第十九章「永遠の力、始祖の願い」
大気圏を脱出し、ブースターパックを切り離した裕樹は、衛星上のファクトリーへ向けオメガゼロバスターを加速させる。
「・・・っっ!!間に合ってくれよ・・・っっ!!」
「ええい!」
ヴェインスレイ軍の最新鋭の量産機である“セイカーディナル”を駆る早坂桜花は、ティアル・ライフルでメノカトラスを撃ち落とした後、ファクトリーに向かおうとするメルーファを追う。だが側面に回りこんだメノカトラスがサーベルを振り上げていた。それを手首のグレネードランチャーで牽制した後、正面から連装プラズマ集束ビーム砲“バハムート”で撃ち貫いた。
桜花は急いで先程のメルーファを追おうとしたが、それは同じくヴェインスレイ軍の最新鋭のもう一機の量産機である“エルドガーネット”に乗った蒼桐和也のビームガトリングによって撃ち落とされていた。
「桜花、大丈夫か!?」
「当然!心配する余裕があるならしっかりファクトリーを防衛しててよ!」
「言われなくたって!」
彼等はヴェインスレイ艦長の和人と同じく、前大戦時、リ・ガウス軍のコキュートス計画の機体、アンティノラとカイーナに搭乗していた人物である。同じく、ファクトリーの中ではトロメアに搭乗していた白石詠もいる。(第一部 十八章〜三十二章参照)
だが、彼等がいても状況は非常に悪かった。機体の性能では互角なのだが、物量においては圧倒的に不利だった。こちらは自分たちを含めて8機しかいないのだ。今でこそ防ぎきれているものの、これ以上の物量で来られるとかなり危ない。
だが最悪なことに、思ったとおり数で攻めてこられ、桜花は思わず舌打ちした。
「・・・最低っ!!」
覚悟を決めてライフルを構えた。―――その時、遠距離から4つのビームがそれぞれ4機の敵機を貫いた。
「なに!?」
桜花も意表を突かれてレーダーを見る。瞬く間にその機体はIG部隊に突っ込んだ。そのあまりにも有名な、IGと似ている外見、機影――――――
「オメガゼロバスター!?誰が!?」
「誰よ!!一機だけで何が・・・」
直後、桜花と和也はその考えを訂正せざるをえなかった。搭乗しているパイロットは、一人で戦況を変えてしまうほどの力を持っているのだから。誰もが唖然としているうちに、オメガゼロバスターは無駄のない動きで機体を返し、ティアル・ライフル、連装バスターキャノンで周囲のメノカトラス、メルーファを片っ端から撃ち落としていく。直後、右側面にメルーファが4機回りこみ、一斉にハイパーライトソードを構えたが、それを恐るべき速さで受け流し、一瞬のうちに4機を斬り刻んだ。
その戦い方を見るまでもない。この華麗なまでに的確な機体のさばき方。何より近接戦闘におけるあの操縦技法は――――――
「SCS・・・?まさか・・・!?」
「・・・なんとか間に合ったか!!みんな、無事か!?」
ザッとモニターが瞬き、味方としても敵としても戦った、憧れさえ抱いていた青年の顔が映る。
「裕樹!!」
「裕樹、なのか!?」
「な・・・桜花!?和也!?どうして・・・!?ヴェインスレイ・・・だったのか?」
桜花は思わず苦笑した。
「・・・ええ、あなたは知らないと思うけど、私も和也も詠も、ずっとヴェインスレイなのよ」
「というか裕樹!和人がいた時点で“コキュートス計画”のパイロットが全員ヴェインスレイだって気づいてくれよ!」
「そういえば、そうだよな。―――そうか、桜花たちがいるなら心強いな」
三人はモニター越しに再会を楽しんだ。が、そんな暇すらなく新たなIG部隊がこちらに接近しつつあった。
裕樹は即座に機体を翻し、迎え撃つ。
「裕樹!?ちょっと待っ・・・・・・」
桜花の叫びが届くよりも先に裕樹は武装を一斉に解放し、一度に7機のIGを撃墜する。直後、ティアル・ライフルを構え、旋回しながらビームを放とうとした。
だが、カチリという、実にいやなトリガーを引く音だけが聞こえた。
「なっ!?」
その隙を突こうとしたメルーファだが、側面から桜花のセイカーディナルに狙い撃ちされる。
「裕樹、どうしたの!?」
「マズイ・・・エネルギー切れだ。春菜も言ってたけど、こうも早いなんて・・・・・・」
