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第六章「人として、風として」

 

 

 

 

 

 

互いに均衡のまま対峙した裕樹と正樹。美奈も咄嗟のことに対応が出来なかった。

「・・・正樹」

「どうして、ここに・・・?」

「そりゃこっちのセリフだ!―――裕樹、お前・・・!!」

驚きと同時に怒りが込み上げてくる。

正樹はづかづかと詰め寄った。

「どういうつもりだ!?前の戦闘の介入、なんなんだあれは!!」

「正樹・・・」

そこまできて、ようやくランファたち三人が追いついた。

「正樹、どうしたってのよ?」

今になって気づいた。

そういえば彼等と一緒だったのだ。正直、今は席を外して欲しい状況だが、もはや遅い。

「・・・!?裕樹、美奈・・・なんで!?」

「・・・?正樹さん、ランファさん、この人たちは?」

驚愕するランファをよそに、何も知らないセリシアが無邪気に聞いてきて裕樹と美奈を交互に見ている。

「・・・・・・っ」

「話してもいいぞ、正樹」

「なっ・・・」

「私たちは、逃げるつもりはないから」

苦悩する。

どうすればいい。

今、どうすればいいのだろう。

「・・・正樹さん?」

クリスの声で、反射的に正樹は決断した。

「・・・彼等は、彼等の名は・・・・・・朝倉裕樹と水樹美奈だ」

「・・・え?」

クリスとセリシアは一瞬思考が停止した。―――直後、目まぐるしく思考が回転していく。

―――朝倉裕樹、水樹美奈。

この二人の名は聞いたことがある。確か、あの時レスターに。

刹那に、理解した。

「ラ・・・ラストクルセイダーとヴァナディースのパイロット!?」

「う、うそ・・・どうしてこんな所に!?」

無理もないことだが、クリス、セリシアは裕樹と美奈の事は知っていたが、直接対面したことはなく、人柄までは解らなかった。―――よって、知らずに警戒してしまう。

「・・・彼等は?エンジェル隊?」

唐突に裕樹が自分たちを見たので、思わずギクリとしてしまい、正樹に隠れるように移動する。

「ああ、そうだ」

「じゃあ、この前の戦闘にも・・・」

「いたに決まってるじゃねぇか。ほとんどボロボロにされたがな」

例外として、セリシアのピュアテンダーだけはリフレクター発生装置を破壊されただけだが。

「・・・一体、どういうつもりだ裕樹。何を考えてやがる!!」

「・・・・・・」

答えられないのではない。

ただ、言って信じてもらえるとは思えないからだ。

まだ、真実を告げることはできない。

「・・・裕樹たちが何かをしようってのは解る。けどよ、だからって何をしてもいいわけじゃねぇだろ!?」

裕樹と美奈は思わず押し黙る。

違う、そうじゃない。

言いたいことはそれじゃない。

本心は、別にある。

「・・・二年間、どれだけ心配したと思ってるんだ・・・」

「・・・・・・ごめんな、正樹。心配かけて・・・」

本当は、ずっとそれだけが言いたかった。

無事でよかった。

お前が無事で、本当に良かった。

親友同士だからこその会話。―――それも、一瞬でしかなかった。

「裕樹・・・これからどうするつもりだ?」

「俺は・・・俺の信じた道を行く。―――エルシオールに戻るつもりはない」

裕樹と美奈は今はまだ正樹を説得できないと判断し、立ち去ろうとした。

「なら・・・止める」

ボソリと正樹が呟いた。

直後、背後からほとばしる闘気に二人は振り返りながら身構える。

そこには、闘気の源となっている正樹、ランファ、クリスの三人が構えていた。

「正樹、ランファ・・・?―――正気か!?ここは街中だぞ!?」

「・・・・・・」

叫ぶが、返事はない。

道行く人々は奇異の目を向けながら通り過ぎていくだけだ。

「・・・トランスバールの人たちには、戦争がおおごとだってこと、内密にしておきたいんじゃないのか・・・?」

この場での戦闘を回避する最後の手。だが、無情にも切り捨てられた。

「・・・裕樹、美奈。アンタたちを捕まえるためってことで、口実が効くのよっっ!!」

ランファが叫んだ直後、正樹は携帯用のビームサーベルを両手に構え、クリスは助走もつけないまま強烈な蹴りをそれぞれ裕樹に繰り出した。裕樹が反射的に体を反らして蹴りを回避した時には正樹とクリスに挟まれていた。一方、ランファも美奈ににじり寄り、美奈は携帯式の棍を取り出し、構えた。

