第28章「策略のタクト」

 

 

 

 

 

 

全方位、全周囲から放たれる無数のビームとミサイルの嵐。

それは点ですらなく、完全に面として襲い掛かってきた。

「――――――」

その、秒間にも満たない、1秒以下の刹那。

美奈の瞳の奥で6つの結晶が集束し、無数の光の粒子と共に弾け、解放(リバレート)した。

 

瞬間の、それでいて逃げ道のない光の暴雨に咄嗟の対応が遅れたちとせ、京介をかばうべく加速。

放たれた砲火が2機に届くより速く、美奈は機体をその射線上に移動させ、盾になるかのように両手を広げて構え―――――――――次の瞬間にはネイティブ・ヴァナディースから放たれた“ホーリィブラスター”がビーム、ミサイルを全て相殺していた。

「2人とも、行くわよ!!」

呆気に取られるちとせと京介を一喝し、美奈は先行した裕樹の後を追うべく、全速力で加速した。

 

 

 

 

 

美奈のネイティブ・ヴァナディースが“ホーリィブラスター”を放つ数秒前、裕樹は機体を躍らせるように滑らせ、圧倒的な光の奔流の全てを回避しつくす。

直後、追撃として“ギャラクシーウイング”が放ったビームレイを“ヴァレスティセイバー”で正面から斬り防ぎ、一気にギャラクシーウイングに肉薄する。即座に対応したタクトがアジリティ・システムで斥力を発生させるが、その流れに逆らわず機体を舞い上がらせ、後方の“クロノトリガー”、“Σバルキサス”にカルテットバスター、後翼ビームレイを発射。同時に両肩の“ソニックスラッシャー”を射出し、アルティメットラッキースターを無理やり突き放した。

2秒という、一瞬の時間で4機全ての攻撃の足を止めた裕樹。

その、他を圧倒する操縦技術に、フォルテは改めて舌を巻いた。

 

 

 

 

 

即座に間合いを離した裕樹の傍にネイティブ・ヴァナディース、エンドオブウォーズ、アストラル・シャープシューターがなんとか追いついてきた。

『裕樹!!』

「ありがとな。美奈ならなんとかしてくれるって信じてた」

『・・・出来れば事前の相談が欲しかったケド』

モニター越しに笑い合う。

直後、京介が一切の迷いを切り捨てたかのような顔で、機体を前進させる。

『裕樹・・・テフラ・トリックマスター・・・ミントは、僕が抑える』

有無を言わさぬ、決意の眼差し。同時に、京介は機体をテフラ・トリックマスターへ加速させた。

以前交わした約束に従い、裕樹は止めはせず、京介を見送った。

だが、それでも数では相手が圧倒的に有利。加えて、後方は大軍とも言えるトランスバール艦隊が陣を敷いているのだ。

たとえ、ヴェインスレイが戦艦としての性能がずば抜けていても、一隻では限界がある。

ならばと、裕樹は迷うよりも先に決断した。

「ちとせ!悪いけど、フォルテを任せられるか!?」

『はい、大丈夫です・・・!!』

ちとせも疑うことなく、即座に攻撃目標をクロノトリガーに切り替え、紋章機を加速させていった。

「美奈は、ヴェインスレイと一緒に後方の敵艦隊を無力化してくれ!!」

『え・・・!?で、でも!?』

もとより、ネイティブ・ヴァナディースの方が個々の武装の火力は高く、対艦戦向きである。

だが、ここで美奈を行かせるということは、残りのタクト、ミルフィーユ、エリスの3人を裕樹1人で相手にしなければならなということに直結する。

『裕樹・・・!!』

直後、タクトが駆るギャラクシーウイングが“ホーリーセイバー”を抜き放ち、疾風の速さで肉薄。

それよりも早く、裕樹は機体を沈ませ斬撃を回避。同時にスラスター全開でこちらもヴァレスティセイバーを構え、そのまま激突する。

「ここは俺が抑えるから・・・!!美奈、行けっっ!!」

『・・・っっ、絶対、すぐに戻ってくるから・・・っっ!!』

言って、ネイティブ・ヴァナディースは機体を翻し、後翼を展開させつつトランスバール艦隊へ向け、疾駆した。

 

 

 

 

 

『姉さん・・・!?逃がさないっっ』

後退するネイティブ・ヴァナディースを見、ミルフィーユは追撃しようとスロットルを踏みしめ、

「行かせるかっっ!!ミルフィーッッ!!」

ギャラクシーウイングと鍔迫り合いながら10基の“ヴァレスティ・シリンダー”を展開。その10本の光条をオールレンジでアルティメットラッキースターに浴びせる。

そのビームの嵐をアルティメットラッキースターがエネルギーシールドで防ぐのを視界の端で確認し――――――真上に回り込んだΣバルキサスの“H.V.S.B”をSCSで鍔迫り合いから抜けつつ、即座に後退し回避する。

先ほどまでいた空間をビームが突き抜けるのに、少しだけヒヤリとする。

(あのバルキサスのカスタムタイプに乗ってるのがタクトの妹・・・・・エリス)

