第六章「望んだ力、その理由」

 

 

 

 

 

 

エルシオールがクロノ・ブレイク・キャノンのチャージを開始すると同時に、プレリュード軍の中継基地は即座に警戒態勢に意向した。クロノ・ブレイク・キャノンをフルパワーで発射するだけのエネルギーである。感知出来ないほうがおかしいというものだ。

その結果、プレリュード軍は中継基地全体を覆うほどのバリアを発生させた。

それが、この作戦の唯一の予想外因子となった。

 

 

 

 

 

 

「あのバリアは!?」

突如光の檻に包まれた中継基地に、レスターは驚愕の声をあげる。

むろん、彼だけではなくブリッジ中が驚きに包まれた。

「っ!!あのバリアの防御出力の解析を急げ!―――アルモ!正樹と通信を繋げろ!!」

「りょ、了解!!」

鶴の一声、とでもいうのだろうか。レスターの一声でブリッジが再び機能を再開した。

「正樹、あのバリアが見えるか?」

『こっからでも見えちまうよ。―――障壁出力は?』

「まだわからん。が、決して低くはないだろう」

レスターも気難しい顔で返答する。

プレリュード軍。いきなりこちらの機体を強奪するだけのことはある。こちらが襲撃してきた時の準備も整っているというわけだ。

「解析出ました。アレはバリアではありません!一種の光学兵器用障壁です!!」

「どういうことだ!?」

「バリアのように出力で攻撃エネルギーを押さえ込むのではなく、ビームを初めとする光学兵器を瞬時に中和、分散させるものです!!」

『つまり・・・ビーム兵器は効かないってことか!?』

正樹の問いに重苦しい顔でCICのオペレーターは頷いた。

「ですが、その障壁発生装置は基地表面のポイントに存在しています!!」

「よし、それなら突破口はある!!」

『なら破壊は任せとけ!!レスターはクロノ・ブレイク・キャノンが撃てるようになったら知らせてくれ!!―――やられんじゃねぇぞ?』

最後に不敵に笑いながら、正樹は通信を切った。

これで大丈夫だ。彼なら人選もやってくれるだろう。

本当はこれも自分の仕事なのだが、指示するだけでエンジェル隊のテンションを下げてしまうような気がしたからだ。

だから、レスターは彼等を信じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いての通りだ。発生装置の破壊はランファ、フォルテで頼む。二人の武装はビーム主体じゃないから大丈夫なはずだ。エクスたちはエルシオールの護衛。ミントは自己判断で各所の援護を!!」

「「「「「了解っ!!」」」」」

正樹の的確な指示に、全員が返答する。

正樹は、IG操作の腕前で「パラディン」になったのではない、という貫禄を見せ付けるかのようだ。

ともかく、全機展開した。

 

 

 

 

ランファ、フォルテの援護につくべく、正樹は機体を正面のヴァラグスに向けていた。

(・・・にしても、よくここまでIGを集めたもんだ)

ヴァラグスは量産機とはいえ、前大戦末期に完成した、今でも充分に高性能なリ・ガウスの主力機なのだ。

そんな考えを廻らせていると、正面にヴァラグスが三機立ち塞がる。

その三機は即座にビームを連射。反撃の隙を与えないほどの勢いだ。

正樹はそのビームの奔流を避けながら、マシンガンを発射するが、相手はそれを的確に回避。今度はミサイルの一斉射を放つ。

「っっ!!コイツ等、ヴァラグスのクセになんて腕前してやがる!?」

神業と呼ぶほどではないが、機体の動かし方が玄人だ。狙い方、避け方が的確すぎる。

正直、まずい。まさかここまで相手が腕が立つとは思ってもみなかった。

正樹は迫るミサイルをスラスター全開で回避。そこを狙おうとした一機に至近距離からビームショットガンを叩き込んでやる。続けざまに二機の間に割って入り、更に一機をマシンガンで撃ち抜き、もう一機を高分子ソードで突き貫いた。

今回の作戦、思ったより楽できそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!!当たらない・・・!?」

