第二章「聖戦の翼」

 

 

 

 

 

 

トランスバール本国からの指令が突如としてエルシオールに下った。

―――第一方面に突如として艦隊が出現。その中に巨大兵器の存在も確認。エルシオールならびにエンジェル隊はこれの撃退の任に当たれ―――とのことだ。

ブリッジではタクト、レスター、ミルフィーユ、フォルテ、正樹が集まり、作戦会議を開いていた。

「確認された数は駆逐艦5隻、巡洋艦8隻、戦闘艦10隻だ。更に得体の知れない砲撃用兵器も確認されている」

「相変わらず随分豪勢だねぇ。どこからそんなもん仕入れてるのやら」

「で、どうするんですか?」

ミルフィーユ、フォルテを横目にタクトたちは頭を唸らせた。

「・・・まあ正攻法なら足の速い機体で巨大兵器を破壊。その後一気に畳み掛けるのがいいんだろうけど」

「でもよ、間違いなく向こうもそう読んでるんじゃねぇか?」

「と、いうことは・・・それまでいかにエルシオールを守れるか、ですよね」

ミルフィーユの言葉にタクトが頷く。

「そういうわけだね。そうなると足の速い機体・・・俺のウイングバスター・パラディンとゼファー、アルカナム・ラッキースターにカンフーマスター・・・ってところか」

「じゃあ防衛には俺のグランディウス、バルキサス、イセリアル・トリックマスター、ピュアテンダー、だな」

正樹の提案に誰も否定せず、確定される。

「よし!今言ったメンバーで出撃だ。他のパイロットは搭乗機で待機!」

「「「「了解!!」」」」

 

 

 

会議が終わり、それぞれの機体へと行こうとしたが、レスターがタクトを呼び止めた。

「タクト」

「ん?」

「・・・相手の中に、エルシオーネを確認した」

「え・・・」

固まる。

それはつまり、タクトの妹と思われる人物もいるということだ。

「・・・そういうことだ、タクト。・・・いいな・・・?」

心配しながらもタクトへ警告する。

手を抜かれると、仲間がそれだけ危険になるのだから。

「・・・ああ、大丈夫だ・・・」

喉の奥からなんとかその言葉を搾り出す。

わかっている。ミルフィーユやエルシオールを守るためだから、と。

けれど、吐き気にも似た、この気持ちの悪さを捨てることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20分後、エルシオールはプレリュード軍と対峙し、合図無きまま戦闘が開始された。

「!敵巨大兵器エネルギーが集中!同時に強力な力場が発生!!」

「ッ、バリアか!!さすがに簡単にはやらせてくれないか・・・っっ」

『レスター、どうした!?』

「タクト、巨大兵器がエネルギーの充填に入った!バリアも展開されている!正確な時間はわからんが、迅速に頼む!!」

 

 

 

「タクト・マイヤーズ、ウイングバスター・パラディン、出るぞ!!」

「ミルフィーユ・マイヤーズ、アルカナム・ラッキースター、行きます!!」

「ランファ・フランボワーズ、カンフーマスター、行くわよ!!」

「エクス・ソレーバー、ゼファー、行きます!!」

4機は一斉に発進し、真っ直ぐに巨大兵器を目指す。

「みんな、敵機に構っていたら時間が無くなる!一気に破壊しに行くんだ!!」

「「「了解!!」」」

 

 

 

「神崎正樹、グランディウス、行くぜ!!」

「ミント・ブラマンシュ、イセリアル・トリックマスター、行きますわ!」

「クリス・フランボワーズ、バルキサス、出ます!」

「セリシア・フォーム、ピュアテンダー、発進します!」

防衛用の4機が出撃し、エルシオールの周りに展開する。

「全員、エルシオールから離れるんじゃねぇぞ!タクトたちが兵器を破壊するまでエルシオールを守りきればいい!」

「「「「了解!!」」」」

直後、豪雨のように降りそそぐミサイルに、4機は全ての砲門を解放した。

 

 

 

 

 

 

「くそ、数が多い!」

ウイングバスター・パラディンはプラズマブレードで相手を斬り裂きつつ、6砲のリニアレールキャノンで複数の敵機を撃ち落とす。

アルカナム・ラッキースター、カンフーマスターも同様に迎撃に追われ、思うように兵器に近づけない。

「タクトさん!このままじゃ・・・」

「タクト!どーにかしなさいよ!!」

二人の通信が入った直後、4砲のビームが目の前を過ぎる。

放ったのは4枚の巨大なスラスター、IGという人型を捨てた強襲用大型兵器であるAG、レイレックスだ。

「アイツは・・・」

エクスはレイレックスを確認するないなや、スラスターを全開にする。

「タクトさん!アイツは俺が止めます!先に行ってください!!」

「エクス!?」

ゼファーはすでにビーム式銃剣、オベリスクを構え突撃している。

「待て!一人では・・・」

直後、4方向からのロックオンを受け、反射的に回避する。

向き直ると、4つのビットを装備した緑色のIG、ラピス・シリスが待ち構えていた。

(あの機体・・・エリス・・・!?)

