『トランスバール皇国暦414年、4月8日。

俺は天使達と再び出会い・・・・・戦った』

 

 

 

 

第二章「天使との戦い」

 

 

 

                 1

 

 

「――――――――なるほど。お前の報告通り最近、謎の兵器が皇国軍、不正規部隊、ヴァル・ファスク問わず攻撃を仕掛けている」

「そうですか・・・・・」

前回の戦闘で突如、現われた謎の人型兵器に嫌な胸騒ぎがしたタクトは白き月に居るルフト将軍に連絡を取り一連の事を報告した。

一方、報告を受けたルフトもその兵器について既に知っており対策会議を立てている所だった。

ルフトの話では例の兵器は至る所に攻撃を仕掛けているそうだ。

「そんな!!罪も無い人を襲うなんて・・・・許せません!!」

ちとせが怒りを露にする。

正義感を持つ彼女らしい反応だった。

 

「――――――――だがの。一つ気がかりな点がある」

「と、いうと?」

眉を顰めて溜息を吐くルフトの姿をタクトは久し振りに見た気がした。

その表情は言って良いかどうかを悩んでいるような感じだ。

「言ってください・・・先生!!」

「――――――――お前から送られたデータと攻撃を受けた艦隊が送ってきたデータが異なるんじゃ」

 

 

 

「―――――え?」

 

 

 

タクトは目を丸くして大きく口を開けてしまった。

これを見てくれ、とばかりにルフトが画像を送ってきた。

電波障害の中で記録されたらしく画質も悪いが、確認するだけで十分だった。

映し出された巨人。

 

 

赤がかかった黒いボディ。

鋭角が寄り集まって攻撃的なフォルム。

背部にあるバックパックのハードポイントに取り付けられている武装は皇国やこのEDENですら見たことの無い兵器だった。

しかし、形状は例の緑がかかった銀白色の機体と同じ人型。

明らかに前回の戦闘で現れた機体と違っていた

「――――――おそらく、この黒い方が犯人じゃろうが・・・どちらか、まだ確信がもてない」

「じゃあ、白い方と遭遇したら?」

むぅ、と一言呟き、

「―――――――話を聞け。拒むならば無理にでも・・・じゃ」

そこで、通信は途絶えた。

 

「無理にでも・・・・」

呟くように彼の言葉を繰り返す。

無理にでもということ―――――――――すなわち、力付くでもという事だろう。

穏健派のルフトにしては珍しい判断だが状況が状況なのだろう。

皇国軍は唯でさえ第二次ヴァル・ファスク大戦の後、戦力が低下してしまっている。

得体の知れない何かに、皇国軍を襲わせるわけには行かない。

軍の最高責任者として、自分を押さえつけて、職務を果たさなければならない。

 

恩師の性格を知っている以上、タクトは迷惑を掛けるわけには行かないのだ。

「わかりました・・」

「タクトさん・・・・」

ミルフィーユが心配そうに顔を覗き込む。

「彼が何もしない事を祈るよ」

そう言ってタクトは目を伏せた。

今後の自分がどう動くべきかをじっくり吟味する結果となった。

 

 

シミュレーションルームにはタクト専用機クロノ・リッターのシミュレーションマシンが設置されていた。

コックピットに限りなく近いように設計されたマシン内。

シートにすわりタクトは深く溜め息を吐き、背を預けた。

 

 

 

 

第二方面:辺境星系

翼にミサイルを備えた戦闘機群が、純白の巨人に向かって攻撃を開始した。

先端部に装備されているバルカン砲を放ちミサイルで攻撃し、フォーメーションを取りつつ囲む。

しかし、巨人の装甲を傷つけるには余りにも貧弱な火器だった。

それ以前にマントのようなアーマー―――――ウイング・バインダーに遮断されているのだ。

反撃とばかりに巨人が右腕を突き出だし、内蔵されている機関砲が姿を現し火を吹く。

 

 

ズガガガガガガガ!!

 

 

ビルの近くで発砲すると全て発射時の衝撃で窓ガラスが全て割れるような衝撃がコックピットに座る伊織を襲う。

歯を食い縛り操縦桿を握り締め、敵機の破壊に努める。

「超小型ミサイル発射」

 

―――――――了解、左腕部装甲開きます

 

<マーク・ヌル>の右腕部の装甲が開き超小型ミサイル群が一斉に戦闘機部隊に向けて発射された。

高密度の弾幕と化したミサイル群。

“ツインバレルハンドガン”を主軸にして伊織は戦闘態勢を整え、機体を動かした。

 

 

 

 

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「チッ!・・・・一体なんだ?」

撃破した不正規部隊の戦闘機達の残骸が浮遊している映像がコックピット内のモニターに映し出される。(とはいっても無用なトラブルを避ける為、コックピットを外し武装だけを狙った)