エルシオールより少し離れたところで迎撃を行っているエクスだが、ほとんどの攻撃を華麗にかわされ、苛立ちの声を上げる。

それも仕方がないと言える。見てるだけでわかるが、相手の動きは素人ではない。余程の経験を積んだ相手と見える。

つまり、数ばかりではなく、その一つ一つの個々の能力が並外れて高いのだ。

側面に回りこまれ、放たれたビームをシールドで防ぎながら後退する。それを好機と見たか、相手は一気にこちらに接近してくる。そこを狙っていたエクスは、即座にシールドのビーム放射口を展開。驚く敵機を5砲のビームで撃ちぬいた。

直後に、迫るヴァラグスは、遠方より放たれたレーザーに遮られる。

それは、ティアの駆るインヴォーカーからの援護だった。

「エクス、大丈夫!?」

「・・・ティア」

彼女の紋章機を見届けるより早く、ティアは機体をヴァラグスに向けた。

無数のミサイルを放ち、相手はそれを回避しきれずにシールドを構えて防ぐ。そこにティアはH.V.S.Bを撃ちはなった。

当然、防がれると思ったビームは、その出力の高さで盾ごとヴァラグスを撃破した。

「やった!いい調子!」

そんなティアを見ながら、エクスは再び考える。

やはり、紋章機は破滅を告げる、漆黒の天使なんだと。

けれど、今はその破壊の力でないと、エルシオールを守れない。

エクスは現状を見て、自分の考えを押し殺した。

 

 

 

 

 

一方、クリスとセリシアは互いにあまり離れずに、周囲の敵機の迎撃に専念していた。もっぱら、セリシアはエルシオールの防御を優先しているが。

「・・・・・・」

迫り来るヴァラグスたちに、クリスはビームマシンガンを放ちながらじっと目を向けていた。

無数に放たれるビームの奔流。その動き、方向、速度を目で覚える。

「・・・見えたっっ!!」

自らビームの奔流に飛び込むクリス。だが、不思議とビームはクリスの機体、ゼンをかすりもしない。まさに不自然すぎる光景だ。

 

――――――これこそ、クリスが想像を超える程の鍛錬の中で見につけた目の力。心眼ともいえる力である。

視界に入る動き、速度を瞬時に理解し、その中での“穴”を見出す眼。

かつて、烏丸ちとせしか習得出来なかったと言われる眼の力である。

――――――もっとも、ちとせとクリスの心眼は性質がまるで違う。

 

ちとせの心眼は、まさにちとせの天賦の才ゆえの力と言える。

視力がいい、というレベルではない。ちとせは、自身ですら視認出来ない距離の的を理解できているのだ。

それはつまり、眼で的を狙うのではなく、感覚、―――言ってしまえば脳で理解して的を狙っているというレベルである。

当然、それは脳の理解を増幅するH.A.L.Oあっての力だが。

ようは、ちとせの持つ心眼とは、視認できないものですら脳が修正、処理を施す、まさに才能あっての眼であるといえる。

 

対して、クリスが鍛錬によって編み出した心眼は、視認できるものに対する“視覚情報処理能力”といえる。

自己の眼に見える範囲の動きを、計算、修正、処理し、理解する力である。言い換えると、鍛えに鍛えぬいた洞察力である。

能力的には、ちとせの持つ心眼の近、中距離用の簡易版といえる。

確かにちとせと比べると敵うわけがない差があるが、それでもクリスの編み出した心眼は、クリスの強さを主張するものであると言えるだろう。

 

―――――――――当然、他のエンジェル隊にもちとせのような才能はあるが、それはまた別の機会に。

 

 

 

ビームの奔流の“穴”を突き進み、クリスはビームキャノンを撃ち、ビームセイバーを振り回し、ヴァラグス全てを撃墜した。

直後に迫るビームを防ごうとシールドを構えるが、目の前に現れた光の盾がビームを見事に遮断した。それがピュアテンダーのリフレクターシールドだと理解した瞬間には、上昇、ビームキャノンでさらに撃墜する。

