第十九章「憎悪と憎しみの決断」
夢を見るとき、記憶の中は炎に包まれていた。
消えることのない、灼熱が、燃えさかる炎が全てを埋め尽くした。
炎が、彼から全てを奪っていった。
家も、父も、母も、妹も、そして自らの瞳すら、炎が奪っていった。
例えようのない怒りが、炎と一致したようだった。
――――自分が、一体何をした?
――――なんで、全てを奪ってしまうんだ?
――――なんで、こんなことに・・・
いくら問うても返ってくることのない答え。
いくら悩んでも、導き出ることのない答え。
許せなかった。
許せるわけがなかった。
炎が。
全ての原因をつくった奴が。
彼は、自身の心を守るため、その身を負に染めた。
そして、彼は復讐鬼となった。
何年経つとも、表面上では穏やかでも、心の奥底で、もう一人の自分は消えなかった。
それでも、炎が怖かった。
夢を見るのが怖かった。
あの時の、何も出来なかった自分。
炎に包まれ、全てを失った時の感情。
その全てが・・・怖かった。
――――天は、彼に安らぎを与えてはくれなかった。
悩み、苦しみ、それでも生きろ、――――と。
彼はまだ知らなかった。
彼にとって、大事で、大切で、愛おしい彼女が、全ての元凶だということが。
更なる苦しみが、彼を襲おうとしていた。
その事を、タクトはまだ、気づくとこさえ出来なかった。
エルシオールがレスティ内でクロス・ゲート・ドライブによって、再びEDENの世界に戻ると、すぐさま白き月へ向けてクロノ・ドライブを行い、クロノ・スペースに入ってから、実に3日が過ぎた。
新たにエルシオールへ乗艦した正樹、彩、春菜も、すぐにエルシオールに馴染み、受け入れられた。
現情勢ではレジスタンスという、リ・ガウスでの後ろ盾も出来たので、随分遅れてしまったし、白き月へと戻ることが先決と判断したのだ。
当然、距離もかなりあるので、再びリ・ガウスが仕掛けてくるのは、艦内の誰もが、ある程度予想していた。
そんな中、自主的にシャープシューターの調整を済ませた際、ちとせはランファとフォルテが何やら気難しい顔で話し込んでいるのを見かけた。
「?ランファ先輩、フォルテ先輩、どうかしたのですか?」
「ああ、ちとせかい。何、ちょっと紋章機についてね・・・」
「どこか、調子でもよろしくないのですか?」
「そーいうわけじゃないのよ。ただね、最近、力不足を感じてね・・・」
ランファの言うことはもっともだった。確かに最近の戦闘では紋章機の力不足が目立つ。ちとせもそう感じていたが、ちとせのシャープシューターは言うなれば、遠距離から相手をピンポイントで狙撃することに特化した、少々特殊な機体だ。真正面から戦うカンフーファイターやハッピートリガーほど、力不足を感じはしなかった。現状でも充分に裕樹たちを支援できているからだ。
しかし、それはそれで問題でもある。
そもそも紋章機はIGよりもかなり大きいのだ。それこそ、武装は大口径のものが多いが、技術力ではリ・ガウスに及ばないのだ。その大口径のサイズに相応しい火力を持つ武装を装備できれば、それこそ紋章機は向かうところ敵なしと言えるだろう。
「別に紋章機に不満を言ってるワケじゃないんだ。ただ、何とかしたいと思ってねぇ・・・」
悩む3人を元気づけたのは、その話を聞いていた裕樹と春菜だった。
「心配するなって。紋章機の強化案ならとっくに申請したぞ」
「「「え!!!!????」」」
3人同時に裕樹と春菜に振り返る。
「ホントですよ。ちゃんとタクトさんや白き月のシヴァ様やシャトヤーン様に許可、取りましたし」
「え・・・い、いつのまに・・・!?」
「いつの間にって・・・」
「・・・彩が一瞬で、かな。彩はIGじゃなくて戦闘機とかの方がメカニック強いもんな」
「はい。紋章機を見て、目が輝いてましたし。・・・白き月でもう開発スタートしてますよね、追加武装パーツ」
唖然となる。たったと言える僅かな時間の間に、シヴァやシャトヤーンを納得させてしまう開発案を考えだしたのだ。彼等は。
