『俺は白き月に到着した。そして、故郷に帰ることになった』
第九章「異界への旅立ち」
1
――――――――――“EDEN”調査報告―――――――――――――――――――
―――――――――――――報告者、聖光騎士団所属、天都伊織第七団団長――――――
『トランスバール皇国。』
128の星系を統治する一大国家。
そして、ここはその皇国の本星の衛星軌道上に位置する人工天体。
人はこの月を「白き月」と呼ぶ。
≪時空震≫と称される“EDEN”で起きた大災害。
それにより文明レベルを退化させることにより、破局は免れた。
それは、多くの人間が犠牲に成ったことでもあった。
惑星トランスバールが暗黒時代に入り戦乱が続くなか、今からおよそ600年前。
聖母「シャトヤーン」の光臨。
与えられた遺失技術――――――――ロストテクノロジーによりトランスバールは目まぐるしい勢いで急速な発展を継げた。
大航海時代を終え、繁栄を維持し続けようとした矢先。
トランスバール皇国暦412年、廃太子、エオニア・トランスバールによる大規模な反逆。
タクトとエンジェル隊が苦闘の末、戦争を終結に導く。
後にこの戦いは「エオニア戦役」と呼ばれた。
半年後、レゾムというエオニア軍士官が黒き月を再生し再びトランスバールを支配しようと企んだ。
しかし、副総帥「ネフューリア」が真の黒幕だった。
ネフューリアは“EDEN”の天敵とも言うべき存在――――ヴァル・ファスクという種族の女だったのだ。
彼女が創り出した超巨大戦艦「オ・ガウブ」。
絶体絶命の中、“黒き月“の管理者―――――ノアという少女の協力により、”白き月”で新たに発掘された新型紋章機―――――GA−007にフィールドキャンセラーとクロノ・ブレイク・キャノンを搭載し、パイロットにミルフィーユ・桜葉、タクト・マイヤーズが選ばれ、見事、「オ・ガウブ」の破壊に成功。
一時の平和がトランスバールに戻った。
だが、それは、つかの間の平和に過ぎなかった。
辺境のガイエン星系に調査に向かったエルシオール。
彼らはある姉弟を救出した。
姉の名をルシャーティ、弟の名はヴァイン。
彼らは“EDEN”の民と名乗った。
道中、ミルフィーユ・桜葉の搭乗機、GA−001「ラッキースター」がエンジントラブルを起こす。
何とか救出に成功するもミルフィーユは目を覚ました時には恋人であるタクトの記憶を失っていた。
白き月に彼らを連れて帰るも、ルシャーティ、ヴァイン、両名は七番機を強奪した。
幾重もの戦闘を繰り返し七番機を奪還する事に成功。
これによりヴァインは重傷を負い死亡。
後のことだが時空震は人為的に引き起こされた災害だと判明。
クロノ・クェイク爆弾を発動させるヴァル・ファスク総帥のゲルン。
しかし、“光の翼”というリミットを外した「ラッキースター」により、時空震の再発は避けられた。
数々の逆行、苦難を乗り越えた“EDEN”。
そして、トランスバール皇国。
――――――――以上を持ち提示連絡を終了する―――――――――
「どうする?ガイン卿?」
惑星間統治帝政国家“ガーリアン”。
軍首大会議場。
楕円形のテーブルを取り囲む各部隊の首脳達。
情報部隊の総司令官―――――――「ヴォルコフ・アルヴィース」将軍が問う。
聖光騎士団全権軍団長―――――「ガイン・ゼーガルド」卿はうーん、とうめく。
「彼からの報告が正しければこの“EDEN”という世界。極めて危険ですぞ」
「しかし!!この世界の技術が我々の技術に勝るとは思えない」
兵器開発プラントの最高責任者―――――――「ヒースクリフ・オルランド」が声を張り上げてヴォルコフの意見を真っ向から否定する。
「だが、時空震というのが出されていたのなら厄介ですぞ?」
ヴォルコフが眉をひそめて反論した。
「それはヴァル・ファスク側の話じゃ。報告の所、ヴァル・ファスク総帥ゲルンは私利私欲の為に“力”を使っておる」
「それに彼はもうこの世にいません」
打撃艦隊統括官―――――――「ロード・クライン」が済ました顔で言い放つ。
「ではまとめよう」
