第三十三章「時代の風」

 

 

 

 

 

 

「っ!!ヴァイス!!あなたは・・・!?」

美奈は思わず感情的になってしまう。それも、このパイロットと向き合ってから。

理解出来なかった。自分が何故、このパイロットの名前を知っているかが。

しかも、会ったこともないのに顔すらイメージできる。

気分的には自分の知らない記憶が生み出されているかのようだ。

ラルヴァのカノン砲をスラスターの急制御で回避し、その先にツイン・オメガライフルを向け、トリガーを引き絞る。

高出力の弾丸だと分かっているのか確実に回避し、立て続けに「エーテル・シリンダー」を展開する。

それに合わせてこちらも「ホーリィ・シリンダー」を全て展開する。

ビームの出力では完全にこちらが上回っているが、この勝負にそんなものはあまり関係ない。どちらかが先に当たれば、そこにたたみかける。つまり、手の多さが勝負の決め手である。

互いに展開したシリンダーが無数のビームを放ち、光の網を宇宙に作り上げた。それを、ヴァナディースもラルヴァも、常人ではあり得ない反射神経でその光条の全てを避け続ける。更にシリンダーのビームを避けながらも、両者は抜き放ったサーベルで刃をぶつけ合い、振り返りざまに放った互いのライフルが互いの圧縮されたビームを相殺させる。実弾を纏うビームを撃っているツイン・オメガライフルも、相殺されては意味がない。

「あなたは、一体!?」

「忘れてる、とでも言うつもりか!美奈!」

「!?」

言われのないヴァイスの言葉に、思わず怯む。

が、次の言葉はそれ以上に意味を狂わせた。

「そうだったな、お前は水樹美奈であって、星見美奈ではなかったな!!」

「星見・・・?」

この人は、何を言っているのだろうか。

「関係ない!どちらにせよ、お前は美奈だ!!それで充分だ!!」

一瞬反応が遅れ、シリンダーを含めたラルヴァの集中砲火がヴァナディースを襲う。

美奈は間一髪のところでエーテル・フィールドを展開し、何とか防ぎきる。もっとも、衝撃だけはどうにもならず、押し飛ばされる。

そこに追撃してくるラルヴァ。モニターに敵機の姿が迫る。

直後、美奈の瞳の奥で6つの結晶が収束し、無数の光と共に弾け、解放(リバレート)した。

 

裕樹たちと違い、リバレート状態になった時、美奈の瞳は真紅へと変わり、透き通るような輝きを宿している。

目の前に迫る大量のビームを自らのシリンダーの放ったビームを壁にして、防ぎきる。

直後、ディヴァインフェザーを展開し、メノスソードを構え、肉薄する。

寸前でラルヴァはレーザーサーベルで受け止め、両肩からプラズマカノン砲を放とうとしたが、完全に先を読んでいた美奈に蹴り飛ばされる。

「っ!いいだろう美奈!お前との決着、ここでつけるかっ!!」

初めて交戦しているハズなのに、ヴァイスはまるで随分前にも戦ったことのあるような言葉を口にした。

だが、その言葉が間違いではないと、美奈の本能は告げている。

ヴァイスとは、一体・・・?

 

 

 

 

 

 

正面からラストクルセイダーは、スラスター全開で一気に接近する。その間に放たれた無数のビームは「セイクリッドティア」と、更に腰から抜き放ったヴァレスティセイバーで全て斬り防ぐ。そして一気に隣接、ダブルセイバーとサーベルの計3つの刃を躍らせた。鏡面の如く滑らかな動きでデルヴィッシュのプラズマサーベルを弾き、無防備な機体装甲を両断すべく、腕を振り下ろす。が、相手の衝撃波で強制的に引き離される。

だが、ラストクルセイダーは体制を立て直しながら、8つの「ヴァレスティ・シリンダー」を展開。無数のビームの奔流をデルヴィッシュに浴びせた。

だが相手もこの無数のビームを見事にかわしきり、胸部の相転移波動砲を放つ。当然、こんな直進的な攻撃など当たるはずもなかった。

「それが君の新しい力か、裕樹!!」

「ジェノスッッ!!」

対角線上にライフルを放ち続ける。

「今日こそ、お前をっ!!」

「無駄だというのをまだ学習していないのか!!聖刻のなんたるかを理解していないお前がっ!!」

「聖刻・・・!?」

「違うか、思い出していない、だったな!」

「お前・・・っ!?」

瞬間、腰部の拡散式リニアレールキャノン「ハイパーベロシティ」を放つが、実弾である特性を読まれ、スナイプウェーブで無効化される。再び、ビームレイを発射しながら距離を取る。

