第二十二章「その意志の名に懸けて」

 

 

 

 

 

 

旋回し、側面からシージ・カンフーマスターの放ったミサイルランチャーを、ヴァニラは最速に設定した“H.V.S.B”で撃破と共にランファを狙う。それを持ち前の機動力の高さで軽々と回避し、再度、シージ・カンフーマスターが迫る。

「獲ったぁぁぁっっっっ!!!!!」

裂帛の叫びと共に“アンカークロー”が至近距離で放たれ、リザレクト・ハーベスターは回避のしようもなく吹き飛ばされる。しかも強化されたアンカークローだ。ダメージも相当のはずである。――――――だが、ランファの予想を裏切って、リザレクト・ハーベスターは何事もなかったように空中で体勢を立て直した。

「っっ!?どうしてっ!?」

驚愕すると同時に、ランファはリザレクト・ハーベスターのアンカークローが直撃した装甲部分に、輝く緑色の光が集まっているのに気づいた。

「まさか・・・・・自動修復するナノマシン・・・!?」

「・・・その通りです・・・!!」

瞬間、目前まで迫ってから、ヴァニラは連装ゼーバーキャノンを発射し、シージ・カンフーマスターの装甲表面を焼き削った。あの瞬間、咄嗟に回避するのはさすがランファといったところだ。

“リサレクト・ナノマシン”――――――それが、リサレクト・ハーベスターを自動修復するナノマシンの正体である。

「随分と・・・すごくなったじゃない・・・!!ハーベスターは・・・っっ!!」

「・・・っっ!!」

だが感心ばかりしてられない。自動修復するということは、生半可な攻撃は通用しないということだ。

だが、それはつまり、ハーベスターの撃破を意味する。ヴァニラも無事ではすまないだろう。――――――ランファに、そこまでの覚悟はなかった。ヴァニラを倒すと決意しても、殺すという意味ではない。

(でも、スラスターなら・・・っっ!!)

スラスターに直撃させ、スラスターを爆破できればいくら自動修復でも修理は不可能だろう。

ランファは正面から機体を加速させ、ビーム、ミサイルを連射する。それに合わせてヴァニラもH.V.S.Bと連装ゼーバーキャノンを放ってくる。主砲の火力ではリザレクト・ハーベスターに軍配が上がる。―――だが、勝敗を決めるのは火力ではない。

今のヴァニラの腕前は凄まじく、総合的にはランファと対等に違いない。―――だが、両者には致命的なほどの溝があった。

 

―――――――――それが、“機体特性”―――――――――

 

本来、リザレクト・ハーベスターは後方よりの修理支援を主体とする紋章機であり、対するシージ・カンフーマスターは高機動戦闘によるドッグファイトにおいて圧倒的な戦闘力を誇る紋章機である。つまりシージ・カンフーマスターは先程も述べたがドッグファイト、つまり単体戦に特化した戦闘スタイルを持つ戦闘機なのである。支援機と戦闘機、この差はあまり深い。

 

 

「・・・そこっっ!!」

リザレクト・ハーベスターの連装主砲である“ツイン・ゼーバーキャノン”をその火線の間に潜り、シージ・カンフーマスターは正面から回避する。

「・・・!?」

予想外のことに、ヴァニラは対応が遅れる。

正面から回避される。――――――それはすなわち、接近を許してしまうことを意味する。それも相手は、近接戦闘を得意とする紋章機だ。つまり・・・・・・

考えるより早く、シージ・カンフーマスターが至近距離で4連装ミサイルランチャーを放ってきた。

「・・・くぅ・・・っっ!!」

真正面からダメージを受けたが、この程度なら“リザレクト・ナノマシン”で自動修復できるだろう。だが直後、ヴァニラはこの攻撃の本質に気づく。――――――視界にシージ・カンフーマスターがいない。

(・・・眼くらまし・・・!?)

