第三十二章「解放双曲線」

 

 

 

 

 

 

「・・・合図だ!ミルフィー!ランファ!」

「はい!」

「行くわよ!タクトッ!!」

小惑星の裏で身を潜めていたウイングバスター・パラディン、アルカナム・ラッキースター、カンフーマスターは、レジスタンスの合図である信号弾を確認し、一斉に飛び出した。

三機は最大速で、すでに視界に入っている惑星、アークトゥルスへ向かう。すでに衛星軌道上ではレジスタンスとリ・ガウス軍が交戦を始めている。不意打ちに対応が遅れたのか、リ・ガウス軍は指揮系統が乱れ、防戦にまとまりがない。

今がチャンスとばかりに更に加速する。

が、近づくにつれ、その大激戦に戸惑いを覚える。

タクトがミルフィーユとランファをこちらのメンバーに加えたのは理由がある。それは、タクトは惑星に大気圏突入しなければならない。当然、その後の援護も必要になる。つまり、大気圏内で稼動できる紋章機を連れてこなければならなかったのだ。

だが、正直誤算だった。

まさか、敵がここまで部隊を展開しているとは思えなかった。アークトゥルスに不穏な動きがあるのがバレたのか。

ともかく、敵軍を一度殲滅しなければ、降下の位置やタイミングも取れない。

「ミルフィー!ランファ!一度、敵機をなんとかしよう!!」

「「了解!!」」

それぞれ左右に展開する二機を見ながら、タクトは正面の敵IG軍に全砲門を向け、ロックオンする。

ウイングバスター・パラディンから放たれた「フルフラット(全弾発射)」が、十機以上のIGを一度に沈めた。

『・・・あれは、ウイングバスター・・・?タクトさんですか!?』

以前、レスティでの戦闘で聞いた声だ。確か・・・

「・・・サクヤ、さん?」

「やっぱり!タクトさんですね!来てくれたんですね」

一機のセイカーがこちらに近づいてくる。

「サクヤさん、どうなってるんですか!?」

「完全に、とはいかないけど、動きを読まれてたみたいで・・・今のままだと降下することは・・・」

「大丈夫だって!俺たちも協力するから!」

「すいません!タイミングが取れ次第、降下してくださいね!時間に余裕はありませんので!!」

それと同時に、二機は弾かれたように離れ、それぞれ背後から迫ってきていたディアグスをサーベルで斬り裂いていく。

直後、タクトは「オメガブラスター」を前方の戦場へ向け、ビームレイと共に発射した。

味方に当てない技術は、すでに適応させている。ならば、出来ないハズがない・・・!!

後翼を展開し、激戦の中へタクトは突撃していく。

 

 

 

 

 

ランファは、正直驚いていた。

機体が、軽い。それも手に馴染むように動かしやすい。

強化改造を終え、パワーアップした紋章機だったが、ここまで強化されているとは思わなかった。

何より、扱いやすい。

今のこの機体なら、出来ないことなど何もないほどに。

そう、初めてこの機体に乗る時、自分の力量から、この機体をカンフーファイター(闘士)と名づけた。

けれど、今は違う。

数々の戦いを経て、ランファは様々な経験を積んだ。

だから、彼女はもう闘士ではない。

立派に、カンフーマスター(闘師)と呼べるほどの力を持っているのだ。

だから、胸を張ってこの機体に言ってあげれる。名づけてあげられる。

 

――――――お前の名前は、カンフーマスターなのだと。

 

急激にテンションが高まり、ランファは一つのリミッターを解除する。

それは、この紋章機の新たな必殺技だった。

....とリンクし、クロノ・ストリング・エンジンを強制的に活性化させる。その状態で、機体のエネルギーをシルード状に展開。さらにそれを一気に中心から高速で回転させ、螺旋を生み出す。

