第三十八章「終焉の命」

 

 

 

 

 

 

エルシオールへ戻る途中、タクトとミルフィーユは直感めいた反応を感知した。

再び、ザン・ルゥーウェに高エネルギーが収束しようとしている。

すでにレジスタンスの突撃部隊がザン・ルゥーウェに突撃してもいい時間なのに、今だに何の確認も取れない。

恐らく、すでに壊滅状態にさせられてしまったのだろう。

「・・・タクトさん?」

機体を停止させたタクトに、ミルフィーユは訝しげに尋ねる。

もっとも、ミルフィーユとて、その意味は充分に理解しているだろう。

「・・・俺、要塞を破壊してくる」

「え!?」

「このままだと、またエルシオールが危なくなる」

「でも・・・どうやって!?」

「要塞の中枢部分にあるコアを一点集中で攻撃すれば、破壊出来るはずだと思う」

言って、タクトは機体ごとアルカナム・ラッキースターに振り返った。

「・・・わかるだろ?ミルフィー。そうすると、どうなるかが」

「・・・・・・」

「だから、ミルフィーはエルシオールへ行ってくれ。――――――ごめん」

それが最後の言葉と言わんばかりに、タクトは機体を返し、要塞へ向け、加速した。

――――――予想外だったのは、アルカナム・ラッキースターがついてきた、ということか。

「ミルフィー!?どうして!!君は・・・!!」

「・・・約束、したじゃないですか」

「えっ・・・?」

「ずっと、傍にいるって」

「・・・・・・・」

「だから、私も行きます。一緒のほうが、火力的にも安心です」

お互い、わかっている。

この状態で、要塞を破壊するというのがどういう意味なのか。

それでも、お互いにそれをわかっていながら、

二人は笑みを交わした。

「・・・わかった。行こう、ミルフィー」

「・・・はい、タクトさん」

二機は、機体を要塞へ向け、加速させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「IG接近!レッド50にコーション!!」

エルシオールにて、ココが接近する新たなIGを発見する。

そのIGはこちらの防衛部隊を一瞬で消し去り、こちらに接近する。

「いけない!!回避ッッ!!急いで!!」

 

「ようやくだ、エルシオール」

ジェノスはソウルドレイクから「ドレイク・シリンダー」を一斉に展開、エルシオールを包み込む。

直後、容赦なく無数のビームを浴びせた。

装甲、というより耐久力の高さでエルシオールは今だ健在しているが、正直この大きさはただのいい的である。現に、「クロノ・ブレイク・キャノン」もしっかりと破壊されている。

「今までお前に苦しめられてきた。・・・今ここで礼をしてやろう・・・っっ!!」

自身もライフルを構えた。

 

 

 

――――――その刹那。

 

 

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

間一髪で反応し、ジェノスが機体を上昇させた直後、神速の速さの斬撃、光の一閃が先ほどまでソウルドレイクのいた空間を切り裂いた。

「・・・!!貴様・・・裕樹!!」

「ジェノスッッッ!!!!今度こそ、お前をっっ!!」

ラストクルセイダーはダブルセイバーである「セイクリッドティア」を構えながらビームレイを発射、一気にソウルドレイクに肉薄する。

「今さら何を望む気だ!!貴様の罪は変わりはせんさ!!」

ラストクルセイダーを無数のシリンダーが包み込み、ソウルドレイクからも対艦ミサイル、「オルガキャノン」といった火器が襲い掛かる。

それをすべて回避、または斬り防ぎながら、こちらに隣接しようとしてきた「ドレイク・シリンダー」を一つ、一瞬で斬り裂いた。

鬼気迫る、といった気迫でソウルドレイクに隣接、相手もダインスレフを抜き、その刃を受け止める。

「それがお前の運命だ!!」

「黙れっっ!!」

「決して許されない、1000年もの生の中、貴様は転生を繰り返し、果てにその記憶を忘れた!!」

「・・・っっ!!!」

「故にその罪と罰、もはや誰にもどうすることもできんさっっ!!」

お互いに弾き飛ばし、ラストクルセイダーは後退と同時に「ソニックスラッシャー」を投げつける。

「貴様もわかるだろう!?1000年もの間、貴様は何を見てきた!!」

「!?」

「誰が貴様を救おうとした!?」

ソニックスラッシャーを撃ち落とし、更に「ドレイク・シリンダー」を発射。ラストクルセイダーがその攻撃を避けている隙に「オルガキャノン」を発射。ラストクルセイダーの右足を撃ち抜き、破壊する。

