第二章「混迷への波紋」

 

 

 

 

 

 

「クリスッッ!!」

「でぇぇぇぇいっっ!!」

エクスとクリスは機体を並ばせ、同時にビーム・スラッグ、ビームガンをインペリアル・メガロデュークに放ったが、装甲表面に傷を付ける程度で、決定打にすることすら出来なかった。

エクスは思わず絶望に捉われる。

ここままでは、勝つことはおろか、生き残れるかも怪しくなってくる。ピュアテンダーという絶対的な防御があるとはいえ、このままでは危険である。

『いい加減しつこいんだよ!!お前らっっ!!』

裂帛の叫びと共に、心斗は「ヴァジュラ・クレイモア」を展開し、エクスとクリスは即座に回避行動に入る。

―――直後、空から無数の拡散ビームが降り注いだ。

そのビームは発射しようとしたクレイモアの内部に直撃し、インペリアル・メガロデュークを初めて怯ませた。

「なっ!?」

「えっ!?」

その場の全員が驚く中、現れたのは、白と緑のIG。―――本来、クリスが乗るはずだった機体、カルナヴァーレだった。

「だ、誰、ですか?」

恐る恐るティアが声をかけてみる。そして、返ってきた声に、再び全員が驚いた。

「んなことどうだっていい!!とにかくこいつ等にさっさとオサラバしてもらうぞ!!」

「え・・・」

「ま、正樹さん!?」

「どうして・・・!?」

「・・・!!」

驚く彼らに付き合っている暇はない。

正樹は高分子ブレードと、拡散型のビームショットガンを構えインペリアル・メガロデュークに接近する。

『なんだよ、コイツは!!』

即座にビームライフルを連射するが、カルナヴァーレはまるで攻撃を予測しているかのような動きで、その全てを回避していき、すれ違いざまに斬撃を与え、振り向いた相手に至近距離からビームショットガンを放った。

頭部を狙った攻撃に堪らず怯み、体勢を立て直す心斗。その一瞬の隙すら逃さず、正樹は高分子ブレードを構え、そのまま突撃。機体の中心を突く突撃で、インペリアル・メガロデュークを突き倒す。

『心斗!?』

急に劣勢に追い込まれた心斗を助けるべく、みさきはラピス・シリスを向け、ビームを狙い撃つ。それをスラスターの急上昇で回避と同時に、カルナヴァーレはハンドグレネードを投げつける。

当然、その程度の攻撃は防げるものと、みさきは判断したが、直後にミサイルポッドの追撃。更に目の前にまで迫っていた相手の斬撃は回避のしようがなく、ラピス・シリスも空中で大きく体勢を崩された。

『なんなの、この機体・・・強い!?』

思わず、みさきはそんな言葉を口にしていた。

恐らく、この機体の性能はそこまで凄くはない。先ほどまで相手にしていたあの“ゼノン”というIGとほぼ同じくらいの性能しかない。それに比べたら、自分の乗る“ラピス・シリス”、心斗の乗る“インペリアル・メガロデューク”のほうが相当、性能は上だ。

だが、世界にはそれを凌駕する人物はいくらでもいる。

そう、IGを駆る腕前だけで、ここまでの機体性能の差を埋める人物が。

それが目の前のIGを操作するパイロットなのだと、みさきは思い知った。

 

『心斗!みさき!HLVの準備が出来たわ!!すでに発進してるから飛び移りなさいっっ!!』

その声に反応して、心斗とみさきは一目散に機体を返し、徐々に高度を上げているHLVに飛び移った。

その退避の早さ。まさに逃げ足の速い奴らである。

 

そんな彼らに、正樹は牽制程度にマシンガンを撃つだけであった。

「正樹さん!?何してるんですか!?」

「エクス!逃げられちゃうよ!?」

その見るからにやる気のない攻撃に、先ほどまで正樹の操縦技法に目を奪われていたエクスとティアは、慌ててカルナヴァーレに機体を寄せた。

「どうして逃がすんです!!」

遅れてやってきたクリスが、抗議と言わんばかりの声を上げる。

(確かに、まだまだ新人だ)

