第十三章「マイヤーズ兄妹」

 

 

 

 

 

 

――――――タクトさん!!

――――――落ち着けタクト!!まだ息はある!!

――――――タクトさん・・・!!必ず、必ず助かりますから・・・!!

――――――・・・っ!!いいからタクトごと乗せろ!!絶対に間に合わせろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、数時間前のタクトの頭に残っている言葉だった。

今は医務室の前で祈るように待ち続けていた。

ケーラとEDENの医師たちが入室してからもう5時間以上が経過している。傍にはミルフィーユとレスターが寄り添っており、他のメンバーは離れたところから三人を見ていた。

タクトとエリスの事情は全員が知っていたが、それでもミルフィーユとレスター以上に理解している人物はいない。

タクトは、ずっと祈り続けていた。

ようやく、本当にようやく逢えたのだ。

話がしたかった。笑顔を見たかった。手を、握りたかった。

失ったと思っていた、たった一人の家族。

失った時間を、少しでいいから取り戻したかった。

考えることは、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に、目の前が明るくなった。

それが医務室の扉が開いたことなのだと気づくのに数秒かかった。

「!!ケーラ先生!!エリスはっ!?」

「・・・大丈夫よ。奇跡的に一命をとりとめたわ」

ケーラは大きく息をつきながら告げた。いつもは綺麗な銀色の髪だが、今では所々乱れている。疲れ果てた表情を見る限り、相当な治療だったのだろう。

だが、すぐさま表情を切り替え三人に向き直った。

「・・・話があるわ。三人とも入って」

「・・・・・・」

妙な予感を感じながらも、三人は医務室へと入った。代わり、手伝いの医師たちが退出する。その間際、タクトは彼らに深く頭を下げた。

「さて・・・コーヒーでも入れましょうか?」

「いえ、いいです。・・・それより、話とは?」

さすがに少しは落ち着いたのか、タクトは声を荒げることはなかった。

「・・・・・・率直に言うわね。彼女、左目の視力が無くなったわ」

「・・・え・・・?」

言われたことが、即座に理解出来なかった。

今だ眠るエリスを見ると、確かに左目に包帯がかけられている。

「早い話が失明よ。・・・・・・左目に破片が入ってしまったのかどうかは解らないけど、水晶体を深く傷つけていて・・・残念だけど、回復する見込みはないわ」

「そ、そんな・・・」

ミルフィーユが青ざめる中、レスターは痛々しく左目の眼帯を押さえた。

「同じだ・・・」

「えっ?」

「あの惨劇に巻き込まれた者は全員、“左目”を失っている。俺やタクトのように・・・」

「くそっ!!どうしてエリスまでこんな・・・っっ!!」

タクトは思わず叫んだ。その向けようのない怒りと共に。

「視力は悪くなるが、人工義眼をつければとりあえず生活には困りはしないが・・・」

「・・・それでも、傷は残るんだ。確実に・・・」

それらの全ての原因が自分にあるのだと思うと、ミルフィーユは正直いたたまれなくなってくる。

「わ、私・・・その・・・」

言ってしまってから、タクトとレスターは後悔した。今の話は、少なくともミルフィーユの前で話すべきではなかった。

「・・・ごめん、ミルフィー。・・・ミルフィーのせいだって言うつもりはないんだ。だから、――――――」

「・・・・・・んっ・・・・・・」

不意に、横たわるエリスが動き、タクトは思わず膝をつきベッドに近づいた。

「麻酔がきれてきたみたいね」

「エ、エリス・・・?エリス?」

覚醒を促すように声をかけると、エリスは弱々しくも、ゆっくりと目を開けた。

その赤い目は、確かにタクトを捉えていた。

「・・・・・・・あ・・・お兄ちゃん・・・・・・」

「エリスッッ!!!!」