気づいた瞬間、シージ・カンフーマスターはリザレクト・ハーベスターの真下に位置し、クローを構えていた。

刹那としかよべないほどの均衡。

ランファの瞳が、確実にこちらを捉えていた。

「これで・・・終わりよ!!ヴァニラッッ!!」

「・・・っっ!!」

容赦なく、決して逃されることなく、“アンカークロー”が放たれた。

全てを砕く、制裁の鉄拳は間違いなくリサレクト・ハーベスターのスラスターを破壊するだろう。

 

 

 

――――――彼女の、存在さえなければ。

 

 

 

瞬間、上空からの一条の光の矢が“アンカークロー”を弾き飛ばした。

 

 

 

「な・・・っっ!?」

思わず、ランファは驚愕の声を上げる。

今、何が起きた?

強度が大きく増しているアンカークローだ。破壊されることなく、再び機体に収納される。―――だが問題はそこではない。

(まさか・・・今の・・・?)

瞬間、ランファは即座に機体を後退させ、――――――目の前を光の矢が突き抜けた。

「っっっ!!??」

慌てて上空を見上げる。だがそこには一切の機体は存在していない。

視認できない。レーダーにも探知されていない。その距離からの・・・・・・これは狙撃だ。

「ちと・・・せ・・・!?」

ここに存在しない彼女の名を叫ぶ。こんな芸当が出来る人物など、少なくとも自分は一人しか知らない。

「まさか・・・・・・衛星軌道上からの狙撃・・・!?そんなことが!?」

直後、シージ・カンフーマスターをリサレクト・ハーベスターから遠ざけるかのように、光の矢が機体ギリギリに降りそそぐ。――――――“矢”を視認できるということは、これは“フェイタルアロー”なのだろう。“イグザクト・ペネトレイト”ならこちらが認知出来る前に機体を貫かれているはずだ。

ランファは憎々しげに空を見上げた。

宇宙からこちらを捉えている、狙撃主に向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

息を切らしながら、ちとせは更に照準を正確にしていく。

「誤差・・・0.3。・・・誤差修正・・・0.05以下まで修正・・・・・・!!」

星を見下ろし、星に向かって矢を放つ。あまりに常識外れな、それでいてちとせ以外には決して不可能な攻撃手段。――――――そして、ちとせだけが持つ攻撃距離であり、攻撃オプションである。

「逃しません・・・・・・フェイタルアローッッ!!」

高速で4連射したフェイタルアローが地上にいるシージ・カンフーマスターを襲撃する。だが、即座に予測したのかシージ・カンフーマスターは持ち前の機動力で大きく距離を離し、狙撃を回避する。

(やっぱり、距離がありすぎて・・・フェイタルアローではランファ先輩にはかわされてしまう・・・)

だが、今の状態で“イグザクト・ペネトレイト”を放つのは到底無理だ。

新システム、“ドラスティックH.A.L.Oシステム”の恩恵として、一定数値まで高まったH.A.L.Oエネルギーを蓄積することが可能となり、事実上、一切の負担なしに“フェイタルアロー”を放つことが可能となった。だが“イグザクト・ペネトレイト”となるとそれは無理だ。自力でH.A.L.Oを上げなければならない。

(けれ・・ど・・・今の私の状態では・・・・・・)

正直、意識を保つだけで相当な気力を消耗している。本能としては今すぐにでも休みたいのだ。――――――体に鞭打ってきたが、さすがに限界が近づいてきた。

思わず、ちとせは弱気になってしまい、彼の名を呟いた。

 

 

「・・・・・・・・・裕樹、さん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、奇跡だろうか。

その呟きに、返事が返ってきたのは。

「―――――――――え・・・?」

咄嗟に耳を疑ったちとせだが、次は間違えなかった。

『ちとせっっ!!大丈夫か!?』

『ちとせ、お待たせっっ』

「裕樹さん・・・美奈さん・・・」

来てくれた。やっぱり来てくれた。

いつだって、本当にダメな時に必ず助けに来てくれた。今だって、来てくれた。

 

 

 

直後、迫り来る二機の機体に、ちとせは目を奪われた。

金色の翼を背負った、青き聖戦者――――――エターナル・ラストクルセイダー。

輝く黄昏の翼を背負った、赤き戦女神――――――ネイティブ・ヴァナディース。

その姿があまりに神々しくて、強烈な存在感を表していた。

 

