第十八章「アークトゥルス侵攻作戦」

 

 

 

 

 

 

出撃した4機は、タクトを中心に展開し、プレリュード軍との戦闘を開始した。

タクトはギャラクシーウイングの16もの砲口を一斉に解放し、大量のヴァラグス、及び敵新型機であるメルーファ、メノカトラスを撃ち抜き、IGの防衛ラインに穴を空ける。

「今だ、ミルフィー!!フォルテ!!」

その隙間をアルティメットラッキースター、クロノトリガーが全速力で突破する。それを追撃しようとした敵機をエリスのΣバルキサスがティアル・ライフル、集束ミサイルで撃墜する。

即座にタクトとエリスの周囲を敵IGが取り囲むが、二機は互いの背後を守りつつありったけの武装を放ち、周囲を爆煙に包んだ。

「エリス、片方を頼む!それと、あまり俺から離れるなよ!」

「わかった、お兄ちゃん!」

返事を聞いた後、タクトは銀色の翼を展開し、急速に加速して敵機の脇を抜けていく。銀色の翼は非常に目立ち、敵の攻撃を引き付けてしまうのだが、この超高速なIGにはまるでかすりもせず、攻撃をことごとく回避する。

「もうこれ以上、トランスバールを・・・!!」

ホーリーセイバーを抜き、すれ違いざまに次々と敵を切断していく。

その銀色の翼に恐れをなしたか、後退していく敵機を手首のビームキャノン、背部からのビームレイで逃さず追撃し、前方を「オメガブラスター」で一気に薙いでいく。その姿は、恐ろしくも神々しく感じられた。

 

 

 

 

 

Σバルキサスの背後に回りこんだメノカトラスに、エリスは素早く機体を反り返してティアル・ライフルでメノカトラスを撃ち抜いた。直後、メノカトラス、メルーファに挟まれ、後退しつつ集束ミサイルを放つが鮮やかに回避され、二機の銃口がΣバルキサスをロックオンする。

「なに・・・あの機体!?」

それは今までに見たことのないIGだった。明らかにプレリュード軍の新型量産機なのだろうが、自分が居た頃にそんな情報はなかった。一体いつの間にこれほどの機体を製造していたのだろう。何よりこの二機、ヴァラグスに比べて圧倒的に速い。

放たれたビームに対し、エリスはシールドを構えるが、そのビームを遠距離からのビームが完全に相殺してくれた。

「お兄ちゃん・・・?」

遠距離からの、タクトのギャラクシーウイングの支援だった。というか、よくこの遠距離から正確にビームだけを相殺するものである。

(お兄ちゃん、すごいなぁ・・・。私も頑張らなきゃ!!)

即座に機体を沈ませ、メガビームバズーカで二機を撃墜した。

更に迫るヴァラグス、メルーファ、メノカトラスに、エリスは速度、貫通力を高めたH.V.S.B、ビームバズーカ、ティアル・ライフル、集束ミサイルを順に発射する。ヴァラグスはその火線に飲み込まれたが、メルーファ、メノカトラスはスラスターを生かして回避される。

「・・・ここ・・・っっ!!」

射撃の反動の隙を、エリスはキャンセル・リターンシステムで即座に解除。反動を無かったことにして即座にレーザーサーベルを構え、間合いの一歩外から斬り伏せた。そのまま返す刃でメルーファを切断するが、エリスの脳裏には焦りに近いものを感じていた。

(あの新型二機・・・速い。これで量産機なんて・・・!)

ヴァラグスですら前大戦ではリ・ガウスの主力IGだったのに、それらを遥かに上回る性能を保持しているメノカトラス、メルーファ。この二機は宇宙空間における適正が異常に高いのだ。うかつに囲まれるとかなり危険だ。

レーダーに映る機影を確認し、エリスは武装を何も構えずに加速する。

『エリス!?前に出すぎだ、下がるんだ・・・!!』

タクトの忠告が聞こえたが、エリスは更に機体を加速させる。

単独で接近するΣバルキサスに、敵部隊はミサイルを一斉に発射してくる。エリスはそれを目一杯引き付けてから、直前でスラスター全開で回避した後、間髪いれずにビームブーメランを二つ投げつける。―――同時にキャンセル・リターンシステムでビームブーメランを投げた隙を解除。そのままレーザーサーベルを構え、敵部隊を一気に斬り刻んだ。