「どういうことだジェノス。聖刻・・・だと!?何だ、それは!?」

「よもや忘れたか!!貴様の罪の証を!!」

「ぬかせっ!!そんなもの・・・っっ!!」

放たれたビームを再び斬り防ぎ、隣接せんと加速する。

その先に、プラズマブレードを構え待ち受けるデルヴィッシュが、やけに邪悪に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、大気圏突入を終えたタクトは、即座に支持されていたポイントに機体を向かわせ、着地。ウイングバスター・パラディンからラダーを下ろし、議会場のような建物の前に降り立った。

上空ではやって来た少数の敵機をアルカナム・ラッキースターとカンフーマスターが確実に迎撃してくれている。

「タクト・マイヤーズ様ですね。お待ちしておりました。時間もありませんので、どうぞこちらへ」

案内人の人は口調は落ち着いていたが、その心情は大分焦っているだろう。表情が物語っている。

「すいません!えと・・・和哉さんは!?」

「すでに演説を開始されています。――――――そちらにお渡しした通りの内容を話している最中ですので、マイヤーズ様も、ご自分の演説する内容の確認を・・・」

「そんなのいらないよ」

直後、案内人の顔が固まり、驚愕した。

「え・・・!?」

「大丈夫、言いたいことは和哉さんに任せてるし、俺は自分の気持ちを話すだけさ」

それだけ言うと、案内人は納得してくれたのか、何も言わなかった。

タクトは案内人に言われるままに走りだした。

と、クロノ・クリスタルから通信が入り、走ったまま繋げる。

『タクトさん!!』

「ミルフィー!?」

『タクト、しっかりね!!』

ランファからも通信が入り、激励してくれる。

タクトは、不意に心が温まった気がした。

「ああ、わかってる」

『聞いた話だと、演説の様子って全ての周波で流されているらしいから、当然アタシたちにも見られるからね!』

「うへぇ・・・」

一気に恥ずかしくなってきた。

『タクトさん。お願い、しますね』

『この戦いを、終わらせるためにも・・・!!』

「・・・わかった!任せといてくれ!」

二人は元気に答えた。

それを最後に、タクトは通信を切り、走ることに専念した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですからみなさん!もう一度考えて欲しい!!果たして、EDENは本当に我々、リ・ガウスを攻撃する意志があったのか!!」

演説上にタクトが到着した時には、演説台に自分とそう変わらない男性が必死に演説をしていた。恐らく、彼が和哉なのだろう。

話の方も、長ったらしい前おき(みたいなもの)がすでに終わっており、タクトは扉の前で演説を聞くことにした。――――――正直なところ、演説台に上がる機会がまったくないのだ。

会場にもすでに多くの人が入っており、達哉の演説を聞いている。そのほとんどが、民衆の代表者らしい。

達哉の声が、会場に響いた。

「惑星グランが攻撃を受けた・・・これがあったから、我々はEDENを敵として判断していました。ですが、よく考えて頂きたい!―――こうして戦闘を開始しているのにも関わらず、EDENは一度もリ・ガウスに進行してきていないのを、みなさんはご存知でしょうかっ!?」

途端、会場にざわめきが起こる。

「その理由は極めて簡単です。今のEDENに、次元を越えて他の世界に渡る技術など、存在しないのですから!!」

至極当たり前の内容に、タクトは大いに頷いた。

「そう!惑星グランの攻撃は、EDENがやったのではありません!!EDENを自らのモノにせんとする、議会派の行った攻撃なのです!!」

これが決めてだった。会場のざわめきはもちろん、リ・ガウス中からどよめきが聞こえてきそうだ。

「つまり、EDENはいわれなき罪を被せられ、我々の攻撃を受けてきました!!我々は、謝罪することも許されない行為を行ってしまったのです・・・。EDENの世界の人々は、ただ平和に暮らしていただけなのですから・・・」