 

 

「ちとせ、状況は!?」

隣接してきた裕樹の言葉で、ちとせは我に返った。

「あ、はい!―――予定通り、ヴァニラさんが先に降下し、続いて京介さんも降下した、との連絡もありました」

「そうか・・・――――――エルシオールは?」

「後退したようですが・・・・・・撤退はしてないと思います」

「・・・・・・」

それはつまり、今も戦況を見ているということだ。そして、自分たちはココに現れた。ならば、向こうも動くはずだ。

裕樹は直感的に理解していた。

――――――タクトとミルフィーユは出撃していない。

――――――必ず、自分たちが来るのを待っていたはずだ。

「・・・行こう美奈。グズグズしてるとタクトとミルフィーが来る。その前に少しでもアークトゥルスを援護しないと」

「うん、わかった」

「あの、裕樹さん・・・」

咄嗟にちとせは声をかけたが、何故か続きが出てこなかった。

本当は、裕樹たちとタクトたちが戦うことなど止めたいのだが、――――――どうしてか、止めれる気がしなかった。

「・・・ちとせは後退して休んでくれ」

「え?」

「実は“ヴェインスレイ”と、レスティに在中していたヴェインスレイ軍もこっちに来てくれているの。・・・私と裕樹は先行してきたけど、もうすぐ追いつくはずだから」

「ですが、私も・・・!!」

「無理するな。・・・・・・ちとせ、“クロノ・アーク・テグジュペリ”、使っただろ?」

「え・・・・・・ど、どうして・・・!?」

「そんなの、ちとせの顔見れば解るに決まってる」

「――――――!」

ちとせの顔は見るからに青ざめており、脂汗も出ている。しかも息は切れ切れでとてもじゃないがコンデションが万全とは言いがたい。百歩譲ってこれが疲労だとしても、あまりにも疲れすぎだ。これは、ちとせが“クロノ・アーク・テグジュペリ”を使わない限り、あり得ないだろう。

だが逆を言えば、この最秘奥義を使わざるを得ない状況だったとも言えるのだ。

これ以上、ちとせに負担をかけるわけにはいかない。

「それにちとせ、そろそろ補給も必要だろ?だから・・・後は俺たちに任せてくれ」

「ちとせが頑張ってくれた分、私も頑張るから。だからちとせは少しだけ休憩して?」

「・・・裕樹さん、美奈さん・・・」

二人の優しさが嬉しかった。だが同時に、ここで素直に休んでおかないと彼等に余計に心配をかけてしまうのだとちとせは理解した。

「―――――――――わかりました。ではヴェインスレイに帰艦して補給を受けてきます」

「ああ、ゆっくり休んでくれ」

「後は任せてね」

即座にエターナル・ラストクルセイダーとネイティブ・ヴァナディースは機体を翻し、惑星アークトゥルスへ降下していった。

二人を見送りつつ、ちとせは大きく息をついた。

これで自分の役目は終わり。後のことはすべて裕樹と美奈に任せるしかないのだ。

『ちとせさん!大丈夫ですか!?』

後方より戦艦ヴェインスレイがやってきて、通信から春菜の心配そうな声が届いた。

「・・・はい、大丈夫です。烏丸ちとせ、これより補給のため帰艦します」

ちとせは今もなお激戦の続くアークトゥルスを一瞥しつつ、アストラル・シャープシューターをヴェインスレイへ向けた。

 

 

 

 

 

その様子は、エルシオールでも確認できていた。

唐突に現れた、金色の翼を背負った青き機体と、輝く黄昏の翼を背負った真紅の機体。それらが姿を変えた“ラストクルセイダー”と“ヴァナディース”であることは一目瞭然だった。

