第十一章「相対の連鎖」

 

 

 

「前方のリ・ガウス軍に告げる!」

全紋章機とウイングバスターを発進させた後、タクトは裕樹の言う「思いっきり抑止力」とやらを実行していた。

「今から15分後、前線基地に向けてクロノ・ブレイク・キャノンを発射する!!リ・ガウス軍、ただちに退避しろ!我々は無益な殺生を望みはしない!」

(さーて、ここまでだ。あとは裕樹を信用するしか・・・!)

 

 

 

 

 

裕樹たちはミントをエルシオールの防衛に回し、残り全機で突撃をしかけた。

「あと30分で皇国軍が来る!それまでに終わらせるぞ、みんな!!」

「はい!まかせてください!」

「チャチャッと行くわよ!」

「今日は調子がいいんだ、すぐに終わらせるよ!」

「・・・行きます」

「烏丸ちとせ、参ります!」

と、前線基地からアスグが飛び出してくるのを確認する。

『よし、紋章機全機、散開!!』

通信でのタクトの指示を受け、紋章機は散開し、それぞれ迎撃にあたる。ウイングバスターもそれにならう。

と、シャープシューターのレーダーが新たな機影を確認する。

「!敵基地より敵の第二波、いえ・・・第三波まで来ます!!」

「タクト!基地の退避状況は!?」

『こちらで確認できただけでおよそ2割だ!』

その間、ウイングバスターは巧みにアスグの攻撃をかわし、スティンガーキャノンで撃ち落とす。

(くっ!まだ信じられないってか!?)

「タクト!」

『裕樹?』

「・・・チャージを始めてくれ」

『なっ!?』

「ただし、絶対に発射しないでくれ!頼む!」

裕樹はそのまま一方的に通信を切ってしまった。

「ちょっ、おい裕樹!?」

「マイヤーズ司令、どうしますか?」

アルモが尋ねてくる。

その声色からわかるアルモの期待を打ち砕くように、タクトは命令した。

「・・・エネルギーチャージ開始!」

「えっ!?」

「おい、タクト!?」

「ただし出力は50%だ!!絶対に撃つなよ!!」

「りょ、了解!!」

思わずレスターがタクトに駆け寄る。

「タクト!お前、どういうつもりだ!?」

「大丈夫さ。裕樹を信用するだけだ!」

「『だけ』って、お前・・・」

有無を言わさずレスターを押し戻す。レスターはムッとしたがこれ以上は何も言わずエルシオールの指示を再開した。

この戦い、元より裕樹を信じなければ恐らく勝つことはできないのだ。

タクトはそのことをすでに理解していた。

 

 

 

 

 

「ランファ!右だ!旋回しろ!!」

アスグを斬り裂いた直後、視界の端に黒いディアグスを捉え、その直線状にいたカンフーファイターに対して叫んだ。

が、カンフーファイターは旋回せずに放たれたミサイルをアンカークローで相殺したのだ。伊達に皇国最強と言われているわけではないという、気迫が感じられる。

攻撃を防がれた黒いディアグスは後退しつつ、ガトリングを連射する。それをカンフーファイターは正面からバレルロールしつつ、バルカン、ホーミングミサイルを発射する。

______この戦闘機、なんという戦闘力だ!!

あの黒いディアグスから、パイロットの叫びが聞こえてきそうだ。

2機の戦闘を見ていた裕樹は思わず見とれてしまった。やはり彼女ら、エンジェル隊の戦闘力も並大抵ではないということである。

「甘くみないでよね!アタシたちを!!」

押され気味のディアグスを援護するべく多数のアスグ、ディアグスが増援としてやってくる。各紋章機がその対応に向かう中、裕樹はその視界に赤きIGを捉えた。

(・・・来たか、正樹ッ!!)

