第二十六章「裕樹の救われた日」

 

 

 

「・・・和人、聞こえるか?」

パーティーが終わってから、裕樹は約束通り、ジュデッカのパイロットである和人に通信を行っていた。

『・・・・・・・っ・・・樹。裕樹?よーやく連絡くれたか』

「よーやくって・・・まだ半日しか経ってないぞ」

「いーんだよ、気にすんな!」

通信越しでも和人の明るい声は変わらない。

――――――そして、裕樹は手短に説明した。自分が、リ・ガウスを離れた理由を。

『・・・・・・・・・そうか・・・・・・』

話を聞いた和人はたった一言、呟いた。そして、

『俺も、正樹と一緒に行けばよかったな』

「和人・・・」

その返事の意味は言うまでもない。また一人、裕樹を支えようという人物が増えたのだ。

「・・・すまない、ありがとな」

『いーよ気にすんな。しばらくはそっちに情報を送るけー』

二人はモニター越しに笑い合った。

『それでさっそくだけどな、近いうちにヤバイのがそっちに行くぞ』

「ヤバイの?どういうことだ?」

『昨日の戦いでウイングバスター・パラディンがそっちにもどったろ。そのせいか上の連中が攻め方を変えてな、弱い100機を差し向けるより強い一機を差し向けるって考えになったらしい』

「それって・・・」

『おう。何か前々からだけど、実質上最強のIGの開発が終了したんだ』

「最強の・・・IG!?」

『ああ。なんでも近、中、遠距離全ての戦闘をこなし、機動性、装甲、火力、武装すべてが現時点で最高レベルだそうだ』

「・・・ちょっと待て。そんなのにどうやって勝てっていうんだ?」

モニターの向こうで和人も重苦しい顔になる。

『正直打つ手がない。かなり厳重に設計されてるからな。それにパイロットの腕もかなりいいらしい。お前とタメれるほどって噂だ』

「?パイロットはもう決まっているのか?どんな奴だよ、そんな機体を動かせるパイロットってのは」

『なんでも女らしいぞ。まだ少女って感じらしい』

「女・・・か」

解放戦争の頃のメンバーを思い出してみるが、そこまで強いセフィラムを持った人物はいなかった。

(なら・・・新たにジェノスが見つけた人材か・・・?)

しばらくリ・ガウスにいなかったため、リ・ガウスにどれ程のパイロットがいるのか裕樹は知らなかった。が、コキュートス隊のリーダーである和人ですら知らないのだ。恐らくジェノスが極秘に育てたパイロットに違いない。

『・・・裕樹?』

「ん、ああ、悪い。なんだ?」

集中して考えていたため、周りが気にならなかった。そんな裕樹を和人は笑って流した。

『一応データだけは手に入れた。今から送るけー』

「ああ、助かる」

やがて、データの受信が完了する。

『悪いな。そのIGの対策はそっちで頼むな』

「ああ、気をつけろよ」

最後に和人はニカッと笑い、通信がきられた。

裕樹は改めて機体のデータを見てみる。

見た目は青紫色がメインの装甲色に、背中の赤いまさに翼といえる後翼が目につく。いや、それよりも―――――

(何だ・・・この機体。・・・似てる・・・ゼロバスターだけじゃない、グランディウスやウイングバスター、それにヤツのデルヴィッシュとかいう機体にも・・・)

それが異様に気になった。

恐らくさっきの全てのIGの設計データを反映させつつ、終結させたのだろう。

最後に機体名を見てみる。その名は、北欧神話に登場した戦女神「フレイヤ」のもう一つの名。

「機体名・・・X−DV−005、ヴァナディース・・・」

(こんな機体を相手に・・・どうやって戦えばいい・・・?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、朝食を食べに部屋を出ると、そこには春菜が待っていた。

「春菜、おはよ」

「おはようございます・・・って、どうしたんですか?なんだか難しい顔してますよ」

「・・・ちょっとね。まあ食堂に行きながら。春菜、朝食まだだろ?」

「はい、じゃあ行きましょう」

二人で並んでトコトコ歩き出す。

 

春菜はこういう時間が好きだった。裕樹がいろんな面で自分を頼ってくれて、並んで歩いていても自分の存在を許してくれている時間が。

春菜は決して高望みはしない。5年前から裕樹のことが好きで、今もその思いは変わっていない。だが、裕樹にはすでに心に決めた人がいると知ると、少しは悲しんだが素直にあきらめた。裕樹を困らせたくないから。――――――もっとも、戦争後にその人物に会うと、数分で仲の良い友達になれ、裕樹が心に決めた理由もわかった気がした。

