第三十五章「End of the GALAXY ANGEL」
「行くぞ!!まずは“ザン・ルゥーウェ”への突入路を確保する!!」
裕樹の叫びに答えるように足の速い機体、ラストクルセイダー、ヴァナディース、ウイングバスター・パラディン、アルカナム・ラッキースターが先行する。
ザン・ルゥーウェには肉眼で確認できるほどの強力なリフレクターのようなバリアが展開されている。この遠距離からではクロノ・ブレイク・キャノンを用いても傷一つつけることは出来ないだろう。つまり当初の作戦通り、レジスタンスの特殊装備部隊が内部から要塞を破壊する作戦でいくしかない。
「みんな!エルシオールの防衛を優先しつつ、各自自己判断で頼む!!」
タクトは残るエンジェル隊に指示を与えつつ、急速に先行していった。
『エンジェル隊のみなさん!!』
突如エルシオールの通信回線に達哉からの通信が割り込んできた。
『エルシオールの護衛は我々で行います!紋章機は攻撃部隊に参加してください!!』
「わかったわ達哉。護衛はまかせるわね」
司令席に座る彩は、達哉に頷き返した後、エンジェル隊に連絡を入れる。
確かに、紋章機の戦闘力を考えると、護衛に回すより、攻撃に参加させたほうが何倍も効率がいい。
だが、今のこの大激戦の中、機影を見失わないかが、彩の心配事だった。
ザン・ルゥーウェ内部のカタパルトにて、ジェノスは自分自身で開発した新型IG、ソウルドレイクの発進準備を行っていた。
すでに、ヴァイス、京介は出撃させていた。それぞれ、『まずは紋章機を叩け』と指示してから。
(それにしても・・・京介には悪いことをした)
各部チェックを行いながら、ジェノスは心の中で彼に謝罪した。
いくら彼が軍を抜けたところで、彼の家族に手を出すことなど出来るわけがないのだ。
とどのつまり、彼を利用していたということだ。
(関係のない人間を巻き込んでしまうとはな・・・)
だが、仕方なかった。
そうまでしても、彼等を倒す理由があった。
「天人の持つ聖刻を、人間が宿していていいわけがない・・・!!」
自分に言いかけるように、ジェノスは叫ぶ。
「ジェノス・テラ、ソウルドレイク、発進するぞ!!」
宇宙へと飛び出す漆黒の機体。
それは、終焉を告げる破滅の機体だった。
周囲の敵機を両手に持ったヴァレスティセイバーで切り裂いたところで、裕樹はヴァナディース以外の機体を見失っていることに気づいた。
「裕樹!?タクトさんとミルフィーがいないよ!?」
「ああ、どっかではぐれたみたいだな」
周囲にシリンダーを撒き散らしながら、二機は隣接する。
「どうするの!?」
「・・・仕方ない。今のこの状況だと、探している暇はない!俺たちはこのままザン・ルゥーウェへ向かう!!」
「わかった!!」
両機はシリンダーを収納してから一気に加速、再び要塞へと向かっていった。
「あの機体・・・!?」
周囲のIGを撃破していたランファは、レジスタンスのIG、セイカー、エルドガー、を次々に撃墜していく一機の敵影を発見する。そのIGこそ、京介の駆るエンド・オブ・アークだった。
相手がこちらを認識するよりも早く、アンカークローを打ち出すが、直感めいた反応速度でエーテル・フィールドを展開し、すんでのところで防がれる。
「くっ・・・!やるわね、あの機体!!」
即座に旋回しながら、無数のミサイル、ガトリングを浴びせるが、それを難なく回避、さらにこちらに迫る。
「・・・っっ!!」
「・・・・・・僕は・・・」
エンド・オブ・アークは全身の武装を一気に解放、無数のビームの奔流がカンフーマスターを襲う。
一方、レスターは突如現れたIG、ラルヴァを相手に苦戦を強いられていた。
こちらの放つクレイモア、ホーミングレーザーはまるで磁石が反発でもしているかのように当たらず、逆に相手の攻撃は吸い付くようにこちらを捉えてくる。
「ぐっ・・・!!」
「セフィラムも持たないパイロットが。俺に勝てると思うなよっっ!!」
勢いのままに展開したエーテル・シリンダーが縦横無尽に周囲を飛び交い、こちらに無数のビームを浴びせてくる。