道行く人々の驚きと悲鳴が聞こえる中、5人は同時に動いた。

 

 

 

ランファは棍を構えた美奈に容赦なく、強烈な蹴りを放つ。美奈は棍でこれを防ぐも、強烈な衝撃が両手に流れる。

「紋章機ではアンタに勝てないけど、生身なら立場は逆転よっっ!!」

「ッ!!」

ランファの言う通りだ。確かにIGと紋章機で彼女と戦えば勝率はこちらのほうが高いが、生身では武術を極めた彼女に勝てる見込みは少ない。

けれど、決してゼロではない。

ようは、その低い確率とチャンスをいかに手繰り寄せられるかが、この勝負の本質!!

「ハァッ!!」

距離を詰めたまま、ランファは三連続を回し蹴りを繰り出し、それぞれを棍で弾き、最後の一撃を押し込むようにして受け止める。

「やめてランファ!!今、ここであなたと戦うつもりは・・・!!」

「なら機体に乗ればいいっていうの!?都合のいい事ばかり・・・!!」

ランファは棍で止められた右足を軸足にその場で捻るように回転。美奈の死角から襲う回し蹴りを放った。

これを美奈は瞬時に棍を二つに分解。両手の棍で両足の蹴りを受け止める。

その無理な姿勢から体勢の立て直しを余儀なくされ、大きく後退するランファだが、付け入る隙を与えず美奈は間合いを詰めた。

「くっ!?」

流れるような円運動から繰り出される棍を右手右足で挟み、受け止めた。

「私は、負けられない。こんなところで・・・っっ!!」

「美奈!アンタ一体何がしたいのよ!?」

「言っても信じないわよ!今のランファだと!!」

「えっ!?」

「自分の意思すら持てない、今のあなたに・・・負けるわけにはいかないのよっっ!!」

美奈は瞬時に体ごと背を向け、その体勢から棍を持ち替え、遠心力を全力で利用して振りぬいた。

その防御を崩しながらの瞬時の反撃にランファは対応が遅れ、無防備な腹部を強打された。

「ッッ!?」

声すら出せないまま倒れ込むランファに美奈は、

「・・・ごめんね」

一言だけ、そう言った。

 

 

 

正樹、クリスに挟まれた裕樹は即座に携帯式ダブルセイバーを展開する。(例によって出力は抑えてある)

直後、正面から正樹、背後からクリスと同時に迫られる。これを裕樹は、正面の正樹の双剣を右足を一歩引くだけでかわし、左足に全力で筋肉をいれ、足払いをかけようとしたクリスを、真っ向から跳ね返した。

(痛っ!?―――なんて堅さだよ!?丸太でも蹴った感じだ!!)

そのままの体勢で正樹の腹部にストレートキックを叩き込み、体を返してクリスにダブルセイバーで襲いかかる。

「・・・どんな人が相手でも、俺は逃げない!!」

迫る裕樹に、クリスは果敢に立ち向かう。

「逃げる勇気と無謀を、学ぶべきだったな」

「っっ!?」

ダブルセイバーの長所を生かした円運動を主軸とした、決して終わりのない高速の剣戟。ギリギリのところで回避を続けていたクリスだが、斬撃から瞬間に変わる突きに対処できず、まともにその刃が入った。

「があああぁぁぁぁっっっ!?」

出力は弱めていても、スタンガンの電撃を直で受けた感覚に似た衝撃に、クリスは倒れ込む。

「裕樹ぃぃぃぃっっっ!!!!」

背後から迫る双剣の剣撃を完璧なタイミングと位置で受け止める。

「正気か正樹!?こんなことをしでかすなんて・・・!!」

「今は、何がなんでもお前等を!!」

「・・・それが、のせられてるかもしれないって、なんで思わない!?」

「なにを!?」

「正樹ならわかるだろ!?トランスバールだけが・・・正しいものが一つだけじゃないってこと、わからないお前じゃないだろ!?」

「・・・!?」

直後、生身でのSCSで刃を回転し、せり合う形を無理やり解除させる。

その体勢が崩れた正樹に、すくい上げる形で一閃。勢いを殺さずに間合いを詰め、蹴り上げる形で後ろ回し蹴りを直撃させ、浮いたところを叩きつけるかのような勢いでトドメの一閃。