今だ、固まったまま、・・・それも喜びで震えているのか、3人はまだ固まったままだった。
――――そして、クロノ・スペースから抜けると、当然のようにリ・ガウス軍が待ち構えていた。
「――――にしてもよ」
発進シークエンス中に、正樹はぼやくように言った。
「どうした、正樹」
「結局、メガロデュークには誰も乗らないのかよ。もう終わってるんだろ?修理」
「うーん、それなんだけどさ、一応レスターを誘ってみたんだ」
「で、どうだった?」
もっとも、モニター越しのタクトの顔を見れば、結果はすぐに理解できるが。
「思ってる通りさ。―――じゃあ誰が指揮するんだ!!―――ってね」
「でも、タクトはそれで引き下がらねぇだろ」
「もちろん。で、正樹推薦の彩を指名したんだ」
実は彩の隠れた素質として、戦闘指揮に優れているという才能を持っていたりする。解放戦争でも何度か戦闘指揮をしたことがある。
「そしたら呆れ顔で、―――・・・どうしても人手不足になったら、考えてもいい。―――ってさ」
「それ・・・本当に乗ってくれるのか?」
どうも上手く言い逃れただけにしか聞こえない。
『ゼロバスター、グランディウス、ウイングバスター、発進どうぞ!!』
アルモの声に気合を入れなおし、3人は気を引き締める。
「朝倉裕樹、ゼロバスター、行くぞ!!」
「神崎正樹、グランディウス、行くぜ!!」
「タクト・マイヤーズ、ウイングバスター、出るぞ!!」
続けて、紋章機も次々に発進していく。
『タクトさん!』
「ミルフィー、お互い頑張ろうな」
『はい!』
それが、ウイングバスターに乗ったタクトとの最後の挨拶になろうとは、誰が想像できただろうか。
「あの3機・・・コキュートスか!」
すでに裕樹たちも彩の持ち出したデータにより、コキュートス計画の機体の情報を得ていた。
「だな。行くぜ、裕樹!」
グランディウスとゼロバスターはそれぞれ飛び出し、ダブルティアル・ライフルとティアル・ライフルを連射しつつ、コキュートスの3機に攻撃をしかける。3機はそれを回避し、カイーナが連装ビームキャノンを発射、ゼロバスターとグランディウスは展開し、それぞれアンティノラ、トロメアと対峙した。
トロメアの「アイアンセイバー」に対し、グランディウスは「ディバインソード」で向かえうつ。正面から激突し、互いに弾き飛ぶ。
「パワー的には互角か。なら・・・!!」
即座にライフルを連射しつつ、スプレーミサイルなどもおり混ぜながら周囲を飛び交い、トロメアを完全に圧倒していった。
ゼロバスターはアンティノラの「刹」をサイドバーニアで避け、連装バスターキャノンを放つ。それを避けたアンティノラの背後から、カイーナの無数のビームが迫るが、強引に斬り防ぎ、両機に向かって迫っていった。
その2機に加勢しようとしたウイングバスターは、突如現れたまたも見慣れぬIGの強烈なタックルに対応できず、戦線から大きく離される。
「な、何を!?」
いきなりそのIGはビームサーベルで斬りかかり、こちらも即座に刃をぶつける。
「ほう・・・いい反応だ。さすがはEDENを持つ男・・・」
「!?何だと!?」
直接回線から、聞き慣れぬ、低い声が聞こえてくる。
「タクト・マイヤーズ、だな」
「だ、誰だ!?」
「マイヤーズ、真実を知りたくはないか?」
いきなりわけのわからない話を始められ、タクトは構わず振りほどこうとした。――――次の言葉を聞くまでは。
「お前が14歳の時、全てを失う元凶を作った奴の名を、知りたくはないか?」
「な・・・なんで、それを・・・、いやそれより・・・全ての、元凶!?」
「そうだ。それも、お前のすぐそばにな」
愕然となる。心の奥に眠っていた、もう一人の自分が、除々に覚醒してくる。
――――全てを捨ててでも、八つ裂きにすると決めた人物が、すぐ、そばに――――
「知りたくば、私の元へ来るがいい」
「・・・ぐ・・・」
罠かもしれない。いや、罠だと思いたかった。
心の奥の感情が、今にも爆発しそうだ。
「恐怖か?・・・いや、迷いか」
あたかも、自分の心を見透かしているような言葉だ。