正樹は思わずそう思う。

彼らは、今だに自分たちの現状を理解していない。

だから、ここでハッキリと言ってやる。

「勝てると思ってんのか、お前?」

「えっ・・・」

ドスの聞いた重々しい声に、クリスだけでなく、エクス、ティア、セリシアも身を竦ませた。

「あれだけ追い込まれてたくせに、勝機があったのか。って聞いてんだよ」

「え・・・いや、それは・・・・・・」

上手く言葉が出てこないクリスに、正樹はトドメとばかりに声を張り上げた。

「馬鹿野郎っっっ!!!!!!!無意味な見栄や過大評価なんかするんじゃねぇ!!!それがどれだけ危険で、仲間に迷惑をかけるのか自覚しやがれ!!それでもお前等はエンジェル隊かっっ!!!!!!!!!

その、己の力を自覚しない怒りの叫びは、4人の心に大きな衝撃を与えた。

同時に、彼らの気迫がみるみる消失していく。

――――――だから新人なんだよ、お前らは。

正樹はそう、心の中でぼやきつつ、今度は精一杯優しげに声をかけた。

「・・・まぁ、安心しろ。俺たちの作戦は成功だ」

「え・・・?成功?」

訝しげに聞いてくるエクスに、正樹は溢れる笑顔で答えた。

「ああ。後は二人の天使に任せとけ」

その言葉の意味を、エクスたちが理解するのは僅か数秒後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大気圏を抜け、ボロボロになったHLVから、インペリアル・メガロデューク、ラピス・シリス、ヴァラグスは飛び出した。

正直、ここまで来れば大丈夫だと思った。

追っ手は振り切ったし、ここにまで防衛軍は動いてこないだろうと思った。―――思っていた。

 

 

 

 

 

―――目の前に映る、青と紫の紋章機。

皇国最強の天使さえ、待ち構えていなければ。

 

 

 

 

 

「いらっしゃい盗人。あたしらの射程圏内へようこそ」

「たっぷりと歓迎いたしますわ」

全周波で聞こえてきた、二機の紋章機からの声に、心斗たちは背筋が凍りつくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わず戸惑った次の瞬間、二機の紋章機が即座に展開した。

それに合わせるようにこちらも展開しようとした。直後には、メテオトリガーの連装リニアレールキャノンと、無数のフォトン・トーピードがインペリアル・メガロデュークを包み込み、その場から吹き飛ばした。

『えっ!?』

みさきと英樹が思わず驚いた時には、二機の周囲を無数の「フライヤー」が飛び交っていた。

「遅いですわ、お二人とも」

反射に二人はシールドを構えた。瞬間、光の舞が如くのビームが、自分たちを次々に撃ち続けていった。

ビームの舞に包み込まれた二機を援護すべく、心斗は「ヴァジュラ・クレイモア」を吹き飛ばされながらも、メテオトリガーに放つ。

その無数のクレイモアは、即座に機転を利かせたミントのフライヤーが織り成す光の網で、全てを防ぎ切った。

『なぁっ!?』

その行動の早さ、反応、強さに、心斗は思わず舌を巻いた。

――――――これが、前大戦を勝ち抜いた、守護天使の力・・・!!

情け容赦なく、インペリアル・メガロデュークに、ミントは展開している10個のフライヤーの砲口を集中させ、フォルテはメガビームキャノン、連装レーザーキャノンを撃ち込んだ。

凄まじい衝撃がコックピットを伝わり、心斗の体を揺さぶる。

気合を入れておかないと、それだけで気を失いそうだ。

 

 

正直、この時点でミントとフォルテの勝利は確定していた。

―――直後、予想外の因子が混じらなければ。

 

 

瞬間、ミントとフォルテを襲ったのは、超高速で接近しながら艦主砲や副砲を連射してくる戦艦だった。

「えっ!?」

「なっ!?」

その、機体を焼き潰すかのような砲火を慌てて回避する。次の瞬間には、自分たちが吹き飛ばしていたインペリアル・メガロデュークを始めとする三機を、戦艦にあるまじき、飲み込む形で回収。即座に離脱していった。