「何故人を信じる!!人は所詮、自らのことしか考えていない!!」

直後、頭がそれを否定した。

正樹、彩、春菜、タクト、レスター、ミルフィーユ、ランファ、ミント、フォルテ、ヴァニラ、ちとせ。

少なくとも、彼等は違う。

それに、美奈。

美奈は、最後まで自分を救おうとした。

だから、コイツの言っていることは、違うと断言できる。

放たれたシリンダーからのビームをこちらも「ヴァレスティ・シリンダー」を展開し、全てを相殺させる。

「人を信じられないお前がっっっ!!!!!!!!!!

再び激突。互いに出力、スラスターともに全開でせり合う。

「当たり前だ!!所詮人はそういうものだ!!だからこそ!「天人」という存在があるのだろう!!!」

「・・・っっ!?」

そのままの状態で真上からシリンダーが襲いかかり、裕樹はあわてて機体を突き放し、ビームを回避する。

「まだ苦しみたいか!!救いが決して来ないということに、何故気づかない!!」

「そんなことっっ!!」

「そう信じ、そう願い、貴様は一体何回戦い続けてきた!!その度に他者の魂を奪い、罪を重ねてきた貴様が!!」

「ぐっっ・・・!!」

周囲から襲いかかる「ドレイク・シリンダー」を回避しながら、裕樹は「ヴァレスティ・シリンダー」を展開させる。

シリンダー同士の戦いは、向こうを一つ落としたが、こちらは二つ落とされた。

「その聖刻さえその身に宿さなければ、苦しむこともなかっただろうに!!」

 

 

勝手なことを言ってやがる。

自分が聖刻を刻むきっかけ。

それを作ったのは。

他でもない、1000年前のお前とヴァイスではないか!!

 

 

「それでも、お前だけはっっっ!!」

回り込むように「ハイパーベロシティ」を放ち、再び周囲を飛び交う。

その間にも、ザン・ルゥーウェにエネルギーが集中していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラストクルセイダー・・・ウイングバスター・パラディンとアルカナム・ラッキースターは!?」

「ダメです!位置、特定できません!!」

エルシオールでは再度、彩とココの叫びが飛んでいた。

先ほどのIGの攻撃はラストクルセイダーが助けてくれた。

が、今度は敵要塞が危険信号を出している。

このままでは、エルシオールはおろか、残存の部隊までもが危険だ。

「・・・みんな・・・!!」

祈るような気持ちで、彩は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くよ、ミルフィー」

「はい!!」

要塞表面の迎撃装置を破壊し、タクトとミルフィーユは内部への通路の扉を破壊、ザン・ルゥーウェ内部へと突撃していった。

 

 

その二機のさっきまでいた空間に、ラストクルセイダーとソウルドレイクのシリンダーが空間を光の網に包み込んだ。

 

 

「タクトッ!!ミルフィーッ!!――――――ッッッ!!!」

二機の姿を確認し、裕樹は思わずその名を呼ぶ。

直後、その隙さえ逃さずにソウルドレイクのシリンダー、ライフルが火を吹き、左肩のスラスターを破壊される。

「貴様の存在そのものが、世界にとって邪魔でしかないというのに!!!!」

「そんなことっ!!!」

直後、カウンターともいえる速度で「ソニックスラッシャー」を撃ち出す。

瞬速の速さで放たれたビームブーメランはソウルドレイクの左腕を切断した。

「それだけの結果を生み出したのは、重ねてきたのは他でもない貴様だろう!!」

 

 

 

 

 

 

要塞内部へ突入したタクトとミルフィーユはその防衛の少なさ、というより、まったく防衛されていないことに内心驚いていた。

やがて、広場に出る。

そこが、この要塞の中枢、コアだということは即座に理解できた。

「ミルフィー・・・」

「はい・・・タクトさん」

すでに軋む音がするウイングバスター・パラディン。この状態で「フルフラット(全弾発射)」を放ったら、機体がどうなってしまうかは、充分に予想できる。だからって、やめるわけにはいかないが。

