第十八章「光ある場所へ」

 

 

 

「敵襲!?星治さん!!」

サイレンが鳴り響く中、レスターはモニターに映る星治と向き合う。

『確認した。どーやらリ・ガウス軍みたいだな。・・・この基地、というよりそちらを追ってきたって感じだな』

ズバズバ言われ、少し居心地が悪くなった気がした。

『ああ、悪い悪い、別に誰も気にしちゃいないさ。なにせ、裕樹の信じた艦だからな。こちらも防衛にセイカーとエルドガーを出すぜ』

「い、いや、それは・・・!」

『・・・その艦は、きっと最後まで俺たちやトランスバールの希望になるハズだ。だから、今ここで落ちてもらうわけにはいかねーさ』

ニカッと笑う。裕樹や、この人たちがここまでこの艦を思っていてくれるとは・・・

「すまない、ありがとう星治さん」

『おうよ!お互いに踏ん張ろーぜ!!』

励まされ、少し気持ちが高ぶっているのがわかる。

と、忘れていた存在を思い出す。

「おい・・・ところでタクトはどうした!?なんでまだブリッジに上がってこないんだ!!」

「あの、それが・・・」

アルモが気まずそうに、おずおずと話した。

 

 

 

で、ウイングバスターのコックピット。乗っているのはもちろんタクトだった。

『お前がウイングバスターに乗る!?バカも休み休みにしろ!!さっさと戻ってこい!!!!!

「うわー・・・真剣に言ってるのに全っ然信じやしない、この親友・・・」

「日頃の行いのせいだな、多分」

からかいながらもしっかりフォローしてあげるつもりだ。

『お前が行ったからって・・・それに、エンジェル隊の指揮はどうする!?』

「大丈夫だ!指揮ぐらい操縦しながらやってやるさ!」

「それにレスター、腕前の方は俺が保証するぞ。以前、シュミレーターでだが、ラッキースターと互角に戦ってたぞ」

『裕樹!お前まで何を・・・!!』

「そういうことさ、レスター。信用しろって」

モニター上で、レスターはあきらめたように頭を振った。

『ああくそ!!勝手にしろ!!・・・お前が何かをして、巻き込まれるのはいっつも俺だ・・・』

「すまないね、レスター。行ってくるよ」

『タクト・・・無茶だけはするな。・・・わかったな』

結局のところ、こうなのだ。親友とした、タクトが心配なのだ。

その会話を聞いていた春菜が思わず微笑んだ。

「なんだか・・・いいですよね、ああいうのって」

「なんだよ、春菜は心配してくれないのか?」

「・・・そういうことじゃないんですけど・・・ちゃんと心配してますよ、裕樹さんのコト」

「ありがとな」

裕樹は、春菜と一緒に笑い合い、コックピットを閉めた。

 

 

 

 

 

 

外ではすでに戦闘が開始され、リ・ガウス軍の母艦と共に大量のアスグ、ディアグスが降下、展開している。

その中、セイカーを駆るサクヤは、部隊の指揮を行いつつ戦っている。

「エルドガー全機は本部及びエルシオールの護衛に!セイカー部隊で応戦するのよ!!」

指示を与え、今度は降下する敵機を向かえうつ。

(裕樹・・・ここは守ってみせるね・・・!!)

 

 

 

 

 

 

『発進シークエンス、開始します。ゼロバスター、ウイングバスターはカタパルトデッキへ。ラッキースター、カンフーファイター、シャープシューターは射出デッキへ』

カタパルトへ移動しつつ、タクトは思いをめぐらせる。

(大気圏内戦闘だから機体の性質上、出撃できるのは・・・ミルフィー、ランファ、ちとせだけか・・・。数も少ないし、あまり動かさず、護衛がベストか・・・?)