聴きたかった声がようやく聴けた。弱々しくも、笑ってくれた。それで10年もの空白を埋めることはできたわけではなかったが、タクトは涙を流さずにはいられなかった。

「エリス・・・!!よかっ・・・た。お前が、無事で・・・!!」

「お兄、ちゃん・・・・・・泣い、ちゃ・・・やだ、よ・・・・・・」

涙を拭おうとして出した震える手を、タクトは強く握りしめた。

「・・・・・・あった、かい・・・」

「エリス・・・これからは、一緒だ。ずっと・・・!!」

「・・・うん」

と、エリスの視線がタクトの後ろに動いた。

エリスは、遠い記憶を呼び起こしていく。

「あ・・・・・・お久し、ぶり・・・です。・・・・・・レスター、さん・・・・・・」

「ああ・・・久しぶりだな、エリス」

レスターも珍しく涙ぐんでいるように見える。それだけで、彼も嬉しかったのだ。ここに、幼い頃から遊んできた三人が、もう一度再会できたのだから。

「・・・まったく、お前たち兄妹には振り回されっぱなしだよ、俺は」

「・・・ははっ」

「あはは・・・・・・すいません・・・レスター、さん・・・」

三人は、静かに涙を流した。

それが、嬉し涙と解りつつ。

ふと、エリスは握り締められている手に、異物の感触を思い出した。

「・・・?お兄、ちゃん・・・・・・なに、それ・・・」

「え?・・・ああ、これのことか」

タクトはエリスに見えるように左手の薬指を見せてあげた。そこには、指輪がはめられていた。

「・・・・・・?結、婚・・・したの・・・?お兄、ちゃん・・・」

「・・・ああ」

嬉しそうに言った。―――誰と?―――と、聞く前に後ろからピンクの髪の優しそうな女性が出てきて、挨拶してくれた。

「初めまして、エリスさん。私、タクトさんと結婚させてもらったミルフィーユって言うの。ミルフィー、でいいからよろしくね」

ミルフィーユと名乗ってくれた女性が言うように、彼女の薬指にも指輪がはめてある。やがて、二人が見つめ合ってニッコリと微笑むのを見ると、とても仲が良いとわかった。

「そう・・・なん、だ・・・・・・。おめ、でと・・・お兄、ちゃん・・・・・・ミルフィー・・・さん」

「・・・ありがとな」

「ありがとうございます、エリスさん」

しばらく、優しい笑顔が室内を包んでいた。

 

 

 

 

 

 

しばらくして、急にエリスの顔から笑顔が消え、すがるような目でタクトを見つめだした。

その意図を察したケーラは、レスターとミルフィーユに促した。

「・・・さ、後は兄妹水入らずにさせて、私たちは出ましょうか」

二人は無言で納得して退出していく。タクトは心の中でケーラに礼を言った。

やがて、エリスは話し出した。

「・・・お兄、ちゃん・・・」

「ん?どうした?」

「・・・なんだか・・・・・・左側、が・・・暗いの・・・・・・」

「あ・・・」

「どう、して・・・・・・?」

「っっ・・・そ、それは・・・」

それだけ、たったそれだけの一言で、エリスは理解した。――――――自分は、左目を失ったのだと。

「・・・やっ、ぱり・・・・・・罰、なのかな・・・・・・」

「違う!!エリスは悪くない!悪いのは・・・助けてやれなかった俺だ!!」

「・・・でも・・・私、悪い・・・こと、たく・・・さん・・・しちゃっ、たし・・・」

「違う、違うんだ!!エリスは悪くないんだ!!悪いのは・・・!!――――――」

 

 

 

――――――何かが、頭をよぎった。

 

 

 

「・・・悪いのは・・・」

 

 

 

――――――瞬間、青き聖戦者の姿が、脳裏にフラッシュバックされる。

 

 

 

「悪いのは・・・」

そうだ、いた。一番悪い奴が。

こんなことになった原因を作った奴が。

「悪いのは・・・・・・エリスを、こんな目にあわせた・・・・・・裕樹(あいつ)だ・・・・・・っっっ!!!!」

許せなかった。大切な、大事なエリスを、こんな目にあわせた裕樹が。

やめてくれ、と言ったのに、あの男は・・・!!