(ウイングバスター・パラディン・・・タクト・マイヤーズ・・・!!)

視線が合ったか交わったか、そんなことはどうだっていい。

互いに、戦うことを瞬時に承認したのだから。

「ミルフィー!ランファ!先に行ってくれ!ここは・・・俺とエクスで何とかする!!」

「で、でも・・・!?」

「早く!!」

「ミルフィー!!行くわよ!!」

ミルフィーユとしては、できれば戦わせたくなかった。

二人がこうなってしまった原因は、自分にあるのだから。

ミルフィーユは考えを切り替え、急いでランファの後を追った。

 

 

 

対峙していたウイングバスター・パラディンとラピス・シリスは両機の射撃によって、戦闘が始まった。

互いに対角線上にビームを撃ち合っていた両機だが、タクトが相手の射撃の一瞬の隙をつき、一気に接近する。苦し紛れに放ってきたビームをシールドで防ぎつつ、プラズマブレードを抜き放ち、互いにシールドで防ぎつつ、せり合う。

「くっ・・・」

「エリス!!」

タクトの声にみさきはビクッとする。

その声でその名を呼ばれると、今の自分の存在がひどく不安になってくる。

「・・・違う・・・」

「え・・・?」

「私は、エリスじゃない!!雨宮みさきよ!!」

この至近距離で腰のミサイルポッドを放たれ、タクトは咄嗟に機体を突き放し、防御する。が、その衝撃で大きく吹き飛ばされる。

「あなたが・・・あなたがいるから、私はっっ!!」

「エリスッッ!!」

「ッッ!!・・・・・・その名前で・・・」

ラピス・シリスは4つのビットと共に全ての武装を一気に放った。

「私を呼ばないでっ!!!!」

タイミング的に避けることは許されず、全てをシールドで受け止めるしかなかった。

「ぐっ・・・くっ・・・!!」

火力分の衝撃が襲い、コックピットが大きく揺れる。

「はあああぁぁぁっっっ!!!」

ラピス・シリスがレーザーサーベルを構え、迫る。

不意に、タクトの脳裏にレスターの言葉が囁かれた。

 

――――――だとしても、悩んでもどうしようもないだろ・・・

 

(・・・けど、それでも・・・!!)

「それでも、俺は・・・!!!」

ラピス・シリスの斬撃を宙返りして回避、瞬時にシールドをすれ違いざまに斬り裂く。

「・・・っ!!」

「俺は、お前を・・・!!!」

振り返り、オメガブラスター、ビームレイを残り半分のシールドに集中させる。

シールドを完全に破壊されたものの、ラピス・シリスは怯む気配もなく、全ての火力を解放する。

「勝手な事ばかり!!」

もはやオールレンジに近い方向からの攻撃を回避、又は防いでいく。

「くっ・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、アンタか!!」

エクスはレイレックスのパイロット、心斗に叫び、オベリスクで斬りかかる。

「こっちのセリフだ、それは!!」

レイレックスはその強力なリフレクターシールドで斬撃を受け止める。

直後、レイレックスは4つのワイヤークローを放ち、そのうちの一つがゼファーのシールドを捉えた。

その後ゼファーはレイレックスの全身から放たれるビームを、周囲を飛び交いながらかわし、ダブルビームスラッグを撃ち続ける。それらすら、リフレクターが全て弾き返した。

「クソッ!!全て弾かれる!!」

「まだ落ちないのか・・・!?なんなんだ、お前は!?」

対複数戦闘用のAG、このIGとは比べ物にならない大火力を相手に、いくら新型機とはいえたった一機のIGで互角に戦っているのだ。

「・・・厄介やヤロウだな、お前は!!」

「でえぇぇぇいっっ!!」

プラズマサーベルを抜き放ち、斬りかかるが、リフレクターの出力にはまるで届かない。が、弾かれた反動を利用し、左肩のハイパーメガバスターを至近距離で放つ。

「ぐっ!?」

レイレックスに衝撃を与えつつ、再びオベリスクを構える。

「なら、フィールドキャンセラーで・・・!!」

「お前程度に!!」

ゼファーはフィールドキャンセラーを発動し、超大型レーザーサーベルを構えるレイレックスに突撃した。

 

 

 

 

 