意識は途絶えなかったが、それでも立ち上がることが出来ずに、正樹もその場に倒れ込む。

 

 

 

裕樹と美奈の圧倒的な戦闘力の前に、周囲の人々だけでなくセリシアも息を飲んだ。

「・・・君」

唐突に裕樹に話しかけられ、セリシアは思わずビクッとする。

「は、はい・・・?」

「悪いけど、三人を頼むよ」

「わ、わかりました」

裕樹の悲しげで、けれど優しさを宿す瞳を見ると、とてもじゃないが悪い人には見えない。

(この人・・・なんて、悲しい目を・・・)

裕樹を見たセリシアの反応は純粋にそれだけだった。

「美奈、行くぞ!」

「うん!」

セリシアは呆然と、裕樹と美奈を見送る事しか出来なかった。

「・・・ッ!セリシア!タクトとレスターに連絡しろ、早く!!」

「は、はい!」

ハッとして、慌ててクロノ・クリスタルに呼びかけ出した。

 

 

 

一方、裕樹と美奈はそれぞれ京介とヴェインスレイに通信を行いながら走り続ける。

「京介!正樹に見つかっちまった!脱出するぞ!!」

「ヴェインスレイ!?おもいっきり見つかっちゃったからサポートよろしく!!」

適当すぎる内容だがこれほど解り易いものはないだろう。

二人は隠してあるIGの元へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミントを前に立ち尽くしていた京介だが、ミントから話しかけられる。

「運送業者さん・・・?どうしてこのようなところに?」

「あ、いや・・・その、僕は・・・」

「そんなにビビることないだろうに。別にとって食おうってわけじゃないよ」

「道に迷っただけらしいわ。―――で、ここを真っ直ぐ行けば格納庫よ」

ノアがぶっきらぼうに教えてくれた直後、ミントとフォルテのクロノ・クリスタルが振動する。

「はいよこちらフォルテ・・・ってなにぃ!?」

「本星で・・・裕樹さんと美奈さんが!?」

驚く二人とノアを見ながら、京介はひっそりと格納庫へ向かった。

 

 

 

「このコンテナ・・・だね」

京介は第7格納庫の31番倉庫のコンテナを確かめ、その中に入って行く。

中には体操座りの格好で小さくなっているゼロバスター・カスタムがしっかりと入っていた。

窮屈だが、隙間を抜けるようにしてなんとかコックピットに入りこみ、エンジンを機動させる。

(それにしても・・・ミント・ブラマンシュ、彼女に会うなんて・・・)

あの時の体はまるで自分のものじゃないかのように硬直してしまった。それほどまでに彼女に対する罪の意識が根強く残っていたというのだろうか。

(・・・でも、僕は)

考えを振り払い、ゼロバスターを機動させる。

これでは完全に見つかってしまうが、今更構わない。

コンテナを突き破り、マシンキャノンで各障壁を破壊、あっという間に白き月を脱出する。

「後は裕樹と美奈を待つだけなんだけど・・・」

レーダーに4つの光点が表示される。

その識別が、あまりにも辛い待ち時間だと告げていた。

「・・・簡単に待たせてはもらえなさそうだね・・・」

あっという間にゼロバスター・カスタムを取り囲む4機の紋章機、アルカナム・ラッキースター、イセリアル・トリックマスター、メテオトリガー、インヴォーカー。

長い、待ち時間になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロバスター・カスタム、完全に囲まれました!」

ゼロバスターの様子をヴェインスレイでも確認していた和人は、思わずため息をついた。

「何やってんだ京介・・・」

「あの・・・助けないんですか?」

あまり真剣さが感じられないため、オペレーターに突っ込まれる。

「いや、助けるに決まってるだろ。格納庫に繋いでくれ」

「りょ、了解」

通信が繋がったのを確認すると、和人は格納庫へと呼びかけた。

「ヴァニラ、ちとせ、ゼロバスターがエンジェル隊に囲まれた。支援に向かってくれ」

 

 

 