タクトやミルフィーユのようにずば抜けた操縦技量があるわけではないが、それでも相当な実力の持ち主だと、今更ながら思い知る。

自分に言い聞かせるように思考を廻らせつつ、一瞬のうちに右手にダブルセイバー“セイクリッドティア”、左手に“ラケルタ・ヴァレスティセイバー”を構え、間髪入れずにアルティメットラッキースターをロックし、接近する。

『させるかっっ!!』

その先にギャラクシーウイングが回り込み、絶妙なタイミングで振りぬく“ホーリーセイバー”を急制御をかけ宙返りし回避する。

その、先。

ギャラクシーウイングの真後ろからアルティメットラッキースターの4門の“クロノ・インパクト・キャノン”の砲口が火を吹き、それと同時に真下のΣバルキサスから無数のビームとミサイルが豪雨のように放たれ、上方へ移動したギャラクシーウイングからは両手に構えるロングバスターライフルから高出力のビームがこちらを捉えていた。

「こ、のぉ・・・!!」

即座に後退。同時にフルスロットルのスラスター全開で目まぐるしく鋭角的に加速し、嵐のような光の奔流をギリギリのところで回避しつつげる。が、その先にすでに展開されていた“エンジェル・シリンダー”が鎌首を曲げるようにビームを発射していた。

――――――間に合わない。

咄嗟に回避が不可能だと判断し、バリアフィールドを自機周囲に展開。直後、エンジェル・シリンダー、ビームファランクス、ビームレイ、ビームバズーカが止まることなく、バリアフィールドに突き刺さる。

無数の、一瞬の隙すら生まれない連射に加え、武装があまりに高出力なため、裕樹はバリアフィールドを展開したまま、エターナル・ラストクルセイダーを少しも動かすことが出来なくなっていた。

(これが・・・タクトの戦術なのか・・・!?)

一対一ではなく、複数の味方機をもっとも効率よく動かしていくタクトの統率指揮能力には舌を巻くばかりだ。

そんな考えを廻らせていると、唐突に目の前のギャラクシーウイングとアルティメットラッキースターから通信回線が繋げられてきた。無論、攻撃の手は一瞬たりとも緩んでいない。

『裕樹!なんで君が・・・白き月へ侵攻なんかを・・・!!』

「タクト・・・!!」

『このまま降参してください、裕樹さん!!どのみち、勝ち目はありません!!』

「それは・・・できないんだよ、ミルフィーッッ!!」

『なんで・・・!?』

モニターに映るミルフィーユの表情が悲しげに揺れる。

そんな彼女に罪悪感を感じながらも、意志を枉げることなど出来なかった。

「――――――たとえ、タクトとミルフィーが忘れていても・・・・・・それでも、知ってしまった俺だから・・・!!」

『え・・・!?』

「だから・・・!!俺はみんなに・・・みんなを・・・っっ!!!」

裕樹の瞳の奥で6つの結晶が集束し、無数の光の粒子と共に弾け、解放(リバレート)した。

 

3機から放たれる無数の砲火に対し、バリアを解くと同時に両腕のシリンダーシールドを広域範囲に展開。

射線に対し、両腕を鏡面の如く滑らかな動きで弾き、その全てを正面に突撃しながら全てを弾き防いだ。

「―――――!!」

無数の砲火の一瞬の静寂。同時に上昇、3機を見下ろす形でエターナル・ラストクルセイダーの全ての射撃武装を解放。今度は逆に3機の足を止めていく。

その射線を掻い潜ったギャラクシーウイングが“ホーリーセイバー”を抜き放ち、急速に迫る。

それに対応すべく、射撃を止め、そのまま脚部の“ヴァレスティ・レッグブレード”でギャラクシーウイングを盾ごと真下に蹴り落した。

『っっ!!―――――まだだっっ!!』

体勢を立て直し、再び3機が3方向から迫る。

その全てを視界に捉えながら、裕樹はダブルセイバー、ラケルタ・セイバーを両手に構え、3機を同時に向かえ撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『正樹ぃぃぃぃっっっ!!!』

ランファの怒涛の叫びと共に、コロナ・グランディウスに向け、高速のアンカークローが飛来する。

「―――――!」

それに、正樹は即座に反応する。

弧を描くように左右から襲いくる超速の鉄拳。

咄嗟に構えた対艦刀“ディヴァインブレード”で受け止めるも、そのあまりの破壊力に機体を大きく吹き飛ばされる。

『なんで・・・なんでっっ!!』

「ランファ!!」

吹き飛ばされる体制のまま、迫り来るシージ・カンフーマスターにライフルを連射する。が、その光弾を当然のように回避し、更に迫る。

 

鬼気迫る、とでもいうのだろうか。

今のシージ・カンフーマスターからは“光の翼”が出現し、その気迫たるや殺気を感じるほどだ。

 

体勢を立て直した正樹は即座に胸部連装レーザー放射兵装“バーストスティンガー”を絶妙なタイミングで放つ。

だが、それすらランファは絶妙なスラスター制御で巧みに回避する。

(だが、甘い・・・っっ!!)