だからこそ、裕樹がリ・ガウスを離れる時も最初から協力したし、誰よりも裕樹の目的を理解しているつもりだ。だから春菜にはこんな他愛のない時間でも充分に幸せだった。

 

「・・・というわけなんだ」

「へえ、和人さんが・・・でもそのヴァナディースって機体、どうするんですか?」

「そりゃ、当然対抗策を考えてるさ」

「それで、裕樹さん的にはどう考えてるんですか?」

「・・・かなめになるのは、シャープシューター・・・だな」

「ちとせさん?」

「ああ、一番重要なのがちとせだ」

「と、いうと?」

「・・・まあそれは今日の会議の時に言うよ」

春菜は答えず、無言で頷いた。

「ありがとな」

裕樹は軽く春菜を撫でてあげた。

「え・・・えっ・・・」

途端に春菜の頬がどんどん赤みを増していく。

「・・・じゃ、朝食としますか。――――――?春菜、どした?」

「な、何でも・・・何でもないです・・・」

春菜は内心の驚きと嬉しさを隠せないまま、裕樹の後についていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・今までの報告から一度白き月に、・・・というかいい加減白き月に戻ろうと思う。みんなはどう思う?」

会議が始まり、各班からの現状報告を聞いた結果、タクトの結論はこうだった。

「いいんじゃないか?クレータ班長の話だと各紋章機の追加武装パーツが完成したらしいし」

正樹の意見にミルフィーユを除くエンジェル隊が大きく同意する。

「異論はないな。では、裕樹。お前の話に移ろう」

「ああ、わかった」

レスターに言われ、裕樹は中央の立体スクリーンにあの機体、ヴァナディースを表示させた。

その場の全員が見たことのないIGに興味を引かれている。

「これはリ・ガウスの協力者から送られてきたデータで・・・」

言いかけたその時に、第一戦闘配備のサイレンが鳴り響いた。

瞬間的に全員が立ち上がった。

(くそっ、もうなのか!?まだ対策すら話してないのに・・・っ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、アレを実戦に投入するんですか?」

会議室とは名ばかりな、薄暗い部屋で京介はジェノスに話しかけた。

京介だって、出来ればこんな人物とは極力関わりたくないが、上官なのだから仕方がなかった。

家族のために戦っているとはいったが、別に人質にとられているのではない。ただ、自分が裕樹たちと一緒になれば、それは亡命を意味し、家族に危険がおよぶ。

それこそ、孤児だった自分をひろって、育ててくれた大切な人たちなのだ。迷惑は、かけたくなかった。それが、彼等友人たちと戦うことになっても。

「心配しなくとも今回はあくまでテストだ。コキュートスを援護につける。それとも、何か不安か?」

「・・・パイロットの調整は大丈夫ですか?」

「無論だ。いい腕だよ、彼女は」

その言葉に、大げさなくらいに企みを感じた。

「君も出てくれるか?テストといっても落とせるものは落としたいからね。・・・そう、少なくともゼロバスターは落とせるだろう」

「・・・・・・了解です」

その意味がわかってるからこそ、京介は吐き捨てるように返事した。

そのまま、京介はジェノスに問いかけた。

「ジェノスさん・・・」

「どうした?」

「さっきの、ゼロバスターを落とすという話・・・それは、裕樹がヴァナディースのパイロットを知れば・・・ということですか?」

「・・・おもしろいとは思わないかね?」

明確な答えが返ってきたわけではないが、大まかに理解する。

「・・・失礼します」

(なんて人だ・・・この人は)

もし、裕樹がヴァナディースのパイロットが彼女だと知ってしまえば、それこそ裕樹は立ち直れなくなってしまう。

だから、なんとかしなければ。

なんとかして、それだけは防がないと。

 

