第十四章「聖戦者の最期」
「――――――っっ!?高エネルギー反応!!艦の目前に・・・―――」
オペレーターの報告が終わるより早く、ヴェインスレイの前方に超高エネルギー体が放たれ、極太のビームが足止めの如く通りすぎた。
「い、今のはっ!?」
「エネルギー体、熱紋、出力より識別・・・・・・これは、クロノ・ブレイク・キャノンですっっ!!」
オペレーターの報告に、ブッリジが凍りついた。
「な・・・エルシオール!?」
「そんな、どうしてっ!?」
驚愕する京介、ミントをよそに、裕樹は即座に原因を追究する。
EDENでの戦いからすでに2週間が経過している。その間、エルシオールは恐らく修理に時間を費やしたのだろう。
それに何より、裕樹にはなんとなく攻撃の理由がわかっていた。
自分たちはこれまで、エルシオールの搭載機を何機も撃墜してきた。それは当然、彼らにとっては仲間を落とされたことに直結するのだから、散々恨みを買ってしまったのだろう。何より、極めつけは先日のEDENでの戦闘。あの時、自分はタクトの妹を撃ってしまったのだから。
タクトが本気で怒った時の行動力の高さ、そしてその恐ろしさは裕樹も充分に理解していた。
だから、今回は彼らの復讐とでもいうのだろう。理由などいくらでもこじつけられるのだから、軍の行動としても認められているに違いない。
「裕樹・・・?」
美奈の声に裕樹は我に返り、即座に指示を飛ばす。
「っっ!!仕方ない!!みんな、戦闘態勢にっっ!!」
「「「「了解っ!!」」」」
「ミント!!君はここで待機しててくれ!!」
「・・・・・・っっ!!―――・・・わかり・・・ましたわ・・・」
そう、今回の相手はエルシオールだ。今だその存在を隠しているミントはここで出撃するべきではない。
クルーは全員理解しつつ、パイロットは格納庫へ、ブリッジクルーは戦闘態勢への移行を急いだ。
一方、エルシオールでは牽制のクロノ・ブレイク・キャノンが発射されたと同時に、全機発進態勢に入っていた。
『発進シークエンス、開始します。エンゲージ確認、各紋章機、各IG、射出デッキ及びカタパルトへ。―――接続確認。システムオールグリーン。各機発進、どうぞ!!』
アルモの声が格納庫に響く中、唯一機体のない正樹はやりきれない思いで機体を見つめていた。
止められない悔しさを胸に、正樹は裕樹たちが無事に逃げ延びてくれるよう祈っていた。
(気をつけろ、裕樹。今のこいつ等は・・・ハンパねぇ強さだぞ・・・!!)
直後、準備の整った機体が一斉に発進する。
「ミルフィーユ・マイヤーズ、アルティメットラッキースター、行きます!!」
「ランファ・フランボワーズ、シージ・カンフーマスター、行くわよ!!」
「フォルテ・シュトーレン、クロノトリガー、出るよ!!」
「・・・ファウンダー、発進・・・」
ミルフィーユは出撃して、即座に光の翼を出現させ、華麗に宇宙を舞う真紅の機体へ真っ直ぐに向かう。
「エクス・ソレーバー、ゼファー・ラーム、行きます!!」
「タクト・マイヤーズ、ギャラクシーウイング、出るぞ!!」
そしてエクスは赤き翼を広げ、タクトは銀色の翼を展開し、青き聖戦者の下へ加速した。
「!?アンノウン機が、6機!?」
ちとせはレーダーを見ながら識別不能機をモニターに回した。
「これは・・・まさか!?」
姿形こそ違うが、その原型は即座に理解できた。あれは、新しい紋章機だ。
「裕樹さん!!エルシオールから新型機が・・・―――」
言い終わる前に目前に反応弾を撃ち込まれ、強烈な閃光と共にバランサーの一つが破壊される。
「!!この距離から!?」
自身にとっての得意距離からの砲撃に、ちとせは思わず判断に迷う。その直後、恐るべき速度でクロノトリガーがシャープシューター・レイの側面に回りこんだ。
(この速度・・・!?メテオトリガーが!?)
