『帝政暦 542年、トランスバール皇国暦では414年4月1日・・・俺は“EDEN”に潜入した』

 

 

 

 

 

 

第一章「迷いし者との出会い」

 

 

 

 

 

                 1

 

 

ダークグレーの流星群が音も無く浮遊するアステロイドベルト。

そこに小さな赤い稲妻が生まれ中から滲み出るように一人の巨人が姿を現した。

緑がかかった白いボディ。機体を覆うマントのようなアーマー。

すらりとした四肢。決してひ弱では無く見る者に威圧感を与える。

後ろの腰のホルスターには巨人の手に合った拳銃が装着されていた。

「・・・・・ッ!!」

巨人の胸部――――――コックピットの中の操縦席に座る青年は意識を取り戻した。

漆黒の髪と同色の瞳。

衣服は艶消しを施した漆黒のパイロットスーツ。

まるで、闇からの使者のような服装をしている青年。

彼の名は天都伊織(あまついおり)。

 

首からは紺色の勾玉を持ったネックレスを提げ、勾玉は機器類の明滅に反射していた。

「ここは・・・・?空間転移に成功した・・・・のか?」

―――――――――肯定、そのようです。

「そうか。ご苦労・・・・このままEDENの調査を続行。逃亡した機体の追撃にかかる」

伊織の呟きに機体に搭載されている戦闘支援AIの声が返ってくる。

無感動的な男性の合成音。

内心で毒づきながらも伊織は愛機<マーク・ヌル>を操りその宙域から離れた。

(マイヤーズ・・・・お前を殺さなくては俺は帰れない)

強い決心を胸に秘め伊織は操縦桿を握り締め、アクセルを踏み込んで。

 

 

 

―――――――――警告、多数の熱源反応ミサイル接近、数八

 

 

「・・・・・ッ!!」

的確な指示により<マーク・ヌル>はブースターを吹かし上方に回避した。

その直後、下方に多数のミサイルが雪崩のように飛来しダークグレーの流星群達を粉々にしていく。

一歩、反応が遅かったら自分もあの流星群達と同じ運命を歩んでいただろう。

そのことにゾッとしながらも伊織はレーダーに目をやり、ミサイルの発信源を確認した。

十時方向にモニターをあわし、拡大すると奇怪な艦隊が展開されている。

ライトパープルのカラーリングにイエローのエネルギーラインで銃口から煙が出ている事からミサイルを放った主だとすぐに分かった。

数は、13。

とても、一機で相手を出来る数じゃない。

しかし、生き残らなければならない。殺すべき相手を殺さない限り、戻れる場所にすら戻れないのだから。

 

――――――――照合不明の艦隊接近。交戦開始の確率98%

「御親切にどうも。システムを通常航行モードから戦闘モードに移行」

――――――――了解、システム通常航行から戦闘モードへ移行完了

右腕部に収納されている対装甲用短分子カッターを左手で引き抜き、脚部に内蔵されているスラスターを吹かし、右手で腰の後ろに装着されている

“ツインバレルハンドガン”もホルスターから引き抜き、戦闘態勢を整えた。

伊織は軽く小さく深呼吸するとキッとモニターに映る艦隊を睨みつけ機体を驀進させた。

 

 

―――――――ミサイル接近

「・・・・・甘い」

ミサイルをギリギリまで寄せ付け単分子カッターで切り払い、距離をとる。

高硬度のオリハルコン金属と柔軟性に富んだ鋼の絶妙な組み合わせが可能にする柔軟な動作。

今となっては<マーク・ヌル>は兵器ではなく一つの生き物と化している。

不敵な微笑を浮かべつつ、伊織は――――<マーク・ノル>は右手に握る“ツインバレルハンドガン”の銃口を向けて引き金を引いた。

不思議と引き金の冷たさが<マーク・ヌル>の手を通してコックピットで操縦桿を握る自らの手にまでその冷たさが伝わってきた感覚がする。

 

ズガガン!!