「ヴァニラさん!」

ハーベスターに乗り込もうとしたヴァニラは、唐突に春菜に呼び止められる。

「何ですか?」

「エスペランサ、使えるようになりましたよ」

エスペランサ――――――この武装兵器ユニットの名を知るものはほとんどいない。何故なら、この兵器は通常の歴史上には本来登場していない。唯一、裕樹とヴァニラが時間軸と並行世界を越えた戦い、“ラストクルセイド”にのみ使用された兵器である。

非常に大型でハーベスターが装備するだけで全長は軽く80mを超えるため、被弾率が飛躍的に増加してしまう。反面、火力の心もとないイネイブル・ハーベスターの弱点を補うというだけのことはあり、装備すれば大量武装と共に怪物じみた大火力に加え、驚異的な機動力、加速力を得ることができる。

それ故、使うものには正しい判断力が必要になる。

「・・・わかりました。お願い、します」

ヴァニラは、今が使うべき時なのだと判断した。

今は、立ち止まる時ではない。がむしゃらにでも、前に進まなければならないのだ。

 

 

 

「ヴァニラ・H、イネイブル・ハーベスター、発進します」

「烏丸ちとせ、シャープシューター・レイ、参ります!!」

二機の紋章機が出撃し、イネイブル・ハーベスターはヴェインスレイの前方に留まった。

エスペランサ(希望せし者)、機動!』

下部ハッチから出されたエスペランサにヴァニラはビーコンを合わせ、イネイブル・ハーベスターを包み込むかのようにドッキングした。

今再び、最強のハーベスターが蘇る。

「・・・行きます!!」

爆発的な加速力にちとせも息をのんだ。

(これが・・・エスペランサ・・・!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロバスター・カスタムは2丁のティアル・ライフルを連射しながら防戦に徹していた。

いくらなんでもこの4機の紋章機を相手にするのは手に余る。ならば裕樹と美奈が来るまで耐えしのぐのがセオリーというものだ。

だが、ティアル・ライフル射撃を掻い潜ってアルカナム・ラッキースターが一気に迫り、ビームファランクス、ミサイルランチャーを放ってくる。京介は機体のスラスターを全開にしてビームファランクスを回避し、ミサイルをライフルで迎撃する。

「えぇい!!」

その直後にインヴォーカーがH.V.S.Bを放ってきたが、アルカナム・ラッキースターに比べると機体の動きが単調すぎる。京介は全てのビームを回避しながらインヴォーカーの先端を蹴り飛ばす。

「きゃあっ!!」

武装を破壊しようとライフルを向けたが、目前に迫っていたビットに気づき、慌てて急旋回する。

「ティアさん、下がって!!」

(あれは、フライヤー・・・?―――・・・トリックマスターか!?)

京介は無意識のうちに銃口を向けるのを躊躇する。

 

 

前大戦、“ザン・ルゥーウェ戦”において京介はエンド・オブ・アークを駆り、あのイセリアル・トリックマスターと戦い、そしてシリンダーでコックピットを撃ち抜いたのだ。しかも、少女が炎に包まれ、悲しい顔をしながら爆発するところまでをしっかりと見てしまった。

正直、どうしようもない罪の意識にかられてしまった。その後、自分はグランディウスに敗れ、機体を大破されたが生き延びた。

その後、例え裕樹たちが彼女たちを死ななかった(・・・・・・)ことにしたと聞いても、罪の意識が消えることはなかった。

 

 

(・・・駄目だ、僕には出来ない!)

まさか、もう一度対峙するだけでこういう思いを持つとは思わなかった。

攻撃する意志が持てなくなった以上、攻撃オプションは無くなってしまった。後退するしかなかったが、ミントはそれを逃さなかった。

「逃しませんわっ!!フライヤーダンスッ!!!」

12個のフライヤーによるオールレンジ攻撃を京介は巧みに回避しきった。

「く、くそ!!」

フライヤーを撃ち落とそうとティアル・ライフルを向けるが、トリガーを引けない。

 

――――――京介は優しすぎるからな。本当は、戦うべきじゃないよ。

――――――俺みたいに、自分よりもいつだって他の誰かを優先しちゃうからな。

 

裕樹から、こう言われた。いや、言ってくれた。優しすぎると。

それに、今更だ。

イセリアル・トリックマスターだけではないのだ。自分が落としてきた機体の数など、それこそ数え切れない。たまたま、イセリアル・トリックマスターのパイロット、ミント・ブラマンシュだけが死ぬ瞬間を鮮明に見てしまっただけだ。

数え切れないほどの命を奪い、数え切れないほどの他人の人生を潰した。

今更、罪の意識に捕らわれてどうするというのだ。

 

 

――――――なのに、ヴェインスレイのみんなは・・・

――――――こんな僕を・・・優しいって・・・

――――――名前も知らない誰かのために涙を流せることは、とても優しいことだって・・・

 

 

(だから・・・だから僕は・・・!!)

