第二十三章「決戦の時 タクトVSミルフィーユ」

 

 

 

現れたリ・ガウスの編隊は、ウイングバスター・パラディン、コキュートス隊を中心として、大量のIG、戦艦が続いていた。

役割は決まっていた。ならば、後はそれぞれの役割を果たすのみである。

 

 

 

コキュートス隊に接近した裕樹のゼロバスターと正樹のグランディウスだが、和也のカイーナの拡散式高インパルスを撃たれ、左右に大きくかわす。そして、ゼロバスターの前に桜花の駆るアンティノラが立ち塞がる。

「アンティノラ・・・ってことは桜花か!」

アンティノラは全てを切り裂く糸である「刹」を右手から5本くりだすが、完全に見切ったように回避し、プラズマソードを構え、急速に加速し、「刹」をすれ違いざまに全て斬り裂いた。

が、丁度アンティノラの後ろについていたカイーナの連装ビームキャノンとアンティノラから拡散粒子砲を放たれる。これを驚異的な反応速度で斬り防ぎつつ接近し、再びすれ違いざまにアンティノラの頭部、カイーナの脚部を斬りつけた。

「この間合いで俺に勝てると思ったか?和也!!」

「ぐっ・・・」

刹那、セフィラムの流れを感じ、サイドへ回避行動をとる。と、さっきまでいた空間に「刹」が振り下ろされた。

「ッ!?今のを避けた!?」

ゼロバスターはそのまま二機に両肩から連装バスターキャノンを放ち、間髪入れずに、ゼロバスターはアンティノラに斬りかかり、アンティノラもかろうじて受け止めた。

「くっ・・・どこまでリ・ガウスに対抗する気!?裕樹!!」

「心外だな。俺の目的にリ・ガウスが邪魔してるだけだ。邪魔をするなら、桜花・・・たとえ君でも・・・!!」

(・・・なぜ・・・リ・ガウスを離れる時に、一言、言ってくれなかった・・・っ!!)

そのまま頭部の口にあたる部分からプラズマカノン砲を放とうとしたが、それを完全に読んでいた裕樹は、左にもプラズマソードを持ち、鏡面の流れの如く、右で相手のサーベルを流し、そのままの流れで左で頭部を貫き、さらにそのまま回転、左下から右上へ鋭く斬り上げた。

「桜花!」

すぐにカイーナが反撃に入ろうとしたが、上方からのグランディウスのスプレーミサイルによる弾幕を張られ、後退を余儀なくされた。

「正樹、トロメアは!?」

「ふっ飛ばしただけだ!落としてねぇ!!」

するともう上方からトロメアが接近し、アイアンセイバーをブーメランのように投げつけてきた。それをゼロバスターが前に出てプラズマソードで弾き、後方からグランディウスがダブルティアル・ライフルを撃つ。トロメアも、それを難なくかわす。

「・・・ん?」

「どした?裕樹」

今まで戦っていて気づかなかったが、違和感を感じる。そう、自分たちは3機(・・)としか戦っていない。

「和人・・・ジュデッカはいない!!」

「なっ・・・」

「くそっ!ハメられた!!」

即座にエルシオールに向かってスラスター全開で飛んでいく。

「お、おい裕樹!?」

「正樹!後は任せた!!」

「コ、コラッ!!ちょっと待て!・・・・・・のヤロッ!」

いくら叫んでも裕樹は待ってくれない。

正樹はすぐに腰のランチャーを構え、各リミッターを解除する。

「お前等もさっさと落ちろ!!」

そして、「ショックスライダー」を放った。この兵器はどのような空間でも走る衝撃兵器で、宇宙を走り、3機に追撃を与えた。更に、対艦刀であるディバインソードを抜き構え、そのまま突撃する。

「うおおぉぉぉっっっ!!!!!!!

