プロローグ
「・・・これで全員?」
ファクトリーが開発した最新鋭強襲戦闘艦“ヴェインスレイ”のブリッジで氷川京介(ひかわ きょうすけ)は周囲を見渡しながら呟いた。
「ま、集まったほうだろ。元々人手不足は想定内だし」
司令席に妙に満足げにふんぞり返りながら新宮路和人(しんぐうじ かずと)は答えた。前大戦時、ジュデッカのパイロットであった彼が司令官という立場になったのは本人の言う「人員不足」によるものであった。が、本人に不満は無いらしく、むしろ喜んでいるように見える。
「それに・・・よく、来てくれました。ちとせさん」
ヘッドギアを外し、髪も下ろしているヴァニラ・Hが、少しだけ烏丸ちとせを見上げながら微笑んだ。
そんな、随分成長したヴァニラに内心驚きつつも、ちとせはヴァニラを見ながら微笑み返した。
「いえ、元々私は、こうするつもりでしたから」
「でも、本当にいいの?ちとせ、“パラディン”なんでしょ?」
答えたちとせに、水樹美奈は否定させるわけでもなく、単に聞いてみた。もちろん、ちとせも対して気にする様子もなく、笑いかけた。
「いいんです。それに・・・」
ちとせは一瞬、彼に視線を向けた。
その視線に気づいた彼、朝倉裕樹は首を傾げた。
「ほっとけないですし」
美奈の隣にいた小柄な少女、音無春菜は同意したように笑った。
「そうですね、ほうっておけませんから」
どうにも裕樹は居心地が悪くなったのを感じ、苦笑する。反対に考えれば、それだけ裕樹に人望があるということだ。
「・・・それじゃ、ヴェインスレイ軍リーダーとして・・・裕樹、みんなに一言」
「え、あ、ああ・・・」
京介に言われ、裕樹は一歩前に出る。
周囲をざっと見渡す。クルーの数はおよそ5、60人程度だろう。
大人数のクルーが乗艦しても大丈夫だが、そのクルーの数が足りない。それを補うべく、この艦“ヴェインスレイ”は操作を簡略化し、少人数でも艦を稼動させることを可能とした。当然、クルーの人数さえ足りていれば、簡略化しなくてすむのだが。
というか、逆によくこれだけのクルーが集まってくれたものだと思う。
特別な報酬や名誉が得られるわけでもないのに、命を懸けてしまう戦いについてきてくれた。―――自分なんかのために。
(・・・よそう、そう考えるのは)
そう考えるべきではない。
みんな、自分を信じて自分のために来たのだから。ならば、その信念に応えるように行動すべきだ。
それに、そのような自分はもういない。
つい先日、自分を永遠とも思える闇と罪から救ってくれた彼女、美奈のためにも。
軽く息を吸い、目を開く。
「・・・正直なところ、俺たちのやろうとしていることは、今の戦況を混乱させてしまうだけかもしれない。だから自分たちだけが正しい、なんてことは絶対にありえない」
いきなり絶望的なことを言ったが、落胆する者は誰もいない。むしろ、闘志が湧き上がっているようにも見えた」
「それに、本当に正しいかもわからない。俺たちは、もしかしたら・・・何もせずに世界の流れに従う方がいいのかもしれない・・・」
ヴァニラたちは何も言わずに、黙って裕樹の話を聞いている。他のクルーも同様だった。
「それでも、俺たちは知ってしまった。だから、周りから恨まれても、なんと言われても、俺たちは俺たちの思うままに止める。止めてみせる!!この世界そのもののためにも、みんな、力を貸してくれ!!!」
「あったり前だぜ裕樹!いっちょやってやるぜ!!」
「うん、僕たちの世界のために!」
「及ばずながら、頑張ります!!」
「みんなでなら・・・きっと、できます」
「もちろんです!裕樹さん!!」
「頑張ろう、裕樹!」
和人、京介、ちとせ、ヴァニラ、春菜、美奈、他のクルーたちも声を上げ、自分に敬礼する者までいるほどだ。
士気が最高まで高まった中、美奈と目が合い、微笑んだ。
そして、最後に裕樹は告げた。
「みんな、聞いてくれ。恐らく、天人であるからして、ジェノスとヴァイスも死んでないはずだ」
そう、天人は普通に殺しても、即座に蘇生するのが普通だ。何故なら、天人は世界の代理人だから。
けれど、その天人だって、世界の欠片である聖刻を利用すれば間違いなく“死ぬ”だろう。
「けど、間違えないでくれ。俺たちが本当に倒さなければいけないのは、ジェノスでもヴァイスでもなければ、プレリュード軍やトランスバール軍でもない。――――――忘れないでくれ。俺たちが倒す、もしくは止める人はただ一人・・・―――」
裕樹は、静かにその名を告げた。
「白き月の聖母・・・シャトヤーンだ」