京介は振り返らずに、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ココ!敵機は!?」

インペリアル・メガロデュークの修理が終えていなかったため、レスターはブリッジで指揮をとることになっていた。

「熱源確認・・・・・・5機です!―――カイーナ、アンティノラ、トロメア、ジュデッカ、ラルヴァです!!」

途端、裕樹から通信が入る。

『みんな、ジュデッカとは戦うフリだけでいいからな!』

『フリ・・・ですか?』

首をかしげながらちとせが尋ねる。もっとも、だれだって同じ気持ちなハズだ。

『ああ、さっき言いかけた協力者ってのがジュデッカのパイロットだからな。多分向こうもフリで攻撃してくるはずだ!』

『ジュデッカ・・・和人か!そりゃあいいな』

『ああ。だけど攻撃しないとリ・ガウスで和人が不信に思われるからな。みんな程度に攻撃するフリをしてくれ』

裕樹のある意味普通に戦うより難しいことにミントは頭痛を覚える。

『・・・フリって、一番戦いにくいやり方ですわね』

『ま、まあミント先輩、頑張りましょう』

ちとせもどういう顔をすればいいかわからない顔をしている。

「タクト、そろそろ行け」

『ああ、行ってくるレスター。・・・みんな、行くぞ!!』

タクトの一声で全員が戦闘態勢に入る。

「エンジェル隊、発進、どうぞ!」

『エンジェル隊、発進するよ!』

フォルテの一声で、下部デッキが開き、6機の紋章機が発進する。

「ゼロバスター、グランディウス、ウイングバスター・パラディン、発進どうぞ!」

『朝倉裕樹、ゼロバスター、行くぞ!!』

『神崎正樹、グランディウス、行くぜ!!』

『タクト・マイヤーズ、ウイングバスター・パラディン、出るぞ!!』

各3機のIGが追って発進する。レーダーにはすでに敵機が表示されている。

「タクト、作戦はどうするの?」

ランファから通信がくる。ブリッジにいなくてもやはりエンジェル隊の司令官はタクトなのだ。

「・・・ラルヴァは裕樹と正樹でなんとかしてくれ。俺と全紋章機はコキュートスを叩く!!!」

「「了解だ!」」

「「「「「「了解!!」」」」」」

それぞれ2機と7機に散開し、戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

(さて、裕樹は上手く言ってくれたかね?)

遠距離から9つのビットを展開してくる紋章機を見て、和人はジュデッカを停止させる。

―――――もちろん、トリックマスターが放った、「フライヤーダンス」である。

他の機体が必死で避ける中、自分の機体にはかすりもしない。

(どうやら・・・裕樹がなんとかしてくれてるな)

 

 

 

「くらいなっ!」

「その程度!!」

ハッピートリガーとカイーナが正面から撃ち合う中、回り込んだカンフーファイターから「アンカークロー」が放たれ、直撃したカイーナが大きく吹き飛ぶ。

「タクト!」

その先でウイングバスター・パラディンがプラズマブレードを抜き、待ち構える。が、

「させないよ!」

真後ろからアンティノラの「刹」を繰り出され、瞬時にシールドを構えながら回避する。シールドが綺麗にさっくりと切断されたが、直後に遠距離から「フェイタルアロー」が直撃する。その隙を逃さず、アンティノラを斬りつける。直後、ラルヴァを含む5機に「フルフラット」を放った。

(ぐっ・・・どうして、私は勝てない・・・!!)

「フルフラット」がトロメアにヒットしている隙にミルフィーユはビームブーメランを放つ。が、アイアンセイバーで弾かれる。だがその隙に2砲のクロノ・インパクト・キャノンを撃ち込む。

「コイツ等・・・やってくれる!!」

後退したのちアルカナム・ラッキースターに切りかかるも、シャインソードを展開して正面から受け止める。

凄まじい火花が周囲に散った。

 

 

 

 

 

 

ゼロバスターの連装バスターキャノンを避けた先にグランディウスはダブル・ティアルライフルを撃つが、ラルヴァのエーテルフィールドで防がれる。

「くそ、ダメか!」

「・・・京介!!」

ゼロバスターはプラズマソードをラケルタ状にし、グランディウスはディヴァインソードを構え、ラルヴァに突撃する。

「京介っ!!」

斬りかかるゼロバスターを逆手に持ったレーザーサーベルで受け止める。

「・・・ゴメン、裕樹。僕じゃ、止められなかった・・・」

「・・・っ!?」

懺悔をしているような言葉に裕樹は戸惑いを覚えた。

直後、背後からグランディウスが横一文字に斬りかかるが、ラルヴァは急上昇して回避する。

「逃がすか!!」

「・・・・!待て正樹!!戻れっ!!」

「!?」

裕樹が叫ぶと同時にラルヴァの背後から展開された6つのビット。これは―――――

(シリンダー兵器・・・!?)