戦艦のくせに、そこいらの戦闘機以上の速度を出すなど、ふざけた話である。

今から追いかけても、自分たちが孤立するだけで、危険極まりないものだ。

「・・・やられてしまいましたわね」

「まったく、見事な逃げ足だよ」

が、切り替えの早さもこの二人ならではだ。

レスターがあの艦をロックしそこなうなど、まずあり得ない話だ。

すぐに、あの高速戦艦の追跡任務が出されるはずだ。ならば、次はそれに全力を傾ければいい。

ミントとフォルテは、逃げていった高速戦艦の方を見て、エルシオールへと帰艦していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トランスバール軍本部の転送装置で、エルシオールに帰艦したエクスたちは、いきなり発進したエルシオールに思わず驚いた。

「え、発進?こんな、いきなりですか?」

エクスは思わずクレータに聞き返していた。

ミント、フォルテの両先輩が負けるなどあり得ない。強奪犯は倒したはずなのに、何故?

「ええ、そうなのよ。なんだか高速戦艦が現れて、見事に逃げられたみたいなのよ。で、その追跡にあたるって、クールダラス司令が」

恐らく、軍の命令ではなく、白き月の判断で出航させたのだろう。でなければ、ここまで早い判断で出航するなど不可能だ。

「というわけで、パイロットはすぐにブリッジに集合、って司令が言ってたわ。整備は私たちがやっておくから」

「はい。お願いします、クレータ班長」

軽くお辞儀して、エクスはコックピットから飛び降りた。

 

 

 

その後、ティア、クリス、セリシアとすぐに合流し、一緒にブリッジに行くことにした。

「なんか・・・疲れたね」

思わずぼやかれたティアの言葉に、見るからに疲れが顔に出ているクリスが答える。

「うん、思った以上に・・・。セリシアは?」

「わ、私も・・・疲れた、かな?」

「いや、俺に聞かれても・・・」

相変わらず、一番端に並びながらもクリスにせり寄って答えるセリシア。

セリシアの対人恐怖症ともいえる性格も、この面子なら幾分マシなようで、さほど怯えてはいない。

と、まったく会話に参加していないエクスは、途端に足を止める。

合わせるように足を止め、その視線の先には――――――

―――カルナヴァーレから降りてくる、正樹の姿があった。

 

 

 

「お疲れさま。久しぶりだったけど、ヘマしなかった?」

「おう。まだ体が反応してくれてた」

彩の労いの言葉を受けながら、正樹は大きく伸びをした。

やはり久しぶりのIGの操作は、多少なりとも緊張してしまったのだろう。

と、そこまでしてから、正樹は今の状況に気づいた。

「おい、なんでエルシオールは出航してんだ?」

「強奪犯の追跡らしいわね。なんか高速艦に見事に逃げられたんだって」

サバサバしている彩の性格には慣れている。が、さすがにサバサバしすぎだ。

「どうなるんだよ俺たち!?なんで俺たちを乗せたまま発進してんだよエルシオールは!?」

「しょうがないんじゃない?追跡だったらそんな暇ないし」

もっともすぎる意見である。

ともかく、レスターに話をしに行こうと決めた直後、正樹は新人の4人に気づいた。

 

 

 

