『俺は本当の意味で彼らの仲間になった。そして・・・・アイツとも再会した』

 

 

 

第五章「復讐に満ちた再会」

 

 

 

 

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エルシオールの前方で展開されるヴァル・ファスク艦隊に向けて八つの光の航跡が漆黒の暗闇が広がる広大な宇宙空間を疾駆していく。

守護天使と巨人。

護るための天使と戦う事しか出来ない巨人。

ライトパープルにイエローのエネルギーラインが煌くヴァル・ファスク艦隊。

 

 

「――――――――――――伊織!!アンタの実力、見せてもらうからね!!」

「あぁ。お前のもな」

デブリベルトを飛ぶ<マーク・ヌル>に通信が入った。

GA−002『カンフーファイター』から搭乗者のランファの勝気な声が聞こえてくる。

既にカンフーファイターは敵に向かって機関砲を発射しミサイルで牽制しつつ距離を詰めていた。

その動きは拳を交えた時と同じく無駄が無く訓練された動きだ。

しかし、次々と敵が近寄ってくるカンフーファイターだけでは多勢に無勢の状況に近づいていく。

「ウイング・バインダー展開。一気に敵艦隊の殲滅に取り掛かる」

 

――――――――了解、ウイング・バインダー展開します

 

<マーク・ヌル>のウイング・バインダーが展開され急加速しカンフーファイターの援護にかかった。

ウイング・バインダーが展開され伊織の身体自身が軽くなり背中に翼が生えた感覚になる。

一体化が強く働いている事を意味している。

「誰かを見捨てたりはしない・・・・・・!!」

雪華の死を受け入れ心に決めたこと。

二度と同じ様な思いを繰り返さない為に強い力を手に入れる。

そう誓ったではないか。

 

単分子カッターで敵巡洋艦に切りつけるも強固なシールドで破られた。

「<アバランチ・クレイモア>」

<マーク・ヌル>の右の掌に緑色の閃光が収束し始める。

そして、一挙に至近距離から解放。

放射状に描くホーミングレーザーが全て直撃しシールドを打ち破り敵巡洋艦の艦体を突き破る。

後ろ回りに回転させ爆発から逃れ<アバランチ・クレイモア>の二射準備に取り掛かる。

重巡洋艦に向かい掌を突き出すもシールドでぶつかり合った。

ガクガクとコックピットの伊織にも同じ感覚が再現される。

「いい加減に!!」

力を込め、半ば強引にホーミングレーザーを発射した。

火球に呑まれる重巡洋艦。

ガンオービット“パラドキサ”を解除し戦闘母艦に攻撃を仕掛けるカンフーファイターの援護に回す。

「――――――――サンキュー!!」

ランファの返事を確認し周囲を見回した。

あらかた殲滅し残りはカンフーファイターとランファにまかせてもいいだろう。

彼女もそこまで弱くないはずだ。

そう思い伊織は――――――<マーク・ヌル>は目標を変え別のエリアに向かった。

 

 

隊列を組み機動性を生かし急速に接近する小型戦闘機群を確認した。

<マーク・ヌル>の左腕部装甲がバシュッ!と音を立てて開き銀色に煌くミサイルが一斉に火を吹き迎撃に向かった。

腕の拳の部分に内蔵されている機関砲と同時に放ち牽制をかけながら“ツインバレルハンドガン”で撃ち落していく。

実体弾とプラズマ弾を交互に二つの銃口から発射。

 

 

――――――――七時方向からミサイル

 

