第二十三章「譲れぬ者たちの信念」

 

 

 

 

 

 

裕樹の“エターナル・ラストクルセイダー”、タクトの“ギャラクシーウイング”が対峙し、

美奈の“ネイティブ・ヴァナディース”、ミルフィーユの“アルティメットラッキースター”が対峙する。

黄金の翼と白銀の翼。

輝く黄昏の翼と、光の翼。

4機全てが一切の武装を構えず向けず、ただ静寂のように対峙していた。

その間に流れる空気は、決して激しい殺意で包まれてはいなかった。

 

 

 

 

 

いろいろな、いろいろなことがあった。

初めて会って、一緒に戦って、一緒に笑った。

それは、たった3年ほどでしかない月日。それでも、その月日は彼らに友情という絆を結んでくれた。

だけど、今は違った。

数年前の味方は、今は敵だった。

絶対的な敵など存在しない。何故なら、相手はいつだって同じ人間だから。それは、同時にかつての友も含んでいる。相対的な敵でしかないのだ。

彼らは、タクトとミルフィーユは自分たちを攻撃によって止めた。ならば、その意図は嫌でも察しがついてしまう。

避けられない。けれど、退くわけにもいかない。

互いに、譲れぬモノが、信念がある。

ならば、例え相手がかけがえのない友人だとしても・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・もう、言うことなんて――――――何もない」

誰が言ったのかなんて、誰にもわからない。

だけどその言葉に反応するかのように、4機の背負う翼が後光の如く展開される。

裕樹と美奈は、まるで自分たちですら気づかぬまま、リバレート状態になっていた。

二人の透き通るような蒼穹の瞳と真紅の瞳が、それぞれの相手を捉える。

永遠にも思えた対峙。

それは、まるでガラスにヒビが入るかのように、跡形もなく砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間的に目前に迫ったエターナル・ラストクルセイダーとギャラクシーウイングは、瞬時にダブルセイバー、ラケルタ・セイバーを構え、振りぬくのと、アジリティ・システムの斥力を発生させるのも同時だった。

反発され、距離を離されるはずだった(・・・・)エターナル・ラストクルセイダーは、そのまま機体ごと回転し、遠心力を利用してギャラクシーウイングから距離を離さずに更に斬撃を加える。当然、タクトのギャラクシーウイングは斥力を発生させたまま盾で斬撃を防ぐ。それを、エターナル・ラストクルセイダーはいつの間にか放っていた二つのビームブーメランを追加して更なる遠心力を加えた回転エネルギーによる斬撃を繰り返した。

 

 

 

――――――裕樹は斥力による反発エネルギーを直線のものだと判断した。なら、その直線的なエネルギーを分散させるには?・・・結果が遠心力を利用した横に流れるエネルギーだった。これならば反発する斥力の力をそのまま斬撃の加速力に追加させることができ、同時に機体の距離が離れないというものである。――――――

 

 

 

ビームブーメランが斥力で弾かれた刹那、恐るべき遠心力のエネルギーを加えたエターナル・ラストクルセイダーの4つの斬撃が遂にギャラクシーウイングの盾に届き、一気に傷つける。

直後、タクトは距離を離し、14門にもよるビーム、レールキャノンを一斉に放った。裕樹は機体を躍らせ、砲撃の間を巧みにかわしながら更に接近をしかける。が、側面からのビームレイに対応が遅れ、咄嗟に手首の“ヴァレスティ・シリンダーシールド”を展開させて防ぐ。その頃にはタクトがラケルタ・ホーリーセイバーでこちらに斬りかかってきており、裕樹は咄嗟に脚部のバリアフィールドを展開して足で斬撃を受け止めた。

「・・・・・・っっっっ!!!!!!」

「・・・ぁぁぁぁああああああっっっっっ!!!!!」

力任せにエターナル・ラストクルセイダーがキックで振りぬいたが、ギャラクシーウイングは即座に宙返りして体勢を立て直し、回り込む形で手に構えた二つの主砲を連射してくる。裕樹は機体を即座に鋭角的に旋回させながら、リニアレールライフルに持ち替え、二つを時間差で連射する。