これではこの“オメガゼロバスター”が正式採用されなかった理由もわかる気がする。
ともあれ、裕樹に攻撃手段は無くなってしまい、桜花は裕樹を庇いながら敵を迎撃する。
「くそ・・・桜花、ファクトリーに“セイカーディナル”でいいから余ってないか!?」
「――――――そんな機体より、もっといいものがあるでしょ!」
一瞬遅れて、桜花の言っていることがわかった。
彼女は、新たなラストクルセイダーの調整をしろ、と言っているのだ。
「なっ・・・!?ダメだ!!春菜の話だと、新型機の調整は丸一日かかるって話だろ!?そんな時間・・・っっ!!」
「大丈夫だ裕樹!!」
桜花と裕樹を支援すべく、和也のエルドガーネットが一緒に迎撃に回る。
「俺たち・・・裕樹を信じてるからよ!」
「あなたが来てくれるまで、必ず持ちこたえてみせるわ!」
「和也・・・桜花・・・」
モニター越しに、二人の戦友が力強く頷く。
ならば、裕樹は心を決めるしかなった。
この二人の期待に、応えるしかない。
「わかった!すぐに、すぐに戻るからな!!」
ガス欠の機体を動かしながら、裕樹はファクトリーに向かった。
「・・・さて、しばらくは私たちが相手よ!」
そして、寄せ来たるIG群に向かって、臆することなく突撃した。
「裕樹」
「詠か、久しぶりだな」
「ああ。――――――アレを、取りに来たんだろ?」
無言で裕樹は頷き、詠はすぐに身を翻し、先に立つ。
「こっちだ」
先導する詠に続いて、格納庫のハッチが開く。そして、裕樹の前に巨大な姿が現れた。
背に、金色の翼を背負った、青き聖戦者。
それはラストクルセイダーに違いなかった。細部は違うものの、目に馴染んだ基本フォルムは間違えるはずがない。
戦争とか、かつての友が敵とか、そういうのは関係ない。
ただ、自分の仲間が頑張っている。自分を待ってくれている。機体に乗る理由なんて、それで充分だ。
「・・・自分を、みんなを護るために、俺は・・・」
「裕樹・・・」
詠の静かな言葉を聞きながら、裕樹は地を蹴った。
「じゃ、いくよ、詠」
詠が頷くのを見ながら、裕樹はコックピットに飛び込んだ。
素早くデータを開きながら各部をチェックする。
CPU、センサー、運動パラメーター、帯域適正率、細部動力回路、メインスラスター出力調整。その全てが今までに見たこともない程に、調整が困難だった。だが、裕樹は焦ることなく、不安を捨てた。ただ、自分がやらなければならないことをする。それだけだった。
「トランスバールやプレリュードの技術も流用されてるのか・・・・・・すごいな、春菜は」
少し感心しているうちに、エンジン音がコックピットに聞こえてくる。
基本操作は旧ラストクルセイダーと同じだが、新武装、そして武装が増えたことから細いところの操作に微妙にズレが感じられる。だが、深く考えずに、操作をまるごと頭に叩き込む。確かに、こんな完全に自分専用に作られた機体の調整を、他のパイロットが行えるわけがないだろう。
やがて、すべてのシステムにグリーンのランプが点灯した。――――――これで、ようやく動ける。
「エターナル・ラストクルセイダー、システム起動」
機体がカタパルトに運ばれ、ハッチが開いていく。
『進路クリアー。X−DZ−017S、エターナル・ラストクルセイダー、発進どうぞ!!』
アナウンスの声と共に、ランプが点灯される。
護れる力を。闇に捕らわれていた自分が、護るための光になるために。
「朝倉裕樹、エターナル・ラストクルセイダー、行くぞ!!」
戦場に現れた金色の翼を広げた青き機体、エターナル・ラストクルセイダーに、メルーファ、メノカトラスは攻撃を集中させた。
そのビームの嵐を裕樹は軽々と回避し、あるいは手首のヴァレスティ・シリンダーシールドのエネルギーを展開し、防いでいく。そして、瞬時に右手にダブルセイバーである“セイクリッドティア”、左手にラケルタ・ヴァレスティセイバーを構え、エターナル・ラストクルセイダーは加速し、急速に旋回する。そのあまりの速度に取り残された敵機の間を駆け抜けながら、刹那のうちに切断し、斬り飛ばし、斬り刻む。
無数の刃が煌めいた瞬間には、20機近い敵機全てがバラバラになっていた。