ミルフィーユとて、同じだった。

これだけの大きさを誇るコア。それこそ、もう一度必殺技を放たなければならない。

けど、すでに裕樹に注意された回数である、2回はもう放っている。

それ以上は、機体がもたないと、裕樹は言っていた。

だからといって、やめるわけにはいかない。

すでにウイングバスター・パラディンの準備は整っているようだ。すでに全ての武装を構え、発射できる体制に入っている。

だから、後は自分だけだ。

再び、意識を集中する。

H.A.L.Oが精神にまで侵食し、頭が最終警報と言わんばかりに、頭痛を巻き起こした。

それでも、さらに意識を集中する。

ブレイカーが作動するかのように、ミルフィーユの体は、ミルフィーユの意識を閉じようと、作用した。が、ミルフィーユはそれを最後の精神で耐えしのぐ。

ついに、H.A.L.Oの輝きが臨界点に到達した。

アルカナム・ラッキースターの全ての武装が、展開された。

「大丈夫?ミルフィー」

「・・・はい、なんとか・・・」

と、しばらく両者は黙り込む。

ミルフィーユはてっきり発射の合図はタクトがするものだと思っていたので、不思議に思う。

「・・・タクトさん?どうしたんですか?」

「・・・ミルフィー」

なんだか、穏やかな様子で、タクトはミルフィーユに話しかけた。

その意図を理解し、ミルフィーユも同様に返す。

「なんですか?」

「その・・・ありがとう」

「え?」

「ずっと、傍にいてくれて」

「タクトさん・・・」

「だから、ありがとう」

「私も。タクトさんの傍にいれて、嬉しかったです。―――ありがとうございます、タクトさん」

二人は、思わず笑い合った。

そして、お互いをしっかりと見つめる。

「じゃあ、ミルフィー・・・行こうか」

「はい・・・タクトさん」

機体越しだったけど。

それでも、

二人はお互いに触れ合っている意識の中で、

 

 

 

――――――両機の、全ての武装を解放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無数のビームをかわしながら、ソウルドレイクはライフルを向ける。

「世界を巻き込んだ罪人、貴様とてその一人だろうがっっ!!」

モニター上で、ジェノスの髪が青く、瞳が水色へ変わっ――――――戻った。

本来の、彼の髪と瞳の色に。

放たれた「オルガキャノン」はラストクルセイダーの右の後翼を捉え、破壊する。

「・・・そうだ!!けどっっっ!!!!」

破壊され、大きくバランスを崩しながら、ラストクルセイダーは「セイクリッドティア」の両端の刃にそれぞれ「ヴァレスティセイバー」を一瞬で装着、形状を超高出力のダブルセイバー、「エターナルブレード」へ変え、突撃する。

「貴様を許せるわけがないだろうがっっっ!!!!」

裕樹の瞳の奥で、

光の粒子が収束し、

強烈な閃光と共に、

光の亀裂が走った。

「セラフィックフェザー」の輝きが限界まで引き上げられ、眩いばかりの光が発せられる。

裕樹の瞳は、超越者の如く、全てを切り裂かんばかりの鋭く、輝く光を宿していた。

「ぬぅっっ!!??」

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

後退しながらライフルを連射するソウルドレイクに、神速の速度で一気に隣接、体当たりをするように激突。頭部を貫く。

それと同時に、周囲からの「ドレイク・シリンダー」が全ての後翼を撃ち落とし、ソウルドレイクの「ダインスレフ」で胸部を大きく傷つけられる。

そのダメージを無視してラストクルセイダーは相手を蹴り飛ばし、更に肉薄する。

周囲を飛び交うシリンダーをシリンダーで全て相殺。こちらのシリンダーも全て落とされたが、そんなことはどうだっていい。

更に加速。一気に詰め寄る。

「闇へ還れ!!ここは、貴様が居ていい世界ではないっっ!!!」

一つ。

たった一つ。

あそこに、

あの場所へ、

ヤツの、

ソウルドレイクのコックピットへ。

瞬間、更に限界を超えた速度を発揮したラストクルセイダーの「エターナルブレード」が、ソウルドレイクのコックピットに深々と突き刺さった。

「がぁっっ・・・!!――――――・・・裕、樹・・・。それでも、貴様・・・の、罪・・・は・・・・・・」

それ以上、話すことを許さず、ラストクルセイダーは一瞬で刃を振るう。

瞬間、ソウルドレイクを十文字に斬り裂き、ソウルドレイクを4分割、撃墜した。

 