許すわけにはいかなかった。

奴は、裕樹だけは、許せるわけがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、タクトはエクスを自室に呼びだした。

エルシオールは搭載機の修理、強化、及び補給をかねてEDENのスカイパレスに停泊しており、その時間でのことだ。

タクトは率直に、対ラストクルセイダー戦略を手伝って欲しいとエクスに告げた。それはこれまでエクスがもっともラストクルセイダーと戦っており、実体験を伴ったデータを作成できるからだった。

エクスも断ることなく、二人は瞬く間にデータを作り上げていった。

 

 

 

「・・・やっぱり、この“SCS”っていう技法がやっかいですね。これをどうにかしないと」

エクスがため息まじりにデータを見ながら告げる。

そもそもラストクルセイダー、正しくは裕樹の接近戦での操作技法である“SCS”はパイロットの腕ではどうしようもないものだった。ほとんど神技の領域にまで届いているので、対抗しようがないのだ。言い換えれば、ちとせに狙撃戦で戦うくらい無謀なものだ。

「ラストクルセイダーは天性の才能といわれるくらい接近戦での戦闘能力がズバ抜けているんだ。だから・・・」

タクトはコンソールを操作し、別のデータを映し出す。

「やっぱりこの“アジリティ・システム”に頼るしかないな」

「・・・あの、タクトさん」

「ん?」

エクスはしばし躊躇した後、ハッキリと告げた。

「お、俺の機体にも、その、アジリティ・システムを搭載してくれませんか?」

「エクス・・・?」

タクトは驚き、エクスを見つめた。

兵器やその強大な力を嫌悪しているエクスが、自ら“力”を望んだのだ。

言ってしまえば、これは復讐に近い。だが、エクスを深く関わらせてしまっていいのだろうか?

「俺、初めてなんです。軍に入ってから、初めて力を望んだことが。・・・それに、約束したんです。ティアと・・・」

紡がれた言葉の真意を理解することは出来なかったが、その信念は充分過ぎるほどに伝わった。

「わかった、俺からEDENに申請しておくよ」

「あ、ありがとうございます」

タクトは、エクスが立派に思えた。

自分は復讐という負の感情で戦おうとしているのに、エクスは違った。己の信念のためだ。

タクト自身、感情に流されているのはわかっていた。止めようとも思わないのも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それより4日後、正樹は正直嫌な気持ちに包まれていた。

スカイパレスに停泊してからというもの、ここ最近のタクトとエクスの行動は尋常ではない。

無論、正樹には彼らが対ラストクルセイダー用の攻略戦術を立てていることは気づいていた。だが、止める事もできず、ただ傍観するしかなかった。しかも、彩は未だにグランディウスを修理してくれない。決して嫌がらせではないことはわかっているが、いくらなんでも時間がかかりすぎだと思う。

そして、極めつけはこの格納庫だ。今、修理と同時に100人を越える整備員が様々な機体の強化改造を進めてる。なんでも強化プランはシャトヤーン本人が直接立案したらしく、驚くほどにスムーズに作業が進んでいた。後、タクトとエクスが提案した“アジリティ・システム”というのも気になる。

そんな中、正樹はやることもなく、キャロルのファウンダーの整備を手伝っていた。タクトとエクスの改造を手伝うことも出来だが、ストレートに親友を撃つための手伝いなど出来るわけがなった。

そんな正樹は今、ファウンダーのウイングの接続面に首を傾げていた。

「?どーなってんだここ?おーいキャロル!!ちょっと左翼のウイング動かしてみてくれねぇか?」

相変わらず返事はなかったが、ウイング部分が動き出したのを見ると、聞いていてくれたようだ。

接続面の調整を終え、正樹はコックピットまでよじ登る。と、キャロルがこちらに気づき、顔を向けた。淡い緑色の長髪が小柄な体に妙にマッチしていると、今更ながら思わされる。