「ブレード出力20%フロー、メインリアクターのエネルギーを武装に回して、後翼リアクターをメインスラスターと直結・・・っっ!!!」
裕樹は機体を旋回させ、相手の攻撃が止む一瞬のうちに、更に機体調整を進めていた。
裕樹はまるで武装一つ一つを確認するかのように、次の瞬間には両手をリニアレールライフルに持ち替え、4連装カルテットバスターと同時に放ち、複数の敵機を一度に撃ち抜いた。直後、メルーファが周囲を取り囲むが、手首のシールドを形成しているシリンダーを含めた12個もの“ヴァレスティ・シリンダー”を解放しながら、後翼からの金色のビームレイで大量のメルーファを撃ち貫く。
『なんなんだ・・・!?この機体・・・!?』
相手のパイロットの声が聞こえた。次の瞬間には背後に迫るメノカトラスを振り返り様に脚部のH.V.S.Bヴァレスティ・レッグブレードで両腕を蹴り断ち、叩き落す。更に動揺しているメルーファに二つのビームブーメランを投げつけ切断し、ブーメランが戻る前に前方に急速に接近、反り返って真上をレールライフル、カルテットバスター、周囲をヴァレスティ・シリンダー、ビームレイで全て撃ち抜いた。
僅か2分も経たない時間で、裕樹は敵IG部隊を全滅させていた。そして、そのままの勢いで後方に見える、AGレイレックス・ノヴァに向かう。プレリュード軍の戦艦はすでに後退しており、追撃するのは時間の無駄と判断した。
レイレックス・ノヴァはエターナル・ラストクルセイダーの接近に怯えたように、全ての武装を闇雲に解放、放ってきた。
その大量のビームの奔流の間を、裕樹は烈風のように回避しながら加速し、脚部のレッグブレードからバリアフィールドを展開させ、すれ違い様にレイレックス・ノヴァのリフレクター発生装置を蹴り飛ばし、破壊していた。いくらリフレクターに守られようと、至近距離、それも直接蹴り飛ばされたのだから、防ぎようがなかった。
裕樹は距離を離しつつ、レールライフル、両肩、両腰のカルテットバスターを構え、同時に眩い光と共にヴァレスティ・シリンダーを無数に散らせる。
「これで終わりだっっっっ!!!!!」
裕樹の叫びと共にエターナル・ラストクルセイダーから光の矢が放たれる。レールライフル、カルテットバスター、ビームレイ、そして周囲を飛び交うヴァレスティ・シリンダーからの無数の光の矢が敵AGを完全に包み込み、完全に沈黙させた。
「す、すごい・・・」
黄金の翼を広げた、輝く青き姿は、超越者のように神々しく、それが究極の聖戦者であると告げられたかのようだった。
桜花は漠然と思った。このような味方を持つ自分たちは心強いばかりだが、敵に回されたほうはたまったものじゃないと。
「お疲れさま」
裕樹の耳にセイカーディナルの桜花から発せられた声が届く。それを聞いて初めて、裕樹は全てのシリンダーを回収し、金色の後翼を下ろした。
「それにしても凄いわね。今まで誰にもロクに動かせなかったに調整もあんなに早く終わらせて・・・」
「いや、調整終わってないぞ」
「・・・・・・え!?」
「むしろ戦いながらした。まあ本調子の6割ってとこか」
その言葉に桜花と和也は絶句した。この沈黙の意味を裕樹はすぐに理解した。
「あのなぁ・・・いくらなんでもここまで凄まじいIGの調整をすぐに終わらせられるわけないだろ」
「・・・6割であれかよ・・・」
「というか、一瞬で6割も?」
悲観的な声を出す桜花、和也をなだめつつ、先頭に立つ。
「戻ろう。後は美奈が来るのを待つだけだ」
今の裕樹には、この強大な力に驚異を感じなかった。何より、自分が望んだから。
“光”を。闇を切り裂く、光になると。
今一度、それを心に思い、裕樹はファクトリーに向かった。
地上に居る、美奈のことを思いながら。
裕樹が宇宙で戦いを繰り広げていた頃、美奈はサクヤのセイカーディナルに同乗して、ウェイレス地方の春菜のアジトに来ていた。ファクトリー本部があるのはウェルフェア地方で、この場所は文字通り隠れ家としての機能を果たしていた。よって、この場は戦闘と無縁であったが、ファクトリー本部は攻撃を受けているため、一緒にセイカーディナルで来ていた星治は思わず焦った声で自分たちに呼びかけた。
「サクヤ、急いで戻らないとやばいぞ」