従来のメテオトリガーとは比べ物にならない程に、速い。
「ちとせぇ!!今日で・・・っっ!!」
ダブルレーザーを放たれるが、即座に旋回して射線から逃れる。が、更にそこにクロノトリガーが回り込む。
(・・・っっ!!速い!?)
放たれたフォトントーピードをガトリングガンで迎撃し、流れを殺さずに移動するクロノトリガーを照準に捉えた。――――――直後、背後にレールキャノンを撃ち込まれ、スラスターが破壊される。
「え・・・!?」
ちとせにはまるで理解できなかった。なぜ、正面にいるのに背後を撃たれるのだろう。
これには、クロノトリガーのドライブトリガーが原因だった。瞬間的にクロノ・ストリング・エンジンの稼動を臨界点まで引き上げ、エネルギー消費を4倍にする変わりに、自分が放った弾丸よりも早く機体を動かしたのだ。
「アタシは、もう迷わない。・・・ちとせ・・・アンタを、叩きのめすっっ!!」
「っ、フォルテ先輩!!」
クロノトリガーの二門のクロノ・インパクト・キャノンを側転して避け、フェイタルアローを構えるが、一気にゼロ距離まで詰め寄られた。
「・・・っっ!!」
ちとせの目が、大きく見開かれる。
フォルテは容赦なく、リニアレールキャノンでシャープシューター・レイを吹き飛ばした。
「ちとせさん!?」
ヴァニラはちとせを援護すべく、すでにイネイブル・ハーベスターとドッキングしているエスペランサのHLプラズマブレードを振り上げたが、その発生装置を驚異的な速度のアンカークローが貫いた。
「!?」
「ヴァニラァァァァァッッッ!!!!」
肉薄してくるシージ・カンフーマスターに、後退しつつ大量の対艦ミサイルを放ったが、シージ・カンフーマスターは特殊鋼切断ワイヤーに強化したワイヤーで、対艦ミサイルをまるでバターをようにスラリと切り裂いた。
「えっ・・・」
直後、シージ・カンフーマスターはエスペランサのスラスターをビームガトリングで破壊した。
「っ!!」
苦し紛れに、振り返りながらHLプラズマブレードを振り払うが、シージ・カンフーマスターは持ち前の最速の速さでやすやすと回避する。
「そんな攻撃なんかに!!」
「ランファ・・・さんっっ!?」
気迫が、闘志がまるで違う。
シージ・カンフーマスターがヴァニラの目前に迫った。
「ちとせ!!ヴァニラ!!」
裕樹は目前まで迫るゼファー・ラームを無視し、二機の援護に向かおうとする。
その、まるでエクスが眼中にないような動きにも、エクスは熱くなることはなかった。
落ち着いて、冷静になれ。熱くなっては、勝てる見込みはないのだ。
エクスの瞳の奥で6つの結晶が集束し、光の粒子と共に弾け、解放した。
「行くぞ・・・!!ラストクルセイダーッッ!!!」
エクスは強化型銃剣「オメガ」を構え、ラストクルセイダーに向けビームを連射し、足が止まったところでスラスター全開で接近する。そして、肉薄する直前でラストクルセイダーが視界から消える。
(来る・・・!?)