これが、カンフーマスターの新必殺技、「スパイラルドライブ」である。

一気に加速状態に入り、ランファは目にとまった敵戦艦に真正面から突撃していく。

加速状態もプラスされ、螺旋と化したエネルギーが戦艦をいとも容易く貫通する。そのまま、立て続けに4隻の戦艦を一気に貫通し、撃沈させた。その間、近づくIGは触れることさえ許さずに、弾き潰された。

「すごい・・・なんなの、この力は・・・」

ランファは、自分で自分の機体の戦闘力に呆然としていた。

その直後に真上からビームを放たれたが、レバーを僅かに動かすだけで機体は滑らかにビームを避け、真正面にガトリングガンをぶち込んだ。

この反応速度。この機動性。この加速速度。

全てが最高の域に到達している。

ランファは、続けざまに敵戦艦へ接近していった。

 

 

 

 

 

 

「ランファ・・・凄い」

レーダーでカンフーマスターの動きを追っていたミルフィーユは、その戦闘力を見せ付けられ、しばし驚きに浸っていた。

が、直後にすぐに我に返る。

(ランファだって頑張ってる・・・なら、私だって・・・!!)

彼を無事にこの星に降ろさないといけない。

ミルフィーユは、正面のIGに向き直った。

恐らく新型なのだろう。今までに見たことのないIGだ。

放たれた無数のビームを、見事なまでに間を潜り抜けて回避する。敵機にはその軌跡さえ追うことができない。

次の瞬間には、アルカナム・ラッキースターのクロノ・インパクト・キャノンが、三機のIG、ヴァラグスを撃ち抜いた。

続けざまに、シャインソードを展開して、戦艦へ突撃する。

例え、敵軍が機体を強化しようとも。

自分たちは、さらにその上を行き、凌駕する!

 

 

 

 

 

 

「二人とも凄い調子いいな。・・・けれど」

タクトは遥か彼方の方向に目をやった。再び、敵の大軍がやってきている。

このままでは、作戦が全て失敗してしまう。

EDENでの防衛戦は、あくまで時間稼ぎなのだ。こちらの作戦である、演説が成功しなければ向こうだって危ない。

「裕樹、美奈・・・まだなのか・・・っっ!?」

彼等が来てくれれば、情勢は一気に変わるはずだ。

それまで、持ちこたえられるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、EDENの世界では、防衛戦が始まっていた。

先陣をきるレスターは、インペリアル・メガロデュークを駆りながら、その重武装で敵戦艦を次々に落としていく。

その横にはIGを落としていくグランディウスの姿も見られる。

と、ヴァニラはレーダーに見慣れた敵機を確認する。

「・・・道を空けます」

一言、そう宣言して、ヴァニラはイネイブル・ハーベスターを前進させる。

防衛ラインからすでにジュデッカ以外のコキュートス隊を確認していた。コキュートスは大軍のなかで相手にするには分が悪すぎる。だから、彼等と一対一の状況を作り出さなければ。ジュデッカがいないのは、和人が上手いこと参加を逃れたのだろう。

ヴァニラのH.A.L.Oの輝きが一気に増す。

本当は、こんな力を使いたくなかった。

誰よりも、誰かが死ぬのを嫌う自分だから。

けれど、それでも今は進むしかない。

イネイブル・ハーベスター(可能へと導く収穫者)の名に相応しくあるためにも。

機体の全身が一気に内側から展開、その中から数え切れないほどの無数の砲口が現れた。

ヴァニラは、祈りながらトリガーを引き絞った。

アトロゥシャス・レイン(残虐なる雨)ッッッ!!!!!!!!!