「でもどっちにしろ美奈さんが来ないとどうしようもないでしょ?物量で負けてるんだから」
「・・・サクヤ、お前なぁ・・・」
「あはは・・・」
サクヤの率直すぎる言葉に美奈と星治は呆れてしまう。
星治とサクヤは、前大戦からヴェインスレイの前身であるレジスタンスに所属しており、裕樹とは昔からの戦友であった。(第一部 18、19章、32、33章参照)
だが急がなければいけないのは事実で、美奈はサクヤを促し、地面に割れたハッチから格納庫の奥へと入っていった。
「美奈さんですね?お待ちしてました」
恐らく春菜から連絡を受けていたであろう、整備班の人が駆け寄ってくる。
「こちらです・・・どうぞ」
しかし美奈は整備員についていくよりも先に、星治とサクヤに振り返った。
「星治さん、サクヤさん、二人は先に戻ってて」
二人は問い返すようなことはせず、むしろ当然のように頷いた。
「・・・機体の調整がどれだけかかるか解らないけど・・・・・・必ず、駆けつけるから。だから、それまで・・・」
「わかってますよ美奈さん」
「行くぞサクヤ!!」
二人は振り返らず、セイカーディナルに乗り込むと、フルスロットルで格納庫を飛び出していった。
それを見送ってから、美奈は整備員の後に続いた。
やがて、開けた場所に着き、室内がライトアップされて、見上げる。
輝く黄昏(オレンジ)の翼を背負った、真紅の機体。細部は微妙に違っているが、その基本形は見間違いようがない。
かつての搭乗機を前に、美奈はただポツリと呟いた。
「・・・ヴァナディース、か」
平和と安息を望みながら、自分は再び破壊の力を手にしようとしている。それは美奈にとって、自身への矛盾する思いに他ならなかった。
――――――けれど、それ以上の想いがある。
何より、美奈は護らなければならないのだ。彼が護ってくれるから、自分も護り返す。彼が、自分以外の全てを護るなら、自分はたった一人、彼を守る。――――――それが、美奈の決意だった。
美奈はパイロットスーツに着替え、新たなるヴァナディースのコックピットに乗り込んだ。稼動音が高まると共に、美奈はヴァナディースに命を吹き込んでいく。裕樹もそうだったが、データが無く、調整がまったくできていないということは、OSそのものがない状態なのだ。裕樹同様、美奈は自分専用に適正を合わせつつOSを1から作り、組み上げていく。書き換えるだけならそう時間は掛からないが、組み立てるとなると話が違う。しかも今は何より時間がない。美奈は瞬間的にOS、機体調整を済ませ、機体を稼動させる。調整が完璧ではないため、せいぜい本調子の7割程度だろうが、この機体には充分すぎた。
『X−DV−015N、ネイティブ・ヴァナディース、発進どうぞ!!』
アナウンスが響き、頭上のシャッターが開ききると、明るい空が見えた。
そして、美奈は胸の中で小さく祈る。
ネイティブ・ヴァナディース、――――――願わくば、この機体が誰かを護れる光にならんことを。
美奈は進路を見上げ、決意を込めて飛び立った。
「水樹美奈、ネイティブ・ヴァナディース、行きます!!」
「っ!!そこだ!!」
星治は戦闘機形態のまま“バハムート”を放ちつつ即座にIG形態に変形、ティアル・ライフル、“バハムート”を一斉射し、メルーファ4機を墜としていく。その側面にメノカトラスが回りこむが、サクヤのセイカーディナルのティアル・ライフルがそれを撃ち落とす。
「星治!!」
「もう少し踏ん張れ!!ヴァナディース・・・美奈が戻るまで!!」
モニター越しに頷き、プレリュード軍に向き直る二人だが、その視界の端に何かを捉える。
青き空を切り裂くかのような真紅の一点。――――――輝く黄昏の翼を纏いし、赤きIG。
その姿に、戦場にいた全員の視線が集中する。
「ヴァナディース・・・美奈!?」
「みんな、どいてっっっ!!!!!」
返答とは思えない全周波での美奈の叫びに、星治、サクヤは疑うまでもなく従った。
「全機、全速力でこの空域から離脱しろっ!!!」
「彼女の邪魔にならないように!!!!」
星治、サクヤの叫びと共にヴェインスレイのIG部隊が撤退を開始するのと、急速に接近したネイティブ・ヴァナディースが12個全てのホーリィ・シリンダーを無数に散らせたのはほぼ同時だった。