「タ、タクトさん・・・あれは・・・」

「・・・そうじゃないかと思ってたよ」

半ば諦めたかのように、タクトは司令席から立ち上がった。その表情は、悲しさも嬉しさも憎悪も全てが飽和してしまった状態であるかのように、無表情だった。

「信じたくはないが、裕樹は無事だったというわけだな」

「そういうこと、だね。――――――レスター」

事実を告げるレスターに、タクトもまた事実を直視して、レスターを見つめた。

「・・・目は口ほどに物を語る、か」

「・・・悪いね。後、頼むよ」

「ああ」

端的すぎる、けれど、これ以上ないくらいお互いの言いたいことは伝わった。

レスターにだって解っているのだ。

今のタクトを止めれる人物など、誰もいないということが。

「アルモ、エリスに連絡して。一緒にアークトゥルスに降下するって」

「・・・了解です」

「ミルフィー」

「・・・はい、行けます、タクトさん」

それだけを告げて、二人はブリッジを走り去った。

そんな二人の背を見つつ、レスターは思う。

 

 

 

―――――――――もしかしたら、自分たちが裕樹と出会ったその時から

―――――――――タクトと裕樹は、戦う運命に捕らわれていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」

「――――――っっ!!」

その頃アークトゥルスではランファとヴァニラの激戦が佳境へ入ろうとしていた。

直前までちとせからの狙撃支援があったからこそランファは迂闊にヴァニラに攻撃をしかけることが出来なかった。

だが、どうしてか狙撃支援が止んだのだ。この機を逃すはずがなく、ランファは一気にヴァニラを圧倒した。

一度発射した“アンカークロー”は決して止まることなく、同時に戻ることなくランファの意のままにリザレクト・ハーベスターを追撃する。

機体を側転させながら苦し紛れに放ったH.V.S.Bはそのアンカークローで見事に弾かれる。

「・・・っっ!!こんな、こと・・・っっ!?」

(あのアンカークローが・・・ビームも、ミサイルも、全てを弾いて、防いでしまう・・・!!)

高速ですれ違った際、シージ・カンフーマスターの放っていたミサイルをレーザーファランクスで全て迎撃する。

 

――――――その直後、背後からビームの直撃を受けた。

 

「きゃ・・・っっ!?」

「何、今の!?」

ランファが視界を向けるより早く、その場にエクスの機体“ゼファー・ラーム”がリザレクト・ハーベスターに肉薄した。

「っっ!?」

「エクス!?なんで・・・!?」

「ランファ先輩!!援護に来ました!!第一方面はすでに突破して、キャロルのファウンダーは補給に戻らせてます!!」

報告しながらも、ゼファー・ラームはリザレクト・ハーベスターを捉えながらビーム・スラッグを連射し続けている。

「上出来よ!!さっすが期待の新星!!」

ランファが頷きつつ、機体を加速させる。それにタイミングを合わせるかのようにエクスは機体をシージ・カンフーマスターと同調させた。

「でも、ランファ先輩、あの機体・・・!?」

「―――そうよ、姿形は随分変わってるけどハーベスターに違いないわ。―――つまり、相手はヴァニラよ」

「――――――っっ」

今だにエクスは忘れもしない。

以前、重傷だった自分を助けてくれたヴァニラ・H。エクスにとって二人は今でも命の恩人なのだ。それに何より、朝倉裕樹を殺してしまった責任からか、彼女だけは殺したくはないのだ。

そんなエクスの気持ちを察してか、ランファはあくまで忠告として呼びかける。

「・・・エクス。スラスターだけを破壊して、捕獲するわよ」

「ランファ、先輩・・・?」

「アタシだって・・・あの娘を殺せるわけないのよ。――――いいわね!?」

「―――――――――はい!!」

 

 

 

 

 

(・・・っっ、このままでは、危険です・・・)

前後をシージ・カンフーマスター、ゼファー・ラームに囲まれながらヴァニラは本気で危機を感じていた。

ただでさえ劣勢だった状況に、ゼファー・ラームまでもが加勢してきたのだ。何よりゼファー・ラームは、一度とはいえラストクルセイダーを撃墜した機体なのだ。どう考えても、ヴァニラに勝ち目は存在しなかった。