エターナル・ラストクルセイダーは回避し、ギャラクシーウイングはアジリティ・システムの斥力で回避行動すらとらずに射撃を続けた。

金色の翼と銀色の翼が、空中を超速で移動しながら輝き、飛び交った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦闘ぶりに、ヴァニラ、ランファ、エクスだけでなく、キャロル、果ては周囲の機体のパイロット全てが唖然としながら傍観していた。

「な・・・なによ、アレ・・・」

ランファの口から思わず声がこぼれる。自然と、体が震えていた。

「あれ・・・ほんとに、人間の・・・戦いなの・・・?」

 

 

 

ランファの声が聞こえたのかどうかは定かではないが、エクスは体の震えを抑えるのに必死だった。

「・・・あ・・・・・・・」

呆然と、モニターを見つめる。あの4機は恐るべきスピードで戦闘しているため、普通のパイロットには何をしているのかも理解できないだろう。だが、エクスはなまじ目がいいため、常識外れの戦いぶりすべてを理解していた。

「なんで・・・どうやって、あんなこと・・・・・・」

数分前の自分の考えの自惚れが脳裏に叩きつけられる。

「俺・・・あんな人相手に、戦ったのか・・・?」

腕前に差があるとかの話ではない。

むしろ、次元が違いすぎる。敵うと思ったこと自体が、浅はかすぎる考えだったのだ。

 

 

 

 

 

「裕樹・・・さん・・・」

空中を飛び交う黄金の翼を、ヴァニラもただ呆然と見つめていた。

今まで見たこともなかった。けれど、確信できる。―――あれが、朝倉裕樹という人物の本気の力なのだろう。

ヴァニラもまた、体が震えていた。

心強い味方に対してではない。

次元の違いすぎる戦いをする彼らに対する、純粋な恐怖だった。

「・・・裕樹さん、美奈さん。・・・どうか、無事で・・・・・・」

だが、ヴァニラは瞬時に思考を切り替え、味方機の修理支援に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美奈のネイティブ・ヴァナディースと、ミルフィーユのアルティメットラッキースターは互いに瞬時に「ホーリィ・シリンダー」、「エンジェル・シリンダー」を一斉に展開し、空中に無数の光の網を作り出した。

互いにその光の網を抜けながら回避しつつ、ネイティブ・ヴァナディースはライフルである「ヴァルキリー」を高速連射し、ミルフィーユは機体をバレルロールさせながら回避と同時にビームファランクス、レールキャノンを発射する。

互いの射線が互いの機体を掠めるようにすり抜けていく。だが互いに回避しようなどとは微塵も思っておらず、もはや面にしか見えない射撃の間を奇跡のようにすり抜けながらライフル、ファランクス、レールキャノンを連射し続ける。

「姉さん!!あなたなんかに・・・っっ!!」

「・・・・・・」

アルティメットラッキースターが4門のクロノ・インパクト・キャノンを同時に発射、それをネイティブ・ヴァナディースは両手首のエーテル・キャリーシールドを展開して防ぐが、あまりの高出力に大きく吹き飛ばされる。その先にビームブーメランを放つが、ネイティブ・ヴァナディースは空中で姿勢を立て直しながらメノスセイバーをラケルタ状にし、4つ全てのビームブーメランを弾き落とす。それと同時にアルティメットラッキースターへ加速するが、すでに突撃をしかけていたアルティメットラッキースターの“トゥインクルセイバー”と正面から激突する。

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!」

「えええええぇぇぇぇぇっっっっっっぃぃぃ!!!!!!!」

互いに刃をぶつけたまま止まらない。

スラスターを全開にして、腕が吹き飛びそうになっても、展開部分が出力で吹き飛びそうになっても、決して減速しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お願いをされた。

自分が思いもしなかったことを、一番身近な人にお願いをされた。

タクトの妹、エリスに。

 

 

 

 

 

――――――・・・ミルフィーさん。

――――――お兄ちゃんを、守ってほしいんです。

――――――私も、お兄ちゃんも、本当は死んでいるはずなんです。だから・・・

――――――私は、自分がこの先どうなるかなんてわかりません。私は本来、死んでいるんですから。

――――――だから、お兄ちゃんを助けてほしいんです。

――――――ブラコンってよく言われますけど、それでも私にとって一番大切な家族なんです。

――――――だから、守ってくれませんか・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めて・・・なんです。あんなことを、頼まれたのは・・・・・・!!」