回避した直後、刹那の姿勢制御の隙をつき、コロナ・グランディウスは対艦刀並の大きさを誇るビームブーメラン“ファイティングエッジ”を投げ放った。

『―――――!!』

紋章機の特性故、IGほどの精密な直角移動は不可能。

この一撃は、確実にシージ・カンフーマスターのエンジンを直撃する。

 

――――――――その、はずだった。

 

「な・・・ゼファー・ラーム!?」

ブレードブーメランの軌跡の先、同じく対艦刀並の出力を誇る銃剣“オメガ”が、“ファイティングエッジ”を全力の下、弾き返していた。

『正樹さん!!あなたに・・・アンタたちに勝ち目はない!!』

『ここで、終わらせる・・・正樹っっ!!』

シージ・カンフーマスターとゼファー・ラームが目前に迫る。

直後、その間を薙ぐように無数のビームが遮っていく。

「キャロル!」

『――――――』

咄嗟にこちらを援護してくれたキャロル。

相変わらず無言、無表情だったが、ほんの少しだけ安堵した顔に見えた。

『正樹、さん・・・!!』

その直後、周囲の敵機を片付けたヴァニラが無数の光条と共に支援に来てくれた。

だが、状況が好転したわけではない。

いくらヴァニラ、キャロルが揃おうと、今のランファ、エクスを相手にするにはまだ分が悪い。

いや、そもそも足止めを喰らっている暇はないのだ。

今頃、裕樹たちの部隊は確実にタクトたちの本陣と激突しているのだから。

撤退しようにも、裕樹たちと合流しなければ話にならない。

「ヴァニラ!キャロル!分散せずにランファとエクスを突破するぞ!!」

『わかり、ました・・・っっ』

『――――――』

故に、時間は掛けられない。

機体のポテンシャル、パイロットの技量に差があるというのなら、僅かに勝る物量で押し切るしか――――――!!

「行くぜ!!」

叫びと共に8基のシリンダーを展開。対艦刀を構え2機に向けて突撃する。

それに呼応するかのように、ランファとエクスは機体を旋回させ、挟み込むように全ての武装を解放した。

3機がそれぞれの火力を持って相殺し、それぞれが互いの相手を認識する。

 

 

 

―――――――――この激闘にすら、終わりは見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵艦よりミサイル、来ます!数70!!」

「迎撃!弾幕を張れ!!同時に回避行動!!」

オペレーターの悲壮めいた報告に、和人は即座に指示を飛ばす。

今、旗艦ヴェインスレイは全てでは無いにしろ、トランスバール艦隊の8割方から集中砲火を浴びていた。

ミサイル、ビーム、反応弾と、あらゆる火砲が絶え間なく、それでいて統率の取れた攻撃を延々と行ってくる。

これがトランスバール皇国将軍、ルフト・ヴァイツェンの指揮能力とでもいうのだろうか。

教科書通りの、しかしそれ故、一切の無駄のない指揮ぶりはとてもタクトの師とは思えないほどだ。

「敵駆逐艦より、反応弾、4!!」

しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。

今ここで、ヴェインスレイを落とされるわけにはいかないのだ。

「ビームレイは全て反応弾の迎撃に回せ!!火器管制、主砲発射用意!!」

「チャージまでおよそ30秒!和人、副砲のチャージサイクルを加速させるわよ!!」

火器管制指令席に座る彩が即断し、和人に告げる。

その声に、和人が思わず火器管制席に振り返った。

「無茶言うな!?回せるエネルギーの余裕なんてねーぞ!!」

「予備リアクターから直結させればいいでしょ!?今の状況で予備を置いとく余裕ある!?」

彩のもっともな意見に何も言わず、和人は即座に指示を下していく。

 

こうして粘り続けてどれくらいになるだろうか。

正直、この艦隊の数を減らさなければ、遅かれ早かれ、ヴェインスレイは墜とされてしまうだろう。

なにか、この状況を打破できるだけの起爆剤となる要素さえあれば・・・・・・

 

その、突如。

迫っていた無数のミサイル、ビームの網が一斉にカット、相殺されていくのをレーダー越しに確認する。

そして、間を置かずにネイティブ・ヴァナディースが凄まじい速度でヴェインスレイの前方に回りこみ、迫る砲火の全てを鮮やかに撃ち防ぎ、相殺していくの目の当たりにした。

「美奈!!」

『突破口を開くわ!和人、着いてきて!!』

通信回線から美奈の一方的な声が届き、その言葉どおり、ネイティブ・ヴァナディースは僅か1機で無数の艦隊に飛び込んでいく。

「あの・・・」

操舵士がどうしようかと和人に振り返り、

「―――――艦首、ネイティブ・ヴァナディースの後に着けろ!!エスコートしてもらうぞ!!」

迷うことなく、和人は即決した。

 

 

 

 

 

「こ、の・・・っっ!!」

美奈はネイティブ・ヴァナディースを駆り、艦隊からの無数の砲火、全てを回避、防ぎながら隣接し、搭載火器をすれ違いざまに“メノスセイバー”で切断、攻撃能力を次々と奪っていく。