一回、一同を静止し、
「おそらく、彼らはこの“ガーリアン”に来るとわしは睨む。その時にあちらの出方を見て今後の行動を考える。民には血を流して欲しくないのじゃ」
異口同音し頷く首脳達を見て満足そうに微笑むガイン卿。
「では解散じゃ」
ゾロゾロ、と部屋を出て行く首脳達。
一人だけ残ったガイン卿は大きく溜め息をつき天井をボンヤリと見上げた。
今、伊織は白き月の拝見の間にいる。
エンジェル隊やはおらず彼とタクト二人だけ。
目の前には白を基調とした女性。
情報を収集した結果、彼女が―――――月の聖母「シャトヤーン」らしい。
右隣にいるのは皇国の女皇――――――シヴァ・トランスバールが。
左隣では見たこと無い少女が伊織を冷たい眼差しで見つめている。
浅黒の肌に金色の髪、バイオレットの瞳が特徴的な少女は一見するとシヴァとあまり変わらない年のようだ。
「貴方が・・・・天都伊織さんですね?」
無言で頷く伊織にシヴァが驚きといった言葉を顔に書いたような表情を浮かべる。
会議などで自分のことが話題になりどんな人物だったか想像していたらしい。
「そなたがか・・・・マイヤーズが迷惑をかけてなければいいが・・・・」
「そんな!!シヴァ様!!」
「大迷惑だな・・・・まぁ、それなりに面白くやらせてもらっているが・・・な」
そんなぁ、といった表情で落胆し首をガックリとうな垂れるタクト。
そのやり取りを見ていたノアが、
「アンタが誰でも良いけど・・・・早く話を聞かせてちょうだい」
「ノア・・・・」
素っ気無い態度を取りどこか目線をそらすノアにシャトヤーンが困ったような態度でオロオロとする。
「フッ」
「なっ!・・・・何よ!?」
鼻で笑われ、少し恥ずかしさで頬を染めるノア。
「ノアといったな?それが人に物を頼む態度か?」
「な・・・・何ですって!!」
見ず知らずの人間に礼儀を言われ憤慨するノア。
「ノア・・・・確かに天都の言うとおりだ」
シヴァに宥められ・・・・ノアは渋々と頷きフン!!と鼻を鳴らして顔を背けた。
「面白い奴だ」
「それで?天都・・・・聞かせてもらえんか?」
にやりと笑ってノアを見つめる伊織にシヴァが軽く咳き込み伊織の目を見つめて改めて訊いた。
「そうだな・・・・」
忘れていたことを思い出したように伊織は語り始めた。
最重要機密を除き基本的な情報は包み隠さず述べた。
統治している星系の数。
一般国民にも知られている軍事力、国力。
現在は“オルフェウス”と呼ばれる大型武装組織による大規模な戦争状態に入っていることなど。
「なるほど・・・・礼を言う。それでは―――――」
後の言葉を言う前に拝見の間の扉が盛大に開きルフトと数名の元老院が入ってきた。
「何事か!!」
「申し訳ありませんシヴァ陛下!!しかし、そこにおるものは“ガーリアン”から来たスパイであるかもしれませんぞ!!」
ルフトの代わりに一人の元老院が叫ぶような声で返した。
「シヴァ陛下やマイヤーズ少将を暗殺にきたのかもしれません!!」
「なるほど・・・・」
伊織は自分がどういう状況に置かれているかすぐに分かった。
未確認兵器を使う自分は現時点ではタクトやシヴァを暗殺しに来たスパイという疑いが掛けられている。
「バカモノ!!こやつは我々に協力関係を結んでいるんだぞ!!」
「しかし!!貴方がそのような態度では示しがつきません」
「ルフト先生!?」」
ルフトも負けじと押し殺したような声で返した。
クッと歯をかみ締め、シヴァは断腸の思いで、
「その者の更なる尋問を・・・・許可する」
ポツリと呟いたその言葉を待っていたようにレーザーライフルを持った兵達が伊織を取り囲みどこかへ連れて行ってしまった。
呆然とその光景を見詰めながらもタクトは我に返りキッ!!とシヴァを睨み付けた。
「信じられません!!恩を仇で返すなど!!先生も・・約束が違います」
彼の怒気が含まれた叫びが拝見の間に轟く。
雷鳴にも似た彼の叫び。
二人とも罰が悪そうな顔だ。
「許せ、マイヤーズ。女皇である以上、私情を挟んではならんのだ」
「すまぬ」