「ちっ!」

間に合わない。

ダメージを覚悟した時、突如ミサイルの反応が消えた。

「―――――――伊織さん・・・・無理はしないでください」

「助かった。・・・・気をつける」

ミサイルを撃ち落したシャープシューターの長銃身レールガンの銃口から煙が立ち昇る。

通信が繋がりちとせの複雑が入り混じった声がコックピットに木霊した。

少しばつが悪そうに返し伊織は礼を述べる。

敵の駆逐は目前だった。

ハッピートリガーはその大量の武装を惜しみなく使い、戦闘母艦と浮遊防塁を一度に

相手をし打ち勝っている。

一方、ミルフィーユとランファのコンビネーションも目を疑うほど洗練された動きで高速小型戦闘機のスピードを遥かに凌駕し迎撃していた。

「H・A・L・O」と呼ばれるシステムが搭載されている紋章機はパイロットのテンションで性能が大きく変わる。

整備班長のクレータと呼ばれる女性からそう説明された。

驚きはしなかった。自分とこの鋼の巨人も似たような境遇だからだ。

 

ハーベスターはエルシオールの後方で待機し損害箇所に近づきナノマシンで応急処置を施す。

ミントが駆るトリックマスターはその広範囲のメリットを生かしフライヤーを操り敵に致命的なダメージを与えていく。

いや、もはや操ると言うよりはフライヤー自身も一種の生き物のようだった。

 

タクトの駆るクロノ・リッターがエンジェル隊に指示を送り戦闘に参加していく。

小型ミサイルを連続で発射しレーザーファランクスを放ちながら二連装式レーザーキャノンで一撃必殺を狙う戦闘スタイルだ。

<マーク・ヌル>が残りの敵突撃艦に照準を合わせ留めの一撃を放つ。

“ツインバレルハンドガン”から放たれた光弾が叩き込まれた。

側面を押しつぶされるような衝撃を受け突撃艦は爆散した。

 

 

「マーク・ヌル。敵の殲滅を確認」

ブリッジと全機に向けて通信を送りエルシオールの格納庫に向けて移動を始める。

彼の首から提げられた濃紺の勾玉。

雪華が肌身離さず持っていた品。

私だと思って、と言われて託されたのだ。

その形見はまるで雪華が宿ったようにキラキラと輝いていた。

 

見る度に彼女の楽しそうな、嬉しそうな笑顔が思い浮かぶ。

 

 

そして、死に顔も・・・・・

 

 

暖かく柔らかい感情が、どす黒い復讐の炎が燃え消す。

「――――――――――伊織さん」

彼を正気に戻したのはちとせの声だった。

通信ウインドゥも開き彼女の心配そうな瞳がまっすぐに向けられている。

「大丈夫だ・・・・」

静かに告げちとせが何か言う前に通信を切った。

二度と引き返せない。

自分自身に言い聞かしどんな念も捨てた。

 

「憎しみ、復讐、怒り」

 

これだけを残して・・・・・・

 

                 2

 

 

「伊織さんって強いですよねぇ〜」

ティーラウンジで伊織を除いたエンジェル隊とタクトがテーブルを囲み先程の戦闘について談笑していた。

ミルフィーユの一言に一同が大きく頷いた。

「あれはまるで・・・一つの生き物って感じだよね」

「そうですわね。戦闘時には機体と一体化しているんですもの」

タクトとミントの言う通り伊織の強さは誰が見ても明らかだった。

精密な動作。

アクロバティックな機動戦闘を展開している。

<マーク・ヌル>は独立した一つの生き物ようだ。

「でも・・・・・身体が心配です」

全員が凍りついた。

AFは搭乗者の神経と電磁神経を接続し機体の感覚を搭乗者で再現する。

更にコアによる精神侵食により精神を極限にまで張り詰める。

それ故に極度の精神的重圧がパイロットにかかってしまう為、AFパイロットは精神的にタフじゃなければならないのだ。

 

「それと・・・・あの方から嫌な念が出ていましたわ」

「嫌な念?何だいそれ」

フォルテの問いにミントがそっと目を伏せた。

気がつくと頭に備わっている耳が垂れている。

彼女はテレスパス―――――――精神感応者と称され他人の精神を垣間見る事がある。

正の念・・・そして負の念。

 