「セリシア、ありがとな!」

「クリス・・・気をつけて・・・!」

会話を交わし、二機は再びエルシオールの護衛にまわっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァラグスをその機動性で振り切るカンフーマスターに、その重装甲で振り切るメテオトリガー。はっきり言って、ヴァラグス程度のビームの出力では、特殊コーティングされたフォルテのメテオトリガーの装甲の前には弾かれるのがオチである。

「あと少し・・・!!」

中継基地表面まで、距離にして6000程。カンフーマスターなら一分もかからない距離だ。

「・・・ランファ、アンタは先に行きな」

何を思ったか、フォルテは目前まで迫りながら機体を旋回させた。

「え、フォルテさん!?」

「なぁに、ちょっと相手をしてあげるだけさ。その隙に、頼んだよ」

フォルテの言葉の意図を理解し、ランファは強く頷いた。

カンフーマスターが加速するのを見てから、フォルテは迫りつつあるIG、インペリアル・メガロデュークと対峙した。

「アンタの相手は、私がしてあげようか」

間髪入れずに、メテオトリガーは全ての武装を解き放った。

 

 

 

その雨のような砲火を、インペリアル・メガロデュークに乗る心斗は「ヴァジュラ・クレイモア」で全て迎撃する。

直後のメテオトリガーの攻撃に対応すべく、心斗は目の前の爆煙から後退する。

その直後には、メテオトリガーはインペリアル・メガロデュークの真上をとっていた。

「なっ!?」

「動きが甘いよ・・・」

メガビームキャノン、ツインリニアレールガンの引き金を引き絞った。

「この盗人がぁっっ!!!!」

フォルテの怒涛の攻撃。これを回避する手など、心斗が持っているわけがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!!」

直感めいた反応で、ミントは機体を旋回させながら後方へ向けてフライヤーのプラズマビームを発射する。

その死角の存在しないかのような攻撃に、ビームを放ったラピス・シリスのパイロット、みさきは驚愕した。

直後、ミントはアデッシブボム、みさきは連装ビームキャノンを互いに回り込みながら発射。みさきがIG特有の性質でイセリアル・トリックマスターの背後を取ろうが、ミントはフライヤーで牽制。即座に体勢を立て直した。

攻撃が当たらず、死角の存在しない紋章機に、みさきは思わず歯を食いしばった。

直後、

「甘いですわね、あなた」

目の前の機体から聞こえてきた少女の声に、みさきは背筋が凍りつくのを感じる。

そう、いつのまにか時機の周囲を、イセリアル・トリックマスターの「レナティブ・デバイス」が取り囲んでいた。

「レネティブ・デバイス」は独立した攻撃支援システムビットであり、決して自身から攻撃をしかけたりはしない。イセリアル・トリックマスターの攻撃に反応して、支援攻撃を行うのである。

ラピス・シリスの周囲に展開している「レナティブ・デバイス」は砲口をラピス・シリスに照準しており、今か今かと待ちわびているように見える。

「御機嫌よう。相手が悪かったですわね」

ミントは3機のフライヤーのビームを発射した。その三本のビームに6機の「レナティブ・デバイス」が反応する。

ビーム一本につき、6機の「レナティブ・デバイス」はそれぞれ一回、支援攻撃のレーザーを発射する。つまり、3本のビームに反応し、計18本のビームがラピス・シリスに襲いかかった。

その無数のビームを回避することなど許されず、ラピス・シリスは僅かなスラスターを残し、機体を無数に貫かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えた!アレね・・・っっ!!」

中継基地に迫るにつれて激しくなる攻撃を、見事なまでの腕前で回避。基地表面に隣接する。

その中でビームに覆われていない、小さな点。それこそが、この基地を覆うバリアの発生装置であった。

「アンカークローッッ!!―――この鉄拳に、砕けないものなんて無いっっ!!!!」

ランファの裂帛の気合と共に放たれたアンカークローは鋭い軌道を描きながら、発生装置を一撃の下に砕いた。

瞬間、基地を覆っていたバリアは、跡形もなく消え去った。

「よっし!!エルシオール、クロノ・ブレイク・キャノン、イケルわよっっ!!」

小さくガッツポーズをとりながら、ランファはエルシオールに報告した。

 

 

 

 

 

 

