第五章「ランファ、帰艦」

 

 

 

 

 

 

「あ、見えてきた見えてきた」

赤い装甲色を持つ紋章機に乗る彼女は、懐かしい古巣である艦を見つけ、少し嬉しくなっていた。

焦る気持ちで通信回線を開く。―――何故か、二回も失敗してしまった。

待ち遠しい。通信が繋がるのが。

はやく、と急かす気持ちを深呼吸して落ち着かせる。

やがて、通信回線が繋がり、自分の存在をエルシオールに伝える。

「こちら、機体コードGA−012、カンフーマスター。エルシオール、着艦許可願います」

数秒も待たずに、聞きなれたオペレーターの声が聞こえてきた。

「確認しました。着艦を許可します。――――――お帰りなさい、ランファさん」

「ただいま、アルモ」

笑顔で答えてから、ランファは機体をエルシオールへ寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫はかなり、とまでは行かないが、それなりの賑わいを見せていた。

ランファが帰ってくる。それは唐突に告げられた事だった。

ランファがエルシオールを離れて、リ・ガウスの親善大使になってもう1年半は経っている。それだけの期間、彼女はいなかったのだから、ミントとフォルテは再会することが楽しみで仕方なかった。

そして同様に、クリスも姉と会えるのが楽しみでならなかった。

エンジェル隊に入隊したことはメールで伝えたが、その姿を直接見せたわけではない。

だから、早く逢いたかった。

その場の全員が待ち焦がれていると、カンフーマスターがアームで固定され、コックピットから飛び出すように、彼女が降りてきた。

「みんな!久しぶり〜っ!!」

大きく手を振りながら、こちらに歩いてくる。それに合わせて、ミントたちもランファに駆け寄った。

「ランファさん、お久しぶりですわ」

「久しぶりだねぇランファ。元気にしてたかい?」

「ええ、ミントもフォルテさんも、お元気そうで」

互いに笑顔を交わしながら、三人は再会を喜んだ。

「そういえば、ク・・・―――」

言いかけて、ランファはこちらに歩いてくる弟に気がついた。

クリスはどこか恥ずかしそうに、それでいて、嬉しそうな顔をしていた。

「・・・久しぶり、姉ちゃん」

「なーに照れてんのよっ」

感動の再会をコブラツイストで始めた恐るべき姉。

だがそれも予想していたのか、大して焦らない弟。

フランボワーズ家の様子が伺えるようである。

「でも、ホントに懐かしいわね〜。アンタが軍に入る、なんて聞いたときはそりゃあ驚いたわ」

「まあ、ね」

さすがに本人を前に、憧れたから、とは言えず、クリスは言葉を濁した。

ランファも、それを照れ隠しと受け取ってくれ、助かった。

「―――ん?クリス、後ろにいるのが、同期の仲間?」

「ああ、うん。髪長いのがセリシア。ポニーテールがティア。で、ツンツン頭がエクス。みんないい人だよ」

締めくくりが良いせいか、ツンツン頭について、エクスは何も反論しなかった。

「そう。―――けど挨拶はまた後でね。とりあえずブリッジに行かないと」

「お、ランファ、ブリッジに行くのか?俺も用あるから一緒に行くか?」

普通に話しかける正樹に、ランファも普通に対応する。

「そうね、なら行くわよ正樹」

「おう。彩、後頼むな」

「はいはい」

正樹は残る整備は彩に任せ、ランファはクリスと別れて、共にブリッジを目指す。

去り際に、ランファはミントとお茶する約束をして、格納庫を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・って、なんで正樹がいるのよ!?」