 

 

 

 

 

一方、加速しているゼロバスターのレーダーがエルシオールへの進路上に交戦中の機体を発見する。

「この機体・・・・・・ウイングバスター・・・?っ・・・タクトか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「跡形もなく吹き飛びな!!ストライクバーストッ!!」

ハッピートリガーのストライクバーストが艦の一つを言葉通り吹き飛ばした。

撃ちもらしたIGはカンフーファイターは接近戦、シャープシューターが遠距離から確実に撃ち落とす。

「とくとご覧あそばせ、光の舞をっ!!」

最終防衛ラインはトリックマスターのフライヤーをメインに防衛する。大軍で現れると、フライヤーダンスで対応していた。

この陣形は前にカンフーファイターとハッピートリガー、その2機の修理と援護にハーベスターをつけ、防衛ラインにトリックマスター、ラインを突破した敵機や全体の支援にシャープシューターをつけたほぼ完璧な陣形である。

だが、いくら紋章機であっても圧倒的すぎる物量に押され気味である。

「みなさん!エネルギーは大丈夫ですの!?」

「まだまだイケるわよ!!この・・・アンカークローッ!!」

アンカークローで吹き飛ばした戦艦が他の戦艦へと次々に激突していく。

「・・・?」

ふと、全体の支援をしていたちとせのレーダーに、エルシオールへ接近するゼロバスターを確認する。だが、ゼロバスターはその前でウイングバスター・パラディンに攻撃を仕掛けた。

「裕樹さん・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルカナム・ラッキースターとインペリアル・メガロデュークは突撃している。高速で接近する相手、ウイングバスター・パラディンに合わせるかのように。

お互い、通信回線は繋がっていた。

「ミルフィィィィーーーーーッッッ!!!!!!!!!

「ッ―――タクトさんっっ!!!!!!

ウイングバスター・パラディンはその叫びに応えるかのように両肩、両腰、後翼間の計6砲のリニアレールキャノンに加え、オメガブラスターを発射しながら接近してきた。これをそのリニアレールキャノンの間でかわし、こちらもリニアレールキャノンを発射し、避けた先にフラッシュスラッシャーブーメランを二つ、撃ち出す。

ウイングバスター・パラディンはレールガンをかわした次のビームブーメランは一度はプラズマブレードで弾くが、二つ目はたまらずシールドで防ぐも、飛ばされる。その隙を逃さず下方からクロノ・インパクト・キャノンを発射するが、それを回避し、オメガブラスターを発射してくる。

アルカナム・ラッキースターに注意がそれた隙に、レスターはホーミングレーザーを発射し、ボルトファングを構え接近する。

ホーミングレーザーを回転しながら回避したのち、プラズマブレードでボルトファングを受け止める。

「ッッ!!―――戻ってこい!タクト!!・・・お前言ってただろ!?「ミルフィーは大切な人」だって。そいつを・・・殺すのか!?お前だって、本当はわかってるんだろ!?」

「・・・わかってるさ!!だけど、父さんや母さんやエリスが殺された原因はミルフィーにあるんだ!今更・・・許せるわけないだろうがっ!!!」

スラスター全開で押し切り、リニアレールキャノンを直撃させる。

そしてその背後からタイミングよくアルカナム・ラッキースターがシャインソードを展開して突撃してくる。タクトもそれを受けとめた。

「あああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!!

「おおおおおぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!!!!

互いの叫びと共に刃がぶつかりあい、火花が散った。

「・・・今さら引きはしないっっ!!ミルフィー、君を殺すことだけが今までの俺を支えてきた、たった一つの信念だからだ!!!」

「ッッ!!それでも、私はっ!!タクトさん、あなたを救ってみせる!!」

だが実際はタクトの方が押していた。せり合いながら発射してくるビームレイをバリアで防ぐが、守勢から攻勢には切り替えれない。レスターも援護しようにも2機が近づきすぎているため、うかつな援護はできなかった。

と、その時後方からものすごい速度でゼロバスターが接近し、いきなりウイングバスター・パラディンに斬りかかった。

不意を突かれ、アルカナム・ラッキースターから離れ、ゼロバスターと距離を取る。

「・・・また邪魔をする気か、裕樹!!」

「タクト、お前、自分がなにをしようとしているのかまだ気づかないのかっ!?」

「わかりたくもない!!」

叫び、両肩、両腰、後翼間の全てのリニアレールキャノンを連射し、一方的に攻勢にもちこんだ。そん中、ゼロバスターのレーダーがエルシオールの前にクロス・ゲート・ドライブ反応を探知した。間違いなく、ジュデッカだ。

 

(・・・させない・・・やらせはしない・・・もう二度とあんな目に・・・)

 

 

 

あの日、全てを失った日。

あの日に、自分の全てが崩れ去った。

本当に大切なもの。

それは、失って初めて気づけた。

全てが遅すぎた。

そして、自分は今、惨めにもそれを否定し、もがき苦しんでいる。

こんな思いを、この二人に、させるわけにはいかない。

 

 

 

「アイツらに・・・こんな思い、させてたまるかっっっ!!!!!!