「基地周辺の障壁、消滅を確認!!いけます!!」

ランファの報告通り、中継基地を覆っていた対光学兵器障壁は消え去り、基地は丸裸となった。

レスターも思わずいきり立つ。

「クロノ・ブレイク・キャノンのチャージは!?」

「現在81%までチャージ。あと三分後には発射可能です!!」

「よし、全機に通達!!4分後にクロノ・ブレイク・キャノンを発射する。それまでに斜線上から退避しておけ!!」

「了解!!全機に通達します!!」

レスターだけでなはい。アルモやココ、ブッリジ中のクルーが作戦の成功を確信している。

その時、基地から離れようとする戦艦が確認された。

「クールダラス司令!!中継基地より脱出する艦を確認。これは・・・・・・エルシオーネです!!」

「チィッ!!やはり心中するつもりはないか」

となるとあの艦、エルシオーネは逃がしてしまうだろう。だが、今更クロノ・ブレイク・キャノンの照準を変更するわけにもいかない。残念だが、あの艦は諦めるしかない。

「敵艦は見捨てろ!照準は変えずに中継基地に!!」

レスターの指示に、若干戸惑っていたクルーたちは彼の指示に従った。

後はチャージの完了を待つだけ。それまでが、勝負である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『心斗!みさき!相手がクロノ・ブレイク・キャノンを撃ってくるわ!!残念だけど基地は破棄、撤退するわよ!!』

通信から英樹の声が聞こえる。レーダーに目を向けるとラピス・シリスはすでにエルシオーネに向けて帰艦している。

だが、今の自分にそんなことが出来るはずがない。

最強の敵、紋章機を目の前にして。

「くっっそぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!

完全に押されている現状に、心斗は我慢できずに対艦刀を構え、メトオトリガーに突撃する。

その先にフォトン・トーピードを放たれ、直後に反応弾が目前に迫った。

さすがにこれは防がなければまずい。心斗はクロノ・プロテクトフィールドを展開し、反応弾の衝撃をある程度防ぐ。

だが、たとえそうであったとしても、反応弾は拠点攻撃用の強力な火力を持つもの。無傷でいられるはずもなく、手にした対艦刀は消し飛んだ。

「―――っ!?」

その刹那、視界の端に赤い装甲色を持つ機体がこちらに迫るのを確認した。

直後、心斗は愕然となる。

一機でこれだけ苦戦する紋章機が、更にもう一機。勝機など、万に一つの可能性でしかなくなった。

 

 

 

「フォルテさん、援護します!!」

「ランファ!!相変わらず仕事が速いねぇ!」

軽口を交わしながら、ランファは持ち前の機動性でアッサリと相手の背後を取る。

その動きに対応されるより先に、ワイヤーアンカーを構え、頭部に突撃する。その体勢を崩したところをフォルテがメガビームキャノンで追撃。更に間髪いれずにランファはインペリアル・メガロデュークに「アンカークロー」を絶妙なタイミングで射出。強烈な打撃と共に大きく吹き飛ばした。

「やったぁ!どんなものよ!!」

「へぇ・・・腕は落ちてないみたいだね、ランファ」

感心するフォルテだが、クロノ・ブレイク・キャノンの発射まで時間がないことに気づいた。

「ランファ、エルシオールまで撤退するよ」

「了解です!後はエルシオールを守るだけですね」

二機は吹き飛ばしたインペリアル・メガロデュークには目もくれず、即座に旋回。引き返していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ・・・、畜生・・・っっっ!!!」

あっさりと引き返していく二機の紋章機に、心斗は怒りを覚える。

あの二機は、自分を敵と認識しなかった。それが、心斗のプライドをズタズタに引き裂いた。

「見てろ・・・!!目にモノ見せてやる・・・っっっ!!!!」

エネルギーの全てを胸部の「アカシックリライター」に集中させる。これだけの出力があれば、エルシオールまで充分に届く。加えて、あの艦はバリアのようなものを装備していない。当たれば、それまでだ。

心斗の口元が、不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのインペリアル・メガロデュークに気づいたのは、エクスだけだった。