言われて、初めて気づいたのだ。

自分を守ってくれている人。

だけど、その人は誰にも守られていないのだと。

親友であるレスターさんは、あくまで支えているだけであって、守るという深いところまでは入っていない。彼なりに、それは自分の役目ではないと気づいているのだろう。

守ってくれている人、タクトさんを私が守る。

そして、何よりそれを望んでいるエリスちゃんも、守ってみせる。

誰よりも何よりも、自分のためにも。

 

 

 

――――――瞬間、アルティメットラッキースターの光の翼が6枚に増加した。

 

 

 

「星よ、煌めけっっ!!」

放つ叫びと共に持てる全ての想いを解き放つ。

「アルカナム・フルハイパーキャノンッッッ!!!」

“ハイパーキャノン・カスタム”、“クロノ・インパクト・キャノン”、“エンジェル・シリンダー”による超高出力一斉射撃。これに対し美奈は即座に胸部破城砲“ライジングノヴァ”で迎え撃つ。だが紋章機中、最強を誇る破壊力を前に防ぎきれるはずもなく、美奈は即座に“ホーリィ・シリンダー”を真上から真横に並べ、ビームの壁として射撃を食い止める。

その圧倒的すぎる出力の集中により、空間の光が一気に膨張、光の爆発を巻き起こす。

そのあまりの裂光にミルフィーユが目を顰めた刹那、光の中からネイティブ・ヴァナディースの連装レールキャノン“ノヴァ・ブレイク”が放たれていて、咄嗟に強化型エネルギーシールドを展開してなんとか防ぎきる。

「―――――――――」

直後、フルオープンしているのか、回線から美奈の言葉が聞こえた気がした。

だけど、聞き取れない言葉にはかつてない、殺意が込められている気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミルフィーユに譲れない信念があることぐらい、美奈にはわかっていた。

だけど、それがどうした?

その信念のために、自分の信念を捨てられるというのか。

そんなはずがない。

そんなこと、できるはずがない。

たとえ、ミルフィーユが自分と血の繋がった妹だとしても。

 

 

―――――――――・・・美奈は偉いよ。妹の幸せを願って、自分の甘えを、我慢したんだから。

 

 

強く目を閉じてから、ゆっくりと目をあける。

その目に映るモノ、力の意志。

それらを今更、許せるはずがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういい・・・・・・!!!!」

美奈の言葉とは思えない、明確な怒りにも似た強い言葉に、ミルフィーユは思わずビクリとする。

「あなたのことも、タクトさんのことも、妹さんのことも・・・・・・」

果たして他人の目にはどう映ったのだろう。

ゆっくりとライフルに持ち替え、構える戦女神の姿が。

それはまるで――――――――――――死、そのものが具現化したようであった。

「軍のことも・・・シャトヤーンのことだって、もういい―――――――――」

完全に敵意、そして殺意を感じるネイティブ・ヴァナディース、美奈に対し、ミルフィーユは手元のレバーを握り締めた。

「ミルフィー、あなたを倒せれば・・・それでいい・・・っっっ!!!」

均衡、対峙。

互いに構えたのは一瞬。刹那と呼べる時間のうちに、ネイティブ・ヴァナディースは至近距離からレールキャノンでアルティメットラッキースターを吹き飛ばしていた。

だが、いつの間にか放たれていた無数のミサイルがネイティブ・ヴァナディースの背後に直撃する。

「あなたに・・・・・・あなたなんかにっっっ!!!」

怯んだ一瞬の隙にアルティメットラッキースターは“トゥインクルセイバー”を展開し、問答無用で斬りつけた。だがネイティブ・ヴァナディースの強固な装甲の前では僅かな傷しかつけることが出来なかった。それでも止まることなくビームファランクスを発射、距離を空けながらビームブーメランを立て続けに放つ。

「一番大事なモノを、大切に思えないあなたなんかに――――――っっっっ!!!!」

アルティメットラッキースターから放たれたビームブーメラン、ファランクスが美奈の視界に広がる。

 

 

―――――――――俺、何があっても美奈だけには、笑っていてほしいんだ。

 

 

瞬間、手首のエーテル・キャリーシールドの展開と同時にメノスセイバーを両手に構え、ファランクスを防ぎ、ビームブーメランを斬り飛ばした。それと同時に“ホーリィ・シリンダー”を解放し、瞬時に発射する。