「遅っ」

数分、一緒に歩いて、ようやく違和感に気づいた。

あまりにも馴染んでるものだから、全然気がつかなかった。

「何?どうしてエルシオールにいるわけ?」

「白き月に輸送物を運んだら、巻き込まれた」

「・・・で?今はソレなわけ?」

思わず、正樹の胸に付けられているエンブレムに目が行く。

これは、紛れもなく「パラディン」の証である。

「おー。協力してもらうのに必要な措置だって話」

「ふーん」

まぁ、大して不思議ではない。

全ての能力においてはどうかは知らないが、正樹のIG操作の腕前は一流だ。それは間違いない。

というか、正樹自身、あまり「パラディン」だという自覚はなさそうだ。

顔に締まりがなく、二年前と同じだ。

「正樹、アンタ・・・なんか変わった?」

「さぁ?別に変わってないんじゃねぇの?」

まじまじと見つめた視線をいとも容易く流される。ま、子どもじゃないのだから、そうそう変わるものではない。

「ランファは変わったよな」

「え、そう?どこが?」

ちょっと期待して聞き直した。

――――――期待を通り越した。

「綺麗になったな。うん」

「え・・・――――――えっ!?」

思わず赤面する。

自分でもわかる。顔が熱い。

不意打ちを受けたみたいに、思わず体が固まった。

「い、いきなり何言ってるのよっっ!?」

「何って、そう思ったから言ったんだが」

本心だ。本当に思ったから、彼は口にした。

だからだろうか、やけに嬉しい。

顔がますます赤くなっていく。

「なんだ?照れてんのか?」

「ち、違っっ・・・!!」

熱があるのか?みたいな回りくどい言い方をしないぐらい、馬鹿正直だ。

駄目だ。必死にしかめっ面をしているが、内心は顔が喜んでしまいそうで堪らない。

どうしよう。

このままでは、あまりに情けない。

けど、本当に本心からの言葉なのだから、嬉しい。

ここ二年近く、やるべきことに忙しくて、そういう雰囲気になることもなかったのだから。

「ランファって今21だっけ。胸とかまだ成長してんだなぁ」

瞬間、顔の温度が一気に絶対零度まで転落した。

そして刹那のうちに後頭部狙って回し蹴りを放つ。が、正樹はそれを軽々とかわす。

「バカァッッ!!!」

「なはは、冗談冗談」

思わず胸元を両腕で隠す。

キッ、と正樹を睨みつけるが、正樹は今だ笑っている。

その笑みがあまりに楽しそうで、怒りが収まってしまう。

「―――フンッ」

とりあえず、不機嫌なのよ、と意志表示をしておく。

―――といっても、再び徐々に赤らんできた顔を見せないように、そっぽを向いただけなのだが。

「だから、悪かったって。ランファ」

それに気づかないか、気づかないフリをしているのかはわからないが、正樹はそこそこ真剣に謝ってきた。

果たして自分がからかっているのか、からかわれているのか、よくわからなかった。

 

 

 

 

 

――――――当然、今のは正樹なりに、ランファも照れを無くしてあげたのだが。

      ランファがそれに気づくことは、なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ともかく、よく戻ってきたな」

ブリッジでレスターがランファに労いの言葉をかける。ランファも気楽に返事していた。

さて、帰艦を祝うのはいいが、そろそろ呼ばれた理由を教えてもらいたい。

そう思っていると、レスターがそれに気づいた。

「ああ、すまんな正樹。待たせた」

「いや、別にいいけどな。―――で、話って?」

気にしてないのは事実だが、話を聞きたいのも事実だ。

まぁ、おおよそ何を話すかは予想がついているのだが。

「ようやくだが、プレリュード軍の高速戦艦、“エルシオーネ”に追いついた」

「ふむ。で?」

「どうやら小型だが基地に停泊しているらしい。―――よって、これを襲撃。撃破するのが今度の作戦だ」

「・・・インペリアル・メガロデュークを取り返す。ってのはないのか?」

正直、そこが気になる。

あのIGはレスターの機体だったのだ。多少なりとも、愛着みたいなのは湧かないものだろうか。

「・・・恐らく、それは無理だろう。無茶な作戦をさせて、エンジェル隊を危険に晒すわけにもいくまい。―――なら、仕方ないさ」

ある種の諦めの表情が伺える。

任務のために私情を切り捨てる。確かに彼は、本物の軍人だ。

けれど、彼は彼なりにあのIGを気に入っていたのがわかり、満足である。

なら、せめて彼の期待に応えてやろう。

「で、作戦はどうするつもりなんだ?」

「許可は下りている。クロノ・ブレイク・キャノンで終わらせるつもりだ」

「・・・ま、確実だな」

むやみやたらと攻め込まず、クロノ・ブレイク・キャノンで一撃粉砕。味方の被害も少なく、実に実用的だ。

強力すぎる力に、若干の躊躇いもあるが。

―――ちなみに、ランファは先程から一言も喋ってないが、それはアルモやココと雑談を楽しんでいるからである。

後で聞いてくるのがみえみえだ。だから、とりあえず自分がしっかり聞いているのである。

「つまり、俺たちはエルシオールの護衛をしてればいいのか?」

「牽制程度に、何機かは攻め込んで欲しい。―――頼めるか?」

「ああ、当然だろ」

二つ返事で答える。レスターもそれに満足そうに頷いた。

「作戦の開始は明日になる。それまでに調整を整えるよう頼む」

「わかった。――――――おーい、帰るぞランファ」

言われてこちらに振り返る。軽くアルモとココに挨拶をかわして、ランファは戻ってきた。

「じゃあ、そういうことで」

「ああ、すまんが頼む」

当然のようにこちらを信頼している言葉が、やけに嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・とまあ、そういうわけだ」