「だが、お前は自分の心に逆らうことなど、出来はしない。何故なら・・・」
心が、自分のいう通りに動いてくれない。相手の言葉に呑まれていくような感覚だ。
これ以上聞くなと、本能が告げている。
これ以上聞くと、もう戻れなくなる。
けれど、心の中で、誰が続きを聞けと言った。
真相を確かめるために。
元より、お前はそのためだけにここにいるのだから、と。
「何故なら・・・その元凶の名は・・・・・・」
耳を疑った。
心の中で、それだけは、と願っていた。言って欲しくない、名前だった。
――――ミルフィーユ・桜葉。
心が、変わる。
表と裏が、入れ変わっていく。
あの日の、炎の誓いが、蘇っていく。
タクトは、逆らうこともせず、過去の自分自身に捕らわれた。
「・・・アンタ、なんて名前だ・・・?」
「・・・私の名は、ジェノス・・・」
「!!この、セフィラムは・・・!!」
直後、カイーナ、アンティノラのビームを避けつつ連装バスターキャノンを放つ。そして、2機に振り返りもせずに、奴の元へと向かう。
(奴だ・・・奴が・・・!!!!!!!!)
見慣れない、赤紫色の機体が視界に入る。あれに違いない。
「ジェノスッッッッ!!!!!!!!!!!!!」
プラズマソードを抜き、迫ろうとするが、――――ウイングバスターの攻撃により、遮られる。
「な、タクト!?」
驚愕する。ウイングバスターの「スティンガーキャノン」の銃口が、自分に向けられているのだから。
「・・・・・・裕樹・・・・・・ゴメン・・・」
通信からなんとか聞こえた声が、コレだった。
「お、おいタクト!どうしたんだ!?――――ジェノス!!お前、タクトに何をした!!!」
「何もしてはいない。彼が自分で決めたことだ。――――私は真実を伝えたまでだよ」
「何をっ!!」
「裕樹・・・誰の心にも闇はあるのだよ。君はもちろん、彼にも」
(タクトの・・・闇!?)
タクトは最後に、と、エルシオールへ通信を繋げた。
全ては事実を知り、自分を支えてくれた親友のために。
「レスター・・・」
『タクト!!どうした!?何があった!?』
この親友に、多くの言葉は要らない。
彼の左目の眼帯、それが、何よりの証。
「・・・全ての元凶・・・ついに、見つけたんだ・・・」
『な・・・何、だって!?』
「じゃあ、俺は行くな、レスター。・・・今まで、・・・ありがとな」
『待てタクト!!タクトォォォォッッッ!!!!!!!!』
ジェノスの乗るIG、デルヴィッシュが衝撃波を放ち、ゼロバスターが吹き飛ばされた隙に、2機はクロス・ゲート・ドライブポイントへと、入っていく。
『タクトさん!!』
消える直前、タクトの目に、耳に、彼女の存在が入ってきた。
『タクトさん!どうしたんですか!?何か、あったんですか!?』
自分の大切な・・・・・・大切だった人。
その人は、もう、タクトにとって元凶の存在としか見ることが出来なかった。
あの笑顔も、あの優しさも、あの温もりも、もう、ダメだった。
『まってタクトさん!!行かないでくださいっ!!!!!!』
タクトは最後に彼女を一瞥し、――――仲間の元を去った。
『タクトさん!!タクトさぁぁぁぁん!!!!!!!!!』
ミルフィーユの涙の叫びは、虚空の宇宙へ悲しく響くだけだった。
「・・・止められなかった・・・。私、タクトさんを・・・止めることが、出来なかった・・・」
彼女の瞳から、ただ、涙が止まることなく溢れていった。
「どういうことだよレスター!!!お前、なんか知ってるだろ!!!」
正樹は感情のままにレスターの胸を掴み上げる。当のレスターはなすがままだった。
「副司令、アタシ等には知る権利があるハズだよ」
「・・・クールダラス副司令、話して・・・ください・・・」
「クールダラス副司令!!」
ランファの声がエレベーターホールに響く。
裕樹、春菜、彩は黙って事の成り行きを見ている。正樹を止めないのもその理由の一つだった。
ちとせは、じっと無言のミルフィーユの側についていてあげている。
と、急にミントが驚いたように立ち上がった。