「復讐や憎しみ・・・・・怒り、哀しみといった負の感情ですわ」

静かに告げた。

反応したかのようにちとせの動きがピタッと止まり目を見開く。

ちとせの脳裏に愛する者を失い悲しみに暮れる伊織の顔が、瞳が浮かんだ。

初めて見る彼の悲しさにかけて上げられる言葉を見つけることが出来ず彼女は自らを叱咤した。

 

 

――――――――――――――――――

 

「ちとせ・・・・俺は奴を・・・フォートを許さない・・・・!!」

静かに告げられたその言葉は復讐の決意を示したかのようだった

怒りを芝生にぶつけ穴が開くほど睨みつづけている。

「無論、フォートを殺しても何も戻ってこないのは分かってる」

「伊織さん・・・・・」

復讐が無意味なのは分かっているがそれでも許せないのは彼自身も分かっていた。

「でなければ・・・・俺はどうにかなりそうだ!!」

張り裂けそうな気分で伊織は右手で目を抑え叫んだ。

ちとせは冷たい何かで胸を貫かれた感覚に陥り黙って伊織を見つめているしか出来なかった。

そして・・・・見たのだ。

 

 

彼にほんのりと・・・・・見え隠れする・・・・死の翳を。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

「ちとせ・・・・・?」

「いえ・・・何でもありません」

何かあったのか?――――――といった表情でミルフィーユが顔を覗き込んでいる。

ハッと我に返りちとせは誤魔化すようにティーカップに手を伸ばし、口元に運んだ。

「ちとせ・・・・何か知ってるのか?」

「・・・・・・」

タクトに聞かれちとせは無言で頷く。

ち伊織から明かされた過去をタクトやエンジェル隊に話そうと思い口を開けようとした時、

 

 

「勝手に喋るな」

 

 

冷たい声が聞こえ振り向くとティーラウンジの入り口に背を預けている一人の若者が、こちらを見つめていた。

いや、睨みつけているといった方が正しかった。

その若者――――天都伊織は瞳に冷たい眼光を宿しひたと見据えている。

「どうして・・・・・ですか?」

静かに聞くヴァニラ。

他人を心配する彼女にとって伊織の暗闇を取り除きたい、と必死な様子だ。

肩に乗るナノマシンペットも両手を合わせ懇願している。

「余計な同情は沢山だ」

ヴァニラにキッパリと返す伊織。

どこか冷たさを含み相手を拒絶するような言い方だった。

「余計・・・・・って。アンタ!!ヴァニラはアンタのことを心配してんのよ!!」

伊織の一言に聞いていたランファが席から立ち上がり伊織に向かってキッと睨みつける。

「不要だ」

「・・・・・ッ!!」

声を荒げ睨み返すランファに冷たく吐き捨てる。

その時、タクトは見た。

 

相手を完全に否定し拒絶する冷酷な伊織の姿。

怒りの余り真っ青になるランファの姿。

「私たちは・・・・仲間じゃないんですか・・・・?」

ミルフィーユが泣きそうな表情で訴えかけてきた。

目に涙を溜め伊織を見つめている。

「仲間・・・か。・・・・・・・俺が最も嫌いな言葉だ」

「!!」

ミルフィーユにも冷たく吐き捨てると伊織はティーラウンジを去って行った。

 

 

「何よ!!アイツ。ミルフィーやヴァニラにあんな態度を取るなんて!!」

ランファがドン!――――――――とテーブルを叩く。

手が微かに震えており、心の底から伊織に対して怒りを燃やしているようだった。

「確かに許せないねぇ」

静かな口調だがフォルテの声にも怒気が含まれている事をハッキリと分かる。

しかし、ミルフィーユやヴァニラは信じられないといった表情だった。

悲しみも含まれているがどうして伊織があんな態度を取るのかわからないでいるようだ。

嫌な胸騒ぎがし、タクトは皆を落ち着かせティーラウンジを後にした。

 