案の定、ランファは何を話していたのか聞いてきたので、そのまま教えてやる。

当然、表情が少し暗くなる。

「なんだ、やっぱり反対か?クロノ・ブレイク・キャノンを使うのに」

「え、と・・・―――・・・まぁ、そんなところね」

少し考えてから、返事が返ってくる。

「ま、こちらの被害を考えるなら、一番いい手なんだけどな」

「わかってるわよ、そんなこと」

どこか不機嫌な様子である。

このまま別れてしまえばいいのに、正樹はそれが少し躊躇われた。

先程のランファと会話なのだが、本当にそう感じたのだ。

ランファが綺麗になった、と。

無駄な肉のない、引き締まった体。それでいて綺麗な肌をしている腕や足。

女性の香りが漂う、サラサラしたロングヘアー。

正直、目のやり場に困るほど、ランファは美人である。

それこそ、女性の中では最高クラスの美しさを持っていると思う。

それに、落ち着いて見れば、エンジェル隊の中でも一番女性らしい。

失礼な話だが、ミントとヴァニラに女性らしい美しさは、あまりない。どちらかといえば、少女としての可憐さである。

ミルフィーユはどこか幼いところがあるし、ちとせも同じだ。

フォルテはまさに大人の女性だが、どちらかといえば、頼りになる姉御である。(本人には口が裂けても言えないが)

新人二人のティアとセリシアも、まだ少女、といったところだ。

そう考えると、ランファが一番女性らしいのでは、と思ってしまう。

気が強くて思い込みが激しく、一直線なところも、それはそれで魅力的である。

「・・・・・・」

何より正樹には、そのコロコロ変わる表情が、可愛くて、綺麗だと感じているのだ。

「・・・・・・何よ正樹。人のことジロジロ見て」

「・・・別に。なんでもねぇよ」

適当に答えて、ランファはぶっきらぼうな顔になる。

――――――そんな顔も、綺麗だと思ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりのエルシオールのティーラウンジ。

ランファはミント、フォルテとお茶を楽しんでいた。

相変わらず、ここの紅茶は美味しいし、二人との会話も久しぶりで楽しい。

けど、何故だろうか。

なんでか、ミントの視線がいやらしく感じる。

「・・・ねぇミント」

思わず、聞いてしまった。

そんな視線を向け続けるなど、どういうつもりなのか、と。

「はい?なんですの?」

「・・・なんなのよ、その視線は」

「・・・言ってもよろしいのですか?」

その顔の憎たらしいこと。小悪魔的という表現が一番似合っている。

と同時に、理解した。

ミントは、今自分の考えていたことを読んだのだ。

「あっ、アンタねぇ・・・!!」

「何の話だい?二人で盛り上がって」

不思議そうに聞いてくるフォルテ。

言えない。口が裂けても言えない。

さっきの正樹の言葉が、自然と頭の中で繰り返されていたなど。

「あらあら、ランファさん。帰ってきてそうそう、お気が早いのですね」

ホホホホ、という優雅な笑みが、この上なく憎たらしい。

―――確かに、あれから正樹の言葉が頭の中に繰り返しリピートされていたりする。

   ミントの言葉を、否定出来ない。

思わず、ランファは理不尽な怒りを叫んでいた。

「あぁーもうっ!!これもみんな正樹が悪いのよっっ!!!」

首を傾げるフォルテに、腹を抱えながら笑うミント。

こんな風景も、懐かしいといえば、懐かしいのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いろいろあったが、とりあえず整備もあるし、クリスとの約束もあるので、ランファは格納庫へ足を運んでいた。

「――――――あ」

そういえば、忘れていた。

カンフーマスターに繋いできたコンテナの中身。レスターにはすでに報告してあるが、整備班の人たちにはまったく伝えてない。―――らしくもないミスだ。

だから、多分そのせいなのだろう。

格納庫がやけに騒がしいのは。

 

 

 

「なんだろ・・・この機体」

「見たことない機体だね」

コンテナの中から出てきた見覚えのないIGに、セリシアとティアは興味津々といった感じだ。

「新しい機体なのか?」

エクスが薄緑色の機体を見上げながら言った。背中の巨大なスラスターがやけに目につく。

「多分・・・。けど、一体誰が乗るんだろう?」

「アンタよ、クリス」

言われて、クリスは振り返る。そこには約束通り、来てくれた姉の姿があった。

「姉ちゃん」

「―――と、待ってください。ランファさん、このIG・・・クリスさんの機体なんですか?」

間に入ってくるクレータ。彼女とも久しぶりなのだが、挨拶より先に説明したほうが良さそうだ。

――――――顔が、この上なく興味津々だから。

「ええ。EDENの世界に帰ってきて一度白き月に寄ったのよ。そしたら、新型の量産機が先行ロールアウトされたらしくって、それでテスト的な意味合いを持たせるためにクリスに届けてくれって」