二人の謝罪にタクトは呆れて物も言えず足音を荒げて拝見の間を出た。
「天都さんの尋問は誰が担当するのですか?」
一部始終を見ていたシャトヤーンがシヴァが落ち着きを取り戻した所を見計らい、訊ねた。
「ジーダマイア提督です」
ルフトが代わりに重苦しい声で答えた。
2
「私がジーダマイアだ」
「そうか・・・・」
偉そうな態度に偉そうな軍服。
机をはさみ伊織の目の前で椅子にふんぞり返る男。
彼はクピードが率いたヴァル・ファスク軍によって壊滅に陥れられた第三方面軍の司令官だった。
伊織の背後にはレーザーライフルを構えた兵士達が無言で銃口を向けている。
脅しのつもりなのだろう。
「お前は他世界の人間だな?」
「愚問だな。神に向かって「貴方は神ですか?」と聞くか?」
「ッ!!・・・・・まぁ良い。お前は何故この“EDEN”に、そして、どうやって入った」
「それも愚問だ。神に向かって「貴方は何故我々を産み落としたのですか?」と聞くか?」
「いい加減にしろ!!尋問しているんだぞ!!」
ジーダマイアの問いかけに伊織は呆れたような口調で返す。
その行為に激怒したジーダマイアが大きく机を叩き、背後の兵も更にレーザーライフルを突きつけた。
眉一つ動かさず、伊織は無言でジーダマイアを見つめている。
「何だ・・・・言いたいことがあるなら言え!!」
フッと笑い、
「じゃあ、言わせてもらうか」
といって席から立ち上がり机に脚を乗せて、
「いいか!?貴様が俺に何を聞こうとも俺は吐かん!!それと貴様のような愚者が良く今まで生き残れてきたな?大方、出世コースをエレベーターのように歩いてきたんだろ!!
無理も無いよなぁ?貴様なんぞが戦場に出たら十秒足らずで即死だ。戦術も理解していない貴様にはなすことなど何も無い!!」
スラスラとまくし立てると、机を下から蹴飛ばした。
信じられない事に椅子はボールか何かのように宙を舞い、彼の後ろの床に落下し盛大な破損音を立て壊れた。
「言葉には気をつけるんだな」
ギロリと睨みつけられたジーダマイアの顔には血の気が無く歯がガチガチと音を立てている。
「わ・・・わかった。もう・・・帰って良い」
「それとな?このことを言って俺の邪魔にでもなったら」
「お前を殺す・・・・!!」
「わかったな?」
もはや彼の目は人間の目ではなかった。
天都伊織の姿を模した『別の何か』だった。
縦に首を何度も振るジーダマイアに向かって伊織はゾッとするような笑みを浮かべて部屋を出て行った。
「バケモノだ・・・・・」
声に出して呟く。
「アレは・・・・人間なのか?」
自問してみた。
レーザーライフルを構えた兵士達もぺたんと床に座り込み静かに震えていた。
ジーダマイアは恐怖に駆られるも伊織が出て行ったドアを呆然と眺めていた。
「伊織・・・・」
「タクト・・・何のようだ?」
タクトが廊下の曲がり角から現れ、伊織を見つけた途端、少し罰が悪そうな表情をサッと浮かべ、苦笑いを浮かべつつ、
「ゴメン!!」
身体が二つに折れるくらい頭を下げてタクトは謝った。
「別に良いさ・・・・・気にしてない」
「そうか・・・・それで、お前の件だけど・・・・・」
「あぁ」
「“ガーリアン”に行くことになった。お前の力が必要だ・・・・」
「・・・・了解した」
無言で頷いた。
3
「そうですか・・・じゃあ、伊織さんの故郷に行くことになるんですね?」
「故郷・・・・か。一応、そうなるのかもしれない」
顔を渋めて唸る伊織にちとせがフフッと笑う。
「見てみたかったんです・・・・・伊織さんの故郷」
頬を赤らめて呟くちとせ。
しかし、伊織はボンヤリと庭の景色を眺めていた。
はぁ〜、と溜息をついた途端、
ピンポーン♪
「あ!ヒュウガ中佐・・・お久し振りです」
ドアを開けると彼女の父親の部下だったロバート・ヒュウガ中佐が立っていた。
「お久し振りです、ちとせさん。また、大きくなられた様子ですね」
「は・・・はぁ」
誉められていることに慣れてないのか、ちとせは思わず頬を染めてしまう。
「どうぞ・・・お茶でも」
「いえ・・・・今日はちとせさんが“ガーリアン”に向かうというのでコレを渡しに・・・」