 

 

 

 

直後、タクト、ミルフィーユの攻撃でコアを破壊された機動要塞、ザン・ルゥーウェが形を維持できなくなり、強烈な光と共に、大爆発した。

宇宙を包み込むかのような眩い光と共に。

瞬間的に反応し、ラストクルセイダーは最後のスラスターで急速に移動した。

スラスターが焼ききれた直後、背後からの眩しい光に、裕樹は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その爆発の光。

それを、その場にいた全ての人が唖然と見ていた。

戦いの終わりだと。

そう、告げられたかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「裕樹さん・・・」

ココがふと言った言葉に、彩が顔を上げ、反応した。

「裕樹さん!!」

ブリッジに春菜が駆け込んでくる。

その顔は、表しようのない、泣きそうな顔だった。

「――――――裕樹は!?」

彩の言葉で、ココは即座に手元のコンソールを操作に、必死になってラストクルセイダーの熱源感知を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・裕、樹・・・?裕樹・・・!?」

小惑星に叩きつけられていた、コックピット部分だけのエンド・オブ・アーク。

その中の京介は、先程の光を見て、何故かその名が声に出ていた。

あの光の中に、裕樹がいる。

そんな気がして、ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・・・・」

意識が戻り、目を覚ましたヴァニラは、何故か泣いていた。

自分でも、よくわからない。

何故か、シスター・バレルの声が聞こえた気がした。

 

 

シスター・バレルの魂が、

自分の魂を護ってくれた。

そんな気がした。

 

 

ヴァニラは痛みの走る体に鞭を打って、手元のレバーを握る。

なんとか動くイネイブル・ハーベスターを機動。ゆっくりと、動きだした。

「・・・裕樹、さん・・・」

彼を探さないと。

何故か、そう本能が告げていた。

 

 

 

 

 

数々の機体が空域を漂い、

無数の瓦礫が、機体にぶつかってくる。

これでは人工的なアステロイドベルトのようだ。

それでもヴァニラは、

シスター・バレルに誘われるかのように、イネイブル・ハーベスターを動かしていった。

その先に、裕樹がいると、確信めいた気持ちで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、見つけた。

あの機体、青き聖戦者の姿を。

すでに半分以上がボロボロとなって、

ただ、宙をさまよっているだけだった。

「裕樹、さん・・・。裕樹さん!!」

祈るような気持ちで、ヴァニラは呼びかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声に、裕樹はゆっくりと、それでいて、安堵の気持ちを込めて、目を開けた。

 

 

 

――――――よかった。

――――――何故かは、知らない。

――――――なんの力が働いたか、わからない。

――――――けれど、

――――――ヴァニラは、

――――――彼女の魂は、取り込んでいない。

――――――彼女だけでも、助かってくれて、

――――――本当に、よかった。

 

 

 

そんな気持ちに包まれながら、

裕樹は、返事を返した。

自分の聖刻の犠牲にならなかった、

幼い少女へ向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の戦争における戦い、後にEDEN、リ・ガウスを統一した名称である「パレスティル」から取られた、「パレスティル統一戦争」はこうして幕を閉じた。

EDENの世界の各首議員は、リ・ガウスとの和平、及び共存の協約を交わした。

二つの世界は互いの世界の文明を反映しあい、より高く、それでいて平和な文明を生み出すことを、堅く誓いあった。

もう二度と、このような戦争が起きることがないようにと、心に誓って。

この戦争で、様々な犠牲が出た。

それも、幾度となく皇国を救ってきた英雄までもが、その犠牲となった。

だが、シヴァたちは、その事実を決して公表しなかった。

別に逃げているからではない。

この戦争の当初、一番最初のリ・ガウスからの協力者である青年が、やめて欲しいと頼まれたのだ。

“必ず、取り戻す”と、この言葉を残して。

だから、シヴァたちは彼を信じることにした。

いつか、彼がもう一度、自分たちの前に現れるまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザン・ルゥーウェ戦から、9日。