それに呼応するように、今までヴェインスレイに向けられていた火力が、一斉にネイティブ・ヴァナディースに集中される。

だが、それすら“ホーリィブラスター”で消し飛ばし、“ディヴァインフェザー”で強引に戦艦の火力を奪い去り続けた。

「時間が、無いの・・・!!」

懇願にも似た叫びを漏らし、美奈は1人残った裕樹のことを気に懸けていた。

いくら裕樹とエターナル・ラストクルセイダーと言えど、タクト、ミルフィーユ、エリスの3人を同時に相手にするには荷が重すぎる。

故に刹那にも時間は掛けられず、武装は破壊してもメインスラスターは完全に無視した。

「急がないと・・・裕樹が・・・!!」

周囲の艦隊を完全に無力化し終え、美奈はまだ武装の生きている艦隊に向け、機体を加速させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、白き月ギリギリの側面では、ちとせのアストラルシャープシューターと、フォルテのクロノトリガーの激闘に決着が着こうとしていた。

対角線上に飛び交い、常に一定の距離を空けつつ、ちとせは側面、背後からカロリックレーザーを放つが、クロノトリガーの圧倒的すぎる重装甲の前には、ダメージすら与えられない。

その刹那、クロノトリガーが“ドライヴトリガー”を用い、視界から消える。

(―――――!!)

だが、ちとせは持ち前の神がかり的な心眼により、そこ転移先を読み、10もの小型反応弾を放つ“テン・ジェノサイド”を転移先に発射する。

それを、クロノトリガーは待っていたかのように“フォトン・トーピード”で全てを迎撃。

更に装甲の厚さによる、反応弾の爆発を強引に突破。一気にアストラル・シャープシューターに突撃してきた。

『どういうつもりだい、ちとせ!!白き月に侵攻してくるとは・・・裕樹は何を考えてんだ!!』

「・・・っっ」

通信越しに届く、フォルテの言葉に反論できない。

正しくは、反論する術はあったのだが、今ここでそれをフォルテに話したところで信じてもらえるはずがないと、ちとせは理解していた。

「だからって・・・!!」

至近距離で放たれたレーザーキャノンをバレルロールで回避。立て続けに空間を奔る“フラッシュエッジ”を放つが、同じタイミングで放たれた連装レールキャノンで威力を殺されていた。

『戦いを終わらせるために戦う・・・その意味も虚しさも、知らないお前じゃないだろ!?ちとせ!!』

「それは・・・関係ない・・・!!」

急制御をかけその場で反転。逆転する視界のまま、刹那のうちに光の弓を具現し、「フェイタルアロー」がクロノトリガーの連装主砲の片方を撃ち貫いた。

「償いの時は、必ず来ます・・・!!それまで、私は・・・!!」

『なら、その時がくるまでの過程に、どれだけの犠牲を生むつもりっていうんだい!!』

「――――――守ることしか・・・守護の本当の意味を知らない、フォルテ先輩が気づけるはずありません・・・っっ!!」

『な、に・・・!?』

後退するクロノトリガーに追撃のカロリックレーザー、ミサイルポッドを立て続けに放つ。

 

――――――その直後、ちとせは我が目を疑った。

 

突如、きりもみ回転したクロノトリガーが、回転したまま無数の武装を解放。広域範囲に拡散した火線がレーザー、ミサイルの全てを薙ぎ払う。

咄嗟にちとせはフェイアルアローを放とうと構え―――――――こちらに激突するクロノトリガーを見た。

(ドライヴトリガー・・・!?)

『それでもだよ、ちとせ――――――』

フェイタルアローがクロノトリガーの装甲を貫く。

だが、それは照準をずらされ、致命傷にはほど遠い一撃。

同時に、クロノトリガーの全ての武装が開かれるのが、ちとせの視界に飛び込んでくる。

『―――――その“想い”だけで・・・2度もアタシに勝てるとは思わないことだよっっ!!!』

零距離で放たれる「ストライクバースト」が、コックピットを除くアストラル・シャープシューターの機体全体に直撃する。

「・・・っっ!!」

コックピットを激震が襲い、続けざまに、激しいまでのアラート音が鳴り響いていく。

即座にダメージコントロールを行うが、メインスラスターに右側面のバランサーを完全に破壊されていた。

紋章機である以上、つまりは実質的な戦闘不能ということだった。

「う・・・く・・・っっ」

『・・・アタシの勝ちってわけだねぇ』

歯を食いしばり、前方のクロノトリガーを睨む。

 

 

 

――――――その直後、唐突に通信回線、及びモニターにノイズが奔った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ・・・」

シージ・カンフーマスターがすれ違いざまにワイヤーアンカーを直撃させ、コロナ・グランディウスが大きく吹き飛ばされる。

即座に体勢を立て直すが、すでに追撃として放たれた「アンカークロー」が左右から弧を描くように迫ってきていた。

 

その実、相手の必殺技でもある「アンカークロー」はオールレンジ兵器であるシリンダー兵器よりも厄介なものであった。

直線的ではなく、曲線的な動きであり、しかもこちらに直撃するタイムラグはランファのタイミング次第なので、ある意味この上なく回避が厄介な武装なのだ。しかも直撃すれば致命傷は免れないという、威力の高さである。