一つのシリンダーから最大3つのビームを放つ、強化されたホーリィ・シリンダーは美奈の意のままに動き、一発たりとも外す事なく、36本全てのビームが36機ものメルーファ、メノカトラスを一瞬で撃ち墜とした。
シリンダーの標的にされなかったメルーファが全方位から迫るが、即座に二丁のビーム&レールライフルである“ヴァルキリー”を構える。それに合わせて敵機はシールドを構えるが、超速で放たれる出力の向上したライフルは、盾ごとメルーファを粉砕して撃ち墜とした。同様に、盾を構えながら後退するメルーファを両腰のリニアレールキャノン“ノヴァ・ブレイク”でまるで盾など無かったかのように貫通して機体を撃墜していった。
「速い・・・!!標準装備のライフルなのに・・・“フェイタルアロー”並の速度だなんて・・・!!」
美奈も裕樹同様、各武装を確かめながらデータを採取していった。特にこの追加装備されたレールキャノン、従来のものと比べて圧倒的に破壊力が高まっている。
一瞬にして40機のIGを壊滅させたネイティブ・ヴァナディースに残りのメルーファ、メノカトラスは驚き、反応が遅れる。その隙すら美奈は逃さず、即座にメノスセイバーに持ち替え、急速に加速しながら敵機を次々に斬り裂いていく。
もはや敵わないと思ったか、7隻の戦艦と僅かなIGは遠距離から全ての砲口を美奈ではなく、ファクトリー本部へ向ける。
「そんなこと、絶対にさせない・・・っっっ!!!」
放たれた砲火がファクトリーに届くより速く、美奈は機体をその射線上に移動させ、盾になるかのように両手を広げて構える。―――次の瞬間にはネイティブ・ヴァナディースから放たれた“光”がビーム、ミサイルを全て相殺していた。
新武装、オールレンジ防衛用ビーム放射兵装“ホーリィブラスター”―――まさに美奈が望んだ、守る為の光そのものであった。
あきらかにうろたえている敵軍に、美奈は容赦なく胸部の“ライジングノヴァ”を放射し、一隻の戦艦を消し飛ばした。残る敵機を逃すつもりはなく、再び急速に接近する。それに対し僅かに残ったメルーファ、メノカトラスは特攻と言わんばかりにビームを乱射してくる。それらを回避、又は手首のエーテル・キャリーシールドのエネルギーを展開して防ぎ、即座に腰のレールキャノンを展開、4機を一気に貫通して撃破する。
「あなたたちに・・・あなたたちなんかに・・・っっ!!!」
立て続けにディヴァインフェザーを展開し、大きく反り返ってから戦艦二隻に向かって投射。放たれたビームの翼が問答無用で戦艦を真っ二つに切断した。そして怯えた4隻の戦艦からのビームの奔流を軽々とかわし、無数のホーリィ・シリンダーを解き放った。
「この星から、出ていけぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!!!!!」
美奈の叫びと共に空に散ったホーリィ・シリンダーが無数の光の矢を放ち、それぞれが戦艦の武装、エンジンを貫いていく。――――――ほどなく、戦闘は終わりを告げた。
太陽の光を背に、輝く黄昏の翼を広げたその姿。まさに始祖の戦女神に相応しい、神々しいものだった。
シリンダーを回収し、翼を下ろしてから美奈はファクトリー本部へ帰還する。その途中でセイカーディナル、エルドガーネットの部隊が喜ぶように周りを囲み、星治、サクヤ機が直接回線で通信を繋げた。
「やったね美奈さん!」
「さすがだな!助かったぜ!」
二人の笑顔を見ていると、周りの機体からも歓喜の声が聞こえてきそうだった。
けれど、今はのんびりしている時間はない。一刻も早く宇宙へ上がらなければいけないのだ。自分を待つ、裕樹の下へ。そして、自分たちを信じて待ってくれている仲間の下、アークトゥルスへ。
美奈は少しだけ微笑んだ後、表情を引き締めて二人に告げる。
「すぐにマスドライバーを準備をお願いします!補給は宇宙で行うから!」
「わかった!」
星治の指示が飛ぶ中、美奈は一人、裕樹と自分の母星「レスティ」を守りきったことを誇りに思った。
――――――ここに、新たなる聖戦者と戦女神が蘇った。