第三章「聖戦の剣」

 

 

 

 

 

 

「なんだ、あれは!?」

巨大砲撃兵器「バグナグ」を破壊されたことで、心斗は怒りに燃えながらモニターを切り替える。

光星の光を背に、青く輝く巨体が目に焼きつく。8枚の翼を広げたその機体は――――――

『あれは・・・まさか、ラストクルセイダー!?』

みさきが発したその名に、心斗を含むプレリュード軍全員が愕然とする。

―――X−DZ−007“ラストクルセイダー”―――その名は心斗も知っていた。2年前のパレスティル統一戦争終盤において、トランスバール軍のもとで恐るべき戦果を残したIGの名だ。

抜きん出た機体性能とパイロットの圧倒的な超人じみた技量。だが、そのパイロットの正体が明かされておらず、更にその戦果があまりに常識離れしていたことから、すでに伝説とさえ見なされているIGだった。

そして、そのラストクルセイダーに続いて4機の機体がやってきた。

真紅の機体に赤き翼を背負った機体、ヴァナディース。

二度も戦闘の邪魔を仕掛けてきた機体、ゼロバスター。

同じく二度、戦闘に介入した、あまりにも有名な紋章機、イネイブル・ハーベスター。

見慣れる長砲身を携えた、同じくその名が知れ渡っている紋章機、シャープシューター・レイ。

 

 

 

 

 

 

伝説と呼ばれた5機の機体。

それらは、伝説ではなく現実に目の前に存在していた。

 

 

 

 

 

 

戦場は現在、完全に混乱していた。

通信からレスターが待機させていたフォルテとティアを発進させたのが流れたが、タクトにはまるで聞こえていなかった。

「裕樹、美奈・・・!!それに、あれは・・・ちとせ!?」

タクトは愕然とする。

裕樹がなぜあの機体に乗っているのか。

ちとせがなぜ裕樹たちと共にいるのか。

あの巨大兵器は破壊してくれた。だが、彼等の機体から発せられているオーラはどう見ても助けに来た、というものに感じられない。

なら、彼等の目的はなんだというのだ?

何より、裕樹はどうして何も言ってくれないのだろうか。

裕樹とは、2年前からまったく会話もしていない。

裕樹の行動が、タクトには理解出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、混乱しているのは裕樹たちもだった。

「・・・どうしよう」

「・・・どうしよっか?」

「・・・どうするの?」

「・・・どう、するんですか?」

「・・・どうしましょう」

裕樹、美奈、京介、ヴァニラ、ちとせは声を揃えた。

 

突如、ヴェインスレイにファクトリーからの連絡が入り、エルシオーネが巨大砲撃兵器「バグナグ」破壊のために戦闘に入ったというものだった。

その時、相手の物量からエルシオールが危ないということで飛び出てきたが、その先をあまり考えていなかった。

 

今ここで、エルシオールに自分たちの知る真実を告げても、到底信じてもらえないだろう。

第一、言い切れる証拠も持っていない。何の能力も持たない人に「聖刻」の理屈を説明しても信じてはもらえない。だから、今はまだエルシオールに説明できないのだ。

けど、この場にいる以上、何もしないわけにはいかない。かといってエルシオールに全面協力してしまっては、それこそシャトヤーンの思惑通りになってしまう。残念だが、プレリュードを味方するという利点は皆無だ。

となれば、自分たちが何をするのかは、たった一つしかない。

間違いなく、両軍から敵と認識されてしまう行為。

けれど、今はこれが最善の策なのだ。

「裕樹・・・」

「・・・わかってる、美奈。・・・いくしかないか・・・みんな!」

「うん、行こう裕樹」

「問題、ありません」

「いけます、裕樹さん!」

5機は、一斉に散開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レーダー上で彼等が一斉に散開したのを見て、ココは驚くようにレスターに報告する。