伊織と二人で話し合わなければいけないと思ったからだ。

しかし、伊織の姿はどこにも居ない。

そんな時、クルーに聞いたところ伊織は船医であるケーラの元をよく訪ねているそうだ。

それを聞き、医務室へと足早に向かった。

 

 

 

 

医務室

 

「あら?タクトくん・・・どうしたの?」

「先生・・・伊織のこと、何か知っていますか?」

伊織くん?――――と眉を顰めるケーラにタクトはティーラウンジでの事件を話した。

彼の冷たい態度。

相手を拒絶するような言動。

つつみ隠さず全て打ち明けた。

 

「そう・・・・彼、貴方達にも話していないのね」

「何ですか・・・・・?」

少し納得したような表情で呟くケーラにタクトは身を乗り出して問い詰める。

落ち着いて、と諭すような言い方でケーラは彼を静止した。

「すみません・・・・」

「構わないわ」

どこから話せば良いのかしら、といった具合で顎に手を当てケーラはタクトに語り始めた。

 

「伊織君がAFに搭乗するということがどういうことかは聞いているわよね?」

ケーラの問いに無言で頷く。

「はい。AFは精神的重圧がかかる、と」

「肉体的にも・・・・細胞が崩壊へ向かうという事も・・・聞いたわよね?」

悪魔のようにその言葉がタクトの胸に突き刺さった。

 

忘れていた。

 

AFパイロットは精神侵食される事により精神的肉体的に重圧がかかる。

それは身体を組織する細胞にも同じだった。

更に戦闘でのダメージはパイロットの身体で再現される。

“リプレイ”と呼ばれるその症状は治す術は無く薬により痛みを僅かに抑えるしか出来ない。

その結果、AFパイロットの長生きは例を見ない。

 

「彼ね?結構・・・・苦しんでたわ」

「何で・・・俺に言ってくれなかったんでしょうか・・・・?」

半分はケーラに、半分は自分自身に問い詰めた。

 

 

「仲間か・・・。・・・・俺が最も嫌いな言葉だ」

 

 

冷たく吐き捨てたその言葉。

伊織は自分達を仲間じゃない、と言っているようなニュアンスが含まれている。

そんな彼の不安をケーラは苦笑しながら和らげてくれた。

「彼はあなた達に心配を掛けさせたくないだけなの。色々と話してて分かったわ。彼・・・あぁ、いう態度だけで根は優しい子よ」

まるで自分の子供を誉めているように楽しい口調。

ケーラの心からの笑顔をタクトは初めて見た気がした

「ありがとうございました・・・・俺、伊織と話してみます」

「そう・・・頑張って」

椅子から立ち上がりタクトは礼を述べ、ケーラもそんな彼に暖かい微笑みを浮かべ送った。

 

 

 

 

 

 

伊織自室

 

 

「うぅっ!!・・・・くっ」

心臓が激しい痛みを生み出した。

息苦しく目まいがし、視界がボンヤリと揺れる。

立つ事が困難になりベッドに倒れこんだ。

息づかいが荒くなり伊織はケーラから受け取った薬を口に放り込み乱暴に水で流し込む。

「ごほっ」

吐き気による嘔吐に思わず膝がついた。

繰り返される激痛。

「はぁ・・・・うっ!・・・はぁ・・・はぁ」

心臓の痛みが段々と和らいでくると同時に新たな痛みが伊織を襲った。

右、左の脚が痛み出した。

骨が砕け散るような感覚に思わず叫び声を上げてしまいそうになる。

かつてシャープシューターに貫かれた<マーク・ヌル>のダメージが伊織の身体で再現されたのだ。

 

段々と痛みが引いていき安堵の溜息を漏らす。

「こんなのは・・・・雪華の痛みに比べれば・・・・!!」

こんな痛みで叫び声を上げてしまう自分を罵った。

 

 

雪華はこれ以上の苦しみを味わったではないか?

 

 

そう自分に言い聞かせ痛みと戦い続けてきた。

 

 

 

ビービー!!