瞬間、前後から同時に攻撃され、ヴァニラは反射的に機体を上昇させる。が、その先をシージ・カンフーマスターが、背後をゼファー・ラームが包囲していた。

「―――――っっ!!」

前方から放たれたアンカークローをなす術もなく直撃し、リザレクト・ハーベスターが急速に落下する。その先に、ビーム展開式銃剣“オメガ”を構えたゼファー・ラームが待ち受ける。

「こんな・・・・・・・ところで・・・っっ!!」

リザレクト・ナノマシンを急速に活性化させ、即座に体勢を立て直しゼファー・ラームの斬撃を回避する。

だが、その更に先をランファは捉えていた。

「これで終わりよ・・・ヴァニラッッ!!」

すでに発射されていたビームガトリング、ミサイルがリザレクト・ハーベスターに直撃し、堪らず姿勢を崩す。

その隙を、エクスは逃す事なく構えていた。

「エクスッッ!!」

「すいません、ヴァニラさん!!」

「―――――――っっ!!」

その刹那の時間が、ヴァニラには永遠のように感じられた。

ゼファー・ラームは銃剣を構え、こちらをロックしている。直後、まるでコマ送りしてるかのようにビームが集束し始めた。

直後にビームが放たれ、リザレクト・ハーベスターはスラスターを破壊され、墜落する。

それは確定された運命だった。

ヴァニラ自身では、変えようのない結果なのだ。

 

 

 

 

 

だが、たった一つ、奇跡があった。

自身の運命は自分では変えようがない。

だが、それでも決定的な変革を求めるならば、それは他人の手でしかなし得ないということ。

 

 

 

 

 

そして、ヴァニラはその奇跡を目撃した。

 

 

 

 

 

声が聞こえた。

二人の男女の声が、同時に聞こえた。

「ヴァニラ、動くなっっ!!!」

「ヴァニラ、動かないでっっ!!!」

瞬間、リザレクト・ハーベスターの周囲を無数の光状―――――数にして、22本―――――が包み込み、ゼファー・ラームから放たれていたビームを弾き飛ばした。

「なっ!?」

「えっ!?」

驚愕と共にランファとエクスが空を仰ぐ。

そこには、広げた金色の翼と輝く黄昏の翼が存在していた。

「・・・裕樹さん、美奈さん・・・?」

呟くようにヴァニラは突如現れた二機に話しかけた。

それに答えるかのように、エターナル・ラストクルセイダーとネイティブ・ヴァナディースはリザレクト・ハーベスターを庇うかのように展開した。

「待たせたな、ヴァニラ」

「ヴァニラ、お待たせっ」

繋がった通信回線と共にモニターに二人の映像が映しだされる。

その姿を確認して、ヴァニラは思わず安堵の息をついてしまった。

「ここは俺と美奈で引き受ける。ヴァニラは第一方面の支援に向かってくれ!」

裕樹の言葉に頷きかけたが、相互リンクされた二機の機体データを見てヴァニラはつまる。

二機とも、エネルギー残量が半分を切っているのだ。

 

 

 

元より高性能すぎるが故にエネルギー消費が激しすぎるラストクルセイダーとヴァナディースだったが、新型機は更にエネルギーを消耗するのだろう。そのためにラストクルセイダーには“クォドラティック・クリスタル”、ヴァナディースには“アルカディア・クリスタル”が搭載されているのだが、その供給率を上回るほどに高速でここまで駆けつけてくれたのだろう。

 

 

 

ならば、自分はここですることはまだ残されている。

大急ぎで駆けつけてくれた二人のために。

何より、自分の進むべき道を導いてくれた、裕樹のために。

 

 

 

 

 

「ヴァニラ!?」

即座にこの空域を離脱せずに、リザレクト・ハーベスターは機体を翻し、――――――刹那、4枚の光の翼が展開された。

「え・・・?」

眩い光につつまれたリザレクト・ハーベスターは、その身に更なる光を集束させていく。

 

 

 

 

 

自分のために。

誰かのために。

思いのために。

導く先はただ一つのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イメージに時間はいらない。

そんな時間必要ですらない。

元より自分は、“治す”ことにおいて極みを理解した者・・・!!

 

 

 

信じていたモノは、全てこの瞬間のために――――――!!