「ミント先輩?どうかしたのですか?」
「あ・・・いえ、その・・・」
「ミント」
いつの間にか正樹を振りほどいていたレスターが、冷たく言い放つ。
「読んだのなら・・・絶対に言うな」
ミントはただ、呆然としながら頷くだけだった。
しばらくの沈黙。その静寂を破ったのは裕樹だった。
「奴が・・・」
「え?」
「ジェノスが言ってたな。誰の心にも闇はある。俺にも、タクトにも・・・ってな。そういうことだよ」
「・・・どういうことよ、裕樹」
「・・・それだけタクトの過去に何かあったってことだよ。なら、そんな軽々しく聞いたらいけないだろ」
「・・・・・・」
全員が沈黙する。納得のいかない顔をした人もいるが、それでも全員が理解したようだ。
「・・・信じましょう?タクトさんを・・・」
春菜の言葉が、全員の心に伝わった。
全員が解散した後、レスターは一人、司令官室を訪れた。
「・・・・・・」
レスターはこの艦、いや、この世界でただ一人、唯一タクトの正確な過去を知る人物だった。
デスクに置かれた鏡を前に、レスターは左目の眼帯を外した。
そこには、自分の瞳ではない、色の違う人工物である瞳があった。
レスターは、静かに、エルシオールの指揮をとることになった頃のことを、思い出していた。
――――・・・本当にそれでいいのか?タクト――――
――――ああ、でないとエンジェル隊のみんなは、関わってくると思うんだ――――
――――特にあの・・・ミント・ブラマンシュと言ったか・・・彼女はテレパスの能力を持っているからな――――
――――ああ、だから、俺たちも自分自身に嘘をつこう。それなら、誰も気にはしないさ――――
――――・・・わかった。お前の家族柄のことも、それでいいんだな?――――
――――ああ。こっちの方が、俺は嫌だけどな。・・・あんな奴らと兄弟だなんて――――
――――義兄弟だからな。・・・分家のお前も大変だな――――
――――まぁね。元々、本家の奴らとは、関わる機会もないけど、ね。――――
――――わかった。俺とお前の付き合いも、士官学校からということでいいんだな?――――
――――ああ。ルフト先生だって騙せたんだ。きっと上手くいくさ。――――
――――そうだな・・・・――――
「タクト・・・」
ただ静かに、その名を呼んだ。
5日後、格納庫のデッキハンガーに彼はいた。
自らのなすべき事のために得た、強化された力。
その名に「聖騎士」と名づけた。
自分から全てを奪っていった元凶を八つ裂きにするために。
と、反対側から自分を目指してやってくる人物を見つけた。――――以前、氷川京介と名のったのを、思い出した。
「今さらですけど・・・本当に行くんですか?」
「ああ」
率直に答える。迷いそのものが感じられない。
「・・・なら、僕は止めません。後悔のないように・・・」
気をつけて、ではなく、後悔のないように。
その言葉の真意に、果たして気づけただろうか。
彼は、新たに青と白の翼を得たIG、「ウイングバスター・パラディン」を見上げた。
この力、この剣を、タクトは愛すべき彼女へ向けることに、ためらいを感じなかった。
ミルフィーユは格納庫でラッキースターの整備をおこなっていた。そのそばには、ちとせがずっとついている。
「ミルフィー先輩・・・元気ですね」
ここ数日のミルフィーユは誰の目から見ても元気だった。ただ、立ち直れているわけではないが。
「うん。前にタクトさんに言われたこと、あるからね。こんな時だからこそ、万全の体勢でいないと。――――それに」
「それに、なんです?」
「春菜さんの言葉、私もそう思ったから。だから、タクトさんを信じるの。私の・・・私が、心から好きになった、大切な人だから・・・」
「ミルフィー先輩・・・」
二人は互いに目を合わせ、微笑んだ。
その直後、エルシオールにけたたましいサイレンが鳴り響いた。二人は再び、目を合わす。
「ちとせ!」
「はい!!」
二人はすぐに紋章機へ飛び乗った。
――――――その敵が、あの人だとは知らずに。