「そこだよ!もらったぁ!!」

回避に徹している隙に背後からメテオトリガーに大量のフォトン・トーピードを放たれ、振り返った時にはミサイルが目前に迫っていた。

「戦ってでしか・・・償えない事があるからっっ!!」

京介の瞳の奥で6つの結晶が集束し、光の粒子と共に弾け、解放(リバレート)した。

 

京介は即座に上体をずらし、マシンキャノンをミサイルに向けて放った。

「やった!?」

大量の爆煙に包まれたため、フォルテはそう思ったが、直後にゼロバスターは恐るべき速度でプラズマソードを抜き放ち、迫ってきた。

「なにぃ!?」

ゼロバスターはそのままメテオトリガーの主砲を一つ切断し、腰のリニアレールキャノンでバランサーを破壊する。

直後、再びフライヤーに狙われるが、今度は回避しつつティアル・ライフルで確実にフライヤーを落としていく。

「甘いです!!」

直後、遠距離からゼロバスターの背後の位置を取ったインヴォーカーがクロノ・インパクト・キャノンを発射した。

「うぐっ!!」

咄嗟にエーテル・フィールドによるバリアを張ったものの、その出力の高さから大きく吹き飛ばされる。その隙を、エンジェル隊は逃さなかった。

「今ですミルフィー先輩!!」

「まかせて!!」

クロノ・インパクト・キャノンの照準をゼロバスターに合わせた。

 

 

体勢を立て直した京介は、レーダーに映る多数の機影に目が向く。

「あれは・・・トランスバール軍!?」

レーダーに映るのは20機以上のレガータやゼン、6隻の駆逐艦だった。

その一瞬の隙に対応が遅れ、ロックオンされた。

「しまっ・・・!?」

アルカナム・ラッキースターの副砲にエネルギーが集中される。

 

 

 

――――――刹那、一条の“光の矢”がクロノ・インパクト・キャノンを撃ち抜いた。

 

 

 

「え!?」

「フェイタルアロー・・・ちとせさんですわ!!」

その場の全員が光の矢が飛んできた方向を見ると、シャープシューター・レイと共に、見慣れぬ巨大兵器を装備したイネイブル・ハーベスターが存在していた。

「な、何?あの大きいの・・・!?」

直後、ヴァニラはトランスバール軍の空域そのものをロックオンし、その大量の怪物じみた武装を一気に解放した。

その全ての放火は一撃でトランスバール軍を黙らせた。

「な・・・」

「何・・・アレ・・・」

ミルフィーユの脳裏に揺らめいたのは、忘れ去ったはずの戦い。―――あの時、助けに来てくれたラストクルセイダーとイネイブル・ハーベスターはあの兵器を装備していた。だからこそ、その恐ろしさも思い出した。

ミルフィーユは、手元のレバーを握る手が自然と汗ばんでいるのに気づいた。

「京介さん、大丈夫ですか?」

「うん、ありがとう。ちとせ、ヴァニラ」

「裕樹さんと美奈さんは・・・?」

「まだ上がって来ないんだ。だから、もう少しここで粘らないと」

「・・・わかりました」

ヴァニラは一言告げると、相手の対応より早くエスペランサの集束火線砲「ツインバースト」を発射する。更に、二手に別れた紋章機の先に左右のHLプラズマブレードを左右になぎ払い、完全に分担させる。

ヴァニラはそのまま機体を翻し、カンフーマスターとイセリアル・トリックマスターの二機に迫り、HLプラズマブレードをカンフーマスターに振り下ろした。

「っ!?」

その出力のあまりの高さは、直撃するとカンフーマスターが一撃の下に破壊されてしまう程のものだった。

ランファはその斬撃をかわしながらエスペランサの懐に潜り込もうとしたが、大量の対艦ミサイルを発射され、迎撃しながら後退する。

「ヴァニラァ!!アンタ、いい加減にしなさいよっ!!」

「・・・ランファさん・・・」

戦ってこそいるが、今回の戦闘については強気にはなれない。裕樹たちはトランスバールに行って情報を集めたに過ぎない。京介のやったことも恐らくはバレないだろうが、それでもこうなった原因を作ったのは自分たちなのだ。