なんとも気まずい空気が流れ・・・・・・るかと思った。が、

「よう、お疲れさん」

「お疲れ様。初陣がこんなのって大変ね」

なんとも軽すぎる二人の空気に、多少は身構えていた4人は一気に脱力した。

エクスたちからすれば、先ほどの戦闘のことが後ろ髪を引かれているようで話すのも気まずかったのだが。

だがそんなことなどお構いなしなのがこの正樹という人物である。何気に頼りにされやすいところもこんな性格からきている。

「ん、どうした?」

「あ、いえ・・・その・・・」

なし崩し的にエクスが話しているが、正樹もようやくその意図を理解できた。

「ああ。さっきは悪かったな、偉そうなこと言って」

「―――――!」

「いえ、そんな・・・。俺たちのほうが馬鹿だったんですから・・・」

「それでも、俺は民間人で、お前等は軍人だ。んなこと気にすることなんてねぇんだよ」

エクスは、正直自分でも以外なほどにこの神崎正樹という人物に興味をそそられた。

あれだけの腕前を持っていながら、決してそれを自慢することなく、その力を必要な時に使い、何かを守る。

まさに、エクスが望んだ、力の象徴でもあるかのように。

破壊の力を、自らの意志で昇華させた、まさに自分にとっての理想の姿。

それが、今のエクスの目に映る、正樹の姿だった。

「そうですよ、その気になればみんなで正樹を法的にとっちめることだって出来るんですよ」

彩の空恐ろしいセリフに、その場の空気が何度か下がった。

「そ、そんなことしません!!」

「そう・・・です!!」

ティアとセリシアがその長い髪を左右に揺らしながら全力で否定する。

仮にも前大戦を終結させた英雄をとっちめるなど、むしろ面白すぎる。

「さて、それじゃあみんなでブリッジにいきましょうか。クールダラス司令に話を聞かないと」

正樹の絶対零度の視線を根性で無視しながら、彩はみんなをまとめ、ブリッジへ向かう。

「あの、正樹さん」

「ん?・・・エクス、だったな。なんだ?」

ブリッジへ向かう途中、エクスは恐る恐る正樹に声をかける。

その、全然緊張していない正樹の態度に、エクスも少しは緊張感が緩むのを感じる。

「その・・・ありがとうございました。助けてもらって」

「ああ、別に気にすんな」

一言の元に続くと思われた会話が終了される。

エクスは、思わず何かしてしまったのでは、と思った。が、エクスの思う理由など、正樹は思いもしなかった。

単に、本当に気にしてないだけなのだ。別に礼を言われることなどない、ということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白い逃げ方ですね」

「笑えるな、こりゃ」

ブリッジに着いて、インペリアル・メガロデュークに逃げられた映像を見て、彩と正樹が出した感想がこれだった。

なんというか、本当に食って帰った。というのが最も表現としては正しい。

艦が高速で接近、そして大口を開けるかのように上部デッキを展開して、口の中に三機を放り込む形で閉じ、一目散に離脱した。

テレビ番組などで放映すれば、確実にバラエティ番組に放映されるほどの映像だ。

だが、さすがに緊張感に包まれるブリッジで馬鹿笑いはしないが。

「話を進めるぞ。つまり、あの強奪犯の組織だが・・・」

「リ・ガウスの連中だろ」

レスターの続きを正樹が即座に補完した。

さすがのレスターも思わずギョッとしている。

「正樹・・・何故わかった?」

「何故って、あの戦艦。・・・ええと・・・」

「エルシオー()よ。リ・ガウスが前大戦のエルシオールの戦果に敬意の意を込めて、新たに完成させた高速戦艦。・・・ですよね?」

最後はレスターに確認の意を込めて問いかける。

「・・・ああ、その通りだ」

「それで、白き月はどういう対応をしたんだい?」

ハッキリとはわからないが、フォルテはどことなく不機嫌なような気がする。逃げられたことがやはり少しは悔しいと見た。

ミントはミントで、どこか、ツンとした態度である。

負けず嫌いな二人だと、正樹は再認識した。

「即座にリ・ガウスに連絡をとった。そしたら、リ・ガウスでも同じようなことが起きているらしい」

「どういう、ことですの?」

「―――リ・ガウス内でも強奪事件が多発しているらしく、先日、その組織から声明が発表された。・・・この強奪犯の組織は、“プレリュード”と呼ばれるそうだ」

「プレリュード?・・・序曲?」

その名の真意が掴めず、エクスたちも顔をしかめる。

「このプレリュードという組織は、リ・ガウス内でEDENの世界と協和条約を結ばない国々で構成されたらしく、リ・ガウス軍でもどうにも出来ない独立軍として機能している。―――ので、リ・ガウス内もプレリュードの行動を抑制するのに手一杯らしく、申し訳ないがEDENでの問題は、そちらで対処してもらいたい、とのことだ」