「タクト、大丈夫か?行くぞ!」

「あ、ああ!大丈夫だ!!」

裕樹に促され、タクトは手元のレバーを強く握りしめる。

これから自分は戦場へ出て行く。少し、身震いしたが、こんな思いをミルフィーユにさせていると思うと、もうとても耐えきれなかった。

『ゼロバスター、及びウイングバスター、発進どうぞ!!』

「朝倉裕樹、ゼロバスター、行くぞ!!」

ゼロバスターが先に発進し、敵の大軍の中へ恐れもせずに突撃していく。

「・・・タクト・マイヤーズ、ウイングバスター、出るぞ!!」

そして、受け継がれし白き翼も、搭乗する英雄を変え、再び戦場へと舞い戻っていった。

 

 

 

 

「ッ!こんな人たちに・・!」

ディアグスとせり合い、互いに弾き飛んだとき、サクヤは上空を高速で飛ぶ機体に気づく。

(あれは・・・ゼロバスター・・・裕樹!)

ゼロバスターは上空でこちらに向き直り、腰に連装バスターキャノン、ティアル・ライフルを構え、マシンキャノンも同時に放ち、サクヤの手元の敵を含めた4機を撃墜する。さらにゼロバスターは両手にプラズマソードを抜きつつ急降下し、回転しながらのメッタ斬りで周囲の敵機をなぎ払う。

ゼロバスターは、一瞬サクヤの乗るセイカーを見ると、間髪居れずに別の戦闘空域へ飛び去った。

「す、すごい・・・」

圧倒的な戦闘力を見せられ、サクヤは呆然とする。そのセイカーを狙おうとディアグスが迫るが、高速でやってきたウイングバスターのスティンガーキャノンの前に墜ちる。

「やっぱり直で見ると裕樹は凄いな」

「タクト!アンタ、ルーキーなんだから裕樹を見習っときなさいよ!!」

「まあまあランファ先輩」

「え〜〜〜っと・・・サクヤさん!助けに来ました!」

明るいノリでやってきたため、サクヤは少し呆然としたが、すぐに我に返る。

「ありがとうです!すいませんけど、何機かを防衛に回してもらえませんか?」

「わかった。・・・じゃあ、ランファ、ちとせ、二人はここでサクヤさんの支援にまわってくれ」

「「了解!!」」

「俺とミルフィーは裕樹の支援に行くぞ」

「了解です!タクトさん!!」

 

 

 

各々の戦闘が始まってから数分、基地本部及び、エルシオールのレーダーにアンノウンの機影が3機、表示される。

「これは・・・IGか!?」

レスターは基地本部の星治と繋いだが、あちらも同じ状況だった。

『こちらのデータには存在しないIGだな』

「・・・と、いうことは・・・リ・ガウス軍の新型か!?」

『そうです!!』

突如、モニターが強制的に入れ替わり、レスターは困惑する。

モニターに映るのは、ショーットカットの女性。それは、星治たちにとっては馴染んだ顔だった。

『彩!いつのまにこっちに来たんだ!?』

『そんなことより!あの3機はリ・ガウス軍のコキュートス計画で開発された新型機よ!まだ最後の一機が完成してないから、来ないと思ってたのに・・・!!!』

『どういうことだ!?』

『あれに乗ってるのは、和也、桜花、詠の3人なのよ!最後の一機には和人が乗るらしいわ!』

4人とも、解放戦争を経験した者にはありふれた名前だった。

『アイツ等か・・・!!』

『それぞれ、カイーナ、アンティノラ、トロメア、まだ完成してないのはジュデッカよ。カイーナはそのフォルムからもわかるけど、大量の武装を装備している、怪物じみた火力を持ったIG。アンティノラは特殊戦闘用で、極限まで細い、切断糸兵器『刹』を装備してる。トロメアは3つの刃に展開する巨大な実剣、『アイアンセイバー』を持った、近距離用、高火力IG。――――どれも一筋縄ではいかない性能よ!気をつけて!!』

その説明を聞いたレスターは、急にタクトのことが心配になってきた。

「タクト・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、オレは本部を叩くから、二人はトランスバールの艦を頼むね」

そう言って、カイーナに乗る和也は別方向へと別れていく。

残る2機の前に数機のセイカーが立ち塞がった。

「私たちの邪魔をするな!!」

アンティノラに乗る桜花が、『刹』を振り下ろそうとすると、横っ面にゼロバスターの強烈なキックが直撃した。

「あああぁぁっっ!!!!!