敵機の鼻先に「セレクティブ」を発射し、注意を逸らした。

「!?あの機体・・・!!」

「やらせるか!!」

エクスはビームショットガンを連射しながらインペリアル・メガロデュークに迫る。それにやむなく「アカシックリライター」の発射を断念し、心斗はゼノンに向けてビームライフルを連射した。

互いに対角線上に移動しながら、ビームを連射。発射後の隙をついてエクスは機体を隣接させる。それに合わせてインペリアル・メガロデュークはホーミングレーザーを発射するが、それをシールドで強引に突破。相手の右肩口に斬りかかった。

「なんでだ・・・なんでアンタたちはこんな・・・!!」

「ハッ!自分たちだけが正しいと思い、力を持つやつが何をっっ!!」

「!?」

一瞬の躊躇。その隙に相手の蹴りをくらい、吹き飛ばされる。

「お前・・・何を!?」

「なら答えてみろ、エンジェル隊!!―――なんでお前等だけが正しい!!お前らだけが戦士であることが許される!!」

「え・・・」

思わずエクスは躊躇う。

このパイロットは、プレリュード軍の根底を言っているのだろうか?

「先の大戦・・・パレスティル統一戦争で、リ・ガウスは戦士を必要とした。戦うために、勝つために。だから、戦士たちは死力を尽くした!!国に応えるために!!」

 

戦士。それは力を持つ者の名。

それでいくと、自分は戦士なのか・・・?

 

「だが、戦争が終わってみれば、国は態度を一転させた!!国のために戦った戦士を戦犯と扱い、罵り、あげくの果てに処刑だと!?ふざんけんじゃねぇ!!」

 

そう、それが力を持つものの末路だ。

なら、わかっていながらどうして自分は力を求めた・・・?

 

「そうやって、親父は死んだ。国に裏切られて!!今でも戦士たちは居場所を奪われ、肩身の狭い思いをしなければならない!!――――――なら、俺たちが変えてやる!!この国を!世界をっっ!!誰にだって邪魔はさせねぇっっっ!!!」

躊躇の隙に相手はこちらに体当たりをしかけ、その先に「ヴァジュラ・クレイモア」を放った。

目前に、無数のクレイモアが迫る。

 

 

 

 

 

――――――力を求めたのはなぜ?

 

―――それは・・・ティアが許せなかったから。

 

これは紛れもない事実。

エクス・ソレーバーの今の性格の始まりも、これが原因だ。

今まで、何度も思い、確認してきたことだ。

けど、今回は少し違う。

道が、先に進んだ。

 

――――――なら、力を得て、何をしたかった?

 

―――それ、は・・・・・・

 

答え。

その先にあるのが、フォルテが言っていた、自分だけの答えなのだろうか。

 

――――――力を求めたのはなぜ?

 

―――それは・・・ティアが許せなかったから。

 

――――――なら、力を得て、何をしたかった?

 

―――それは・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ティアを、許してあげたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――っっっ!!!」

エクスの瞳の中で6つの結晶が収束し、無数の光の粒子と共に弾け、解放(リバレート)した。

迫るクレイモアに対し、「セレクティブ」、ビームショットガンを一点で放ち、自身の隙間だけのクレイモアを迎撃する。

「なっ!?」

驚愕する心斗。

直後、爆煙の中から残る全てエネルギーを込めたビーム・スラッグを発射。インペリアル・メガロデュークに直撃させる。更に間髪いれずにレーザーサーベルを最高出力で展開させ、相手の右肩を狙って全力で振り下ろす。

その怒涛の攻撃の前に、ついにインペリアル・メガロデュークの右肩を完全に吹き飛ばした。

更なる追撃を、と肉薄し返す刃で斬りつけようとした。が、途端レーザーサーベルが展開しなくなり、ゼノンの機動性も極端に悪くなった。

「!?なんで・・・!?」

「ガス欠だ」

エクスの疑問に、通信越しの心斗が答えた。

「やばかったぜ・・・。お前、やってくれたな」

「―――っっ!!」

一気に情勢が不利になり、エクスは唇を噛みしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロノ・ブレイク・キャノン、チャージ完了しました!!」