赤き機体、メガロデュークを見た瞬間の気持ちに、裕樹は悲しさを覚えた。

親友としてよりも、敵としての認識のほうが早かった。

 

____________それは、今の立場からか本心からか・・・。

      友を友と思えなくなった時、果たして何が残るのか。

 

      それは、時の回廊の中での永遠の問いかけ。それと同等にさえ、感じた。

 

 

 

 

「!あれは・・・」

シャープシューターを駆るちとせは、アスグとの交戦の中、白と赤のIGが激突するのを視認する。

間髪、ロングレンジキャノンを放ち、アスグの両足を破壊、ミサイルポッドの弾幕を張り、かく乱させる。その隙にシャープシューターはウイングバスターとメガロデュークの元へ向かう。

「親友同士で・・・大切な人同士で戦うなんて・・・」

一瞬、父の顔が浮かんだ。あの時の教えを、自分は守らなければならない。

「なんで、そんなことを平然と出来るのですか!!」

ちとせのH.A.L.Oが輝き、シャープシューターは更に加速した。

 

 

 

 

 

「裕樹!!」

メガロデュークのミサイルをスラスターを全開にして避けつつ、ウイングバスターはメガロデュークに斬りかかり、メガロデュークも実剣で受け止める。

「お前、こんな、クロノ・ブレイク・キャノンなんか持ち出してくるヤツらの味方をする気か!?」

「・・・・・・」

「答えろ!裕樹!!」

せり合う部分の火花が激しく散り、メガロデュークは力まかせにウイングバスターを振り払う。

「・・・クロノ・ブレイク・キャノンを装備するように言ったのは、俺だ!」

「何!?」

「だが撃ちはしない!トランスバールは、タクトは撃ちはしない!!」

ファングランチャーを放ちつつ、即座に両手にプラズマカッターを持ち突撃する。それをメガロデュークは両肩の「エリミネート・クレイモア」で一気に防ぎ、ウイングバスターも急上昇して回避せざるをえなかった。

「そんな確証がどこにある!!惑星グランは、トランスバールの攻撃を受けたんだぞ!?」

「・・・・・・ッッ!!!」

再び接近しようとしたが、遠方からのビームに阻まれる。

『正樹!』

現れたのは普通の灰色のディアグスとは違う、黄色のディアグスだった。

「京介か!」

2機が戸惑った隙にディアグスはビームサーベルを抜き、ウイングバスターに迫る。

(このディアグス・・・ビーム兵器にフルチューンされている!!)

強化されたディアグスと認識しつつ、ウイングバスターは刃を刃で受け止める。

「裕樹ッ!!」

「・・・!!京介!?」

「裕樹!君の介入が無駄に戦火を広げてしまうことになぜ気づかない!!」

「・・・勝手なことを言うな!!!!!!

ビームサーベルを押しきりつつ、間合いを離す。

「だったらこのままトランスバールを見捨てろってのか!?そんなこと・・・出来るかよ!!」

そして再び折り返し、メガロデュークへと向かう。

「待て裕樹ッ!!!!

京介は追撃しつつ、ビームライフルを撃つ。が、全て避けられてしまう。

(ッッ!!当たらない!?)

機体性能の差もあるが、何より大きな差はパイロットの腕前にある。

それほどまでに裕樹の腕は伝説的なのだ。

(けど、だからといって・・・!)

あきらめるわけにはいかない。彼とはこれ以上戦いたくない。それだけの思いを持ち、京介は追撃する。

今、ウイングバスターはメガロデュークと激戦をくり広げている。

______今なら挟み撃ちに出来る。

そう思い、一気に接近したその矢先、京介の目の前を青い光が(はし)った。

 

 

 

 

 

 

「正樹ッ!!」

「ユウキィィィッッッ!!!!!!!