「エリス・・・無茶するなぁ」

どこか呆れたように心配してくるタクトに、エリスは笑顔で返した。

「えへへ、ぶいっ」

「・・・よし、この調子で行くぞ!!」

再び二機は分散し、エルシオールに近寄らせないように敵機を撃墜していった。

 

 

 

 

 

艦隊からの大量の砲火をフォルテは従来のメテオトリガーではあり得ないほどの速度で回避し、レーザーキャノン、レールキャノンを構え、すれ違いざまに駆逐艦を撃破。同時にメガビームキャノン、反応弾を発射して次々と戦艦を落としていく。

「フォルテさん!!」

ミルフィーユの忠告にハッとすると、クロノトリガーを取り囲むようにIGが動いていたが、アルティメットラッキースターの“エンジェル・シリンダー”で次々と撃ち抜かれ、回避したIGには追撃のビームブーメランで切断する。二機の紋章機は隣接しながらもミルフィーユ、フォルテ共に“クロノ・インパクト・キャノン”で敵艦を撃墜していく。

「フォルテさん、大丈夫ですか?」

「随分ウデを上げたねぇミルフィー。流石はエンジェル隊のエースってところかね」

皮肉抜きの賞賛を入れた後、フォルテはモニターに映るΣバルキサスを見つめる。

「エリスって娘、いいウデじゃないか」

「そうですね」

言いながら、ミルフィーユは更に迫る戦艦を認識する。

「もう少しです。頑張りましょう、フォルテさん!」

言って、ミルフィーユは無数の砲火を避けながらトゥインクルセイバーを展開して、すれ違い様に斬り裂いていく。

フォルテも負けじと、他の戦艦へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僅か4機に壊滅まで追い込まれるなんてな・・・」

旗艦のブリッジに座る青髪の男。プレリュード軍リーダーであり、前大戦、美奈のヴァナディースによって倒されたはずの存在、ヴァイスだった。彼も、1000年前の事件の発端者であった。

ヴァイスはエルシオールから出撃した4機の機体の戦闘力に少なからず感心していた。

(まあ当然か。・・・健治、フィリス・・・―――っと、今はタクトとミルフィーユって名前だったな)

「ヴァ、ヴァイスさん!どうします!?」

押されている状況に焦りを感じている艦長が振り返る。ヴァイスはそれに悠然とした笑みで返事した。

「俺が時間を稼ごう。その間に撤退しろ」

「は、はい!」

ヴァイスはもう見向きをせず、ブリッジを後にした。

 

 

ヴァイスは即座に格納庫内の自分専用のIGに乗り込み、発進準備を進める。

(あの二人め・・・待っていやがれ)

『X−D073WK、メギド、発進よろし』

「ヴァイス・テラ、メギド、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何、あのIG?」

エリスはレーダーに映る急速に接近してくるアンノウンIGに気づき、ティアル・ライフルを構えるが敵機は一瞬で視界から消え去り、次の瞬間にはライフルが切断されていた。

「えっ!?い、一体なにが・・・!?」

直後、背後からロックオンされアラートが鳴り響く。エリスはシールドを構えながら振り向き、タイミングよく放たれていたビームを防ぐことは出来た。が、見慣れぬIGは目前まで迫り、高出力のビームでシールドを吹き飛ばしつつこちらを蹴り飛ばしてきた。

「エリスッッ!!」

直後、死角からのギャラクシーウイングのホーリーセイバーを軽やかに避け、メギドは間合いを取る。同時に、タクトはエリスを庇うように前に出た。

「お、お兄ちゃん!?」

「エリスは下がって!!俺が引き受ける!!」

「う、うん。気をつけて・・・!!」

直後、タクトは無数のビームの奔流をぬぎながら接近し、ホーリーセイバーを一閃する。が、一瞬のうちに視界から消え去り、タクトは直感だけでシールドを構えながら振り返り、斬撃を受け止めた。

「・・・久・・・りだな、健治」

「だ、誰だ!?」

接触回線から聞こえてきたのは、聞き覚えのない、けれど自分を知っているかのような口振りの男の声だった。いや、それよりも・・・

 

 

――――――健、治・・・!?