これをレスターはクロノ・プロテクト・フィールドを展開させ、全てのビームを跳ね返した。
「なるほど。装甲だけでなく、バリアまで強力なものをかねそろえているってわけか」
ヴァイスはレーザーサーベルを抜き構え、インペリアル・メガロデュークに迫る。
レスターは充分に引き付けてから、アカシックリライターを放つ。が、ラルヴァは自然すぎるぐらいに不自然な動きでこちらの粒子砲を避け、レーザーサーベルで斬撃を与えてくる。直後、こちらが体制を立て直すより先にプラズマカノン砲を追撃として放ち、なす術もなく直撃する。
だがそれでもこちらの重装甲はまだ持ちこたえる。さすがにこれにはヴァイスも驚きを隠せなかった。
「チィッ!!なんて装甲をしてやがる、あのIGは!!」
だが、それならそれで手段はいくらでもある。
外側が無理なら、中から破壊すればいいことだ。
ラルヴァは近、中距離を意地しつつ、ティアルライフルを連射して周囲を飛び交う。
これが誘いなのだとレスターにも分かったが、今はそれを覆すほどの考えは浮かばない。こちらの火力の高さを信じてレスターは一気に武装を解放し、たたみ掛けた。
両肩のクレイモアを展開しようとした瞬間に、さっきまで回避に徹していたラルヴァは急に突撃をしかける。当然、その先には「ヴァジュラ・クレイモア」が放たれた。
だが、ラルヴァはエーテル・フィールドを展開しながら自らの重装甲を生かしてそのまま特攻してきた。ならばこちらに届くまえに火力で押しつぶそうとレスターは判断したが、すでに展開していた相手のエーテル・シリンダーが幾度となくビームを発射し、こちらの装甲ではなく、展開しているクレイモアの発射口を狙い、直撃された。
「うわあああぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!????????」
当然ながら一気にクレイモアに誘爆し、インペリアル・メガロデュークは自らのクレイモアの爆発に飲み込まれた。
が、今だインペリアル・メガロデュークは健在していた。両肩を完全に破壊され、左の手足も破壊されて、だが。
当然、コックピットの中も無事とはいえず、レスターは腹部に爆発の衝撃で破片が突き刺さっていた。
「これで、トドメ・・・っっ!!」
ラルヴァがこちらに急速に迫る。が、そこを遠方からのレールキャノンがラルヴァを吹き飛ばした。
「クールダラス副司令!!」
こちらを庇うかのように前に躍り出たのは、フォルテのメテオトリガーだった。
「こいつはアタシにまかせな!!アンタはエルシオールへ戻れ!!」
「・・・すまん」
レスターは腹部を庇いながら、ノロノロとエルシオールへと戻っていく。
フォルテはしばらく見送ってからラルヴァに向き直った。すでに光の翼は出現している。
「さぁて、今度はアタシが相手になろうか!!」
「お前ら雑魚がいくらかかってきても・・・」
ラルヴァは再びシリンダーを展開する。
「俺に勝てるものかっっ!!」
「!!」
フォルテは即座に機体を旋回させた。
「ランファさん!?」
周囲の敵機を迎撃していたミントは、エンド・オブ・アークと一対一で戦うカンフーマスターを発見して、反射的に機体をそちらに向ける。
「!?ミント!?」
「正樹さん!ランファさんが・・・危険ですわ!!」
それだけ言って、ミントは機体を急がせた。
あの機体、見るからに重武装、重装甲を兼ねそろえており、いくら強化されたとはいえ、紋章機一機で戦うのはかなり危険だとミントは判断した。
せめて、オールレンジで戦える自分が加勢すれば随分、戦力的に有利になるはずだ。
そう、考えた瞬間だった。
目の前で、信じられないことが起きていた。
「ランファ・・・さん・・・?」
「コイツ・・・ッッ!!なんてしつこいのよ!!」
その僅か三十秒ほど前、ランファは全ての攻撃を防がれ、更になおもこちらに迫るエンド・オブ・アークに向かって、瞬間的にリミッターを解除。「スパイラルドライブ」を発動させた。これならいくらあのIGでもひとたまりもない。しかもこのタイミングなら今から回避しようにも間に合わない。勝利を確信していた。