「ク、クールダラス司令!ラストクルセイダー等5機が・・・」

レスターがレーダーを見ると、その5機は恐るべき速度でプレリュード軍のディアグスやヴァラグスを片っ端から落としていった。

「裕樹・・・一体どういうつもりだ!?」

以前は戦闘の停止を呼びかけていた。が、今度は忠告すらないまま動き始めた。

その間にも敵機の数は劇的に減っていく。

「!!今度は、こちらに向かってきます!!」

ココの悲痛な叫びが、やけに震撼をもたらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬速の早さでゼロバスター・カスタムを駆る京介は、2丁のティアル・ライフルでバルキサスの翼を撃ちぬいた。

「う、うわ!?」

付け入る隙を与えずプラズマソードを抜き、迫る。

その斬撃をピュアテンダーのリフレクターが防ぐ。

「クリスは、私が守る・・・!」

が、京介は容赦なく腰のリニアレールキャノンで吹き飛ばし、追撃の連装バスターキャノンで、ピュアテンダーの武装、スラスターを撃ちぬいた。

「きゃああぁぁぁっっ!!!」

「セリシアッ!!」

バルキサスは即座にビームバズーカ、ライフルを向けるが、それすら撃たせてもらえぬまま、ゼロバスターの4つの砲口に撃ちぬかれる。

「うわぁぁぁっっ!?」

それを見ていたティアはH.V.S.Bを連射しながらゼロバスターに迫る。

「よくも、二人をっ!」

が、全てを避けられ、すれ違いざまに主砲部分を斬り裂かれる。

「・・・ッ!!」

3人が感じたことは、恐怖よりも驚きだった。

機体の動きが以前とは随分変わっているが、それでもまったく敵わないのだ。

一体、これ程の実力を持つパイロットが何人自分の上にいるのだろうと、3人はそれだけを思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ、何だよ!」

エクスは自分に迫ってくるラストクルセイダーにビームスラッグを連射していた。が、ラストクルセイダーのダブルセイバー「セイクリッドティア」の刃が煌めいた瞬間には、ゼファーの両腕が切断されていた。

「え・・・!?」

エクスにしてみれば、ただ自分の横をラストクルセイダーが通り抜けただけのような感じだったのだ。その刹那の瞬間に、一体何をされたというのか。

圧倒的すぎる力の差に、エクスの背筋がゾクリとした。

 

先ほどから通信を試みていたタクトだが、久々に見る裕樹の技量に、つい息をのむ。

今ではエクスは最高レベルの腕前を持つパイロットなのだ。その彼にろくに何もさせないまま戦闘能力を奪っていくなど、どれほどの技量の差があれば可能だというのだろう。

直後、その標的が自分へと変わったことにタクトは背筋が凍りついた。

 

 

 

 

 

 

エルシオール―――正しくはイセリアル・トリックマスターとメテオトリガー―――にイネイブル・ハーベスターは急速に接近し、両機もイネイブル・ハーベスターに向き直る。

「ヴァニラ!!何だってアンタが!!」

「私は、裕樹さんや、みなさんと同じ道を・・・行きます!!」

「ヴァニラさん!!」

イセリアル・トリックマスター、メテオトリガーの「フライヤー」、ダブルレーザーキャノンを、まるで発射前から着弾点がわかっているかのように軽々と回避する。

「ヴァニラさん!!―――あなたは、いつから誰かについていくだけになったのですか!!」

「裕樹さんに、ついていくのは・・・」

ヴァニラのH.A.L.Oリングが、強い輝きを放ちだした。

「私自身の、意志です・・・!!」

眩い光と共に、イネイブル・ハーベスターに光の翼が出現する。

「ヴァニラぁ・・・!!!」

フォルテはフォトントーピードを一斉射するが、ヴァニラはエイミングレーザーで全てを相殺する。瞬間、爆煙につつまれながらもメテオトリガーの位置を把握、煙の向こう側に向かってゼーバーキャノンを発射。メテオトリガーの連装主砲を貫いた。

「煙の向こうから!?どうやって!?」

ヴァニラはもうメテオトリガーには見向きもせず、イセリアル・トリックマスターへ迫る。

「・・・ッッ!!ヴァニラさん・・・!!」

ミントは容赦なく12個のフライヤーを同時に稼動、“フライヤーダンス”を放った。だが、ヴァニラはそれすらも予測しきったように見事に回避した。

(当たらない・・・!!ヴァニラさん、いつの間にここまで腕を・・・!?)