 

 

 

リザレクション・ウェーブ(再生の波動)ッッ!!!」

 

 

 

解き放たれた“再生の光”は、あらゆるモノを再生し、あらゆるモノを復元させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エネルギーが・・・?」

瞬間的にエネルギーがフルチャージされたことに美奈は驚く。

それと同時に、リサレクト・ハーベスターから放たれた“リザレクション・ウェーブ”は周囲のリ・ガウス同盟軍の機体すらも瞬時に再生させたのだ。

その時間は刹那と呼べるほどに一瞬。

その刹那の時間に再生させた機体の数はかるく50を超えている。

そうして理解した。

これがヴァニラの追い求めた想いの果てなのだと。

あらゆるモノを再生させ、あらゆるモノを癒し、あらゆるモノを救う。

これらの理想の果てが、この再生の光なのだ。

 

 

 

輝く緑色の再生の光は徐々に収まり、リサレクト・ハーベスターから光の翼も消失した。

 

 

 

 

 

 

「ヴァニラ!大丈夫か!?」

思わず裕樹は叫んでいた。

ヴァニラの新必殺技は、ちとせの“クロノ・アーク・テグジュペリ”ほどではないにしろ、疲労がないわけではないのだ。

だが帰ってきた声は予想以上に元気なものだった。

「平気です。問題、ありません」

見る限り、顔色も問題ないようだ。

安心したように裕樹は笑顔で返した。

「よし、なら他の場所を頼むな。いい加減、黙ってくれてたランファたちもしかけてくるみたいだっっ!!」

「裕樹!来るよ!!」

「はい・・・!!二人とも、気をつけて・・・!!」

エターナル・ラストクルセイダー、ネイティブ・ヴァナディースは両手にサーベルを構え、迫るシージ・カンフーマスター、ゼファー・ラームへ加速する。

そんな二機を見ながら、ヴァニラは激戦が予想されるこの空域を離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか・・・本当に、ラストクルセイダーなのか・・・?」

エクスは内心の動揺を隠しきれないまま、新しいラストクルセイダーを見つめる。

初めは一瞬、わからなかった。何より金色の後翼のせいか存在感が並外れて高いのだ。だが落ち着いてよく見れば、細部は所々違うものの、ラストクルセイダーに違いはなかった。そして、この機体を扱える人物がただ一人なのも。

「くそ・・・くそ!!」

本当はわかっているのだ。あの人、朝倉裕樹は敵ではないことが。

殺してしまったと思った時、正樹の怒りを目の当たりにした時、それが間違いなのだと思った。

けれど、あの人は敵だ。

自分がトランスバール軍である以上、あの人は敵なのだ。

無論、向こうもそう思っているはずだ。

ならば、立ち向かわなくてはいけない。

あの人は、壁なのだ。自分が超えなければならない、壁なのだから。

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」

銃剣“オメガ”を構えて加速すると、合わせたようにエターナル・ラストクルセイダーも両手に“ヴァレスティセイバー”を構えてこちらに向かってくる。

無論、策は一つしかない。

正直、今の実力では彼とあの機体には太刀打ち出来ないだろう。だが、それをなんとかするのが“アジリティ・システム”だった。この引力と斥力を使い分ければ、あるいは互角以上に戦えるはずだ。

(今だっっ!!)

エターナル・ラストクルセイダーがサーベルを振り下ろす瞬間に合わせて斥力を発生させる。

―――――――――瞬間、エターナル・ラストクルセイダーが視界から消え去る。

「えっっ!?」

刹那、真横からの斬撃に対応できず、銃剣“オメガ”を切断されていた。

咄嗟に再び斥力を発生させる。が、またしてもエターナル・ラストクルセイダーが視界から消え去った。――――――かに見えた。

「横!?」

そう、エターナル・ラストクルセイダーは斥力が発生した瞬間に真横へ瞬速移動していたのだ。

どのような操縦をすればこんな神技めいたことができるのか。

システムによる障害を、腕前だけで突破する。

それが、パイロットとしての格の違いだった。

(わかってる・・・実力で勝てないことはわかってる。・・・けど!!)

