遅れてタクトも気づいた。ちとせと違う点は率直に聞くところか。
「裕樹?どうしたんだ?」
「・・・いや、なんでも。______で、具体的に何を協力すればいいんだ?技術提供か?」
と、シャトヤーンが一歩進み出る。ちなみにいつも通りに見張りの兵はいない。先ほどの戦闘で少しは信用されたということか。
「そうしていただけるとありがたいのですが・・・その前に、話してほしいのです」
「何でしょうか?」
「先ほどの戦闘の部隊・・・リ・ガウスが裕樹さんの言うように別次元にある世界だというのなら、何らかの反応・・・」
ノアが「次元交差歪曲」、と付け加えた。
「その反応が出るはずなのに、あの部隊はその反応が出なかった・・・。ということはあの部隊はこのEDENの世界の空間から攻めてきた、ということですね?」
「そう・・・ですね」
「・・・裕樹さん、疑うわけではありませんが・・・あなたはその基地のような駐留場所を知っているのではないですか?」
優しい顔をしているが、言っていることはかなり厳しい。
「なぜ、そう思いに?」
「・・・以前、あなたが一人になった時に誰かと通信しているのを聞いたからです」
「・・・バレてましたか」
「ヴァニラが知らせてくれたのです」
思わずヴァニラに振り向くと、申し訳なさそうに頭を下げている。
______気にするな、という意味を込めて笑いかける。同時に腹を括るべきだと、前向きに考えがまとまっていく。
「そりゃスパイの疑いもされるわよ」
ノアの厳しい言葉を受けつつ、腰から小型の通信機を取り出す。
「ノア・・・だっけな。こいつの映像画面を大きく拡大できるか?」
「そのくらい出来るけど・・・でも何する気?」
「そうよ、ちゃんと説明してよね」
「お願いします!裕樹さん」
ランファ、ミルフィーユに迫られ思わず笑ってしまう。
「なに、全部薄情しようと思ってさ」
「そうだ!全部はいちまえ!はいたら楽になるぞ!」
「今なら罪は軽いです!」
場違いな二人のノリに全力で脱力してしまう。
「タクト、ミルフィー・・・あのな・・・」
その場にいる全員が、笑いに包まれた。
一方、前線基地に帰還した正樹は、体を休めつつメガロデュークの修理を見守っている。
「正樹!!」
デッキハンガーからメガロデュークを眺めていると、遠くから彩が駆け寄って来た。
「何だよ、ボロボロに逃げ帰ってきた俺を笑いにきたのかよ?」
「無様ね」
「ぐっ・・・」
ひねくれた言い方をしたがスパッと皮肉のカウンターを受け、ぐっときた。
「何よ、そのくらいで落ち込むならひねくらなきゃいいのに」
「・・・あのなぁ、彩・・・」
疲れているところに精神的にトドメを受けぐったりする。原因は自分にあるのだが。
「まったく・・・男らしくないわねぇ・・・」
「・・・・・・」
もはや反論する気力もない。
どうにかしてこの毒舌をなんとかできねぇもんだろか、______とぼんやり思った。
と、勝利を確信したのか彩が自ら正面にやってきた。紺色の瞳に茶色のショートカットが視界いっぱいに映る。
「で、どうだったの、裕樹は。会ったんでしょ?」
「・・・直には会ってねぇよ」
「強かった?」
「・・・メガロデュークを見りゃわかるだろ。・・・コイツしか帰ってきてねぇし」
どう考えても皮肉にしか聞こえない彩の言葉にふてくされるような返事しか出来ない。
もちろん、彩にはそんな正樹の性格ぐらいお見通しなのだが。
「理由は?聞いたんでしょ?」
「・・・おう」
激闘の中で交わした言葉。それをゆっくり思い出す。
「・・・裕樹は・・・やっぱ今でも美奈を救う方法を探してやがった・・・」
「そう、やっぱりね。・・・それしか、ね」
けれど、正樹には一つ予感があった。裕樹がいつかリ・ガウスを離れると、薄々感づいていたのだ。
_________こんな・・・こんな事をする世界に、いられるかよ!!!_________
いつか、自分たちに対して裕樹が叫んだ言葉。それは、今になっても頭から離れなかった。
「やっぱ、おかしいのかね・・・この世界は」
「どうしたのよ、急に」
「いや、この戦いの始まりとかを思うとよ」
「とか・・・?」
トランスバール及びEDENと、ヴァル・ファスクとの戦いで知らされた「クロノ・ブレイク・キャノン」の破壊力。その力がリ・ガウスに向かないという保証はどこにもなかった。そのためにトランスバール、果てはEDENを封じるための戦いだった。しかも正樹と彩の母星である星が原因不明の攻撃を受けたのだ。彼らが戦う理由はこれで充分だった。