 

 

そのままの体勢でホーリーセイバーを振りぬくが、予測されていたかのように上昇してかわされる。

直後、視点を上に向けた瞬間には再び正面にメギドが現れ、零距離に近い位置からビーム、ミサイルを一斉に放たれ、間一髪のところでシールドを構える。が、大きな衝撃を受け、吹き飛ばされる。その隙すら逃さずメギドはサーベルを構え、振り下ろしてきたが、タクトはそれを不安定な体勢から右手に持っていたホーリーセイバーをラケルタ状にして、逆手の刃で弾き、受け止める。

「忘れた、とは言わせねえぞ!」

「何を、言ってるんだ!?」

「・・・ああ、そうか。今はタクト・マイヤーズという名前だったな!」

「お前・・・!?」

直後、タクトはギャラクシーウイングのアジリティ・システムの斥力を発動、メギドを突き放す。直後、両肩、両腰のレールキャノンを発射するが、メギドの驚異的な旋回速度に回避される。――――――が、タクトはそれすら読んでいた。

回避した直後のメギドに、今度は引力を発動させ、間合いが崩れたメギドにラケルタ・ホーリーセイバーを振り抜いて左足を切断した。

この見事なまでのIG操作にヴァイスは薄ら笑いを浮かべた。

両機は再び、ビームを乱射しながら周囲を飛び交い続ける。

「変わらないな・・・やはりお前は健治だ!俺の殺すべき相手だ!!」

「人を誰ともわからない名前で・・・!!」

こちらのビームを避け、サーベルを振りかぶったメギドに再びアジリティ・システムの“斥力”を発動。空振りさせた隙を斬りかかるが、即座に持ち替えたサーベルに防がれ、せり合う。

「お前自身は覚えていなくとも体は、・・・いや、魂は覚えているだろう!!」

「何なんだ・・・誰なんだ、アンタは!?」

「・・・“命泉”の聖刻の所有者、ヴァイスだ」

「ヴァイ、ス・・・?」

「・・・次には思い出しておけよ、健治。いや、タクト・マイヤーズ。お前だって“裂刃”の聖刻を持っているんだからな」

刹那、せり合っていたはずなのに姿を消され、気づいた時には遥か遠方まで逃げられていた。

(逃げた・・・?いや、逃がされたのか・・・?)

「タクトさん!」

「タクト!」

タクトが息を切らしながら呆然としていると、ミルフィーユとフォルテが援護に来てくれた。

どうやら敵軍は撤退したようで、ギャラクシーウイングも展開していた銀の後翼を下ろした。

「大丈夫かいタクト。あのIGと随分ハデにやらかしていたようじゃないか」

「すいません、駆けつけるのが遅くなって・・・」

「いや、大丈夫だよ。ありがと、ミルフィー、フォルテ。―――そっちも何とかなったみたいだね」

「ああ、ついさっき急に撤退しだしてねぇ。副司令から追撃の必要ないって指示が来たけど・・・いいように退かれたねぇ」

「そうだな。ま、逃げることに関しては俺より上手なやつはいないけどね」

自信満々で言ってみたが、おかげでフォルテの呆れ顔、ミルフィーユの笑顔を見ることができた。

「胸張って言うことかい?タクト」

「そうですよね!タクトさんは逃げるの上手ですもんね!」

「・・・・・・この夫婦は・・・」

三人で笑い合っていると、Σバルキサスもやってきた。

「お兄ちゃん、ミルフィーさんに、フォルテさん」

「エリスちゃん、大丈夫だった?」

「ごめんなさい・・・少しやられちゃいました」

「そんなことないよ。いいウデしてるもんさ」

少し落ち込んだように見えるエリスにタクトは笑いかけ、励ました。

「ああ、エリスのおかげで随分助かったよ。ありがとうな、エリス」

「あ・・・うん!」

ようやくエリスに笑顔が戻り、4人で笑い合った。

「よし!俺たちはちょっと休憩だ。後は他の人たちに任せて、俺たちは休もう」

「「「了解!」」」

少し苦戦はしたものの、とりあえず作戦は成功だ。見れば他のトランスバールの戦艦はすでにアークトゥルスへ突入準備に入っている。タクトはそれらを見つつ、エルシオールへ向かった。

ただ、あのヴァイスというパイロット。彼の存在だけが、頭に引っかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦が成功したといっても、それは第一段階的なもので、作戦本番はむしろここからである。