「新型・・・俺に?」

「ええ。機体コード、GYT−200“ゼン”よ」

「ゼン・・・」

新型の機体を呟いて、どこか感動した様子のクリスである。

無理もない。わざわざ軍が一人のパイロットを指定して機体を渡すということは、それだけ期待されているということの裏返しなのだから。

が、そんな浮かれ気味の弟にしっかりと釘を刺しておく。

「その分、起動後のデータ処理とバックアップは倍になるからね」

「えぇー!?」

「当たり前でしょ。テスト機みたいなものなんだから、データはそのまま軍の開発部に直行よ。しっかりしなさいよ」

姉の言葉で一気に落胆するクリス。

それ以上は追い討ちをかけず、ランファはクリスに歩みよった。

「で、クリス?そろそろ紹介してくれない?」

「あ、うん。えと・・・―――」

クリスが視線を向けると、その新人仲間であろう三人がこちらに寄ってきた。

どこか緊張した顔をしているので、まずは自分からだ。

「クリスの姉をやってる、ランファ・フランボワーズよ。ランファでいいわ。よろしくね」

フレンドリーを意識して挨拶したせいか、三人の顔から緊張の色が消えた。

「エクス・ソレーバー少尉です。ゼノンのパイロットをしてます。よろしくお願いします、ランファさん」

ツンツン頭が目につく、真面目そうな少年だ。同年代のクリスとは仲がいいのだろう。

「ティア・ブレンハート少尉です。改装した7番機、インヴォーカーのパイロットやってます!よろしくお願いしますね!ランファ先輩!!」

ポニーテールをした、かなり元気な少女。その明るさはミルフィーユにも引けをとらないほどだ。

「――――――・・・え、と。その・・・」

最後の髪の長い少女は、何故かオドオドした様子で、一向に話し出さない。

不思議に思っていたが、クリスが助け舟を出した。

「ほらセリシア、頑張れ」

「う、うん。頑張る・・・」

気合を入れなおされ、こちらに向き直った。

「ピュ、ピュアテンダーのパイロットをしてます、セリシア・フォームです。・・・よ、よろしく、お願いします・・・」

最後の方は消えてしまいそうな声だったが、なんとか聞き届けた。

「ん、よろしくね、みんな」

さて、疑問点いち。

「ちょっとクリス」

手招きして弟を呼ぶ。

「?なんだよ姉ちゃん」

「アンタ、あのセリシアって娘と仲いいわね」

「え―――」

言われて急に真っ赤になるクリス。うーん、なんとも正直だ。

「ふーん、アンタってああいう娘が好みなんだ。へぇ〜・・・」

「――――――っっ!!」

表情だけで必死で抗議するクリスを置いといて、振り返り、セリシアを見てみる。

彼女は不思議そうに首を傾げながらも、クリスのことが気になってしょうがない感じだ。

「ま、頑張りなさい。―――泣かせるようなことだけはするんじゃないわよ」

「―――言われなくたって」

その顔が、随分真剣に見えた。

「そ、じゃあね」

だから、これ以上関わらず、自分の機体へ向かった。

クリスはどこか不思議そうに思いながらも、みんなのところへ戻っていった。

(・・・にしても、マズイわね)

ランファは一人、真剣に思う。

(このままだと、弟にまで先を越されちゃうかも・・・)

それはそれで弟を祝福してあげたいが、なんだかそれは悲しすぎる。

まあ、こればっかりは悩んでいても仕方が無い。

機会があれば、誰かとそういう関係になれるに違いない。

ランファはそう信じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プレリュード軍、中継基地において心斗たちが強奪してきたIG、インペリアル・メガロデュークは解析の真っ最中だった。

