プロローグ
その日の陽射しは暖かく、優しいものだった。
このような天気がまさに平和なのだと告げられているようで、今自分の着ている軍服が街中ではひどく不似合いに思えた。
しかし、別に恥じているつもりはない。むしろこの制服には誇りさえ感じる。
この、ムーンエンジェル隊の軍服には。
ふと、ガラスケースに写った自分の姿を見つめる。
そういえば、どうして自分はこの制服を身に着けようと思ったのだろうか。
――――――二つ、あった。
一つは、二年前の大戦をも終わらせた、伝説とも言える皇国の英雄に憧れを抱いたためである。もっとも、その英雄は伝説のエースパイロットとの結婚を期に、退役してしまっていたが。しかも、初期のメンバーは僅か二人しかいない。
もう一つは、力を欲したからだ。
過去に、そう思った。
――――――その過程。自分が正しいと信じた道の果てが、この結果にたどり着いた。
それが、そうして手にした力が大きすぎるものだと、自分でも理解している。
手にした力は、どれだけ奇麗事を言っても、破壊のための力だと。
けど、それでも。
――――――後悔はしないと。
自分で考え、選んだ道が間違いではないと、胸を張って言えるように。
と、ガラスに映る自分のツンツン頭が少し気になり、軽く髪を押さえてみた。が、即座に戻ってしまい、やるせない気分になる。幼馴染がチャームポイントと言うだけのことはある。
今さらなので、気分を切り替え再び歩み出した。
そろそろ自由時間もなくなってきたし、幼馴染であり、同じエンジェル隊の仲間との待ち合わせの時間も迫っていた。
走りだそうと足取りを速めた直後、角からの人の気配に気づけず、思いっきりぶつかってしまう。
「うわっ」
「きゃっ」
なんとか倒れずに体制を立て直したが、ぶつかってしまった少女は尻持ちをついてしまった。あわてて手を差し出す。
「す、すいません。大丈夫ですか?」
「あ、はい」
躊躇いもなく手を握り返してくれたので、引き上げるようにして立ち上がらせる。
後ろの髪を左右に伸ばした、特徴的な髪の少女だった。
「あ・・・」
「・・・?」
不意に、少女の視線が自分の服装を凝視しているのに気づく。
やはり一般の人には軍服は抵抗感があるのだろう。仕方ないといえば、仕方ない。
「あなた・・・軍人さん、なんですか?」
「ええ、まあ」
答えると少女がなんともいえない悲しい顔になっていく。謝ろうにもその理由が分からないのではどうしようもない。
「・・・あ、あの」
少女が何かを言おうとした直後、角の方から男性がやって来た。自分と同じく、ボサボサの黒髪だ。
「おい、みさき?」
「あ、心斗・・・」
心斗と呼ばれた少年も同じように自分を見て一瞬、ギョッとした顔を見せた。
「・・・どうもすみません。何かご迷惑をかけたようで」
「あ、いや、こちらこそ」
その表情の変わりようは見事としか言い様がない。思わずそれに従ってしまう。
「ほら、行くぞみさき」
「う、うん」
手を引かれながら少女は少年について行き、ふと、こちらに振り返って頭を下げた。
自分は、ただ二人を見送るだけだった。
「エークースーっ、どうしたの?」
「・・・ティア」
エクスと呼ばれた少年は、やってきた少女、ティアに向き直った。自分が約束の時間に遅れたので待ちきれずにやってきたのだろう。
いろいろ気になったが、とりあえず遅刻する前に自分たちの艦に戻らなければ。
クールダラス司令を怒らせるなど、酔狂としか思えないからだ。