「これだけ大きければ・・・!!」

カンフーマスターを対峙している隙をつき、フライヤーを放った。だが、エスペランサを装備したイネイブル・ハーベスターはその巨体であるにもかかわらず、回転しながら大きく旋回しフライヤー全てを回避する。

「そんな・・・どうして!?」

唇を噛みしめたミントだったが、直後にヴァニラはおおきく後退し、二機を同時に多重ロックオンする。

「!!」

「ッ!!」

直後、発射時間をずらしたフルフラット(全弾解放)を放つ。

大量の対艦ミサイルを二機は迎撃しながら回避したが、その先に放たれた長射程ビームと集束火線砲にスラスターや大半の武装を破壊され、二機は同時に沈黙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京介の頭は極めて冷めていた。瞳の奥や体の奥は燃えるように熱いのに。

ふと、モニターに映った自分の紺色の瞳が透き通るように輝いているのに気づいた。

今なら、乱射されているビームの軌道を読み取るのも容易だった。

「こ、こないで!!」

京介は容赦なくインヴォーカーの弾幕を回避しながら接近していく。

が、直後に真上からメテオトリガーがフォトン・トーピードを放ってきて、それを回避しながらインヴォーカーに隣接。踏み台にするかのように足で蹴り飛ばし、そのままメテオトリガーに向かっていった。

「こ・・・こんなのって・・・」

ティアは今ほど自分の無力さを痛感したことは無かった。訓練で学んだ程度の技量ではまるで敵わない。

悔しく思う中、ゼロバスター・カスタムはメテオトリガーと戦っている。まるで、自分が最初からいなかったかのように。

 

 

「蜂の巣にしてやるよ!ストライクバーストッッ!!!」

「全て、撃ち落とす!」

ストライクバーストに対しフルフラットでの応戦。

単純な火力では確実にメテオトリガーに軍配が上がるだろう。

だが、二つの砲火がぶつかった瞬間にゼロバスター・カスタムはメテオトリガーの真下に回りこむ。

「真下!?」

付け入る隙を与えず、連装バスターキャノン、2丁のティアル・ライフルで残りの武装を撃ち抜いた。

こうまで簡単に紋章機を無力化させるゼロバスター・カスタムに、フォルテは背筋がゾクリとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルカナム・ラッキースターと対峙していたシャープシューター・レイの砲身に眩い光が集束されていた。

回避不可能とまで言われた“フェイタルアロー”だ。

(ちとせ・・・何度も何度も好きにはさせない・・・!!)

砲身部分の光の弦が反り返った瞬間、ミルフィーユは即座に機体を反転させる。

直後、先ほどまで機体のあった場所を超高速の光の矢が通り抜けた。

「!!避けた!?」

恐ろしいまでの回避運動。いや、もはや直感といってもいいだろう。“フェイタルアロー”をかわせるなど、よほどの目の良さか強運でなければ無理なことなのだ。

「けれど、負けません!!」

直後に放たれたクロノ・インパクト・キャノンを避けながらロングレンジキャノンを連射するが、アルカナム・ラッキースターはそれを回避しながらビームブーメラン、リニアレールガンを放ってくる。

「ちとせ!!」

「・・・っ!!」

レールガンを避け、ブーメランをミサイルランチャーで防ぎ、直後のシャインソードを回避。

二機はすれ違いながらビームファランクスを同時に発射。それらは互いのビーム全てを相殺し、背後からの衝撃が二機を襲った。

「くっ!?」

「きゃあっ!!」

姿勢を立て直し、互いに旋回した直後、二機のレーダーが新たな機影を捉える。

「これ、は・・・」

その識別がされた直後、ミルフィーユのテンションが低下する。

正しくは戦う気、というより戦う意味が無いとわかってしまったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二機が捉えた機影は、ラストクルセイダーとヴァナディースに違いなかった。

この二機を止められるモノなど、果たして存在するのだろうか。

ミルフィーユはゆっくりと近づいてくる二機のIGを、武装解除しながら待ち構えた。