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」

「させないっっ!!」

アルティメットラッキースターに光が集束する。

テルア・リラメクス(月鏡の極光盾)ッッ!!!!」

破城砲である“ライジングノヴァ”すら苦もなく弾き返す、事実上、最強の盾が展開される。

が、放たれたホーリィ・シリンダーが反射されるよりも早く急速に接近。反動もなくホーリィ・シリンダーが反射された瞬間、ネイティブ・ヴァナディースは“テルア・リラメクス”にラケルタ・メノスセイバーで斬りかかっていた。

 

 

―――――――――裕樹を守ってくれねぇか。アイツ、誰かを守ることは出来るクセに、自分だけは守れねぇんだ。だから・・・

 

 

「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」

アルティメットラッキースターがこちらに砲口を向けようとした瞬間、美奈はラケルタ・メノスセイバーを放り投げ、テルア・リラメクスを普通に突破。同時にアルティメットラッキースターをスラスター全開で蹴り飛ばし、再びラケルタ・メノスセイバーをキャッチする。

「私は・・・負けられないっっ!!タクトさんや、エリスちゃんのためにもっっ!!!」

体勢を瞬時に立て直しつつ、アルティメットラッキースターは8個の“エンジェル・シリンダー”を展開、それら全てからビームを放つ。美奈はそのタイミングに同調して、こちらも12個全ての“ホーリィ・シリンダー”からビームを放った。

空間に隙間なく光の網が張られ、だがその全てを回避しながらネイティブ・ヴァナディースとアルティメットラッキースターは目まぐるしく機体を交錯させながら、激しく撃ち合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあまりにも人間離れしすぎた戦いは、衛星軌道上のエルシオールからでも確認できていた。

ブリッジのクルーが凍りつく中、レスターだけは冷めた気持ちで戦闘を見ていた。

(タクト・・・ミルフィーユ・・・)

この戦いは、彼等にとって避けられないものであり、つまりは壁なのだ。

タクトは裕樹と、ミルフィーユは美奈と、戦う運命だったのだ。

だが、その先は?

この壁を乗り越えた先にあるものは?

仮にも4人が無事のまま戦闘が終了した場合、その次はどうなるのか。

それ以前に、彼等は本当に生き残れるのだろうか。

「・・・っっ」

そんな不安を大きく首を振って散らす。

ともかく、今は彼等の無事を信じるしかない。

倒せなくていい。だから、決して倒されるな、と。

(タクト、ミルフィーユ・・・死ぬなよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タクトォォォォォッッッッ!!!!!」

「裕樹ぃぃぃぃっっっっ!!!!!」

裕樹は後退しながら後翼を展開しつつ、放たれたビームの雨をダブルセイバー“セイクリッドティア”で一瞬にして斬り防ぎ、続けざまに放たれるビームを回避しながらギャラクシーウイングとの距離を一気に詰める。それに対応するように、ギャラクシーウイングは両肩、腰、足のレールキャノンを連射しながら、素早く“ホーリーセイバー”を両手に構え、真正面から刃を受け止める。

「裕樹!!君はっっ!!」

「――――――っっ!!!」

「君は、自分のしていることが正しいって、本当にそう思っているのかっっ!?」

直接通信を交えて聞こえてきたタクトの叫びに、裕樹は思わず頭に血が昇った。

「お前が言うのか!!??――――――その言葉をっっ!!!」

裕樹がSCSをしかけるのと、タクトが“アジリティ・システム”の斥力を発動させたのはまったくの同時だった。

ギャラクシーウイングがサーベルをラケルタ状にすると同時に、エターナル・ラストクルセイダーは右手に“セイクリッドティア”、左手に“ラケルタ・ヴァレスティセイバー”を構え、互いに距離を保ちつつ激しく回転しながら周囲を飛び交った。

「自分のしていることに、なんの疑念も持たないクセに!!!」

「ならば裕樹!!君は違うって言えるのか!?」

「そうに決まっているだろうっっ!!!」

 

 

 

そもそも、何を“正しい”の基準としてとらえているのだろうか。

周りの誰もが正しいと思えることが“正しい”ということなのか?

それとも、自分一人でも正しいと信じるのならば、“正しい”ということなのか?