殺気に近い刺激を受け、エクスは反射的に機体を右へそらす。刹那、先程の空間にヴェレスティセイバーの神速の斬撃が通り抜けた。
「負けない・・・!!負けるわけにはいかないんだっっ!!」
約束がある。決意がある。想いがある。
だから、道はたった一つ。その道を、突き進む。
後退するラストクルセイダーにゼファー・ラームは更に接近する。
「く・・・!?」
「・・・・・・ティアも、クリスも、セリシアも、みんな・・・・・・大事な、大切な仲間なんだ」
今は傷つき、白き月に居る、仲間たち。
ヴァレスティセイバーと“オメガ”が正面から激突し、互いに強烈な衝撃が走る。
「ずっと、一緒にいたいから・・・・・・だから、俺が戦うんだ。・・・みんなを、守りたいから・・・!!」
「っ!?何を!?」
ラストクルセイダーの手首が動く。―――瞬間、SCSよりも早く“アジリティ・システム”を発動し、一気にラストクルセイダーを突き放した。
「だから、俺は強く・・・強くなりたい・・・!!」
ラストクルセイダーが苦し紛れに放ったビームレイをシールドで防ぎ、振り払う。
「・・・ラストクルセイダーッッ!!!今ここでアンタを倒して・・・俺はアンタを超えてやるっっ!!!!」
守りたい。ただそれだけ。
その迷いのない、強き一つの信念。
それが、今のエクスが揺るがぬ強さの理由だった。
ゼファー・ラームは大きく「オメガ」を振りぬいたが、絶妙のタイミングでラストクルセイダーは急制御をかけ、ゼファー・ラームの真上に回りこむ。そして間髪いれずにヴァレスティセイバーを繰り出した。
だが、不自然なくらいギリギリのところでその斬撃は届かず、ラストクルセイダーは慌てて距離を取る。
「なんだ・・・今の・・・?」
今の外した、というより外された、と言うほうが正しい。
直後、真上からの大量の砲撃をその間を舞うように避け、反射的に斬り迫ろうとするが、何故か対象がいきなり目の前に迫っていた。
その姿、銀色の翼を背負った機体は、ウイングバスターに違いなかった。
「裕樹ぃぃぃぃぃっっっっ!!!」
「タクト!?」
せり合った状態での接触回線で、互いの声が通る。
「お前がエリスを傷つけたっっ!!」
直後、何もされていないのにギャラクシーウイングから突き放される。
「っ!?」
「やめろって言ったのにっっ!!!」
両肩、両腰、両足に加え、後翼そのもののビーム砲である6砲の「リヒト・メガバスター」とレールキャノンを避け、大型ティアル・ライフルを構えるが、エクスのゼファー・ラームの銃剣「オメガ」のビームがライフルを破壊する。
「くっ!?」
「逃がすかぁぁぁぁっっっ!!!!」
後退するが、何故か機体が思うように動かず、ゼファー・ラームが急速に迫り、「オメガ」を振りかぶられる。
「っ!!引き寄せられるっ!?」
「でやぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
裕樹の瞳の奥で6つの結晶が集束し、光の粒子と共に弾け、解放した。
確実に真っ二つにされる斬撃を足のスラスターのみを稼動させ上体を反らすという、あり得ない体制で回避する。
「何!?」
その状態でダブルセイバーである“セイクリッドティア”に持ち替え、機体ごと回転させゼファー・ラームのシールドに斬りつけた。その直後にタクトのギャラクシーウイングの“ハウリングバスターキャノン”の直撃を受け、左側の後翼を全て破壊される。
「ぐぅ・・・っ!!」
「裕樹・・・!!―――お前の、お前のせいで・・・っっ!!!」
「・・・っっ!!」
「美奈、姉さん!!」
ヴァナディースとアルティメットラッキースターは旋回しながらライフルとレールキャノンを対角線上に撃ち続けた。
「ミルフィーッ!!どうしてこんな!?」
一瞬の隙にメノスソードを抜き、接近するが、それに合わせてアルティメットラッキースターは8つのシリンダーを展開した。
「えっ!?」
オールレンジで放たれる“エンジェル・シリンダー”を咄嗟に回避するが、その直後を“クロノ・インパクト・キャノン”で撃たれ、右腕がライフルごと吹き飛ぶ。
「・・・く・・・っ!!」
「美奈・・・さん!!あなたにとってもエリスちゃんは家族なのに、それなのにあなたは・・・・・・っっ!!!」
アルティメットラッキースターから発射された4つのビームブーメランを左手のメノスソードで次々に弾くが、トゥインクルセイバーを展開した突撃は避けようもなく、背後の装甲を削られる。
「ぐっ・・・!!そこ!!」
直後にヴァナディースは背を向けているアルティメットラッキースターに胸部ビーム破城砲“ライジングノヴァ”を発射した。その軌道は確実にアルティメットラッキースターに直撃するはずだった。だが、
(甘いです!!美奈さんっっ!!)