 

 

 

 

「―――――――本艦の前方にヴァル・ファスク艦隊出現。エンジェル隊は急いで出撃準備を整えてください」

 

アルモの声が聞こえ伊織は人形のような身体に力を込めて立ち上がり着替え始めた。

艶消しが施された黒のパイロットスーツ。

全身にぴったりと張り付き衝撃を和らげる機能も持ちAFパイロットは必ずといって良いほどこのパイロットスーツを着用するのだ。

パイロットスーツを着終わり伊織は部屋を後にし格納庫へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫

 

 

 

「伊織!!」

伊織を見つけたタクトは話かけようと近寄るも、伊織本人は彼を一瞥しただけで<マーク・ヌル>に搭乗してしまった。

「(通信で話すか)」

直接は諦めタクトもクロノ・リッターへの搭乗を開始した。

頭上でエンジェルリングが生成されたのを確認しタクトは<マーク・ヌル>に通信を繋いだ。

通信ウインドゥを立ち上げると伊織が何かを握っていた。

驚くほど安らぎに満ちた笑顔を浮かべ、勾玉を見つめている。

 

「根は優しい子よ」

 

 

ケーラの言う通り今の伊織は今までタクトが見てきた中で人間らしい柔らかい笑顔を浮かべている。

しかし、タクトに気がつきサッと表情を変えた。

暖かく安らかな瞳が一瞬で冷酷な光を放つ。

「――――――何のようだ?」

「何で黙ってた・・・・・“リプレイ”のこと・・・・」

そんなことか、というように目を細める。

「―――――言う必要があるのか?」

「ある」

何故?―――――といった顔を浮かべ眉を顰める伊織。

そのことにタクトは腹が立った。

命を大切にしない冷たく突き放すような彼の態度に。

「バカヤロウ!!」

思わず叫んでしまった。

「お前の命はもうお前だけの物じゃない!!俺達は仲間なんだぞ!?お前がそう思ってなくても・・・・俺は・・いや!俺達はそう思っているんだ!!」

「―――――――そうよ!!」

新たな声と共にウインドゥが開いた。

 

GA−002のパイロット、ランファが目を吊り上げて回線に割り込んだ。

「―――――――なーに、自分一人で背負っちゃってるのよ!素直じゃないわねぇ」

茶化すように悪魔のような笑みを浮かべるランファ。

彼に対する怒りは完全に消え去っているようだった。

 

「―――――――ケーラ先生から・・・・聞きました」

「ヴァ・・・ヴァニラ!?」

GA−005からの割り込みにもタクトは目を丸くするばかりだった。

「―――――――私たちは仲間です・・・・・・心配させてください・・・・力にならせてください」

どこか悲痛なその表情。

訴えかけるようなニュアンス。

 

「―――――――伊織さーん!!」

「み・・・ミルフィーまで!?」

「―――――――ミルフィーさんだけじゃありませんわよ?」

「―――――――そうそう!!アタシらだって居るんだから」

「ミント・・・・・それに姉・・・いや悪かった!!」

後の言葉を言う前にフォルテが引きつった笑顔で持っている大型拳銃をガシャコッ!!と鳴らし、タクトは大慌てて謝罪した。

 

「―――――――伊織さん・・・・・・私だって貴方のことを仲間だと信じています」

頬を紅潮しつつ、あぁ、言っちゃった、といった表情でちとせも告げる。

 

 

 

 