だけど正直、そんなことどうでもいいのだ。

 

 

 

「――――――っっ!!」

 

 

 

ただ、約束をした。

大切な大切な、小さな女の子と。

 

 

 

「タクト、俺は・・・・・・っっ」

「っっ!?」

鏡面のように滑らかな動きで斬撃を行うSCSと“アジリティ・システム”の斥力が絶え間なく繰り返され、超速の戦闘でありながら、互いの刃はぶつかることなく振るわれ続けている。直後、裕樹はあえて斬撃を緩め、致命的な隙を作り出した。当然のようにギャラクシーウイングの刃はそこに振るわれ、それを裕樹は脚部のバリアフィールドを形成、“ヴァレスティ・レッグブレード”として回し蹴り、振るわれた刃ごと弾き飛ばした。

 

 

――――――お兄ちゃんが世界の罪人であっても、その世界に生きてるってことは、必ず意味があるんだよ。

 

 

「約束、したんだ。リアと、大事な・・・約束を」

 

 

――――――お願いします。ジェノスと、ヴァイスと、シャトヤーンを、止めてください。―――二つの世界を、頼みます。

 

 

「リ、ア・・・?誰のことだ!?」

「あんな・・・小さな女の子だけど、俺を・・・」

 

 

――――――だから、諦めずに、生きて。どれだけ苦しくても、どれほど悲しくても、いつか、きっと・・・・・・

 

 

1000年以上も、俺を見守っていてくれたんだっっ!!リアは、たった一人っっ!!!!」

「――――――っっ今更、引けはしない!!俺には、絶対に譲れないモノがあるんだ!!」

両機、即座にライフルへ持ち替えて、一斉に武装を解放する。互いにその無数の射線を回避しつつ、エターナル・ラストクルセイダーは“ヴァレスティ・シリンダー”を展開し――――――ギャラクシーウイングはその一瞬の隙に、ミルフィーユと戦うネイティブ・ヴァナディースに向けてレールキャノン、後翼の“リヒト・メガバスター”を放った。

「なっっ!?――――――美奈っっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう・・・ダメ。止められない・・・」

ヴェインスレイ軍の旗艦“ヴェインスレイ”でも裕樹とタクト、美奈とミルフィーユの戦いを確認していた。クルーの全員、呆然とすることはないが、多少呆気に取られているところもある。だが、格納庫でその様子を見ていた春菜は、その場に崩れ落ちた。

「春菜、さん・・・!?」

帰艦していたちとせが、多少フラつきながら春菜に駆け寄る。だが、春菜はそんなちとせの声も耳に入ってないようだった。

「もう、誰にも止められません・・・誰にも・・・っっ」

「・・・・・・」

ちとせもモニターを見つめる。

そこには、エターナル・ラストクルセイダー、ネイティブ・ヴァナディース、ギャラクシーウイング、アルティメットラッキースターの4機が空中を激しく飛び交いながら激戦を繰り広げていた。

春菜の言っていることはもっともすぎた。きっと、春菜本人の意図は別にあるのだろうが、現実問題、彼等を止める者などいるはずがない。止めるということはつまり、彼等に匹敵する実力、そして機体性能すらも同等のものではないといけないだろう。

ちとせは苦しい表情で自分の紋章機を見つめる。

たとえアストラル・シャープシューターでも、あの激戦の中を戦い抜くことは出来ないだろう。第一、そこは自分のポジションではない。他に可能性としては紋章機では不可能。あの最強のラッキースターだからこそ互角に戦えているのだ。他には候補としてはトランスバール軍の“ゼファー・ラーム”という機体があるが・・・恐らくは無理だろう。

「・・・春菜さん」

「このままだと・・・必ず誰かが死んでしまう。――――――私は、そんなことのために機体を作ったのではないのに・・・っっ!!」

どこか泣いているようにも見える春菜を、ちとせはどうすることも出来ずに歯を食いしばった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――本当に、誰にも止められないの・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美奈っっ!!」

通信回線からの裕樹の叫びに反応し、美奈はギャラクシーウイングからのビームキャノンを危ういところで回避する。

エターナル・ラストクルセイダーはお返しとばかりに、展開していた全10個の“ヴァレスティ・シリンダー”のビームをアルティメットラッキースターに放った。それをギャラクシーウイングは瞬速の速さで移動し、アルティメットラッキースターを庇うようにシールドでビームを防いだ。