エリスは休ませて、タクト、レスター、ミルフィーユは他のパイロット全員をブリーフィングルームに集めていた。ただし、正樹だけは来ていなかったが、誰も何も言わなかった。―――思うことは多々あるだろうが。

「―――というわけで、これよりアークトゥルス侵攻作戦の本番というところに入った。総員、心してかかってくれ」

次にミルフィーユが手元のデータを見ながら全員に告げる。忘れがちだが彼女も『パラディン』なのである。階級や権限もタクトと同じなのだ。

「えーっと、今からこの宙域に残って追撃部隊と応戦するメンバーとアークトゥルスに降りてもらうメンバーを発表しますね。まず残ってもらう人は、ミントにフォルテさんです。―――で・・・」

「ちょ、ちょいと待ちなミルフィー」

慌てたように、いや実際慌ててフォルテは身を乗り出した。続いてミントもミルフィーユを見つめる。

「私たち、二人だけ・・・ですの?いくらなんでもそれは少し・・・」

「正直、物量で来られたら無理と思うんだけどねぇ」

「同感ですわ」

二人のもっともな意見に、ミルフィーユはしどろもどろになる。

「え、えーとそれは・・・・・・あう〜〜〜タクトさ〜ん・・・」

「・・・ミルフィー・・・」

頭を押さえながらタクトが代わり、説明する。

「大丈夫だよ、ミント、フォルテ。エルシオールは降下しないからいつでも修理、補給ができるし・・・場合によっては待機してる俺とミルフィーも出るから。第一、トランスバール軍の戦艦、IGも一緒だから大丈夫だって」

「そうなのですか・・・安心しましたわ」

「もちっとしっかりおし、ミルフィー」

「うぅ・・・すみません」

気を取り直して続きを始める。

「えぇっと、で降下するメンバーだけど、ランファに、エクスくんに、キャロルちゃんね。もちろん、他のトランスバール軍の大軍が一緒に降下します。場合によっては私かタクトさんも駆けつけます」

「今のメンバーは補給、修理は軍の補給艦で行うことになる。長期戦になるのは確実だから常にエネルギーの残量に注意しておけ。離脱に関しては専用のHLVが用意されているはずだ。それを使え」

「俺はエルシオールに残るから宇宙のエンジェル隊の指揮は俺がとるけど、降下部隊へはさすがに無理だ。基本は各自自己判断に任せるけど、一応リーダーを決めておくよ」

タクトはそう告げた後、視線を金髪の女性に向ける。―――そして、しっかり目が合った。

「降下部隊のリーダーは・・・ランファに頼もうと思う」

「え!?ア、アタシ!?何で!?」

「今のメンバーの中で一番状況判断力があると思ったからだよ。・・・嫌?」

タクトはちゃんとランファの力を信頼した上でリーダーが適任だと判断したのだ。それを理解してしまったのだから、ランファに断る理由などなかった。

「し、仕方ないわね!そこまで言うならやったげるわよ!」

「うん、期待してる」

素直じゃないのを見通しているタクトの言葉に、ランファは面白くない顔をした。

「というわけで降下部隊はランファの指示にあたってくれ。国防本部の制圧は厳しいと思うけど、みんな、頑張ろう!―――以上、解散!!」

以上を告げると、みんな作戦開始にむけて自分の機体へ向かう。

ランファもそれに続こうとしたが、タクトに呼び止められた。

「何よタクト。どうかした?」

「メンバーの、キャロルのことだけど・・・あまり無理させないように心配りをしてほしいんだ」

「なんでよ?」

タクトに代わり、レスターが説明する。

「テンションが思ったほど高くないからだ。戦えないわけではないが・・・調子がいいとはとてもじゃないが言えん」

「ほら、キャロルちゃんって正樹さんがお気に入りだったでしょ、ランファ。けど、今正樹さんがああだから・・・」

「・・・わかったわ。何とかはしてみるけどアテにはしないでよ。アタシ、リーダーなんて初めてなんだから」

「わかってる。頼んだよ、ランファ」

そんなことを言われると、なんとしても何とかしなければならないではないか。

タクトは少しズルイと、ランファは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、タクトたちは気づいているのだろうか。

キャロルのテンションが低い。調子が悪い。―――それはつまり、キャロルの心に変化が訪れているということが。

当然、その原因が正樹であることに違いはない。

 

 

 

 

 

 

そうして、アークトゥルス侵攻作戦の本番が開始された。