 

その理由は、当然として空間把握、認識能力を美奈の協力の下、ひたむきに鍛錬を積み重ねた成果である。

今のヴァニラは、もはやエースと呼ばれたミルフィーユに匹敵するほどの実力を兼ね備えている。

 

次の瞬間、イネイブル・ハーベスターの新必殺技“アトロゥシャス・レイン”がイセリアル・トリックマスター及び、全てのフライヤーを撃ち抜いた。

「・・・あ・・・」

攻撃手段を失ったミントは、唖然としながらイネイブル・ハーベスターを見送るしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵機を一気に撃墜しながら、シャープシューター・レイはプレリュード軍の戦艦へ突撃していく。

「ちとせぇぇぇぇっっっ!!!」

瞬間、迫る気配に反応して、カンフーマスターのアンカークローをミサイルで止める。

「!!止めた!?」

「・・・ランファ先輩・・・!!」

瞬間的にちとせは、フェイタルアローでアンカークロー、ミサイル発射口、スラスターを一寸の狂いもなく撃ち抜いた。

「な・・・ぅ、ウソ・・・!?」

ランファの驚愕の声を聞きつつ、ちとせはアルカナム・ラッキースターに向き直る。

(・・・ミルフィー先輩!!)

「・・・ちとせ・・・!!」

アルカナム・アッキースターとシャープシューター・レイはスラスターに急旋回をかけつつ、対角線上にレールガン、レールキャノンを撃ち合う。

「ちとせ・・・どうして、どうしてなの!?なんでちとせがそこに!?」

「ッ、ミルフィー先輩!!」

「なんでエルシオールに戻ってこないの!?どうして、私たちを攻撃するの!?」

「私は、私の意志で裕樹さんと一緒にいます!!誰にだって、この意志を変えたりはできません・・・!!例え、ミルフィー先輩でもっっ!!!」

「ちとせぇ!!」

アルカナム・ラッキースターの放ったビームファランクスを読み取り、カロリックレーザーで完全に相殺する。

その信じがたい腕前にミルフィーユも驚愕する。

(ちとせ・・・いつの間にそんな、裕樹さんみたいな事を・・・!?)

「それに、私は・・・」

「・・・!?」

「私は・・・今のトランスバールの行っている事が、正しいとは思えないのです!!」

「・・・ッ!!」

アルカナム・ラッキースターが「クロノ・インパクト・キャノン」を向けようとした瞬間、すでに構えていたフェイタルアローが副砲を貫いた。あまりにも凄まじい速度、正確さに唖然となる。

「あっ!?」

次に主砲、レーザーランチャー、ミサイル、ソード、レールガン全てをほぼ同時に破壊する。

近距離から放たれる超神速の射撃である“フェイタルアロー”は、ミルフィーユといえども回避できず、なす術もなく次々の機体に突き刺さっていく。

「う・・・あ・・・」

「・・・ごめんなさい」

偽善ではなく、本心から謝った後、ちとせは他の機体へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、いい加減にっっ!!」

自軍の機体を次々に無力化していくヴァナディースに、みさきは怒りをわらわにした。

4つのビットが迫るが、美奈はそれを難なく回避する。

「・・・ごめんね」

回避と同時に8つの“ホーリィ・シリンダー”を展開し、ビットを含めラピス・シリスを一瞬で無力化させた。

「きゃあぁぁ!!」

「みさき!・・・こんのぉぉぉっっ!!」

心斗はレイレックスの全砲門をヴァナディースに向けたが、信じられないことにその砲撃の間を見事に掻い潜ってメノスソードで斬りかかった。が、高出力のリフレクターに弾かれる。