全機出撃後、ゼロバスター、グランディウスを筆頭に、紋章機はエルシオールの前に展開する。
「レスター!敵機の数は?」
『・・・・・・一機!?』
「な、何!?」
直後、目にしたIGはどこか見覚えがあった。
白と白銀の装甲色、青と白の12枚もの大型の後翼、その姿に合わせられた大火力を伴う多くの武装。そして、攻撃性、機動性を重視するために採用が見送られてきた専用の盾を装備している。
それでも、このIGが何なのかは、誰もが理解した。裕樹がタクトに託した、伝説的なIG、ウイングバスターだ。
「ウ、ウイングバスター・・・?タクト・・・なのか?」
裕樹が思わず驚く。その隙に、変わり果てたウイングバスターは8000という距離からビームでラッキースターのみを正確に撃った。
「えっ・・・きゃあ!!」
ギリギリでエネルギーシールドを張り、なんとか耐えしのぐ。その間に、変わり果てたウイングバスターはもの凄い速さで接近してくる。――――直後、通信から声が聞こえた。
「ミルフィー・・・」
「!タクトさん!?」
聞こえた声はまぎれもなく、タクトの声だった。
だが、彼は今何をした?――――確かにラッキースターを撃った。
「俺は・・・このウイングバスター・パラディンで・・・君を、殺す!!」
「・・・・・・!?」
全員が耳を疑った。今、タクトは何を言った?
全員、理解できなかった。
『タクト!!どういうつもりだ!?まさか、ミルフィーユが全ての元凶とでも言いたいのか!?』
全てを知るレスターの叫び。それを聞いてか、はたまた無視してか、タクトはミルフィーユに話しだした。
「な、何でです?タクトさん・・・よく、わからないです・・・」
「なら、言ってやる。ミルフィー、8年前の皇国暦405年の5月、君が何をしたか、わかるか?」
「8年・・・前?」
8年前といえば、自分はまだ10歳だ。まだまだ無邪気に遊んでいた気がする。
「・・・わかりません」
「あの時君は、星間旅行中で客船に乗っていた。・・・そうだな?」
「そう・・・いえば・・・」
確かに、そんな記憶がある。持ち前の運で宝くじを当て、家族で旅行していた。
だが、問題はその後だった。――――確か、事件が起きた。
「あの旅行の帰り・・・確か、海賊船が、旅行船を襲って・・・」
「そうだ、ミルフィー・・・それを君は持ち前の運で、海賊船は原因不明の故障を起こし、近くの星に墜落した」
「・・・そう、です・・・」
『・・・ッ!!!!まさか・・・!?』
会話を聞いていたレスターの頭の中で、全ての真相が紡がれていく。
「ミルフィー・・・その後、その海賊船はどの星のどこに落ちたと思う?精神異常の殺人鬼の乗った、その船が・・・」
「う・・・あ・・・」
「教えてやる。その船は惑星エバーグリーン、それも俺の家に落ちた。・・・そして・・・俺の家族は、炎と共に、八つ裂きにされた!!!!!!」
「「「「「「「「・・・・・!!!!!!!!!!!」」」」」」」」
全員が、驚愕する。信じられないような、でも、ミルフィーユならやってしまいそうな話。
――――それでも、殺す理由にするには、こじつけとしか思えない。
ちとせは思わず叫ぶ。
「そ、そんなの・・・タクトさんらしくないです!!そんな、とってつけたような理由・・・」
「ミルフィーだぞ!?断言できるか!?」
「そ、それは・・・」
「ちとせ・・・君に、俺の気持ちがわかるか!?目の前で家族が、何より大事な、大切な人たちがバラバラに、八つ裂きにされ、燃えさかり、炎に飲み込まれていく時の思いが、悲しさが、憎しみが、怒りがわかるか!?わかるわけねえだろっっっ!!!!!!!」
思わず、ビクッとした。
今だかつて、このように怒り狂うタクトを、誰が見たことがあっただろうか。
途端、ミルフィーユのテンションが急激に落ちていく。フォルテがいち早くそれに気づく。
「みんな!ミルフィーを守るんだよ!!」
それより早く、ウイングバスター・パラディンが迫る。
「ミルフィーを・・・殺す。そして、それを邪魔する奴も・・・全員殺すっ!!!!!!!」