その隙に、エターナル・ラストクルセイダーはネイティブ・ヴァナディースの隣につく。

「美奈、大丈夫か?」

「うん、私は大丈夫。・・・裕樹こそ、平気?」

「一応。・・・けど、まだまだ倒れるわけにはいかない」

今まで一対一で戦ってきたが、もうそうはならないだろう。

自然とタイマンで戦ったが、こうして4機が再び揃ってしまった。つまり、今からは4機が同時に戦わなければならないのだ。

「・・・美奈」

「うん。私にだって、裕樹にだって、譲れないモノがあるから・・・だから・・・」

二人とも、全てのシリンダーを展開して、銃口を対峙する二機に向けた。

 

 

 

 

 

「タクト、さん!?」

突如目の前に現れ、エターナル・ラストクルセイダーのシリンダー攻撃を防いでくれたギャラクシーウイングに、ミルフィーユは思わず驚く。

「ミルフィー、大丈夫?」

「え、あ、はい・・・」

モニターを見る限り、まだ顔色も悪くないようだ。タクトは思わずホッとする。

「・・・タクトさん」

「―――ミルフィー」

互いに名前を呼ぶ以外、何も言わない。

だけど、それだけでも十分に意思は伝わった。

今が決して、退くことができないのだと。

譲れぬ信念を懸けて、退くわけにはいかないから。

「ミルフィー、IFF(敵味方識別装置)は切っておいて」

「え?でも・・・?」

「・・・でないと、何も攻撃出来なくなる。撃ってから避けるしかない」

そう、裕樹も美奈もすでにシリンダーを展開している。更にミルフィーユも全てのシリンダーを展開させると、その合計数は実に30。つまり、これから自分たちは30というビーム射線が放たれる光の網の中で戦わなければならないのだ。そんな中でIFFが作動されて攻撃が出来なくなるのは致命的としかいえない。

「恐らく、裕樹も美奈もIFFは作動させてないはずだから」

「・・・わかりました」

返事と同時に銃口を向ける。タクトもそれに同調した。

静止は約2秒。

直後、4機は光の渦を生み出し、その中で極限まで機体を酷使した戦いを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景を、エルシオールで見つめる二人の人物。

正樹と彩だった。

激戦と呼べる戦いを繰り広げている裕樹、美奈、タクト、ミルフィーユ。だが、正樹はそこに憤りしか感じていなかった。

「なんでだよ・・・」

「・・・・・・」

「なんで戦ってるんだよ・・・アイツ等がっっ!!!!」

「正樹・・・」

けれど、これが戦争の真実だ。

戦争において絶対的な敵など存在しない。戦うべき相手は常に相対的な敵でしかない。

だからこそ、それぞれの正義を信じて、戦うのだ。

だから、昔の、かつての仲間と戦うことも仕方ないのだと。

「・・・・・・そんな、こと・・・・・っっっ」

知っている。そんなことはとっくに理解している。

けれど、だからって納得できるわけがない。

「納得、出来るかよ・・・!!俺は、そこまで人が出来ちゃいねぇんだっっっ!!!」

そう、間違っている。

敵とか、正義とか、理由とか、信念とか、譲れないモノとか、―――――――――

――――――そんなもの、どうだっていい。

ただ、正樹には許せなかった。

大切な友人である、裕樹とタクトが、美奈とミルフィーユが、お互いを殺し合うなど。

許せるはずがなかった。

 

 

 

「・・・・・・止める」

しばらくの無言の後、正樹はただそう告げた。

「誰も止めないなら・・・誰にも止めれないなら・・・・・・俺が止めてやるっっ!!アイツ等を戦わせやしねぇ!!!」

強い意志と強い眼差し。

その二つを持って、正樹は彩に向き直った。

「彩、力を貸してくれ」

「・・・・・・動くの?」

鋭い視線に臆することなく、彩は端的に返した。

「ああ、今が・・・ようやく俺が動く時なんだ。だから!!」

途端、彩はまるで子どものような無邪気な笑顔を見せた。

「わかってるわよ、正樹」

「彩・・・?」

「約束、したでしょ?小さい頃に」

「・・・・・・ああ」

「互いが互いを助け合うって。・・・ね?」

彩の優しげな笑顔に、正樹も笑顔で頷き、応える。

今こそ、約束を果たす時。

幼い頃から続いていた、絆の約束を。

「・・・格納庫へ。そこにあるわ」

「わかった。・・・けどよ、一応聞いていいか?――――――なにが?」

「アンタの、新しい機体に決まってるでしょ!」

言って、二人は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30個ものシリンダーのビームが生み出した光の渦の中を、エターナル・ラストクルセイダー、ネイティブ・ヴァナディース、ギャラクシーウイング、アルティメットラッキースターの4機は無数に翔け抜けた。