 

一発発が戦艦の主砲に匹敵する破壊力を持つエネルギー弾が耳を劈く音と共に発射された。

一度の射撃に二発の弾丸を弾き出す“ツインバレルハンドガン”

巡洋艦のシールドを突き破り大穴を空けた弾丸が炸裂した。

数キロトンの爆圧を受けた巡洋艦は身体を真っ二つに折り、拉げた音を立てて爆散する。

機首をめぐらせ<マーク・ノル>は新たな獲物に目線を配り再び発砲。

カートリッジの弾丸が空になり伊織は手元にある電子ボードを操作し、“ツインバレルハンドガン”の空になったカートリッジを射出させた。

その次に大腿部に装着されているカートリッジを掴み取り半ば強制的に“ツインバレルハンドガン”のカートリッジ装填部に差し込む。

銃口を戦闘母艦に向け、接近しながら発砲。

巡洋艦よりも強固なシールドで遮断された。

「・・・・ガンオービット射出」

――――――――――――了解、ガンオービット“パラドキサ”射出

背部で細長い機械が射出された。

純白の塗色とは対照的な悪魔の羽を持つような邪悪なフォルムのガンオービッド“パラドキサ”は羽を羽撃かせ、戦闘母艦を包み込むようなフォーメーションをとる。

そして、発砲。

 

マシンガン、プラズマ弾、レーザーの弾丸が、戦闘母艦に向かって一斉に喰らいついた。

シールドを破られ、全弾の直撃を許してしまった戦闘母艦は一瞬で火球に包まれる。

それから、<マーク・ヌル>は装備してある武器を巧みに使いこなし敵艦隊を全滅させた。

 

―――――――――――敵艦隊の全滅を確認

その報告に伊織は吐息を吐き、機体を操りその場から離脱させた。

 

 

 

 

                2

 

 

数時間後、彼とその愛機が戦っていた宙域に七つの熱源反応が現れた。

緑色の燐光から滲み出るかのように出現したのは六機の配色が異なる大型戦闘機。

そして、最後に現れた白塗りの優美な巨大艦。

シルバーメタリックとピンクのカラーリングの大型戦闘機。

シルバーメタリックにレッド、ブルー、パープル、グリーン、紺のカラーリングの大型戦闘機。

紋章機と称される『この世界』に存在する国の軍隊において最強の称号を持つ。

白塗りの巨大艦の名はエルシオール。

同じく『この世界』の軍隊にとっての『平和、力』の象徴とも言うべき存在。

 

エルシオールのブリッジでスクラップにされたヴァル・ファスク艦隊を二人の軍人が訝しげそうに見つめていた。

一人は上級士官の制服に身を包む青年。

“救国の英雄”、タクト・マイヤーズ。

三度も銀河を救ったことから今では生きる伝説と化した人物だ。

「どう思う?」

「ココの報告ではレーダーに大部隊の熱源反応は確認されなかった」

指揮官席に座りながら傍らに立っている副官―――――レスター・クールダラスに問い掛けるとレスターはすぐに返事を返した。

スラリとした身体に銀色の髪。左眼には眼帯を掛けている。

彼の返事を聞き、やはりとタクトは溜息を吐いた。

 

「あの数をたった一人で相手にした・・・ってことか。気になるがエンジェル隊、帰還してくれ」

了解、と通信機から女性の声が重なり聞こえてきたのを確認し、タクトは指揮官席から立ち上がり格納庫へと向かった。

 

「タクトさ〜ん!!」

「やぁ。ミルフィー・・・・無事で何より!!」

一番デッキから近づいてくるピンク色の髪、大きな白い花が二つついたカチューシャを頭に身に付けた少女――――――――ミルフィーユ・桜葉が大きくてを振り駆け出してきた。

英雄、タクト・マイヤーズの恋人でもある彼女は隊の中でも撃墜王の異名を取る程の紋章機の操縦に関しては天性の才能を持つ。

 

「あらぁ?タクト!アタシ達も無事なのよ!?」

「わかってる。ランファもお疲れ様!!」

長い金髪をパサリとさせ、真紅の軍服に身を包む少女が冷たい視線でタクトを見つめた。

蘭花・フランボワーズだ。

タクトは額に冷や汗を浮かべつつも笑顔で労った。

 

「まぁまぁ。野暮ですわよ?ランファさん」

「お帰りミント」

水色の髪、頭には本来の耳と別の動物の耳(?)を生やした(?)少女が微笑を浮かべる。

ミント・ブラマンシュ。

 

「まぁまぁ。二人を冷やかし過ぎるのも良くないねぇ」

「フォルテ・・・・・」

背の高く赤い髪の上に黒の軍帽をかぶり、短眼鏡をかけた女性。

フォルテ・シュトーレンがニッとした笑顔を見せた。

 

「帰還しました・・・・・」

ライトグリーンを縦ロールにした少女――――――ヴァニラ・Hが軽く会釈をした。

肩に乗っているナノマシンペットも頭をペコペコと頭を下げている。

「あぁ。ありがとう」

 

「タクトさん・・・・戻りました」

「お帰り、ちとせ」

長い漆黒の髪とは正反対で雪のような白い肌を持つ少女―――――――烏丸ちとせが微笑んだ。

 