「テルア・リラメクスッッッ!!!」
極光の帯ともいえる光の膜がアルティメットラッキースターを包み込み、“ライジングノヴァ”を無反動で跳ね返した。
それらが予測できなかった美奈は対応が遅れ、ヴァナディースの頭部が自身の“ライジングノヴァ”によって吹き飛んだ。
「そんな・・・今のを、弾いた!?」
強烈な衝撃がコックピットを襲う中、美奈はレーダーで明らかに追い込まれているラストクルセイダーに気づいた。
(・・・!!裕樹が、危ない!?)
ハッとした時には、アルティメットラッキースターがこちらを捉えていた。
「今度だけは、あなたを許せないっっっ!!!」
「なんだ、あの紋章機・・・?」
京介は目の前に展開している見慣れぬ紋章機を見つけ、急制御をかける。
「黒い・・・紋章機!?」
途端、その紋章機が脈絡もなしにH.V.S.Bを放ち、京介は慌てて回避行動をとる。
(くっ・・・!!)
実に的確にビームを連射し、旋回を同時にビームファランクス、6連装ミサイルランチャーを発射。こちらに攻撃の隙をまったく与えない的確な動きだ。だが、どこか違和感を覚える。
「なんだ・・・このパイロット・・・!?」
うまく説明できないが、なんというか人という感じがしない。本来、どんなパイロットでもそれぞれに操縦のクセというものが存在する。だが、このパイロットはそういうのが一切ない。まるで、無人兵器と戦っているかのような印象を受ける。
嫌な感じを憶えた京介は大きく回りこみながらミサイルをライフルで迎撃。側面から連装バスターキャノン、リニアレールキャノンを発射する。
この攻撃に対し、ファウンダーは機体をバレルロールさせながら機体を沈ませる。
瞬間、レーダーが機体を捕らえられなくなった。
「!?」
直後にはレーダーに多数の同じ紋章機の熱源反応が表示された。
「これは・・・デコイ!!しかも事前にフレアとチャフを同時に放ったのか!?」
慌てて機体を視認しようとするが、黒い紋章機は普通じゃなかった。何故か機体全体から光度の高い光を高速で点滅させているのだ。あれではむしろ目立っているだけではないか。
京介は容赦なくティアル・ライフルを紋章機に向ける。こんなところで時間を潰すわけにはいかない。急いで他のみんなの援護に向かわないといけないのだ。
「残念だけど・・・これで!!」
一斉にビームを放つ。―――――――――だが、それらは機体をすり抜けていった。
「な・・・?」
瞬間、機体が眩しいぐらいにぼやけてきた。
そうして気づいた時には、周囲にぼやけた機体の幻影が見える。――――――これは、この幻影は光をずっと見続けた後、目にしばらく残る光の残像に似ている。
京介は機械と視覚の両方を“光の幻影”に翻弄され、放った攻撃全てが幻影を捉えており、一向に直撃しない。
直後、幻影と思っていた機体から放たれたビームに対応できず、直撃を受けてしまう。
「くそっ・・・こんなっ!?」
京介は自分の認識が甘かったことに今更ながら気づいた。
この相手は強敵なのだ。さっさと片ずけられるわけがなく、全力で立ち向かわないといけなかったのだ。
「くっ!!」
後悔の念に駆られている隙に、ゼロバスター・カスタムの左足がファウンダーの“アカシックリライター”により跡形も無く吹き飛んだ。
「京介さん!!裕樹さん、美奈さん、ヴァニラさん、ちとせさん・・・っっ!!!」
ブリッジのCICに座っていたミントが悲痛な声を上げる。
ラストクルセイダー等は、なおもエンジェル隊の猛攻にさらされていた。エンジェル隊の戦闘力はこれまでのものとは比べ物にならない程に高まっており、裕樹たちを超える強さを誇っていた。
――――――このままでは危ない・・・!!