だが、正樹は今にして思う。何故攻め込む必要があったのか。なぜ和平の道を進もうとは思わなかったのか。
全ての理由がこじつけられたように思える今、正樹は戦争になろうとしているこの戦いに不信を抱き始めた。
だが、だからといって裕樹を認めるわけにはいかない。
彼は、あの世界に行くべきではなかったのだ。でなければ今のように戦闘が激化しなかったはずだ。
正樹は、戦いを止めるわけにはいかなかった。
彼を連れ戻すためにも。
「よし、じゃあ繋げるな」
裕樹はその場にいる全員に許可を取り、通信回線を繋げた。______相変わらず、彼女はわずか数秒で出てくれた。
『あ、裕樹さん。無事だったん・・・・・・』
言いかけた言葉と笑みかけていた表情が中途半端な状態でとまった。
「・・・・・・なあ裕樹。固まってるぞ、彼女」
「あ、ああ・・・事前に連絡しとくべきだったかな・・・」
タクトのストレートな言葉に裕樹はこめかみを思わずかいた。
裕樹たちから見れば春菜は巨大スクリーンに映っているほどにまで、通信映像が巨大化されていた。
春菜の赤紫の瞳と青紫の髪が、よろしくないほどに固まっていた。
やがて、春菜はその表情のまま、信じられない、という様子で裕樹をじっ・・・と見つめてきた。
『あのー・・・裕樹さん?後ろの方々は?』
微妙に視線を反らしながら裕樹は素直に白状した。
「いやー、実はいろんな事情があってさ、バレてたし薄情しようと思ってさ」
『・・・・・・裕樹さん・・・』
なんともいえないようなあきれ顔をされ、裕樹は引き気味に苦笑する。
「ご、ごめんって!ちゃんと説明するから!」
『・・・別にいいですけど。困るのは裕樹さんですから』
「は、春菜〜」
その親しい仲であるのを見せつけるような会話に、何となくちとせはムッときた。
「・・・ところで、裕樹。いつになったら話が進みそうだい?」
いい加減、じれったくなってきてタクトはしびれを切らした。
「あ、悪いタクト」
あらためてみんなに向き直る。春菜のキリッとした表情になった。
「えーと、彼女は俺の・・・仲間、というか協力者・・・というか、まあ、友達の音無春菜だ」
『えっと、初めまして、音無春菜です。よろしくお願いしますね』
モニター越しでもキチンとお辞儀をし、礼儀正しく挨拶した。
「でー春菜、この方たちは、シヴァ陛下と、白き月の聖母シャトヤーン様、それと黒き月の管理者のノアと、トランスバール皇国軍将軍、ルフト・ヴァイツェン将軍だ」
4人が最重要人物だとわかり、春菜は深々と礼をした。
「でもって、こっちがエルシオール司令官のタクト・マイヤーズ大佐と副官のレスター・クールダラス少佐。で、左から順にエンジェル隊リーダーのフォルテ・シュトーレン、ミルフィーユ・桜葉、蘭花・フランボワーズ、ミント・ブラマンシュ、ヴァニラ・H、烏丸ちとせだ」
各々の自己紹介が終わり、本題に入ったところで裕樹はあらかたの事情を春菜に説明した。
『・・・つまり前線基地の場所を教えればいいんですね』
「ああ、どういうわけか奴らはトランスバール皇国内に直接やってくるということはないからな」
『あ、それはですね』
レスターが何気なく発した言葉に春菜が説明を加える。
『リ・ガウスからそちらの世界に移動するときは、周囲に力場が存在しない空間に移動するって決まりがあるんですよ』
「・・・?何故だ?」
『・・・恐らくは世界と世界が互いの世界に干渉することを自然と避けようとする『空間の復元力』の作用が働いているからです』
裕樹、シャトヤーン、ノアを除く全員が首をかしげた。
『簡単に言いますと、その世界の力が存在しているポイントに無理やり空間を交わせると、その力が互いの世界に流れてしまうじゃないですか。それを世界そのものが拒絶しているんです』
まったく簡単になっていない説明に空気が固まっていく。
素早くその雰囲気を察知した春菜は、素早く話を戻した。
『えと、場所ですけど・・・』
「その前に・・・春菜、聞いときたいことがあるんだ」
『・・・?なんですか、裕樹さん』
いつにない真剣な表情に春菜も真面目に対応する。
「そもそも・・・なんでリ・ガウスはトランスバールに攻撃してきたんだ?根本的な理由が知りたい。・・・多分、この場にいるみんなが知りたがっているはずだ」
裕樹の言葉に全員が頷いた。
『・・・それは・・・そちらにある『クロノ・ブレイク・キャノン』の存在のせいです』
「どういうことなのです?春菜さん」