放たれた無数のビームの雨が、戦場に降る雨の如く、敵機に降り注いだ。

しかも、味方にはビームがよけるように曲がってくれる。

まさに敵を撃ち滅ぼす、残虐なる雨。

ヴァニラが嫌う、力でもあった。

 

 

 

 

 

 

「今だっっ!!」

周囲の敵機がイネイブル・ハーベスターによって排除された隙を狙って、正樹はグランディウスをコキュートスに向ける。

対応する隙を与えずに、ディバインソードでトロメアに斬りかかる。それをトロメアはすんでのところで受け止めた。

トロメアはその場でアイアンセイバーを展開し、グランディウスを弾き飛ばす。

即座に隣接しようとしたが、グランディウスから8つのシリンダーが展開されるのを見て、背筋がゾクリとする。

次の瞬間には、グランディウスの「エーテル・シリンダー」がオールレンジからトロメアを無数に撃ち抜いていた。

「もらったぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!

正樹は容赦なく、トロメアの両腕を断ち切った。

 

 

 

 

 

 

「トロメア・・・!?詠!!」

グランディウスに打ち負かされるトロメアを見て、アンティノラを駆る桜花は機体を返そうとした。が、その目の前をフライヤーが回り込み、プラズマビームを放ってきた。

危ういところで回避し、振り返ったその先には、イセリアル・トリックマスターが待ち構えていた。

「レナティブ・デバイス、展開」

ミントの言葉に反応するかのように、イセリアル・トリックマスターから6つの「レナティブ・デバイス」が展開される。

直後、ミントが放ったミサイル、マルチプレックス「アデッシブボム」がアンティノラを襲う。と同時に、そのミサイル、アデッシブボムの攻撃に自動で「レナティブ・デバイス」が支援攻撃であるレーザービームを追撃した。

「なっ!?あの兵器は!?」

驚愕する桜花をよそに、ミントは一気に意識をテレパスの部分まで集中させる。

その中で、アンティノラに通信で話しかけた。

「・・・誰かは知りませんが、先に謝っておきますわ」

「え・・・!?」

直後、H.A.L.O.の輝きが最高点にまで到達し、イセリアル・トリックマスターから眩いほどの光があふれ出た。

そして、増加されたフライヤー13機と、レナティブ・デバイスが、アンティノラのみを対象とし、周囲の展開する。

次の瞬間、一斉に放たれた必殺技、「フライヤーダンス」に、レナティブ・デバイスが獲物を見つけたが如く、反応し、13機のフライヤーの攻撃すべてに更なる追撃を放った。

オールレンジの攻撃に迅速にさらなるビームを持って追撃をしかける攻撃。これが、イセリアル・トリックマスターの新必殺技。

レナティブ・フライヤーダンス(極光の舞)ッッッ!!!!!!!!!!!!

もはや光の舞というレベルではない。

まさに光の檻というべき「極光の舞」は、アンティノラを容赦なく撃ち貫いた。

「ああああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!??????

 

 

 

 

 

 

一方、カイーナもフォルテの新紋章機、メテオトリガーを前に、敗北を余儀なくされていた。

「くそっ!!こんなところで・・・!!!」

「あきらめが悪いよ。・・・覚悟しなっ!!」

カイーナの一斉射撃を前に、フォルテは正面から突撃する。

増設された全武装を、止めることなくフルオートで放つ。

まさに、限界を超えた、最強の射撃。

「オーバー・ストライクバーストッッッ!!!!!!!!!!!

カイーナの全ての砲撃を相殺、そしてそれ以上の砲火がカイーナを包み込む。

重武装IGであるカイーナは、最強の守護天使の重武装紋章機を前に、完全敗北をうけた。

フォルテはカイーナに振り返ることなく、艦隊に向かって反応弾を放っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!あれは!?」