「・・・・・・・・はぁ」

みなの視線が集中し気恥ずかしさに顔を染めつつも伊織は小さく溜息をつき、

「わかった。・・・・今更ながら・・・これからもよろしく頼む」

ぎこちないながらも、彼らしい笑顔を浮かべ返答した。

「―――――――話が終ったようだな?・・・出撃しろ」

レスターからの指示に各自一人ずつ頷き通信回線を切っていく。

「―――――――伊織さん」

「何だ・・・・・?」

ちとせも通信ウインドゥを切ろうとした時、伊織に向かって柔らかい微笑を浮かべ、

「―――――――私・・・死にませんから・・・・・絶対に」

確信にも似た断言したような口調で告げられたその言葉に伊織の瞼の裏でカッと熱いものを感じ、目頭も同じ様になっていく。

気がつくと景色が滲んでいた。

「―――――――だから・・・・伊織さんも死なないで下さい」

静かにそっと、相手に大切な物を手渡すように告げられて、通信ウインドゥは消えた。

両頬を伝う雫を乱暴に拭い、

 

「あぁ!!」

 

と、ちとせに・・・・そして自分自身に告げ伊織は戦闘態勢を整えた。

クロノ・リッターから順にクレーンで運ばれていく。

伊織はじっとシャープシューターを見つめていた。

 

 

彼女だけでも無事で居て欲しい。

 

 

いつの間に伊織の心の中で膨れていた感情。

どこか、懐かしい感情だった。

久し振りに誰かを大切だと思えた気がする。

クレーンが<マーク・ヌル>を掴み宇宙空間に放り投げた。

機体のブースターを吹かし伊織はヴァル・ファスク艦隊の殲滅に意識を集中させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラッキースターを取り囲みつつある、巡洋艦、重装艦、駆逐艦、突撃艦に向けて“ツインバレルハンドガン”の銃口を向け発砲。

戦車の砲撃に等しい数キロトンの実弾とミサイル一発の直撃に等しいエネルギー弾が交互に二つの銃口から順に発射される。

“ツインバレルハンドガン”で敵を牽制しつつ単分子カッターを引き抜き容赦なく斬りつけた。

接近してくる高機動小型戦闘機群に掌を突き出しホーミングレーザーを発射する。

緑色の細長い閃光が綺麗な曲線を描くようにその、ちっぽけな体を貫いた。

次々と爆散する高機動小型戦闘機群。

 

「――――――――伊織さん・・・・ありがとうございます!!」

「気にするな・・・ミルフィー」

「――――――――わーい!!」

「どうした・・・・?」

突如、ミルフィーユが歓喜の声を上げたので伊織は思わず目を見開いた。

「―――――――だって、伊織さん私のこと“ミルフィー”って呼んでくれたんです!」

「あ」

言われてはじめて気がついた。

心の中の本当の自分がエンジェル隊と溶け込んだのだ。

「・・・・そうだな」

軽い微笑を浮かべ伊織は――――――<マーク・ヌル>は機首を巡らせ新たな標的を探す為、飛翔した。

 

 

 

 

 

敵艦隊の数はそれ程、多く無く、駆逐は目前だった。

「――――――こちらタクト。敵を撃破した」

タクトの報告が全機に向けられて流れる。

紋章機達は進路をエルシオールに変更し、帰還していく。

 

 

―――――――熱源反応

「何!?」

突如、AIの音声が響きレーダーに目をやると新たなアイコンが出現した。

 

 

 

「何だ・・・・・?」

タクトが訝しげにメインモニターを見つめる。

メインモニターに映るのはヴァル・ファスク艦隊の残骸。

その中央で黒が混じったコバルトブルーのカラーリングの人型兵器が静かに佇んでいた。

機体色とは正反対なレッドのエネルギーライン。

右腕には長大なライフルを装備している。

バイザーのようなその目はらんらんと紅く狂気の光を放っている。

その得体の知れない恐怖にタクトは戦慄した。

おそらくエンジェル隊の全員も恐怖に飲み込まれているだろう。

 

得体の知れない恐怖、威圧感。

ほんのりと殺気が宿っている。

しかし、一機、その機体に向かって急速に接近し攻撃を仕掛けようとしていた。

緑がかかった銀白色の機体――――――<マーク・ヌル>。

 

 

 

「フォートォォォォォォォォ!!」

 

 

復讐に燃える伊織は盛大に相手の機体の搭乗者を叫びながら、向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第五章     完