 

咄嗟にTティアルライフルを連射しながら後退するコロナ・グランディウスに、シージ・カンフーマスターはビームガトリングを速射しながら一気に迫ってくる。

『正樹・・・っっ、なんで・・・なんでよ・・・!!』

「なにがっっ!!」

『なんで、エルシオールを捨てたのよ!!』

こちらの放った光弾を、シージ・カンフーマスターはバレルロールを繰り返し回避。

その、本体の紋章機の回転がすでに放たれていたアンカークローのワイヤー、“特殊鋼切断ワイヤー”がこちらを挟み込むように動きを変える。

「捨てた覚えはねぇ!!」

スラスター全開で緊急上昇し、ワイヤーを回避。

が、その先を行く「アンカークロー」が2つ揃って、一直線にこちらに迫っていた。

咄嗟にバリアである“エーテルフィールド”を展開する。が、超速で放たれた「アンカークロー」はバリアをいとも容易く突破し、咄嗟に構えた対艦刀“デヴァインブレード”で2つの鉄拳を受け止め、更に吹き飛ばされる。

「こ、のぉ・・・っっ!!」

強烈な衝撃がコックピットを襲う中、まるで獲物を追い詰める獣のように、即座にシージ・カンフーマスターが目前に迫っていた。

『――――あんなに、優しく・・・してくれたくせに・・・っっ』

「・・・!?」

『なのに・・・何にも言わず、勝手に飛び出して・・・っっ!!』

耳に届く、ランファの言葉が理解できない。

ランファが、何を伝えようとしているのかが―――――――――

『どうして・・・・・・一言、声をかけてくれなかったのよっっっ!!!!!!!!!!!!!!

 

刹那、シージ・カンフーマスターに眩いばかりの光が集い、そして光は翼を具現させた。

 

「ランファ、お前・・・・・・」

女性経験はないが、正樹は決して鈍くはない。

そこまで言われて、ランファの心情を知らないでは済まされなかった。

そう、いつの間にかは知らないが、ランファはこんな自分に好意を寄せてくれていたのだ。

それは友情ではなく、確かな愛情であった。

(――――――――)

けど、だからこそ、正樹は頷けなかった。

「・・・ランファ、一度しか言わねぇぞ」

『正、樹・・・・?』

「――――――俺が生涯で、イイ“女”と思ったのは1人だけで、生涯で守ってやりたいと思った“娘”は、たった一人だ」

言葉を続けながら、武装にエフクトコンバーターを直結。

対艦刀“セイント・ディヴァインセイバー”として、高出力のビームを纏わせる。

「その中に――――――ランファ、お前の名前は無ぇよ」

『――――――っっ』

通信回線から聞こえる、微かな吐息。

それは、明らかな拒絶に怯え、けれど受け入れた反応。

『そう、ね・・・・・―――――――――それでこそ、正樹よね・・・っっ!!!!!!!!!

エンジェルフェザーに更なる光が集う。

直後、アンカークローの固定を外し―――――――――

『アンタ、なんか・・・・・・・だいっっ嫌いよっっっ!!!!!!!!!!!!!!!

叫びと共に、超必殺技である“スパイラルドライブ”が放たれた。

 

 

 

光の螺旋を纏い、通常をはるかに超える超速で迫るシージ・カンフーマスター。

咄嗟に後退しながらビームを連射するが、“光のドリル”にはまるで敵わず、その全てが弾かれていく。

(面倒・・・くせぇ・・・っっ!!)

咄嗟に両手に対艦刀を持ち、交差する双刃を持って、“スパイラルドライブ”を真正面から受け止めた。

触れたと同時に、正樹はコロナ・グランディウスの全ての出力を解放しなければ、均衡すら許されなかった。

『ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!

「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!

強烈な閃光を弾くほどの大出力の衝突。

それは、刹那と共に双方が弾かれ、終わりを迎える。

 

―――――――――だが、ランファは更に先手を討っていた。

 

スパイラルドライブよりも先に解放していたアンカークロー。

その2基が、姿勢を制御できないコロナ・グランディウスに強撃した。

「っっ!!」

左右から挟まれるように直撃したアンカークローは、コロナ・グランディウスの装甲を捥ぎ取ることは出来なかったが、機体内部に確実なダメージを与えた。

 

―――――――――だが、正樹もその先の手は討っていた。

 

挟み込むようにアンカークローを直撃させ、機体を翻した―――――――直後、

突如にして視界を埋め尽くす巨大なファイティングエッジが、アンカークローの射出装置を刈り取った。

『なっっ・・・!?』

それは、“スパイラルドライブ”を弾いた瞬間に、咄嗟に背後から襲うように投げつけた計算しつくされた投擲。

「この程度で・・・俺が負けるかよ・・・っっ」

『っ、正樹ぃ・・・・っっ!!!』

生き残った武装を構え、更なる戦闘を継続しようとし相手を見据える。

 

 

 

 