タクトはレーダーに写る光点に、さらに焦りを覚えた。

少なくとも40機以上のIGがこちらに接近している。

「駄目だ、このままだと・・・!!」

その隙にも迫るヴァラグスに対して、リニアレールキャノンで撃ち飛ばし機体を返す。

と、並ぶようにアルカナム・ラッキースターとカンフーマスターがやって来た。

「タクトさん!!」

「ミルフィー、ランファ、大丈夫か!?」

「平気、だけど・・・どうするのよ!?このままだと・・・!!」

タクトは歯を食いしばりながら、前方を睨みつける。

もう時間がない。なのに、敵機は減るどころか増える一方だ。

どうしようもない。――――――そう、タクトが思った瞬間。

レーダーに写る光点が全て消え去った。

「「「えっ!?」」」

三人とも、目を疑った。

今、一体なにが起きたというのか。

次の瞬間、40機の敵機の爆煙を突き抜けて現れたのは、青く輝く巨体が目に焼きついた。

8枚の可変翼を展開させたその機体は、まさに聖戦者の姿だった。

 

 

 

「タクト!!ミルフィー!!ランファ!!三人とも無事か!?」

「裕樹!?」

「裕樹さん!!」

「遅すぎよ、裕樹!!・・・その、機体は?」

「これが、俺の新しい機体、ラストクルセイダーだ」

通信を聞きながら、三人はその機体を眺める。

青く輝くその姿が、神々しささえ感じる。

直後、遅れて真紅の翼を背負った機体、ヴァナディースもやって来る。

その、対照的な色の二機があまりにも美しくて、戦闘中だというのにしばらく眺めてしまった。

と、次の裕樹の言葉で三人は我に返る。

「ここは俺と美奈で引き受ける。タクトたちはアークトゥルスへ!!」

「後は任せて、早く!!」

完璧なタイミングにやって来てくれた。だから、自分たちも本来の仕事へ戻らなければ。

「ミルフィー!ランファ!今からアークトゥルスへ降下、大気圏突入する!ついて来てくれ!!」

「「了解!!」」

威勢のいい声と共に、三機は機体を返して降下を開始した。

それを見送ったのち、裕樹と美奈は同時に機体を躍らせた。

 

ラストクルセイダーはダブルセイバーである「セイクリッドティア」を抜き放って迫る。

次の瞬間には、十機を越えるIGが、全て切り刻まれていた。怯む隙さえ与えずに、さらに斬撃の嵐を巻き起こし、周囲の大半のIGの手足と頭部が吹き飛んだ。

周囲のレジスタンスのパイロットたちは思った。

一体、どれほどの技量の差があれば、このような芸当ができるのだろう。あの機体、ラストクルセイダーは大量の砲門を持っているわけではない。しかも、まだ射撃すら行っていないのだ。ただ斬撃だけで、IGを壊滅に追い込んでいる。まさに、斬撃の神ともいうべき存在だ。

一方のヴァナディースも凄まじい戦闘力である。「ホーリィ・シリンダー」を展開し、遠方の敵機すべてを容赦なく撃ち潰し、自身はディヴァインフェザーを展開し、戦艦を次々に両断していく。かいくぐって接近したヴァラグスも、メノスソードの斬撃でなす術もなく斬り裂かれる。

彼等は、僅か二機でこの戦局を覆したのだ。

しかし、それも必然なのだろう。

最強の機体に乗る、最強のパイロット。

もはや彼等に敵う相手などいないと思えるほどに。

 

しかし、そうはならなかった。

「!何!?」

直後、上方から放たれたプラズマカノンを危ういところで美奈は回避する。

現れた機体は、ラルヴァ。だが、パイロットが違う。

(このセフィラムは・・・京介じゃない。・・・誰?)

「健治はいないか。だが、お前で充分だ!美奈!!」

通信回線から届いた声に、美奈は身を固めた。

この声。ずっと聞いたことがある。

だから、名前も知って、――――――記憶の底から

その名を叫んだ。――――――引きずり出した。

「ヴァイスッッ!!」

 

 

 

 

 

 

一方の裕樹も、目の前に現れた機体と対峙していた。

今まではいろいろ邪魔があって、戦うことが出来なかった。

けれど、今はそれがない。

だから、正面からコイツを叩き潰す。

「ジェノスッッ!!」

デルヴィッシュに、肉薄し、互いに刃をぶつけた。

その火花が、彼等の死闘の開始の合図だった。