ミントは先程から思っていた予感が現実的になってきたことに焦りを感じていた。
ヴェインスレイはなんとかして空間跳躍、“クロス・ゲート・ドライブ”を行おうとしてリ・ガウスに逃げようと思っていたが、戦っている裕樹たちを置いていけるわけもなく、エルシオールからの攻撃に防戦一方だった。
「くそ!!なんとかして裕樹たちに援護はできないのか!?」
「無理です!!あまりにも戦闘が激しすぎて・・・敵機のみを狙うのは不可能です!!」
和人とクルーの叫びが飛び交う中、ミントは堪えきれずに席を立つ。
「私が行きますわ!!トリックマスターを!!」
「駄目だミント!!行くんじゃねえっ!!裕樹や、京介の気持ちを無駄にする気か!?」
今ここでミントを出撃させてしまってはミントはもう二度とエンジェル隊には戻れない。京介や裕樹はそんなミントの気持ちを解ってあげたからこそ、ミントとエンジェル隊が戦う状況だけはなんとか回避してきたのだ。
「でもっ・・・!!京介さんが・・・っっ!!」
「京介を・・・裕樹を信じろ!!大丈夫だから!!」
「くそ・・・!!タクトッッ!!」
ギャラクシーウイングとゼファー・ラームに追い込まれ、裕樹は焦りの声を上げた。
咄嗟に裕樹は他の仲間を見ると、全機が非常に危険な状態だった。
「裕樹・・・っっ!!」
ギャラクシーウイングから放たれるビームは鋭い速度で浴びせられてくる。
「人の強さは・・・心の強さ・・・!!」
「!?」
迫る銀色の翼から、タクトの声が機体に響く。
「裕樹・・・君たちみたいに、誰にも事情を話せないような思いで、俺たちを倒せると思うな!!」
「タクト・・・ッッ!?」
「裕樹がやろうとしていること・・・それは確かに大事なことかもしれない・・・。でも、その気持ちよりも、俺が俺の大事な人を守る気持ちのほうが強いっっ!!――――――裕樹っっ!!君に・・・ミルフィーやエリスを傷つけさせるわけにはいかないっっっ!!!!!」
ギャラクシーウイングのビームを斬り返そうと振り向いた時、その一発が“セイクリッドティア”ごと右腕を撃ち抜いた。
「・・・ざけるなよ」
「裕樹!?」
「・・・ふざけるなっっ!!その思いは大事だ!!だけどっっ!!お前に救えるのか!?タクトっっ!!!」
「なにっ!?」
瞳の奥で光の粒子が集束し、強烈な光の閃光と共に光の亀裂が走った。
“オーバーリバレーション”裕樹の瞳は透き通る蒼穹の色を持ちながらも、鬼の如く鋭い瞳へ変化する。
「白き月が・・・シャトヤーンが引き起こしている絶望を止めれるのかっっ!!??――――――その絶望を・・・っっ!!」
「っっ!?」
一瞬のうちにセラフィックフェザーが発動し、ギャラクシーウイングに迫りつつ、残る左手でヴァレスティセイバーをラケルタ状にする。―――後ろで何かの警報が鳴っていたが、耳に入らなかった。
「タクトの正義で・・・晴らせるっていうのかよっっっ!!!!!!」
その加速は凄まじく、ギャラクシーウイングの“アジリティ・システム”の斥力を超えていた。
届く。間違いなく届く。
このまま腕を突き出せば、間違いなくこの機体のコックピットを貫け・・・・・・
――――――瞬間、世界が止まった。
俺は、何をしている?