光の奔流をかわしつつ、裕樹は両手のレールライフル、両肩、腰の“カルテットバスター”を撃ち続け、タクトはそれをシールドで防ぎつつ回避。同時に6連装のリニアレールキャノンを美奈に狙い、それに追撃するようにミルフィーユはビームファランクスを発射する。それを裕樹と美奈のシリンダーの一部がネイティブ・ヴァナディースを守るように網状の盾となって、それぞれの攻撃を防いだ。

――――――その間。―――――――裕樹は攻撃を放った瞬間、ミルフィーユが美奈を狙うと先読みし、その進行上へ先回りし、ミルフィーユがビームファランクスを放った瞬間、脚部のバリアシールドを展開し“ヴェレスティ・レッグブレード”でアルティメットラッキースターの先端を蹴り飛ばす。その瞬間にはタクトは裕樹を狙っていて、放たれたビームキャノンを裕樹は“セイクリッドティア”で斬り防いでいた。

そのタクトの隙を美奈が狙い、その隙をミルフィーユ、それを防ぎながら裕樹もタクトへ向かい、タクトは回避と同時に裕樹と美奈の両方へ攻撃。ミルフィーユもそれに続いて、同調するように裕樹と美奈もタクトとミルフィーユを同時に攻撃する。

常識離れしすぎた、超越した戦い。だがそれでも決着は一向につかず、永遠に続くものとさえ思えた。

「タクトッッ!!!・・・お前がいるから――――っっっ!!!」

「裕樹っっ!!君さえ居なければっっっ!!!!」

光の渦の射線をすり抜け、エターナル・ラストクルセイダーとギャラクシーウイングが正面から激突する。永遠に思えた一瞬の均衡。触れ合ったのは一秒にも満たない時間。――――――30個ものシリンダーがビームを放つ、光の渦の中では、一秒でもその場に留まれば確実に機体がシリンダーに取り囲まれてしまう。

同瞬間、アルティメットラッキースターの二門のクロノ・インパクト・キャノンを、ネイティブ・ヴァナディースは両手首のシールド、防衛用兵装“ホーリィブラスター”で相殺しつつ、メノスセイバーを両手に構え一気に肉薄する。その突撃をアルティメットラッキースターは展開した“トゥインクルセイバー”で受け止めながら対抗した。

「ミルフィーッッ!!あなたが・・・あなたなんかがっっっ!!!」

「姉、さん!!許さない・・・絶対に――――っっっ!!!」

直後、両機の間に放たれた無数のビームを、互いに弾き飛ばし合い、回避する。

激しく飛び交う4機に、終わりは見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルシオールの格納庫の最奥へ走り続けた正樹と彩は、目的の機体の前で止まった。