その言葉に、今度は会場中がシン、と静まりかえる。同意してくれる人が、こんなにもいてくれたのだ。

「なのにです!!こんな我々の元に、EDENから親善者が来てくださいました!!そこの入り口に立っている方です!!」

会場が、おお!、という声と共にこちらに顔を向けてくる。全員が同時に行ったので、少しビビッた。

「EDENを詳しく知る方ならご存知でしょう、彼は、EDENにおいて英雄と言われる、タクト・マイヤーズ殿です!!」

さすがに拍手はなかったが、全員が驚きのような目でこちらを見ている。

「この合同演説には、あの解放戦争の英雄、『白き翼』の協力があってこそ、実現しているのです!!」

これも決め手には相応しい。裕樹の顔は知られていなくとも、二つ名は十分に有名なのだ。

「では、タクト・マイヤーズ殿。こちらへどうぞ」

様々な意味の視線を受けながら、タクトは演説台に登った。

そして、まずは達哉と目を合わせる。

「お会いできて光栄です、タクト・マイヤーズ殿。あなたのEDENでのご活躍、春菜や彩を通じて耳にしました」

「いえ、そんな・・・。それより、達哉さん」

「はい?なにか」

「俺のことは、タクトでいいよ。むしろ、そう読んでほしい」

「えっ・・・?」

一瞬、達哉が固まった。と、すぐに笑顔になってくれた。

「わかりました、タクト。演説の方、お願いいたします」

敬語なのは、彼の癖なのだからだろうか。

タクトは笑顔を向けてから、演説するマイクの前に向かった。

会場中の視線だけでなく、カメラなどもこちらに向けられており、ライトも向けられていた。

ステージに立ったことのある人なら経験があるだろうが、こういう状況はかなり暑い、というか熱い。

正直、タクトは上着全てを脱ぎたくなったが、それだけはやめておいた。

重ねて言うが、それだけは(・・・・・)、止めておいた。

「・・・ご紹介されました、タクト・マイヤーズです。達哉さんが、言いたいことを代弁してくださったので、私は自分の気持ちを話したいと思います」

会場が、静まりかえる。

そんな中、誰がタクトの心中を理解できただろうか。

 

 

 

 

 

 

後にレスターは語る。「アイツを行かせるべきではなかった」、と。

 

 

 

 

 

 

タクトは大きく息を吸い込み、子供のような笑顔で、こう言ってくれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうメンドくさいので止めましょう!!私も休みが欲しいです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場の温度が、確かに何度か下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演説をモニター画面で見ていたレスターは、こめかみにビキリ、と素晴らしい効果音をたてていた。

「アイツは・・・っっっ!!!EDENの代表として言う言葉が・・・それかっっっっ!!!!!!!!!!

同じように、演説を見ていたエンジェル隊も、絶句していた。

「タ、タクトさん・・・」

「・・・やってしまいましたわね・・・」

「どうするつもりだい、タクトは・・・」

「・・・・・・」

ヴァニラにいたっては、声も出せなかった。

 

 

 

「だはははははははははっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!

グランディウスのコックピットでは、正樹が一人笑いこけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

白き月では、シヴァ、ノア、シャトヤーンがその映像をしっかり見ていた。

「マ、マ、マ・・・マイヤーズ〜〜〜〜っっっ!!!!!!!!!!??????????

「・・・あのバカ・・・」

「マイヤーズ殿・・・」

この三人、特にシャトヤーンをも絶句させたのは、タクトが初めてではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

同じように、その中継をみていたミルフィーユとランファも、大口を開けてポカン、としていた。

さすがのミルフィーユも、タクトがこの場面でこういうセリフを言うとは思っていなかったのだろう。

「あ、あのバカ男は〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!」

「タ、タクトさ〜ん。さすがに今回はマズイんじゃあ・・・」

「自分に正直になりすぎなのよ!アイツは!!」

「・・・そりゃあ、私だってタクトさんとお休み欲しいけど・・・」

「・・・あのね」

所詮、似た者同士か・・・。と、ランファは心の底から思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静まりかえった演説場で、タクトは嬉しそうに、まるでイタズラを成功させたかのような顔で、続けた。