このまま突き出せば、死んでしまう。殺してしまう。
大切な友人である、タクトを。
裕樹は瞬時のうちにコックピットを外し、ギャラクシーウイングの頭部を貫いた。
しかし、その隙をタクトが逃すわけがなく、その距離で“フルフラット”を放たれ、多大なダメージと共に吹き飛ばされる。刹那の隙も与えられることなく、目の前に巨大な銃剣を振りかぶるゼファー・ラームが映しだされた。
――――――ダメだ・・・!!!
その光刃に垣間見える、死の具現。
振り下ろされた刃が頭部、左腕を一気に斬り飛ばした。
その隙すら逃さず、ギャラクシーウイングが凄まじい勢いで、ホーリーセイバーを深々とラストクルセイダーの中心に突き刺し、貫いた。
コックピットが警告音から轟音にのみ込まれる。
残る僅かな意識の中、裕樹は至近距離にいるギャラクシーウイングへの誘爆を防ごうと、機体全ての機能を停止すべく手を動かした。だが、間に合ったのかどうかは、裕樹にはわからなかった。
最後までタクトを庇った行動が正しいのか解らぬまま、頭を強く打ち、信じられないほどの死に直結するかのような激痛が全身に走る。
そして、全ての感覚が消失しながら、裕樹の全ての意識が消え去った。
その瞬間を偶然にも、美奈は直視していた。
「・・・・・・え・・・・・・?」
時間が止まった気がした。自分の見ているモノが理解出来なかった。
――――――ラストクルセイダーが、貫かれている・・・・・・?
直後、爆発が起きた。普通のIGが爆発するのより、遥かに大きい爆発が。
「え・・・・・・えっ・・・・・・?」
その爆発の中、一機のIGが現れた。――――――銀色の翼を携えたIGが。
周囲には原型すら理解できない、青い装甲板が無惨にも漂っていた。
声が、出なかった。
いや、本当は泣き叫んでいたのかもしれない。
ただ、自分の耳には、何も聞こえなかった。
――――――裕樹
その言葉を、人物を求め、ヴァナディースは後退したギャラクシーウイングのいた宙域へ反射的に機体を向かわせていた。
その直後、放たれていたアルティメットラッキースターのビームブーメランが右足を切断し、ヴァナディースの装甲を容赦なく斬り刻んだ。
モニターを染めた光が消え去った後、正樹と彩は唖然として立ち尽くしていた。
爆発の中、現れたのはタクトの機体だけだった。
「あ・・・・・・ああ・・・」
「そん、な・・・・・・裕樹、が・・・?」
正樹も彩も、声が震えていた。
俄かには信じられなかった。裕樹は、7年前の解放戦争から一度も負けたことがないのだ。どれだけ不利であっても、どんな状況でも、裕樹は生き残ってきた。前大戦、“パレスティル統一戦争”でもそうだった。
その彼が、今、目の前で敗れた。
皇国の英雄、EDENの英雄と呼ばれた、彼の友人のはずのタクト・マイヤーズに。
「あ・・・・・・・ゆう、き・・・・?裕樹・・・・・・?」
「・・・裕樹・・・嘘、どう・・・して・・・・・・?」
絶望が二人に襲い掛かった。
裕樹が、自分のもっとも親しい友が、一瞬にして失われた。
「嘘・・・だろ・・・っっっ!!!――――――裕樹ぃぃぃぃぃっっっっっっ!!!!!!」
正樹の叫びが、エルシオールに響き渡った。
それは、クルー全員の心が痛んだ瞬間でもあった。
――――――ここに、青き聖戦者は消えた。