だが、エンド・オブ・アークは突撃してくるカンフーマスターを正面に捉え、勝負を挑むかのように「メガスティンガー」、「プラズマブラスター」を放ってきた。
「・・・っっ!!上等!!それごとアンタをぶち破ってやるわ!!」
直後、「スパイラルドライブ」で突撃するカンフーマスターと、エンド・オブ・アークの主砲がぶつかり合い、光が一斉に弾けた。
結果からいえば、相打ち。互いのビーム、「スパイラルドライブ」は相殺された。
が、ランファはそれを予測していたのか、吹き飛ばされた不安定な姿勢から「アンカークロー」を発射する。だが、京介とて予測できないわけではない。
エンド・オブ・アークは「ヴァイオレイター」を抜き放ち、カンフーマスターに迫る。
正直、ランファは勝ったと思っていた。
こちらの予想通り、相手は馬鹿正直に突っ込んできたのだから。
だから、丁度回避も出来ないタイミングで「アンカークロー」を打ち出した。
それが、エンド・オブ・アークに直撃するはずだった。
相手が、常識外れな腕前でなければ。
エンド・オブ・アークはその場で回転するように刃を振るい、二つのアンカークローを弾いた。
「えっ!?」
正確には、「アンカークロー」の軌道を見切られたのだ。
アンカークローは弾かれて、引き戻すには時間がかかる。この姿勢からでは、ミサイルやガトリングなどは当たるはずもない。
そんな刹那のランファの考えのうちに、エンド・オブ・アークは肉薄し。
カンフーマスターを、正面から一気に両断した。
直後、爆発するカンフーマスター。
ここは宇宙空間。しかも、あの爆発では、パイロットが助かるはずもなかった。
一人の天使が、この世界から消えた。
「ラ、ランファさん・・・?」
呆然と、ミントは目の前の光景を見つめていた。
今、何が両断されたのだろう。
この、シグナルアウトを告げる単子音は、どの機体のものなのか。
直後、理解したくない結論が、ミントの頭に染み渡った。
「ランファさん!!ランファさんっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!」
いくら叫んでも、いくら通信を呼びかけても、返事は返ってこなかった。
「あ・・・ああ・・・・・・ああ、あ・・・・」
思わず、涙が出てしまいそうだった。
泣きたい。
けれど。
それよりも先に。
泣きたい感情よりも先に。
出てきた感情は、怒りだった。
目の前の、あの機体に対する。
「よくも・・・・・・よくも、ランファさんをっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」
ミントは今までに見ないほどの怒りをあらわにして、目の前のIGに突撃する。
怒りの感情で、テンションが高まるわけではないと、ミントは理解していた。だが。
今は、そんな理屈が通用するわけがない。
「よくもっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!」
一気に13機のフライヤーを展開させ、エンド・オブ・アークに襲い掛かる。
「この、紋章機はっ!?」
京介はいきなりシリンダーのような兵器を展開した紋章機、イセリアル・トリックマスターに驚きつつも、こちらも一斉に「エーテル・シリンダー」を展開し、撃ち防ぐ。
二機は、互いに放たれているオールレンジの攻撃をさけながらも、ミサイル、ビームを互いに放ち続けた。
まさに両者一歩の引かない勝負である。
どちらも、フライヤー、シリンダーを決して収納しない。
そうした瞬間に、敗北すると分かっているから。
「このっっっ!!絶対に、許しませんわっっっっ!!!」
「・・・どうして・・・」
京介は、次々に襲いくるフライヤーのプラズマビームを回避しながら、自分の世界へと陶酔していく。
なんで、こんなことに・・・?