気づいた時にはグランディウスは全方位(オールレンジ)からの無数のビームに撃ち抜かれた。

「正樹っ!!」

と、直後に自分がロックオンされる。裕樹はそのめざましい反応速度で回避していくが、ラルヴァからのライフルを避けた直後に、グランディウスの二の舞になった。

「うわあああああっっっ!!!!」

見逃すつもりはなく、ラルヴァはレーザーサーベルを構えて突進してくる。

「ごめん、裕樹・・・。けど、君と彼女を戦わせるわけにはいかない・・・。そんなことになるくらいなら、僕が、君を・・・!!」

(・・・っやられる・・・!!)

京介がどういう意図で言っているのかは分からなかったが、裕樹は本気で死を覚悟した。

結局はこんな所で終わってしまうのだと思う。

結局は、約束を守ることもできずに。

彼女に、美奈に、強く笑ってもらうことも出来ずに。

 

 

 

―――――けど、裕樹は死ななかった。

 

 

 

一瞬、懐かしい声が自分を包んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たった一つの、望み、求めたものの・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、目の前に映ったものは虹色のビーム波だった。

ラルヴァは先端のカノン砲をやられた。いや、そんなことよりも。

「い、今のは!?」

ビームの来た方向を見ると、そこにいたのは、和人がくれたデータに映っていた最強のIG、ヴァナディースだった。

ヴァナディースは実弾とビームの混ざったライフルを連射しつつ、自分の隣に移動してきた。

「・・・誰だ、君は。なぜ、助ける?」

「大丈夫?裕樹」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一声。

その言葉、その声を聞いた直後、裕樹の思考の全てが停止した。

 

 

 

違うと思った。

けど、セフィラムを通じてわかる。

違わない。

何より、声を間違えるわけがなかった。

 

 

 

モニターが映し出された。それが、裕樹の視界に飛び込んできた。

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裕樹の意識から、それ以外の全てが瞬時に消滅した。戦闘中だということも。

 

 

 

少女が、いた。

見た目、18、19といったところ。

さらっとしている赤みの強いピンクの長髪。

透き通るように白く、きめの細かい肌。

優しさという輝きを宿した、青みの強い紺色の瞳。

 

 

 

それは、たったひとつの望んだもの。

時の果てまで行っても、取り戻すと誓ったもの。

なのに、今、わずか、こんなに近いところに彼女は、いた。

あの時の姿、そのままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・美、奈・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かすれた呟きがもれる。

それを聞き届けたのか、少女はじっと裕樹を見つめる。

その、優しさを宿した瞳が裕樹を捉え、そして―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笑った。眩しいくらいの、きれいで、可愛い顔で。

 

 

 

こんな風に微笑む少女だったと、裕樹は今更ながらに思い出す。

ずっと、忘れていた。

別れた、失った時のあの顔が、あまりにも鮮烈すぎて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、ヴァナディースが!?どういうことだ!?」

ラルヴァが動くより早く、ヴァナディースの8つの「ホーリィ・シリンダー」が瞬く暇さえ与えずに、ラルヴァを無数に撃ち抜いた。

「あなたに、裕樹はやらせない!」

ラルヴァが倒されるのを、裕樹は見ていなかった。

そんなこと(・・・・・)、どうだってよかった。

「くっ、コキュートス、退くぞ!」

「・・・っ了解!」

さすがに、最強のヴァナディースが相手では退くしかなかった。

「・・・美奈。君、記憶が戻ってたのかい?」

「ごめんね、京介。・・・初めから消えてなんてなかったの」

思わず苦笑し、京介はコキュートスに続いてドライブアウトした。

 

 

 

「美奈・・・?」

裕樹が、信じられないといった顔で、呼びかけた。

「えへへ、裕樹。・・・約束、守れたね」

なのに、なんて優しい笑顔で答えてくれるのだろう。

約束。

あの日、雪が嫌いになった日の約束。

 

 

 

――――――また、会おうね。

 

 

 

「あ、裕樹。ひょっとして忘れてた?」

変わらない。何も、変わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

「なんだあの機体、敵ではないのか?」

思わずレスターが言ったが、正樹、彩、春菜の3人が説明した。

『大丈夫だ、レスター・・・。あの機体、信用できるから』

『うん、大丈夫・・・だよ』

『裕樹さん、よかった・・・』

「何?どういうことだ?」

『レスター、いいよ。信用しよう。さっき助けてもらったしね』

「だがな、タクト・・・」

言いかけて止まる。言って覆ったことがあっただろうか?