「ありがとう、みんな。お疲れ様」

改めて全員に礼を言うタクト。

こうして生きていられるのも彼女達のおかげだと実感したタクト。

彼女達――――――『ムーン・エンジェル隊』のおかげで・・・・・

エルシオールはフィール星系の補給基地に到着したのだった。

 

 

 

 

―――――――――光学ステルス展開

「よし。俺はこの補給基地でこの銀河の状況を調べてくる・・・勝手に動くな」

―――――――――了解

補給基地の隅の廃墟と化したハンガーに膝をつけ待機姿勢を取らせ光学ステルスを機体全体に張り巡らせた

<マーク・ヌル>のコックピットから外に出る伊織。

返事が聞こえたのを確認し伊織は廃墟ハンガーからこっそりと街に向けて歩き出した。

 

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「んーーーーっ!!やっぱり外の空気を吸うのが一番だな!!」

繁華街の歩道で大きく背を伸ばすタクト。

「ん?」

ポケットを探る手に気付き振り向いた時は既にその手の主は喜んで走りさっていった。

その主の手には護身用に持っていた高性能のレイガンが握り締められているではないか。

「ま・・・まずい!!・・・まてぇーーーーッ!!」

素人が扱える代物ではなくタクトは焦燥に駆られ有らん限りの声を叫び男を追いかけた。

運動不足の自分でも追いつける程、相手の体力は無かった。

人気の無い路地に追い詰め、捕まえようと思い手を伸ばした時、男は突然、振り向きレイガンを向けた。

鈍い輝きを放つ銃口を凝視しタクトは恐る恐る手を上げる。

「お・・・おちつけ!!」

「うるさい!!」

 

そう言って男は全速力で走り出した。

タクトもワンテンポ遅れて追いかけ始めるがレイガンを向けられう動きを止める。

その繰り返しの最中、男の前から青年が歩いてきた。

「どけぇぇぇぇ!!」

「・・・・・・・・・・」

男の叫びを無視し青年は歩くのをやめない。

その行動にキレた男はレイガンの引き金を引いた。

しかし、まるでハリウッド映画の様に青年は首を曲げて弾を避けたのだ。

そして、一瞬で男との距離を縮める。

 

「グッ!!」

一気に間合いを詰められ、手で払われたレイガンが空を舞う。

青年にレイガンを弾かれ失い、男は逃亡を図り、全速力で二人を無視し走り去ろうとした。

「忘れ物だ」

「それ!!」

俺のレイガン、と言おうとした時は遅く、青年は落ちてきたレイガンを蹴り、男の後頭部に当て、

跳ね返ったレイガンを受け取りタクトに放り投げる青年。

 

「ありがとう・・・・って危ないだろ!?何で逃げないんだ!!!」

「そんな奴では俺を殺す事は出来ない」

一歩、間違えたら死んでいたかもしれないというのに男性は落ち着いた口調で返すとキビキビと歩いていった。

その奇妙な雰囲気を持つ背中をタクトは凝視しながらもエルシオールに戻っていった。

 

「クレータ班長!!」

「あぁ。マイヤーズ司令・・・・・」

エルシオールに戻ったタクトは真っ先に整備班長のクレータの所へと駆け出した。

「どうです?終りました・・・・?」

「えぇ。あれですよ」

焦る気持ちを抑えずには居られないタクトにクレータは顎で『あれ』を示す。

クリーム色のシートが掛けられているがそのフォルムは正しく――――紋章機。

 

クレーンでシートが外され姿を現した紋章機。

ホワイトの装甲にシルバーのフレーム。

白き月で発掘された新たな紋章機、GA−008「クロノ・リッター」。

適合試験の結果、タクトを最適任者と選んだ機体だ。

搭乗者であるタクトは指揮官である為、クロノ・リッターには指揮リンクシステムが備えられ、

いつでも自由な時に味方の機体とシステムをリンクし指示を送る事が可能になっている。

 

 

ビービー!!!