再び襲う斬撃を咄嗟にシールドで防ぎながら後退するが、エターナル・ラストクルセイダーは後翼から放たれる金色のビームレイを放つ。追撃を回避しきれずシールドで防ぎ、即座にビーム・スラッグを構えた。

刹那、目前まで迫っていたエターナル・ラストクルセイダーは脚部のシールドエネルギーを発生させ、そのままショットガンを蹴り壊し、その場で更に回転、ゼファー・ラームをシールドの上から蹴り飛ばした。

「うわぁぁっっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このぉぉぉぉぉっっ!!」

新型のラストクルセイダーがゼファー・ラームと戦っている間、ランファは目の前の同じく新型のヴァナディースと戦闘を繰り広げていた。

輝いている黄昏の翼が圧倒的な存在感を象徴している。だがそれに気圧されることなく、ランファは立ち向かっていた。

高速で放ったアンカークローをネイティブ・ヴァナディースは両手に構えた“メノスセイバー”で綺麗に斬り弾き、こちらに肉薄する。それに対し、ランファはビームガンを発射するが常識外れすぎる鋭角的な機動で回避される。

「この・・・!!美奈ぁ・・・っっ!!」

恐らく―――むしろ確実に―――搭乗しているであろうパイロットの名を叫ぶ。

いつも突然現れては圧倒的な実力で敵を叩き潰す、彼女。

その実力、才能。その差を見せ付けられているようで、この上なく悔しかった。

「今日こそ、アンタをっっ!!」

アンカークローを回収しつつ、フルスロットルで加速し旋回する。が、それに当然のようについてくるネイティブ・ヴァナディースに、ランファは微かな戦慄を覚える。

シージ・カンフーマスターの最大の特徴である機動性では相手を圧倒できない。

(なら・・・っっ!!)

再び、機体を目まぐるしく旋回させながらアンカークローを発射する。

だが今度はアンカー部分ではなく、全てを切断する特殊鋼切断糸であるワイヤー部分を絡ませるように操作する。

さすがにこれには対処できないのか、ネイティブ・ヴァナディースは慌しく回避する。その隙にランファは一気に加速、ミサイル、ビームを立て続けに連射し続けた。

ネイティブ・ヴァナディースはワイヤーを回避しつつ、即座に距離を空けライフルを構えようとする。

―――――――――そこが狙いだった。

いかに高性能機であろうと、接近戦闘から中・遠距離戦闘へ移行するときは武装を変える必要があった。そこが紋章機に無くて、IGにある数少ない弱点。

「もらったわよ!!」

ネイティブ・ヴァナディースの両手がライフルに伸びかけた時には、背後からアンカークローが迫っている。

まさに勝負を決めた。―――――――――はずだった。

だが次の瞬間にはアンカークローの収納、装着部分のみを精密に光の矢が撃ち貫いていた。

「な・・・・・・?」

倒すはずだったネイティブ・ヴァナディースを見て、思わず凝視してしまう。

ネイティブ・ヴァナディースは両手にビーム&レールライフルを持ちつつ、逆手でメノスセイバーを持っていたのだ。

つまり、ネイティブ・ヴァナディースはライフルを構えると同時に逆手に持ち直したメノスセイバーで背後のアンカークローを弾くと同時に、こちらを撃ち抜いたのだ。

そのあまりにも常識外れすぎる芸当に目を奪われている暇はない。事実上、アンカークローを失ったということはシージ・カンフーマスターの戦力は著しく低下してしまったということなのだ。

「どう、する・・・どうする・・・!?」

タクトにリーダーを任されている以上、勝手な判断は出来ない。咄嗟にゼファー・ラームを様子見るが、丁度新型のラストクルセイダーに蹴り飛ばされている瞬間だった。

(これ以上は・・・無理、ね)

即座に決断して、エクスに回線を繋げる。

「エクス!!一時撤退するわよ!?」

「ラ、ランファ先輩!?」

「これ以上は無理よ!!アタシもアンカークローを破壊されたし、あんたもオメガを破壊されたでしょ!?一旦引くのよ!!」

「・・・っっ了解!!」

慌しく後退するシージ・カンフーマスターとゼファー・ラームだが、裕樹と美奈は追撃することはせず、最大速度で第一方面へ機体を翻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本部防衛線、総崩れ状態です!!各方面より、援護要請です!!」