アンティノラを湖に叩き落としている隙に、詠の乗るトロメアが地上のエルドガーを3機同時に斬り裂いた。

「くそっ!コイツ等!!」

トロメアへと向かうと、後方からアンティノラにビームポッドを撃たれる。それを横にずれて避けるが、飛び立ったトロメアが正面からレーザーショットを発射する。ゼロバスターはバレルロールを行い、反転した体制で肩から連装バスターキャノンを放つが、トロメアの『アイアンセイバー』は正面からこれを弾く。思わず裕樹も驚愕する。

「今のを・・・弾いた!?クソッ!!」

プラズマソードを構え、接近してきたアンティノラのレーザーサーベルを弾きつつ、左手から振り下ろされた切断糸兵器『刹』を回避する。『刹』はそのまま湖の氷と水すらも切断した。

「なんて武装だ。コイツ等・・・!!」

 

 

 

 

 

 

一方、カイーナはその大量武装で本部周辺をひたすらに攻撃していた。

そのカイーナに対し、ウイングバスターは側面から急接近する。

「これ以上は・・・っ!!」

撃たれた射撃を避けつつ、和也はその機体に一瞬驚いた。

「ウ、ウイングバスター!?裕樹・・・!?」

だが、すれ違いざまに何もせず、距離をとる動きに、和也は確信する。

(そういや・・・裕樹は別のIGに乗ってるんだよな。・・・フンッ!裕樹の乗ってないウイングバスターなんて!!)

誰かは知らないが、なめきった考えで、武装を次々に解放する。が、予想に反してウイングバスターは後翼を展開しながら空中を飛び、その全てを避けていく。

「あ、当たらない・・・!?」

と、回避されながら発射されたファングランチャーの直撃を受け、水面ギリギリまで高度を落とされる。そのまま上空から更に実弾を大量に放たれ、水柱で身動きを封じられる。

「く、くそ!!」

その隙に水面まで来ていたウイングバスターに、すれ違いざまに斬撃を受ける。

「コッンノヤロォォォッッーーー!!!!!

両機は水面上を対角線に移動しつつ、攻撃を続ける。

火力の高さで押していたが、一瞬の隙をついて上空へ飛び上がり、カイーナもミサイルを放ちながら追うが、それをファングランチャーで相殺され、爆煙をおこす。

「な、何なんだ!このパイロットは・・・!?」

飛びぬけた腕前を持っているわけではない。ただ、IGの――――正確にはウイングバスターの――――扱いが飛びぬけて上手なのだ。センスだけなら裕樹すら越えているだろう。

 

 

 

和也は知らない。

本来、同じ機体に乗り続けていると、その機体のクセなどが段々と理解してきて、その機体の性能を100%発揮するものである。

だが、タクトにそんな期間は必要ない。どんな時間をも凌駕できる僅かな時間で、どのような機体のクセにも慣れてしまえる(・・・・・・・)。すなわち、どんなこと操縦や、操作にも適応できるのだ。

和也は知らない。タクトが、ただ適応力にのみ特化した驚異的な力、『EDEN』を持っていることを。

 

 

 

その刹那の考えと、煙による一瞬のうちに、ウイングバスターは上空からビームとランチャーの雨を降らせ、カイーナを再び叩き落した。

「や、やっぱ新型は・・・強い。まだ落ちないのか・・・?」

息を切らしながらタクトはカイーナと対峙したが、カイーナの和也はそれ以上に驚きを隠せなかった。

「なんて奴だ、コイツは・・・!!」

互角に戦えているのは機体性能の差と腕前のおかげだろう。動きにルーキーらしさが出ている。が、逆に言えばそれだけの差がないと互角に戦えていないという意味である。

和也の背中が思わずゾクリとする。――――このままでは、こちらが危ない。

和也の考えはおおむね正しい。タクトの『EDEN』は、パイロットが培ってきた『経験』すらも越える適応力を持っているのだから。

プラズマカッターを構え、迫るウイングバスターに対し、レーザージャベリンを構えた。

互いの刃がぶつかりあった時、直接通信により、タクトの耳に相手の声が聞こえてくる。

「・・・お・・・い、!・・・誰・・・!!」

「な、何だ?」

「お前は、誰だ!!」

「・・・タクト・マイヤーズ!!」

(タクト・・・マイヤーズ!?EDENの英雄と言われた、あの・・・?)