 

――――――その直後、唐突に通信回線、及びモニターにノイズが奔った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目前に迫る「ゼン」「バルキサス」に対し、京介はエンドオブウォーズを駆り、抜き放ったストライクセイバーですれ違い様に両機を切断し、咄嗟に視界に入った敵量産機に対しエーテル・シリンダーを解放。無数のビームの嵐が敵機を無数に撃ち抜いていく。

直後、ロックオンアラートが鳴り響き、振り返り様にハイパーティアル・ライフルを構え――――――――

「・・・!!」

――――――――その銃口の先に、テフラ・トリックマスターを確認した。

『――――!!』

向こうの息を飲む声が聞こえる。

お互いに認知したのだろうが、それでも呼びかけずにはいられなかった。

「――――ミントッッ!!」

『京介、さん・・・・』

その先が、続かなかった。

以前の約束を思い出しながら、今だその約束を実行できない自分がいた。

それが、この上なく非力で、情けなかった。

 

 

 

『京介さん・・・何を、為さっているのですか、ヴェインスレイは・・・っっ』

「・・・・・」

ミントの問いに答えられなかった。

本音を言えば、ミントには全てを打ち明けてもいいとさえ思う。

だけど、事態はそんな簡単なものじゃない。

言ってしまえば、今のヴェインスレイは裕樹への信頼だけで成り立っているものだ。

裕樹が自分を信頼してくれている以上、例え好きにしていいと言われていても、勝手には出来ない。

『―――――っっ』

直後、唐突すぎるほど突然に、テフラ・トリックマスターからアデッシブボムが放たれていた。

「ミント!?」

叫びつつ、咄嗟に“Hティアル・ライフル”で迎撃。同時にアデッシブボムに反応した6基の“レナティブ・デバイス”が追撃のビームを放ち、それを“スレイヤービームウィップ”で全て打ち防いだ。

『どうしてですか、京介さん・・・っっ、どうして、何も仰ってくれないのですか!?』

「―――――っっ」

叫びと共に今度は“ハイパービームキャノン”を放たれ、対角線上に回避しつつ、追撃として放たれる“レナティブ・デバイス”のビームをライフルによる相殺、シールドでの防御を駆使し、全てを無効化する。

だけど、悲しかった。

こうして、結果的に再会した時、やはり戦ってしまう自分たちが。

それが、どうしようもなく耐えられなくて―――――――――

「・・・ミント」

答えではないけれど、言葉にするしかなかった。

『・・・?』

その唐突すぎる感情の変化にミントも思わず攻撃の手を止める。

「それでも、僕は・・・僕には・・・」

『・・・・・・』

「信じてくれとしか、言えないんだ・・・」

『・・・なら』

 

刹那、テフラ・トリックマスターのハイフライヤーが展開。同時にエンドオブウォーズのエーテル・シリンダーも展開。

双方のビットはまったく同時に、相手の背後に迫る敵機をそれぞれ撃墜する。

瞬間、2機の周囲が爆炎に包まれ、その中、2機は一切の稼動を行わなかった。

 

『信じますわ』

「え・・・?」

『他でもない、京介さんの言葉ですもの。―――――信じないはず、ありませんわ・・・』

「――――――ありがとう、ミント。僕は――――――」

 

 

 

 

 

――――――その直後、唐突に通信回線、及びモニターにノイズが奔った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えええぇぇぇぇいっっっっ!!!!!!!!

アルティメットラッキースターから放たれた“エンジェルシリンダー”の無数のビームを、エターナル・ラストクルセイダーで目まぐるしく、掻い潜るように回避しつつ、同時に“ヴァレスティ・シリンダー”を射出。10基のビームがギャラクシーウイングを牽制する隙に、Σバルキサスに一気に加速、接近する。

『私にだって、あなたくらい・・・!!』

「遊んでる暇、無いんだよ・・・っっ!!!」

肉薄する直前の絶妙な所での急制御。同時にビームブーメランを回転しながら射出する。

咄嗟にシールドを展開するΣバルキサスだが、2つのビームブーメランを防いだ瞬間を裕樹は狙う。

『え・・・!?』

回転運動を殺さずに、そのまま脚部のレッグブレードを展開。Σバルキサスの両腕を蹴り飛ばし、そのままの回転でヴァレスティセイバーを抜刀。頭部と右足を刹那のうちに斬り裂いていた。

『エリス!!』

『エリスちゃん、下がって!!』

直後、後方からアルティメットラッキースター、ギャラクシーウイングが迫り、2機からの火線を弧を描く動きで回避していく。

『・・・・!!』

そのまま加速を止めず、ギャラクシーウイングがホーリーセイバーを抜き迫り、呼応するようにこちらもヴァレスティセイバーを構え、突撃する。

が、間合いに入る直前のタイミングでアジリティ・システムの斥力が発動。これをギャラクシーウイングを飛び越えるように勢いのまま回避する。だが、その回避した先をアルティメットラッキースターが待ち構えていた。