 

伊織には訳がわからなかった。

ここ数日、不正規部隊と呼ばれる傭兵部隊に襲撃されている。

スクラップと化した残骸とバラバラに飛び散った、内蔵式機関砲の薬莢だけが周囲にぶちまけられている。

戦闘システムを通常航行モードに変更し<マーク・ヌル>を別の宙域に向かって走らせた。

「(フォート・マイヤーズ・・・・待っていろ。必ずお前に追いつく)」

殺すべき、憎むべき相手に向かって呟き、伊織は愛機を走らせる。

行く当てなど無い。この広大な宇宙で一人の人間を探すなど不可能かもしれない。

だが、それでも彼は進む道を選んだ。

「(俺はもう・・・・後には戻れないんだ)」

後悔の念をこの一言で何度も何度も打ち捨ててきた。

憎むべき相手に対して復讐という名の闇炎を燃やし、ただそれだけの為に生きてきたのだ。

 

何が悪い?

 

復讐に生きて何が悪い?戻れる場所すら失い、大切な者も殺された。

ならば自動的に出る答えは決まっている。

 

 

「復讐」

 

 

この一言が伊織をここまで成長させてきた。

「復讐に生きるのはやめろ」、

 

「自分を捨てるな」、

 

「人生を壊すな」

 

何度も言われた台詞が脳裏をよぎる。

「黙れ・・・・・ッ!!」

思わず声に出してしまった自分に後から驚くも伊織はすぐに『雑念』を捨てて機体の操縦に専念した。

 

「今更、戻れない。戻る事など許されない」

 

自らを戒めるように呟き伊織は機体を飛ばす。

 

――――――――――――熱源反応、転移してきます

 

「来たか・・・・・」

<マーク・ヌル>の背後で緑色の燐光が生まれた。

 

 

 

「―――――――久し振りと言いたいけど、協力して欲しい・・・・来てくれないか?」

「断る。俺の進む道は俺自身が決める」

通信が突如、繋がり通信ウインドゥも開かれ、優美な巨大艦が現れるのとほぼ、同時に声が聞こえた。

前回見たエルシオールのブリッジ。指揮官席に座る男――――――タクト・マイヤーズ。

オペレーターは殆どが女性クルーという事実に驚いた。傍らには副官と思える男。

儀礼艦エルシオール。「白き月」と称される人工天体にいるシャトヤーンが乗る「動く宮殿」。

 

 

エオニアと呼ばれる廃太子を討ち取った艦。

 

ヴァル・ファスクを二度も退けた艦。

 

これが、伊織が集めた情報だ。

 

 

「――――――どうしてもか?」

「あぁ」

タクトの問いに即答する伊織。すると彼は溜息を吐き、

「――――――力付くでも構わないと先生に言われた」

「皇国軍は協力者にそういう態度を取るのか・・・・・?」

皮肉を込めて言い放つ。

力付く――――――つまり武力行使での連行を意味していた。

彼の口調から彼自身、武力での解決を望んでいなかった。

そのようなことでも伊織は動じず返す。

タクトが手を上げ横に振り下ろした途端、カタパルトから六機の大型戦闘機が出撃した。

 

皇国を救った守護天使が駆る紋章機。

シルバーメタリックにピンクのカラーリングGA−001「ラッキースター」

メタリックレッドのGA−002「カンフーファイター」

ブルーのGA−003「トリックマスター」

重武装型でパープルのカラーリングGA−004「ハッピートリガー」

メタリックグリーンで少量の武装を持つGA−005「ハーベスター」

濃紺のカラーリング。GA−006「シャープシューター」

守護天使が牙を剥き、接近してくる。

 

「システムを通常航行から戦闘モードへ。レベル、バーティクルFC」

――――――――――――了解。システムを通常航行から戦闘モードへ。レベル、バーティクルFCへ移行。

 

そして、巨人と守護天使の戦いは始まった。

 

 

                   3

 

「嘘!今の攻撃あたらないなんて・・・・・キャッ!!」

華奢な身体に容赦なく叩き付けられる衝撃。

機体と一緒に視界もガクガクと揺れる。

「ラッキースター」のモニターに映る巨人は臨機応変に全機に対して最良の戦術を取っている。

掌から緑色の細長い閃光が「ハッピートリガー」の武器という武器に喰らいつき破壊し、フライヤーからの攻撃を小さな単分子カッターで受け流していた。

「――――――――ぐあっ!!」

フォルテの悲鳴が聞こえてきた。

ミルフィーユは負け時と接近を試みる。

「――――――ミルフィー!!待って!!」

ランファの静止を無視し機体を近づけながらレーザー砲を発射させる。

自動追尾レーザーファランクスとの連動攻撃。

しかし、気がついた時は巨人はそこにおらず、攻撃は星屑に直撃し粉砕していた。

 

 

ピピピピピピピピピ!!