「・・・タクトさん!!」

「ミルフィー!」

周囲の敵機を一掃し、ようやく援護に来てくれたラッキースターのビームキャノンが、カイーナに直撃し、その隙を逃さず、ウイングバスターは相手のバズーカを切断する。

と、いきなり閃光弾を放たれ、怯んでいる間に、カイーナに逃げられた。

「タ、タクトさん。どうすれば・・?」

「・・・残念だけど、エネルギーが切れそうだ。一旦、ランファとちとせの所に戻ろう。

モニター越しにミルフィーユが頷くのを確認し、タクトは進路を変えた。

 

 

 

 

 

 

一方、ゼロバスターは更なる激戦を繰り広げていた。

アンティノラの「刹」を避けた先をトロメアの「アイアンセイバー」に追撃をかけられる。それをプラズマソードで受け流した直後、背後から大きな衝撃を受ける。

「ぐっ・・・!!」

3機のうちの1機、カイーナの攻撃だった。直後のアンティノラのビームを斬り防いだ瞬間、トロメアに背後をとられてしまう。

「とったぁ!!!」

「・・・ッッ!!」

刹那、上空からのビームの圧縮弾がトロメアに直撃する。

「えっ!?」

「なっ・・・」

「なん、だと!?」

そして、ゼロバスターをかばうように現れた緑色のIGは、ゼロバスターの前へ移動する。

驚愕している裕樹の耳に、そのIGから声が聞こえた。――――1度は共に戦い、そして、殺しあうほどにまで戦ってしまった、かけがいのない親友の声。

「・・・こちら、X−D003 グランディウスのパイロット、神崎正樹だ。・・・裕樹、だな?」

「・・・っっ!!正樹・・・!?」

 

 

 

 

 

 

「何だ、あのIGは!?敵機か!?」

突如レーダーに現れたIGにレスターが叫ぶ。

「いえ、これは・・・ゼロバスターを援護しています!!」

その様子を春菜と彩はわかっていたように見ていた。

「やっと来たのね、正樹のヤツ・・・」

春菜は思わず、笑みを浮かべた。

「?何笑ってるのよ、春菜」

「いえ、やっぱりこうなっちゃうんだなって・・・」

「どういう事?」

「やっぱりみんな、裕樹さんの所に集まっちゃうんだって」

「・・・そうね、結局、そうなっちゃうのよね」

 

 

 

 

 

 

「正樹・・・なのか・・・?どうして!?」

「裕樹・・・」

話をしようとした二人を、カイーナのビーム砲が遮った。

「くそっ!なんだよお前は!!」

合わせるように、コキュートスの攻撃が再開される。

「まあとりあえず・・・」

「話はコイツ等をのめしたからってことで・・・」

互いに機体同士、目を合わせる。

息はピッタリ合わせられる。

――――それが、二人の本来の力だから。

「何なのよ、一体!」

アンティノラの「刹」を左右から交差する形で避け、ゼロバスターは右手とライフル、グランディウスは左肩から上を、ビームを纏った対艦刀、「ディヴァインソード」で切断する。間髪入れずにゼロバスターは連装バスターキャノンをトロメアに放ち、グランディウスは上空から2機に向けてスプレーミサイルを浴びせる。

「くっそ!この2機・・・!!」

視界が遮られた瞬間、グランディウスがカイーナの右腕と展開されていたビーム砲を3つを一機に斬り、破壊する。そのカイーナを目の当たりにしたトロメアの隙をついて、ゼロバスターは水面下から飛び上がり、ラケルタ・プラズマソードを大きく上段に構えた。

「でやああぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!