「全機、斜線上から離れているな?」

「はい、確認しました」

アルモとココの声が、どことなく催促しているようにも聞こえる。

レスターは躊躇いもなく、その期待に応えた。

「クロノ・ブレイク・キャノン、照準」

「クロノ・ストリング・エンジン、臨界点突破!全カートリッジを解放します!」

「システム、オールグリーン。最終セーフティー、解除」

「よし!―――クロノ・ブレイク・キャノン・・・発射っっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルシオールから放たれた極太の光。

凄まじい出力を秘めたビームはまっすぐに敵中継基地を捉え、

止まることなく、基地を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!?何をっ!?」

インペリアル・メガロデュークに掴まれ、左肩に寄せられる。

「自分の艦の攻撃で死んできな。―――あばよ!!」

最後にそう言って、相手は「ヴァジュラ・クレイモア」を放った。

それを至近距離で受け、瞬間、吹き飛ばされる。

その先には、クロノ・ブレイク・キャノンの直撃を受け、今にも爆散しようとしている敵基地。

「あ・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!?????????????

直後、目の前が真っ白に包まれる。

爆発の光に、視界が飲まれた。

 

 

 

直後、ゼノンは敵基地の爆発に巻き込まれ、光の中に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な・・・ゼノンが!?」

発射後、全機帰艦したと思っていたが、ゼノンだけが帰ってこず、熱源データを探っていたところだった。

「はい・・・。ゼノンの熱源反応は、敵基地の爆発に飲まれ、消えています・・・」

「そん、な・・・」

ココの報告に、ブリッジに集まっていたエンジェル隊。その中でティアがその場に崩れ落ちた。

「う、そ・・・嘘・・・エクスが、そんな・・・」

「あきらめが早すぎよティア」

泣きそうなティアを、ランファが慰め、元気づける。

「そうさ、まだ生きてる可能性だってあるんだよ」

「そうだよティア。まだ諦めちゃだめだって!!」

フォルテ、クリスもティアを励まし続ける。

やがて、ティアは自力で立ち直った。

「――――――クールダラス司令、あの・・・」

「わかっている。―――動けるものは全員でゼノンの探索に当たれ!!急げよ!!」

レスターの指示がアルモに伝わり、エルシオール中に広がっていく。

「では、私たちもエクスさんの捜索を始めましょうか」

「はい!絶対・・・エクスを見つけます!!」

ティアはいてもたってもいられず、ブリッジを飛び出した。

 

早く、早くエクスを助けたい。

もう、昔みたいな思いなんて、したくない。

その一心で、ティアはエクスの無事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――だが、その日、エクスが発見されることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・」