アークトゥルス国防本部では、各方面の様々な被害状況が報告されており、代表である雄馬は思わず歯を食いしばる。

やっとのことでプレリュード軍の濡れ衣の被害の矛先から逃れられる準備が出来た矢先にこれである。このままではアークトゥルスに在中しているリ・ガウス軍は全滅してしまう。

「代表!!」

「なんとか持ちこたえるんだ!!ヴェインスレイ軍さえ来てくれれば・・・それまでなんとか持たせろ!!」

時間が経てば経つほど被害が増え、焦る一方だ。

なんでもいい、なにか、この状況を打破できる起爆剤さえあれば―――――――――

と、突然、モニター画面に友軍機のシグナルが次々に表示されていく。

「なんだ!?どうした!?」

「こ、これは・・・・・・大破していた機体が、一瞬で修復されています・・・!!」

そうして、雄馬は理解した。

そうだ、確かヴェインスレイ軍所属の紋章機、リザレクト・ハーベスターが先行して支援に来てくれているのだった。

一体どこまで常識外れなロストテクノロジーを使って、大破した機体を修復させているのかは気になったが、非常にありがたい。これならば体勢を立て直すことも出来る。

と、なぜが複数のオペレーターが一度に絶句していた。

「どうした!?なんなんだ!!」

「いえ、代表・・・・・・敵の損耗率が、信じられないほどに加速度的に・・・・・・」

表示されているモニターを見て、同じく絶句した。

第一方面へ向かう、二機の友軍機のシグナルが表示されている。ただし、その進路上の敵軍機が一切の容赦なしにシグナルが消されていくのだ。

数にして、軽く150機を越えている。

「光学映像、出ます!!」

絶句しつつも、二機の光学映像を見た瞬間――――――――圧倒された。その、あまりの存在感に。

黄金の翼を背負った青き機体と、輝く黄昏の翼を背負った赤き機体。

僅かその二機が、並居る敵をことごとく撃墜しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わりだっっ!!」

「これで決めるっっ!!」

エターナル・ラストクルセイダーは10個のヴァレスティ・シリンダーを展開させながらカルテットバスター、リニアレールライフル、ビームレイを一斉に放ち、20機近いゼンやバルキサスを撃墜した。ネイティブ・ヴァナディースも同様に、シリンダーを展開しつつ、全ての武装を解放して30機近い敵機を一度に沈めていく。

「裕樹!!敵全滅を確認!」

「よし!これで海岸線は大丈夫だ!!海上へ行くぞ!!」

「了解っっ」

二機は並んで即座にスラスター全開で移動。数秒で海上の戦闘空域へ到着する。

到着と同時に、裕樹と美奈は互いに背を合わせながらその場で武装を解放しながら回転。全方位の敵機を次々に叩き落していく。そのあまりの強さと存在感に、友軍機ならず敵機までもが見とれてしまうほどだった。

「よぉし!これならなんとかなるんじゃない?」

相変わらずいつでも明るい美奈の声が届く。

裕樹もそんな明るさに釣られたのか、どことなく笑みをこぼし、

 

 

―――――――――直感めいた予感を感知した。

 

 

「美奈!!」

「っっ!!」

即座に互いの機体から離れ―――――――――その間を数え切れないほどの光状が降りそそいだ。

空を仰ぐ。そこに、存在した。

銀色の翼を背負った白銀の機体、ギャラクシーウイング。

ピンク色の装甲色に、青色も若干混じった、見慣れすぎた最強の紋章機、アルティメットラッキースター。

裕樹はタクトを、美奈はミルフィーユを、それぞれ直接見ていないのに、互いに睨み合った。

圧倒的な存在感を持つ4機の機体が、それぞれの機体と空中で対峙している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空を翔る。

それぞれ異なる4つ意志が具現した力は、ここに、最大最強の激突を開始しようとしていた。