裕樹の瞳の中で6つの結晶が収束し、無数の光の粒子と共に解放(リバレート)した。

ゼロバスターは高速で突撃する。

タクトは突撃してきたゼロバスターに対してプラズマブレードを抜くが、その矢先、左で弾き落とし、右で斬り上げられると同時に連装バスターキャノンをエルシオールの前に発射しつつ、ウイングバスター・パラディンを踏み台にして、エルシオールの前に加速した。この間、約2秒。常人では何が起きたか理解できない速度である。

一瞬、唖然としたウイングバスター・パラディンにインペリアル・メガロデュークは胸部から「アカシックリライター」を発射し、立て続けに「ヴァジュラ・クレイモア」を連射する。そして、ウイングバスター・パラディンの動きを一瞬止めることができた。

「タクト、お前の気持ちはわかる!だが、ミルフィーユを殺してお前の気持ちが収まるのか!?違うだろ!?・・・だから、帰ってこい!タクトッ!!!!!!!

信念がぐらつく。揺れているのが分かる。昔の自分と今の自分の信念の矛盾してるところが、理解してしまう。

(俺の・・・俺・・・オレ・・・おれ・・・?・・・どれが・・・俺・・・?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に不意を突いたとジュデッカに乗る和人は確信していた。案の定、エルシオールが目の前にあるのだから。

だが、和人がエルシオールを見ていたのは一瞬だった。突如放たれていた2本のバスターキャノンの直撃を受けたのだから。

「ぐっ・・・な、何・・・!?」

バスターキャノンの飛んできた方向を向くと、ゼロバスターが両手にプラズマソードを構え、迫っていた。

ほぼ反射的にスレイヤーウィップを放っていたが、左で弾かれ、右で一瞬のうちに十文字に斬りつけられる。だが、ジュデッカはコキュートスの中でも最も厚い装甲を持っているために、堕とせるダメージにはならなかった。

だが、今回はそれが余計に怖かった。

「くそっ、なんて動きだ!!」

和人は思わず叫んでいた。

わかっている。今の裕樹はまさに斬撃の神なのだ。そんな彼の死にも匹敵する斬撃を、何度も受けなければならなかった。それも、装甲が厚いばっかりに。

何度も、何度も、死んでしまうかのような斬撃を見せられ、受け続ける。

苦し紛れにマシンキャノンを放つが、向こうも同じようにマシンキャノンを発射しながら後退し、2本のプラズマソードをラケルタ状に繋げる。

(何が・・・そこまでお前を戦わせるんだ!?)

スパークビームを撃ちつつ、デスブレードを抜き構える。―――――それよりも早く、ラケルタ・プラズマソードが肉薄した位置で無数の斬撃の舞を生み出した。

瞬く間にデスブレードを弾かれ、信じられないほどの斬撃を、ジュデッカは受けていた。

(裕樹・・・お前は・・・!!)

左腕が切断されたところで、ジュデッカは直接通信を繋げることに成功した。

「ぐっ・・・裕樹!!話を聞け!!」

「今更・・・何をっ!!」

ゼロバスターが更に押す。ジュデッカも必死で抵抗した。

「なぜ・・・リ・ガウスを裏切った!・・・その理由を教えろ!!」

「裏切る・・・?勘違いするなよ、俺がリ・ガウスを裏切ったんじゃない。リ・ガウス(お前等)が俺を裏切ったんだ・・・!!」

「何だって・・・?どういう、事なんだ?」

和人から、戦う気迫が一気に失われていくのがわかる。

彼は、まだ自分を仲間と見てくれているのだ。

裕樹も攻撃の手を止め、和人に話しかける。

「和人・・・お前、俺の言うことを信じてくれるか?そして、リ・ガウスが間違ってると思ったら、軍を抜けれるか・・・?」

「・・・おう。俺は、心まで軍に預けたつもりはないからな。自分の、信じた道しか進まない」

即答だった。それが、かえって裕樹の心を捉えた。―――和人は、信じられる。

「なら・・・」

「・・・?なんだ、これ」

それは、裕樹が持っている、通信機の暗証コードだった。

そして、裕樹は唐突に告げた。

「今回は引いてくれ、和人。必ず、連絡するから」

「・・・・・・わあった。裕樹を信じる」

これも即答だった。

和人からしてみれば5年前から裕樹を無条件で信頼してきたのだ。迷うということ自体、無駄な考えだった。

「すまない、助かる」

「いーってことよ。正し、連絡忘れるなよ?」

ニカッと笑って、一呼吸。

「ジュデッカ機体損傷!戦闘続行が厳しいため、帰還する!!」

 