「リフレクター、か」

ヴァナディースはホーリィ・シリンダーをオールレンジで放ち、あえてリフレクターを発生させる。

「っ!!・・・へっ、何度やったって・・・、・・・!?」

直後、美奈は8つのシリンダーを一箇所に集め、一転集中で撃ち放った。

さすがのレイレックスのリフレクターも強力な出力を誇るホーリィ・シリンダーの集中斉射には耐えきれず、リフレクターを弾き飛ばされた。

「うっ、うわ!?」

直後に「ディバインフェザー」で両肩にあるリフレクター発生装置を破壊しつつ、背後に回った。

「リフレクターに頼りすぎね、あなたは」

「な、何を!?」

自らの落ち度を指摘され、心斗は怒りを覚える。

が、次の瞬間にはメノスソードで背面スラスター、ワイヤー部分を切断され、下方からのライフル、ホーリィ・シリンダーで完全に無力化させられる。

「ぐっ・・・くそ!動けコノヤロッ!!」

ヴァナディースはシリンダーを回収し、見向きもせずに別の空域へ向かっていった。

(くっそぉ!!ヴァナディース・・・ッッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ!やめろ裕樹!!」

タクトはラストクルセイダーと距離を離しつつ、“ハウリングバスターキャノン”“オメガブラスター”で応戦していた。当然、接近戦に持ち込ませないためである。

(接近戦ではこっちが圧倒的に不利だ。SCSを使われたら・・・やられる!!)

決してタクトの乗るウイングバスター・パラディンが接近戦に向いていないわけではない。同様に、ラストクルセイダーが接近戦における優位的な攻撃オプションを持っているわけでもない。ただ、裕樹の腕が接近戦においては問答無用で最強なのだ。

必死に距離を離していたが、その意図を読んだ裕樹にヴァレスティ・シリンダーを放たれる。

「ぐっ!?」

オールレンジ攻撃を全て回避しきるが、当然に接近を許してしまう。

「くそ・・・!!」

やむなしにプラズマブレードを抜き、相手のヴァレスティセイバーと刃をぶつけ合う。

「裕樹!一体、どうして!?」

「タクト・・・!!」

「なんで攻撃してくるんだ!?どうして敵に・・・!?」

「違うんだ、タクト。敵になんて、なるつもりはないんだ・・・!!」

「なら!!」

「だけど!味方になるわけにはいかないんだ!!」

「!?」

直後にSCSをかけられ、気づけば両腕を破壊されていた。

タクトは即座にリニアレールキャノンを向けるが、完全に読みきられ、6砲全てが切断。そのままの回転で強烈な回し蹴りを受けてしまう。

「うわぁっっ!!」

裕樹は、真下に落下していくウイングバスター・パラディンを見つめていたが、直後に迫るIGに気づいた。

「グランディウス・・・正樹!?」

グランディウスはエーテル・シリンダーを発射し、ラストクルセイダーが回避しているうちにセイント・ディバインセイバーを構え、振り下ろした。

「うおおおぁぁぁぁっっっ!!!」

強化された対艦刀による斬撃を、ラストクルセイダーは両手に構えたヴァレスティセイバーを交差させ受け止める。

「何をしていやがる裕樹!!なんのつもりだ!?」

「ッ!正樹・・・今は、引いてくれ・・・!!」

「何!?」

「今はまだ、何も話せない!!けれど、俺たちは敵になるつもりはないんだ!!信じてくれっっ!!」

直後にラストクルセイダーはヴァレスティセイバーをハサミのようにクロスさせ、対艦刀を切断。そのままサマーソルトでグランディウスも蹴り飛ばした。

「ぐっっ!!」

しばし見送った後、ラストクルセイダーもその場を離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タクトは視線をモニターに向けた。かつての仲間だった機体がそこにあった。

天使を思わせる翼、あるいは本当の光の翼を広げ、まるで本物の天使のように超然として。

その目的も話さず、理由も言わずに、ただ、自分たちを無力化した。

プレリュード軍も突然のことに対応できないまま大打撃を受けたようで、あわてて撤退していくのが伺える。

「くそ・・・どうして、どうしてこんなことに・・・っっっ!!!」

タクトは星の海の中に消えていくIGと紋章機を見据えていた。その姿が見えなくなっても、ずっと。

「裕樹・・・・・・っっ!!!」

タクトは友の名を呼び、慙愧する。

そして、星の海へ消えていく機体たちをただ、見送った。