裕樹と正樹は互いの叫びと共にプラズマカッターとスパークブレードの刃を激突させる。

「裕樹!俺はリ・ガウスを守らねぇといけねぇんだ!!・・・これ以上、誰かが悲しむ顔を見たくねぇんだ!!!」

「・・・っっ!!だからってトランスバール全てを敵とみなすのか!?・・・そんな事ぐらい、分からないお前じゃないだろ!!」

「何をっ!」

続きを言いかけるより先に、ウイングバスターの警報(アラート)が鳴り響く。

「もらったぁ!」

京介が叫んだ____________刹那、レーダー外(・・・・・)からの光弾がディアグスのビームライフルごと右腕に突き刺さる。

恐るべき速さで放たれた光速弾に、3人とも驚愕の声を上げる。

「「「なっ!?」」」

3人とも光弾の飛んできた方向を見る。現れたのは、長砲身のリニアレールキャノンを装備した戦闘機だった。

「な、なんだ・・・あの戦闘機は・・・。前の戦闘時にはいなかったぞ!?」

「シャープシューター・・・ちとせ?」

そんな中、少しは慣れていた裕樹はいち早く我に返り、メガロデュークを振り払う。そしてその場で回転、京介のディアグスへと向かう。

「い、10000以上の距離からの狙撃!?そんなことが可能なのか!?」

撃たれた驚きで我を失っていた京介はウイングバスターの接近に反応が遅れた。

「っ!!」

あわてて残された左手でビームサーベルを抜くが、もう______

「遅い!!!」

「両手に構えたプラズマカッターですれ違いざまに頭部、左腕を切断する。

「うわあぁぁぁっっっ!!!!!!

ウイングバスターはそのままディアグスに取り付く。

「京介!」

「・・・!!」

「前線基地から退却しろ!早く!!」

「な、何を」

「・・・撃ちたくない」

「・・・え?」

「撃たせるな!!!」

そのまま蹴り飛ばし、ウイングバスターはその反動を利用し、メガロデュークへと踵を返す。

京介は除々に遠ざかっていくウイングバスターを見つつ、部下の機体に回収される。

「中佐!ご無事で!?」

「あ、うん・・・大丈夫だ」

半ば放心しつつ、京介は裕樹の言葉を思い出す。

______撃たせるな!!!______

あまりにも鮮烈で、けど揺るぎない真っ直ぐな思い、心。

(信じるよ、裕樹。君の言葉を・・・)

そして、京介は一つの命令を下した。

 

 

 

 

 

 

「これ以上は・・・!!」

隊長機であろう、黒いディアグスのガトリングを旋回してかわしつつ、ミントは「フライヤー」を更に6機、合計で9機のフライヤーを展開させる。

「ご覧あそばせ、光の舞をっ!!」

フライヤーダンス。9機のフライヤーによるオールレンジ攻撃は他の機体を次々に落としていく。

が、その中の黒いディアグスは驚異的な腕前でその全てをかわしきる。

「そんな、今のを!?」

たった一機相手にここまで苦戦するとは思わなかった。ミントは知らず知らずのうちに息をきらしているのに気づく。

その瞬間、タクトの声が響いた。

『今だ、ミルフィー、ランファ!!波状で回り込むんだ!!』

「了解です!」

「了解!!」

相手の側面に回り込み、ラッキースターはビームファランクスを放つ。相手はなんとか反応し回避行動に移ったが、追撃のビームキャノンを放ち、ガトリングを破壊する。

その隙をカンフーファイターが逃さず追い討ちをかける。ディアグスはビームを放つがカンフーファイターはそれをかわし、すれ違いざまにワイヤーアンカーでディアグスを吹き飛ばす。

「ぐっ・・・やる!」

『フォルテ!!』

「あいよぉ。・・・いただきだ!!」

「何!?」

ハッピートリガーは真上から連装リニアレールガンを発射、それによりディアグスの両腕を撃ち抜いた。

「く・・・これ以上は無理か。・・・撤退する!」

撤退するディアグスを見、ランファは思わず安堵の息をつく。

「や、やったわね」

「ええ・・・」

「・・・思った以上の、相手でした・・・」

『みんな、よくやってくれた。全機、一度補給に戻ってくれ』

「了解です!」

 

 

 

「ふう・・・」

タクトは思わず安堵の息をつく。それも思った以上に作戦が上手くいっているからである。

「気を抜くには早いぞ、タクト」

「わかってるさ」

レスターの睨みを受けつつもタクトは次の指示に入る。

「敵基地の退去状況は?」

タクトの言葉にココが驚いたような、それでいて嬉しそうな声で返してくる。

「はい・・・わっ、すごい!ほぼ全員の退去が完了しています!!敵基地に生命反応、ありません!」

「そうか、よかった・・・クロノ・ブレイク・キャノンを使わずに済みそうだよ」

「そうだな・・・ん、おいタクト、シャープシューターは?」

唯一帰艦しなかったシャープシューターに、レスターがいち早く気づく。

「な、いない!?」

「シャープシューターは現在、メガロデュークと交戦中!ウイングバスターもそばにいます!」

ココの報告に、タクトは予感めいたものを感じる。

「ちとせ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「チッ!!何なんだこの戦闘機は!」

両肩からの無数のクレイモアをかわしつつ、シャープシューターはビームファランクスを放つ。メガロデュークはそれを避け、ビームライフルを撃つ。が、ちとせはそれをもかわし、ミサイルランチャーとビームファランクスを再度放つ。