「な・・・・」

『そこですっっ!!』

至近距離から放たれた連装リニアレールキャノンが直撃し、体勢を崩されたまま大きく吹き飛ばされる。

「ぐ、くっ・・・」

即座に体勢を立て直す中、ギャラクシーウイングが更に迫る。

逆返った体勢のまま、タクトの繰り出すホーリーセイバーに刃を合わせ斬撃を防ぐが、上方から更にアルティメットラッキースターの砲口がこちらを捉えていた。

『裕樹さん!これで・・・っっ』

「っ、ミルフィーッッ!!」

『裕樹!降伏しろ!!―――――君を、討ちたくないっっ!!』

「――――タクト・・・悪いけどさ・・・」

 

その、刹那。

超高速で飛来する機体が、光の翼ごとアルティメットラッキースターを奇襲。一気に突き放した。

 

「俺はまだ、天命に見放されてないんだ!!」

『ネイティブ・ヴァナディース・・・・美奈!?』

『っっ、ねえ、さん・・・!?』

「裕樹、お待たせ!!」

圧倒的な機体差にも関わらず、アルティメットラッキースターを吹き飛ばしてからこちらの支援に駆けつけた。

「美奈、敵艦隊は!?」

「ぜんぶ無力化してきたよ!和人・・・ヴェインスレイも包囲から突破したから安心して!」

「・・・だいぶ早くない?」

「・・・裕樹が待ってくれてたからね」

照れてるのは可愛らしいけど、実にあっさりとすげぇことをしてくれるものである。

さて、ならここから挽回しないと。

「美奈・・・来てそうそう悪いけど、いけるか?」

「大丈夫。ミルフィーは、私がなんとかするから」

言って、美奈は機体を加速させた。

黄昏の翼を見送ってから、こちらはギャラクシーウイングに向き直る。

それを当然と取ったのか、タクトはネイティブ・ヴァナディースを無視し、こちらだけに武装を構えている。

直後、互いの武装が解放された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『姉さん!!なんでこんな・・・白き月に侵攻してくるなんて!!』

「――――もう、いい加減にしなさい!!」

対角線上に飛び交うネイティブ・ヴァナディースとアルティメットラッキースターが、互いにレールキャノンを連射しながらその差を徐々に縮めていく。

『え・・・!?』

「今のあなたに、私たちを止める資格なんて―――――ないっっ!!」

放たれたレールキャノンを掠めるほどギリギリで回避。直後、後翼を“ディヴァインフェザー”ではなく、“エナジーフェザー”として解放。初速で最高速度を発揮し、刹那のうちにアルティメットラッキースターを突き抜ける。

そのすれ違い様、4砲のうち2門のクロノ・インパクト・キャノンを斬り飛ばしていた。

『そんな勝手・・・!!どう見たって、侵攻してきたのは姉さんや裕樹さんたちじゃないっっ!!』

「それが・・・本当にミルフィーの考え!?答えっていうの!?」

アルティメットラッキースターの解放した“エンジェルシリンダー”のビームが放たれるより先に、“エナジーフェザー”を羽ばたかせ、刹那の速度で後退。直後、同じ速度で急速に接近、“ディヴァインフェザー”に切り替え、真っ向からアルティメットラッキースターを叩き落とした。

『きゃ・・・!?』

「・・・っっ!」

吹き飛ばされながら“エンジェルシリンダー”を解放。それを同時に解放した“ホーリィ・シリンダー”で相殺しつつ、手数の多さで更に追撃を与えていく。

咄嗟に、アルティメットラッキースターが放った4つのビームブーメランを急制御後、両手に構えた“メノスセイバー”で全て弾き防いだ。

「甘やかすつもりなんてないっっ!!あなたが、聖刻の真実を知らないのも、知ろうとも思わないなら・・・・・・邪魔はさせない!!」

『なに、を・・・っっ!!』

完全に照準が合っていない状態からアルティメットラッキースターは“ハイパーキャノン”を発射。鞭のようにしなる、超高出力の極太ビームが宙域を一気に薙ぎ払う。

ワンテンポ遅れ、ヴェインスレイ軍機が一気に爆散。20機近い機体を撃ち落した。

『1人だけ、裕樹さんっていう真実に近いのは、姉さんじゃないっっ!!そんな勝手な言葉、聞きたくないっっ!!』

刹那、アルティメットラッキースターに光の翼が具現。紋章機に、尋常じゃない程のエネルギーが集中しているのがわかった。

 

 

 

瞬間、美奈の時間が凍結した。

怒りでもなければ、悲しみでもない。

言葉では表現できない、狂おしい愛しさにも似た、激しい感情。

それが、撃鉄のように脳裏に叩き込まれた。

 

 

 

「・・・でもね、ミルフィー」

『・・・え・・・?』

「―――――“時雨”だったあなたが、忘れてるってだけで・・・・・今の私は、あなたを許せはしないから・・・っっ!!!!!!