 

 

その通信を聞いたコキュートスの3機は、やむなく撤退するしかなかった。

と、トロメアから通信が来る。

「正樹・・・次こそ、お前を・・・っ!!」

「へっ、俺を落とすのなら、もうちっと腕上げてこいや!!」

そのまま何も言わずに、コキュートスはドライブ・アウトした。

ゼロバスターも、すぐにやって来てくれた。

「裕樹、さすがだな」

「それよりも正樹!エンジェル隊の援護に行くぞ!!」

「おおよ!」

 

 

 

 

 

敵を食い止めていたエンジェル隊は、突如下方からの極太のビームに度肝を抜かれる。そのビームは複数の敵機を一気に落としていく。

それは、ゼロバスターの「ツインバスターキャノン」だった。

「すまない、待たせた!」

「よう裕樹!あい変わらずナイスタイミングだねぇ」

続けてグランディウスも「ショックスライダー」を放つ。

「みんな無事か!?」

「ありがと正樹、全員無事よ!」

「少し、危なかったですけど」

押されていたのにも関わらず、明るいノリだ。例えミルフィーユがいなくてもさすがはエンジェル隊といったところか。

「よし!エネルギーや弾薬が不安な機体は今のうちにエルシオールに戻ってくれ!ここは俺たちが引き受ける!!」

「・・・わかりました。では・・・」

「私は大丈夫です。このまま2機の援護にまわります!」

シャープシューター以外の紋章機は即座に補給に戻り、ゼロバスター、グランディウス、シャープシューターの3機が残った。

「ちとせ・・・本当に大丈夫か?」

「問題ありません。このままいけます」

「よっしゃ!ならしっかり支援してくれよ、ちとせ!!・・・行くぜ、裕樹!!」

この3機なら、押し切られることなど、ありはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・反応が、鈍くなった・・・?迷っているのか?タクト・・・)

レスターはウイングバスター・パラディンの動きを見て、ほぼ確信した。

(・・・なら、今しか・・・!!)

数少ないこのチャンスを逃せば、今度は自分たちが危なくなるだろう。迷っている暇はない。

ちょうど、アルカナム・ラッキースターがビームブーメランで牽制している。

「ミルフィーユ!!決着をつけるぞ!!」

返事はなかった。だが、それでも準備は出来ていると、エンジェルフェザー(光の翼)が告げていた。

レスターは距離を取り、遠距離からアカシックリライターを放つ。ウイングバスター・パラディンは大きくそれを回避し、インペリアル・メガロデュークをロックオンしようとした。が、その直線上にアルカナム・ラッキースターが入る。

「ミルフィー・・・・・・っ、それでも、俺は・・・っっ!!!!」

ミルフィーユは、アルカナム・ラッキースターは十回以上ロックオンされるのを確認する。

まさに、この瞬間を待っていたのだ。ウイングバスター・パラディンの全武装が自分の機体に集中する瞬間を。

 

 

 

裕樹に教えてもらった、たった一つの方法。

アルカナム・ラッキースターが、ウイングバスター・パラディンに勝てる、唯一のチャンス。

それが、今。

 

 

 

全てのリミッターを解除。全主砲5砲をウイングバスター・パラディンにロックオンする。

H.A.L.Oが、痛い。

すでに光の翼が出現しているのに、さらに精神力、気力が奪われていくようだ。

なぜ、この技が2回しか撃てないのか。

それは、消費されるエネルギーが、アルカナム・ラッキースターのエネルギー容量以上(・・)、消費されるからである。

その対抗策が、セフィロート・クリスタルのリミッターを解除し、一気に稼動させるというものだった。つまり、消費されるエネルギーよりも早く、エネルギーを供給するのだ。

当然、そんなことをしてはセフィロート・クリスタルが暴発し、機体も爆散してしまう。それを、H.A.L.Oで強制的に制御するのだ。まさに、紋章機でしか成し遂げられない手段。

歯を食いしばった。

辛い。凄く辛い。

けれど、これは耐えなければならない。

こんな苦しみ、あの人が受けた苦しみに比べたら、それこそ天地の差がある。

だから、必死に耐えた。

 

 

 

そして、その瞬間が来た。

互いの全砲門が放たれた。

全弾発射(フルフラット)ッッッッ!!!!!!!!!!