「・・・戦わせない」

「何!?」

突如、聞こえてきた女性の声に正樹は少なからず驚く。

「あなたと裕樹さんを・・・戦わせはしない!!」

「待て、ちとせ!!」

ウイングバスターが後方から近づいてくる。

「ちとせ、下がるんだ!!君には関係のないことだろう!」

「そんなことないです!!」

「っ!?」

「そんなこと・・・そんなこと・・・!!!」

ここまで拒否するちとせを裕樹は初めてみた。

その身に秘めてる思いを知りはしないが、だからといって無視はできない。

スティンガーキャノンを構え、接近しつつも連射していく。

「2人とも、なんで・・・」

「「!?」」

ちとせの叫びと共に、シャープシューターは2機の間に弾幕を張る。

「なんで戦うんですか!!なんで、戦えるんですか!?」

「ふざけるな!!」

弾幕を突き破り、メガロデュークはちとせに斬りかかる。

「何も、何も知らねぇ奴が・・・勝手なことをぬかしてんじゃねぇっ!!!」

メガロデュークの刃がシャープシューターに触れる間一髪のところで、ウイングバスターのプラズマカッターが受け止めた。

「!!裕樹!お前だって、所詮トランスバールの連中を利用してるだけだろ!!」

「けど、この人たちはもう俺の仲間なんだ!!見捨てられるわけないだろ!!」

互いにバーニアを最大出力にし、激突する。

「それに正樹!グランを攻撃したのを何故トランスバールと決め付ける!!」

「何だと!?」

「お前が、お前自身の目で確認したのか!?」

根本的な疑問を突かれ、思わず躊躇いがちになる。

「だったら、一体誰が攻撃してきたんだ!?」

「知らない!けど、トランスバールはそんなことはしない!!」

「何故そんなことが言い切れる!!」

「ならば正樹!お前も来い!来たら必ずわかる!!」

「ふざけんじゃねぇ!!リ・ガウスが信じられねぇ奴の言葉なんか、信用できるか!!」

(・・・信じられない・・・?リ・ガウスを?)

頭の中にあの時(・・・)の光景が浮かぶ。

「違う!!」

「違わねぇ!!じゃあなんでリ・ガウスを捨てた!!」

 

 

 

 

____________雪だった。雪に、自分は埋もれるほどに包まれていた。

      今更ながら、この時から雪が嫌いになった。

      それまでは好きだったのに。

      あいつの好きな雪を、一緒に見るのが何よりも好きだったのに。

      皮肉にも、あいつの好きな雪が、あいつを見た最後の風景だった。

            雪が、俺から全てを奪っていった・・・・・・

 

 

 

 

 

裕樹を現実に引き戻したのは、ちとせの声だった。

「フェイタルアローッッ!!!!!

せりあう両機の後方から発射されたフェイタルアローはウイングバスターの頭部をかすめ、メガロデュークの頭部に直撃する。

「ぐわぁっっ!?」

ハッ、として裕樹は我に返る。

直後、刃を弾き縦にバレルロール、両手のプラズマカッターを同時に振り下ろしメガロデュークの右腕を斬り飛ばした。

「・・ぉぁぁぁあああああっっっ!!!!!!!!!!

更に隙だらけの胴体をX字に斬りつける。が、厚い装甲の前では表面上に傷をつけただけだった。

だが、充分だった。

もはやメガロデュークに勝ち目は無い。それだけの気力もないだろう。

「・・・・・・」

「・・・正樹」

正樹は無言のままスラスターを操作し、後退していく。

「・・・わぁったよ、裕樹。お前が、どうあってもリ・ガウスに帰ってこないと」

「・・・・・・」

「なら・・・今度会った時は・・・俺が、お前を倒す!!」

「・・・・・・ッッ!!!!!