「グランディウス・・・もう修復してたのか」

「正しくは強化よ。早く乗りなさい!!グズグズしてると取り返しがつかないわよ!!」

「わかってる!!」

言って、正樹はコックピットに飛び込み、――――――続く彩に驚愕した。

「おい、彩!?」

「・・・さすがに今回はエルシオールには残れないわよ。逃げ出すことも、無理っぽいし」

「・・・だよな。けど、どうすんだ?」

「簡易固定ジャケットがあるし・・・ま、後は正樹の腕を信頼してるわよ」

本心からか、それとも皮肉なのかは正樹にはわからなかった。

確かに、正気の沙汰とはいえないだろう。

今もなお、他の追随を許さず、常識離れしすぎた戦闘を繰り広げている4人を止めるなど。

だけど、それでも自分が行かなければならない。自惚れとかではなく、唯一その可能性を持っているのだから。

「調整は必要ないわよ。正樹の操作データと完全に適合させてるから、違和感なく扱えるはずよ」

「さすがだな」

「当然でしょ」

思わず苦笑する。

まったく、この強気で勝気な幼馴染はどこまでこちらの考えを先読みしてくれるのだろう。

ならばと、正樹は機動スイッチを押し込み、機体にエンジン音が満ちていく。と同時に、コックピットのモニターからでもわかるほどに、機体の装甲色が変化した。

腹部を中心として外側に行くにつれ、赤、オレンジ、黄、緑の装甲色を宿している。

「これ、は?」

「ま、エルシオールのみんなを騙すためのカモフラージュみたいなものよ。けれど以降はこの装甲色に固定されるけど」

確かに、装甲色が旧グランディウスと変わらなければ、整備が順調ではないと誤魔化しもきくだろう。だが、それ以上に――――――

「・・・目立つな」

「仕方ないでしょう。装甲そのものに強力なエネルギーシールドを融合しているから仕方ないのよ。あ、当然、コックピット部分の赤が一番硬度が高いわよ」

まあ、彩が設計したのだ。ならば仕方ないだろう。扱いきればいいだけなのだから。

 

 

 

『ちょ、ちょっと!?正樹さん・・・なんですか!?』

突然機動したIGに、格納庫にいたクレータは驚いた様子で通信を繋げてきた。

だが悪いが時間がない。彼女の説得に時間など掛けられないのだ。

「クレータ班長、出撃する。ハッチを開放してくれ」

『で、ですがクールダラス司令の許可もないのに・・・!?』

「ならば、力づくでも開けるぞ。そういうのはさすがに困るんじゃねぇか?」

『っっ・・・・・・・・・わかり、ました』

その言葉の強さから、観念したのかクレータはカタパルトハッチの解放を指示した。

「悪いな、クレータ班長」

『・・・・・・正樹さん。一体、なにを――――――』

言い終わる前に通信を切る。

時間が無い。運ばれる時間も惜しんで、正樹は自ら機体をカタパルトへ移動させた。

さすがに伝達が混乱しているのか、出撃を告げるアルモの声が無い。

無音のままカタパルトのハッチが開き、その先の宇宙、そして惑星アークトゥルスが視界に入る。

「・・・彩」

右に簡易ジャケットで体を固定させている彩に声をかける。

主語も述語も何も無い、ただ名前を呼んだだけなのに、彩は全てを察した。

「・・・約束だからね。だから、正樹は正樹の信じる道を行けばいいのよ」

それは同時に、自分もついていく、ということでもあった。

心強い幼馴染を感じつつ、正樹は意識を自身の内へ飛ばす。

 

 

 

感じる。

セフィラムを通じて解る。

裕樹が、タクトが、美奈が、ミルフィーユが、戦っている、叫んでいる。それぞれの敵に対して。

そんなこと、許さない。

どれだけ単純で、青臭い理由でも、許さない。

自分の友人たちが、友人同士で戦うことなど。

 

 

 

「裕樹・・・俺は・・・」

行った後のことは考えていない。

正直、どちらかの味方になるなんてことは出来ないと思う。今の彼等は、あまりに自分を見失っている気がするから。

だから、あえて考えない。

出てきた事実と結果に、その度向き合えばいいだけだ。

それで充分。

自分が戦う理由は、それで充分だった。

傍に居る彩を強く感じる。

今、もう一度、自分は―――――――――道を進み出す。

「・・・神崎正樹、コロナ・グランディウス、行くぜっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叫びと共に、まるで太陽風を纏っているかのようなIGがエルシオールから飛び出す。

それが希望。

裕樹と、タクトと、美奈と、ミルフィーユの運命を変えれる、たった一つの希望。

正樹と彩の、幼き頃の約束の集大成である絆のIGは、全速力でアークトゥルスへ降下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

 

どうも、久しぶりのあとがきです。

いかがなものでしょうか。第三部の二人の主人公対決とヒロイン対決は。

正直なところ、書いてる私は死にそうでした。というか一話ほとんどがバトルの話って大変だぁ。しかも4人しか戦ってないですし。

ともあれ、次回でアークトゥルスを中心に繰り広げていた長きに渡る戦いは終結します。

長かったぁ〜。考えてみれば第十八章からバトル始まっていて、次の二十四章で終わりってことは、7章分もバトルばっか書いていたんですねぇ。(遠い目)

と、ともかく!そんなんで次回も頑張ります。

次はまったく出番がなかった正樹とキャロルが頑張るようにするつもりですので。

ではでは〜。