 

 

突如として鳴り響いたサイレン。

それは襲撃を意味していた。

「タクトさん!?」

タクトの近くに格納されている紋章機を見てミルフィーユが素っ頓狂な声を上げる。

彼が戦う事に動揺を隠し切れていない様子だった。

ミルフィーユの次に続々と格納庫に現れたエンジェル隊のメンバーも同じ様な意見を述べる。

「(ごめん。でも、俺だって戦いたいんだ・・・・皆だけを危険にさらす訳にはいかない)」

強い決心を秘めたタクトは内心で決意しシステムを立ち上げた。

頭上にエンジェル・リング(天使の輪)が形成され輝きを放つ。

 

「こちらGA−008クロノ・リッター。準備完了!!」

「――――――こちらブリッジ!!死ぬなよ、エンジェル隊出撃!!」

一斉に了解という合図が入り、ラッキースターから順にクレーンで宇宙空間に向かう。

カンフーファイター、トリックマスターと順順に続き遂にクロノ・リッターの番が来た。

「タクト・マイヤーズ、クロノ・リッター・・・・発進する!!」

アクセル踏み、タクトが駆る新たな天使は戦場へと突入したのだった。

                  4

 

「グッ!!」

シミュレーションとは違う。

そのことをタクトは身を以って思い知った。

叩き付けられる衝撃。

内蔵が圧迫されるような痛みが彼を襲う。

タクトが駆るクロノ・リッターはダメージが蓄積率が徐々に上がってきている。

その為、ハーベスターに修理してもらう事が多い。

 

「ゴメン・・・・」

修理が終わり配置に戻るハーベスタ―の後ろ姿にタクトは辛い気持ちで謝罪した。

「(何をやってるんだ俺は!!彼女達と同じ視点に立ち、同じ気持ちになり、理解しようとしているのに・・・・脚を引っ張っているだけじゃないか!!)」

自らの無力さに激しい怒りと自己嫌悪を持つ。

既に報告ではミルフィーユが三隻の戦艦を撃ち落したという情報が飛び込んできた。

「守ったり守られたりするのは本当の好きじゃない」二人で分かり合った筈なのに。

それなのに、この違和感は何だ?

自問してみる。

その時、ミサイルが一発、クロノ・リッターに飛来し、反応が遅れシールドを展開するも間に合わず、彼は死を覚悟し、目をきつく閉じた。

「・・・・・・?」

何も起こらない事に恐る恐る目を開けるとミサイルは何者かに撃ち落されている。

その瞬間、レーダーに新たな熱源反応が確認された。

 

 

 

“UNKNOW”

 

 

 

その熱源反応は今ままで見た事の無い物だった。

ヴァル・ファスクでも皇国軍艦隊でも無い。

では何だ?

首をかしげながらもタクトはその熱源反応が向かった先を見つめた。

一点の光が敵艦隊へと猛進していた。

モニターを拡大し眺めるとそれが人の形を冠した兵器だという事がわかった。

だが、ソレは兵器ではなく一種の生き物のように柔軟な動きで敵艦隊を翻弄している。

掌から緑色のホーミングレーザーが放たれ更に右手に拳銃らしい火器を使用し、敵に発砲していた。

単分子カッターで敵を刺す、その光景はまるで鬼が暴れているかの如く派手で圧倒的だった。

とどめとばかりに敵浮遊防塁を大きく抉り離れる。

発生する爆発。

 

「何だ・・・あの機体?」

有りえないものを見ている様子で目を丸くするタクトはハッと我に返り通信をその機体に繋ぐ。

以外にも通信ウインドゥが開き通信感度も良好だった。

操縦席に座る漆黒の衣服に身を包む漆黒の髪と瞳。

若く自分と年は変わらないが瞳に宿る光は自分以上の何かを感じた。

タクトはそれがベテランの戦士特有の光だと気付く。

しかし、彼が驚いたのはその男性が先程の事件時にあった事実に驚愕した。

 

「君は・・・・・」

「?誰だ貴様・・・・」

タクトの呼びかけに目を細めて睨みつける青年。

「俺の名はタクト・マイヤーズ。さっき助けてくれたじゃないか」

「―――――――!!マイヤー・・・ズ・・・だと?」

タクトの名を聞き青年はカッと目を見開いたがそれは一瞬だった。

すぐに落ち着きを取り戻し、青年は軽く息を吐き、通信を切ってしまった。

「ちょっと!!」

身を乗り出そうとした時には既にウインドゥも回線も切られ巨人は遥か遠くの宙域に向かって飛翔しあっという間に光る点と化していた。

 

 

「マイヤーズ・・・・やっと当たったようだな」

青年――――――天都伊織はニヤリと笑い機体を飛ばしていった。

来るべき戦いの序章に備え・・・・・

 

 

 

 

 

 

第一章   完    続く

 

 

 

後書き

どうも!大修正とか言っておきながら丸々、作品を変えてしまいましたね(大汗

今度は結構、濃いです。色々と。最初からタクトさんを戦闘に参加させてしまいました。

彼も成長します!ブリッジでエンジェル隊を指揮するのでは無く共に戦いながら!!

こんなのでも楽しみと思っていただければ幸いです。

では。