全力で振り下ろし、「アイアンセイバー」を切断し、その流れを殺さず回転、トロメアの胸部に斬撃を与えた。

「ぐっ・・・!!・・・和也、桜花!引くぞ!」

「くっそぉぉぉ!!」

「っ!了解・・・!!」

これ以上の追撃はせず、2機はコキュートスらを見送った。

裕樹は改めて、グランディウスに通信を繋げた。

「正樹、ありがとな。助かった。・・・でも、どうして?」

「・・・お前が生きてるって知って、グランの事とか調べて、考えた。・・・・・・それで、まだ、間に合うって思ったから、俺は・・・」

嬉しかった。正樹は正樹なりに考えてくれ、そして、自分を助けに来てくれた。

何より、また手をとり合い、同じ道を歩んでいけるのが、嬉しかった。

「・・・俺は、お前を助けたい。もちろん・・・美奈のことも含めて、な」

「ありがとな、正樹・・・」

2機は、再び雪の降り出した中、エルシオールへ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「すまなかった・・・」

エルシオールへ戻り、みんなに正樹を紹介した後、正樹がちとせへ言った言葉がこれだった。

「君は、俺と裕樹を止めようとしてくれたのに、俺は・・・」

「正樹さん」

罪悪感に苛まれる正樹に、ちとせは優しく声をかけた。

「裕樹さんと仲直りできて、よかったですね」

「え・・・?」

言われた言葉が即座に理解できなかった。

「・・・許して、くれるのか・・・?」

「許すも何も、私は怒ってませんから」

呆然としている正樹に、エンジェル隊が笑いかけた。

「こりゃあ一本取られたね」

「ま、ちとせがそーいうならアタシは何も言わないわ」

「ええ、これからよろしくお願いしますわ」

「・・・よろしく」

「正樹さん!よろしくです!!」

唖然としている正樹に、裕樹は言ってやった。

「こーいう人たちなんだよ、エンジェル隊って」

やっと、正樹は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルシオールがリ・ガウスを出る前日、裕樹は一人でもう一度、ウェイレス地方へやってきていた。

静かに雪が降りしきる中、裕樹はあの丘に来ていた。

裕樹にとって、約束の場所で、そして、全てを失った場所。

裕樹はもう一度、雪に誓った。彼女を、必ず救ってみせると。雪に混じって、消えてしまった彼女を。

白い、天からの悲しみが、裕樹に積もっていく。

「・・・・・・」

不思議だった。雪を見ていると、心の奥底が泣いているような感覚になる。

(・・・・・・)

「・・・美奈・・・」

天に向かって、彼女の名を呼ぶ。

そして、裕樹はその場を去った。

 

 

 

――――雪のかなたには、二人の足跡が。涙雪降る場所の、雪の残したもの。

    儚き雪、それは空の揺りかご。記憶の雪、それは雪の証。

    失いし、人々の思いは、ただ、全てが雪の彼方へ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・以上が、彼に関するデータです」

「ふむ、ご苦労」

京介は書類とデータディスクを全身黒ずくめの男に渡した。

この男が憎み、殺すと誓った男、ジェノスだった。

そんな人物だとは、京介は知るよしもないが。

「ほう、これは・・・」

「・・・何か?」

「いやなに、このタクト・マイヤーズという男、こちらに引き込めそうだな」

「操る・・・とでも?」

京介の問いにジェノスは大きくかぶりを振った。何かを企む表情にも見える。

「違うさ。本心から、こちら側へと来るだろう」

「・・・・・・?」

「なにせ、彼の憎むべき、恨むべき、殺すべき人物は、彼のすぐそばにいるのだからな」

 

 

 

手元のデータには、ジェノスの言う、タクトが憎み、恨み、殺すべき、女性の顔とデータが表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――彼女の名前は、ミルフィーユ・桜葉。