そして、その場にいる全ての機体が同時にロックオンされる。
「「「「「「な・・・」」」」」」
ウイングバスター・パラディンの両肩、両腰、後翼間のリニアレールキャノン、右手に持つ「ハウリングバスターキャノン」、左手に持つ「オメガブラスター」、背中からのスプリットミサイル、ビームレイを同時に解放する。
――――フルフラット。
タクトがEDENよりあみだした戦闘技術。その大量の砲火は、紋章機全機のスラスターを貫き、一気に戦闘不能にまで叩き落とした。
「うぐ・・・あ・・・」
ウイングバスター・パラディンは更に腰のプラズマブレードを抜き、ラッキースターに高速で迫る。
「ミルフィィィィィッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」
愛すべき彼が、怒りの全てを込めて、自分を呼んだ。
「君が、俺から全てを奪った!!君を、殺す!!全ての元凶が!!!!」
薄れゆく意識の中で、ミルフィーユは愕然とした。自分の運のせいで、やっぱり・・・と。
ウイングバスター・パラディンの刃がまさにラッキースターを切断する直前、ゼロバスターが刃で受け止めた。
「・・・裕樹も、邪魔するのか・・・?」
「・・・くっ!!タクト!お前、何考えてやがる!?」
刃を弾き、ゼロバスターは接近しようとするが、展開したリニアレールキャノンに阻まれる。それでも避け、斬り防いで再び刃をぶつけ合う。
「ミルフィーを殺す・・・?バカ言うな!何でお前がっ!!!」
「俺から、全てを奪い去った元凶だからだ!!だから殺す!!!」
そのままの状態でビームレイを撃たれ、直撃する。更に間髪入れずに追撃のリニアレールキャノンを受け、そのまま突き放される。
「ぐっ・・・強い・・・!?」
裕樹は急いで機体のチェックを行う。どうやらまだ稼動に問題はおきてない。ゼロバスターのなかなかの装甲の厚さに感謝したいくらいだ。
(けど・・・このままじゃ・・・!!)
信じられないくらいに強い。それは機体性能もあるが、タクトの腕前もこの数日で超人域に達している。何より、タクトとウイングバスターとの相性が凄まじい。
そう、タクトはついに長い月日を要する「経験」までをも凌駕し、適応させたのだ。
(これが、EDEN・・・!!!)
「くそ!裕樹!!」
レールキャノンを受けたゼロバスターを見て、正樹は支援に向かおうとしたが、直後いきなり目の前に現れた、大型で重装甲に特殊装備をかねそろえた重IG、コキュートスの最後の一機、ジュデッカに阻まれる。
「俺が相手だ!正樹!!」
「・・・!和人!テメェか!」
いきなり放たれた誘導弾をかわし、ライフルを撃つ。ジュデッカはそれを避けつつ、回転しながら全身から大量のミサイルを放った。
グランディウスはミサイル郡を引き付けながら後退し、スプレーミサイルで全てを迎撃する。両機はその爆煙を突き抜け、グランディウスは「ディヴァインソード」を、ジュデッカは「デスブレード」をそれぞれ構え、幾度となくビームを纏った対艦刀をぶつけ合った。
「正樹!お前まで軍を抜けるなんて・・・!!」
「俺は、俺の信じた道を行くだけだ!!誰にだって、邪魔はさせねぇ!!」
バーニアを稼動させ押しきろうとするジュデッカを、裕樹直伝のSCSもどきで斬り流す。そして、グランディウスは「ディヴァインソード」を垂直に構える。
「コレで・・・決める!!」
直後、「ディヴァインソード」を纏っていたビームが輝きを増し、太く、長くなっていく。
セイント・ディヴァインセイバー。――――ディヴァインソードを纏うビームをエフクトコンバーターを直結させ、ビームの出力を一気に向上させる技。破壊力は、戦艦ぐらい軽く両断できるほど。
「何!?」
思わず怯むジュデッカに、グランディウスは容赦なく迫る。
「うおおおぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!!」
横一文字に振りぬき、「デスブレード」ごと右腕を斬り裂く。
「ぐっ・・・!!」
「まだまだぁ!!」