ウイングバスターはそのまま追うことも、追撃することもできず、ただ、メガロデュークを見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

エルシオールの中でタクトは丁度、ルフトの艦隊が到着したことに、別の意味での安堵の息をついた。

「マイヤーズ司令、ルフト将軍からです」

「わかった、つないでくれ」

「了解です」

モニターにルフトの顔が映し出される。その表情は嬉しさがにじみ出ていた。

『やりおったなタクト!まさか本当にエルシオールだけでやりきるとは!!』

「いえ、裕樹のおかげですよ。向こうにも犠牲者はほぼいないでしょう」

『まあよくやってくれた。基地内部の探索は我々で行っておこう』

「わかりました。感謝します、ルフト将軍」

通信を閉じてから、タクトはため息をついた。

(・・・裕樹)

 

 

 

 

 

ピクリとも動かないウイングバスターに、シャープシューターはゆっくりと近づいていった。

「裕樹さん・・・」

「・・・・・・」

返事がない。ただ、呼吸音が聞こえるだけだ。

「裕樹さんの望んだ通り、誰も死なずに、作戦、成功したんですよ・・・」

それがせめてもの慰めと言わんばかりに、ちとせは告げた。

「・・・・・・」

「・・・帰りましょう、裕樹さん・・・」

「・・・・・・・・・」

裕樹は無言だったが、ちとせは分かっていた。

______きっと、彼は今、泣いているんだ・・・・・・

裕樹は無言のまま、シャープシューターの後へとついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦終了後、エルシオールはトランスバールへ帰艦途中だった。

そんな中、タクトとミントはちとせの部屋へと向かっていた。

エルシオールに戻ってからどこか元気がなく、ずっと部屋に篭りきっているのだ。

「ちとせさん?いらっしゃいますの?」

ミントが呼びかけるが返事がない。

「いない?」

「いえ、部屋の中からちとせさんの思念を感じますわ」

いてもいられなくなったタクトは部屋のロックを強制的に解除した。

「ちとせ?悪いけど、上がらせてもらうよ」

部屋に入った2人はすぐにちとせを見つけた。

隠れてなどいなかった。

正座で、ぼーっとしながら中庭を見つめていた。

その光景に、タクトとミントは不安を感じた。

「ちとせさん」

悩んでもいられないので、ミントはちとせに声をかけた。______ちとせは振り向かずに答える。

「部屋の鍵をかけたつもりですが・・・」

「すまないが、司令官権限で開けさせてもらった」

ちとせには珍しく、振り向きもしなかった。_______それで怒る二人ではないが。

「・・・何か、用事ですか・・・?」

「・・・俺はエンジェル隊の司令官だ。常にみんなの様子を見て、なんとかするのが俺の仕事だからね。・・・単純に心配なんだ」

「みなさんもそうですわ。みなさん、ちとせさんのことをとても心配していますのよ」

二人は、続きをじっと待ち続けた。

特にミントには、ちとせが必ず続きを話すだろうという確信があった。

返事がなくても、その瞳は凛として真っ直ぐだったからである。

そして、ミントがテレパスで見えたものは、理想と現実、父の言葉と裕樹の言葉だった。

「・・・タクトさん」

2,3分後、ようやくちとせは口を開けてくれた。

「ん?何?」

「私は・・・間違っていたのですか?」

「え?」

「私は・・・」

重要な単語を抜いている。それでも、タクトは聞いていた。

「私は、父の言葉を信じています。父の、理想を・・・。けど、裕樹さんの現実の言葉が、正論で・・・。でも、私は・・・」

抽象的だった。それでも、その一つ一つの言葉には強い思いがこもっていた。

だから、こう答える。

「・・・ちとせは、間違ってないよ」

「・・・え?」

「けど、正しいとも言えない」

「・・・・・・」

「理想ってのは答えじゃない。考え方なんだ。何かを決める時や、自分自身を見失ってしまった時に確認する、道標みたいなものなんだ」

「・・・・・・」

「だから、ちとせは・・・ちとせのお父さんの言葉を信じていいんだよ。それが、ちとせの正しい道と思うなら・・・」

ちとせは思わず振り返ってタクトを見つめていた。

何故、この人の言葉はこんなにも強いのだろう。この人の思いに、見とれてしまうほどに。

そして、ちとせはもう一度、再認識した。

やはり、父の言葉を信じている自分がいた。この考え方が変わることは、想像すらできないほどに。

それが、自分自身の理想と信じて・・・・・・