「今のは私の正直な気持ちです。それに、みなさんもお考えください」

もちろん、今のタクトが真面目な話をするなど、あり得なかった。

「むさいオッサンたちに、果たして国を動かされ続けていいのでしょうか!!」

全力で力説するあたり、達哉は唖然として見守っていた。

「それに、私には恋人がいます!!ミルフィーユって言うんですけど、彼女は料理上手で・・・」

話がずれてきた演説に、達哉が思ったことは唯一つ。

(信じられない・・・両世界の演説で、彼女のノロケ話してる・・・)

 

 

 

 

 

 

「・・・ミルフィー、これ、両世界中に中継されてるからね」

「は、恥ずかしいです〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!

顔を真っ赤にして両手で顔を隠すミルフィーユ。

ランファって、もはやあきれ返って見ているしかない。

(そういえば、誰かが言ってたわね・・・。大物と馬鹿は紙一重だって・・・)

冗談抜きで、そう思える。

 

 

 

 

 

 

「・・・え〜〜〜すいません。話がずれました」

ようやくミルフィーユとのノロケ話を終えたタクトは、ようやく話を戻す。

「では、結論です!!」

・・・と同時に締めに入った。

「みなさん!戦争なんかしてもいいことなんてなにもありません!!責任は全部議会派にとってもらって、楽しく平和に暮らしましょう!!」

シンプル、イズ、ベスト。

これ以上に相応しい言葉があるだろうか。

正直なところ、これが真面目な軍の会議なら大変な目にあっているだろう。

けれど、リ・ガウスの人たちは、それはそれはバイタリティに満ち溢れていた。

一人、演説場で拍手をしてくれた。

続けて、それが徐々に増えていき、しまいには会場中が盛大な拍手に包まれていた。

タクトは心の中でガッツポーズをとった。

自分は、人を引っ張っていく革命家でもなければ夢想家でもない。第一、面倒くさいではないか。

この世界の人たちは、自分で歩いていける。

世界を変えるのは、その世界に住む人たちなのだ。

英雄とは、人を引っ張っていくものではない。

人が通る道に、そっと後押しするだけでいいのだ。

拍手に包まれる演説場。やってきた達哉と握手をしながら、タクトはそう思っていた。

時代の風は、その世界の人々が作るものだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タクトの演説を裕樹と美奈は聞いていなかった。いや、厳密にはきく暇がなかった。

二人は今もなお、ジェノス、ヴァイスと激戦を繰り広げていた。

「さすがにやる・・・!!以前もこうしてお前は立ち塞がったな、美奈!!」

「何をっ・・・!?私は、あなたとは初めて会ったはずよ・・・!?」

後退しながら発射したディヴァイダー・ミサイルを、ラルヴァはエーテル・シリンダーで防ぎ、怯むことなくこちらに迫ってくる。

「美奈・・・!!お前は、その身に宿す聖刻すら忘れたか・・・!!」

「聖、刻・・・!?」

途端、額が急に熱くなった。

(う・・・な、何コレ・・・!?)

激しい頭痛にも似た熱が、額に集中する。

 

――――――星水。

 

その単語だけが、記憶の底から出てきた。

存在しないはずの、記憶から。

その一瞬にも満たない躊躇が、ラルヴァの接近を許すには充分すぎる時間だった。

 

 

 

 

 

 

「美奈っ!?」

らしくもない動きで、ヴァナディースが動きを一瞬停止させた瞬間に、裕樹は機体を一直線にラルヴァに向けた。

当然、デルヴィッシュも後を追ってきながら、ライフルを連射してくる。

裕樹の瞳の奥で6つの結晶が収束し、無数の光の粒子と共に弾け、解放(リバレート)した。

 

吸い付くように機体に向かってくるビームを、肩のソニックスラッシャーを回転しながら抜き防ぎ、そのままデルヴィッシュに投げ放った。

一瞬、回避動作の遅れたデルヴィッシュはプラズマブレードでなんとか受け止めるが、その衝撃で吹き飛ぶ。

ラストクルセイダーは続けざまに、もう一つのソニックスラッシャーをラルヴァ向けて投げ放つ。

そのあさっての方向からの攻撃に対処できなかったのか、ラルヴァもエーテル・フィールドを展開し、なんとか防ぐ。その隙にラストクルセイダーはヴァナディースの隣に移動する。