直後、美奈はコックピット内に頑丈にカバーされたスイッチを、ガラスを叩き割りながら押し砕いた。

「D・ラグナロクシステム、稼動!!」

 

 

 

――――――エーテリンク接続

――――――アルカディアドライヴ駆動

――――――オートフォームシリンダー回路解除

――――――セラフィムリンゲージシステム起動

 

 

―――――――――Dラグナロク・リミッター、解放

 

 

 

 

次の瞬間、ネイティブ・ヴァナディースに眩いほどの裂光が集う。

背面スラスターでもある後翼からは、翼状の“ディヴァインフェザー”、鋭角状の“エナジーフェザー”の両方が同時に具現。同時に10基全ての“ホーリィ・シリンダー”があり得ないほどの光を包み、展開された。

『!?な、なに!?』

ミルフィーユの言葉に耳も傾けず、意識を理屈と理論、概念、構造、構築、その全てに染め上げていく。

凄まじいほどの速度でキーボードを打ち込み、意識を更にクリア、クリア、クリア―――――――――

 

 

 

その変化は、シリンダーのみに現れる。

ホーリィ・シリンダーの3つのビーム発射口から三角形状にビームが展開。軸点を結ぶようにビームは繋がり、壁となり、10基の三角形のビームの壁を生み出した。

言ってしまえば、分離した三角形状の小型ビームシールドと言ったところか。

だが、これがその程度の意味しか持たないハズがないと、ミルフィーユは充分すぎるほどに理解していた。

 

 

 

 

 

(・・・まだまだ、チューニングが足りない、かな)

ビームの出力、形状を見、美奈はまだ本調子ではないことを確認する。

けど、これで充分。

未完成ではあるけれど、アルティメットラッキースターぐらい(・・・)を退けるのには、充分すぎる。

躊躇うことも、宣告することもしない。

この秘儀でミルフィーユを退け、裕樹の下へ向かう。

今の美奈には、それしか考えられなかった。

 

―――――――――だから・・・・・・・・・解き放つ。

 

 

 

 

デルタ(覆せし)ラグナ(神々の)――――――――――

 

 

 

 

 

――――――その直後、唐突に通信回線、及びモニターにノイズが奔った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白き月周辺に展開する、両軍すべての艦隊、機体にハッキングしてくるノイズとモニター。

両軍が戸惑い、解決すべく画策しようとした瞬間、

 

―――――――――全員が通信回線のモニターに凝視した。

 

 

 

 

 

『直ちに戦闘を止めてください。――――――――私は白き月の聖母、シャトヤーンです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『な・・・!?』

「え・・・!?」

激戦を繰り広げていたヴァニラとエクスだったが、通信回線から流れてくる声と映像に、全ての行動を奪われていた。

『今、この場で行われている戦闘に、どちらの軍にも一切の非は存在しません』

『シャトヤーン様・・・なんで!?』

「・・・っっ」

その唐突の通信に、ヴァニラはこれ以上ないほどの危機感を理解した。

(乗せられてる・・・・裕樹さんが、言った通り・・・このまま、だと・・・っっ)

 

 

 

 

 

 

 

 

『トランスバール軍はもちろん、リ・ガウス軍にもです。彼らは、あなた方は理不尽な攻撃を受け、報復のために決起したのですから』

同じく、エルシオールのブリッジでも同じ光景を確認できた。

「・・・アルモ、これは間違いなく、白き月からか?」

「え・・・あ、はい。そうです。よほど強力なバースト通信なのか、通信機器の全てを掌握するほどです」

「――――――」

「・・・クールダラス司令?」

レスターにも、今まで積もりに積もった疑惑が浮上していた。

今の、この良すぎるほどのタイミングでの呼びかけ。

更に通信機器を掌握するほどの強力なハッキング。

間違いなく、トランスバール本星だけでなく、周辺の星々にも直接、この映像を送れるだろう。

「・・・どうしたんですか?これなら、シャトヤーン様のお言葉なら、裕樹さんたちだって、きっと・・・・・」

「バカ言え。これは・・・そんなものじゃない」

「え?」

「これは・・・裕樹たちに張り巡らされたトラップ、敗北を確定させる方位陣と同等のことだ・・・っっ」

慙愧するレスターをよそに、通信回線からは、尚もシャトヤーンの言葉が続く。

『ですが、今は手を引いてください。そして出来るのなら、話をさせて欲しいのです。私に』

 

 

 

 

 

 

 

 

『な・・・んで・・・?シャトヤーン様が!?』

「・・・・やられた・・・っっ」

互いに対峙したまま、ギャラクシーウイングにのるタクトとエターナル・ラストクルセイダーに乗る裕樹が声を合わせる。

策略に気づかず、退く事もできずに戦闘を継続した時点で、こちらの負けだったのだ。

『やられた・・・?裕樹、どういうことだ?』

「見てわかんないか、タクト。乗せられたってことだよ。俺も、お前も」

『!!』

モニター状のシャトヤーンは、更に語り続ける。

『ですから、話をしていただけませんか。リ・ガウスのためにも――――――――』

モニターに映るシャトヤーンが、どうしてかこの瞬間、自分だけに呟いたように見えた。

 

 

 

 

 

『――――――どうでしょうか。解放戦争の英雄、“白き翼”』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、裕樹たちヴェインスレイへの、トドメに等しい意味を持つ言葉だった。