互いの世界の協約条約も、すでに結ばれている。

そんな中、ヴァニラは静かな気持ちで祈っていた。

ここは、白き月の庭園。それも、本来はシヴァやシャトヤーンでなければ入れないほどの。

その中にある、たった一つの墓石に向かって、ヴァニラは祈っていた。

刻まれた名前は、

 

タクト・マイヤーズ

レスター・クールダラス

ミルフィーユ・桜葉

蘭花・フランボワーズ

ミント・ブラマンシュ

フォルテ・シュトーレン

烏丸ちとせ

水樹美奈

神崎正樹

 

そんな祈りの中、ヴァニラは足音を聞き、目を開けて、やってくる青年を見つめた。

「・・・裕樹さん」

「や、ヴァニラ」

元気なく、裕樹は返事した。

 

 

 

正直、彼の事情はよくわからない。

彼から、彼の全ての事情を教えてもらったが、理解できたのはほんの一握りだけだ。

それでも、理解できたことはちゃんとある。

彼等が死んだのは、裕樹の宿す、天魂の聖刻のせいだと。

自分が、その影響から逃れられたのは、シスター・バレルの魂の守護のおかげなのだと。

そんなところだ。

 

 

 

「俺、探してくるよ」

唐突に、裕樹はそれだけを告げた。

「・・・みなさんを、救う方法をですか・・・?」

わかっていたように、ヴァニラは答えた。

「・・・死んだ人の魂を蘇らせる・・・。そんな方法・・・」

「いや、直接、なにかに頼るんじゃない」

「?」

「・・・俺の聖刻を、応用する」

「聖刻・・・を・・・?」

「ああ。―――“世界と同化することが出来る”この条件があれば、なんとかなる」

思いつめたように言う裕樹に、ヴァニラは思わず心配になる。

「それが・・・罪滅ぼしになる、と・・・?」

「いや・・・こんなんで・・・。――――というより、より罪を重ねるだけさ」

「え・・・?」

「それでも、俺は・・・・・・この世界を、こんなままにはしておけない」

決意を込めた瞳で、空を見上げる裕樹。

「・・・・・・置いていかないで、ください」

そんな裕樹に、ヴァニラはこんな言葉を言っていた。

「・・・・・・」

わかっていた、彼が何かをしようとしていることが。

それに置いていかれるのが、嫌だった。

何より、自分の知らない所で、彼が苦しむのを見たくなかった。

「・・・でも、ヴァニラ・・・」

「・・・お手伝いします。何をするのかは知りません。・・・ですけど、生き残った者として、私も手伝わせてください」

 

 

今まで見ることの無かった、決意に満ちた、ヴァニラの言葉。

その決意を理解してしまったから、

裕樹は断れなかった。

 

 

「・・・わかったよ、ヴァニラ」

「・・・裕樹、さん・・・」

「・・・その行動をする時になったら、必ず声をかけるよ」

「・・・わかりました」

「だから、それまで・・・」

「・・・私は、この墓石を、護ります・・・」

続きをヴァニラが埋めた。

裕樹は思わず苦笑して、ヴァニラを見つめた。

「わかった。・・・じゃあ、行ってくるよ」

「はい・・・お気をつけて・・・」

最後に、こう言葉を交わし、二人は別れた。

ヴァニラは、振り向くことなく、再び祈り始めた。

裕樹は振り返ることなく、歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失われた時を取り戻すため。

必ず、必ずと、堅く心に誓って。

例え、自分がどうなったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

こうやって文章の後にあとがきをするのは初めてです。

別に何かを話すのではなく、ある意味注意書きです。

なんだかこのまま終わってもいい感じの終わりかたですが、まだ終わりません!!

大体、あと3章ぐらいですかね。いわゆる、「なんとかする」話が始まります。

それでは、あと僅かな第一部を、ご期待くださいませ。