「美奈!!どうしたんだ!?」

「だ、大丈夫・・・ごめん」

正直まだ心配だったが、今はそんな気遣いをできるほど余裕があるわけではない。

「行くぞ美奈!」

「うん!」

こちらへ向かってくる二機に対して、ラストクルセイダーとヴァナディースは同時に「ヴァレスティ・シリンダー」、「ホーリィ・シリンダー」全てを展開し、大量のビームの奔流を浴びせる。このビームの奔流に怯んだ刹那、ラストクルセイダーは常識外れの反射神経とセフィラムの流れを読み取り、今だ放たれ続けている無数のビームの間をかわしながらデルヴィッシュに迫る。

「「「っっ!!??」」」

これには美奈、ジェノス、ヴァイスの三人が驚愕した。

その瞬間には、ラストクルセイダーは「セイクリッドティア」を抜き放ち、刃を振りかざす。

「ぐ・・・っっ!?」

 

「・・・闇へ還れ。ここは、貴様が居ていい世界ではないっっ!!!」

 

振りぬかれた刃はデルヴィッシュを横に両断し、返す刃で上半身の両腕、頭部も斬り刻んだ。

瞬きの瞬間し、ラストクルセイダーはデルヴィッシュを完全に破壊した。

が、間一髪のところでジェノスは脱出していたのか、ポッドをラルヴァが回収する。

「じゃあな、裕樹」

「待て!ヴァイスッッ!!」

言って、裕樹は自分で驚愕した。

何故、この機体のパイロットを知っている?

何故か、顔までイメージできる。

「裕樹!どうしたの!?」

美奈の声で我に返り、即座にラルヴァを追おうとしたが、直後のオールレンジからのシリンダーを感知し、即座に全てをかわしきる。

回収されていくシリンダーを追うと、そこにいたのは、鋭角的でありながら、全身を武装で固めた、見たことのないIG。――――――エンド・オブ・アークだった。

「裕樹、美奈・・・」

「え・・・!?」

「京介!?」

回線をこちらに無理やり割り込んできたあたり、あのIGの高性能ぶりが伺える。

京介は、後ろめたいような、それでいて助けを請うような声だった。

その瞬間に、エンド・オブ・アークは胸部、及び両肩から「メガスティンガー」、「プラズマブラスター」を発射し、「ヴァイオレイター」を構え、こちらに迫る。

裕樹も即座に反応し、「セイクリッドティア」で刃を受け止めた。

「京介!?どうしてお前が、こんなIGにっ!?」

「・・・っっ!!」

「どうして、あんなヤツの言いなりなんかに・・・!?」

SCSで刃を弾き、正面から斬撃を与えるが、「セイクリッドティア」ほどの高出力のサーベルでも、装甲表面に傷をつけるだけだった。

「僕は・・・それでも、僕は・・・っっ!!」

「っっ!?」

「家族を、あの人たちを犠牲になんて、出来ないっっっ!!!」

京介はその場で強制的にエーテル・フィールドを発生させようとしたが、直感めいた裕樹の判断力で、ラストクルセイダーもヴァレスティ・フィールドを発生させ、互いに反発して、吹き飛ぶ。

「裕樹!!」

咄嗟にヴァナディースが後ろから支えてくれたが、その瞬間には、エンド・オブ・アークの姿は消え去っていた。

「京、介・・・」

「・・・裕樹、京介は・・・」

「わかってる、わかってるよ・・・」

美奈の言いたいことはわかる。

けれど、このままでは京介と本気で戦わなければならなくなる。

それだけは、避けたかった。

誰よりも平和を望む、京介のためにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、裕樹たちはタクトたちと合流し、EDENへ援護すべく戻り、本部隊は二方向からの攻撃を受けることになる。

演説の影響で議会派が今やリ・ガウスで孤立しているのが事実になった途端、EDENへ進行していた本部隊も撤退を余儀なくされた。

これにより事実上、作戦名「エンジェル・ディモラライズ」は成功とされた。

だが、裕樹や美奈にしてみれば、謎が深まるばかりで、釈然としない気分だった。

それでも、時代の風は終局へ向けて吹いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の時代の、終わりを告げるかのように。