全身に走る激痛と、目に入ってくる光の眩しさで、エクスの意識は覚醒の兆しへ向かった。

ぼんやりとする視界の中、目に入ってきたのは見覚えのない、老人の顔だった。

「おお、兄ちゃん目が覚めたかい。大丈夫かい?」

「え・・・は、はあ・・・」

「そりゃあよかった。一安心だ」

老人の顔が安堵に包まれる。

虚ろに返事をしながら、エクスはようやく周囲を観察する認識がでてきた。

日は徐々に沈みだし、空の色が段々とオレンジへと変わっていく途中だ。

木で出来た小屋の、軽くあしらえただけのベッドに自分は乗っている。

「・・・ここは?」

「ここは最果ての星デュナンじゃよ。お前さん、空から落ちてきたじゃろ。ありゃあたまげた。よく無事じゃったのう」

空という表現がおかしい。この星は、まだ開拓前の星のようだ。

「空・・・あ、ゼノンは!?」

「ぜのん?ああ、兄ちゃんの乗ってたロボットかい。あれはあの人が家の地下へと隠したわい」

“あの人”というのがよくわからなかったが、ゼノンが他人の手に渡ったという事実が、エクスの頭の中に広がる。

「ど・・・どこです!!ッッ!!痛・・・」

全身、特にわき腹にとてつもない激痛が走り、思わず蹲る。

「おいおい大丈夫かい?お前さん、そりゃあ酷い怪我じゃったんじゃぞ。リスの嬢ちゃんの魔法がなけりゃ、とっくに逝ってもうとるわい」

かっかっかっ、と人の死にかける話を笑い話にされ、エクスは脱力感に襲われた。

「なーに心配するこたぁない。あの人が隠したのは他の人に見られるとマズイからじゃよ。何も盗ったりはせんよ」

「・・・そうですか。・・・ところで、“あの人”って?」

「死にかけのお前さんを助けた人じゃよ。歩けるならお礼の一つは言っておくんじゃ」

エクスはゆっくりとベッドから降り、歩いてみた。少し痛むが、特に支障はない。

エクスは包帯の上から上着を着、身だしなみをそこそこに整えた。

「じゃあ、さっそくそうします。―――その人はどこに?」

「この時間なら・・・そうじゃの、ここを真っ直ぐに進んだところにある岬におるの」

「そうですか、どうも」

エクスはゆっくりと歩き出し、小屋を出た。

「お前さん、大怪我じゃったんじゃからな!無理せんようにな〜!」

老人の声を聞き、振り返って笑顔で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

夕日が眩しかった。歩いていて思ったことはそれだけだ。

痛みと長い間眠っていたのか、頭がうまく回ってくれない。

とりあえず、ゼノンの場所を知っている恩人の元へと足を運んでいる。

 

そして、切り立った崖の上。夕日が最も強く当たっているかのような岬。

そこに、その人はいた。

岬から、空と海の両方を見ている。いや、もしかすると何も見ていないのかもしれない。

遠く、横から見ただけでもそう感じるほどに、悲しい眼差しだった。

その人は自分の気配に気づいたのか振り返って自分を見た。

澄んだ青い瞳と、首の後ろで少しだけしばっている、しっぽ髪の水色髪が、夕日に混じり強調されているようだった。

その悲しげな眼差しに見つめられ、エクスは一瞬言葉を失った。

だが、黙っているわけにもいかず、なんとか言葉を紡ぎ出す。

「あの、えと・・・助けてもらったらしくって・・・ありがとうございます」

「いや、気にしなくていいよ。大事にならなくてよかった」

それは優しくて、頼もしい声だった。

エクスは再び言葉を失ってしまった。

あまりにも優しげな声と話し方で、それでいてとても悲しげな瞳を持つこの青年に、エクスは目を奪われるような感覚に襲われてしまう。

と、不意に後ろに人の気配を感じ、振り返る。

そこには純白のワンピースにライトグリーンのロングヘアーをしている小柄な少女がいた。身長はおよそ150cm半ば、といったところか。手には花束を持っている。

見た感じ、自分より年下に見えるが、その雰囲気は悟りを開いたかのようなオーラが伝わってくる。

その少女は慈愛に満ちた笑顔を自分に向けてから、あの人へと歩いていく。

 

「裕樹さん。花を・・・摘んできました」

「うん・・・ありがとう、ヴァニラ」

 

裕樹と呼ばれた青年。ヴァニラと呼ばれた少女。特に、ヴァニラという名前、確か最近聞いた気がするのだが、頭がまだ上手く回ってくれない。

ただ、二人の姿だけが、エクスの脳裏に焼きついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ一つ、惜しまれることは、彼等と会ったのが、何も知らないエクスであったということだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

話の開始からすれば、かなり予想を裏切る形にしてみましたが、いかがでしょうか。

ともかく、裕樹とヴァニラ、登場しました。今後に、期待してください。

さて、今回のあとがきは他でもない、お知らせがあるのです。

この話以降、つまり次回から「Interludeシステム」を第二部の間のみ、取り入れることにしました。

簡単に言えば、物語の視点がまったく別の人物に移る、ということです。

ハッキリ申し上げますが、ずばり水樹美奈の視点になります。裕樹が登場したということで、彼女も動きだします。その動きを本編と絡ませるのは非常に難しいことなので、こういう風にしました。ぶっちゃけ、「Interlude 水樹美奈」と表示されているところは別の話と言ってくれてもいいです。(後でまとめて読んだほうがわかりやすかったりするかも・・・)

ともかく、そういうことでお願いします。

それでは。次も頑張ります。