だが、正直解析する意図がわからない。

IG自体は充分に作れる技術を持っているのだから。

と、隣で解析作業を見ていたみさきも同じことを思ったのか、目が合った。

「心斗。なんでわざわざ解析してるの?」

「知るかよ俺が。英樹にでも聞いてくれ」

「教えたげよっか?」

いきなり後ろから声をかけられ、少し驚く。

そこにはエルシオーネ艦長である、英樹の姿があった。

「・・・丁度いい。教えてくれよ」

「いいわよ。――――――プレリュードはね、人型を超えたIGである、AGを作ろうとしているのよ」

「A、G?」

「ええ、“アーセナル・ギア”。人型という形に拘らず、絶対的な火力を搭載。様々な局地に対応できる機体のことを言うのよ」

パッと想像できるものではなかったが、とにかく凄いものだとはわかった。

が、ならばなおさら気になる。

「それで、どうしてインペリアル・メガロデュークが必要なんだよ」

「あのIGはね、あのサイズには想像も出来ないほどの重武装、重装甲、大火力を保持してるのよ。―――まさに、AG開発にとってうってつけのデータだわ」

「・・・なるほどね」

確かに、あのIGの武装と火力は群を抜いている。

それは、操作した心斗が一番わかっていることだ。

「それさえ出来れば、トランスバールの紋章機にも負けはしなさそうだな」

「ええ。―――そうすれば・・・見捨てられた戦士の居場所を取り戻せるわ。きっと・・・」

遠い目で英樹は呟き、心斗もそれに同意した。

けれど、みさきだけは、すぐに同意できなかった。

ただ、なぜか最近とても気になる。

頭に、彼の名前がずっと反映されっぱなしだ。

――――――タクト・マイヤーズ

振り払うように、みさきは頭を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――見えました!あれです!」

ココの報告に、レスターが食いつくようにモニターを見つめる。

その遠距離に映るのは、隠れるようにして作られている中継基地。プレリュードの基地の一つに違いない。

「ようやくか・・・とうとう追いついたぞ」

狙っていた獲物を狩るかのようなレスターの言葉。けれど、不思議と恐怖はない。むしろ、ブリッジにもそのやる気が伝わってくるようだ。

「よし、襲撃を開始する!!紋章機、IGを全て発進後、クロノ・ブレイク・キャノンのチャージを開始しろ!!」

「了解!これより作戦を開始します!!」

レスターの指示に、ブリッジ中が動き、流れるようにエルシオールが機能していく。

前は、こちらが襲われた。

だから、今度はこちらが襲う番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全紋章機、下部展開デッキへ。―――アーム固定、完了。展開位置クリア』

アルモの声が格納庫に響く。その中で、各パイロットは発進準備を整えていた。

『ゼノン、カルナヴァーレを第一、第二カタパルトへ。ゼノンに続いて、ゼンを発進させます』

カタパルトへ運ばれながら、正樹は全機に通信回線を開いた。

「みんな、ちょっといいか」

「なんだい正樹?」

「確認するだけだ。―――用はクロノ・ブレイク・キャノンが発射されるまで、エルシオールを守りきればいい。みんな、無茶するんじゃねぇぞ」

「了解。・・・でも、それならヴァニラ先輩とかがいたらよかったのにな・・・」

「―――?ヴァニラって、誰?」

何気ないティアのぼやきに反応したエクス。だが、それが全員を固まらせた。

「え、え?なんか変なこと言った?」

どうやら本気で言っているようだ。

(・・・ちょっとクリス)

思わず、ランファが個別回線で聞いてみた。

(なんでエクスはヴァニラのこと知らないのよ)

(・・・エクスって、そういう昔のことに全然興味を持たないんだ。―――というか、アイツって初めエンジェル隊のメンバー誰も知らなかったんだ。英雄、タクト・マイヤーズだけは知ってたみたいだけど)

というか、エンジェル隊のメンバーは一般市民には機密扱いになっているのだから、知っているほうがおかしいのだが。

それに、彼はリ・ガウスの世界の人だ。無理はない。

が、その後まったく知ろうとしなかったのも事実である。

(・・・後でシメないといけないわね)

ランファは、結構本気でそう思った。

過程はどうあれ、今の彼はエンジェル隊なのだ。知らなければいけない。

『全機発進、どうぞ!!』

「ようし、みんな行くよ!!」

フォルテの声に、全員が頷き、続いた。

「ランファ・フランボワーズ、カンフーマスター、行くわよ!!」

「ミント・ブラマンシュ、イセリアル・トリックマスター、行きますわ」

「フォルテ・シュトーレン、メテオトリガー、出るよ!!」

「ティア・ブレンハート、インヴォーカー、行きます!!」

「セリシア・フォーム、ピュアテンダー、発進します」

「エクス・ソレーバー、ゼノン、行きます!!」

「神崎正樹、カルナヴァーレ、行くぜ!!」

「クリス・フランボワーズ、ゼン、出撃します!!」

エルシオールから、計8機の光が飛び出し、展開する。

同時に、クロノ・ブレイク・キャノンのチャージが開始される。

ここに、戦闘開始の幕が開けた。