「キャロル、ウイング動かすなら一声かけてくれよ。手ぇ突っ込んでたら危ねぇだろ?・・・な?」

言うと、キャロルの目尻がほんの僅かに下がる。かなり気づきにくいが、これはキャロルの申し訳ないという気持ちの精一杯の表現なのだ。

「いいって。別に怪我したわけじゃねぇからな」

軽くキャロルの頭を撫でてやる。と、キャロルは再び無表情に戻ってしまった。もっとも、それがキャロルの照れ隠しなのだとわかっている。

そのやり取りが、少しだけ気分を晴れやかにしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリスはベッドから体を起こし、本を読んでいたところで医務室のドアがノックされ、本をふせた。

「はい・・・どうぞ?」

「元気?エリスちゃん」

入って来たのはミルフィーユだった。手には手作りのカップケーキがある。

「ミルフィーさん」

この二人。最近非常に仲が良くなっていた。

今となってはそう難しくもない義眼の手術を終え、左目の包帯もとれている。

すでにミルフィーユは過去の真実、そしてその元凶が自分の運のせいだとも告げていた。だけど、エリスはそれを笑って許してくれてた。

――――――今、またこうして逢えたから。

そう言って微笑んでくれた笑顔は、彼女が心優しい人物だと一目で理解できた。

ともあれ、ミルフィーユにとってエリスは義妹だし、エリスにとってミルフィーユは義姉なので、一応の家族同士である二人は自然と仲良くなっていた。

「わ、このカップケーキ、すごくおいしい」

「えへへ、よかった」

エリスはフォークで丁寧にカップケーキをすくい、口へ運んでいく。ミルフィーユはたまらなく和みを感じた。それと同時に、ここまで重傷を負わされ衰弱したエリスを見るのはとても辛かった。

だからこそ、ミルフィーユも許せなかった。エリスをこんな目に合わせた裕樹たち、特に実の姉である美奈だけは。

――――――エリスちゃんは、私たちにとって家族同然なのに・・・!!

それが逆恨みに近いことはミルフィーユも解っていた。だけど、だから納得しろというのは無理な話だった。

と、エリスが急に無邪気な笑顔で問いかけてきた。

「ね、ね、ミルフィーさんとお兄ちゃんの出会いってどんなのでした?」

「え?私と、タクトさんの?」

「はい!」

思い出したら顔から火が出そうだった。なにせ自分は吊り上げられていたのだから。

「・・・どうしたんです?」

エリスの追及は消えない。―――正直に暴露するしかなかった。

「・・・・・・クレーンがスカートに引っかかって、吊り上げられたところをバッタリと」

あまりにも殺伐したラブストーリーのように感じた。いや、むしろ壮絶か。

「・・・・・・なんていうか、凄いですね」

自分を凝視しているエリスの視線が辛い。引きつった笑顔を浮かべていると、助け舟が来てくれた。

「二人とも、なにしてるんだ?」

「タクトさん・・・」

「あ、お兄ちゃん」

話題の人物、タクトも入室してきて、ミルフィーユの隣に座る。

「エリス、元気か?」

「うん、元気だよ」

「そっか」

言いながらエリスの頭を撫でてやると、なんとも嬉しそうに笑顔を浮かべた。

その仲の良い兄妹を見ていると、思わず自分の妹を思い浮かべてしまう。

(リコ・・・今頃なにしてるのかな)

と、タクトが急に真面目になりエリスに問いかけた。

「エリス。今は俺たちはEDENに居るけど、しばらくしたらまた出航しないといけないんだ」

「あ、うん」

「それで・・・・・・エリスは、どうする?」

「・・・お兄ちゃんやミルフィーさん、それにレスターさんと一緒に居たいな・・・」

「よし、なら一緒に行こう」

考える時間ゼロ。しかも躊躇の時間もゼロ。まさに即決だ。

「え、いいんですか?タクトさん」

「うん、なんとかする。それに、今回ばっかりはレスターも反対しないさ」

なんとなくわかる。彼ら三人は幼い頃の三人組なのだから。

ミルフィーユはそんな彼らの間に入れないのが、少し残念に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん・・・マズイな」