「・・・わかった、お前にまかせる」

『よし、じゃあみんな戻ろう。ヴァナディースのパイロットも』

言われるままに、8機はエルシオールに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裕樹はゼロバスターを降りると即座にヴァナディースの元に走った。

待っているうちに他のみんなもやってきた。

その時のちとせを、裕樹が気づけるわけがなかった。

ちとせは、もどかしそうな裕樹の横顔を見ると、心が苦しかった。

やがて、コックピットが開かれた。

反射的に、裕樹は数歩、前に出る。コックピットから出てきた、腰元まである美しい真紅じみた髪をたずさえた少女は、愛くるしい顔で、口元に手を寄せながらキョロキョロと周囲を見ていた。

 

やがて、裕樹を見つけると、愛くるしい顔で微笑みながら、裕樹に抱きついた。

「ゆ〜うきっ!!」

裕樹は思わず戸惑った。

正直、信じられなかった。

あれだけ望んだ、何よりも誰よりも大切な人が今、自分に抱きついていることが。

「・・・?どうしたの?裕樹」

抱きつきながら、キョトンとした顔で見上げてきた。

「・・・・・・美奈?本当に、美奈・・・?」

「うん、ほんとだよ」

その言葉で裕樹は美奈を抱きしめた。強く、すがるように、それでいて、優しく抱きしめた。

 

 

 

暖かい。

互いの体温が伝わってくる。2人とも、決して離れようとしなかった。

だから。

こんなにも優しい暖かさなのだから。

躊躇わず。

裕樹は、泣いた。

 

 

 

「美奈・・・っ。会いたかった・・・ずっと、ずっと会いたかった・・・」

「私も、会いたかったよ。裕樹に、抱きしめてもらいたかった」

裕樹は泣きながら、話しかけた。

周りから見られているのにも関わらず、泣いていた。

「も〜裕樹たらっ、普通は女の子が先に泣くんだよ?」

「・・・なんだよ、その理論は」

涙を流しながら、笑えた。

それも、美奈というたった一人の少女のおかげで。

「・・・私だって・・・寂し、かったんだよ・・・?」

そんな、寂しい声で言われたから。

裕樹は更に強く、抱きしめた。

 

 

 

――――――もう、一人にしないから。

――――――俺が、ずっとそばにいるから。

――――――俺が、必ず守るから。

――――――だから・・・

 

 

――――――そんなに、震えないでくれ・・・

 

 

 

優しく撫でながら、ささやきかけてあげるとやがて美奈は落ち着いてくれた。

裕樹は、うっすらと滲みでた美奈の涙をぬぐってあげた。美奈も、それを受け入れた。

「・・・ありがと。裕樹が抱きしめてくれると、心から落ち着ける・・・・・・やすらげるね」

そんな言葉が、どれだけ裕樹を救ってあげれたのだろう。

「・・・美奈」

「なぁに?裕樹」

「やっぱり・・・俺には、美奈が必要だ。美奈がいてくれれば、俺は・・・・・・」

「・・・私も。私も、裕樹がいてくれないと、寂しい」

そして、明るい、可愛い声と笑顔を自分にむけてくれた。

だから。

自分も、なんとか笑顔をつくって、美奈に微笑んで――――――もう一度、抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、たった一つの望んだもの。

守りたくて、一度は守れなかったもの。

でも、今はこんなに近くにいる。

 

 

 

いろいろと、聞きたいことはあった。

 

 

 

――――――どうやって、再生したのか。

――――――今まで、どうしていたのか。

――――――体は、無事なのか。

 

 

 

けど、よかった。

今だけは、よかった。

今はただ、こうして美奈の温もりを感じていたかった。

今は、これだけでいい。

自分たちは、もう一度、再会できたのだから。

約束を守れたのだから。

だから、今だけは。

――――――こうしていたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日。裕樹は、確かに救われた。

今はただ、彼と彼女に、安らかなる時間を。

彼は、この時。

 

 

 

救われたのだから。