『その、大変申し上げにくいのですが・・・そのクロノ・ブレイク・キャノンの破壊力を恐れての事です。その力がこちらの世界に向かないという可能性がないというわけがない、という考えだそうです。ですから、トランスバール、果てはEDENを封じるための攻撃だと・・・』
「な・・・そんな馬鹿げたことで戦争に持ち込むつもりなのか!?」
「タクトさん・・・」
『ですけど、民衆にはそう伝えられてます。事実、惑星グランは攻撃を受けて半壊しましたし・・・それが民衆の心を掴む決め手になりました』
「な・・・!?惑星グランが・・・半壊!?」
「バカを申すな!!トランスバール皇国もEDENも攻撃などしておらぬぞ!!」
裕樹とシヴァが同時に叫ぶ。もちろん、両者とも叫んだポイントがまるで違うが。
『あの、えっと・・・同時に叫ばれても・・・。まず裕樹さんから、______そうです、惑星グランが所属不明の敵から攻撃を受けてしまって、星としては無事ですけど住んでいた人たちの6割以上は・・・』
「・・・春菜、グランって確か・・・」
『はい・・・正樹さんと彩さんの星です・・・』
詳しく聞かなくても春菜の表情だけでどれだけ深刻な状態かが、嫌がおうにも伝わってくる。
「・・・正樹・・・彩・・・」
『・・・正樹さんが軍に復帰したのも、これが原因なんです』
「・・・そうだ、彩の両親は?」
『無事です。そこには攻撃がきませんでしたから』
「そっか・・・」
少しだけ、ほんの少しだけホッとした。大事な人たちの悲しい顔など、もう見たくはないから。
正樹にとっても、それはよかったことだろう。幼い頃に両親を亡くしたという正樹にとって、彩の両親は家族そのものなのだから。
「次は私だ。音無、説明してもらおう」
律儀にシヴァは話が終わるまで待っていてくれた。
『先程も申しましたけど・・・リ・ガウスの一つの星が攻撃を受けたんです。例えそれがそちらではないとおっしゃられても、議会派はそうは思わなかった・・・というよりむしろその攻撃を理由に戦争に持ち込んだかと』
「くっ・・・!こちらは完全に濡れ衣を着せられたということか・・・!!」
『もちろん、反対の声もありました。和平派がそうなんですけど議会派のほうが軍事的、政治的に圧倒的なんで、もみ消されたんですよ。それに・・・EDENの世界をよく知ってわかろうとしているのは和平派だけで・・・議会派は知ろうともしませんでした』
そんな中、ミルフィーユがふと思い立った。
「え?じゃあ春菜さんは違うんですか?」
『いえ、一応、軍にいますから議会派・・・になっちゃうんですけどね』
「じゃあ、なんでです?」
ミルフィーユの質問に、春菜はこれ以上ないほどの理由を言ってくれた。
『私、EDENやトランスバールの世界、好きですから』
まるで自分たちが褒められた気分になり、裕樹以外の人物は思わず照れくさくなった。
「他の世界の者からそう言われると・・・少し照れくさいな」
「いいじゃないですかシヴァ様。それだけ素晴らしい国と見られてるのですよ」
「言うな、マイヤーズ」
話がズレそうなので裕樹が強引に引き戻した。
「けど春菜、その所属不明だけど・・・」
『・・・まだはっきりとはしてませんね・・・調べておきますね』
「うん、頼む」
「とにかく・・・現時点でリ・ガウスを押さえ込むのは不可能に近いですね・・・悲しいですけど・・・」
「戦争・・・か・・・。くそっ!!何だってこんなことに・・・!!!」
「タクト・・・」
「けど、黙ってやられるわけにはいかない・・・!!」
レスターが励まし、タクトが立ち直る。エルシオールではわりとありふれた光景だ。
「・・・じゃあ春菜さん、前線基地の場所を。こちらから打って出る!」
『はい・・・前線基地の場所はそちらでいう、ポイント230W119Pですね』
「230W119P・・・・・・ガイエン星系ギリギリのところね。後ろが磁気嵐やアステロイドベルトになってるから陣取るには好都合ってわけね」
ノアが瞬時に計算してくれ、データをタクトに渡す。
「じゃあ春菜・・・また連絡するから。・・・ありがとな」
『いいえ、裕樹さんのためですし。・・・気をつけてくださいね』
「ああ、わかってる。じゃ・・・」
お互い、少し寂しげな表情で通信を切った。
タクトやシヴァが今後の打ち合わせをしている間、裕樹はこの戦争の真意を考えていた。
いや、もしくは裕樹自身の自己かもしれない。
(この戦争の裏に・・・必ず奴がいるはずだ。今度こそ・・・ジェノス・・・!!)