全主力一斉破壊砲(フルインパクト・ハイパーキャノン)ッッッッ!!!!!!!!!!!

刹那、眩しすぎるほどの裂光が放たれた。

ウイングバスター・パラディンのほとんどの攻撃は上下左右の4砲のクロノ・インパクト・キャノンによって相殺され、その他の攻撃はただ耐えていた。

そして、これが、紋章機がIGに勝てる唯一の方法。

両機とも、全武装の一斉射を放っているのだが、その間、IGはその場に停止しているが、紋章機は止まらない(・・・・・)のだ。

「なっ・・・」

気づいた時には、至近距離にまで突撃してきていた。

「うああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!

そして距離はゼロとなる。そこから最後の主砲、「ハイパーキャノン・カスタム」を頭部に接触して、放った。

時間が止まった。そう、思えた瞬間だった。

次の瞬間には、ウイングバスター・パラディンは大きく吹き飛ばされていた。

とてつもない衝撃がタクトを襲い、その隙にアルカナム・ラッキースターはウイングバスター・パラディンに文字通り突撃した。

そして、直接通信が繋がる。

「・・・・・・タクトさん・・・」

「・・・何故、逃げない・・・?俺は、君を殺すって言ったんだぞ?」

「・・・・・・別に、いいです」

その言葉が、瞬間的には理解できなかった。

「私、タクトさんになら、殺されても・・・いいです。・・・それで、タクトさんがエルシオールに帰ってきてくれて、・・・そして、タクトさんが、笑ってくれるのなら、いいです」

 

 

 

――――――なぜ?

タクトの頭の中はその言葉でいっぱいになる。

なぜ、こんなにも苦戦している?

なぜ、ミルフィーユと戦っている?

なぜ、ミルフィーユを殺そうとしている?

(それは、そうしないと、家族、大切な人たちが・・・大切な人を、もう失いたくないから・・・)

タクトの大切な人。それは――――

(父さん、母さん、エリス、レスター、ミルフィー・・・・・・)

そこに、つまった。

(・・・ミルフィー・・・?)

今、まさに矛盾に気がついた。

タクトは大切な人のためにミルフィーユを殺そうとした。

それは、つまり、

(俺は・・・ミルフィーを失いたくないから・・・ミルフィーを殺そうとした・・・?)

今こそ、タクトの過去との戦いの時でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウイングバスターが・・・止まった?」

「ああ、後はミルフィーを信じるだけだ」

ウイングバスターとラッキースターが接触し、動かなくなったのを、裕樹と正樹とちとせは遠くから見ていた。

「ミルフィー先輩・・・どうするんでしょう・・・」

「・・・さあな。まあ、信じよう。あの二人はきっと帰ってくるって」

「裕樹・・・さん・・・」

「アイツ等には、帰る場所も、帰りを待つ人も、いてくれるんだから・・・な」

モニターで顔を見るのがつらかった。きっと、また悲しそうな顔をしているに違いない。

と、グランディウスがゼロバスターの肩に手を置いた。

「正樹・・・?」

正樹は、何も言わなかった。それが、優しさだから。

 

 

 

 

 

「アルカナム・ラッキースターとウイングバスター、接触しました」

「後は、ミルフィーさん次第ね」

「・・・大丈夫なんでしょうか」

ココもアルモも不安そうな顔だった。それに対し、司令官の椅子に座る彩は笑ってみせた。

「ちょっとココさんにアルモさん。そのことはあなたたちのほうが詳しいはずよ?――――あなたたちの司令官なんでしょ?きっと帰ってくる。きっとね」

「・・・そうですね!やっぱりクールダラス副司令とマイヤーズ司令のコンビじゃないと、ブリッジが盛り上がらないですもんね!」

アルモとココがニッコリ笑う。明るい空気だ。

彩は、そんな空気を心地よく感じながら、事の成り行きを見守った。

 

 

 