僕はただ、平和に暮らしたいだけなのに。
僕はただ、身近な人の悲しむ顔を見たくないだけなのに。
僕は・・・。
「どうして・・・」
許せない。それを邪魔するやつが。
今、目の前に立ち塞がる、この紋章機が。
「どうして、どうして、どうして、どうして!!どうしてこんなことをするんだっっっ!!!!」
京介の瞳の中で6つの結晶が収束し、無数の光と共に弾け、解放した。
「そんなにオレを怒らせたいのかっっっっ!!!!!!」
怒りと共に京介は、フライヤーを回避しながら真正面にイセリアル・トリックマスターに向かっていく。
当然、ミントはそれを特攻と判断し、フライヤーを一点に自分の正面に集め、エンド・オブ・アーク向かって発射した。
その瞬間、京介はラケルタサーベルである「ヴァイオレイター」を抜き、そして全力で投げつけた。
「っっ!?」
そのトリッキーな攻撃に一瞬対応が遅れる。
フライヤーの大半を破壊されながらも、ミントは急上昇してそのサーベルを回避する。が、
そのミントの正面に、一つのシリンダーが待ち受けていた。
そのシリンダーが光った瞬間、ミントはこう思った。
――――――みなさん、申し訳ありませんわ。
と。
直後、イセリアル・トリックマスターはコックピットを「エーテル・シリンダー」に貫かれ、爆散した。
先ほどと唯一違った点は、それを京介が目撃していた、ということだった。
京介の目の前で、一機の紋章機が撃墜された。
他でもない、自分の手で。
ただ、確かに見えた。
コックピットに座る、あまりにも幼く見えた少女が。
青い髪の少女が、自分の放ったビームに貫かれ、その身が焼かれていくところを。
最後に、悲しそうな顔して、少女の身が一瞬で消えた瞬間を。
「ぼ、僕は・・・?」
思わず、京介は自責の念にかられた。
「僕は・・・あんな、あんな幼い娘を、殺したの・・・?」
そう、自分が、この手で。
「僕が・・・僕が・・・?なん、で・・・」
「っっっっっ!!!!!!!!!!!!!京介―――――――――ッッッッッ!!!!!!!!!」
直後、通信から聞きなれた友人の声が、聞こえた。
「正樹・・・」
救いを求めるように答えたが、相手には聞こえなかったようだ。
「よくも・・・よくも・・・ランファとミントを、殺したなぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
迫り来るグランディウスに、京介はまったく抵抗しなかった。
手元のレバーさえ握らない。
当然だ。
(僕は、とりかえしのつかない事を、してしまったのだから・・・)
自分の感情にまかせて、殺した。
それも、一人はとても幼い少女だった。
本来は、自分が守ってあげるべき年頃の、少女。
それを、自分を見失って、殺してしまった。
もう、どうなってもよかった。
「うおあああああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!!!!!」
ビームを纏った対艦刀、「セイント・ディヴァインセイバー」を構えたグランディウスが突撃してくる。
それよりも先に、コックピットの表面に超高速の光の弾が直撃した。
はるか遠距離でこちらのロックオンしている紋章機、シャープシューター・レイだった。
「ランファ先輩・・・ミント先輩・・・」
ちとせは涙を流しながら、せめて、との感情を込めて、「フェイタル・アロー」を放った。
怒りに身をまかせてはいけない。
そうした感情では、紋章機の調子が下がるだけだ。
このような大激戦だからこそ、みんなの迷惑になることは避けたかった。
けれど。
せめて、ほんの少しだけ。
泣くことは許されてもいいはずだ。
「京介・・・っっっ!!!!これでっっっっ!!!」
大きく振りかぶって、真っ二つにしようと思った。
けれど、
「正樹・・・・・・ごめ、ん・・・」
こんな、助けを請う声が聞こえたものだから。
振り下ろす軌道を変え、下半身を真っ二つにし、返す刃で両手ごと一気に切断した。
爆発しなかった、胸部のコックピット部分が、奇跡的に残った。
これなら、もう京介は苦しまなくていいはずだ。
これで、感情のままに殺してしまっては、以前の裕樹の時の同じだ。
許すつもりはない。
だから、生きて、必ず罪を償わせる。
残骸となったエンド・オブ・アークから、誰かの泣いている声が聞こえた。
すすり泣く声を聞きながら、正樹はグランディウスを戦場に引き返していった。