「コレは・・・・?」
ヒュウガが渡したのはデータディスクだった。
ケースにしまわれているも、ケースには少しばかしか埃が被っている。
「貴方のお父様の・・・音声記録です」
「とう様の・・・・・!?」
目の前が滲んできた。
亡き父の声がまた聞けるなど思っても見なかったからだ。
「では・・・私は」
「あっ・・・ありがとうございます!!!」
敬礼し、ヒュウガは回れ右し、自分の艦へと戻っていった。
「ちとせ?・・・・・どうした?」
「あっ・・・いえ!!ただ、とう様の・・・・音声記録があったので」
「親父さん・・・いないのか?」
「はい・・・・事故で私が幼い時に・・・・ぬいぐるみだけを残して・・・・」
「そうか・・・悪かったな」
少し気を落としたちとせに伊織は罰が悪そうに苦い表情を浮かべた。
「いえ・・・とう様のこと・・聞いてくれますか?伊織さんには・・・・話しても良いと思いますので」
無言で頷いた。
「とう様は軍人でした。宇宙船に乗り人々の暮らしを守る立派な仕事に就いている父は私の誇りでした」
「・・・・・・・・・」
ちとせの話を聞き黙って畳を見つめる伊織。
「しかし、父は・・・・私の誕生日にせがったぬいぐるみを・・・残して」
そこでちとせは一息つき、ふぅと吐息を吐き、
「私は父のような人間になりたいと思い軍に入りました」
「なれるな」
断言したような口調で伊織は述べた。
「えっ?」
「ちとせなら・・・なれる」
「そうでしょうか・・・・・?」
気恥ずかしさと嬉しさで胸が一杯になるちとせ。
「力ある者は私利私欲で力を使うものじゃない。お前はそれを心得ている・・・・俺とは対極に位置しているな」
苦笑いを述べる伊織。
「聞いてもいいですか・・・・ディスク」
「あぁ」
ちとせは再生機にデータディスクを入れ、再生する。
「――――――ちとせ」
再生機のスピーカーから穏やかな男の声が聞こえた。
おそらく、ちとせの父親だろう。
その暖かさに満ちた声。
聞いていて伊織は何故か心が落ち着いた。
「――――――コレを聞いている時は私は既にいないだろう」
おそらく事故の規模を最大限に抑えるために艦橋に残り、音声を別の艦に転送し録音しているのだろう。
雑音と爆発音が聞こえてくる。
「とうさま!!」
「――――――心配しないでくれ。私はいつもお前の傍にいる。お前の中に・・・生きている」
最後に安心しきったような声。
満足そうな笑みを浮かべている様子が目に浮かぶ。
「――――――――ちとせ・・・愛してる」
雑音が入り、無機性な合成音が響いた。
ちとせに目線をやると目からボロボロと涙を零して口に手を当て泣くまい、と必死に涙と戦っている。
「俺は・・・どう声を掛けていいか分からない・・・・」
そう言って伊織はちとせをそっと抱きしめた。
一瞬、ビクリとしたものの、ちとせは我慢を止めて伊織の腰に手を回して、すがり付くように子供のように声を上げて泣き喚いた。
そんなちとせの様子を伊織は穏やかな微笑みを浮かべ彼女の頭を撫でた。
時間帯は既に夕暮れから夜に変わっていた。
第十章 完 続く
後書き
投稿して初めて気がつき慌てて修正したイレギュラーです。
今回の話では伊織とタクトが仲たがいしていたような展開がありました。
それは第八章を修正した時、二人は仲たがいしてしまったのです。
どう言う具合で仲たがいしたのかは、修正した第八章をお楽しみに。
ジーダマイアの尋問では少し某ラ○ダーが混じってしまいました。
スンマセン!!好きなんです!!
ジーダマイアがどう言う人間なのか無印GAをプレイしたことが無いので勝手な想像で人物像を描いてしまいました。
尋問といってもまるで言う事を聞かず椅子を蹴飛ばして壊すは、逆ギレのように怒鳴り返すは、尋問している本人を脅すは、いろいろな事をしてしまった伊織。
最後にはちとせと再び急接近!!
どうなるんでしょうか?
作者の私すら先の事を考えておりません(まずいだろ、おい!!
まぁ、こんな人間ですが最後までお付き合い下さる様、お願い致します。
ではでは、