「ミルフィーはっ!?タクトは・・・どうなってるの!?」

「・・・今、互いに接触して、そのままの状態です」

ランファの叫びに春菜は補給指示を出しながら答える。それが妙に気にさわった。

「春菜・・・アンタ、なんでそんなに落ち着いてるのよ?」

「ちょっとランファさん!」

ミントが止めようとしてくれたが、春菜は構わず言った。

「それは、信じてますから」

「へ?信じる?・・・・・・何についてだい?」

「それは、あの二人です。裕樹さんが救おうとした二人。・・・きっと帰ってきます」

「・・・よくわからないね・・・」

フォルテの考えにはランファもミントも同感だ。が、ヴァニラは違った。

「・・・私には・・・わかります・・・」

「へ?どーいうことよヴァニラ」

「それは・・・・・・言えません」

そこでモニターが切られてしまう。どうにも釈然としない態度だった。ランファは何だか自分だけが取り残されている気がした。

「何だってのよ、もう・・・」

だが、それ以上は誰も喋らなかった。

全員、ミルフィーユを信じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タクトは苦悩していた。あの頃の記憶と共に。そして、自身のEDENという力に。

この力を求めたのは何故?

それは――――――

護るために。――――――ならば、護れなかった者はどうすればいい?

全てを失ってから手にした力を、いったい何に使えばいい?

復讐は、すでに終わっているのだ。実行者をすでに八つ裂きにしている。

ならば、ここでミルフィーユに殺されてもいいのかもしれない。

なのに、そのミルフィーユは自分に殺されても構わないと言う。

――――――なぜ?

(・・・なんで・・・?)

「・・・私が」

通信から彼女の声が聞こえる。タクトはただ、聞いていた。

「私が、戦う理由は、タクトさんと一緒にいたいから。ただ、それだけなんです・・・」

(・・・一緒に?)

「・・・私は、タクトさんを救いたい。助けてあげたい。タクトさんに、笑っていて欲しい。・・・・・・だから、助けてあげられるなら・・・笑ってもらえるなら、私はどうなってもいいんです」

「・・・なんで、そうまでして・・・。俺には、わからない・・・」

様々な仲間が自分を救おうとした。

――――――なぜ?

 

 

 

―――タクト、お前自分が何をしようとしているのか、まだ気づかないのかっ!?―――

―――タクト、お前の気持ちはわかる!だが、ミルフィーユを殺してお前の気持ちが収まるのか!?違うだろ!?―――

―――ッッ!!それでも、私はっ!!タクトさん、あなたを救ってみせる!!―――

 

 

 

「タクトさんが、私を守ってくれるって言ってくれたように、私も・・・タクトさんを、守ってあげたいんです・・・」

涙声。そして泣き声。

 

 

 

―――ッッ!!戻って来い!タクト!!・・・お前言ってただろ!?『ミルフィーユは大切な人だ』って、そいつを・・・殺すのか!?―――

―――・・・・・・別に、いいです・・・―――

 

 

 

(・・・泣いてる・・・?なら、俺がいかなきゃ・・・。俺が、笑顔にするから・・・・・・・・・だから、泣かずに、笑ってくれ・・・)

そう、自分が。

何よりも先にそうすると決めたから。

泣き顔を、笑顔にすることを。

(・・・・・・そう、そうだよ。だからだよ。・・・そういうことか・・・)

そう。気づいてしまえば簡単だった。

護ると決めた、あの誓いのままに。

あの笑顔の輝きに魅せられた時から決めていたのだ。共に在り、見守って、その全てを見届けることを。

 

家族への想いは、今も変わらずここにある。

けれど、それを理由に現在を切り捨てることは、もうできない。

大切なものは、ひとつではないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな時、どうすればいいか。

それは、タクトだけが――――――いや、タクトにしか出来ないことだった。

いつも通り、変えてみせる。

「・・・ミルフィー」

返事はなく、まだ泣き声が聞こえる。けど、それでも続きを待っているのがわかった。

「忘れないでくれよ?・・・君が、思い出させてくれたんだから」

「え・・・?」

小さく、それこそ消えるような声。けど、聞こえた。この人の、言葉を。

 

―――――ずっと、そばにいてくれ・・・

 

タクトは、いつものように笑って話しかけてくれる。

「ミルフィー、帰ろう。俺たちが、初めて出会った場所、エルシオールへ・・・。・・・それに、久しぶりにミルフィーの手料理が食べたいよ。最近、ロクなもの食べてなかったからなぁ」

「・・・はい!おもいっきり、腕をふるっちゃいます!!」

笑ってくれる。いつものように。

今の自分は、この笑顔を護ると、そう決めたのだから。

 

そして、ウイングバスター・パラディンとアルカナム・ラッキースターは、ゆっくりと、エルシオールへと帰路につく。

ボロボロになって、よろけて、支えあいながら。

一緒に、歩いていく。

これからも、ずっと。