更に斬りかかろうとしたところを、ジェノスのデルヴィッシュにも装備されている衝撃兵器「スナイプ・ウェーブ」に阻まれ、飛ばされる。
2機の激闘は更に続いた。
「くっ・・・!!」
ブリッジで成り行きを見ていたレスターは、何を思いたったのか、急にブリッジを後にする。
「ク、クールダラス副司令!?」
「アルモ!後は任せた!頼むぞっ!!」
無責任な、それでいて彼女には決して断れない言葉を残して、ブリッジを早々と後にする。
そのまま走りながら、レスターはクロノ・クリスタルに呼びかけた。
「格納庫!クレータ班長!!」
『ク、クールダラス副司令!?何か・・・』
「メガロデュークをすぐに発進準備に取り掛かれ!!最優先だ!!」
『し、しかしパイロットが・・・』
「俺が乗る!!!!!」
『え・・・!?』
「急げよ!いいな!!」
それ以上は返事も待たずに、レスターは格納庫へ急いだ。
(・・・タクト・・・!!)
止めなければ。今のタクトは自分を見失っている。
タクトに協力してきたのだから、タクトの気持ちは誰よりもわかっている。だからこそ、タクトがミルフィーユを殺すということは止めなければならない。
親友だからこそ、タクトを。
容赦なく、ウイングバスター・パラディンは、手にした巨大なビームキャノンでラッキースターを狙う。
「やめろぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!!!!!!」
ビームが直撃するよりも早く、ゼロバスターはラッキースターの前に回り込み、ビームを斬り防ぐ。
「タクト!いい加減にしろ!!!」
プラズマソードをラケルタ状にして、ウイングバスター・パラディンに迫る。
「誰だろうと、ミルフィーを殺す邪魔をする奴は、殺す!!」
「・・・もういっぺん言ってみろ・・・!!!!!!!!!」
相手の無数の射撃をかわし、防ぎ、一気い間合いを詰め、斬りかかる。
「ミルフィーを、殺すだと!?ふざけんな!!」
ウイングバスター・パラディンはシールドでゼロバスターの斬撃を受け止め、片手のプラズマブレードで斬りかかる。が、逆にSCSで受け流され、斬撃をまともに受ける。
「そんなに・・・過去が大事か!?恨みや憎しみが大事か!?」
だが、裕樹は思う。果たして自分にこの言葉が言えたことだろうか。こんな自分に。
いや、自分がこうなってしまったからこそ、タクトたちにはそうなって欲しくないのだ。
「そうだ!!ミルフィーを殺すことが、俺の生きる全てだからだ!!!」
「この、ヤロ・・・!」
更に迫ろうとしたが、いつのまにか発射されていたスプリットミサイルに気づけす、真上から直撃を受け、間髪入れずにリニアレールキャノンを正面から受ける。
「ぐあっ!!!・・・くっ・・・!!」
追撃をかけようとしたタクトだが、横から迫る赤いIGが目に入り、止まる。
「やめろタクト!!気持ちはわかるが・・・これはおかしい!!止めるんだ!!」
メガロデュークから聞こえてきたのは、紛れもない、親友の声。
その言葉に、タクトは悲しさと怒りを覚えた。
――――レスターだけは信じていたのに・・・っっっ!!!!!!!
次の瞬間には、その親友に向けて刃を振りかざしていた。
「レスタァァァァァアアアッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
「タクトォォォォォオオオッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
レスターの乗るメガロデュークの実剣を盾で受け流し、逆にこちらはメガロデュークの頭部を貫いた。
そこまでして、タクトは自分がかけがえのない親友に向けて刃を向けたのだと、罪悪感が滲みでた。
「くっ・・・!!!」
タクトはどうにもできない感情のまま、グランディウスと戦っていたジュデッカと共に、リ・ガウスへと消えていった。
「くそ・・・タクト・・・ッッ!!!!!!」
残された者たちは、ただ呆然と、その場に残された。