「まずいですね・・・」

「裕樹さん、どうします?」

賑やかに悩みながらブリッジに入ってきた裕樹、ちとせ、ヴァニラに、ブリッジのクルー全員が振り返った。

「裕樹、どうした?」

「あー・・・食料が底をつきそうなんだ。あとその他の補給物資も」

食料を先に言う辺りに、ヴェインスレイらしさが滲みでた。美奈、京介、春菜、ミント、和人が思わず引きつった。

「・・・マジ?」

「・・・スーパーマジ」

「うそおぉぉぉ〜」

悲観的に美奈が崩れ落ちた。

「・・・真面目な話、そろそろ補給が必要だね」

「今まで一度も補給してませんからね。裕樹さん、どうします?整備する側としてはいくらか余裕があった方が・・・」

京介、春菜の言い分はもっともすぎた。

「わかってるよ。しかし補給となると・・・」

事実上、裕樹たちヴェインスレイのバックアップはレスティのファクトリー以外ない。組織自体は各地にあるのだが、整備と補給がまともに受けるにはレスティに戻るしかない。

「迷うことないんじゃねーか?第一食料がもたねーんだろ?」

和人の意見はもっともだ。選択の余地はない。

「・・・仕方ない。レスティに戻ろう。物資も後3日は持つだろ」

「ここからレスティまでは・・・―――2日もかからないね」

結構ギリギリかもしれないが、京介も気にしないでおいた。

「よし!進路730PI082へ!レスティに直行!!」

和人の指示でヴェインスレイが方向を変え、動き出す。

そんな中、ミントが気まずそうに告げた。

「あ、あの・・・裕樹さん?」

「?どうしたミント」

「私も・・・行ってよろしいんですの?その、レスティに・・・」

考えてみれば、ミントは協力してくれているが正式にヴェインスレイのクルーになっているわけではないのだ。ブリッジが少しだけ緊張に包まれる。

「・・・ミントが行きたいっていうなら、俺は構わない」

「え・・・?で、ですが・・・」

「・・・京介、後まかした」

いきなり話を振られるが、京介は焦った様子もなく、ミントに告げた。

「ミント、僕たちは強制するつもりはないんだ。だから、ミントは・・・どうしたいの?」

「――――――・・・・・・いても、よろしいのですか?」

ミントのおずおずとした問いかけに、京介たちは笑顔で応えた。

「居てくれると、嬉しいよ」

返事とばかりに、ミントは満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、タクト、レスターはシヴァ、ノア、シャトヤーンとの通信を行っていた。

『本当に良いのか、マイヤーズ。あの者たちは・・・』

「・・・今の彼らは、トランスバールにとって敵でしかないんです」

シヴァの問いにもタクトは悠然と答える。シヴァは気まずそうになり、咄嗟に隣のノアを見つめた。

『いいんじゃない?現場にいる方がそーいうのはわかるでしょ』

『・・・・・・わかった。マイヤーズ、クールダラス。そなたたちの判断にまかせよう』

「はい、ありがとうございます」

と、タクトはシャトヤーンの視線に気づいた。

悠然としたその表情、視線。――――――それが、何故か違和感を呼び起こした気がした。

『マイヤーズ殿、どうかお気をつけて・・・』

「はい、ありがとうございます。シャトヤーン様」

そうして、タクトとレスターは通信回線を閉じた。

しばらくじっとしていたタクトに、レスターが告げる。

「タクト、お前が決めたことだろう?」

「・・・ああ。そのために俺の機体と、キャロル以外のエンジェル隊の紋章機も強化改造を終えたんだ・・・」

「なら、迷うな。相手が相手だからな」

頷き、レスターを見据え、彼に告げた。

「・・・・・・よし、俺たちは・・・ヴェインスレイを撃つ!!―――“ロスト・クルセイダー作戦”、開始だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時が、破滅へ動き始めた。