「無責任極まりないですわね」

ミントの毒舌も今回だけは認めてしまう。まぁ、仕方なしの事情なのだから、仕方がないのだが。

「で、追跡任務が出たわけだ」

「ああ。事情が事情だけに、ランファもリ・ガウスから呼び戻す。こちらが追跡しながらの合流だから、数日はかかるだろう」

「姉ちゃんが・・・戻ってくる」

レスターの告げた報告に、クリスがポツリと言った。

特別喜んでいるわけでもなく、怯えているわけでもない。純粋に、再会できるのが嬉しいのだろう。

確かに、ランファは弟や妹たちを大事にするよき姉だと聞いている。クリスも、そんなランファの愛情を受けてきたと見える。

「ランファかい。そういや随分会ってないねぇ」

「クールダラス司令、ちとせさんは?」

ランファが戻ってくるということで喜ぶフォルテだが、反射的にミントはちとせについて問いかける。

「ちとせは・・・今行方がわからない。どこか辺境辺りの任務についている、とのことだが」

ミント自身、多分そうだとわかっていた。

ちとせは、昨年に白き月直属の特殊部隊として設立された「パラディン」となっている。白き月以外の軍の命令系統に縛られない独立特殊部隊。ちとせは、一番最初の「パラディン」なのだ。

元々、「パラディン」はシャトヤーンの考えで、今は軍から離れている人物がいつでも帰って来られるように作った組織である。ちとせは、その特別階級を生かして、今でも彼等を探している。

「・・・そう、ですか」

無理に来てもらう、とは言えず、ミントは押し黙った。

本当は、今でも裕樹とヴァニラを探しているちとせが、少しだけ羨ましかった。

「・・・それでだ、正樹、彩」

一通り説明し終え、レスターは二人に向き直った。

正樹も彩も、レスターが次に何を言うか、おおよその予想はついているのだが。

「ランファが戻ってくるとはいえ、今のエンジェル隊はあまりに戦力不足だ。クロノ・ブレイク・キャノンも頻繁に使えるものではない」

「ミントとフォルテだけで充分、対処出来てたと思うけどな」

「三機相手ならな。だが大軍相手ではどうだ」

ここまできて、ようやくミントとフォルテもレスターが何を言いたいのかが、わかってきた。

「クールダラス司令、まさか・・・」

「二人を・・・?」

続きは言わず、レスターは二つのエンブレムを差し出した。

エンジェル隊のエンブレムに似ている、翼と盾のエンブレム。

それは、「パラディン」の紋章だった。

「強制はできんが・・・すでにシャトヤーン様やシヴァ陛下、ルフト将軍の許可も下りている。正樹、彩、「パラディン」として、我々に力を貸してくれないか?」

これが、「パラディン」の真の意味だった。戻ってきても軍属ではなく、ほぼ自由に行動できるための特別階級。

だが、二人はすぐには頷かず、最後の確認をした。

「レスター、一つ聞きたいことがある」

「なんだ?」

「お給金は、出ますか?」

真剣な顔でそんなことを尋ねてくる二人に、レスターは少し戸惑いながらもきっちり返答する。

「ああ、当然出るぞ」

「「・・・・・・いくら?」」

二人の声が綺麗に重なる。

正樹たちにとって、これこそが一番大事な要素なのだ。

が、「パラディン」ではないレスターにはまったくわからない話だった。が、それでも想像上での計算をしてみた。

「むう・・・・・・決まった階級はないが、その権限を使えば大佐、もしくは准将クラスの発言力を持つらしいからな。――――――となると・・・」

レスターは正樹と彩にひっそりと、予想額を言ってみた。

「OK、即効でパラディンになろう」

「ええ、喜んでなりますね」

即答で答える正樹と彩。心なしか、顔が喜びで高揚しているように見える。

(ねえエクス)

(なんだよ)

耳元でささやくティアに、エクスも付き合う。

(そういえば、正樹さんと彩さん。生活が楽じゃないって言ってたよね)

(一体、どれだけの額を言われたんだろう・・・)

疑問を浮かべる二人をよそに、正樹と彩は「パラディン」のエンブレムを胸につけた。

こうして、正樹と彩は再びエルシオールの乗組員になり、続けて“プレリュード”の戦艦、「エルシオーネ」の追跡任務が開始されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唯一の失敗は、正樹と彩が先約の輸送業の仕事を忘れていたということであった。