 

 

熱源センサーが激しい警告音を鳴らす。

突如、目の前に巨人が下から現れ、そして、

 

 

ザシュッ!!

 

 

「ラッキースター」に装備されているレーザー砲を両断した。

「キャァァァァァァァ!!」

衝撃に揺れ火花が飛び散るコックピット。

彼女が初めて戦闘というべき体験だった。

 

「チィ・・・・まずいな」

「カンフーファイター」のアンカーアームでエルシオールに帰還する「ラッキースター」に目をやった後、周囲を見回した。

フライヤーを全機、撃ち落された「トリックマスター」。

しかし、こちらのガンオービット“パラドキサ”も相打ちになっている。

武器という武器を貫かれ攻撃不能となった「ハッピートリガー」。

ナノマシンを使いきり、補給に戻り遠ざかる「ハーベスター」。

「一機・・・足りないな・・・・グッ!!」

 

一機足りない事に気がついた、次の瞬間、伊織を衝撃が襲った。

―――――――右脚部損傷

<マーク・ヌル>の右脚部が貫かれ、伊織の右脚で機体のダメージが再現される。

骨を何かで突き刺したような激しい痛み。

「レーダーで探索」

―――――――機影、7時方向に反応あり

舌打ちしたい衝動に駆られながらも伊織は機首を巡らせ、その場から離れた。

メインモニターに映る濃紺の紋章機。

長銃身レールガンにターゲットスコープ、長範囲レーダー。

GA−006「シャープシューター」だった。

 

「――――――あなただけには負けません!!」

少女の意気込んだ叫びと共にレールガンの弾丸が高速で飛来してくる。

スラスターとブーストを同時に吹かし“ツインバレルハンドガン”の引き金を引く<マーク・ヌル>。

しかし、加速性に優れたシャープシューターは咄嗟の判断で避ける。

並みの操縦兵では不可能な技術だ。

「――――――そんな攻撃がシャープシューターに当たると思いましたか?正鶴、頂きます!!」

妙にいきり立つ少女の声がまた、響いた。

ミサイル、レーザーファランクス、レールガン。迫り来る弾丸。

「やれやれ・・・・・俺と戦うことがどういうことか教えてやる」

呟き、伊織は電子パネルを操作する。

 

――――――――――――ウイング・バインダー展開

 

<マーク・ヌル>のマントのようなアーマーが展開された。

優美で巨大な翼のように見えた。深緑の閃光が翼から吹き出すように生まれる。

タクトはそれが羽だということに遅れて気がついた。

 

「覚悟をしてもらう」

単分子カッターを左、“ツインバレルハンドガン”を右に握り締め、一気に加速しシャープシューターとの接近を試みた。

彼が得意とする戦術―――――――超接近戦。

形状と戦闘スタイルから見れば遠距離支援型。

懐に飛び込めば勝機はある、と確信し猛進する<マーク・ヌル>。

 

 

バスン!!

 

 

レールガンの弾丸が左肩に当たる。

痛みを強引にかき消し、伊織はアクセルを踏み込む。

 

――――――左腕部損傷

 

更に、左脚を骨ごと捻じ切るような痛みが襲ってくる。

歯を食いしばってAIの報告と痛みを無視し、着実に距離を縮めた。

そして、ほぼ至近距離から“ツインバレルハンドガン”の銃口を向け一気に発砲。

「―――――きゃぁ!!」

通信機から漏れる少女の悲鳴。

今は躊躇している暇は無い。<マーク・ヌル>は攻撃を緩めずカートリッジの弾丸が空になるまで立て続けに発砲する。

だが、ことごとく弾丸がシールドによって遮断された。

「チッ!潮時か・・・・・・」

エンジェル隊との戦闘で手持ちの武装が全て空になった。

“パラドキサ”はフライヤーとの死闘で、ホーミングレーザー発振機にまわすほどENに余裕は無い。

腑に落ちないながらも伊織は通信回線をエルシオールに回す。

通信ウインドゥにはこうなることが予想したかのようにタクトが微笑んでいた。

「全てアンタの手の上で踊らされていた・・・・か」

その言葉にタクトは無言で頷く。

 

悔しさに震える手の力を抜き、

「投降・・・・する」

静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

第二章「天使との戦い」     完   続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

第二章ではいきなりエンジェル隊と戦闘を始めました。

あっさりと、投降しましたが。

今回は伊織が述べた巨大人型兵器「Armamentrame」について設定を書き上げました。