「行きますわよ、フライヤーッッ!!」

周囲を飛び交う5つのフライヤーが迫り来るミサイル、敵機を撃ち落としていき、取りこぼしをクリスのバルキサスで撃破していく。

「くっそ!」

グランディウスは対艦刀ディヴァインソードを振りぬき、2機の敵機ヴァラグスを一度に切断する。

「正樹さん!このままではマズイですわ!なんとかいませんとっっ!!」

「くそ!!タクトたちはまだ破壊できないのか!?」

 

 

 

 

 

 

「こん、のぉぉぉっっ!!!」

カンフーマスターはアンカークローで敵機を貫きながら次々とホーミングミサイルを発射し、なんとか進路を作ろうとしていた。

「ミルフィー!アンタは先に行きなさい!!」

「ランファ!?」

ビームファランクスで周囲のヴァラグスを落としていたアルカナム・ラッキースターは相手の数の多さに未だに前進出来ずにいた。

「アンタのフルインパクト・ハイパーキャノンならバリアを突き破れるハズよ!だから行きなさい!!」

「ダメ!!ランファを一人にできないし、ハイパーキャノンと違ってフルインパクト・ハイパーキャノンはチャージに時間が掛かりすぎるの!だから・・・」

「・・・どうしろってのよ!!」

叫びながらガンポッドを連射していくランファ。

(どうしよう・・・けど、このまま何もしないよりは・・・!!)

「ランファ、離れて!」

「ミルフィー!?」

「・・・ハイパーキャノンを撃つから!!」

ミルフィーユはアルカナム・ラッキースターのエネルギーシールドを発生させ、回避無視でチャージを開始した。

今のミルフィーユのテンションなら、ハイパーキャノンのエネルギー臨界点到達など一瞬だった。

「いっけぇぇぇぇ!!!ハイパーキャノンッッ!!!」

極太のビームが戦場を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイパーキャノン、バリアに直撃しました!!」

ココの報告にレスターは映像モニターをまわした。

「バリアの出力は!?」

「出力でハイパーキャノンが僅かに上回っていますが、減少した出力では兵器の装甲に届きません!!」

「・・・くそ!!」

レスターは思わず机を叩いた直後、ココの手元のパネルに5つの光点反応が出た。

「!!遥か後方より接近する熱源あり!」

「何!?敵の新手か!?」

「いえ・・・うそ、そんな・・・・・・この反応は・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願い、届いて!!」

ミルフィーユのH.A.L.Oが輝きを増し、ハイパーキャノンがバリアを突き破った。

だが弱まった出力では砲撃兵器そのものを破壊することは出来なかった。

「そんな!これでもダメなんて!!」

(このままじゃ、エルシオールが・・・!!)

ミルフィーユの脳裏に絶望のイメージが浮かんだ。

 

 

 

―――――刹那、戦場を切り裂く、一条の神速の光が巨大兵器「バグナグ」を貫き、一撃の下に破壊した。

 

 

 

これには、戦場にいた全ての人物が驚愕した。

「え?」

「あ?」

「何!?」

「たった・・・一撃で!?どうやって!?」

「まさか・・・コアの中心を・・・?」

「バカな!?ほんの僅かな狂いや誤差も許されないんだぞ!?」

プレリュード軍は驚愕しているだろう。

だが、エルシオールは違った驚愕を見せていた。

今の光は明らかな狙撃。

それも、相手のレーダーに表示されないほどの超遠距離からの狙撃。

しかも、一寸の狂いもない、精密狙撃。

 

――――――相手兵器を苦もなく貫く有様は、まさにイグザクト・ペネトレイト(全てを貫く者)だった。

 

こんな神業じみたことを出来る人物など、世界に一人しかいないだろう。

「・・・こんな、こんな芸当が出来る人なんて・・・」

「何だ!?どうやって!?」

エクスは慌てて光の矢が現れた方向を見た。

はるか遠方に、光の翼を広げて構えるその姿。もはや伝説とも呼ばれる6番目の紋章機、シャープシューター・レイ。

直後、レーダーに4つの機影が確認され、その中で一機だけが前進してくる。

 

 

 

はるか彼方の光星の光を背に、8枚の翼を広げて恐るべきスピードでやって来るのは――――――

エクスは以前、記録とデータでのみ見た、最強とされたエルシオールの聖戦者の名を唱えた。

「・・・・・・ラ、ラストクルセイダー・・・・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不屈の聖戦者の姿が、ただ雄々しく存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

随分早く更新出来ました。いえ、単に量が短いだけでしょーか?

まあお気になさらずに。

さらにいうならあの方たちの登場がタイミング良すぎるのも気にせずに。

ちなみに、ちとせが放ったのは「フェイタルアロー」ではなく「イグザクト・ペネトレイト」です。よくわからないという方は、第一部メカニック設定3か、第一部三十一章を参照ください。詳しく載っておりますゆえ。

 

あんまり長くするといけないのでこの辺で。

つねにこんなペースならいいんですけど・・・

ではでは。